ゲント(ベルギー)での事故で大破した自動車 ※写真と本文は無関係です |
まず、記事の最初の話が苦しい。
◎中山編集委員も「根拠」に問題が…
【日経の記事】
トランプ大統領のメキシコ投資への「つぶやき介入」。自動車産業ではすでに年間70万台分以上が標的になった。
「最も雇用を創る大統領に」はいい。だが、問題がある。まず雇用流出の根拠だ。米自動車3社が本国で最も車を生産した1999年と2015年を比べると、3社の生産規模は確かに18工場、362万台減った。
だが、同じ期間に日韓欧の企業は米国で生産も雇用も増やしている。米国勢の減少はメキシコ移転というより、海外勢に押された結果といえた。
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「1999年と2015年を比べると」米自動車3社の生産規模が「362万台減った」としよう。一方、「日韓欧の企業は米国で生産も雇用も増やしている」。これらの事実から「米国勢の減少はメキシコ移転というより、海外勢に押された結果」と言えるだろうか。
例えば、米自動車3社は米国での生産を362万台減らす一方で、メキシコでの生産を500万台増やしているとしよう。この場合、「米国勢の減少」はメキシコ移転の結果との見方もできそうだ。
「海外勢に押された結果」との分析が当たっている可能性もあるが、中山編集委員が提示した材料ではまともな根拠になっていない。記事では「雇用流出の根拠」に「問題がある」と主張している。しかし、「根拠」に「問題がある」のは中山編集委員も同じだ。
◎「トランプの米国」を論じてる?
【日経の記事】
環境で言えば、オバマ政権の規制は確かに厳しく、企業には重荷だったとの声もある。だが、規制は技術革新の原動力にもなる。
注目すべきは、意外にも中国だ。世界最大の自動車市場、中国は18年から「NEV」と呼ばれる厳しい環境規制を導入。電気自動車の普及で先行してガソリン車で勝てない日欧の自動車大手を追い抜こうとする政策を始める。最近は「中国のイーロン・マスク(米テスラモーターズの最高経営責任者)」を自称する起業家も多数出てきているという。
日本企業はどうすべきか。日本たばこ産業(JT)の小泉光臣社長は「企業買収を含め、あえてグローバルに、技術革新にもっと根を張るしかない」と話す。保護主義の先には縮小均衡しかない。であれば、政治が変わっても「グローバル」「革新」こそが不変の道標だ。日本企業にとってはまさに真価が問われる4年の始まりである。
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これは記事の最後の3段落だ。話が脱線しすぎて「トランプの米国」をもはや論じていない。しかも中国勢による電気自動車での攻勢を受けた日本企業の対応策を語っているのは、なぜかJTの社長だ。自動車産業の話は前の段落で終えて、JTのところでは日本企業全体に話を広がているつもりだろうが、ちょっと苦しい。
さらに言うと「電気自動車の普及で先行してガソリン車で勝てない日欧の自動車大手を追い抜こうとする政策を始める」という文は修飾の仕方が下手だ。分かりにくく誤解を招きやすい。
この書き方だと「日欧の自動車大手=電気自動車の普及で先行してガソリン車で勝てない」と解釈するのが自然だ。しかし、文脈から判断すると「電気自動車の普及で先行」する主体は「中国(あるいは中国メーカー)」だろう。また「ガソリン車で勝てない日欧の自動車大手」とすると、「日欧の自動車大手」はガソリン車で負け組だとも取れる。これも違うはずだ。改善例を示してみる。
【改善例】
世界最大の自動車市場、中国は18年から「NEV」と呼ばれる厳しい環境規制を導入。電気自動車の普及で先行して国内メーカーを育て、ガソリン車で優位に立つ日欧の自動車大手を追い抜こうとする政策を始める。
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誤解の余地をかなり減らせたはずだ。記事の書き方の基礎的な技術が身に付いていれば、中山編集委員のような書き方はまずしない。朝刊1面の囲み記事にこの手の文が残ってしまうのは、筆者だけでなく担当局次長、担当デスク、記事審査部の担当者など、編集局の多くの人材に基礎的な技術が欠落しているからだ。改善は容易ではない。
※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史編集委員への評価もDを据え置く。中山編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html
日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html
日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html
三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html
「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html
「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html
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