残念ながら、FACTAも「向こう側」へ堕ちてしまったようだ。1月号に関する間違い指摘に対しなかなか回答がないので年が明けてから催促したところ、同誌の宮嶋巌編集長から「
お問い合わせをいただいた諸点について申し上げることはございません」との事実上のゼロ回答が届いた。間違い指摘に対して完全無視を貫く日経、日経ビジネス、週刊東洋経済、週刊ダイヤモンドよりは良心的かもしれないが、FACTAも、間違い指摘にまともに答えないメディアの列に並んだと見てよいだろう。
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成田山新勝寺(千葉県成田市) ※写真と本文は無関係です |
FACTAの発行人兼編集主幹である阿部重夫氏には、その程度の雑誌にしか育てられなかったことを恥じてほしい。
宮嶋編集長とのやり取りは以下の通り。
◇宮嶋編集長へのメール◇
月刊FACTA 編集長 宮嶋巌様
御誌を定期購読している鹿毛と申します。昨年12月22日と同月25日にFACTAカスタマーサポートへ問い合わせをお送りしましたが、年が明けて1週間が経過してもまだ回答を頂いていません。事実確認にそれほどの労力を要する案件とも思えませんので、そろそろ回答をお願いできないでしょうか。
1月5日にFACTAカスタマーサポートへ早めの回答を要請したところ「このたび頂戴したメールは、早速に担当(編集部)に転送するとともに口頭でも連絡済みでございますこと、取り急ぎご報告いたします」との連絡を頂きました。カスタマーサポートではきちんと対応してくれていると感じます。
念のために2件の問い合わせを改めて送っておきます。御誌が読者からの間違い指摘を無視したりすることはないと信じていますが、万が一にもそういう考えをお持ちでしたら、その旨だけでも伝えてください。よろしくお願い致します。
【問い合わせ~その1】
御誌を定期購読している鹿毛と申します。
1月号に関して、いくつか質問させていただきます。まずは「首相『第2の愛人』と化す維新」という記事です。
記事には「自由党、保守党、みんなの党……。与野党が1議席を争う小選挙区制が96年に導入された後、政権批判票の大半は野党第1党に流れ、全国組織を持つ公明党と共産党を除き、第三極の政党は次々に消滅した。唯一の例外は民主党だ」との記述があります。
これを信じれば、社会民主党は「消滅」しているはずですが、今も国会に議席を有したまま生き残っています。消滅した政党の例示には2009年結成の「みんなの党」も入っているので、「96年時点で存在していた党」に限定して説明しているわけでもなさそうです。そう考えると「日本維新の会」や「自由党(旧生活の党と山本太郎となかまたち)」も第三極として存在しています。
「(消滅しなかった)唯一の例外は民主党」という説明は誤りではありませんか。正しいとすれば、その根拠を教えてください。
次に「菅の本領『公明に煮え湯』」という記事についてお尋ねします。この記事では以下のくだりが気になりました。
「英国のEU(欧州連合)離脱といい、米大統領選といい、イタリアの憲法改正といい、全国民の直接投票の怖さを立て続けに見てきた今、日本初の国民投票で失敗は許されない」
米国の大統領選挙は「直接選挙」ではなく、選挙人を選ぶ「間接選挙」です。得票数はクリントン氏がトランプ氏を上回っていたのですから、直接選挙であれば「怖さ」を見ることもなかったはずです。「直接投票」と「直接選挙」は別との可能性も考慮しましたが、無理があると思えます。
最後に公明党は「本妻」なのか「愛人」なのかについて教えてください。
「首相『第2の愛人』と化す維新」という記事では本文に「愛人」が出てきません。ただ、常識的に考えて、見出しが想定する「第1の愛人」は公明党でしょう。ところが「菅の本領『公明に煮え湯』」という記事では以下のように書いています。
「衆院採決で公明党に煮え湯を飲ませたのは『本妻でも甘い顔ばかりしてられない。これからは愛人の存在にも慣れてもらわなくちゃ』という無言の通告とみえる」。
ここからは「公明党=本妻」と受け取れます。別の筆者による記事かもしれませんが、同じ1月号の中で「本妻」になったり「愛人」になったりするのは問題だと思えます。FACTA編集部としては公明党を「本妻」「愛人」のどちらと判断しているのでしょうか。「首相にとっては愛人だが、自民党や菅官房長官にとっては本妻」というのも考えにくいところです。
質問は以上です。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。
【問い合わせ~その2】
御誌を定期購読している鹿毛と申します。
「あなたの車も『エアバッグが危ない』」という記事を書いている、ジャーナリストで元日本経済新聞編集委員の大西康之氏を筆者として起用していることに関してお尋ねします。
まず、以下の事実はご存じでしょうか。
2012年5月21日付の日経朝刊総合・政治面に掲載された「迫真 危機の電子立国~シャープの決断(1)」という記事の中で、大西編集委員はシャープと鴻海精密工業(台湾)の提携に触れて「今年、創業100年を迎えるシャープが、日本の電機大手として初めて国際提携に踏み込んだ瞬間である」と描写しています。
これは明らかな誤りです。2012年より前にソニーとサムスンは液晶パネル事業で提携していました。この提携に関して「日本の電機大手による国際提携とは言えない」と主張するのは難しいでしょう。
22日付の(2)でも大西編集委員はシャープと鴻海の提携について「日本の電機産業として初めてとなる国際資本提携」と説明しています。ここでは「大手」とも限定していません。大手以外も含めれば、日本の電機メーカーが出資を受け入れた事例は珍しくありません。
しかし、担当デスクだった藤賀三雄氏は「これまでの電機メーカーの個別の事業分野に限定した提携や合弁事業とは一線を画す提携という意味で、初の国際提携と書いたものです」と日経社内で主張し、誤りを認めませんでした。大西氏は私が知る限りでは沈黙していたので、藤賀氏と同じ立場なのでしょう。
電機産業を担当する編集委員が「日本の電機大手として初めて国際提携に踏み込んだ瞬間」と誤解していただけでもお粗末な話ですが、間違いは誰にもあるので、そこを責めるつもりはありません。ただ、大西氏は誤りを認めず、周囲から反省を求められても読者軽視の姿勢を貫きました。記事の作り手としての資質を決定的に欠いていると評するしかありません。
御誌では、こうした事実を踏まえた上でも「大西氏はFACTAの執筆者に相応しい」と判断しているのでしょうか。だとしたら、御誌への評価も見直さざるをえません。
FACTA1月号の記事で大西氏は以下のように記事を締めています。
「エアバッグにまつわる真実が明らかになった今、『危険なエアバッグ』を野放しにしてきたことで起きた事故の責任に、どう答えるのか。自動車メーカーはタカタを人身御供にして、やり過ごす算段だろうが、一度開きかけたパンドラの箱が閉まるとは思えない」
大西氏の過去を知った上で記事を読むと、説得力はゼロです。記事中の明らかな誤りを放置してきた「責任に、どう答えるのか」と逆に大西氏に聞きたくなります。知らぬ顔をしたまま時の流れに身を任せて「やり過ごす算段」でしょうが、我々はそれを許してよいのでしょうか。
◇宮嶋編集長からのメール◇
鹿毛さま
明けましておめでとうございます。ご愛読、真に有難うございます。皆さまからのご意見、ご叱声は、常に重く受け止め、今後の雑誌づくりの参考にしてまいります。お問い合わせをいただいた諸点について申し上げることはございません。
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大分県立大分上野丘高校(大分市) ※写真と本文は無関係です |
宮嶋拝
◇宮嶋編集長へのメール◇
月刊FACTA 編集長 宮嶋巌様
返信ありがとうございます。ただ、納得できる内容ではありませんでした。思うところを述べてみます。
まず、「お問い合わせをいただいた諸点について申し上げることはございません」というだけならば、すぐに返信できたはずです。なぜこんなに長い時間がかかったのでしょうか。私が回答を催促しなければ、今回の返信もなかったのでしょう。こうした読者軽視の対応に問題は感じませんか。今回のような対応では、読者からの指摘を重く受け止めていることにはならないはずです。
また、間違い指摘に関して「申し上げることはございません」で済ます姿勢は、メディアとしての説明責任の放棄です。「(消滅しなかった)唯一の例外は民主党」という記事中の説明は誤りではないかと私は問うています。誤りであれば、宮嶋様は欠陥のある雑誌を読者に届けたことになります。
私自身も間違いの多い人間ですので、誤り自体を責めるつもりはありません。ただ、記事中に誤りがあれば、それを認めて次号に訂正記事を載せるべきです。誤りではないのであれば、その理由を回答の中で説明すれば済む話です。しかし、宮嶋様は「お問い合わせをいただいた諸点について申し上げることはございません」と述べているだけです。
「記事の説明は誤りではない」と主張できないのならば、誤りを認めて訂正を出すのが雑誌の編集者として当然の選択だと思いませんか。なのに宮嶋様は、問題から目を背けてやり過ごそうとしています。そこには元日本経済新聞編集委員の大西康之氏と通じるところがあります。
間違いを認めて訂正を出すのは楽しいことではありません。しかし、そこから逃げてしまえば、記事で他者を批判しても説得力がなくなってしまうのです。大西氏の事例はそれを教えてくれています。
「狭き門より入れ。滅びに至る門は大きくその路は広い」
宮嶋様にこの言葉を贈ります。どの選択が「狭き門」なのかは自明なはずです。
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この後に宮嶋編集長からの反応はない。間違い指摘に対して、編集長が説明を放棄しているのだから、「(消滅しなかった)
唯一の例外は民主党」という説明は誤りだと推定するしかない。
「
英国のEU(欧州連合)離脱といい、米大統領選といい、イタリアの憲法改正といい、全国民の直接投票の怖さを立て続けに見てきた今、日本初の国民投票で失敗は許されない」という記述についても、「
米大統領選」を「
全国民の直接投票」と書いたのは間違いなのだろう。
FACTAとしては、反論はできないが誤りを認めるのも嫌だから指摘を黙殺しようとしたものの、それでも回答を催促されるので「
申し上げることはございません」とだけ返したといったところか。
大西氏の件についても、「起用に問題なし」との主張はできないが、本人に事実関係を確認したり、その結果によっては執筆者から外したりといった「面倒」は避けたかったのだろう。
1人の読者の指摘さえ無視してしまえば、間違いを認めて訂正を出したり、執筆者との面倒なやり取りをしたりといった嫌なことから逃れられる。宮嶋編集長がその安易な道を選びたくなるのも分からなくもない。だが、その道の先に明るい未来はない。
一読者として贈った言葉は、宮嶋編集長の編集者としての良心に届いただろうか。
※宮嶋巌編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)とする。BBBとしていたFACTAへの格付けもBBへ引き下げる。現時点での経済メディア格付けは以下の通り。
◆経済メディア格付け(2017年1月10日時点)
週刊エコノミスト(A)
週刊東洋経済(BBB+)
週刊ダイヤモンド(BBB)
FACTA(BB)
日経ビジネス(BB)
日本経済新聞(BB)
日経ヴェリタス(BB)
日経MJ(BB-)
日経産業新聞(BB-)
※FACTAとの今回のやり取りに関しては以下の投稿も参照してほしい。
FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html
公明党は「本妻」?「愛人」? なかなか届かぬFACTAの回答
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta.html