2019年9月28日土曜日

リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」

小田嶋隆氏は本来優れた書き手だが、最近は力が衰えているような気がする。9月30日付の日経ビジネスに載った「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション 無責任は法で取り締まるべきか」という記事はかなり歯切れが悪かった。テーマはリツイートに関する訴訟だ。記事の途中から見ていこう。
金華山黄金山神社(宮城県石巻市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

さて、そのリツイートに関して、興味深い判決が出た。元大阪府知事の橋下徹氏が、ジャーナリストの岩上安身氏による橋本氏批判の「リツイート」で名誉を傷つけられたとして慰謝料など110万円の損害賠償を求めていた訴訟で、9月12日、大阪地方裁判所が33万円の支払いを命じたのだ。

判決の中で、末永雅之裁判長は、リツイートを「投稿内容に賛同する表現行為」として、名誉毀損に当たるとの判断を示した、と報じられている。

記事の文面からは、リツイートという行為一般を「賛同行為」と認定したのか、今回の岩上氏のケースについてのみ「賛同行為」としたのかがはっきりしない。しかし、ともあれ、リツイートに法的責任が生じることが判例によって示されたことの意味は小さくない。



◎どこの「記事」?

記事の文面からは、リツイートという行為一般を『賛同行為』と認定したのか、今回の岩上氏のケースについてのみ『賛同行為』としたのかがはっきりしない」と書くのならば、どこの記事なのかは明確にしてほしい。でないと「はっきりしない」かどうか確かめられない。

ここでは産経新聞の記事を基に話を進めたい。「中傷のツイート転載で名誉毀損 橋下徹氏の訴え認める 大阪地裁」という記事で「末永裁判長は一般論として『何のコメントも付けずにリツイートすることは、その内容に賛同する意思も併せて示されていると理解できる』と判断」と産経は書いている。となると「リツイートという行為一般を『賛同行為』と認定した」と理解すべきだろう。

ただし「何のコメントも付けずにリツイートすること」と条件を付けている。これも重要なポイントだと思える。

小田嶋氏の記事をさらに見ていこう。


【日経ビジネスの記事】

判決について、岩上氏はツイッター上で《ツィッターは国境を越える。当然、この判決が確定されれば世界に影響を与えうる。「リツィートは同意」だと一義的に決めつける判決に世界が驚くのは当然。そうした視野もなく、原告の言い分のみをうのみにした愚かな判決である。控訴審では、こうした不誠実で不正義、知的にも劣化した判決を覆したい。》とコメントしている。

一方、橋下氏は同じくツイッター上で《岩上安身氏からツイッターによる執拗な攻撃を受け続けてきましたが、一審で勝訴しました。リツイートはフェイクニュース拡散の元凶です。リツートにも一定の責任が生じます。皆さん、気を付けましょう。》と言っている。

まだ先のある訴訟なので、ここで結論を述べることは避けておく。


◎なぜ逃げる?

まだ先のある訴訟なので、ここで結論を述べることは避けておく」と小田嶋氏は逃げてしまう。「まだ先のある訴訟」であろうとなかろうと両者の言い分に対するコメントはできるはずだ。そこから逃げるのならば、今回は記事のテーマを変えた方がいい。

ツイッター上」の両氏のコメントが事実との前提で言えば、「橋下氏」の主張には何の問題も感じない。一方、「岩上氏」の主張はかなり辛い。

事実に即しているかどうかは別にして「『リツィートは同意』だと一義的に決めつける判決に世界が驚くのは当然」だとしよう。「そうした視野もなく、原告の言い分のみをうのみにした愚かな判決」と書いているので「岩上氏」は「判決に世界が驚く」かどうかを考慮すべきだと考えているのだろう。これには賛成できない。

裁判官は日本の法律に基づいて判決を下すべきだ。「日本の法律に照らせば明らかに有罪だけど、有罪判決を出すと世界が驚いちゃうから無罪にしとくか」などと考える裁判官がいたら怖い。「不誠実で不正義、知的にも劣化した判決」とまで言うならば、もう少ししっかりした根拠が欲しい。

まだ先のある訴訟」ではあるが、両氏の「ツイッター上」のコメントに関する感想を述べてみた。「岩上氏」が「控訴審」で勝つ可能性も当然ある。そうなったからと言って、自分の感想を変える必要は感じない。

小田嶋氏も同じではないか。なのに「まだ先のある訴訟なので、ここで結論を述べることは避けておく」と逃げたのが残念だ。

記事をさらに見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

悪質な情報被害やデマは、顔と名前を持った確信犯の発言としてよりも、もっぱら、発言責任とは無縁な場所で、他人の尻馬に乗る形で拡散されるリツイートによって増幅されてきたことは、指摘しておかなければならない。

一方で、リツイートに責任が求められることが確定したら「ツイッター文化」なるものは、おそらく、2年か3年のうちには滅亡するだろう。というのも、文化や表現というのは、その性質上、無責任な立場にある人間でなければ支えることのできないものだからだ。



◎「ツイッター文化」が「2年か3年のうちには滅亡」?

リツイートに責任が求められることが確定したら『ツイッター文化』なるものは、おそらく、2年か3年のうちには滅亡するだろう」と小田嶋氏は言う。個人的な予想ではあるが、「2年か3年」で「滅亡」したりしないと断言しておきたい。
くにみ海浜公園(大分県国東市)※写真と本文は無関係

リツイートに責任が求められることが確定」したとしても、それは「何のコメントも付けずにリツイートすること」への「責任」になるはずだ。Aさんへの名誉棄損に当たると思われるツイートに「こんなツイートを許していいのか」とコメントを付けて「リツイート」した場合、「リツイート」がAさんへの「名誉毀損」に当たらないのは当然だ。

そもそも「リツイート」は「悪質な情報被害やデマ」を広げるためだけの機能ではない。何の毒もない平和な「リツイート」もたくさんある。なのに「リツイートに責任が求められることが確定」した程度で「ツイッター文化」が簡単に「滅亡する」かなとは思う。

どちらの予想が正しいか「リツイートに責任が求められることが確定」してから3年以内に結果が出るので楽しみだ。「ツイッター文化」の「滅亡」に客観的な基準がないので、その時に「俺から見ればツイッター文化は滅亡している」と言われれば、それまでだが…。

文化や表現というのは、その性質上、無責任な立場にある人間でなければ支えることのできないもの」との見方にも賛成できない。例えば「表現の自由」に制限が加えられそうな時に「表現の自由を守れ」と立ち上がるのは「無責任な立場にある人間」でなければ不可能なのか。例えば野党の国会議員が「表現の自由を守るべきだ」と国会で訴えて「文化や表現」を「支え」ようとする場合、こうした議員は「無責任な立場にある人間」と言えるだろうか。

記事の結論部分にも注文を付けておきたい。


【日経ビジネスの記事】

リツイートには凶悪な面がある。しかし、だから法律で縛るというのも何か違う気がする。厄介な話だ

ともあれ、そんなこんなで、近い将来われわれは少し大人になって、時には黙ることを覚えるはずだ。それはそんなに悪いことではない



◎「悪いことではない」ならば…

ここでも「厄介な話だ」で逃げている。「法律で縛るというのも何か違う気がする」と言うだけで、その違和感がなぜ生じるのかは説明していない。

しかし最後に「そんなこんなで、近い将来われわれは少し大人になって、時には黙ることを覚えるはずだ。それはそんなに悪いことではない」と締めている。

時には黙ることを覚える」のは「橋下氏」の勝訴が一因となるはずだ。だとしたら「凶悪な面がある」と小田嶋氏も認める「リツイート」を「法律で縛る」のは「そんなに悪いことではない」と言える。「厄介な話だ」で逃げる必要はない。

厄介な話」で逃げるのならば、結論は「それがいいことなのかどうか答えは出ない」などとなるのが自然だ。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション 無責任は法で取り締まるべきか
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00036/?P=1


※橋下徹氏リツイート訴訟については以下の投稿も参照してほしい。

橋下徹氏リツイート訴訟で山田厚史氏の主張に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_31.html


※記事の評価はC(平均的)。小田嶋隆氏への評価はCを据え置く。小田嶋氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html

「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html

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