2017年1月11日水曜日

「3割」になってる? 日経「ファナック、産業ロボ3割増産」

11日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「ファナック、産業ロボ3割増産 工場の自動化需要に対応」という記事は、悪い意味で考えさせられる内容だった。以下の記述から、どう計算すると「3割増産」になるか、すぐに分かるだろうか。
大分城址公園(大分市) ※写真と本文は無関係です

全文は以下の通り。

【日経の記事】

ファナックは産業用ロボットを3割増産する。好調な自動車向けに加え、多分野での工場の自動化を追い風にグローバルで需要が急増しているのに対応する。同社は今春から増産することを明らかにしていたが、生産が追いつかない状況が見込まれるため一段の増産に踏み切る。

ファナックは山梨県の本社工場で月間5千台のロボットを生産している4月から小型の切削加工機を製造する筑波工場(茨城県筑西市)でも同1千台の生産を始める方針だ。

2工場の生産効率を高めたり、筑波工場で切削加工機の生産スペースをさらにロボット向けに転用したりして、2017年中に月間7千台、18年には8千台にまで増やす。投資額などは今後詰める。

ファナックは現在、筑波工場の隣接地にロボット工場を新設して月産1万台体制を目ざしているが、新工場の稼働まで2年程度かかるとみられる。足元では自動車や電子機器に加え、食品などの分野でも自動化が進み、需要が急増している。

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現状では「月間5千台のロボットを生産している」。4月から「筑波工場でも同1千台の生産を始める」ので、これで2割増産だ。さらに「2017年中に月間7千台」となるので増産は4割に達する。「18年には8千台にまで増やす」と6割増産だ。ただ、どの時点で切っても「3割増産」にはならない。

あくまで推測だが、4月から月産6000台となるところまでを既定路線と捉えて、これと18年の8000台を比べているのではないか。これだとほぼ「3割増産」になる。しかし、常識的には「3割増産」と書いてあれば「現状と比べて3割増産」だと理解したくなる。

この辺りが日経の弱点だ。「自分の意図はきちんと読者に伝わるだろうか」との配慮に欠ける記事があまりに多い。

ついでに言うと「ファナックは現在、筑波工場の隣接地にロボット工場を新設して月産1万台体制を目ざしている」という説明が引っかかる。これが前から決まっているのならば、そもそも生産倍増計画があるのではないか。だとすると、「3割増産」を記事にする意味はほぼない。

一方、「2工場の生産効率を高めたり、筑波工場で切削加工機の生産スペースをさらにロボット向けに転用したり」するのが新たに加わった要素だとすると、「月産1万台体制」との関係が分かりにくい。従来は月産8000台体制を目指していたのに、それが「1万台」へと上積みされたのか。それとも「2工場」の要素を加えると月産1万2000台になるのか。そこは明示してほしい。

さらに付け加えると、内容の重複は避けてほしい。短い記事の中で同じような話を繰り返すと情報量はさらに乏しくなる。

最初の段落の「好調な自動車向けに加え、多分野での工場の自動化を追い風にグローバルで需要が急増しているのに対応する」と、最後の「足元では自動車や電子機器に加え、食品などの分野でも自動化が進み、需要が急増している」というくだりは似たような話だ。しかも具体的なデータはない。

例えば、最初の段落では「どの分野で需要が増えているのか」を説明して、最後では「どの程度の需要増加なのか」を見せるといった工夫が要る。

質をあまり問われない代わりに多くの記事を長めの行数で日経産業新聞などに書くよう求められる企業報道部の記者にとって、読者への配慮が行き届いた記事に仕上げるのは難しいとは思うが…。


※記事の評価はD(問題あり)。

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