大川小学校跡地(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係 |
【日経の記事】
自らの知識やアイデアを極め、ヒトのように動くロボットをつくりたい――。そんな夢を追う元東大助教の中西雄飛氏が当時の米グーグルの上級副社長、アンディ・ルービン氏から「20年かけてでも大きな夢を実現しよう」と誘われたのは2013年。仲間と立ち上げた二足歩行ロボットの開発ベンチャー「シャフト」を売却するきっかけだった。ところがルービン氏が退社すると、グーグルは短期の収益が期待できないとして18年にシャフトを解散。5年で見切りを付けた。
まだ形になっていない技術革新の芽を次々と買うグーグルなど「GAFA」。21世紀のデジタル企業は20世紀型のものづくり企業と異なり、巨額の設備投資や増産コストが不要な身軽な巨人だ。生み出す価値は検索サービスのように利用者が多いほど情報がたまり、精度や利便性が高まる特性がある。データなど無形資産を富の源泉とする経済ではシェアを押さえた勝者が果実を総取りする力学が働き、寡占が進む。
◎「勝者総取り」なのに「寡占」?
「GAFA」は「巨額の設備投資や増産コストが不要な身軽な巨人」らしい。この手の解説をたまに目にするが、基本的に間違っている。
「グーグル親会社、アップル抜き手元資産世界一に」という8月1日付で日経電子版に載ったFTの記事では以下のように書いている。
「アルファベットの手元資金は設備投資が急増する中でも積み上がっていった。18年の設備投資額は250億ドルと前年の約130億ドルからほぼ倍増した。その大部分は不動産向けで、グーグルがニューヨークなどでオフィスビルを買い増し、急成長するクラウドコンピューティング事業を支えるデータセンターを構築してきた」
「アルファベット」の「18年の設備投資額は250億ドル」だとすれば、円換算で2兆円を軽く超える。これを「巨額の設備投資」ではないと見なせるのか。
上記のくだりでは最初の事例が生きていないのも気になった。「グーグル」が「18年にシャフトを解散。5年で見切りを付けた」ことと「巨額の設備投資や増産コストが不要」「利用者が多いほど情報がたまり、精度や利便性が高まる」「シェアを押さえた勝者が果実を総取りする」といった話にあまり関連がない。
「シャフト」の事例は丸ごと外しても何の問題もない。何か事例を入れるならば「巨額の設備投資や増産コストが不要」「勝者が果実を総取り」といった解説に説得力を持たせるものを選びたい。
付け加えると「データなど無形資産を富の源泉とする経済ではシェアを押さえた勝者が果実を総取りする力学が働き、寡占が進む」との説明は解せない。「勝者が果実を総取りする力学が働き、独占が進む」のならば分かる。しかし「寡占」止まりらしい。
例えば大手3社による「寡占」市場で「勝者」は「果実を総取り」できているだろうか。「果実を分け合っている」と思えるが…。
記事の結論にも注文を付けたい。
【日経の記事】
マイナス金利で取引される世界の債券は計17兆ドルと世界全体の2割程度に当たる。先進国では生産や投資が鈍り、景気の回復局面でも低金利・低インフレの「低温経済」が続く。富の源が有形から無形へと移り、経済の成長そのものが金利や価格という従来の物差しではとらえきれない軌道を描くようになってきた。
◎1面連載の悪い癖が…
大したことが起きていないのに世界が大きく変わりつつあるかのように訴えるのが日経の1面連載の悪い癖だ。今回もそれが見える。
「経済の成長そのものが金利や価格という従来の物差しではとらえきれない軌道を描くようになってきた」と聞くと大きな変化が起きているような感じはする。
しかし「金利や価格という従来の物差し」で分析できるはずだ。「先進国」では「景気の回復局面」でも回復力が強くないので「低金利・低インフレ」が続く--。そういう理解でいいのではないか。「従来の物差しではとらえきれない」ような動きが何かあるのか。
「低金利・低インフレ」と「景気の回復局面」が両立するのはリーマン・ショック前の日本でも見られた。この時も「従来の物差し」が通用したはずだが…。
※今回取り上げた記事「Neo economy 姿なき富を探る(2)IT企業の売上高、5社で7割稼ぐ~勝者総取りの力学」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49721020S9A910C1SHA000/
※記事の評価はD(問題あり)
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