2019年9月18日水曜日

日経1面連載「Neo economy~姿なき富を探る」に感じるご都合主義

日本経済新聞の朝広重刊1面連載で目立つのが「世界一変系」だ。新しい技術などによって「革命」や「パラダイムシフト」が起きて世界が一変すると説くのがお決まりのパターン。しかし、現実の世界はそんなに度々一変してくれないので、苦しい内容になりやすい。
第十六利丸(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係です

17日から始まった「Neo economy~姿なき富を探る」も世界一変系の臭いがする。初回の見出しは「ヒトより知識 割食う賃金~企業価値の源、8割が無形」となっている。その大げさな書き出しから見ていこう。

【日経の記事】

知識やデータなど姿なき資産が富の源泉となり、経済はモノや距離、時間といった物理的な制約から解き放たれ始めた。どんな豊かさやリスクが広がるのか。

◎本当に「解き放たれ始めた」?

経済はモノや距離、時間といった物理的な制約から解き放たれ始めた」とすれば凄い話だ。それこそ「革命」と呼んでもいい。しかし記事に具体例は出てこない。とりあえず大きく出てみただけだろう。

物理的な制約から解き放たれ始めた」理由は「知識やデータなど姿なき資産が富の源泉」となるからだと読み取れる。しかし、どういう経路でそうなるのか謎だ。「データ」を駆使すれば燃料や食料といった「モノ」がなくても「経済」を回していけるようになり始めたということか。もちろん同意はできない。

あと、今回の記事で最も引っかかったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

「半導体事業を分離せよ」。米ヘッジファンドのサード・ポイントは6月、ソニーに提案した。ソニーの半導体事業は黒字だが、営業利益の7割はゲームや音楽の版権など無形資産が稼ぐ。モノを切り離し、無形資産に投資を集中した方が企業価値は上がる。市場に映るいまの経済の姿だ。



◎ご都合主義的解釈では?

半導体事業を分離せよ」という「提案」を「モノを切り離し、無形資産に投資を集中した方が企業価値は上がる」からだと筆者は解釈している。しかし、どうも怪しい。

ソニーに再び改革圧力 米ファンド、半導体分離要求」という6月14日付の日経の記事では以下のように説明している。

提案は半導体の分離・独立にとどまらない。ソニーはゲームや音楽などエンタメに注力すべきだとして、金融子会社で東証1部のソニーフィナンシャルホールディングス(ソニーFH)や医療情報サービスのエムスリーなどの株式の売却を求めている。音楽配信のスポティファイ・テクノロジー株も対象だ

モノを切り離し、無形資産に投資を集中した方が企業価値は上がる」のならば「半導体事業」だけでなくエレクトロニクス事業も売却した上で「金融子会社」や「医療情報サービスのエムスリー」の株は保有しておいた方が良さそうな気がする。しかし、6月の記事を信じれば、「提案」はそうなっていない。

ご都合主義が疑われる記述はもう1つある。

【日経の記事】

企業が生み出した付加価値のうち労働者に回す割合を示す労働分配率は米国で16年に57%と60年間で9ポイント低下した



◎直近10年間より「60年間」?

労働分配率は米国で16年に57%と60年間で9ポイント低下した」と言うが、記事に付けたグラフを見ると2005年で底を打ち2015年までにやや持ち直している。

今回の記事では「最近は無形資産への傾斜が賃金への配分を圧迫しているとの説が目立つ」とも書いている。ならば過去「60年間」の中でも「最近」の「労働分配率」低下が顕著になりそうだ。実際は逆に上向いている。

それだと記事の趣旨に合わないので「60年間」で見たのだろう。都合よくデータを見せている感は否めない。

今回の出来から判断すると2回目以降が不安だ。


※今回取り上げた記事「Neo economy~姿なき富を探る(1)ヒトより知識 割食う賃金~企業価値の源、8割が無形
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190917&ng=DGKKZO49720930S9A910C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

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