2017年1月13日金曜日

日経に「トランプ氏は疑問に答えよ」と訴える資格ある?

13日の日本経済新聞朝刊総合1面に「トランプ氏は疑問にきちんと答えよ」という社説が載っていた。日経がメディアとしての説明責任をきちんと果たしているのならば、トランプ氏を批判するのも分かる。だが、現実はそうなっていない。読者からの間違い指摘を当たり前のように無視する姿勢を貫く今の日経には、他者に説明責任を求める資格などない。
杖立川(熊本県小国町) ※写真と本文は無関係です

社説の全文は以下の通り。

【日経の社説】

言いたいことをまくし立てるだけならば、ツイッターと同じだ。トランプ次期米大統領が当選後初の記者会見を開いたが、世界の人々の疑問はほとんど解消されなかった。相手を疑心暗鬼にさせ、心理戦で優位に立つのは権力者の常とう手段だが、振り回される側はたまったものではない。

米国の歴代大統領は初当選後ただちに記者会見を開き、所信や政策を明らかにしてきた。現職のオバマ氏は3日後。その前のブッシュ氏は当選確定に時間がかかったこともあり2日後だった。

ところが、トランプ氏は2カ月以上も記者会見に応じなかった。ツイッターによる一方的な情報発信は世論操作には好都合かもしれないが、不愉快な質問にもきちんと答えるのが、超大国の指導者の責務である

会見の中身もお粗末だった。事業を続けつつ、公職に就くと公私混同、利益相反が起きるのではないか。その疑問に答えるはずが、経営を長男らに任せると述べたにとどまった

補足した弁護士は株式の売却などは否定した。だとすれば、事業は引き続き最大株主であるトランプ氏の影響下にある。外国企業との取引を有利に進める観点から外交政策を判断するのではないか、などの懸念は払拭されない

大統領選で敗れたヒラリー・クリントン氏の陣営へのサイバー攻撃をしたのは「ロシアだと思う」と明言した。他方で米ロの関係改善に意欲を示した。トランプ陣営がメールのハッキングに関与していなかったとしても、「敵の敵は味方」的なもの言いは米国内の分断を一段と深めよう。

残りは日ごろのツイッター発言の繰り返しだった。トランプ氏の口先介入に屈して外国移転をやめた企業を称賛する一方、「好き放題やっている企業には高い国境税をかける」と脅しをかけた。これで本当に「最も多くの雇用をつくり出す大統領」になれるのか。統制経済は成長を阻害する。

日本は相変わらず米国に貿易赤字をもたらす国として、中国やメキシコと同列に扱われた。これでは、安倍晋三首相がいの一番に会った意味がない。日米同盟の価値をどうやって理解させるのか。月末に見込まれる日米首脳会談は極めて重要になる。

トランプ氏の本質は当選後も変わらない。初会見でそれはわかった。激動への備えが必要だ。

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不愉快な質問にもきちんと答えるのが、超大国の指導者の責務である」と言うならば、読者からの間違い指摘にもきちんと対応するのがメディアの責務ではないか。

日経はメディアからの取材にもきちんと対応しているのか疑問だ。FACTA11月号の「日経が中間決算で480億円の為替差損!」という記事に関して、FACTAでは「日経新聞に対して、文書により取材を申し込み、諸々の説明を求めましたが、『開示事実の通りである』と、事実上(一切)の取材拒否を受けました」と述べていた。

これが事実ならば、トランプ氏にきちんとした説明を求める資格は、日経にはさらになくなる。まずは他者から求められた説明に「きちんと答える」のが先だ。

ついでに言うと「トランプ次期米大統領が当選後初の記者会見を開いたが、世界の人々の疑問はほとんど解消されなかった」との説明も引っかかった。社説では「利益相反」の問題について「経営を長男らに任せると述べたにとどまった」「外国企業との取引を有利に進める観点から外交政策を判断するのではないか、などの懸念は払拭されない」などと書いている。

ならば、答えはかなり出たのではないか。「利益相反の問題はないのか」というのが疑問だとすれば、答えは「ある」でいいと思える。

サイバー攻撃」についても「『ロシアだと思う』と明言した」のであれば、疑問にかなり明確に答えている。社説では「トランプ氏の本質は当選後も変わらない。初会見でそれはわかった」とも書いている。だったら「当選後はトランプ氏も変わるのではないか」との疑問も消えたはずだ。

世界の人々の疑問はほとんど解消されなかった」と言うより「かなり解消された」と評価する方が適切だろう。少なくとも、読者からの間違い指摘を平気で黙殺する日経に比べれば、トランプ氏の方が説明責任を果たしている。

トランプ氏は疑問にきちんと答えよ」などと社説で訴える前に、日経は我が身を省みるべきだ。


※社説への評価はD(問題あり)。

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