2019年9月16日月曜日

「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う

日本経済新聞の西條都夫論説委員には特に訴えたいことがないのだろう。16日の「『3』の呪縛、『4』の福音~携帯通信、寡占破れるか」という記事を読んでそう感じた。今回のテーマは「携帯通信、寡占破れるか」だ。これに関する西條論説委員の結論を見ていこう。
瑞鳳殿境内(仙台市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

その中で注目されるのが「第4の携帯会社」に名乗りを上げた楽天だ。19年秋からと期待された商用サービスが先送りされ、出足でつまずいたが、インフラ敷設を伴う通信事業は5年、10年の長い目で見る必要がある。イー・アクセスなど以前の新規参入者に比べ、楽天は電子商取引などで堅固な事業基盤を持ちブランドも浸透している。

人材の流動性の高まりも新規参入者には追い風だ。今夏、渉外畑が長く霞が関や永田町で顔の売れていたNTTドコモ幹部が楽天に転職し、周囲を驚かせた。若手を含めドコモなどから楽天への移籍組は数十人に及ぶという。

「NTTグループにはスピード昇進する『最早組』という人たちがいて、そこから外れるとなかなか上に行けない。それに不満な人がノウハウを持って外部に流出し始めた」と総務省幹部はいう。

そして、カギを握るのは起業家精神だ。80年代に幕を開けた日本の通信自由化では旧国鉄や東京電力、トヨタ自動車や総合商社などのそうそうたる大資本が一斉に参入したが、再編の海に沈んだ。

現時点で大手3社に名を刻むのは、稲盛和夫氏のつくったDDI(第二電電、現KDDI)と孫正義氏のソフトバンクのみだ。本物の起業家だけしか生き残れない厳しい市場で、楽天の三木谷浩史会長は3社寡占の壁を破り「4の福音」を消費者に届けられるか。真価が問われる



◎成り行き注目型の結論では…

楽天の三木谷浩史会長は3社寡占の壁を破り『4の福音』を消費者に届けられるか。真価が問われる」と西條編集委員は記事を締めている。いわゆる「成り行き注目型」の結びだ。

論説委員がこれでは辛い。しかも行数は十分にある。なのに「3社寡占の壁を破り『4の福音』を消費者に届けられるか」に関して自らの見方を示さず「真価が問われる」で逃げている。

今回の件に関して言えば、楽天が本格的に事業を開始できるとの前提に立てば「3社寡占」から「4社寡占」に移行するのは自明だ。なので見出しの「寡占破れるか」に関しては「寡占が続く(寡占は破れない)」が答えだ。一方、「3社寡占の壁を破り『4の福音』を消費者に届けられるか」に関しては「届けられる」とみるべきだ。

自分なりの見方を示すのは難しくなさそうなのに、なぜ逃げる。何のために論説委員の肩書を付けてコラムを書いているのか。もう一度考えてほしい。

記事には他にも注文がある。長くなるので、冒頭部分にだけツッコミを入れておきたい。

【日経の記事】

日本人は3という数字を偏愛する。「石の上にも三年」といい、「三種の神器」という。御三家や三羽がらすといった3つでひとくくりにする表現も多い。そういえば昭和の大スター、長嶋茂雄さんの背番号も3だった。

ところが、世界には3という数字を、何か「よくないことの予兆」のように感じる人たちがいる。独占や寡占を嫌い、自由競争を信奉する競争政策当局の人たちだ。

3という数字で彼らが連想するのは、例えば米国のビッグスリーである。デトロイトに本拠を構える3社は巨大な米自動車市場に君臨し、長らく桁外れの利益を享受した。だが、ガソリン価格の高騰などの変化に対応できず、緩慢な衰退の末に3社のうち2社までが破綻を経験した。

ジャーナリストのデイビッド・ハルバースタム氏は「デトロイトは決して人の話に耳を貸そうとしない」と寡占ゆえの傲慢さを批判、それが退潮の根底にあると指摘した。


◎「競争政策当局の人」は「自由競争を信奉」?

まず「石の上にも三年」という諺が「日本人は3という数字を偏愛する」根拠になるのかとの疑問は湧いた。

それ以上に気になったのが「米国のビッグスリー」に関して「寡占ゆえの傲慢さ」を指摘していることだ。「日米自動車摩擦 1970年代から繰り返す歴史」という2018年9月27日付の日経の記事は以下のように説明している。

日米の自動車摩擦の歴史は1970年代の石油危機にさかのぼる。米国の消費者が燃費の良い小型車を求めるようになり、ホンダの小型車『シビック』などが人気を集めた。その結果、日本から米国への自動車輸出が急増した。日本車にシェアを奪われた米ゼネラル・モーターズ(GM)など米自動車大手『ビッグスリー』の業績が相次ぎ悪化し、リストラに追い込まれた

日本から米国への自動車輸出が急増」して「ビッグスリー」は「日本車にシェアを奪われ」いたという。「ビッグスリー」だけで「巨大な米自動車市場」を支配していたのならば「寡占ゆえの傲慢さ」もあっただろう。しかし多くの海外勢と「シェア」を争っていたのならば「寡占」という前提が成り立たなくなる。

その辺りの事情を西條論説委員は知らないのか。それとも「寡占」にしておかないと話を進める上で都合が悪いので、「ビッグスリー」による「寡占」市場で「緩慢な衰退」が起きたことにしたのか。いずれにしても書き手としての問題を感じる。


※今回取り上げた記事「『3』の呪縛、『4』の福音~携帯通信、寡占破れるか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190916&ng=DGKKZO49795340T10C19A9TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html

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