2019年9月30日月曜日

「内部留保」への誤解促す日経1面トップ「M&Aに減税措置検討」

内部留保」は誤解されやすい言葉だ。「使わずにため込んでいる資金」だと思われやすいが、そうとは限らない。30日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「M&Aに減税措置検討 甘利自民税調会長に聞く~内部留保の活用促す」という記事も「内部留保」への誤解を助長させかねない内容になっている。
宮城県慶長使節船ミュージアム(サン・ファン館)
           ※写真と本文は無関係です

関連する部分を見ていく。

【日経の記事】

念頭にあるのは内部留保を使った新規事業への投資だ。対象になる投資の範囲や控除割合など詳細は今後、自民党税調で議論して詰める。利用できる企業を資本金や出資金の規模で絞らず、幅広く活用できる制度にする方向だ。甘利氏は「イノベーションの気概が薄い大企業を第2創業のような勢いで伸ばしていく」と語った。

日本企業は社内に研究者を囲い込む自前主義が強い。欧米では社外のベンチャー企業や大学などが持つ技術とアイデアを活用する「オープン・イノベーション」が盛んだ。甘利氏はこうした手法を税制で支援する考えを示し「世界中の大企業は思い切ったことをやっている。日本の大企業もできるはずだ」と語った。

新事業への投資のうち、甘利氏が減税措置の有力候補に挙げたのはM&Aだ。これまで投資に関する減税は生産性向上につながる設備やソフトウエアなど償却可能な資産ばかりが対象だった。スタートアップ企業への投資に優遇措置を設けた例はあるがいまはない。M&Aの活性化は20年度改正の目玉になりそうだ。

甘利氏は日本企業の内部留保が18年度で463兆円と7年連続で過去最高を更新したと指摘した。「内部留保がたまっていく企業はイノベーションが起きていない」と述べ、米国企業に比べて日本の企業の自己資本利益率(ROE)が低い一因だと訴えた

政府・与党はこれまでも企業に内部留保を使わせるための政策を実施してきた。18年度には給与を前年度から3%増やせばその15%を法人税から差し引く制度を導入した。大企業が研究開発や共同研究に投じた費用を法人税から差し引ける税制も拡充したが、内部留保は増加を続けてきた。


◎「現預金の活用」なら分かるが…

2017年10月17日付の記事で日経は「内部留保」について以下のように解説している。

企業が稼いだ純利益から株主への配当金を支払って残った剰余金を蓄えたもの。貸借対照表では『利益剰余金』として計上され、資本金などと合わせて株主のお金である純資産を構成する。現預金など手元に置いておく資金のほか、設備投資やM&A(合併・買収)といった成長資金として使われる可能性もある

設備投資やM&A(合併・買収)といった成長資金として使われる可能性もある」のだから「内部留保」が増えているからと言って「M&A」に使っていないとは言い切れない。

だが、今回の記事では冒頭で「自民党税制調査会の甘利明会長は日本経済新聞のインタビューに応じ、M&A(合併・買収)への減税措置を検討する方針を示した。企業に利益の蓄積である内部留保の活用を促す」と書いている。これだと「内部留保=M&Aには使われていない資金」との誤解を招く。

自民党税制調査会の甘利明会長」が「内部留保の活用を促す」と言ってるんだからそう書くしかないと記者は反論するかもしれない。だが、取材時に「内部留保の中にはM&Aに回っている部分もありますよね」などと聞いてもいい。記事の中で「内部留保=現預金」ではないと注釈を付けてもいい。そうした工夫をせず「甘利明会長」の言い分をそのまま記事にしたのならば、経済紙としては実力不足が過ぎる。


※「M&Aに減税措置検討 甘利自民税調会長に聞く~内部留保の活用促す
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190930&ng=DGKKZO50371110Z20C19A9MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年9月29日日曜日

関電会長「全て返却」は税務調査認識の前?後? 詰めが甘い日経の記事

29日の日本経済新聞朝刊社会面に載った「関電会長『商品券と物品』受領 元助役から、昨春までに全て返却」という記事は肝心のところがはっきりしない内容だった。
藩校模型学習館(大分県杵築市)※写真と本文は無関係

記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。

【日経の記事】

関西電力の役員らが高浜原子力発電所が立地する福井県高浜町の元助役(今年3月に90歳で死去)から金品を受け取っていた問題で、同社の八木誠会長は28日、日本経済新聞の取材に対し、元助役から商品券や就任祝いの物品を受け取ったことを明らかにした。同会長は2018年3月ごろまでに全て返却したとした上で「原子力事業への信頼を失い非常に申し訳ない」と話した。

関電は27日の記者会見で岩根茂樹社長ら役員や同社OBなど20人が11~18年、元助役の森山栄治氏から約3億2千万円相当の金品を受領または保管していたと発表した。

八木会長は原子力担当役員として06年に福井県美浜町の原子力事業本部に赴任した際、元助役と初めて会ったという。「就任祝いとして商品券を渡された。その場で中身は見ていない。受け取れないと伝えたが了解してもらえず、一旦預かった」と話した。商品券の受領は1回だけとしている。

八木会長によると、09年まで年2~3回ほど、あいさつなどで会社に訪問を受け、そのたびに元助役から物品を渡され、保管してきた。商品券の金額や物品の内容は明らかにしなかった。

金品は18年3月ごろまでに社員を通じて元助役に全て返した商品券については私費で同等物を「お返しとして送った」とし、現金の授受は一切なかったと強調した。

関電が原発関連工事を発注する建設会社に税務調査が入ったことは同月ごろに知ったと説明。「常に返却の機会をうかがい交渉しており、税務調査がきっかけということではない」とした。元助役は年に1回ほど役員向け社内研修の講師を務めており、「先生」と呼んでいたという。

今回の問題では原発関連企業の高浜町の建設会社が元助役に資金提供していたことが税務調査で判明。「原発マネー」が還流した構図が疑われている。

八木会長は「(建設会社から元助役に)資金が流れていたことも知らなかったし、国民の電気料金が還流したという事実はない」と強調。「個人個人が苦しんできたことを会社として拾い上げてリスク対応することができなかった」と話した。


◎「返却」完了は「税務調査」認識の前か後か?

八木誠会長」が「商品券と物品」を「全て返却した」のは「2018年3月ごろ」で、「関電が原発関連工事を発注する建設会社に税務調査が入ったことは同月ごろに知った」らしい。だとしたら、気になるのは「全て返却した」のが「建設会社に税務調査が入ったこと」を認識する前か後かだ。

前であれば「返却の機会」をうかがっていたとの説明がある程度の説得力を持つ。後であれば「税務調査」を知って慌てて「返却」したと捉えるのが自然だ。

記事には「税務調査がきっかけということではない」という「八木誠会長」のコメントはあるが、「返却」完了が「税務調査」を認識する前なのか後なのか明確ではない。記事のコメントだと「(返却完了は税務調査を認識した後になったが)税務調査がきっかけということではない」との趣旨にも取れる。

その点を詰めなかったのか。詰めたのに記事に反映させなかったのか。いずれにしても問題ありだ。

金品は18年3月ごろまでに社員を通じて元助役に全て返した」と日経が断定しているのも引っかかる。「商品券については私費で同等物を『お返しとして送った』」のであれば「返した」とは言い難い。

例えば100万円相当の時計をもらった人が100万円相当の宝石を「お返しとして送った」場合、受け取った「金品」を「返した」と考えるべきだろうか。個人的には違うと思える。

さらに言えば「商品券」をそのまま返さず「同等物」で代替したのも引っかかる。

多くの「商品券」は有効期限がないので、そのまま返せば済むはずだ。なのに「同等物を『お返しとして送った』」のは「商品券」で買い物をしてしまったからではないか。「商品券の有効期限が切れていたから『同等物』で代替した」との可能性もあるが、だとしたらそこを詰めてほしかった。

全体として「八木誠会長」にとって都合のいい記事になっている。記事を書いた記者に言わせれば「それがこっちの狙いなんだよ」という話かもしれないが…。


※今回取り上げた記事「関電会長『商品券と物品』受領 元助役から、昨春までに全て返却
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190929&ng=DGKKZO50360910Y9A920C1CC1000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年9月28日土曜日

リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」

小田嶋隆氏は本来優れた書き手だが、最近は力が衰えているような気がする。9月30日付の日経ビジネスに載った「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション 無責任は法で取り締まるべきか」という記事はかなり歯切れが悪かった。テーマはリツイートに関する訴訟だ。記事の途中から見ていこう。
金華山黄金山神社(宮城県石巻市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

さて、そのリツイートに関して、興味深い判決が出た。元大阪府知事の橋下徹氏が、ジャーナリストの岩上安身氏による橋本氏批判の「リツイート」で名誉を傷つけられたとして慰謝料など110万円の損害賠償を求めていた訴訟で、9月12日、大阪地方裁判所が33万円の支払いを命じたのだ。

判決の中で、末永雅之裁判長は、リツイートを「投稿内容に賛同する表現行為」として、名誉毀損に当たるとの判断を示した、と報じられている。

記事の文面からは、リツイートという行為一般を「賛同行為」と認定したのか、今回の岩上氏のケースについてのみ「賛同行為」としたのかがはっきりしない。しかし、ともあれ、リツイートに法的責任が生じることが判例によって示されたことの意味は小さくない。



◎どこの「記事」?

記事の文面からは、リツイートという行為一般を『賛同行為』と認定したのか、今回の岩上氏のケースについてのみ『賛同行為』としたのかがはっきりしない」と書くのならば、どこの記事なのかは明確にしてほしい。でないと「はっきりしない」かどうか確かめられない。

ここでは産経新聞の記事を基に話を進めたい。「中傷のツイート転載で名誉毀損 橋下徹氏の訴え認める 大阪地裁」という記事で「末永裁判長は一般論として『何のコメントも付けずにリツイートすることは、その内容に賛同する意思も併せて示されていると理解できる』と判断」と産経は書いている。となると「リツイートという行為一般を『賛同行為』と認定した」と理解すべきだろう。

ただし「何のコメントも付けずにリツイートすること」と条件を付けている。これも重要なポイントだと思える。

小田嶋氏の記事をさらに見ていこう。


【日経ビジネスの記事】

判決について、岩上氏はツイッター上で《ツィッターは国境を越える。当然、この判決が確定されれば世界に影響を与えうる。「リツィートは同意」だと一義的に決めつける判決に世界が驚くのは当然。そうした視野もなく、原告の言い分のみをうのみにした愚かな判決である。控訴審では、こうした不誠実で不正義、知的にも劣化した判決を覆したい。》とコメントしている。

一方、橋下氏は同じくツイッター上で《岩上安身氏からツイッターによる執拗な攻撃を受け続けてきましたが、一審で勝訴しました。リツイートはフェイクニュース拡散の元凶です。リツートにも一定の責任が生じます。皆さん、気を付けましょう。》と言っている。

まだ先のある訴訟なので、ここで結論を述べることは避けておく。


◎なぜ逃げる?

まだ先のある訴訟なので、ここで結論を述べることは避けておく」と小田嶋氏は逃げてしまう。「まだ先のある訴訟」であろうとなかろうと両者の言い分に対するコメントはできるはずだ。そこから逃げるのならば、今回は記事のテーマを変えた方がいい。

ツイッター上」の両氏のコメントが事実との前提で言えば、「橋下氏」の主張には何の問題も感じない。一方、「岩上氏」の主張はかなり辛い。

事実に即しているかどうかは別にして「『リツィートは同意』だと一義的に決めつける判決に世界が驚くのは当然」だとしよう。「そうした視野もなく、原告の言い分のみをうのみにした愚かな判決」と書いているので「岩上氏」は「判決に世界が驚く」かどうかを考慮すべきだと考えているのだろう。これには賛成できない。

裁判官は日本の法律に基づいて判決を下すべきだ。「日本の法律に照らせば明らかに有罪だけど、有罪判決を出すと世界が驚いちゃうから無罪にしとくか」などと考える裁判官がいたら怖い。「不誠実で不正義、知的にも劣化した判決」とまで言うならば、もう少ししっかりした根拠が欲しい。

まだ先のある訴訟」ではあるが、両氏の「ツイッター上」のコメントに関する感想を述べてみた。「岩上氏」が「控訴審」で勝つ可能性も当然ある。そうなったからと言って、自分の感想を変える必要は感じない。

小田嶋氏も同じではないか。なのに「まだ先のある訴訟なので、ここで結論を述べることは避けておく」と逃げたのが残念だ。

記事をさらに見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

悪質な情報被害やデマは、顔と名前を持った確信犯の発言としてよりも、もっぱら、発言責任とは無縁な場所で、他人の尻馬に乗る形で拡散されるリツイートによって増幅されてきたことは、指摘しておかなければならない。

一方で、リツイートに責任が求められることが確定したら「ツイッター文化」なるものは、おそらく、2年か3年のうちには滅亡するだろう。というのも、文化や表現というのは、その性質上、無責任な立場にある人間でなければ支えることのできないものだからだ。



◎「ツイッター文化」が「2年か3年のうちには滅亡」?

リツイートに責任が求められることが確定したら『ツイッター文化』なるものは、おそらく、2年か3年のうちには滅亡するだろう」と小田嶋氏は言う。個人的な予想ではあるが、「2年か3年」で「滅亡」したりしないと断言しておきたい。
くにみ海浜公園(大分県国東市)※写真と本文は無関係

リツイートに責任が求められることが確定」したとしても、それは「何のコメントも付けずにリツイートすること」への「責任」になるはずだ。Aさんへの名誉棄損に当たると思われるツイートに「こんなツイートを許していいのか」とコメントを付けて「リツイート」した場合、「リツイート」がAさんへの「名誉毀損」に当たらないのは当然だ。

そもそも「リツイート」は「悪質な情報被害やデマ」を広げるためだけの機能ではない。何の毒もない平和な「リツイート」もたくさんある。なのに「リツイートに責任が求められることが確定」した程度で「ツイッター文化」が簡単に「滅亡する」かなとは思う。

どちらの予想が正しいか「リツイートに責任が求められることが確定」してから3年以内に結果が出るので楽しみだ。「ツイッター文化」の「滅亡」に客観的な基準がないので、その時に「俺から見ればツイッター文化は滅亡している」と言われれば、それまでだが…。

文化や表現というのは、その性質上、無責任な立場にある人間でなければ支えることのできないもの」との見方にも賛成できない。例えば「表現の自由」に制限が加えられそうな時に「表現の自由を守れ」と立ち上がるのは「無責任な立場にある人間」でなければ不可能なのか。例えば野党の国会議員が「表現の自由を守るべきだ」と国会で訴えて「文化や表現」を「支え」ようとする場合、こうした議員は「無責任な立場にある人間」と言えるだろうか。

記事の結論部分にも注文を付けておきたい。


【日経ビジネスの記事】

リツイートには凶悪な面がある。しかし、だから法律で縛るというのも何か違う気がする。厄介な話だ

ともあれ、そんなこんなで、近い将来われわれは少し大人になって、時には黙ることを覚えるはずだ。それはそんなに悪いことではない



◎「悪いことではない」ならば…

ここでも「厄介な話だ」で逃げている。「法律で縛るというのも何か違う気がする」と言うだけで、その違和感がなぜ生じるのかは説明していない。

しかし最後に「そんなこんなで、近い将来われわれは少し大人になって、時には黙ることを覚えるはずだ。それはそんなに悪いことではない」と締めている。

時には黙ることを覚える」のは「橋下氏」の勝訴が一因となるはずだ。だとしたら「凶悪な面がある」と小田嶋氏も認める「リツイート」を「法律で縛る」のは「そんなに悪いことではない」と言える。「厄介な話だ」で逃げる必要はない。

厄介な話」で逃げるのならば、結論は「それがいいことなのかどうか答えは出ない」などとなるのが自然だ。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション 無責任は法で取り締まるべきか
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00036/?P=1


※橋下徹氏リツイート訴訟については以下の投稿も参照してほしい。

橋下徹氏リツイート訴訟で山田厚史氏の主張に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_31.html


※記事の評価はC(平均的)。小田嶋隆氏への評価はCを据え置く。小田嶋氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html

「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html

2019年9月27日金曜日

「トランプ流の通商政策」最初の成果は日米?米韓? 日経 菅野幹雄氏の矛盾

日米貿易協定は、意外にも2国間の取引(ディール)を振り回すトランプ流の通商政策が成果を表す最初の例になる」と日本経済新聞の菅野幹雄氏(肩書は本社コメンテーター)は言う。一方で同じ記事の中で「1月に発効した米国と韓国の自由貿易協定の改定を除き、米政権は農家や産業界に具体的な果実を与える通商合意を実行できていない」とも書いている。
東北大学 片平キャンパス(仙台市)※写真と本文は無関係

トランプ流の通商政策が成果を表す最初の例」は「日米貿易協定」なのか。それとも「米国と韓国の自由貿易協定の改定」なのか。以下の内容で問い合わせを送ってみた。


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 本社コメンテーター 菅野幹雄様

26日付で電子版に載った「Nikkei Views~日米、首の皮一枚の自由貿易 対象絞った『ミニ合意』」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは冒頭の説明です。菅野様は以下のように書いています。

安倍晋三首相とトランプ米大統領が合意した日米貿易協定は、意外にも2国間の取引(ディール)を振り回すトランプ流の通商政策が成果を表す最初の例になる。対象を絞る『ミニ合意』は功を急ぐトランプ政権への格好の助け舟だが、多国間の枠組みに基づく世界貿易ルールを傷つけるリスクもある。首の皮一枚の自由貿易体制をどう守るかが、日本の宿題だ

これを信じれば「トランプ流の通商政策が成果を表す最初の例」は「日米貿易協定」のはずです。しかし記事を読み進めると「1月に発効した米国と韓国の自由貿易協定の改定を除き、米政権は農家や産業界に具体的な果実を与える通商合意を実行できていない」との記述があります。

米国と韓国の自由貿易協定の改定」が「農家や産業界に具体的な果実を与える」ものならば「トランプ流の通商政策が成果を表す最初の例」は「米国と韓国の自由貿易協定の改定」ではありませんか。

日米貿易協定は、意外にも2国間の取引(ディール)を振り回すトランプ流の通商政策が成果を表す最初の例になる」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。あるいは「米国と韓国の自由貿易協定の改定」に関する説明が間違っているのでしょうか。いずれにも問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「首の皮一枚の自由貿易体制をどう守るかが、日本の宿題だ」との説明も引っかかりました。

自由貿易」が「貿易取引に対する数量制限、関税、輸出補助金などの国家の干渉を廃止し、自由に輸出入を行うこと」(日本大百科全書)だとすれば、現状は「自由貿易体制」とは程遠いはずです。しかし「首の皮一枚の自由貿易体制をどう守るかが、日本の宿題だ」と菅野様は書いているので「現状はギリギリで自由貿易体制の範囲内」との判断なのでしょう。

関税」などの「国家の干渉」は当たり前にあり、米中の貿易戦争まで起きているのに「自由貿易体制」の枠内には収まっている。しかし、「首の皮一枚」でつながっているだけで、わずかな状況変化で「自由貿易体制」ではなくなってしまう--。

だとすると「自由貿易」や「自由貿易体制」とは何かとの疑問が湧きます。まずはここを明確にすべきです。何を以って「自由貿易体制」とするのか明確ではないのに「首の皮一枚の自由貿易体制をどう守るかが、日本の宿題だ」と訴えても意味はないでしょう。

問い合わせは以上です。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Nikkei Views~日米、首の皮一枚の自由貿易 対象絞った『ミニ合意』
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50220310W9A920C1I00000/?nf=1


※記事の評価はD(問題あり)。菅野幹雄氏への評価もDを据え置く。菅野氏については以下の投稿も参照してほしい。

「追加緩和ためらうな」?日経 菅野幹雄編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_20.html

「消費増税の再延期」日経 菅野幹雄編集委員の賛否は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_2.html

日経 菅野幹雄編集委員に欠けていて加藤出氏にあるもの
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_8.html

日経「トランプショック」 菅野幹雄編集委員の分析に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_11.html

英EU離脱は「孤立の選択」? 日経 菅野幹雄氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_30.html

「金融緩和やめられない」はずだが…日経 菅野幹雄氏の矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_16.html

トランプ大統領に「論理矛盾」があると日経 菅野幹雄氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_24.html

日経 菅野幹雄氏「トランプ再選 直視のとき」の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_2.html

MMTの否定に無理あり 日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/mmt-deep-insight.html

2019年9月26日木曜日

「細川政権の田中真紀子外相」と書いた毎日新聞の伊藤智永編集委員

毎日新聞の伊藤智永編集委員が週刊エコノミストの記事で「細川政権の田中真紀子外相」と書いていた。「小泉政権の田中真紀子外相」の誤りだと思えたので、週刊エコノミストに以下の内容で問い合わせした。ほぼ同じ内容を毎日新聞の問い合わせフォームにも送っている。エコノミストの藤枝克治編集長は指摘を無視する可能性が高いし、伊藤編集委員に問い合わせの存在すら知らせない懸念があるからだ。
金華山黄金山神社(宮城県石巻市)
※写真と本文は無関係です

毎日新聞への問い合わせは、かなりの確率で伊藤編集委員に届くだろう。そこでどう対応するのか注目したい。ミスそのものを責めるつもりはない。「ミスするな」と人に言えるほどミスが少ない人間でないのは自覚しているつもりだ。

細川政権の田中真紀子外相」で問題ないとの主張でも構わない。伊藤編集委員の対応に期待したい。

【エコノミストへの問い合わせ】

毎日新聞編集委員 伊藤智永様  週刊エコノミスト編集長 藤枝克治様

週刊エコノミスト10月1日号の「『ポスト安倍』になれぬ進次郎氏 なお“岸田本命”のわけ」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「細川政権の田中真紀子外相が首相候補として大人気を博したこともあるが、すぐに虚像は崩れた」との記述です。

外務省のホームページで歴代の外相を確認すると田中氏が外相を務めたのは2001年4月~02年1月で当時は「小泉政権」です。「細川政権」の外相は羽田孜氏だと思われます。

細川政権の田中真紀子外相」という説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。誤りであれば、次号での訂正を求めます。

週刊エコノミストでは読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が常態化しています。そうした姿勢がメディアとして正しいのか、藤枝様は改めて自問してみてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「『ポスト安倍』になれぬ進次郎氏 なお“岸田本命”のわけ
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20191001/se1/00m/020/041000c


※「細川政権の田中真紀子外相」を除けば記事の評価はC(平均的)。伊藤智永編集委員の評価は問い合わせへの対応を見て決めたい。

2019年9月25日水曜日

サウジへの「無人機による攻撃」は9月が最初? 岩間剛一 和光大学教授に問う

9月14日」に「無人機とされる攻撃によりサウジアラビアの国営石油企業サウジアラムコの石油施設が損傷」した。この「攻撃」によって「中東アフリカ地域の石油施設への無人機による攻撃の可能性が生まれ、新たな地政学リスクを背負い込んだ」と和光大学教授の岩間剛一氏が週刊エコノミストの記事で解説している。それまでに同様の「攻撃」がなかったのならば分かるが、そうではない気がする。
長崎港(長崎市)※写真と本文は無関係です

週刊エコノミストには以下の内容で問い合わせを送った。

【エコノミストへの問い合わせ】

和光大学教授 岩間剛一様  週刊エコノミスト編集長 藤枝克治様

10月1日号の「NEWS~サウジ石油施設攻撃 中東の地政学に新たなリスク 1バレル=70ドル台うかがう動きも」という記事についてお尋ねします。「9月14日、国際原油市場に大きな衝撃が走った。無人機とされる攻撃によりサウジアラビアの国営石油企業サウジアラムコの石油施設が損傷、同国のアブドルアジズ・エネルギー相は原油生産量が日量570万バレル減少したと発表した」と冒頭で述べた上で、岩間様は以下のように解説しています。

これまでは、中東の地政学リスクといえば、イランによるホルムズ海峡封鎖リスクのみが考えられ、米国とイランの最終的な武力衝突はないという楽観論が、国際原油市場のコンセンサスであった。だからこそ、タンカー攻撃や米国の無人機撃墜等が勃発しても、原油価格高騰が起こらなかった。しかし今回の攻撃で、ホルムズ海峡封鎖懸念に加えて、中東アフリカ地域の石油施設への無人機による攻撃の可能性が生まれ、新たな地政学リスクを背負い込んだ。仮に米国、サウジに人的被害が発生した場合には、イランとの全面的な武力衝突が現実となる可能性まである

これを信じれば9月に起きた「今回の攻撃」で「中東アフリカ地域の石油施設への無人機による攻撃の可能性が生まれ、新たな地政学リスクを背負い込んだ」はずです。本当にそうでしょうか。

5月14日付の日本経済新聞の記事によると「サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は14日、同国中部の石油パイプライン施設が爆発物を積んだドローン(無人機)の攻撃を受けたと明かした」そうです。AFPも同日付で「石油パイプライン施設2か所にドローン攻撃、輸送停止 サウジ」という記事を出しています。

8月19日にはロイターが「フーシ派がサウジ油田に無人機攻撃、生産に影響なし」とも伝えています。こうした報道を総合すると、5月と8月にも「サウジアラビア」の「石油施設への無人機による攻撃」があったと考えられます。

今回(9月)の攻撃」で「中東アフリカ地域の石油施設への無人機による攻撃の可能性が生まれ、新たな地政学リスクを背負い込んだ」との説明は誤りではありませんか。「中東アフリカ地域の石油施設への無人機による攻撃の可能性」は5月には現実になっていたはずです。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「これまでは、中東の地政学リスクといえば、イランによるホルムズ海峡封鎖リスクのみが考えられ」との説明も誤りでしょう。「中東アフリカ地域の石油施設への無人機による攻撃」も5月の段階で原油先物市場では材料視されていました。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。週刊エコノミストでは読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「NEWS~サウジ石油施設攻撃 中東の地政学に新たなリスク 1バレル=70ドル台うかがう動きも
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20191001/se1/00m/020/044000c


※記事の評価はD(問題あり)。岩間剛一教授への評価も暫定でDとする。

2019年9月24日火曜日

ツッコミどころが多い日経「伊藤忠、外回りの車両に乗り合い導入」

24日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「伊藤忠、外回りの車両に乗り合い導入」というベタ記事はツッコミどころが目立つ。全文を見た上で具体的に指摘したい。
旧グラバー住宅(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

伊藤忠商事は10月、東京本社に勤める社員2500人を対象にした車両の乗り合いサービスを導入する。業務提携先で乗り合いシステムを開発する米ヴィア・トランスポーテーションの技術を使う。主に営業などの外回りで活用し、複数人が乗り合わせても最適なルートを自動探索し、目的地に効率良く送り届ける。移動時間を業務に有効活用できるようにする

社員がスマートフォンの専用アプリで乗降場所を指定すると、乗り合いサービスの専用車両が配車される。社員は利用料を支払う必要はなく、伊藤忠が負担するため、経費精算の手間も省ける。まずは2020年7月末まで導入する。効果を検証し、運用を継続するかどうかを決める。

◇   ◇   ◇

気になった点を列挙してみる。

(1)車は誰が用意する?

米ヴィア・トランスポーテーション」との提携に関する日経の記事によると「ビア社は欧米など60超の都市でサービスを提供するライドシェア大手」だが、「日本国内」では「直接サービスを手掛けず、タクシーやバス会社、地方自治体にビア社のシステムを提供していく」という。だとしたら車を用意するのは「タクシー」会社なのか。その辺りはしっかり説明すべきだ。


(2)「移動時間を業務に有効活用」?

乗り合いサービスを導入」すると「複数人が乗り合わせても最適なルートを自動探索し、目的地に効率良く送り届ける」ようになるとしよう。それが「移動時間を業務に有効活用できるようにする」効果を持つだろうか。

従来は単独でのタクシー利用だった場合、後部座席で様々な作業ができただろうが、それは「乗り合いサービスを導入」しても変わらない。

これまで社員が社用車を運転するやり方だったのならば「移動時間を業務に有効活用できる」ようになるが、それは「乗り合いサービスを導入」したからと言うよりタクシーなどの利用に切り替えたからだ。結局、なぜ「移動時間を業務に有効活用できるように」なるのか謎だ。

乗り合いサービスを導入」する最大のメリットは交通費の削減だと思えるが、そこには全く触れていない。これも気になる。


(3)遅刻が頻発しそうな…

乗り合いサービス」は「主に営業などの外回りで活用」するらしい。「乗降場所を指定すると、乗り合いサービスの専用車両が配車される」というが、時間は「指定」できないのか。「複数人が乗り合わせても最適なルートを自動探索」してくれるとしても、営業先への到着時刻が読めないのでは使い物にならない。

深夜勤務の後の帰宅のための「乗り合い」ならば到着時刻は多少遅くなっても問題にならないが「営業などの外回り」で到着時刻が読めないのは辛い。


※今回取り上げた記事「伊藤忠、外回りの車両に乗り合い導入
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190924&ng=DGKKZO50112930T20C19A9TJC000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年9月23日月曜日

日経 長沼亜紀記者が書いた「理解に苦しむベタ記事」

日本経済新聞の長沼亜紀記者が21日の夕刊総合面に「シェアオフィス『不況で脆弱性』 ボストン連銀総裁」という理解に苦しむベタ記事を書いている。全文を見た上で記事の問題点を考えてみたい。

長崎水辺の森公園(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

米ボストン連銀のローゼングレン総裁は20日「シェアオフィス・モデルは景気後退時に問題となる可能性がある」と述べ、「ウィーワーク」のようなモデルの脆弱性を指摘した。ニューヨークでの講演で発言した。

米連邦公開市場委員会(FOMC)は18日、今年2回目の利下げを決めたが、ローゼングレン総裁は金利据え置きを主張して反対票を投じた。講演では「極めて低い金利は家計や企業に過剰なリスクをとることを促す」と述べ、懸念を表明した。


◎それはそうでしょうが…

シェアオフィス・モデルは景気後退時に問題となる可能性がある」のはその通りだろう。だが、多くの事業モデルは「景気後退時に問題となる可能性がある」はずだ。「ローゼングレン総裁」がなぜわざわざ「シェアオフィス・モデル」に言及したかがポイントだが、長沼記者は何も教えてくれない。

ベタ記事なので、あれこれ説明する余裕がないのは分かる。しかし記事の後半では「シェアオフィス・モデル」の話から離れてしまっている。これほど短い記事でテーマを1つに絞らないのも解せない。

ブルームバーグの記事によると「低金利の下で進化する市場モデルは商業用不動産の分野で金融安定性に対して新たなタイプの潜在的リスクを生みつつある。そうした市場モデルの一つは、多くの主要都市のオフィス市場でのシェアオフィス事業の発展だ」「不動産市場で成長しつつあるこうした事業モデルによって、次の不況時に商業用不動産が被る損失がさらに大きくなることを私は懸念している」と「ローゼングレン総裁」は述べたらしい。

これならば「米ボストン連銀」の「総裁」がなぜ「シェアオフィス・モデル」に言及したか理解できる。ブルームバーグの記事に付いた見出しは「ボストン連銀総裁:シェアオフィス事業モデルが金融リスク生む可能性」。何を伝えたいのか明確だ。

しかし日経の記事は舌足らずが過ぎる。この記事だけで「ローゼングレン総裁」の発言が持つ意味を正しく理解するのは不可能だ。記事にするならば、少なくとも「シェアオフィス・モデル」と「金融安定性」を絡めるべきだ。

長沼記者はなぜそうしなかったのか。まともな書き手を目指すならば、そこは逃げずに考えてほしい。


※今回取り上げた記事「シェアオフィス『不況で脆弱性』 ボストン連銀総裁
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190921&ng=DGKKZO50079550R20C19A9NNE000


※記事の評価はD(問題あり)。長沼亜紀記者への評価も暫定でDとする。

2019年9月22日日曜日

女性議員は「異物」じゃダメ? 日経 木村恭子編集委員への疑問

日本経済新聞の政治コラム「風見鶏」は訴えたいことを持たない筆者が多過ぎると指摘してきた。22日の朝刊総合3面に木村恭子編集委員が書いた「女性議員はまだ『異物』か」に関しては「何を訴えたいか」は伝わってくる。そこは評価できるが、記事の内容には色々と疑問が浮かんだ。
福浦橋(宮城県松島町)※写真と本文は無関係

中身を見ながら具体的に指摘したい。

【日経の記事】

日本の国会では女性議員はマイノリティーどころか異物に近い

政治家を目指す女性らを前に自民党の野田聖子元総務相はこう嘆いた。女性の政治家を育てる一般社団法人「パリテ・アカデミー」と笹川平和財団が9月上旬に開いた「女性政治リーダー・トレーニング合宿」のレセプションの場での発言だったが、招待されていたマレーシアの女性大臣、カマルディン住宅・地方自治相は通訳の「strange object」に苦笑していた。

野田氏は「野党には多くの女性候補を立てていただきお礼を申し上げたい」と続けた。今年は女性の政治参画の後押しを目指して制定された「政治分野における男女共同参画推進法」の施行後初の国政選となる参院選が行われた。自民党の候補者の女性比率は15%にとどまったのに対し、野党は立憲民主党(45%)、国民民主党(36%)と総じて高い。野田氏はこうした状況を皮肉った。

同じ場であいさつした国民の玉木雄一郎代表は「選挙区はいっぱい空いています」とリクルートに余念がない。「与党は現職が多く候補者を変えにくい。しかし、議席の多い与党が変わらないと国政での女性議員増は難しい」と「パリテ・アカデミー」を主宰する上智大学の三浦まり教授は分析する。「政権交代か現与党が女性候補を増やすか。新人候補にクオータ(割当)制を入れることが有益だ


◎女性自身の頑張りは十分?

気になるのが「女性議員はマイノリティーどころか異物に近い」という発言だ。「マレーシアの女性大臣、カマルディン住宅・地方自治相は通訳の『strange object』に苦笑していた」といった記述から判断すると「異物に近い」状態は好ましくないとの前提があるのだろう。

しかし「異物に近い」となぜダメなのかは説明していない。個人的には「異物に近い」方が好ましいと思える。「異物」感が全くなく完全に同化しているのならば「女性議員」を増やす意味は何なのかとの疑問も浮かぶ。

女性議員」を増やす上で女性自身の奮起を求めていないのも引っかかる。「議席の多い与党が変わらないと国政での女性議員増は難しい」「現与党が女性候補を増やすか。新人候補にクオータ(割当)制を入れることが有益だ」という「上智大学の三浦まり教授」のコメントも「与党」や制度変更に期待するものだ。

日本で女性議員が少ないのが問題だとしたら、第一の原因は女性自身にある。選挙権も被選挙権も男女平等が実現している。女性自身が積極的に立候補して、女性自身が女性候補にしっかり投票すれば「女性議員増」はあっさり実現する。

与党」に頼らなくても、女性が自ら政党を立ち上げて国会にどんどん進出していけば済む。それを阻む制度はない。「上智大学の三浦まり教授」も木村恭子編集委員も「もっと女性自身が頑張らなくては」という視点がなぜないのか。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

欧州では選挙の際に議席や候補者の一定数を女性に割り振るクオータ制を導入する国が多い。日本でも、法案を国会提出する過程で導入を盛り込んでいたが、最終的には義務付けず強制力のない理念法にとどめた。

議員立法として策定を進めた超党派の議員連盟会長の中川正春・元文部科学相は「女性議員が目標割合に達したらクオータ制をとっぱらうという考えが理解されないまま反対論が強かった」と振り返る。

しかしクオータ制はおろか女性議員増への懐疑論はまだ根強い。「女性政治家がなぜ必要なのかわかっていない政治家がいまだに多い」。玉木氏の後にマイクを握った立民の阿久津幸彦・選挙対策委員長代理の発言に如実に表れている。

しかも、早稲田大学の中林美恵子教授によると、女性議員が増えることで財政規律が低下するという仮説があるそうだ。「働く女性が増えると育児や介護といった、これまで女性が担ってきた労働に対して公的支援を求める声が高まる可能性がある。女性議員がこうした動きに敏感に反応した場合、歳出圧力が高まり財政規律の低下につながる」とのロジックだ。

しかし中林氏が1999年から2014年に米議会に提出された法案や決議案の内容を調査したところ「政党別に女性議員を検証すると、共和党の女性議員が近年著しく歳出削減に傾斜していることがデータで示せた」といい、しかも、13年以降は女性議員の歳出増加志向が男性よりも低かったそうだ。


◎「歳出削減」が好ましい?

歳出増加」は悪いことで「歳出削減」は好ましいとの前提があって「共和党の女性議員が近年著しく歳出削減に傾斜していることがデータで示せた」から女性議員を増やすのは正しい方向だと訴えているのだろう。

しかし「歳出削減」が常に正しい選択とは限らない。財政赤字を増やしてでも歳出を増やすべき状況はあり得る。全体として「歳出削減」を進めるべき状況でも、必要なところでは歳出を増やし、不必要な部分を大胆に削るといったメリハリは要る。「共和党の女性議員が近年著しく歳出削減に傾斜している」からと言って、それが好ましいかどうかは簡単には決められない。

最後に記事の結論を見ていく。

【日経の記事】

「米国は日本と同様にクオータ制を入れていないが、女性議員は確実に増えている。そのカギとなっているのは、女性の政界進出を支援する米政治団体『エミリーズ・リスト』のような、女性の立候補を後押しするための資金援助の仕組みだ」という。日本でもクオータ制の導入の法改正を待つよりも、女性候補者に資金援助を手厚くする仕組みを設けるほうが現実的かもしれない。

中川、野田両氏が参加する超党派議連では近く参院選での女性活用について総括を行う。女性議員がなぜ必要か。そんな議論から早く抜け出してほしい



◎「なぜ必要か」を抜きに増やすべき?

女性議員がなぜ必要か。そんな議論から早く抜け出してほしい」という結論は引っかかる。「そんな議論は必要ない。さっさと女性議員を増やそう」と言いたいのか「その議論には決着が付いている。さっさと女性議員を増やそう」との趣旨なのか分からないが、いずれにしても同意できない。

女性議員を増やすと日本が劇的に良くなるという確実な根拠があるのならば「クオータ制」を検討すべきだ。しかし、そうではないのならば「なぜ必要か」の「議論」は欠かせない。今回の記事でも「女性議員がなぜ必要か」との問いにきちんとした答えは出せていない。なのになぜ「そんな議論から早く抜け出してほしい」となってしまうのか。


※今回取り上げた記事「風見鶏~女性議員はまだ『異物』か
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190922&ng=DGKKZO50035110Q9A920C1EA3000


※記事の評価はC(平均的)。木村恭子編集委員への評価はCで確定とする。木村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

労働分配率の分母は「利益」? 日経 木村恭子編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_28.html

日経「風見鶏~野党に唯一求めること」で木村恭子編集委員に求めること
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_16.html

2019年9月21日土曜日

日経ビジネス吉野次郎記者は「投げ銭型ライブ」を持ち上げるが…

日経ビジネス9月23日号に載った「Special Report 勃興する投げ銭型ライブ配信市場~トークや歌で視聴者魅了 芸能事務所を中抜きに」という記事で、筆者の吉野次郎記者は「投げ銭型ライブ配信市場」を手放しに持ち上げている。しかし、「芸能事務所」に所属する利用者にとって、それほど旨みのある仕組みとは思えない。
大川小学校跡地(宮城県石巻市)
      ※写真と本文は無関係です

問題のくだりは以下のようになっている。

【日経ビジネスの記事】

日本市場の急成長をけん引する17 Mediaの創業者は、台湾の人気ヒップホップアーティスト、ジェフリー・ホワン氏である。芸能界で見聞きしてきた理不尽を解消することが、創業の動機だった。

テレビに出演しても所属事務所が中間マージンを抜いて、わずかな出演料しか手にできない芸能人をホワン氏は多数見てきた。そうした中間搾取をなくす映像メディアとして17 Liveを立ち上げた。

事務所に所属せずとも、スマホさえあれば誰でも簡単に才能を披露できる。仮に事務所に所属していれば、中間マージンをピンはねされないよう、視聴者からの投げ銭は原則的に事務所を通さずにライバーに直接渡す

正確にはアプリ内の課金を代行する米アップルや米グーグルへの手数料や、17 Liveの運営コストを差し引いてライバーに支払う。ライバーの歩合は視聴者からの投げ銭の15%程度である(本誌推定)。他社もおおむね同水準とみられる。事務所に対しては、ライバーへの支払いとは別に、所属ライバー全員の売り上げに応じた対価を渡している

17 Media Japanの小野裕史CEO(最高経営責任者)は「ライバーには最大限還元するのが私たちのポリシーだ。月収が1000万円を超えるライバーもいる」と言う。



◎わずか15%の取り分では…

投げ銭型ライブ配信市場」が「芸能事務所の中抜きを加速させている」と断言しているので「芸能事務所」に所属している人が「投げ銭型ライブ」をやった場合、「芸能事務所」の取り分は当然にゼロなのだと思って記事を読み進めてしまった。

しかし「事務所に対しては、ライバーへの支払いとは別に、所属ライバー全員の売り上げに応じた対価を渡している」らしい。これで「中抜きを加速させている」と言えるのか。

報酬は「事務所を通さずにライバーに直接渡す」としても、「ライブ」で得られた収入から一定の金額が「事務所」に渡るのであれば、実態として大きな変化はない。実質的には「芸能事務所の中抜き」にならないと見るべきだろう。

さらに「アプリ内の課金を代行する米アップルや米グーグルへの手数料や、17 Liveの運営コストを差し引」くらしい。そして「投げ銭の15%程度」しか「ライバー」には渡らない。言い換えれば「投げ銭」の85%を米アップル、米グーグル、17 Live、所属事務所で分け合う仕組みだ。「芸能界で見聞きしてきた理不尽を解消」「中間搾取をなくす」などと持ち上げる価値のある立派なものなのか。

記事の結論部分にも疑問が残った。

【日経ビジネスの記事】

東京都内で夫と年金暮らしを営む72歳の「せんちゃん」もその1人だ。「生きがいが足りないように見えた」という娘からの勧めをきっかけに、ライバーになった。娘に買ってもらったスマホの使い方を覚え、18年3月から配信している。内容はトークが中心で、テーマは孫や動物、花、五木ひろしさんなど、その日によって様々だ。自ら演歌やポップスを披露することもある。

「やっていくうちにだんだん楽しくなってきた。小学生も観に来てくれる」とうれしそうだ。せんちゃんが見いだした生きがいは、誰でも世界に向かって自分を表現できる時代を象徴する。

ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルは1960年代後半に「将来は誰もが15分間は有名になれる」と予言した。その言葉は半世紀余りの時を経て、現実のものになろうとしている



◎何か関係ある?

17 Live」は「将来は誰もが15分間は有名になれる」という「言葉」を「現実のもの」としてくれる素晴らしい仕組みだと吉野記者は信じているのだろう。しかし、どう考えたらそうなるのか理解できなかった。

動画配信サービスは以前からある。これによって「有名になれるチャンスが広がった」とは言えるだろう。では「投げ銭型ライブ配信」はどうか。「有名になれる」かどうかに関して、これまでと大きな差はなさそうだ。「ライブ配信」ができる仕組みは元からあった。そこに「投げ銭型」という機能を加えると「誰もが有名になれる」環境が一気に整うのか。

そもそも「誰もが15分間は有名になれる」時代は訪れそうもない。「有名」の定義次第ではあるが、仮に「100万人以上の人が顔と名前を覚えている」という条件を満たせば「有名」だとしよう。

ごく普通の人が「15分間」でいいから「有名」になりたいと願った場合、「17 Live」を使えばその望みは叶うだろうか。個人的な予想では、失敗率が99%を超えそうな気がする。


※今回取り上げた記事「Special Report 勃興する投げ銭型ライブ配信市場~トークや歌で視聴者魅了 芸能事務所を中抜きに
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00069/


※記事の評価はD(問題あり)。吉野次郎記者への評価はDで確定とする。吉野記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

GAFAが個人情報を独占? 日経ビジネス吉野次郎記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/gafa.html

2019年9月20日金曜日

ウーバーが負担する「社会保障税」とは? 日経 白石武志記者に問う

社会保障税」という馴染みのない言葉が19日の日本経済新聞夕刊1面に出ていた。これはどんな「」なのか。「『ウーバー運転手を従業員に』米で州法が成立 企業負担増す」という記事の全文を見た上で考えてみたい。
金華山(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係


【日経の記事】

米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は18日、ネットを通じて単発で仕事を請け負う「ギグワーカー」らを独立した請負労働者ではなく従業員として扱うよう企業に義務付ける州法案に署名したと発表した。2020年1月に施行される。ギグワーカーがサービスを支える米ライドシェア大手のウーバーテクノロジーズやリフトなどにとっては社会保障税などの負担増となる恐れがある。

署名したのは「AB5」と呼ぶ労働者保護のための州法案。業務中に雇用主体の指揮命令系統にない場合など一部の例外を除いて、企業にギグワーカーらを従業員として扱うよう義務付ける内容だ。労働者にとっては失業保険や最低賃金の保証など請負労働者の立場では得られなかった便益が受けられるようになる

ニューサム知事は署名文書のなかで「AB5は労働者と経済にとって画期的な法律だ」とコメントした。ただ、影響はライドシェアだけでなく、米国で急成長中の食料品宅配サービスなどにも広がる可能性がある。



◎「税」は見当たらないが…

社会保障税などの負担増となる恐れがある」とは書いてあるが「社会保障税」がどんな「」なのかの説明はない。「労働者にとっては失業保険や最低賃金の保証など請負労働者の立場では得られなかった便益が受けられるようになる」としても「ウーバーテクノロジーズやリフト」の税負担が増えそうな感じはない。

社会保障費用」などとなっていれば違和感はないが、筆者の白石武志記者は「社会保障税」と言い切っているので、記事に誤りがないのならば「」なのだろうが…。

ついでに言うと「『ウーバー運転手を従業員に』米で州法が成立」と見出しで断定しているが、本当にそうなるのか疑問が残った。「業務中に雇用主体の指揮命令系統にない場合など一部の例外を除いて」との記述があるからだ。

白石記者が何を言いたいのか明確ではないところもあるが、当該企業の指揮命令を受けずに業務をすれば「例外」になるのならば「ウーバー運転手」は「例外」になりそうではある。

気になったので他社の記事も調べてみた。ウォールストリートジャーナルの「米加州の新雇用法が成立、ギグワーカーも従業員に分類」という記事では「ウーバーは、新たな基準が導入されてもドライバーを従業員に分類する必要はないとの立場を堅持している」と書いている。やはり「例外」かどうか微妙なのだろう。であれば日経の白石記者もその辺りはしっかり説明すべきだ。

ちなみにウォールストリートジャーナルは「ドライバーやデリバリーを行うギグワーカー(インターネットで単発の仕事を請け負う労働者)は従業員として分類される可能性があり、そうなれば賃金や福利厚生で恩恵を受ける」とは書いているが、企業が負担する「社会保障税」には触れていない。


※今回取り上げた日経の記事「『ウーバー運転手を従業員に』米で州法が成立 企業負担増す


※記事の評価はD(問題あり)。白石武志記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dに引き下げる。白石記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

断定して大丈夫? 日経「ウーバー上場手続き 時価総額、米歴代2位」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/2.html

2019年9月19日木曜日

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」

19日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~韓国、儒教資本主義のワナ」という記事で筆者の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)は「(韓国では)『儒教資本主義』の限界が露呈している」と解説している。しかし、かなり強引な分析だ。当該部分を見ていこう。
瑞鳳殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

韓国で一体何が起きているのか。人々の行動の根底にある風土に着目すると、理解が一気に深まるだろう。「儒教資本主義」の限界が露呈している――と。

儒教は中国の孔子の教えを起源とする思想だ。14世紀ごろから朝鮮半島で独自の進化を遂げ、今も人々の生活に根強く残っている。

今こそ注目すべきなのは、儒教を普及させてきた特権階級「両班(ヤンバン)」の間で、「匠(たくみ)」が軽視されていた事実だ。農工業から料理まで、物作りは使用人の仕事で尊敬されなかった

そんな風土が部品産業、特に同産業を支える中小企業の弱さを招いた。1950年代の朝鮮戦争の荒廃から製造業を立て直す際、部品や素材は技術を持つ日本に頼った。その後も「産業の両班」である財閥は、製品の納入を渇望する下請けに低価格を求め、技術革新への資金的な余力を削った。

韓国は半導体や自動車などで輸出立国として成長したが、裏では技術面で頼りにする日本向けの貿易赤字が拡大していった。日本の輸出管理の厳格化は、韓国の「不都合な真実」を露呈させた。


◎なぜ「部品産業」だけ育たない?

農工業から料理まで、物作りは使用人の仕事で尊敬されなかった」のが「儒教」の教えによるものか怪しい気もするが、とりあえず受け入れてみる。

「だから製造業が育たなかった。有力企業はサービス業ばかり」となるならば分かる。しかし、なぜか「部品産業」に限って「弱さを招いた」という。「『匠』が軽視されていた」のならば「半導体や自動車などで輸出立国として成長」するのは難しいだろう。しかし「半導体や自動車」といった「物作り」では成功している。辻褄が合っていない。

さらに記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

曺法相の疑惑も、儒教全盛期の暗部と重なる。エリート官僚への登竜門となる試験「科挙」は事実上、両班しか受けられなかった。持てる者がもっと持ち、持たざる者は取り残された。

格差の構図は今も変わらない。金持ちが、有力塾のあるソウルの高級住宅地に住み、子弟が有名大に入り、財閥に就職していく。曺法相が人々の怒りを買ったのも、同氏が立場を悪用して娘を進学させた疑惑が浮上したからだ


◎さらに話が苦しいような…

曺法相の疑惑」と「儒教資本主義」の関連は薄そうだし、「『科挙』は事実上、両班しか受けられなかった」のが「儒教」の教えと関係あるのか不明だが、これも受け入れてみよう。ただ、今の「格差の構図」が「儒教全盛期の暗部と重なる」とは思えない。

有名大」や「財閥」が特権階級にしか門戸を開いていないのならば「儒教全盛期の暗部と重なる」だろう。しかし、厳しい試験を突破すれば誰でも「有名大」や「財閥」に入れるのではないか。となると「重なる」感じはしない。

立場を悪用して娘を進学させた疑惑」が「人々の怒りを買った」のであれば、韓国は「特権階級が優遇されることを当然視する社会」ではないはずだ。

韓国で一体何が起きているのか。人々の行動の根底にある風土に着目すると、理解が一気に深まるだろう。『儒教資本主義』の限界が露呈している――と

梶原氏はそう言い切っていたが「『儒教資本主義』の限界が露呈している」とは記事からは読み取れなかった。そもそも「儒教資本主義」なのかとの疑問が残った。

さらに言えば、「儒教を普及させてきた特権階級『両班(ヤンバン)』」の影響が根強く残っているのならば、「両班資本主義」の方がしっくり来る。「儒教資本主義」と呼ぶ場合、「儒教」の核となる教えに強い影響を受けた「資本主義」でないと苦しい。

割り当てられた紙面を埋めるために梶原氏が無理をして話を捻り出したのだとは思うが、やはり今回の記事も無理がある。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~韓国、儒教資本主義のワナ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49939670Y9A910C1TCT000/


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

2019年9月18日水曜日

GAFAに「巨額の設備投資」は不要?日経「Neo economy(2)」の誤解

予想通りに日本経済新聞の朝刊1面連載「Neo economy 姿なき富を探る」が苦しい。18日の「(2)IT企業の売上高、5社で7割稼ぐ~勝者総取りの力学」という記事の前半を見ていこう。
大川小学校跡地(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

自らの知識やアイデアを極め、ヒトのように動くロボットをつくりたい――。そんな夢を追う元東大助教の中西雄飛氏が当時の米グーグルの上級副社長、アンディ・ルービン氏から「20年かけてでも大きな夢を実現しよう」と誘われたのは2013年。仲間と立ち上げた二足歩行ロボットの開発ベンチャー「シャフト」を売却するきっかけだった。ところがルービン氏が退社すると、グーグルは短期の収益が期待できないとして18年にシャフトを解散。5年で見切りを付けた。

まだ形になっていない技術革新の芽を次々と買うグーグルなど「GAFA」。21世紀のデジタル企業は20世紀型のものづくり企業と異なり、巨額の設備投資や増産コストが不要な身軽な巨人だ。生み出す価値は検索サービスのように利用者が多いほど情報がたまり、精度や利便性が高まる特性がある。データなど無形資産を富の源泉とする経済ではシェアを押さえた勝者が果実を総取りする力学が働き、寡占が進む


◎「勝者総取り」なのに「寡占」?

GAFA」は「巨額の設備投資や増産コストが不要な身軽な巨人」らしい。この手の解説をたまに目にするが、基本的に間違っている。

グーグル親会社、アップル抜き手元資産世界一に」という8月1日付で日経電子版に載ったFTの記事では以下のように書いている。

アルファベットの手元資金は設備投資が急増する中でも積み上がっていった。18年の設備投資額は250億ドルと前年の約130億ドルからほぼ倍増した。その大部分は不動産向けで、グーグルがニューヨークなどでオフィスビルを買い増し、急成長するクラウドコンピューティング事業を支えるデータセンターを構築してきた

アルファベット」の「18年の設備投資額は250億ドル」だとすれば、円換算で2兆円を軽く超える。これを「巨額の設備投資」ではないと見なせるのか。

上記のくだりでは最初の事例が生きていないのも気になった。「グーグル」が「18年にシャフトを解散。5年で見切りを付けた」ことと「巨額の設備投資や増産コストが不要」「利用者が多いほど情報がたまり、精度や利便性が高まる」「シェアを押さえた勝者が果実を総取りする」といった話にあまり関連がない。

シャフト」の事例は丸ごと外しても何の問題もない。何か事例を入れるならば「巨額の設備投資や増産コストが不要」「勝者が果実を総取り」といった解説に説得力を持たせるものを選びたい。

付け加えると「データなど無形資産を富の源泉とする経済ではシェアを押さえた勝者が果実を総取りする力学が働き、寡占が進む」との説明は解せない。「勝者が果実を総取りする力学が働き、独占が進む」のならば分かる。しかし「寡占」止まりらしい。

例えば大手3社による「寡占」市場で「勝者」は「果実を総取り」できているだろうか。「果実を分け合っている」と思えるが…。

記事の結論にも注文を付けたい。

【日経の記事】

マイナス金利で取引される世界の債券は計17兆ドルと世界全体の2割程度に当たる。先進国では生産や投資が鈍り、景気の回復局面でも低金利・低インフレの「低温経済」が続く。富の源が有形から無形へと移り、経済の成長そのものが金利や価格という従来の物差しではとらえきれない軌道を描くようになってきた



◎1面連載の悪い癖が…

大したことが起きていないのに世界が大きく変わりつつあるかのように訴えるのが日経の1面連載の悪い癖だ。今回もそれが見える。

経済の成長そのものが金利や価格という従来の物差しではとらえきれない軌道を描くようになってきた」と聞くと大きな変化が起きているような感じはする。

しかし「金利や価格という従来の物差し」で分析できるはずだ。「先進国」では「景気の回復局面」でも回復力が強くないので「低金利・低インフレ」が続く--。そういう理解でいいのではないか。「従来の物差しではとらえきれない」ような動きが何かあるのか。

低金利・低インフレ」と「景気の回復局面」が両立するのはリーマン・ショック前の日本でも見られた。この時も「従来の物差し」が通用したはずだが…。



※今回取り上げた記事「Neo economy 姿なき富を探る(2)IT企業の売上高、5社で7割稼ぐ~勝者総取りの力学
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49721020S9A910C1SHA000/


※記事の評価はD(問題あり)

日経1面連載「Neo economy~姿なき富を探る」に感じるご都合主義

日本経済新聞の朝広重刊1面連載で目立つのが「世界一変系」だ。新しい技術などによって「革命」や「パラダイムシフト」が起きて世界が一変すると説くのがお決まりのパターン。しかし、現実の世界はそんなに度々一変してくれないので、苦しい内容になりやすい。
第十六利丸(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係です

17日から始まった「Neo economy~姿なき富を探る」も世界一変系の臭いがする。初回の見出しは「ヒトより知識 割食う賃金~企業価値の源、8割が無形」となっている。その大げさな書き出しから見ていこう。

【日経の記事】

知識やデータなど姿なき資産が富の源泉となり、経済はモノや距離、時間といった物理的な制約から解き放たれ始めた。どんな豊かさやリスクが広がるのか。

◎本当に「解き放たれ始めた」?

経済はモノや距離、時間といった物理的な制約から解き放たれ始めた」とすれば凄い話だ。それこそ「革命」と呼んでもいい。しかし記事に具体例は出てこない。とりあえず大きく出てみただけだろう。

物理的な制約から解き放たれ始めた」理由は「知識やデータなど姿なき資産が富の源泉」となるからだと読み取れる。しかし、どういう経路でそうなるのか謎だ。「データ」を駆使すれば燃料や食料といった「モノ」がなくても「経済」を回していけるようになり始めたということか。もちろん同意はできない。

あと、今回の記事で最も引っかかったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

「半導体事業を分離せよ」。米ヘッジファンドのサード・ポイントは6月、ソニーに提案した。ソニーの半導体事業は黒字だが、営業利益の7割はゲームや音楽の版権など無形資産が稼ぐ。モノを切り離し、無形資産に投資を集中した方が企業価値は上がる。市場に映るいまの経済の姿だ。



◎ご都合主義的解釈では?

半導体事業を分離せよ」という「提案」を「モノを切り離し、無形資産に投資を集中した方が企業価値は上がる」からだと筆者は解釈している。しかし、どうも怪しい。

ソニーに再び改革圧力 米ファンド、半導体分離要求」という6月14日付の日経の記事では以下のように説明している。

提案は半導体の分離・独立にとどまらない。ソニーはゲームや音楽などエンタメに注力すべきだとして、金融子会社で東証1部のソニーフィナンシャルホールディングス(ソニーFH)や医療情報サービスのエムスリーなどの株式の売却を求めている。音楽配信のスポティファイ・テクノロジー株も対象だ

モノを切り離し、無形資産に投資を集中した方が企業価値は上がる」のならば「半導体事業」だけでなくエレクトロニクス事業も売却した上で「金融子会社」や「医療情報サービスのエムスリー」の株は保有しておいた方が良さそうな気がする。しかし、6月の記事を信じれば、「提案」はそうなっていない。

ご都合主義が疑われる記述はもう1つある。

【日経の記事】

企業が生み出した付加価値のうち労働者に回す割合を示す労働分配率は米国で16年に57%と60年間で9ポイント低下した



◎直近10年間より「60年間」?

労働分配率は米国で16年に57%と60年間で9ポイント低下した」と言うが、記事に付けたグラフを見ると2005年で底を打ち2015年までにやや持ち直している。

今回の記事では「最近は無形資産への傾斜が賃金への配分を圧迫しているとの説が目立つ」とも書いている。ならば過去「60年間」の中でも「最近」の「労働分配率」低下が顕著になりそうだ。実際は逆に上向いている。

それだと記事の趣旨に合わないので「60年間」で見たのだろう。都合よくデータを見せている感は否めない。

今回の出来から判断すると2回目以降が不安だ。


※今回取り上げた記事「Neo economy~姿なき富を探る(1)ヒトより知識 割食う賃金~企業価値の源、8割が無形
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190917&ng=DGKKZO49720930S9A910C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年9月16日月曜日

「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う

日本経済新聞の西條都夫論説委員には特に訴えたいことがないのだろう。16日の「『3』の呪縛、『4』の福音~携帯通信、寡占破れるか」という記事を読んでそう感じた。今回のテーマは「携帯通信、寡占破れるか」だ。これに関する西條論説委員の結論を見ていこう。
瑞鳳殿境内(仙台市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

その中で注目されるのが「第4の携帯会社」に名乗りを上げた楽天だ。19年秋からと期待された商用サービスが先送りされ、出足でつまずいたが、インフラ敷設を伴う通信事業は5年、10年の長い目で見る必要がある。イー・アクセスなど以前の新規参入者に比べ、楽天は電子商取引などで堅固な事業基盤を持ちブランドも浸透している。

人材の流動性の高まりも新規参入者には追い風だ。今夏、渉外畑が長く霞が関や永田町で顔の売れていたNTTドコモ幹部が楽天に転職し、周囲を驚かせた。若手を含めドコモなどから楽天への移籍組は数十人に及ぶという。

「NTTグループにはスピード昇進する『最早組』という人たちがいて、そこから外れるとなかなか上に行けない。それに不満な人がノウハウを持って外部に流出し始めた」と総務省幹部はいう。

そして、カギを握るのは起業家精神だ。80年代に幕を開けた日本の通信自由化では旧国鉄や東京電力、トヨタ自動車や総合商社などのそうそうたる大資本が一斉に参入したが、再編の海に沈んだ。

現時点で大手3社に名を刻むのは、稲盛和夫氏のつくったDDI(第二電電、現KDDI)と孫正義氏のソフトバンクのみだ。本物の起業家だけしか生き残れない厳しい市場で、楽天の三木谷浩史会長は3社寡占の壁を破り「4の福音」を消費者に届けられるか。真価が問われる



◎成り行き注目型の結論では…

楽天の三木谷浩史会長は3社寡占の壁を破り『4の福音』を消費者に届けられるか。真価が問われる」と西條編集委員は記事を締めている。いわゆる「成り行き注目型」の結びだ。

論説委員がこれでは辛い。しかも行数は十分にある。なのに「3社寡占の壁を破り『4の福音』を消費者に届けられるか」に関して自らの見方を示さず「真価が問われる」で逃げている。

今回の件に関して言えば、楽天が本格的に事業を開始できるとの前提に立てば「3社寡占」から「4社寡占」に移行するのは自明だ。なので見出しの「寡占破れるか」に関しては「寡占が続く(寡占は破れない)」が答えだ。一方、「3社寡占の壁を破り『4の福音』を消費者に届けられるか」に関しては「届けられる」とみるべきだ。

自分なりの見方を示すのは難しくなさそうなのに、なぜ逃げる。何のために論説委員の肩書を付けてコラムを書いているのか。もう一度考えてほしい。

記事には他にも注文がある。長くなるので、冒頭部分にだけツッコミを入れておきたい。

【日経の記事】

日本人は3という数字を偏愛する。「石の上にも三年」といい、「三種の神器」という。御三家や三羽がらすといった3つでひとくくりにする表現も多い。そういえば昭和の大スター、長嶋茂雄さんの背番号も3だった。

ところが、世界には3という数字を、何か「よくないことの予兆」のように感じる人たちがいる。独占や寡占を嫌い、自由競争を信奉する競争政策当局の人たちだ。

3という数字で彼らが連想するのは、例えば米国のビッグスリーである。デトロイトに本拠を構える3社は巨大な米自動車市場に君臨し、長らく桁外れの利益を享受した。だが、ガソリン価格の高騰などの変化に対応できず、緩慢な衰退の末に3社のうち2社までが破綻を経験した。

ジャーナリストのデイビッド・ハルバースタム氏は「デトロイトは決して人の話に耳を貸そうとしない」と寡占ゆえの傲慢さを批判、それが退潮の根底にあると指摘した。


◎「競争政策当局の人」は「自由競争を信奉」?

まず「石の上にも三年」という諺が「日本人は3という数字を偏愛する」根拠になるのかとの疑問は湧いた。

それ以上に気になったのが「米国のビッグスリー」に関して「寡占ゆえの傲慢さ」を指摘していることだ。「日米自動車摩擦 1970年代から繰り返す歴史」という2018年9月27日付の日経の記事は以下のように説明している。

日米の自動車摩擦の歴史は1970年代の石油危機にさかのぼる。米国の消費者が燃費の良い小型車を求めるようになり、ホンダの小型車『シビック』などが人気を集めた。その結果、日本から米国への自動車輸出が急増した。日本車にシェアを奪われた米ゼネラル・モーターズ(GM)など米自動車大手『ビッグスリー』の業績が相次ぎ悪化し、リストラに追い込まれた

日本から米国への自動車輸出が急増」して「ビッグスリー」は「日本車にシェアを奪われ」いたという。「ビッグスリー」だけで「巨大な米自動車市場」を支配していたのならば「寡占ゆえの傲慢さ」もあっただろう。しかし多くの海外勢と「シェア」を争っていたのならば「寡占」という前提が成り立たなくなる。

その辺りの事情を西條論説委員は知らないのか。それとも「寡占」にしておかないと話を進める上で都合が悪いので、「ビッグスリー」による「寡占」市場で「緩慢な衰退」が起きたことにしたのか。いずれにしても書き手としての問題を感じる。


※今回取り上げた記事「『3』の呪縛、『4』の福音~携帯通信、寡占破れるか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190916&ng=DGKKZO49795340T10C19A9TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html

2019年9月15日日曜日

「タクシー券」の例えが上手くない日経ビジネス山川龍雄編集委員

記事の中で例えを使うのは問題ない。読者の理解を助けるのであれば遠慮なく入れるべきだ。ただ、ピッタリ当てはまるものを選ぶ必要はある。日経ビジネス9月16日号に山川龍雄編集委員が書いた「ニュースを突く~『ホワイト国』を会社のタクシー券に例えると」という記事は「例え」が上手くない。
金華山黄金山神社(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

『ホワイト国』を会社のタクシー券に例え」たくだりを見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

日本政府が韓国を輸出管理上の優遇対象国、いわゆるホワイト国から除外したことで韓国が態度を硬化させた。この問題を、会社内のいざこざに例えて考えてみたい。

ホワイト国から除外されて憤る韓国は、タクシー券の支給を止められて逆上する経営幹部に似ている──。

会社内のもめ事と同類に扱うのは不謹慎かもしれないが、こう考えると一番しっくりくる。ホワイト国とは、兵器に転用される可能性のあるような戦略物資を含め、輸出手続きを簡略化している相手国のことを指す。先方の管理を信頼しているのが前提だ。

ところが韓国には半導体材料を実需以上に発注するなど、管理体制に疑わしい点があった。しかも、日本側の申し入れにもかかわらず、3年間も協議に応じてこなかった。日本政府は先ごろ、ホワイト国という言い方をやめて、貿易相手国を管理体制に応じてA~Dの4グループに分け、韓国をBとした。

これを会社内のトラブルに例えると、次のようになるだろう。

ある幹部が必要に応じてタクシーに乗れるよう、タクシー券を支給されていた。ところが最近、使用回数が増え、仕事以外でも使っているのではないかと疑惑が生じた。そこで経理担当者が問い合わせてみたが、協議に応じない。

会社側は「タクシー券の支給を止める。タクシーに乗る際には、その都度、領収書をもらって精算してほしい」と通達した。すると、この幹部は、「会社は自分のことを信用していない。これでは仕事ができない」と逆上した。

こう置き換えると、日本側の主張に分があるのは、明白だろう。


◎相似形でないと…

例え」がしっくり来るのは、例える対象と「例え」が相似形になっている場合だ。首相とその他の大臣の関係を、プロ野球の監督とコーチの関係に「例え」たりすれば相似形と言える。しかし今回の記事ではそうなっていない。

会社内のもめ事と同類に扱うのは不謹慎」と思わない。「例え」が適切ならば、それでいい。ただ「ホワイト国から除外されて憤る韓国」を「タクシー券の支給を止められて逆上する経営幹部」に「例え」るのは無理がある。

この「例え」だと「日本」は「会社」だ。「経営幹部(社員だと仮定する)」とは労働契約を結んでおり、「会社」は「経営幹部」に対して業務命令権を持っている。

韓国」が日本の自治体の1つで、日本政府の監督下にあるのならば、今回の「例え」でいい。しかし「韓国」は独立国だ。「会社」で例えるならば、独立した関係にある2つの会社の取引条件などを使うしかない。

さらに細かく言うと「タクシーに乗る際には、その都度、領収書をもらって精算してほしい」という話にしたのも良しとしない。

山川編集委員は以下のように説明している。

【日経ビジネスの記事】

第四に、タクシーに乗ることを禁じているわけではない。

今回の措置は、あくまでも審査を厳格化するだけで、管理がしっかりしている韓国企業には、今後も輸出される。現に半導体関連3品目のうち、レジストやフッ化水素については、サムスン電子向けなどの輸出が許可された



◎例えも「事前許可」にした方が…

レジストやフッ化水素については、サムスン電子向けなどの輸出が許可された」と山川編集委員も書いているように、今回の「厳格化」とは個別契約ごとの事前許可を求めるものだ。

だとすれば「タクシー券」の話も「事前許可に基づいた1枚ずつの支給」にした方がいい。「タクシーに乗る際には、その都度、領収書をもらって精算」だと、タクシー使用に事前の許可は必要ないので、輸出の「厳格化」と整合しない。

ついでに記事の結論についても注文を付けたい。

【日経ビジネスの記事】

韓国が真っ先にすべきことは、日本に対する報復ではない。自らの足元を見直し、輸出管理を徹底することだ。タクシー券は無くても、必要に応じてタクシーには乗れる。まずは、そのことに本人が気づくべきである



◎「本人」は気付いているのでは?

タクシー券は無くても、必要に応じてタクシーには乗れる。まずは、そのことに本人が気づくべきである」と山川編集委員は記事を締めている。前提として「本人=韓国」は「必要に応じてタクシーには乗れる管理がしっかりしている韓国企業には、今後も輸出される)」ことに気付いていないはずだ。

しかし、ちょっと考えにくい。時事通信は8月30日付の記事で以下のように報じている。

韓国の産業通商資源省関係者は30日、日本政府が輸出管理を厳格化した韓国向け半導体材料3品目のうち、半導体製造に用いるフッ化水素の輸出を許可したと明らかにした。3品目中、輸出許可が確認されたのは半導体基板に塗るレジスト(感光材)に続き2例目

レジストやフッ化水素については、サムスン電子向けなどの輸出が許可された」ことを韓国政府は知らないと山川編集委員は信じているのだろうか。だとしたら、この件に関して記事を任せるのは避けた方がいい。


※今回取り上げた記事「ニュースを突く~『ホワイト国』を会社のタクシー券に例えると
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00108/00040/


※記事の評価はD(問題あり)。山川龍雄編集委員への評価もDを維持する。山川編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス「資産運用」は山川龍雄編集委員で大丈夫?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/04/blog-post_20.html

尖閣問題の解説も苦しい日経ビジネス山川龍雄編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_16.html

「早めに新興国押さえたFIFA」が苦しい日経ビジネス山川龍雄編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/fifa.html

2019年9月14日土曜日

利回り0.1%の変動で「乱高下」と日経 篠崎健太記者は言うが…

国債利回り」がどのくらい上下に動けば「乱高下」なのか明確な基準はない。ただ、記事で「乱高下」と打ち出すならば、ほとんどの読者が納得できる上下動は欲しい。13日の日本経済新聞夕刊総合面に載った「欧州国債利回り乱高下~緩和策受け 『ラガルド体制』見極め」という記事を読む限り「欧州国債利回り乱高下」はなかったと思える。
旧グラバー住宅(長崎市)※写真と本文は無関係

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

12日の欧州金融市場では欧州中央銀行(ECB)が金融緩和策を発表後、ユーロ圏の国債相場が乱高下した。「想定以上に積極的」との解釈から利回りは発表直後に急低下(債券価格は上昇)したが、追加緩和の余地が乏しいとの見方が徐々に増え、急速に切り返した。ドラギ総裁からトップを引き継ぐラガルド氏の出方を見極めたいとの空気が広がっている。

ドイツの10年物国債利回りは12日、前日比0.05%高いマイナス0.51%と、8月上旬以来の高さで終えた。ECBの政策発表直後にはマイナス0.64%まで下がったが、債券買いは続かず利回りは上昇に転じた。フランスの10年債利回りも一時マイナス0.37%まで下げてから切り返し、小幅に高いマイナス0.24%程度で終えた



◎動きが小さすぎるような…

ドイツの10年物国債利回り」は「前日」がマイナス0.56%。それが「ECBの政策発表直後にはマイナス0.64%まで下がった」。まず下に0.08%分動いている。結局「マイナス0.51%」に戻したので、今度は上に0.13%分。つまり上下に0.1%前後の幅で変動しただけだ。これは「乱高下」なのか。

フランスの10年債利回りも一時マイナス0.37%まで下げてから切り返し、小幅に高いマイナス0.24%程度で終えた」とも筆者の篠崎健太記者は書いている。これも0.1%レベルの変動に過ぎない。

「通常の値動きから見れば十分に『乱高下』だ」「変動率で見るとかなり大きくなる」といった弁明はできるかもしれない。しかし、一般的な感覚で言えば「乱高下」ではないだろう。


※今回取り上げた記事「欧州国債利回り乱高下~緩和策受け 『ラガルド体制』見極め
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190913&ng=DGKKZO49766880T10C19A9EAF000


※記事の評価はC(平均的)。篠崎健太記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。篠崎記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

肝心の情報がない日経 篠崎健太記者「仏メディア、3社関係改善を期待」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/3.html

必須情報が抜けた日経「独決済ワイヤーカードに空売り規制」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_20.html

2019年9月13日金曜日

ミスはあったが…東短リサーチ加藤出社長への揺らがぬ高評価

経済コラムの書き手として東短リサーチの加藤出社長を一流だと評価している。とは言え完璧ではない。週刊ダイヤモンド9月14日号では単純なミスがあった。それに関する問い合わせと回答を紹介したい。
長崎湾(長崎市)※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

東短リサーチ代表取締役社長 加藤出様  週刊ダイヤモンド編集部 担当者様

9月14日号の「金融市場 異論百出~『英王室御用達』企業も延命?超低金利への逆流でリスク蓄積」という記事についてお尋ねします。「2018年に世界で政策金利を引き下げた中央銀行はわずか3カ国しかなかった。ところが今年は、世界経済の失速懸念を背景に8月時点で30を超える中銀が利下げを実施している」と記した上で加藤様は以下のように説明しています。

しかも、多くの先進国でこの10年ほどインフレ率はさほど上昇してこなかったため、物価を押し上げようと低金利政策を継続していた中銀は、その低位置から利上げを始めることになった。欧州中央銀行(ECB)をはじめ、そうした流れに追随する動きは9月以降さらに増えそうである

文脈的には「その低位置から利上げを始める」ではなく「その低位置から利下げを始める」でないと成り立ちません。「ECB」は「9月以降」に利下げに踏み切るとの見方が一般的です。「ECB」が「そうした流れに追随する」のであれば「そうした流れ」は「利上げ」ではなく「利下げ」のはずです。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、細かい点をさらに2つ指摘させていただきます。

まず「2018年に世界で政策金利を引き下げた中央銀行はわずか3カ国しかなかった」とのくだりは「2018年に世界で政策金利を引き下げた中央銀行はわずか3行しかなかった」とした方が良いと思えます。「中央銀行」は「」ではないからです。「2018年に中央銀行が政策金利を引き下げた国は世界でわずか3つしかなかった」などとする手もあります。

次は「中銀が無理にインフレを押し上げようと超低金利政策を推し進めると、物価はあまり上がらないのに市中で信用が拡大する」という部分です。ここでは「インフレを押し上げ」という表現が気になりました。「インフレ率を押し上げ」の方が適切ではありませんか。

問い合わせは以上です。注文ばかり付けてきましたが、基本的には加藤様のコラムを高く評価しています。「本業をこなしながら、よくこれだけレベルの高い記事を毎週書けるものだな」と思わずにはいられません。末永く連載が続くことを切に願っています。


【ダイヤモンドからの回答】

鹿毛様

いつも週刊ダイヤモンドをご購読いただき、まことにありがとうございます。

お問い合わせの件ですが、著者に確認したところ「利上げ」ではなく「利下げ」ではないか、という鹿毛様のご指摘の通りということでした。

そのため、9/23週発売の週刊ダイヤモンド9/28号でその旨の訂正を掲載いたします。ご指摘いただき、ありがとうございました。

編集部の連載担当としても訂正を出すことがないよう今まで以上に注意してまいりますので、どうぞ今後も連載「金融市場異論百出」と週刊ダイヤモンドをご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

ダイヤモンド編集部

◇   ◇   ◇

※「金融市場 異論百出~『英王室御用達』企業も延命?超低金利への逆流でリスク蓄積
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/27504


※記事の評価はD(問題あり)。過去の記事も含め総合的に判断して、加藤出氏への評価はA(非常に優れている)を据え置く。

2019年9月12日木曜日

日経「横河電機、医薬・食品向け機器事業を黒字化」は要らないベタ記事

原則として新聞にベタ記事は必要ない。多くの場合、きちんと情報を伝えるには行数が足りないからだ。12日の日本経済新聞 朝刊投資情報面に載った「横河電機、医薬・食品向け機器事業を黒字化~来期計画」という記事のような中身ならば、紙面に載せる意味が感じられない。
グラバー園(長崎市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

横河電機は2021年3月期をめどに医薬品・食品メーカー向けの制御・計測機器など「ライフイノベーション事業」を黒字化する計画だ。これまでの製造ラインだけでなく研究開発用に販路を広げる。同社はプラント制御機器が収益の柱。医薬品の開発などに詳しい人材を採用して費用が先行しているが、景気に左右されにくい事業を伸ばし安定収益源に育てる。

同事業の売上高は2年後までに約300億円(前期比8割増)を目指す



◎具体的な数字は?

『ライフイノベーション事業』を黒字化する計画だ」というのが記事の柱だが、損益に関する具体的な数字は全く出てこない。今回の記事であれば、これまでどの程度の赤字だったのか、「2021年3月期」にどの程度の黒字を目指すのかは必須だ。

製造ラインだけでなく研究開発用に販路を広げる」という話に関しても、どの程度の拡大を見込むかは入れたい。さらに言えば「黒字化」後に「横河電機」の利益の中で「ライフイノベーション事業」の寄与度がどうなるかも知りたいところだ。

しかし記事から得られるのは漠然とした情報ばかり。「同事業の売上高は2年後までに約300億円(前期比8割増)を目指す」という唯一の具体的な金額もなぜか「売上高」だ。「黒字化」の話ならば、損益の数字を優先して入れてほしい。

同事業の売上高は2年後までに約300億円(前期比8割増)を目指す」という説明にも問題がある。まず「売上高」と書けば年間の「売上高」を指すとは限らない。「前期比8割増」という情報から年間の「売上高」だと推測はできるが、明示すべきだ。

2年後」という表現も誤解を招く。「今期」は「2020年3月期」だ。これを起点に「2年後」を決めると「2022年3月期」になる。しかし、記事の趣旨からすると「2年後」は「2021年3月期」を指す可能性が高い。例えば「来期に約300億円(前期比8割増)を目指す」とすれば問題は解決する。

いずれにしても、このベタ記事は投資情報としてほぼ役立たずだし、紙面に載せる最低限のレベルにも達していない。「限られた行数ではこれが限界」と言うならば、やはりベタ記事はなくていい。


※今回取り上げた記事「横河電機、医薬・食品向け機器事業を黒字化~来期計画
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190912&ng=DGKKZO49625930Q9A910C1DTA000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2019年9月11日水曜日

江戸時代は一度も「対外戦争」なし? 日経ビジネスの回答

日本は江戸時代の約270年間、一度も対外戦争をしていません」と言われて「そうだな」と思えるだろうか。大学受験で日本史を選択した人であれば「違う」と判断できそうなレベルの問題だ。しかし「昭和史研究の第一人者、保阪正康氏」は日経ビジネスの記事で「日本は江戸時代の約270年間、一度も対外戦争をしていません」と言い切っている。「昭和史」以外には詳しくないのだろうか。
感仙殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

この件に関する問い合わせと回答は以下の通り。

【日経BP社への問い合わせ】


日経ビジネス副編集長 森永輔様

9月9日号の「時事深層 目覚めるニッポン~昭和史研究の第一人者、保阪正康氏が提言『ナショナリズム』から逃げるな」という記事についてお尋ねします。記事の中で「日本は江戸時代の約270年間、一度も対外戦争をしていません。幕藩体制という統治体制が巧妙だったうえに、温厚な日本人、与えられた状況を幸せと考える日本人が作られました」と保坂氏は述べています。しかし「対外戦争」はあったと思えます。

まず薩英戦争です。これは「文久3年(1863)鹿児島で英国東洋艦隊と薩摩藩との間で行われた戦争」(デジタル大辞泉)で、明らかに「江戸時代」ですし「対外戦争」です。「薩摩藩」を日本から外して考えるのも難しいでしょう。下関戦争(馬関戦争)も「江戸時代」の「対外戦争」と言えます。長州藩がイギリス、フランス、オランダ、アメリカと戦い敗北を喫しました。

江戸時代」に国を挙げての「対外戦争」はなかったでしょうが、「日本は江戸時代の約270年間、一度も対外戦争をしていません」と言い切るのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると、本当に「幕藩体制という統治体制が巧妙」で「与えられた状況を幸せと考える日本人が作られ」たのならば、薩英戦争も下関戦争も明治維新も起きなかったのではないかとの疑問は残りました。


【日経BP社の回答】

お問い合わせをありがとうございます。

ご指摘の通り、「国を挙げての『対外戦争』はなかった」という趣旨でしたが、表現に不足がありました。

以下のように訂正いたします。

日本は江戸時代の約270年間、国を主体とする対外戦争をしていません。

ご指摘をありがとうございました。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「時事深層 目覚めるニッポン~昭和史研究の第一人者、保阪正康氏が提言『ナショナリズム』から逃げるな

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00320/


※記事の評価はD(問題あり)。ただ「対外戦争」に関する記述以外に問題は感じなかった。回答内容も考慮して森永輔副編集長への評価は暫定でC(平均的)とする。

2019年9月10日火曜日

「when抜き」は確信犯? 日経「トパーズ、ハイブリッド融資に参入」

日本経済新聞の企業ニュースで「when」が抜けるのは悪しき伝統だと指摘してきた。10日の朝刊金融経済面に載った「トパーズ、ハイブリッド融資に参入 AI分析+人による判断」という記事もその1つだ。
金華山黄金山神社(宮城県石巻市)
       ※写真と本文は無関係です

日経の「when」抜きは大きく「うっかり型」と「確信犯型」に分けられる。今回は後者の可能性が高い。

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

独立系ファンドのトパーズ・キャピタル(東京・港)は人工知能(AI)と人の判断を組み合わせた「ハイブリッド融資」に参入する。借り入れを望む企業の財務諸表やデータをAIが分析し、人間が定性的な評価を加えて最終判断する。最大2億円の融資の可否を約2週間で決める。迅速な判断と貸し倒れ抑制の両立をめざす。

オンライン融資の仕組みを開発するクレジットエンジン(同)と共同出資でブルー・トパーズ(同)を新設した。米アマゾン・ドット・コムや楽天などが自社サイトに出店する業者などを対象にオンライン(非対面)融資を手がけているが、新会社は対面審査を加えているのが最大の特徴だ。

財務諸表などをオンラインで受け付け、クレジット社のAIでデータを分析。その上で担当者が実際に企業を訪ねて経営者と面談し、ビジネスを理解した上で融資の可否を判断する。

データ分析はAI、数字に表れない定性的な情報の判断は人と切り分けることで、貸し倒れをおさえつつ、効率的な融資につなげる。



◎「参入した」では?

『ハイブリッド融資』に参入する」と書いているが「参入」時期には触れていない。事業展開のための会社は既に「新設した」らしい。となると、実態は「参入した」なのに、ニュース価値を高めるために「参入する」と表現したのかもしれない。これならば「When」を抜いた理由も説明できる。もちろん「うっかり型」の可能性も残る。

この記事は他にも抜けている部分がある。まず意義付けだ。「ハイブリッド融資」を手掛けるのは「トパーズ・キャピタル」が世界初なのか。それとも日本初なのか。あるいはファンドでは初なのか。初ではないが極めて先進的な取り組みなのか。その辺りが分からないとニュース価値を判断できない。

トパーズ・キャピタル」が従来はどうやって融資を決めていたのかも欲しい。従来は「オンライン(非対面)融資」で、それに新たに「人の判断」を加えたのか。それとも「人の判断」だけで決めていたのを「AI」も組み合わせることにしたのか。

さらに言えば「ハイブリッド融資」のための資金はどの程度あるのか。それをどう拡大していくのかも欲しい。行数の制限はあるだろうが、最後の「データ分析はAI、数字に表れない定性的な情報の判断は人と切り分けることで、貸し倒れをおさえつつ、効率的な融資につなげる」という部分は同じ話を繰り返している感じがあるので、ここを削る手はある。

最後に「ハイブリッド融資」という用語の問題にも触れたい。「ハイブリッドローン」という言葉がある。普通に考えれば「ハイブリッド融資」と同義だ。日経は過去の記事で「ハイブリッドローン(劣後特約付きローン)」と説明している。しかし、今回の記事では「劣後特約付きローン」という意味で「ハイブリッド融資」と書いている訳ではない。

造語のつもりで「ハイブリッド融資」と表現したのだろうか。あるいは「トパーズ・キャピタル」が「ハイブリッド融資」として打ち出しているのか。いずれにしても誤解を招きやすい表現ではある。


※今回取り上げた記事「トパーズ、ハイブリッド融資に参入 AI分析+人による判断
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190910&ng=DGKKZO49575220Z00C19A9EE9000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年9月9日月曜日

OTC薬で製薬会社も大儲け? 週刊ダイヤモンド「薬局戦争」

週刊ダイヤモンド9月14日号の特集「薬局戦争」は全体としては評価できる。ただ「薬九層倍どころではない、もうかる商材~ドラッグストアが6割を取るOTC1兆円市場の利益構造」という記事は説得力に欠ける。記事で言うほど「もうかる商材」には見えない。
グラバー園の旧自由亭(長崎市)※写真と本文は無関係

まずメーカーについて見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

1兆円を超すOTC市場。その利益は、ドラッグストアとメーカーでどう配分されるのだろうか。

例えば、第一三共の解熱鎮痛剤「ロキソニンS」のメーカー希望販売価格は12錠で648円(税抜き)だ。ところが、病院で処方された場合のロキソニンの公定薬価は1錠14.5円。12錠に換算しても174円にすぎない。

おまけにロキソニンのジェネリック医薬品の公定薬価は1錠5.6~9.6円で、成分はほとんど変わらない。そしてジェネリックのメーカーはこれでも利益が出る。「製造コストも先発薬と大して変わらない。大半のOTCの原価は数パーセント程度だ」と、製薬会社の関係者は打ち明ける。

加えて、新薬の場合は原価に研究開発費を乗せることもあるが、OTCは医療用医薬品での実績のあるものがほとんど。研究開発費の償却が済んでおり、原価コストはさらに安くなる。OTCは薬九層倍どころではないほど、もうかる商材なのだ


◎利益率25%ならば…

記事に付けた「OTC医薬品の利益構造のイメージ」を見ると小売り段階の「売価800円」のうち「480円」はドラッグストアが取るので、メーカーの販売価格は320円になるのだろう。

製造原価」は「40円」で確かに低い。だが、320円をメーカーの売値とすると「薬九層倍」には届かない。さらに「リベート・販促費」「広告宣伝費」「物流費など」を差し引くと「メーカーの利益」は「80円」しか残らない。

利益率25%はもちろん悪くない水準だ。しかし「薬九層倍どころではないほど、もうかる商材なのだ」と言うほどでもない。

ドラッグストアが6割を取るOTC1兆円市場」という見出しも付いているし、「ドラッグストア」にとっての「もうかる商材」と訴えるのが記事の柱かもしれない。なので記事の続きを見ていこう。


【ダイヤモンドの記事】

この利益の塊であるOTCを、ドラッグストアは格安で仕入れているのである

あるOTCメーカーの関係者によれば、「大手チェーンでは、販売価格に占めるドラッグストアの取り分は6割がスタートライン」。ここから交渉が始まり、さらにメーカー側は値下げを要求される。

ドラッグストアの取り分が7割を超えるケースも珍しくなく、値下げの代わりに、商品の売れた個数に応じて“販売奨励金”をメーカーが支払うケースもあるという。

一方、メーカーが力を入れるのは広告宣伝費で、メーカーの売り上げの10~15%を投入することはごく一般的な水準だ。

ドラッグストアの棚でよく見掛ける、芸能人を前面に押し出した販促用のPOP広告はメーカー側が用意したもの。メーカーの担当者が店舗を訪れ、棚作りを手掛けることもあるという。

このため店舗ではメーカーのブランド名ではなく、「(芸能人の)○○さんの薬を下さい」と指名されることも珍しくない。

こうした広告や販促への貢献をメーカーはドラッグストアに必死にアピールし、仕入れ値のダウンを何とか回避しようとする。

特売が大好きなドラッグストアでも、OTCを値下げする例は「10年以上前にはあったが、今は少ない。利益が減って経営も苦しくなるし、薬の安売りは消費者のイメージを下げる」(前出のOTCメーカー関係者)。


インバウンド激戦区である大阪・心斎橋など一部の地域を除き、OTCに関してはドラッグストア間での安売り競争はせず、“共存共栄”のスタンスを貫く。こうして出た利益が、コンビニやスーパーに対抗するために、食品を安く売る源泉となる


◎粗利益も営業利益も「利益」だが…

OTC医薬品」で得た利益が「食品を安く売る源泉」になっている面はあるだろう。しかし「売価800円」のうち「480円」を取るからと言って「もうかる商材」とは限らない。

イメージ図では「480円」を「ドラッグストアの利益」としている。これは一般的には「粗利益」だ。一方、「メーカーの利益」の「80円」は「広告宣伝費」などを差し引いた「営業利益」に近い。同列に比べられないものを同じように「利益」としているのが引っかかる。これだと「ドラッグストアの利益」が非常に大きく見えてしまう。

メーカーの利益」の「80円」と比べるのならば「480円」から人件費などを引く必要がある(メーカーの「リベート・販促費」はドラッグストアの利益になる面もあるとは思うが、ここでは考慮しない)。そこでも大きな利益が残ると示せれば、「ドラッグストアの利益」の利益が大きいという話に説得力が出てくるのだが…


※今回取り上げた記事「薬九層倍どころではない、もうかる商材~ドラッグストアが6割を取るOTC1兆円市場の利益構造
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/27497


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年9月8日日曜日

「20年にわたり」日本はゼロ金利政策? 東洋経済に問う

日本では「20年にわたってゼロ金利政策がとられて」いるだろうか。導入から「20年」ではあるが、その間に2度の解除がある。しかし週刊東洋経済の記事には「わが国では20年にわたってゼロ金利政策がとられており、解消される見通しもない」と書いてある。そこで以下の内容で問い合わせをしてみた。
龍門の滝(大分県九重町)※写真と本文は無関係です

【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済編集長 山田俊浩様

9月14日号の「少数異見~改めて議論すべき、日本の金融における課題」という記事(筆者はウーミン氏)についてお尋ねします。質問は2つです。

(1)ゼロ金利政策は「20年にわたって」いますか?

記事には「銀行業とは利ザヤで儲ける商売だと学校で習ったが、わが国では20年にわたってゼロ金利政策がとられており、解消される見通しもない」との記述があります。これを信じれば「ゼロ金利政策」は「20年にわたって」続いているはずです。

しかし「ゼロ金利政策」は2000年と2006年に解除となっています。解除後に「ゼロ金利政策」へ戻っているものの、1999年の導入以来「20年にわたってゼロ金利政策がとられて」いる訳ではありません。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると、「ゼロ金利政策」の下では「銀行業」が「利ザヤで儲ける商売」にならないとの印象を受ける書き方も引っかかりました。当然ですが、「ゼロ金利政策」だからと言って銀行の貸出金利がゼロになる訳ではありません。「銀行業」は「ゼロ金利政策」の下でも「利ザヤで儲ける商売」だと言えます。


(2)国債は「寡占状態」ですか?

次に「わが国の国債市場では、日本銀行が過半に近い国債を保有している。このような寡占状態で価格メカニズムは本当に働くだろうか」という記述を取り上げます。「寡占」とは「少数の供給者が市場を支配している状態」(デジタル大辞泉)です。買い手について用いるのが適切なのかという問題を置いておくとしても「少数」は外せません。

国債は「日本銀行」以外にも多数の保有者がいます。「少数」の市場参加者で全ての国債を保有している訳ではありません。国債に関して「寡占状態」と見るのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「過半に近い」という表現には違和感があります。実態が「半分弱」ならば「半数に近い」「半分に近い」とする方が自然でしょう。

問い合わせは以上です。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「少数異見~改めて議論すべき、日本の金融における課題
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/21442


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年9月7日土曜日

「修会長」には「資本提携がゴール」と日経ビジネス奥貴史記者は言うが…

日経ビジネス9月9日号に載った「時事深層 INSIDE STORY~スズキ・トヨタ、難産の末の資本提携 修会長がたどり着いた安寧の地」という記事は説得力に欠ける内容だった。
金華山黄金山神社(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

トヨタ自動車とスズキが8月28日、資本提携で合意した」ことを受けて奥貴史記者は「資本提携がゴールとの鈴木修会長の思いは揺るがなかった。大手の庇護(ひご)を求めた38年間の紆余曲折の末、修会長は90歳を目前にやっと安寧の地にたどり着いた」と解説している。しかし「ゴール」とも「安寧の地」とも言い切れない気がする。

記事によると「『中小企業のおやじ』を自任する修会長は、生き残りには大手の傘下に入ることが必要というのが持論」らしい。ならば「資本提携がゴール」とは考えにくい。今回の「資本提携」でトヨタはスズキ株の「4.9%」を握るに過ぎない。何を以って「傘下」とするか明確な基準はないとしても「4.9%」の出資を受け入れただけで「傘下に入る」と考える人は稀だろう。鈴木の経営が傾いた時にトヨタからの「庇護」を受けられる保証もないはずだ。

なぜ「安寧の地」と言えるのかも奥記者は教えてくれない。記事でも触れているように、スズキはゼネラル・モーターズ(GM)やフォルクスワーゲン(VW)と資本提携をしながら、それらを解消している。

「GMやVWとは違い、トヨタとの提携関係は安定する。スズキが経営危機に陥ったらトヨタは必ず助ける」と奥記者は確信しているのだろう。でなければ「やっと安寧の地にたどり着いた」「長い長いドラマの最終章をようやく迎えた」とは書かないはずだ。

しかし、両社の関係に詳しくない者から見れば「二度あることは三度あるのでは?」と思てしまう。GMやVWからの出資は20%程度に達したようだが、今回は「傘下」と呼ぶのが苦しい「4.9%」。スズキの独立性は十分に保たれているのではないか。裏返せば、ケンカ別れの可能性も十分にある。「安寧の地」かどうかを見極めるには、もう少し時間が必要だろう。

付け加えると「(スズキはかつて)GMの追加出資を受け入れ完全にGM傘下に入った」と書いているのも引っかかった。記事に付けた表を見ると、2000年に「GMが出資比率を20%に引き上げ、事実上、スズキはGM傘下に」となっている。

明確な基準がないのは前に述べた通りだが、個人的には「出資比率を20%に引き上げ」ただけならば「GM傘下」とは感じない。「完全にGM傘下に入った」とまで言うならば、子会社化は要ると思える。


※今回取り上げた記事「時事深層 INSIDE STORY~スズキ・トヨタ、難産の末の資本提携 修会長がたどり着いた安寧の地
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00315/


※記事の評価はC(平均的)。奥貴史記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cへ引き上げる。

2019年9月6日金曜日

まとめ物に偽装? 日経「熱波の欧州で空調拡大」の不可解

6日の日本経済新聞朝刊企業2面に川井洋平記者が書いた「熱波の欧州で空調拡大~ダイキン、増産や研究拠点」という記事は、今までに見たことがない不可解な作りだった。「記録的な熱波によるエアコン需要拡大を受け、日本の空調大手が欧州事業を拡大する」という書き出しからは「まとめ物」だと判断できるが、実際は「ダイキン工業」の1社物だ。
御番所公園展望台(宮城県石巻市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

記録的な熱波によるエアコン需要拡大を受け、日本の空調大手が欧州事業を拡大する。ダイキン工業は家庭用エアコンの販売店を増やすほか現地での増産を検討。研究開発拠点を新設してネットを通じた故障予知サービスの開発に乗り出すなど、中期の競争力強化も進める。

欧州でエアコンを使うのは南欧が中心で、ドイツやフランスの家庭への普及率は1割未満にとどまるという。ただ、今年は6月にフランスで観測史上最高のセ氏46度を記録するなど熱波が到来。家庭用エアコンで欧州首位のダイキンでは普及価格帯商品の受注が前年の2倍以上に増え、ドイツやフランスでは設置工事が1~2カ月待ちとなった。

ダイキンは欧州全体で1万1千の販売店を持つが、今後500~1千店上積みする。ベルギーやチェコの工場で増産も検討する。ノルウェーやスウェーデンでは販売子会社や事業所を設立し、工場向けなど業務用の需要も取り込む。

2021年には数十億円を投じてベルギーに研究開発拠点を新設する。欧州各地の工場に分散している技術者300人程度を集約し、現地の大学と提携。欧州各地の気候にあった商品や、エアコンをネットにつなげて故障を予知するサービスを開発したい考えだ。

ユーロモニターの推計では、欧州の家庭用エアコン市場は23年に約900万台と18年比22%増える。同期間に日本は7%増にとどまり、米国は11%減るのに比べて好調が際立つ。特に「フランスやドイツは伸びしろが大きい」とダイキンの三中政次副社長は分析する。


◎内容の薄さをごまかす工夫?

1社物ならば、最初から「記録的な熱波によるエアコン需要拡大を受け、ダイキン工業が欧州事業を拡大する」と書けば済む。なぜそうしなかったのか。断定はできないが「内容が薄すぎるので、まとめ物的に書いてごまかした」と考えると、うまく説明できる。

ニュースの柱は「家庭用エアコンの販売店を増やす」ことだ。「欧州全体で1万1千の販売店を持つが、今後500~1千店上積みする」と言うものの、時期は不明。どれほどの販売増を見込むかも触れていない。

ベルギーやチェコの工場で増産も検討する」という材料もあるが、「検討する」と書くだけで終わっている。「2021年には数十億円を投じてベルギーに研究開発拠点を新設する」話に至っては「欧州事業を拡大する」こととの関係がかなり乏しい。

2段落目の「欧州でエアコンを使うのは南欧が中心で~」といった背景説明は、本来ならば記事の後半に持ってくるべきだ。それをあえて2段落目に持ってきたのも、材料の弱さを川井記者が認識しているからではないか。

まともな書き手を目指すならば、この手のごまかしからは距離を置くべきだ。「そういう意図は全くなかった。素直に書いたらこうなった」という場合は、記事を書く上での基礎的な技術が身に付いていないと言える。



※今回取り上げた記事「熱波の欧州で空調拡大~ダイキン、増産や研究拠点
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190906&ng=DGKKZO49463540V00C19A9TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。川井洋平記者への評価は暫定でDとする。

2019年9月5日木曜日

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?

5日の日本経済新聞朝刊オピニオン2面に載った「Deep Insight~業界なんていらない」という記事で「団体を含めて業界の出る幕はいずれ消える」と中村直文編集委員が訴えている。基本的には賛成だ。となると「だったら新聞業界はどうなの?」との疑問は浮かぶ。書きづらいとは思うが、ここに触れていないのは辛い。

女川駅(宮城県女川町)※写真と本文は無関係です
たまたま4日は日本新聞協会が新聞協会賞を発表している。業界の仲間内で互いを褒め合うような賞だ。そして5日の朝刊では「本紙に新聞協会賞」と1面で大きく報じ、さらに1ページを新聞協会賞関連の特集に費やしている。「もはや業界団体に守ってもらう意味は薄く、多くはサロンのよう」と見る中村編集委員にしてみれば「仲間内の賞なんてどうでもいい。賞を取ったからって1面に持ってくるなんて恥だ。だから日経はダメなんだ」と思えるはずだ。

団体を含めて業界の出る幕はいずれ消える」と訴えるならば、自分たちのダメさには触れてほしかった。「やろうとしたけど社内の圧力があり難しかった」と言うならば、これから社内で積極的に訴えてほしい。「新聞協会を脱退すべきだ。協会賞にも意味はない。もっと読者からの声に耳を傾けるべきだ」と。

今年6月まで新聞協会の副会長を務めていた岡田直敏社長にも進言すべきだ。「岡田さん、新聞協会に留まる必要はありません。『今や成長企業ほど財界活動や業界活動に関心を持たない』と記事でも訴えました。新聞に消費税の軽減税率適用を求める新聞協会なんて、抜けた方が読者の支持も得られます」と中村編集委員が説得すれば、岡田社長も同意してくれるかもしれない。

そうした行動を取らずに、他の業界のことをあれこれ論じているのならば、中村編集委員の主張に耳を傾ける気にはなれない。「先ず隗より始めよ」だ。

記事内容にも少し注文を付けておきたい。記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

東日本の消費者にはなじみがないコスモス薬品。宮崎県延岡市の薬局だった同社がドラッグストアとして参入してきたのは1993年と遅い。宇野会長は薬剤師だが、ドラッグストアを目指さなかった。集客力に難があり、持続的な成長に不安を感じたからだ。そこでクスリも扱う「コンビニエンスストア×スーパー」の融合チェーンを独自で開発。売り場面積1000~2000平方メートルの小商圏型メガドラッグストアと称する。

売り上げに占める食品比率は60%近くで、1店舗当たりの平均集客数は1000人超。同業の倍以上だ。コスモス薬品の勢力は東海、北陸にまで及び、ドラッグストアどころか進出先のスーパーも脅かす。まさに再編の発火点だ。


◎「ドラッグストアを目指さなかった」?

ドラッグストアを目指さなかった」のに「ドラッグストアとして参入してきた」という説明には矛盾を感じる。「ドラッグストア」ではなく「小商圏型メガドラッグストア」だと言いたいのかもしれないが、結局は「ドラッグストア」ではないか。実際の店舗を見ても明らかに「ドラッグストア」だ。

コスモス薬品」の独自性を強調したかったのだろうが、うまく説明できていいない。

また、「東日本の消費者にはなじみがない」「勢力は東海、北陸にまで及び」と書くと関東などに店がないような印象を受ける。しかし、東京にも店を出し始めており、既に3店舗あるようだ。記事の説明では誤解を招きかねない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~業界なんていらない
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190905&ng=DGKKZO49408470U9A900C1TCT000


※記事の評価はC(平均的)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村直文編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
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早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
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2019年9月4日水曜日

「余命がわかる」には程遠い日経「Disruption断絶の先に」

ディスラプション(創造的破壊)」をテーマにした連載はやめた方がいいと日本経済新聞に訴えてきたが、聞き入れてもらえず「第6部」が始まってしまった。やはり「ディスラプション(創造的破壊)」と呼べるほどの話は出てこない。4日朝刊ディスラプション面に載った「Disruption断絶の先に~第6部 未来の読み方(1) 自分の余命 知りたいですか?」という記事の最初の方を見てみよう。
宮城県慶長使節船ミュージアム
(サン・ファン館)※写真と本文は無関係です

今回の記事では「余命がわかる時代が近づく」と訴え「すでに技術はある」と言い切っている。本当にそうか考えてみたい。

【日経の記事】

「次の人生を歩みましょうか」。医師は重い病を抱えた患者の枕元で、穏やかな口調で語った。手元のタブレット型端末で呼び出した電子カルテ。「1カ月後の生存確率は33%」。コンピューターがはじいた余命が記されていた。「次の人生は、もう治療はいらない」。患者は仕事を部下へ引き継ぎ、娘は病棟でささやかな結婚式を挙げた……。

遠い未来の話ではない。緩和ケアの専門家である筑波大学の浜野淳講師は「自らの最期を知り、残り少ない人生を充実させたいと思う患者の望みにこたえたい」と話す。すでに技術はある。進行がんの患者約1000人のデータを調べ、血液成分や心拍数など検査値のパターンが1週間~3カ月先の生存確率を暗示していることに気づいた。研究を積み重ね、人生の締めくくりを迎える時期を予測する方程式を導いた。日々の検査結果をコンピューターに入力するだけで、健在である確率を1週間先ならば約8割の精度で判定する


◎「約8割の精度」とは?

まず言葉の使い方に問題がある。

健在である確率を1週間先ならば約8割の精度で判定する」と書いているが、「生存確率は33%」などと予測するのならば、あくまで「生存確率」だ。「健在」とは「元気で無事に暮らしていること」(デジタル大辞泉)を言う。「重い病を抱えた患者」が「1週間先」に「健在である確率」はほぼゼロだ。そんな予測ならば誰でもできる。

本題の「約8割の精度」についてはどうか。例えば「1週間先の生存確率は33%」と「判定」された人が2日後に死亡したら「約8割」に入るのか。10日後に死亡したら外れなのか。その基準は「1週間先の生存確率は49%」としても同じなのか。何を以って当たり外れを決めているのかが、よく分からない。

そもそも「1週間先の生存確率は33%」という情報が正しいとしても、これでは「余命」は分からない。この情報は「明日死ぬ可能性」も「3年後に生きている可能性」も否定していない。参考にはなっても「余命がわかる」には程遠い。

余命がわかる」と言う場合、「余命3カ月」などと断言してほしい。それも、あまり幅が広すぎれば意味がない。例えば、90歳の人に関して「余命0~20年」と「判定」できて、99%の確率で当たるとしても「余命がわかる時代」になったとは思えない。

自分の余命 知りたいですか?」と打ち出したのに、結局大した話は出てこない。なのに記事では強引に「ディスラプション(創造的破壊)」とつなげてしまう。そこも見ておこう。

【日経の記事】

将来について知りたいとの願いは、古今東西に共通する。古代ギリシャでは、疫病の流行や戦況を占ってもらおうと多くの人が神殿を訪れ、巫女(みこ)が伝える神のお告げに耳を傾けた。こうした予言の多くは「運命」や「宿命」と受け止められた。その時をどう迎えるかが大切で、あらがうものではなかった。

ところが技術革新がディスラプション(創造的破壊)を引き起こす。未来がわかりさえすれば、運命は変えられる



◎「未来がわかりさえすれば、運命は変えられる」?

重い病気を患った時に「1カ月後の生存確率は33%」と「判定」できるようになると「ディスラプション(創造的破壊)」が起きるだろうか。個人的には、そのレベルの情報ならばほとんど役に立たないと感じる。

さらに言えば「未来がわかりさえすれば、運命は変えられる」という説明には矛盾がある。「運命は変えられる」のならば「未来」は分かっていないはずだ。

「1週間後に死亡する」という「未来」が分かっている時に、その「運命」はどうやって変えればいいのだろうか。

最後に記事の終盤を見ていく。「最初の話は何だったの?」と言いたくなるような展開が待っている。

【日経の記事】

「あとどれくらい生きられるのか」。筑波大の浜野講師は生存確率の数字をはじいた後、頭を抱えてしまった。「患者や家族に正直に知らせるべきか。伝えられて幸せになれるのか」。研究成果は出たが、新たな苦しみが始まった。悩んだ末に至った結論は「生存確率そのものは患者や家族に告げるべきではない。最期まで充実した時を過ごしてもらうために自分たちはやれることをやる」。先を見通せる時代だからこそ、私たちは決して生き急がず、いまをいかに大切に生きていけるかが問われている



◎「患者の望みにこたえたい」はどこへ?

筑波大の浜野講師」は記事の最初の方で「自らの最期を知り、残り少ない人生を充実させたいと思う患者の望みにこたえたい」と話している。なのに最終的には「生存確率そのものは患者や家族に告げるべきではない」となってしまう。記者が取材している途中で別人になってしまったかのようだ。

最期まで充実した時を過ごしてもらうために自分たちはやれることをやる」という発言も謎だ。「やれること」が「生存確率」の算出ではなかったのか。

そして記事の結論は「先を見通せる時代だからこそ、私たちは決して生き急がず、いまをいかに大切に生きていけるかが問われている」という漠然としたものになってしまう。

いまをいかに大切に生きていけるかが問われている」のは古今東西変わらないと思える。さらに言えば、「生き急」ぐのがなぜダメかも理解に苦しむ。生き急いだからと言って「いま」を「大切に」していない訳ではない。

例えば「20代のうちに100カ国を旅する」という目標を立てて世界を飛び回っている人は「生き急いでいる」かもしれないが、「いま」を「大切に」しているとの見方もできる。

結局、記事の筋立てに無理があるので、結論も強引にならざるを得ないのだろう。


※今回取り上げた記事「Disruption断絶の先に~第6部 未来の読み方(1) 自分の余命 知りたいですか?
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190904&ng=DGKKZO49151270Z20C19A8TL1000


※記事の評価はD(問題あり)。猪俣里美記者と加藤宏志記者への評価も暫定でDとする。

2019年9月3日火曜日

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」

日本経済新聞の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)を「訴えたいことが枯渇した書き手」と評してきた。最近は頑張って「訴えたいこと」を捻り出しているとは思う。だが、無理がたたっているのか内容はやはり苦しい。3日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『東京銘柄』埋没は訴える」という記事に関して、いくつかツッコミを入れてみたい。
石巻商工信用組合 本店営業部(宮城県石巻市)
           ※写真と本文は無関係です

まず「東京の大企業」は「官僚的」という分析について考える。

【日経の記事】

株価低迷の理由は、東京の大企業の稼ぐ力が弱いからではないか。こう仮説を立てると、様々な傍証が浮かぶ。そもそも東京は、家賃も人件費も高い。加えてちらつくのが大企業病だ。企業の現場を知る2人の証言がある。

まずは経営コンサルタントである経営共創基盤の代表取締役、村岡隆史氏。東京の大手企業にM&A(合併・買収)を提案した際、法務、財務、グループ会社の管理を担当する部署などから2人ずつも集まって話を聞いてくれた。だが、議論は前に進まない。

決定権を持つのはそれらの部署を統括する別の部署であり、その上にいる重役だからだ。「東京の企業はバブル期に間接部門が肥大化したままだ」という。

次に、昨年まで国際協力銀行の総裁だった近藤章氏。国際競争入札の内幕に接し、下馬評に反して入札で敗れる「経団連銘柄」を見てきた。「IT(情報技術)化ひとつ取っても遅れ、膨大な量の紙を社内で使っている。安い価格で入札できるはずがない」という。

2人が共に指摘するのが「東京の大企業には霞が関とのしがらみがある」という点だ。大きな決定の前に官僚に根回しをする担当者も置く必要があるし、政府への報告は今も紙が主流だ。役所と深く交流する分、官僚的な文化が伝染した面もある。


◎東京以外の企業は「しがらみ」がない?

経営共創基盤の代表取締役、村岡隆史氏」と「昨年まで国際協力銀行の総裁だった近藤章氏」が「東京の大企業には霞が関とのしがらみがある」と「指摘」したらしい。それを梶原氏は素直に受け入れている。東京以外の「大企業には霞が関とのしがらみが」ないのか。あっても薄いのか。

例えばJR東日本は「霞が関とのしがらみがある」が、JR東海やJR西日本は違うのか。ホンダや日産は「霞が関とのしがらみがある」が、トヨタは違うのか。東京以外に本社を置けば、規制などの面で「霞が関とのしがらみ」を減らせるとは考えにくい。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

バブルが崩壊した1991年以降の時価総額の変化率を見ると、最も減らした企業は銀行、電力、建設の3業種に集中する。政府は護送船団方式で銀行を、地域独占体制で電力を、公共工事で建設業界を守ってきた。政府と密接なあまり稼ぐ力を高められなかった点で、東京銘柄の不振と重なる。


◎なぜ「1991年以降」?

まず「バブルが崩壊した1991年以降の時価総額の変化率」を持ち出すのが解せない。株価で言えばバブルのピークは89年末なので「90年以降の時価総額」で見る方が自然だ。

最も減らした企業は銀行、電力、建設の3業種に集中する」という説明もおかしい。基本的に「最も減らした企業」は1社のはずだ(同率で複数となる場合もある)。なのに「銀行、電力、建設の3業種に集中する」と書いている。これだと「最も減らした企業」がかなりの数ある感じがする。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

どうすれば東京の企業はよみがえるか。ヒントは同じランキングの上位にある。ニトリホールディングス、日本電産、ユニ・チャーム。オーナー的な強いリーダーシップで鳴らす会社ばかりで、役人の顔色をうかがう姿勢とは逆だ。

オーナー的と言えば、多くの創業家が君臨する京都の企業を連想する市場関係者もいるだろう。財務内容を比べると、確かに東京企業の目指す姿が見え始める。

「戦え」が最初のメッセージだ。京都企業は、稼ぐ力を示す営業利益率が東京企業に比べて高い。間接部門がスリムで、現場の生産性も高いからだ。売上高に対する設備投資や研究開発費の比率も格段に高い。京都企業はハイテク企業を中心にグローバル競争を激しく戦っている。勝ち抜くために、稼いだ利益を米国企業並みにイノベーションに投じている。

「長期の目線」も京都型経営の特徴だ。営業利益率は一朝一夕で高まらない。これに対し、東京企業が優位に立つ自己資本利益率(ROE)は、借り入れを増やすことで手っ取り早く高められる指標でもある。日本電産を率いる永守重信氏は株主総会で、自らを批判する短期保有の投資家に「明日株価が上がれば売る人の言うことを全部聞いていては、経営はできない」と反撃したことがある。



◎比較に意味ある?

京都企業」と「東京企業」の比較に意味があるとは思えない。「京都企業」は「営業利益率が東京企業に比べて高い」上に「売上高に対する設備投資や研究開発費の比率も格段に高い」と言うが、業種の構成などが大きく異なるのではないか。

例えば同じ小売業でもFCが主体のコンビニは「営業利益率」が高くなりやすいし、直営店が主となるスーパーなどは「営業利益率」が低くなりやすい。だからと言って直営店方式が劣っていると分析するのは誤りだ。

売上高に対する設備投資や研究開発費の比率」も業種が違えば比較に意味はない。ハイテク企業のA社の「研究開発費の比率」が高くて、人材派遣業のB社の「研究開発費の比率」が低いからと言って、A社を高く評価しても無意味だ。「研究開発」の必要性が乏しい事業は当然にある。

そうした点を考慮しないで「京都企業」と「東京企業」を比較するのは強引すぎる。

財務指標の中でも「自己資本利益率(ROE)」は業種が違っていても比較に意味があるとは思う。これに関しては「東京企業が優位に立つ」らしい。それだと話が苦しくなるので「自己資本利益率(ROE)は、借り入れを増やすことで手っ取り早く高められる指標でもある」と添えたのだろう。

しかし「ROE」は「借り入れを増やすことで手っ取り早く高められる」とは言い難い。「借り入れ」を使って利益を増やさなければ「ROE」は高まらない。「借り入れ」で得た資金を事業に投じて損失を出せば、「ROE」を下げてしまう。

手っ取り早く高められる」と訴えたいのならば「自己資本利益率(ROE)は自己資本を減らすことで手っ取り早く高められる指標でもある」とした方が良いのではないか。

最後に「東京銘柄」の比較対象に注文を付けておきたい。記事に付けた地図もそうだが、北海道、東北、北陸、東海、近畿、四国、中国、九州と比べている。これらの地域と比べるならば「関東銘柄」にした方がいい。「東京銘柄」にこだわるのならば、都道府県単位で比べるべきだろう。

付け加えると、地域別の比較で新潟県、長野県、山梨県、沖縄県はどこに入るのだろうか。新潟は北陸に入らないこともないが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『東京銘柄』埋没は訴える
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190903&ng=DGKKZO49309250S9A900C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html