2017年1月27日金曜日

「島国に資源なし」?週刊ダイヤモンド「新地政学」の誤り

週刊ダイヤモンド1月28日号の特集「劇変世界を解く 新地政学」の内容を鵜呑みにするのはまずい。そう思える記述はいくつもあるが、ここでは、特集の最後を飾った「Epilogue~地政学的文脈で読む 日本が劇変世界と付き合う術」という記事を取り上げたい。

ブルージュ(ベルギー)  ※写真と本文は無関係です
例えば記事ではこう書いている。

【ダイヤモンドの記事】

時代は変わった。世界では野心をむき出しにした中国やロシアの強権的独裁者が跋扈し、欧州はEU(欧州連合)瓦解のふちにある。頼みの米国は孤立主義の道を歩み始めた。

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欧州はEU(欧州連合)瓦解のふちにある」と言い切っている点でまず不安になる。主観の問題なので間違いとは言えないが、EUの現状を「瓦解のふち」と捉えるのは大げさすぎる。

「このくらいは目をつぶるか」と思って読み進めると、さらに珍妙な解説が出てくる。

【ダイヤモンドの記事】

歴史を振り返れば、英国はオフショアバランシングを駆使してナポレオンが率いるフランスと渡り合い、ナチス・ドイツが台頭してくると、19世紀の「グレートゲーム」で対立した宿敵ロシア(ソ連)と手を組んで対抗した。

島国には資源がない。となれば貿易で栄えるほかない。故に重要視されるのが自由な海、つまり自由貿易を担保するシーレーン(海上交通路)となる。大陸国家のパワーバランスに目配りしながらバランサーとして立ち回り、シーレーン、そして国益を確保してきたのが英国なのだ。

同じ島国である日本は、大陸から虎視眈々と覇権国の座をうかがう中国とどう向き合うべきなのか。

これまで重要な役割を果たしてきたのは、米国との島国同盟である「日米同盟」だった。米国を島国というと違和感があるかもしれないが、地政学では米国を巨大な島国と見立てる

この世界一の島国の海軍に守られていることで、日本は中東から石油を運ぶための安全な輸送路を確保することができたのだ。

ところが、同盟国の政権交代でそれが揺らいでいる。

「世界の多くの国が米国との関係を軸に自国の安全保障や自国の繁栄を考えてきたが、トランプ政権は第2次世界大戦後の米国で、最も予測困難な政権」と慶應義塾大学の細谷雄一教授は言う。

ただ、米国との関係だけを強化していれば他国との関係も付いてきて、中国の力による勢力拡大を抑止できた時代が終わりを告げたのは間違いない。今後は複層的な戦略が求められることになる。

そこで、元外交官でキヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦研究主幹が提案するのが、世界屈指の島国、オーストラリアとの同盟だ。アジア太平洋の制海権をめぐる中国の台頭に対して、アジア太平洋同盟で対抗すべしとの考えである。

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島国には資源がない」とあっさり言っているが、これは間違いだ。英国には北海油田があるし、島国であるインドネシアも有力な産油国だ。筆者は何を根拠に「島国には資源がない」と断定しているのか。

この記事では、米国やオーストラリアも「島国」と捉えている。だとすると「島国には資源がない」という説明はさらに苦しくなる。

米国との関係だけを強化していれば他国との関係も付いてきて、中国の力による勢力拡大を抑止できた時代が終わりを告げたのは間違いない」との解説も引っかかる。「そんな時代がありましたっけ?」と聞きたくなる。

例えば冷戦時代には、米国との関係を強化すると、ソ連との友好関係も一緒に付いてきただろうか。あるいは、戦後の東アジアでは、米国との関係を強化すれば、中国、韓国、北朝鮮との関係も自然に良くなったのか。

中国の「勢力拡大」について言うと、南シナ海では「1970年代に西沙諸島をベトナムとの戦いを経て実効支配下に置き、南沙諸島でも1980年代から複数の島々を実効支配している」(ハフィントンポスト)という歴史がある。そう考えると、日米同盟さえ強化していれば「中国の力による勢力拡大を抑止できた時代」とは、いつの話なのか。

記事の書き方からすると、「中国の力による勢力拡大を抑止できた時代」が終わったのは、それほど前の話ではなさそうだ。だが、そんな変化が近年あったとは思えない。

結局、今回の特集に関しては「書いてある内容をまともに信じてはダメだ」と言うほかない。


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者への評価は以下の通りとする。

片田江康男記者:E(大いに問題あり)を維持
鈴木崇久記者:F(根本的な欠陥あり)を維持  
原英次郎編集委員:暫定D
山口圭介副編集長:F(根本的な欠陥あり)を維持
大根田康介記者:Dを維持


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「米中衝突」に無理あり 週刊ダイヤモンド特集「新地政学」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_26.html

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