福岡県うきは市の棚田 ※写真と本文は無関係です |
連載に出てくる「断絶」のほとんどは単なる「変化」とでも呼ぶべきものだ。それはそうだろう。世の中に「断絶」と呼べるような激変は滅多にない。大きな変化が起きる場合も、ほとんどは連続した変化の蓄積だ。
最終回で出てくる「断絶」についても見てみよう。
【日経の記事】
自国第一。高まる保護貿易主義はグローバリゼーションを逆転させる力に見えるが、企業はしたたかに動く。そもそも、世界の隅々までネットでつながる時代を、「グローバル化=モノの貿易」という図式で語ろうとしても無理がある。
タイのバンコク近郊。社長室も間仕切りもない小さなオフィスは、ネット決済ベンチャーのOmise(オミセ)が構えた「世界本社」だ。
「そのアイデア、最高だ。すぐ動こう」。長谷川潤社長に届く報告や相談は、東南アジアなど14カ国の社員80人から。技術開発も営業も、ネットでつながった仲間との国際協業だ。
創業から2年ほどで3000社の顧客を獲得。有力ベンチャーキャピタルからの出資も相次ぐ。「一国に閉じこもらず、新しい経済圏をつくりたい。今年は世界120カ国で使えるようにする」。長谷川社長は真剣だ。
ネット時代は企業のあり方、私たちの働き方を国の枠から解き放つ。20世紀のようなモノのやりとりより、世界中の知恵をつなぐことが成長のエンジンになる。それこそ、21世紀のグローバル化が直面する断絶だ。
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「20世紀のようなモノのやりとりより、世界中の知恵をつなぐことが成長のエンジンになる。それこそ、21世紀のグローバル化が直面する断絶だ」と言われて「確かにそうだな」と納得できただろうか。こちらの読解力不足もあるのだろうが、この部分はすぐには理解できなかった。
取材班としては「20世紀のグローバル化は『モノのやりとり』だったけど、『21世紀のグローバル化』は『世界中の知恵をつなぐことが成長のエンジンになる』んだよ。その変化が突然に起きるから『断絶』なんだ」とでも言いたいのだろう。
だが、そんな「断絶」が起きているとも今後に起きるとも思えない。多国籍企業は20世紀からある。そうした企業の多くは「世界中の知恵をつなぐことが成長のエンジンになる」と考えて行動してきたはずだ。「世界中の知恵をつなぐことが成長のエンジンになる」のは、21世紀の専売特許ではない。その重要性が21世紀には高まるかもしれないが、だとしても「断絶」とは言い難い。
強引に「断絶」を作り出す作業が、この連載の価値を大きく損ねている。これは誰か優秀な人間が記事を書けば解決できる問題ではない。企画立案の時点で生じた解決不可能な欠陥だ。
今回の連載は明らかな失敗だ。その原因は企画の出発点にある。「断絶を超えて」というテーマでやるのは難しいという判断ができなかった点は悔やんでも悔やみきれない。
付け加えると、「ネット決済ベンチャーのOmise」の話も苦しい。これは、規模が小さいながらも複数の国で事業展開しているというだけの話だ。「ネット時代は企業のあり方、私たちの働き方を国の枠から解き放つ」などと言えるだけの根拠にはなり得ない。
複数の国にまたがってサービスを展開する企業など「ネット時代」の前からある。海外で働くことが「私たちの働き方を国の枠から解き放つ」のであれば、これもかなり昔から可能だ。「Omise」の事例から新たな時代の到来を感じ取るのは無理がある。
※連載全体の評価はD(問題あり)。取材班の最初に名前が出ていた松尾博文氏をデスクの筆頭格だと推定し、同氏の評価をDとする。なお、今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。
失敗覚悟? 「断絶」見えぬ日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post.html
第2回も予想通りの苦しさ 日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_3.html
肝心の「どう戦う」が見当たらない日経連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_5.html
「メガヨット」の事例が無駄な日経1面連載「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_25.html
そもそもファストリは「渡り鳥生産」? 日経「断絶を超えて」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_7.html
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