2017年1月14日土曜日

週刊エコノミスト編集長が見過ごした財産ネットの怪しさ

週刊エコノミスト1月17日号の「2017年の経営者 編集長インタビュー~金融投資を民主化したい」という記事で取り上げていた「財産ネット」について論じてみたい。この記事に出てくる同社の荻野調社長の話からは、どうしても胡散臭さが拭えない。
恵蘇八幡宮(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です

荻野氏は「資産3000万円から1億円の人たち」をターゲットにして「資産を増やすための方法や有用な情報を提供し、匿名でも簡単に金融商品を比較検討できるサービスを作ることで、金融商品の敷居を低くしたいのです」と語っている。

これを受けてエコノミストの金山隆一編集長が「具体的なサービスは」と問うと、荻野氏は「株価・為替予報サイトの『兜予報』です」と答えている。これは「経済ニュースの相場への影響を可視化」するもので「株価の予測精度はおよそ80%」らしい。

ニュースの99%は株価に影響がありませんが、残り1%未満に株価を動かす情報があります。これはデイトレーダーが欲しがる情報と言えます」「仮に1万人のデイトレーダーが兜予報ユーザーになれば、中堅証券会社並みの400億円市場で課金ビジネスができることになります」とも荻野氏は述べているので、「兜予報」がデイトレーダー向けのサービスなのは間違いない。

デイトレーダー向けのサービスが駄目だとは言わない。しかし、「資産3000万円から1億円の人たち」にとっての「金融商品の敷居を低くしたい」と本気で考えているのならば、デイトレーダーへは誘導しないはずだ。この話が出た時点で金山編集長には「財産ネット(あるいは荻野氏)の話を記事で取り上げて大丈夫かな?」と思ってほしかった。

株価の予測精度はおよそ80%」というと「凄いな」と思う人がいるかもしれない。しかし、この数字は驚くには値しない。ある程度の知識があれば90%以上の数字を出せるはずだ。例えば、「A社が会社更生法の適用を申請」というニュースであれば、発表を受けて株価が下がる可能性はほぼ100%だ。こうした予測が容易なニュースに絞り込んでいけば、発表後に株価が上がるか下がるかを高い確率で当てられる。

当社専属と外部の約20人の経験豊富なアナリストが集まると、80%以上の確率で株価の方向性を予想できるようになります」と荻野氏は誇るが、どういうニュースを選んでいるのか見てみないと何とも言えない。

株価の予測精度はおよそ80%」なので、兜予報の予測を信じて投資すれば勝率は80%になると感じる人もいるだろう。これも、誤解しやすい点だ。

取引終了後にA社が業績に関する発表をして、兜予報では「上げ」との予測が出たとしよう。そして翌日の始値が前日終値を上回る確率が80%だとする。この場合、一般的な株式取引よりも高い勝率が期待できるだろうか。もちろん、そうはならない。

A社株の前日終値が100円で、ニュースを受けて翌日の始値が110円となる場合、好材料はこの時点でほぼ織り込み済みだ。そこから上に行くか、下に行くかは基本的に五分五分となる。前日終値でA社株を仕込めて、翌日の寄り付きで売りに出せるのならば勝率は8割かもしれないが、それは難しい(単純化のため市場外取引は考慮しない)。

色々と書いてきたが、要は「資産3000万円から1億円の人たち」にとって、財産ネットは相手にする必要の乏しい会社だ。デイトレーダーが参考程度に「兜予報」を使うのならば分かるが「金融投資を民主化」と言うのはいかにも大げさだ。そんな有意義なものではない。

財産ネットがデイトレーダーの一角に食い込んで、そこから収益を上げようとするのは問題ないし、邪魔するつもりもない。だが、「資産3000万円から1億円の人たち」を「富裕層との間に情報格差があります」などと言って、デイトレーダー向けのサービスに呼び込もうとするのは、さすがに胡散臭い。

荻野氏はその辺りを百も承知で怪しい話をエコノミストの編集長にしているだろう。その怪しさを見抜く眼力を金山編集長には持っていてほしかった。


※今回の記事の評価はE(大いに問題あり)。金山隆一編集長への評価はB(優れている)を維持するが、弱含みとする。今回の記事に関しては、間違いと思われる記述があるので週刊エコノミストに問い合わせをしている。これに関しては以下の投稿を参照してほしい。

週刊エコノミスト金山隆一編集長への高評価が揺らぐ記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_12.html

「無理のある回答」何とか捻り出した週刊エコノミストを評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_94.html

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