2020年9月30日水曜日

ドコモ完全子会社化は「通信政策の転機」と解説する日経の材料不足

30日の日本経済新聞朝刊1面に載った「NTT、分離から再結集 ドコモに4.2兆円TOB~国際競争、遅れに危機感」という記事には無理を感じた。「NTT」による「NTTドコモ」の「完全子会社化」は金額こそ大きいが、66%出資の子会社を全額出資にするだけだ。「ドコモ」は非上場になるが「NTT」は上場を維持するのだから、上場企業として一般株主に報いる責任が消えるわけでもない。しかし、記事では「グループ再結集は独占企業体のNTTを分割し競争を促してきた通信政策の転機となる」とまで書いている。

豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
        ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。


【日経の記事】

NTTは29日、上場子会社のNTTドコモを完全子会社化すると正式発表した。買収総額は約4兆2500億円と国内企業へのTOB(株式公開買い付け)で過去最大となる。ドコモ分離から28年がたち携帯市場でのシェアが低下、NTTグループの地盤沈下が懸念されていた。日本の通信技術を底上げし次世代規格で世界標準を狙う。グループ再結集は独占企業体のNTTを分割し競争を促してきた通信政策の転機となる

NTTは30日からTOBを行い、他の株主から3割強の株式を取得する。ドコモ株の取得価格は1株3900円で、28日終値(2775円)に4割のプレミアム(上乗せ幅)をつける。

「研究投資が加速し、顧客サービスも向上するのなら止める理由はない」。監督官庁の総務省の幹部はNTTの再結集を支持する意向を示す。

1985年の日本電信電話公社の民営化以来、政府は巨大通信事業者のNTTに分社化を促すなど競争政策を推進してきた。その通信行政にとって、NTTによるドコモ完全子会社化は転換点となる


◎「競争を促してきた通信政策の転機となる」?

グループ再結集は独占企業体のNTTを分割し競争を促してきた通信政策の転機となる」と書いてあると、今後は「競争」を抑制する「通信政策」になると理解したくなる。しかし、記事を最後まで読んでも、具体的な話は出てこない。

研究投資が加速し、顧客サービスも向上するのなら止める理由はない」という「総務省の幹部」のコメントは出てくるが「競争を促してきた通信政策の転機となる」と納得できる情報は見当たらない。なのに再び「通信行政にとって、NTTによるドコモ完全子会社化は転換点となる」と言い切っている。

記事には「菅政権の看板政策である携帯料金の値下げ」との記述もある。これは「競争を促してきた通信政策」が続くと取れる。本当に「通信行政にとって、NTTによるドコモ完全子会社化は転換点となる」のか。


※今回取り上げた記事「NTT、分離から再結集 ドコモに4.2兆円TOB~国際競争、遅れに危機感

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200930&ng=DGKKZO64404940Q0A930C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年9月29日火曜日

ミス放置を続ける東洋経済の山田俊浩編集長が政権に「自浄」を求めても…

自分に甘く他者に厳しいメディアの言葉が説得力を持つだろうか。読者からの間違い指摘を無視して多くのミスを放置している週刊東洋経済の山田俊浩編集長が「菅新政権」 を「安倍政権の負の遺産に向き合うことには消極的なよう」だと指摘した上で「自浄」を求めている。悪い冗談としか思えない。

豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
        ※写真と本文は無関係です

10月3日号の「編集部から」の内容を見てみよう。

【東洋経済の記事】

第2特集において菅新政権の政策課題を検証しました。最大の看板は「自助」。小泉内閣を彷彿とさせるものがありますが、首相自身がたたき上げの苦労人だけに説得力があります。ただし安倍政権の負の遺産に向き合うことには消極的なようです。怪しい健康グッズで荒稼ぎしたジャパンライフ元会長が詐欺容疑で逮捕されましたが、同社元会長は「桜を見る会」に首相枠で招待されており、それが詐欺の際のハッタリに使われています。モリカケ問題の背景も「安倍首相との親しさ」です。こうした問題は、改めて検証するべきでしょう。国民に「自助」を求める政府には、何よりも「自浄」を求めたいものです


◎まず東洋経済を「検証」せよ!

週刊東洋経済では高橋由里氏、西村豪太氏が編集長として多くのミスを放置する方針を維持してきた。山田編集長が就任時に「向き合う」べきだった「負の遺産」と言える。その時にはきちんと「自浄」したのか。

似たような状況にあったライバル誌の週刊ダイヤモンドでは明らかな「自浄」が見られた。なのに東洋経済ではなぜできなかったのか。今もダイヤモンドには「訂正とお詫び」がよく載るが、東洋経済ではほとんど見ない。自分が知る以外のところでも東洋経済は多くのミスを黙殺していると推測できる。

なぜミスの放置がやめられないのか。そこを「改めて検証するべき」だ。自分たちの発行する雑誌の中のミスを指摘されても無視して放置しているメディアが、自分たちを棚に上げて政権に「自浄」を求めて恥ずかしくないのか。

負の遺産」を守る決意が固いのならば、他者の言動にあれこれ注文を付けるのは控えるべきだ。

山田編集長の言葉を借りるならば「政府に『自浄』を求める週刊東洋経済には、何よりもまず自らの『負の遺産』との決別を求めたいものです」といったところだろうか。


※山田俊浩編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。山田編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

書き手としても適性欠く週刊東洋経済の山田俊浩編集長https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_11.html

2020年9月28日月曜日

「事件爆弾」を「時限爆弾」に修正したが回答なし…相変わらずの東洋経済オンライン

記事中の間違い指摘に対する東洋経済オンラインの対応が相変わらずだ。明らかな誤りの場合、記事を修正はするが問い合わせには回答しない。今回は25日に問い合わせをして、28日に見てみると修正されていた。

三連水車(福岡県朝倉市)
     ※写真と本文は無関係です

問い合わせの内容は以下の通り。


【東洋経済への問い合わせ】

東洋経済オンライン担当者様 

25日付の「無症状感染者は素通りできる『検温』の無意味感~検温でできるのは『やってる感』の演出だけだ」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

『感染力は発症前に最大となる。ウイルスにさらされて潜伏期間が始まると、発熱などの症状が一切出ていなくても、感染力のあるウイルスを大量にまき散らして(多くの人に感染させる)スーパースプレッダーとなる場合がある』(パルティエル教授)。検温では、この『事件爆弾』を止めることはできない、とパルティエル氏は言う

事件爆弾」は聞き慣れない言葉です。文脈から考えて「時限爆弾」の誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、もう1つ指摘しておきます。見出しで「検温でできるのは『やってる感』の演出だけ」と断定していますが、記事の内容と整合しません。記事には以下の記述があります。

ただ、マッギン氏は検温にもメリットはあるかもしれないと話す。検温を行うこと自体が人々に感染予防の重要性を思い起こさせる強力な社会的メッセージとなるからだ。『検温が行われていれば人々はより用心するようになる。入り口に検温の担当者を配置しなければならないほど大ごとになっているのだ、自分たちもまだ安心するわけにはいかない、というように』

これを信じれば、「検温でできるのは『やってる感』の演出だけ」ではないと言えます。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。東洋経済新報社では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。誠意ある対応を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「無症状感染者は素通りできる『検温』の無意味感~検温でできるのは『やってる感』の演出だけだ

https://toyokeizai.net/articles/-/377544?page=3


※記事への評価は見送る

「目標未達」でも「第1の矢は成功」と伊藤隆敏コロンビア大学教授が日経に書いているが…

 28日の日本経済新聞朝刊経済教室面にコロンビア大学教授の伊藤隆敏氏が書いた「経済教室~アベノミクスの総括(上)デフレ脱却と経済好転 成果」という記事は説得力に欠けた。「アベノミクス」を前向きに評価するのであれば、それに足る根拠が要る。しかし記事の内容はかなり苦しい。

筑後川サイクリングロード(久留米市)
※写真と本文は無関係です

特に問題を感じたのが金融緩和に関する記述だ。そこを見ていこう。

【日経の記事】

アベノミクスの第1の矢は「大胆な金融政策」で、デフレからの脱却が最重要課題に位置付けられた。そのために13年に2%のインフレ目標政策を日銀と政府の合意文書という形でまとめ、インフレ目標政策に理解のある黒田東彦氏を日銀総裁に指名した。黒田総裁は、13年4月に市場が期待する以上の量的・質的緩和(QQE)政策を発表し、円安・株高が進行した。その後、14年10月には資産購入額を増やした。円安・株高はさらに進行した。

16年1月にはマイナス金利政策を導入したが、長期金利がマイナス圏にまで低下し、金融機関の利ざやを大きく低下させた。金融機関からの批判も出るなか、16年9月にはイールドカーブ・コントロール(YCC=長短金利操作)を導入し、長期金利の水準をほぼ0%に安定化させることとした。日銀は量的緩和(国債購入)自体は操作目標から外して、イールドカーブ全体の水準を目標とするように転換したことになる。

同時に黒田総裁は、2%達成後もすぐに引き締めに転じるわけではないとして、しばらくの間は2%を超えることを許容するという「オーバーシュート型コミットメント」を導入した。

日銀が導入した政策は先進的な内容を含んでいるオーバーシュート型コミットメントは日銀に遅れること4年、20年8月になり、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が、米国でも導入すると宣言した

しかしながら、安倍政権の下ではインフレ目標の2%は達成できなかった。目標未達の原因は、インフレ率を上回る賃金上昇が起きなかったため、消費が大きく伸びず物価上昇が起きなかったことだ。また政府・日銀が2%目標を掲げても、インフレ予想が上がらなかった。第1の矢は成功ではあるが、2%目標未達という一点の曇りが残る


◎目標達成できなくても「成功」?

まず「目標未達」なのに「第1の矢は成功」と断言するのが苦しい。それに対しては「円安・株高」という果実が得られたから「成功」と反論するのだろう。

円安」はともかく「株高」に関しては日銀がETFを買って相場を直接に下支えしている。その結果としての「株高」を「成功」と評すべきなのか。日銀のETF購入には市場での価格形成を歪めているとの批判が強い。そこまでしてもインフレ率に関して「目標未達」に終わっていることを重く見るべきだ。

2%目標未達」を「一点の曇り」としているのも解せない。「16年1月にはマイナス金利政策を導入したが、長期金利がマイナス圏にまで低下し、金融機関の利ざやを大きく低下させた」と伊藤氏も書いている。「金融機関の利ざやを大きく低下させた」ことは「曇り」には入らないのか。さらに言えば、そうした副作用を上回る効果が「マイナス金利政策」にはあったのか。なかったとすれば、それでも「第1の矢は成功」なのか。

安倍政権に関して「インフレ率は0.4%で最も高く、確かにデフレに終止符を打ったといえる」と書いているのも引っかかる。「0.4%」で「デフレに終止符」と言えるのかは、ここでは論じない。問題はアベノミクスによって「デフレに終止符を打った」のかだ。

安倍政権の下ではインフレ目標の2%は達成できなかった。目標未達の原因は、インフレ率を上回る賃金上昇が起きなかったため、消費が大きく伸びず物価上昇が起きなかったことだ。また政府・日銀が2%目標を掲げても、インフレ予想が上がらなかった」と述べている。だとすると「物価上昇」を起こす力はアベノミクスにはなかったと評価する方が自然だ。

伊藤氏が記事で論じている「98年以降」で言えば「インフレ率」は0%近辺でほぼ横ばいだ。安倍政権の「インフレ率は0.4%」もこの範囲に入っている。無茶な金融緩和をやった割に大きな変化は起きなかったと見ていい。目立った「物価上昇が起きなかったこと」は伊藤氏も認めている。なのにアベノミクスで「デフレに終止符を打った」ように書くのは頂けない。

ついでに「オーバーシュート型コミットメント」に関する記述にも注文を付けたい。

日銀が導入した政策は先進的な内容を含んでいる」と伊藤氏は前向きに評価するが「米連邦準備理事会(FRB)」が後追いしてくれたからと言って優れている訳ではない。「2%達成後」も「長期金利の水準をほぼ0%」に維持するのならば、預金金利も「ほぼ0%」だろう。この場合、実質金利のマイナスは「2%」を超えてくる。預金の実質的価値は1年で2%以上も減る。

個人的にはこれに耐えられない。インフレ税だと感じるし、そうなれば為替リスクを負ってでも外貨に資産を移したい。安倍政権下で「デフレに終止符を打った」のに、なぜ実質金利を大幅なマイナスにする必要があるのか。「FRBもそうだから」以外の説明が欲しい。


※今回取り上げた記事「経済教室~アベノミクスの総括(上)デフレ脱却と経済好転 成果」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200928&ng=DGKKZO64238120V20C20A9KE8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年9月27日日曜日

情緒的な主張が目立つ日経 山内菜穂子政治部次長の「風見鶏~『幸せ』視点の少子化対策」

 27日の日本経済新聞朝刊総合3面に載った「風見鶏~『幸せ』視点の少子化対策」は情緒的な主張が目立った。記事の後半部分を見てみよう。

二連水車(福岡県朝倉市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

これからの少子化対策は何を重視すべきか。駒村康平慶応大教授は「不妊治療のニーズが高まる根底には、長時間労働や不安定な労働がある」と指摘し、働き方改革を挙げる。「少子化は社会のゆがみの結果であることを直視すべきだ」

世界をみれば新しい成長のあり方を模索する動きがある。フランス政府は19年、「使命を果たす会社」という新たな会社の形態を法で規定した。仏食品大手ダノンは6月、この形態へ定款を変更した。社会や環境などで目標を設定し、第三者が進捗状況を監督する。

首相は官房長官として、男性の国家公務員に1カ月以上の育休取得を促す制度の創設を主導した。4月から6月までに子どもが生まれた男性職員の85%が、1カ月以上の育休を取得する見込みという。長時間労働は晩婚化の原因の一つとも指摘されてきた。中小企業を含めて働き方改革のレベルをもう一段上げるには、法整備などで政府の強い後押しが不可欠だ。


◎「少子化は社会のゆがみの結果」?

少子化は社会のゆがみの結果」だと「駒村康平慶応大教授」に語らせ「長時間労働」の是正を求めている。しかし、筆者の山内菜穂子政治部次長はこの政策が有効だと言えるデータを示していない。

北欧諸国は労働時間が日本より少ないが「少子化」傾向は共通して見られる。北欧レベルでもやはり「長時間労働」なのか。それとも北欧には別の「ゆがみ」があるのか。

OECD加盟国で言えば出生率の1位はイスラエルで2位がメキシコ。この2国は2019年の1人当たり年間労働時間で日本を上回る。メキシコはOECDでトップの「長時間労働」だ。こうした事実は「長時間労働」をなくしても「少子化」克服にはつながらないと示唆している。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

もう一つは子どもへの視点だ。池本美香日本総合研究所上席主任研究員は「出生数ではなくどんな家庭環境の子どもでも幸せにするという目標が要る」と語る。

中間的な所得の半分に満たない家庭で暮らす18歳未満の割合「子どもの貧困率」は18年時点で13.5%に上る。新型コロナウイルスによる危機は非正規など不安定な雇用で働く人に追い打ちをかけた。小売業など職種によっては親が在宅勤務できず、長期の休校中、子どものケアが十分にできなかった家庭も多い。

全国の児童虐待相談対応件数(速報値)は1~5月、前年比で1割増えた。切れ目なく子どもを見守るには学校や保育園といった現場のほか、厚生労働省や文部科学省、警察庁など省庁間の連携も鍵となる。コロナ禍を機に、子どもの貧困や格差の問題にもっと目を向ける必要があるだろう。

少子化は社会を映す鏡といわれる。余裕をもって子どもと向き合える働き方を目指し、親の経済状況にかかわらず子どもがチャンスをつかみ取れるように支援する――。首相には、安心して新しい家族をつくることができる社会へ政策を着実に実行してほしい。それは結果的に少子化対策となるはずだ


◎「結果的に少子化対策となるはず」?

余裕をもって子どもと向き合える働き方を目指し、親の経済状況にかかわらず子どもがチャンスをつかみ取れるように支援する」ことが重要だとの主張には同意できる。しかし「それは結果的に少子化対策となるはずだ」との見方には賛成できない。山内次長が何ら根拠を示していないからだ。「少子化対策となる」かどうかはエビデンスに基づいて議論すべきだと思えるが…。


※今回取り上げた記事「風見鶏~『幸せ』視点の少子化対策」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200927&ng=DGKKZO64237020V20C20A9EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。山内菜穂子次長への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。山内次長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説得力欠く日経 山内菜穂子政治部次長の「風見鶏~少子化対策 失われた30年」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/30.html

2020年9月26日土曜日

日経ビジネスでのMMT否定論が支離滅裂に近い東京財団政策研究所の早川英男氏

 「現代貨幣理論(MMT)」を否定する主張で説得力があるものを見たことがない。日経ビジネス9月28日号に載った「INTERVIEW~MMTは日本を救う理論なのか」もそうだ。東京財団政策研究所上席研究員の早川英男氏の主張は、説得力を欠くと言うより支離滅裂に近い。

有明佐賀空港 空港公園のYS-11型機
      ※写真と本文は無関係です

早川氏の話をまとめて記事にした記者の責任なのかもしれないが、いずれにしても問題ありだ。一部を見てみよう。


【日経ビジネスの記事】

「インフレにならない限り、財政赤字には問題がない」「インフレになったら税金を増やせばいい」──。こうした現代貨幣理論(MMT)の主張には安易に賛成できない。物価が上昇し始めたら単純に金利を上げればいいという主張は中央銀行からすれば恐ろしい。日本の債務残高はGDPの2倍を超え、世界的に見ても相当高い水準だ。利上げした途端に支払利子が大幅に増加してしまう。財政をいくらでも出動できるという考えはマーケットを壊しかねない。


◎何を言っているのか…

インフレにならない限り、財政赤字には問題がない」「インフレになったら税金を増やせばいい」というのが「現代貨幣理論(MMT)の主張」との認識には問題を感じない。しかしなぜか「物価が上昇し始めたら単純に金利を上げればいいという主張は中央銀行からすれば恐ろしい」と展開してしまう。「物価が上昇し始めたら単純に増税すればいいという主張は~」とならないと辻褄が合わない。

また「物価が上昇し始めたら単純に金利を上げればいいという主張は中央銀行からすれば恐ろしい」という説明にも疑問が残る。「利上げした途端に支払利子が大幅に増加してしまう」のは「中央銀行」ではなく政府だ。「中央銀行が政府を心配して…」という弁明は成り立つが「中央銀行からすれば恐ろしい」と「中央銀行」に限定する理由が分からない。「政府からすれば恐ろしい」の方が自然だ。

支払利子が大幅に増加してしまう」と「マーケットを壊しかねない」と早川氏は見ているようだが、これも解せない。

日銀が長期金利をコントロールして0%近辺に張り付いている今の状況を「マーケット」が壊れていると見るのは分かる。だが、早川氏としては「インフレ→金利上昇(国債価格下落)」となると「マーケット」が壊れると訴えたいようだ。国債価格が暴落したとしても、市場関係者が自由に売買してその需給が価格に反映されるのならば市場は壊れていない(機能している)と思えるが…。

さらに言えば「財政をいくらでも出動できるという考えはマーケットを壊しかねない」という説明は「MMT」の否定になっていない。「インフレにならない限り、財政赤字には問題がない」というのが「MMT」の主張だと早川氏自身が最初に述べている。つまり「財政をいくらでも出動できるという考え」ではない。「インフレにならない限り財政をいくらでも出動できるという考え」だ。条件が付いている。

なのに「インフレ」になった時に「財政をいくらでも出動できる」と考えるのは危ないと訴えて意味があるのか。

まともな否定論を展開できないまま「もっとも、MMTにも『信用創造』に関する考え方には納得のいく部分はある」と肯定できる部分の話に移っていく。こちらには特に問題を感じない。だったら「MMT」肯定論で一貫させた方が説得力は出るだろう。


※今回取り上げた記事「INTERVIEW~MMTは日本を救う理論なのか」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00605/?P=4


※記事の評価は見送る。「MTT」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

岩村充 早大教授が東洋経済オンラインで展開した「MMT」否定論に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/mmt.html

MMTの否定に無理あり 日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/mmt-deep-insight.html

「MMTは呪文の類」が根拠欠く日経 上杉素直氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/mmt-deep-insight.html

2020年9月25日金曜日

「鶴田元本社社長のお別れの会」が写真付き2段見出し…自社モノを大きく扱う日経の読者軽視

日本経済新聞の自社モノの扱いが気になる。25日の朝刊社会面に載った「鶴田元本社社長のお別れの会~各界から800人が参列」という記事は写真付きの2段見出しで、そこそこ目立つ。これは日経の読者にとって適切な扱いなのか。

九州佐賀国際空港※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。


【日経の記事】

日本経済新聞社の社長・会長を務め、3月13日に死去した鶴田卓彦氏の「お別れの会」が24日午前11時から東京・帝国ホテルで開かれた。各界から約800人が参列し、故人をしのんだ。

新型コロナウイルス感染症予防のため、順次献花する形となった。マスクを着けた参列者は、鶴田氏の遺影の前に設けられた献花台に次々と白いカーネーションを供えた。

参列者は献花の後、別室に展示された写真や映像を見ながら故人のありし日を振り返った。

政界からは山東昭子参院議長や西村康稔経済財政・再生相、東京都の小池百合子知事、経済界からは元経団連会長でキヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長らが参列した。


◎死亡記事で十分では?

鶴田卓彦氏」の死亡記事を載せるなとは言わない。しかし「お別れの会」を開いたことを読者に伝える必要があるのか。「鶴田卓彦氏の『お別れの会』」は日経にとって重要かもしれないが、読者にとっての重要性は非常に低いと思える。

自社モノを大きく取り上げることを「恥ずかしい」「読者軽視」と見る社員はかなりいるだろう。しかし、編集局の判断としては写真付き2段見出しになってしまう。そこに日経の問題点が透けて見える。

自社モノに関して問題を感じた記事をもう1つ挙げておく。24日朝刊経済面に載った「R&I顧問に杉本氏~前公取委員長」というベタ記事だ。全文は以下の通り。


【日経の記事】

格付投資情報センター(R&I)は23日、公正取引委員会前委員長の杉本和行氏を20日付で顧問に迎えたと発表した。杉本氏は財務省出身。財務次官などを経て13年3月から7年半、公取委員長を務めた。


◎R&Iの「顧問」人事が要る?

格付投資情報センター(R&I)」は上場企業でもなければ、著名な企業でもない。その会社の「顧問」の人事をベタ記事とはいえ載せる意義があるのか。

R&I」が日経グループの企業だから記事にしたのだろう。あとは「杉本和行氏」への気遣いか。「財務次官などを経て13年3月から7年半、公取委員長を務めた」大物をグループ企業の「顧問」に迎えたのに記事にしないのは失礼と考えたのかもしれない。

しかし、一読者の立場から見ると、経済面でベタ記事として取り上げるべき人事情報とはとても思えない。

自社モノであっても記事は記事だ。ニュースとしての価値が低ければ、紙面化の優先順位はきちんと落としてほしい。どうしても記事として載せたい場合でも、できるだけ扱いを小さくすべきだ。そこにメディアとしての良識がにじみ出るのではないか。


※今回取り上げた記事

鶴田元本社社長のお別れの会~各界から800人が参列」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200925&ng=DGKKZO64203090U0A920C2CR8000

R&I顧問に杉本氏~前公取委員長」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64144860T20C20A9EE8000/


※記事の評価は見送る

2020年9月24日木曜日

TPPは「民主主義の価値観を共有」と誤解した日経1面連載「菅新政権 政策を問う」

日本経済新聞によると「環太平洋経済連携協定(TPP)」は「民主主義や自由貿易の価値観を共有する国々が結束する」枠組みらしい。「自由貿易の価値観を共有する」かどうかも怪しいが「民主主義」に関しては明らかに違うはずだ。日経には以下の内容で問い合わせを送った。

豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
        ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 小滝麻理子様 島田学様 亀井勝司様 石塚由紀夫様 永沢毅様

24日朝刊1面に載った「菅新政権 政策を問う(5)アジア激動~日本の浮沈握る外交」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「民主主義や自由貿易の価値観を共有する国々が結束する環太平洋経済連携協定(TPP)のような枠組みは今後も不可欠になる」との記述です。「TPP」加盟国は全て「民主主義」を採用していると取れる書き方です。しかし少なくともベトナムとブルネイは「民主主義の価値観を共有する国」とは言えないはずです。

外務省のホームページによると、ベトナムは「社会主義共和国」で共産党が「唯一の合法政党」です。ブルネイは国王が首相と外相を兼務しており「独立以来国政全般を掌握」しています。「民主主義や自由貿易の価値観を共有する国々が結束する環太平洋経済連携協定(TPP)」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「菅新政権 政策を問う(5)アジア激動~日本の浮沈握る外交

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200924&ng=DGKKZO64131610T20C20A9MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。小滝麻理子氏を連載の責任者と推定し、同氏への評価をDで確定させる。同氏については以下の投稿も参照してほしい。


日経 小滝麻理子記者 メイ英首相の紹介記事に問題ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_16.html

2020年9月23日水曜日

「老老医療」がテーマのはずでは? 日経「長寿社会のリアル」の調査方法に異議あり

23日の日本経済新聞朝刊1面に載った「長寿社会のリアル~『老老医療』大都市圏に波及 高齢者診療時間、2割が過疎地並み 生産性向上カギ 本社26年推計」という記事は苦しい内容だった。朝田賢治記者と満武里奈記者の基本的な考え方を最初の段落で見ておこう。

大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

高齢化が著しい日本で十分に医療を受けられないリスクが膨らむ。体力が衰えた高齢医師が老いた住民を診る「老老医療」が増えるからだ。日本経済新聞の分析によると、大都市圏では2026年までの10年間に後期高齢者1人あたり診療時間は2割減少。医師の不足感が過疎地並みになる地域が2割に達しそうだ。遠隔診療の普及など医療の生産性を高める対策が必要だ。


◎「リスクが膨らむ」?

高齢化が著しい日本で十分に医療を受けられないリスクが膨らむ」らしい。「医師需給 28年ごろに均衡~厚労省推計、将来は供給過剰に」と日経も2018年の記事で報じているので単純に医師不足が深刻化するとは打ち出しにくい。そこで「老老医療」の増加を問題視している。その解決策が「遠隔診療の普及など」だ。しかし、どちらも怪しい。その理由を記事を見ながら説明したい。

まず「老老医療」の定義と実態がはっきりしない。

【日経の記事】

全国で医師が減っているわけではない。医師数は18年で32万7千人と10年間で14%増えた。ただ、医師に定年がない要素が大きく、59歳以下はわずか5%増。男性医師の平均勤務時間は40代の週70時間超から60代は50時間台に減る。かたや75歳以上の後期高齢者は受診回数が急増する。医師の年齢や勤務時間を考慮すると、高齢化が加速する大都市も厳しくなる。

国際医療福祉大の高橋泰教授の協力を得て、都道府県が定める344の「2次医療圏(総合・経済面きょうのことば)」ごとに医師の労働時間と人口動態を分析。26年の後期高齢者1人あたりの診療時間(週ベース)を予測した


◎60歳の医師だと「老老医療」?

『老老医療』大都市圏に波及」と見出しでは打ち出しているが、「老老医療」については調査をしていない。「26年の後期高齢者1人あたりの診療時間(週ベース)を予測した」ようだが、これは「医師」全体が対象と取れる。

そもそも何歳以上の「医師」が何歳以上の患者を診ると「老老医療」に当たるのか記事では明示していない。「医師に定年がない要素が大きく、59歳以下はわずか5%増」という記述から判断すると「医師」は60歳以上が「老老医療」に当たると示唆してはいる。

外科手術などを除けば60歳の医師が患者を診ることを「老老医療」として問題視すべきかとの疑問は残る。しかも「老老医療」の実態も調査をしていない。「『老老医療』大都市圏に波及」と言われると「大都市圏」に「老老医療」は存在しないような印象を受けるが、ある程度はあるはずだ。その辺りの実態も記事からは見えてこない。

なのに朝田記者と満武記者はかなり危機感を持っているようだ。その根拠を見ていこう。

【日経の記事】

三大都市圏を中心に住民数や人口密度の条件を満たす大都市型の52医療圏は平均63分と、16年より19%減る。地方都市型の166医療圏が14%減の50分、残る過疎地型が12%減の29分。大都市圏はまだ余裕はあるが、個別に見ると過疎地並みに逼迫する地域が相次ぐ。高橋教授は「団塊世代が多いベッドタウンが厳しい」と指摘する。

中核市の東京都八王子市がある「南多摩」は16年が51分とすでに地方都市並み。これが26年に37分に縮まる。後期高齢者が5割増えるためだ。地元医師(63)は「在宅医療が増えるのに後継者がいない病院も多い」と嘆く。神奈川県平塚市が属する医療圏も62分から39分まで短くなる。

16年時点の平均に基づいて分類すると、大都市型の52医療圏で地方都市と同水準だった地域は19、過疎地並みは1つだったが、26年はそれぞれ20、11に増えそうだ。

24年4月に残業の上限を月平均80時間とする働き方改革関連法の規定が医師に適用される。長時間労働の是正は必要だが、人繰りは厳しくなる。克服する策はあるのか。


◎人口全体を見ないと…

そもそも「後期高齢者1人あたりの診療時間(週ベース)」で見ることに問題を感じる。記事では「大都市」に余裕があり「過疎地」は苦しいとの前提に立っている。だが「後期高齢者1人あたりの診療時間」で見ても実態はつかめない。患者は「後期高齢者」だけではないからだ。

過疎地」は「後期高齢者」の比率が高いと考えられる。だとすると「後期高齢者」以外の患者にあまり時間を割かずに済む。「大都市」は逆だ。単純に「大都市」に余裕があるとは言えない。だが、全ての年齢層を対象にしてしまうと「1人あたりの診療時間」に余裕が出てきてしまうのだろう。それを回避するために「後期高齢者1人あたりの診療時間」を採用したのかと勘繰りたくなる。

対策に関してもツッコミを入れておきたい。


【日経の記事】

まず看護師の役割拡大だ。15年から研修を受けた看護師が動脈からの採血など「特定行為」をできるようになった。医師の負荷軽減につながるが、こうした看護師数は25年に10万人とする政府目標に対し、18年度末で1700人。医療機関の理解が進まず、研修費が高いとの批判もある。費用補助や報酬引き上げなど、テコ入れが要る。

15年に事実上解禁されたオンライン診療の普及も必要だ。無駄な来院を減らし、医師の業務効率も高まる。システムを開発するメドレー(東京・港)の田中大介執行役員は「医師不足の解決にオンラインは力となる」と語る。

新型コロナ対応の時限措置として初診でも解禁となったが、医師の抵抗感は根強く残る。流行終息後も規制緩和の継続と医師の自己変革が欠かせない。


◎問題は「老老医療」では?

問題は「老老医療」のはずだ。しかしなぜか医師不足への対策になっている。「医師需給 28年ごろに均衡~厚労省推計、将来は供給過剰に」という報道が正しいのならば、将来の医師不足を心配しなくてもいいはずだ。

老老医療」を問題視する場合、高齢の医師が働けないようにすべきだ。例えば70歳に達したら医師免許を無効にするといった措置が考えられる。しかし記事には、そうした話は出てこない。

そして日経が大好きな「オンライン診療」を対策として勧めてくる。高齢の医師が「オンライン診療」を始めたところで「老老医療」が減るわけではない。

医師不足の解決にオンラインは力となる」かどうかも微妙だ。病院での診察時間は、個人的な経験で言えば1回5分程度だろうか。「オンライン診療」だとこれが3分で済むならば「医師不足の解決」につながる。しかし「オンライン診療」でも1回5分以上かかるならば医師に時間の余裕は生まれない。「医師の業務効率も高まる」と記事では断定しているが、その根拠は不明だ。

オンライン診療」の拡大などが必要と訴えたいために、強引に話を作っていると考えれば腑に落ちるが…。


※今回取り上げた記事 「長寿社会のリアル~『老老医療』大都市圏に波及~高齢者診療時間、2割が過疎地並み 生産性向上カギ 本社26年推計

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200923&ng=DGKKZO64121550T20C20A9MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。満武里奈記者への評価は暫定でDとする。朝田賢治記者への評価はDで確定とする。

2020年9月22日火曜日

「女性雇用」は「非正規が増えただけ」? 日経「菅新政権 政策を問う」の無理筋

 「女性活躍」に関する記事は総じて説得力に欠ける。22日の日本経済新聞朝刊1面に載った「菅新政権 政策を問う(4)女性活躍 脱最下位、支援に課題」という記事もそうだ。問題のくだりを見ていこう。

増水した筑後川 ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

安倍晋三前首相が成長戦略に据えた女性活躍。今、急速にしぼんでいる。コロナ禍が原因だ。

前政権時代に就業者は約400万人増え、うち330万人が女性だった。しかし3月以降、コロナ禍が飲食業などで働く彼女たちを直撃した。労働力調査によると非正規女性は7月時点で3月から88万人も減った。

安倍政権で増えた女性雇用の4割強は非正規。活躍推進といいながら不安定な非正規雇用が増えただけ。そんな政策の脆弱さが明らかになった。


◎「非正規雇用が増えただけ」?


まず「活躍推進といいながら不安定な非正規雇用が増えただけ」と言えるだろうか。「前政権時代」に増えた「就業者」の「うち330万人が女性」。その「4割強は非正規」だとすれば、正規雇用が200万人近く「増えた」計算になる。それでも「非正規雇用が増えただけ」なのか。

活躍推進といいながら不安定な非正規雇用が増えただけ」との記述からは「非正規雇用が増え」ても「活躍」にはならないとの前提を感じる。だとすれば「非正規女性は7月時点で3月から88万人も減った」ことを根拠に「女性活躍」が「急速にしぼんでいる」と見なすのはおかしい。「非正規女性」は「コロナ禍」の前から「活躍」していないはずだ。

非正規女性」も「活躍」していると見るのであれば「活躍推進といいながら不安定な非正規雇用が増えただけ」と嘆く必要はない。「非正規雇用が増えた」のも「活躍推進」に当たるのだから。

女性活躍」に関する記事が説得力に欠けるのは「女性活躍」の基準に問題があるからだ。今回の記事では「女性活躍 脱最下位、支援に課題」という見出しを付けている。「国際労働機関によると日本の女性管理職比率は主要7カ国(G7)で最下位」という事実から「女性活躍」で「最下位」と見なしたのだろう。

非正規社員や平社員はいくら仕事をしても「女性活躍」の対象にはならないと考えるのならば「女性管理職比率」で「女性活躍」の度合いも見るのも分かる。だが、個人的には非正規社員や平社員の中にもきちんと仕事をして「活躍」している人は山のようにいると思える。さらに言えば、家事や育児に打ち込む専業主婦も立派な「女性活躍」だと映る。

なのに「日本の女性管理職比率は主要7カ国(G7)で最下位」だから何とかしましょうと言われても共感できない。「女性活躍」ではなく「女性昇進」ならば「管理職比率」で見ることに賛成できるのだが…。


※今回取り上げた記事「菅新政権 政策を問う(4)女性活躍 脱最下位、支援に課題

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200922&ng=DGKKZO64106830R20C20A9MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年9月21日月曜日

入れるべき情報の抜けが目立つ日経「積水化学、航空部品生産を米で再編」

 21日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「積水化学、航空部品生産を米で再編~配管工場を集約」という記事は問題が多い。「配管工場を集約」するのがニュースの柱だが、これに関する情報が少な過ぎる。

九州佐賀国際空港※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。


【日経の記事】

積水化学工業は米国での航空機部品生産体制を見直す。配管(ダクト)を製造する拠点を2カ所から1カ所に集約する。新型コロナウイルスによる旅客需要の低迷で、航空機部品の受注は落ち込んでいる。積水化学は合理化を急ぎ、収益への影響を最小限にとどめる。

2019年に買収した米航空機部品メーカー、AIMエアロスペース(現セキスイエアロスペース)の生産体制を再編する。同社は米ワシントン州に航空機向けの複合材工場に加え、2つの配管工場を持つ。配管工場は老朽化を理由に買収当初から統合を計画していたが、新型コロナによる需要低迷を受けて「前倒しで合理化する」(積水化学の加藤敬太社長)。

積水化学は自社の炭素繊維複合材の用途拡大を狙い、19年に旧AIM社を買収、航空機部品市場に本格参入した。ただ、米中貿易摩擦を受けた世界経済の変調やその後の新型コロナの影響で、主要取引先の米ボーイングが航空機生産を縮小。部品需要も低迷している。

積水化学は5月に発表した3カ年の中期経営計画で、22年度の売上高を19年度比8%増の1兆2200億円、営業利益を同25%増の1100億円にする目標を掲げている。航空機向け素材事業を将来の収益の柱に育てる考えだが、当面は「航空機以外の医療機器向けなどへの供給を拡大させる」(加藤社長)方針だ。


◎色々と書いてはいるが…

新聞紙面で50行とそこそこのスペースを使っているが、入れるべき情報がほとんど盛り込まれていない。

積水化学工業は米国での航空機部品生産体制を見直す。配管(ダクト)を製造する拠点を2カ所から1カ所に集約する」という話で記事を作る場合、どんな情報を入れるべきか。列挙してみたい。


(1)いつ「集約する」?

記事ではいつ「集約する」か言及していない。「配管工場は老朽化を理由に買収当初から統合を計画していたが、新型コロナによる需要低迷を受けて『前倒しで合理化する』(積水化学の加藤敬太社長)」との記述から判断すると、「集約」自体は既定路線で時期が早まっただけとも取れる。

だとしたら、なおさら時期が重要だ。これまでは「集約」の時期をどう考えていたのか。それをどの程度「前倒し」するのか。そこは欲しい。


(2)どう「集約する」?

配管工場」を「2つ」とも閉めて、別の場所に新工場を建設する形での「集約」なのか。それとも既存の「配管工場」を1つ残して「集約」するのか。後者の場合、「2つ」のうちどちらを残すのか。これも記事では触れていない。


(3)生産規模はどうなる?

拠点を2カ所から1カ所に集約する」と生産規模はどうなるのか。半減なのか。仮にA工場が生産量200でB工場が100だとしよう。「老朽化」が激しいB工場を閉鎖しても、生産規模は半減しない。B工場の生産品目の一部をA工場に移し「集約」後の生産規模が250となってもおかしくない。

その辺りも記事からは情報が得られない。


(4)業績への影響は?

積水化学は合理化を急ぎ、収益への影響を最小限にとどめる」と記事では書いている。ならば「集約」によってどの程度の「合理化」効果が出るのかも入れたい。工場を閉鎖するのだから、「合理化」効果だけでなく損失も考える必要がある。従業員をどうするかも気になる。だが、やはり情報はない。

記事の最後の段落は丸ごと落としていい。その代わりに上記のような情報を盛り込むべきだ。「時期などは未定」と言うのならば、そのことを記事中で明示すべきだ。


※今回取り上げた記事「積水化学、航空部品生産を米で再編~配管工場を集約」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200921&ng=DGKKZO64098630Q0A920C2TJC000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年9月20日日曜日

金特集の担当をきっかけに「金投資」を始めた週刊エコノミスト柳沢亮記者への警告

週刊エコノミスト9月29日号に柳沢亮記者が書いた「編集後記」が気になった。記事の全文は以下の通り。

九州佐賀国際空港※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】 

前号「まだまだ上がる金&貴金属」を担当した。金投資を体験するため8月中旬、金価格に連動するETF(上場投資信託)の「SPDRゴールド・シェア」を10株買った。9月8日現在、評価損益はマイナス2400円と直近はやや軟調だ。  

株のおかげでちょっとだけ生活に変化が訪れた。まずは1日1回、通勤電車内で日経平均株価やETFの株価をチェック。同時に米国株や日銀の政策など、これまで以上に情報収集するようになった気がする。金価格は変動が大きくなく「毎日ハラハラ」する心配はない。  

投資先の価格の変動要因を考えることは、日々世の中にアンテナを張ることにつながる。投資先は株式をはじめ国債、ETF、金、不動産など数多くあるし、今は数万円、数千円と少額から始められ、酒席を1回我慢すれば資金は捻出できる。投資ライフも悪くない。 


◎ETFを買ってしまうと…


まず「ETF」を「」と表現しているのが引っかかる。「ETF」は「」と同じように取引所で売買できるが「」そのものではない。「金価格に連動するETF」であれば「」を集めたものでさえない。

10株買った」は「10口買った」とした方が良い。「株のおかげでちょっとだけ生活に変化が訪れた」は「ETFのおかげでちょっとだけ生活に変化が訪れた」とすべきだ。

それ以上に問題視したいのが「金投資を体験」したことだ。「」市場に関する記事を書くのならば「金投資」からは距離を置くべきだと感じる。中立性の確保が難しくなるからだ。

週刊エコノミストが「金価格の上昇を応援していく雑誌」と自らを位置付けているのならば別だ。しかし、状況次第では「」に関して「底が見えない」などと解説するつもりならば、少なくとも担当記者は「金投資」を避けた方がいい。

実際に、特集「まだまだ上がる金&貴金属」はタイトルからも分かるように「上げ賛成」の内容になっている。足元で2000ドルを割り込んでいる状況で「1年内に3000ドル視野 輝きを増す金への『熱狂』」と煽っているのは頂けないと思っていたが、担当記者が「金投資」をしているのならば納得できる。

投資ライフも悪くない」という考えを否定はしない。だが、記事の書き手として失うものがあることも忘れないでほしい。


※今回取り上げた記事「編集後記

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200929/se1/00m/020/009000c


※記事の評価はD(問題あり)。柳沢亮記者への評価も暫定でDとする。

2020年9月19日土曜日

安恒理氏が書いた週刊東洋経済「株価チャートは宝の山」を信じるな!

週刊東洋経済9月26日号の特集「コロナ時代の株入門」はタイトルから判断して投資初心者を読者に想定しているのだろう。しかし「株式投資6つの基礎」の1つとして取り上げた「買うタイミングはこう探す~株価チャートは宝の山」という記事は投資初心者に薦められない。

佐賀市立赤松小学校 ※写真と本文は無関係

個人的には「株価チャートは宝の山」という考えに同意できない。「買うタイミング」を「株価チャート」から探るのは意味がないとも思っている。しかし考えを改める用意もある。そのためには「株価チャートは宝の山」だと納得できるエビデンスが欲しい。しかし今回の記事には見当たらない。

なのにライターの安恒理氏は以下のように書いている。


【東洋経済の記事】

今後、株価は上昇するのか下落するのか。その予測ができれば投資は成功する。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)で株価の割高感、割安感はわかっても、目先の値動きまでは予測できない。

そこで現在の株価がどの位置にあるのかを過去の値動きから分析するやり方、テクニカル分析が役に立つ。株の値動きをグラフ化したツール「株価チャート」を使って株価の動きを予測するのだ。


◎「役に立つ」と言い切るが…

テクニカル分析が役に立つ」と安垣氏は言い切っている。「役に立つ」と言われると株式市場で利益を得られる確率を高められると受け取りたくなる。安垣氏は「テクニカル分析」のやり方を教えてはくれるが、それが「役に立つ」と言えるデータは示していない。

記事には「ソフトバンクグループ」の今年の「株価チャート」が付いている。これが「デッドクロス(下落の予兆)」「ゴールデンクロス(上昇の予兆)」といった考え方に上手く当てはまるからだろう。だが、期間や銘柄を変えるとどうなるかは不明だ。当然に上手く当てはまらない場合も出てくるはずだ。全体で見て、どの程度の確率で当てはまるのかというデータが欲しい。

有効性を示す明確なエビデンスがないのならば、胡散臭い分析手法だと見なすべきだろう。投資初心者に「テクニカル分析が役に立つ」と伝えるのは、やはり感心しない。


※今回取り上げた記事「買うタイミングはこう探す~株価チャートは宝の山」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24725


※記事の評価はD(問題あり)

2020年9月18日金曜日

無駄な規制と断じる根拠が…日経1面連載「菅新政権 政策を問う(1)」

国の規制はとにかく廃止すればいい訳ではない。18日の日本経済新聞朝刊1面に載った「菅新政権 政策を問う(1)規制改革で『幻の3%』取り戻せ」という記事の筆者も異論はないはずだ。「国民が得られるはずの利益を規制が奪うケースはいくつもある」と具体例を紹介するならば「なるほど」と納得できる材料を示してほしい。今回はそれができているとは思えない。

有明佐賀空港 空港公園のYS-11型機
      ※写真と本文は無関係です

当該部分を見ていこう。


【日経の記事】

長年維持される「岩盤規制」は簡単には崩れない。国民が得られるはずの利益を規制が奪うケースはいくつもある

ネット企業のBotExpress(東京・港)は10日、総務省を相手に東京地方裁判所に訴えを起こした。同社が4月に始めたLINEアプリで住民票を取り寄せられるサービスに「待った」をかけられたからだ。

総務省は「国が求める電子署名で本人確認をしていない」として全国の自治体に導入しないよう通知を出した。しかしLINEは広く国民に普及し、新サービスでは顔認証など最新技術も導入している

中島一樹社長は「国の規制は民間のアイデアや技術を阻害する。規制を解いてくれればイノベーションはもっと前進するのに」と憤る。


◎BotExpressの肩を持つ根拠は?

総務省は『国が求める電子署名で本人確認をしていない』として全国の自治体に導入しないよう通知を出した」という。なりすましのリスクを考慮しているのだろう。この「通知」に対する反論は「LINEは広く国民に普及し、新サービスでは顔認証など最新技術も導入している」だ。「広く国民に普及」していることは、なりすましリスクの低減にはつながらない。問題は「顔認証など最新技術も導入している」から、なりすましを防げるかどうかだ。

これに関しては、説明が不十分なので何とも言えない。なのに「国民が得られるはずの利益を規制が奪うケース」に仕立てている。「LINE」を使うのだから、本人の写真を使って「顔認証」をクリアできるのではないかと思えるが、記事中に答えはない。

国が求める電子署名で本人確認」をすべきだと「総務省」が求めているのならば「BotExpress」が応じれば済むような気もする。それが難しい事情があるのだろうが、これまた記事には情報がない。

LINEアプリで住民票を取り寄せられるサービス」が仮に便利なものだとしても、なりすましのリスクが高ければ「国民が得られるはずの利益を規制が奪うケース」と見なすのは早計だ。「国民」に被害が及ばないようにきちんと「規制」した「ケース」かもしれない。

なのに「国の規制は民間のアイデアや技術を阻害する。規制を解いてくれればイノベーションはもっと前進するのに」という「BotExpress」社長のコメントを使ってしまう。

別に「総務省」を擁護したいのではない。おかしな「規制」だと納得できれば「中島一樹社長」と思いを共有できる。だが、記事にはそれに必要な材料が見当たらない。

それに「国が求める電子署名」は「長年維持される『岩盤規制』」なのかとの疑問も残る。「電子署名」自体の歴史がそれほど長くない気もするが…。


※今回取り上げた記事「菅新政権 政策を問う(1)規制改革で『幻の3%』取り戻せ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200918&ng=DGKKZO64002610X10C20A9MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年9月17日木曜日

米国の人口が「4億人」を超えるのはいつ? 東洋経済の特集「アメリカの新常識」内に矛盾

「(米国では)このままいくと40年に総人口は4億人を超え、45年までに白人の割合は半数を割ると予測されている」と慶応大学の渡辺靖教授が週刊東洋経済に書いている。しかし同じ特集の中に出てくるグラフのデータと大きく食い違う。

大雨で冠水した福岡県久留米市内
     ※写真と本文は無関係です

東洋経済には以下の内容で問い合わせを送った。


【東洋経済への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集長 山田俊浩様  副編集長 宇都宮徹様  解説部長 野村明弘様  中村稔様   

9月19日号の特集「アメリカの新常識」についてお尋ねします。この中の「トランプ政治は『最後のあがき』か~『左』へ旋回する米国社会」という記事で、筆者の渡辺靖 慶応大学教授は「(米国では)このままいくと40年に総人口は4億人を超え、45年までに白人の割合は半数を割ると予測されている」と記しています。

一方、31ページに載せた「米国の人種・民族別人口の将来推計」というグラフを見ると、「40年」時点での人口は3億7000万~3億8000万人程度で、「4億人を超え」るのは55年頃です。出所はピュー・リサーチ・センターとなっています。渡辺教授の記事ではどこが出した「予測」か明らかにしていませんが、揃えていると考えるのが自然です。

この齟齬はなぜ生じているのですか。どちらかが誤っているのではありませんか。いずれも問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

45年までに白人の割合は半数を割ると予測されている」との記述もグラフと整合しません。グラフによると「白人(非ヒスパニック系白人とヒスパニック系白人の合計)」は40年時点で70%を超えており「45年」でも「半数」を大きく上回る見通しです。

これは渡辺教授が「白人非ヒスパニック系白人」と捉えているからだと思われます。しかしグラフには「ヒスパニック系白人」という区分もあります。にもかかわらず「ヒスパニック系白人」を「白人」から除外するのは無理があります。

記事には「30年前に約76%だった白人の割合は2018年には約60%にまで減少した」との記述もあります。「ヒスパニック系白人」を「白人」に入れれば「2018年」の「白人の割合」は8割近くになり、かなり話が違ってきます。

最後に「米国の歴史上死者が多かった出来事」というグラフについても問題点を指摘しておきます。

3位に「第2次世界大戦」、8位に「ノルマンディーの戦い」となっていますが、ノルマンデー上陸作戦は「第2次世界大戦」の一部です。「ノルマンディーの戦い」を除いてランキングを作成すべきでしょう。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

※今回取り上げた記事「トランプ政治は『最後のあがき』か~『左』へ旋回する米国社会
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24677


※記事の評価は見送る

2020年9月16日水曜日

英国も「総人口の3割近くが首都圏に」と日経 斉藤徹弥論説委員は言うが1面記事と矛盾

東京とロンドンは、人口が増え、総人口の3割近くが首都圏に集中する状況は似ている」と日本経済新聞の斉藤徹弥論説委員が書いている。しかし、同じ日の朝刊1面の記事では「全人口に占める東京圏の人口の割合は29%(15年国連推計)。ニューヨーク(6%)やロンドン(13%)、上海(2%)など各国主要都市圏と比べても突出して高い」と別の筆者が書いており、矛盾している。斉藤論説委員の記事が間違っていると思えたので、以下の内容で問い合わせを送った。

大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 論説委員 斉藤徹弥様 

16日の朝刊オピニオン面に載った「中外時評~菅氏が迫る地方の構造改革」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「東京とロンドンは、人口が増え、総人口の3割近くが首都圏に集中する状況は似ている。だが地方との関係では、コロナ禍で和らぐ傾向があるものの東京は転入超過が続いてきたのに対し、ロンドンは転出超過と正反対だ」との記述です。

同日朝刊1面の「働き手、地方めざす~テレワーク定着、東京圏が転出超」という記事で、松井基一記者と北爪匡記者は以下のように記しています。

全人口に占める東京圏の人口の割合は29%(15年国連推計)。ニューヨーク(6%)やロンドン(13%)、上海(2%)など各国主要都市圏と比べても突出して高い

東京圏の人口の割合」は「29%」としているので、「3割近く」とした斉藤様と一致します。しかし「ロンドン」に関しては「13%」で「総人口の3割近くが首都圏に集中する状況」とは言えません。国土交通省が出している資料などのデータも1面の記事に近いので、斉藤様の記述が誤りではないかと見ています。

東京とロンドンは、人口が増え、総人口の3割近くが首都圏に集中する状況は似ている」との記述は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

東京は転入超過が続いてきた」との説明にも注文を付けておきます。1面の記事では「総務省の人口移動報告で7月、2013年に統計が現在の調査方法になってから初めての現象が起きた。東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)からの転出者が転入を上回り、1459人の転出超過になった」と記しています。

東京都の人口、7月は再び転出超」という8月29日付の日経の記事によれば、東京都に関しては「5月に続き7月も転出超過」です。「東京は転入超過が続いてきた」との説明は誤りとは言いませんが、誤解を招くものになっているのではありませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


1面の記事の「全人口に占める東京圏の人口の割合は29%(15年国連推計)。ニューヨーク(6%)やロンドン(13%)、上海(2%)など各国主要都市圏と比べても突出して高い」という説明にも注文を付けておきたい。国土交通省の資料によると2017年時点でソウル都市圏(京畿道、仁川広域市を含む)の「人口の割合」は49.6%で「東京圏」をはるかに上回る。

東京圏」を「突出して高い」と表現するためにソウルを比較対象から除いたのではないかとの疑いは残る。


※今回取り上げた記事「中外時評~菅氏が迫る地方の構造改革

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200916&ng=DGKKZO63869970V10C20A9TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。斉藤徹弥論説委員の評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。斉藤論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

土地が自然に返ると「国土縮小」? 日経 斉藤徹弥論説委員の「中外時評」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_9.html

2020年9月15日火曜日

「菅義偉氏が学費をためた経緯」同じ日の日経朝刊で2つの異なる説明が…

自民党総裁選で「菅義偉」氏が勝利したのを受けて、日本経済新聞でも多くの関連記事を載せている。その中で矛盾を感じる記述があった。日経には以下の内容で問い合わせを送っている。

大雨で冠水した道路(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

15日朝刊の記事についてお尋ねします。1面コラム「春秋」には以下の記述があります。 

自民党の新総裁に決まった菅義偉さんは、1948年生まれで『団塊の世代』に属する。秋田県の高校を出て、東京の段ボール工場に入るが2カ月でやめたという。その後、種々のアルバイトで学費をため、大学へ進学した逸話は総裁選中、よく知られるようになった

これを信じれば、「菅義偉さん」は「段ボール工場」を「やめた」後の「種々のアルバイトで学費をため」たはずです。一方、特集面の「菅氏、たたき上げ『令和おじさん』~総裁までの歩み」という記事では「高校卒業後、東京に出たものの大学に通うお金はなかった。板橋区の段ボール工場で働きながら学費を稼ぎ、当時、授業料が安いとの理由で法政大を選ぶ」と書いています。こちらを信じれば「段ボール工場で働きながら学費を稼ぎ」出したはずです。

同じ日付の朝刊の中で、読者を混乱させる説明になっていると思えます。どう理解すればいいのか教えてください。


◇   ◇   ◇

段ボール工場で働きながら学費を稼ぎ」、さらに「種々のアルバイトで学費をため」たと弁明すれば逃げられるような気はする。ただ「春秋」の記述からは、「段ボール工場」勤務では「学費をため」ていないと取れる。

面が違うのでチェックも別々の人間がやっている可能性が高い。なので整合性の問題に気付きにくいとは思うが「実際はどうだったのか」はしっかり確認しておいてほしい。


※今回取り上げた記事

春秋

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200915&ng=DGKKZO63841170V10C20A9MM8000


菅氏、たたき上げ『令和おじさん』~総裁までの歩み

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200915&ng=DGKKZO63801400U0A910C2M10600


※記事の評価は見送る

「戦う意思なし」と宣言すれば米中戦争に巻き込まれない? 楽観的過ぎる寺島実郎氏

週刊東洋経済9月19日号の特集 「アメリカの新常識」の中の「INTERVIEW 日本総合研究所会長 寺島実郎『日米同盟のあり方を見直す重要な機会に』」という記事で、寺島氏の発言が気になった。「考えが甘すぎるのでは?」と感じたくだりを見ていこう。

大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です


【東洋経済の記事】

東アジアでも、米中対立がエスカレートして偶発的な軍事衝突が起き、火が燃え広がるかもしれない。中国も異常な焦燥感の中にある。香港を見つめて対中不信が爆発した台湾で蔡英文総統が再選され、コロナ制御で台湾の国際的評価も高まる中、米国の台湾への肩入れが強まっているためだ。習近平国家主席はここを先途と台湾への武力介入をちらつかせている。

忘れてはならないのは、「台湾には米軍基地がない」という事実だ。もし台湾に中国が武力介入し、米国が台湾防衛の行動を起こせば、中国に沖縄や岩国の米軍基地を攻撃する根拠を与える。集団的自衛権で米軍との一体化を強めた日本は、米中戦争に自動的に巻き込まれるサイクルの中にある

日本が今やるべきことは、武力で「台湾解放」をしようという中国に異議を申し立てると同時に、武力で紛争解決をしない国として、台湾問題を理由に軍事衝突を選択する意思はまったくないことを国際社会に示しておくことだ。巻き込まれてしまった後では遅い

一方、中国が猛烈な圧力を加える尖閣諸島の問題では、米国は日中の対立に巻き込まれるのを忌避している。要するに、日米同盟さえあれば平和と安全が守られるという単純な話ではないことに、日本人はもう気づかねばならない。米国への過剰同調で日米中の関係を考えれば、いやでも対立の中に吸い込まれるだけだ。

バイデン政権に代わっても、米中の緊張関係は変わらない。大事なのは、東アジアの安全保障を考えるうえで、極めて重要なタイミングに来ているということだ。

米中の間に立ち、意思疎通のパイプをつくるなど、日本が果たすべき役割は大きい。同時に、米国の戦争に自動的に巻き込まれることのないよう、主権国家として、米軍基地縮小や地位協定見直しを含め、日米同盟の再設計を試みる必要がある。新型コロナというグローバルな問題に対処するためにも、米国を一国主義的な陶酔感の中に放っておかず、国際協調の流れをつくらねばならない。日本人にとって米大統領選は、そうした根本問題に正面から向き合う機会と捉えるべきだ。


◎「意思」を示せば大丈夫?

台湾に中国が武力介入し、米国が台湾防衛の行動を起こせば、中国に沖縄や岩国の米軍基地を攻撃する根拠を与える。集団的自衛権で米軍との一体化を強めた日本は、米中戦争に自動的に巻き込まれるサイクルの中にある」という考えに異論はない。問題はその後だ。

武力で紛争解決をしない国として、台湾問題を理由に軍事衝突を選択する意思はまったくないことを国際社会に示しておくことだ。巻き込まれてしまった後では遅い」と寺島氏は言う。そんな「意思」を示して何の役に立つのか。

沖縄や岩国の米軍基地」からやってくる艦船や航空機によって中国軍に甚大な被害が出ているとしよう。その時、「日本は『台湾問題を理由に軍事衝突を選択する意思はまったくない』と言ってたから『沖縄や岩国』には一切手を出さないでおこう」と中国が考えてくれるだろうか。いくら何でも甘すぎる。

「台湾問題で米中が衝突した時に集団的自衛権は行使しない。日本国内の米軍基地の使用は一時的に凍結する」といった措置を取れば「米中戦争に自動的に巻き込まれるサイクル」から逃れられるかもしれない。だが、寺島氏はそこまで求めていない。

米国と同盟関係を結んでおいて基地まで置かせて「米中戦争に自動的に巻き込まれるサイクル」から逃れられると期待する方がおかしい。「日米同盟」の基本的な枠組みを維持するのならば「米中戦争」ではべったりと米国側に付くしかない。

主権国家として、米軍基地縮小や地位協定見直しを含め、日米同盟の再設計を試みる必要がある」とは寺島氏も言っている。だが「地位協定見直し」は中国にはあまり関係がなさそうだ。「米軍基地縮小」は多少の影響があるだろうが、「縮小」しても「米軍基地」が残るのならば「中国に沖縄や岩国の米軍基地を攻撃する根拠を与える」ことに変わりはない。

だったら、日米同盟を破棄して「米中戦争に自動的に巻き込まれるサイクル」から逃げ出せばいいのではと感じる。

「その代わりに尖閣諸島を中国に奪われるぞ」との反論があるかもしれないが、寺島氏によると「中国が猛烈な圧力を加える尖閣諸島の問題では、米国は日中の対立に巻き込まれるのを忌避している」らしい。だったら何のための「日米同盟」なのか。

日米同盟さえあれば平和と安全が守られるという単純な話ではないことに、日本人はもう気づかねばならない」と寺島氏は言うが、個人的には「日米同盟さえあれば平和と安全が守られる」とは昔から思っていない。むしろ「平和と安全」を脅かすものだと感じる。

なのに「日米同盟の再設計を試みる必要がある」などと、あくまで「日米同盟」の存続を前提に物事を考える理由が分からない。「日米同盟」は本当に「平和と安全」に寄与するものなのかという「根本問題」を考えるべき時期に来ているのではないか。


※今回取り上げた記事「INTERVIEW 日本総合研究所会長 寺島実郎 『日米同盟のあり方を見直す重要な機会に』

https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24671


※記事の評価は見送る

2020年9月12日土曜日

「大学の投資サークルで理系学生が増えている」が怪しい日経夕刊1面の記事

 12日の日本経済新聞夕刊1面に載った「投資サークル 理系集う~データ分析で相場読む、大学生も資産形成に関心」という記事はどうも怪しい。筆者の田中嵩之記者は「大学の投資サークルで活動する理系学生が増えている」と言い切るが、根拠に欠ける。

Tea Way ゆめタウン久留米店
      ※写真と本文は無関係です

記事の最初に出てくるのが「東京大学の投資サークル『エージェンツ(Agents)』」。「エージェンツのメンバー20人のうち、半数が工学部など理系の学生。2002年の設立時は法学部生などが多かったが、10年ごろから理系が増えている」という。

つまり今の「エージェンツ」には「理系の学生」が10人しかいない。「増えている」と言っても、そもそも絶対数が少ない。しかも最近になって増えてきたとは書いていない。「10年ごろ」よりも多いというだけだ。そして、どの程度の増加なのかも触れていない。

非常に苦しい。しかし、これが「大学の投資サークルで活動する理系学生が増えている」と田中記者が言い切る最大の根拠だ。

19年設立の北海道大学の『北海道学生投資研究会』でも部員40人強の半分が理系」らしい。それまで「投資サークル」がなかったのならば「理系学生が増えている」と言えば増えている。しかし文系学生も同様に「増えている」。「理系学生」だけを切り出すのは無理がある。

記事には慶応大学の「実践株式研究会」も出てくるが「理系学生」の増加には触れていない。結局、「大学の投資サークルで活動する理系学生が増えている」と夕刊1面で言い切るに足る確かな情報はない。

なのに「若者世代での資産運用への関心の高まりも、投資サークルでの理系学生の増加につながっている」などと書いている。まともに受け止める気にはなれない。


※今回取り上げた記事「投資サークル 理系集う~データ分析で相場読む、大学生も資産形成に関心

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200912&ng=DGKKZO63778390S0A910C2MM0000


※記事の評価はD(問題あり)。田中嵩之記者への評価も暫定でDとする。

「慢性的なデフレ体質」なのに「物価は少しずつ上昇」? 加谷珪一氏の「貧乏国ニッポン」に注文

今回は経済評論家の加谷珪一氏が書いた「貧乏国ニッポン」という本を取り上げたい。面白いとは感じたが、ツッコミどころは多かった。本には出版元である幻冬舎のメールアドレスが載っていたので、以下の内容で感想を送ってみた。

二連水車(福岡県朝倉市)
      ※写真と本文は無関係です



【幻冬舎へのメール】

加谷珪一様 幻冬舎 担当者様

貧乏国ニッポン」を読ませていただきました。一気に読めたのは、文章が読みやすく興味深い内容だったからだと思います。ただ、いくつか気になる点がありました。

まずは誤りだと思える説明についてです。

54ページで「現時点において日本よりも1人あたりのGDPが3割以上高い国としては、米国、シンガポール、スイス、香港、マカオなどがあります」と記しています。「香港」と「マカオ」は「」ではありません。

114ページで「早期のリタイアを目指す『FIRE』」という米国の運動に触れたくだりも誤りに近いと感じました。ここでは「1億円の資産があれば、安全資産に投資することで年間300万円程度の不労所得が得られます」と説明しています。執筆は今年4月のようですが、その時点で10年物の米国債利回りは1%を割り込んでいます。「安全資産に投資することで年間300万円程度の不労所得」を得るのは非常に難しいのではありませんか。

157ページの「戦後の世界経済の枠組みはすべて米国が作り上げたものです」との記述も引っかかりました。この説明が正しければ、ソ連を中心とする共産圏の「経済の枠組み」も「米国が作り上げたもの」ということになります。そう信じて良いのでしょうか。

162ページの「実際、日本の労働生産性は先進国中最下位」という記述も誤りだと思えます。2018年の数値を見ると、1人当たりでも時間当たりでも「日本の労働生産性」はニュージーランドを上回っています。「先進国」の定義は様々ですが、ニュージーランドを除外するのはかなり無理があります。

本の内容から判断すると、加谷様は「先進国=米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、日本」と認識しているようですが、例えばオランダやスイスは先進国ではないのですか。G7に限定して論じたいのならば「主要先進国で最下位」などと表記すべきでしょう。

世界経済の枠組み」と「日本の労働生産性」の話は第5章「そもそも経済大国ではなかった」に出てきます。

そもそも経済大国ではなかった」というタイトルなのに「経済大国」だったのかどうかを論じていないのも引っかかりました。第5章では「日本は豊かだったのか」が話の中心になっています。「経済大国」かどうかは、その国の経済規模からかなり簡単に判断できるはずです。例えば、GDPで世界の10位以内に入っていれば「経済大国」と定義すれば、日本は今も30年前も「経済大国」でしょう。「統計に不備がある」「別の定義で考えるべきだ」といった話をしているかと言えば、そうでもありません。ここは不満が残りました。

第5章には「筆者は日本が貧しいということを声高に主張したいわけではありませんが~」との記述もあります。であれば本のタイトルを「貧乏国ニッポン」にしたのは解せません。最も強く「主張」したいことに沿ったタイトルにすべきではありませんか。

こうした問題は他にもあります。89ページには「世界全体をひとつの会社」だと見なして「(20年前に比べて)日本君は年収も横ばいですが、物価もほぼ横ばいなので、日本君の生活水準はあまり変化していません」と説明しています。ところが90ページでは一転して「日本君だけが昇給から取り残され、物価は輸入品の影響を受けてじわじわ上昇しているため、生活水準が年々下がっているというのが現状です」となってしまいます。

物価」は「ほぼ横ばい」なのか「じわじわ上昇」なのか。「生活水準」は「あまり変化していません」なのか「年々下がっている」のか。完全に矛盾しているとは言いませんが、整合性に問題があります。

さらに言うと、加谷様はこの本の中で「日本が慢性的なデフレ体質だというのは、近年のみの話」とも書いています。「慢性的なデフレ体質」なのに「物価」が「じわじわ上昇」しているのは奇妙です。「アベノミクスのスタート以降、物価は少しずつ上昇していることが分かります。モノの値段は着実に上がっており、多くの国民の生活は苦しくなっています」とも加谷様は述べています。これも「近年」は「慢性的なデフレ体質」という説明と整合しません。

最後に「日本経済が低迷から脱出できない最大の理由は、日本企業のビジネスモデルが薄利多売をベースにした昭和型の形態から脱却できておらず、競争力が低いままで推移していること」にあるという解説にも疑問を呈しておきます。

まず「競争力が低いまま」なのかについてです。「スイスのIMDという組織が毎年発表している世界競争力ランキングという指標」に触れて「日本のランキングが年々下がり、(1989年の)1位から30位まで低下してしまった」「主要国の中で、一方的に順位が下がっているのは日本だけ」と加谷様は説明しています。だとすると「競争力が低いままで推移している」のではなく、高いところから「下がって」きたと見るのが自然です(どの期間で見るかという問題はあります)。

それに「薄利多売をベースにした昭和型の形態」で「世界競争力ランキング」のトップに上り詰めたのに、なぜそこから「脱却」しなければならないのかも説明していません。

色々と注文を付けてきましたが「何かひとつの方策ですべてが解決するといった魔法のような解答を求めること自体が、一種の『甘え』」といった考え方には賛同できます。

整合性の問題などに注意していけば、さらに優れた提言ができるのではと感じました。参考にしていただければ幸いです。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた本「貧乏国ニッポン


※本の評価はD(問題あり)

2020年9月11日金曜日

「バンクシー作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と誤解した日経 中村直文編集委員

日本経済新聞の中村直文編集委員は相変わらず説明が雑だ。「バンクシー作品は落書きだから消されるし、作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と書いているが「描いた場所」以外でも「鑑賞」できるはずだ。「バンクシー作品は落書きとして消されることもあるし、描いた場所でしか鑑賞できないものも多い」などと記せば問題はなさそうなのに…。

大雨で増水した筑後川(福岡県朝倉市)
    ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送っている。


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 中村直文様 

11日の朝刊企業1面に載った「ヒットのクスリ~バンクシーに学ぶ発信力 消費者動かす『毒舌』『不良』」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「バンクシー作品は落書きだから消されるし、作品は描いた場所でしか鑑賞できない」という記述です。

記事では「横浜市で開催中の『バンクシー展』も人気だ。コレクターから借りた作品など70点以上あり、映像や写真なども含め全世界のバンクシー作品が一堂に会している」と説明しています。これを信じれば「70点以上」の「作品」を「横浜市」で「鑑賞」できるはずです。「バンクシー作品」が「描いた場所でしか鑑賞できない」とは思えません。

新型コロナウイルスの感染拡大の中で英国の病院に絵を寄贈した」「オークションでは桁外れの金額で落札される」とも中村様は書いています。こうしたことも「描いた場所」以外でも「鑑賞」できると示唆しています。

バンクシー作品」は「描いた場所でしか鑑賞できない」という説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

バンクシー作品は落書きだから消される」との説明も問題なしとしません。「消され」た作品もあるようですが、近年は多くが「保存」されているのではありませんか。

2019年6月3日付の日経の記事でも「出身地とされる英国ではかつて『落書き』とされたが『芸術』として評価されつつあり、自治体のお墨付きを得て街の活性化に一役買っている」と「保存」の動きを紹介しています。

さらに言えば「紛争の絶えない地域でリゾートのだまし絵を描いたり、石の代わりに花束を投げる若者を描いたり」との記述も引っかかりました。記事中の写真でも分かるように「花束を投げ」ているのは間違いありません。しかし「石の代わり」とは言い切れません。「火炎瓶の代わり」といった解釈もできるでしょう。「石の代わり」と断定して良いのですか。

最後に「機動隊に火炎瓶を投げる笑顔のクマやチンパンジーだけの英国議会など不気味だが、滑稽だ」という文に注文を付けておきます。これだと「『機動隊に火炎瓶を投げる笑顔のクマやチンパンジー』だけの英国議会」とも取れます。「機動隊に火炎瓶を投げる笑顔のクマや、チンパンジーだけの英国議会」と読点を打つべきです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

生真面目さでは面白い商品は作れない。現状否定が必要なわけで、少しでいいから反抗心を育もう

中村様は今回の記事をこう締めています。多くのミスを放置する日経のやり方にも「少しでいいから反抗心」を持ってみませんか。今の日経にも「現状否定が必要」だと思えます。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~バンクシーに学ぶ発信力 消費者動かす『毒舌』『不良』

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200911&ng=DGKKZO63615640Z00C20A9TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html

「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html

データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_17.html

2020年9月9日水曜日

世間の空気に合わせて変節? 日経 田中陽編集委員「真相深層~コンビニ 崩れた方程式」

 8日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「真相深層~コンビニ 崩れた方程式 公取委が24時間営業の強制に警告 店主軽視のツケ、関係ひび」という記事は悪い出来ではない。だが、筆者の田中陽編集委員がこれまで「コンビニエンスストア本部」寄りの記事を書いてきたことを考えると納得できない部分もある。

大雨で増水した筑後川(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

まずは8日の記事の一部を見ていこう。


【日経の記事】

公正取引委員会は9月2日、コンビニエンスストア本部が加盟店のオーナーに24時間営業を強制することは独占禁止法違反の恐れがあると明確にした。約束に反して近隣に出店して加盟店を支援しないことなども指摘。本部とオーナーの認識のズレは、10年以上も前から存在する古くて新しい問題だ

「覚悟はしていたが、これほど厳しい内容になるとは」

大手コンビニエンスストアの幹部は、公取委がコンビニ本部と加盟店の関係改善を求めたことに口調が重かった。営業時間、出店、仕入れ、価格設定など多岐にわたりコンビニ経営に独禁法で網をかけられた形だ。この幹部は「まるで『箸の上げ下げ』まで言われるようなもの」と語った。

公取委がコンビニについて関心を持ち始めたのは2000年ごろから。02年に「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(ガイドライン)を公表すると、コンビニ各社や業界団体は公取委に事前相談するケースが増え、そのたびに「一応のお墨付きをいただいてきた」(あるチェーンの元渉外担当)としていた。

だが、本部とオーナーの関係改善という肝心な改革については自ら踏み込めなかった。コンビニは「変化対応業」と言われながら、社会がコンビニを見る目の変化に対応するのを怠ったのだ

理由は公取委が問題視しているフランチャイズ契約が本部にとって使い勝手のよい内容だからだ。裏返せば、オーナーにとっては使い勝手の悪いものにほかならない。本部とオーナーは対等の関係がうたい文句のはずだが、公取委の菅久修一事務総長は「優位劣位になりやすい」と断じた。


◎問題に気付いていた?

本部とオーナーの認識のズレは、10年以上も前から存在する古くて新しい問題だ」という書き方だと田中編集委員はかなり前から「問題」の存在に気付いていたような印象を受ける。そして「コンビニは『変化対応業』と言われながら、社会がコンビニを見る目の変化に対応するのを怠った」と断じている。

ならば田中編集委員は「コンビニ」に厳しい視線を向けてきたのだろうか。過去の記事から判断すると逆だ。

2019年3月8日付の「セブン『東大阪の乱』~正念場の24時間営業」という記事で田中編集委員は以下のように書いている。


【日経の記事】

さて、今回の問題。人手不足による店舗運営が円滑に行かない事態は数年前からわかっていた。生産性を上げるために店舗内作業の自動化、消費期限が長く廃棄ロスを抑える食品の開発の加速はその背景にある。そして世論に押される形で営業時間短縮の実験に着手。24時間営業の是非を検証する。

日本でコンビニが誕生して40年超。経済成長、人口増が見込めた時代からビジネスモデルの核となる24時間営業とそれを支えるフランチャイズ契約の根幹は変わっていない。

実験でも24時間営業は譲れない一線だろう。ただ、共同配送が革新的な取り組みであることを世間に納得してもらったように24時間営業の必要性をどれだけ世間とオーナーに納得させることができるのか

セブンはこれまでも様々なイノベーションによって店舗運営を効率化すると同時に、消費者の支持を集めてきた。合成の誤謬を解きほぐすイノベーションをつくり上げることで「持続可能な社会」の一員に踏みとどまれるはずだ


◎「イノベーション」で解決できるはずでは?

実験でも24時間営業は譲れない一線だろう」などと書いており、この段階では「24時間営業」の維持に理解を示している。「イノベーション」によって「24時間営業とそれを支えるフランチャイズ契約の根幹」を変えずにやっていけると田中編集委員は見ていたはずだ。

しかし8日の記事では「コンビニは『変化対応業』と言われながら、社会がコンビニを見る目の変化に対応するのを怠った」と書いている。世間の流れに合わせて「コンビニエンスストア本部」に厳しい姿勢に変化しているように見える。

それがダメだとは言わないが、セブン&アイや、その絶対権力者だった鈴木敏文氏をやたらと称えてきた自らの不明を記事の中で少しは恥じてほしい。


※今回取り上げた記事

真相深層~コンビニ 崩れた方程式 公取委が24時間営業の強制に警告 店主軽視のツケ、関係ひび」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200909&ng=DGKKZO63605730Y0A900C2EA1000

セブン『東大阪の乱』~正念場の24時間営業」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42144630X00C19A3X12000/


※「真相深層」の評価はC(平均的)。田中陽編集委員への評価はDを据え置く。田中編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「小売りの輪」の説明が苦しい日経 田中陽編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_21.html

「セブン24時間営業」の解説が残念な日経 田中陽編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24_11.html

日経 田中陽編集委員の「経営の視点」に見えた明るい兆し
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_12.html

セブンイレブン「旧経営陣」の責任問わぬ日経 田中陽編集委員の罪
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/blog-post_11.html

2020年9月8日火曜日

「訴えたいこと」がないのが透けて見える日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」

訴えたいことがないのに頑張って紙幅を埋めている記事を見ると辛くなる。 8日の日本経済新聞朝刊投資情報面に藤田和明編集委員が書いた「一目均衡~バフェット氏の『日本』再発見」という記事もそうだ。「米投資家ウォーレン・バフェット氏」 が日本の「商社株を取得した」という話に絡めて1本作れないかと考えたのだろう。だが「訴えたいこと」が定まっていないので、まとまりのない展開になっている。

大雨で増水した筑後川(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

最初の段落から見ていこう。


【日経の記事】

「日本と5社の未来に参画できることをうれしく思う」。商社株を取得した米投資家ウォーレン・バフェット氏。これまで同氏が唯一公式に訪れた日本企業がある。福島県いわき市のタンガロイだ。

超硬工具を手掛ける同社は東芝系列を離れた後、イスラエル系企業の傘下に入った。その大株主がバフェット氏だ。2011年秋、東日本大震災で8カ月遅れた新工場の竣工式を訪れたのだ。

「困難に立ち向かう日本人の力のすごさを評価する言葉が心に残った」と木下聡社長は話す。最新鋭の工場を丹念に見て回り、社員一人ひとりと笑顔で写真を撮影。「自分が若い技術者なら就職したい」と励ました

木下社長はバフェット氏の求める経営を実践する。「持続的な成長、高い競争力、社会に必要とされるの3つを突き詰める」。これが当たり前で、かつ30年、50年と続けるのはこの上ない緊張を伴う。

価値を高くするため新製品の開発ペースを年40~50個に上げ、世界へ販路を拡大。売上高は7年前から5割増え、今や売上高純利益率が20%を超える高収益企業になった。


◇   ◇   ◇


まず「タンガロイ」の事例だ。「バフェット氏」の発言は「自分が若い技術者なら就職したい」というだけ。そして「バフェット氏の求める経営を実践」した結果、「高収益企業になった」らしい。ここまでは特に問題はない。これが今後に生きてくるかどうかだ。

2番目の事例を見よう。


【日経の記事】

スパークス・グループの阿部修平社長も、バフェット氏に直接会った一人だ。18年にネブラスカ州オマハにある同氏の執務室を訪れる機会を得た。投資先から上がる事業の詳細な報告書を読んで一日中過ごす、質素な部屋だった。

30万人規模のグループを本社20人ほどで管理する。傘下企業を率いるための重要な業績評価指標(KPI)は何かと阿部氏は質問をぶつけてみた。返事は「特にない」。

信じる経営者に託すスタイルだ。ただ自分の考えている通りかを常に細かくみる。もし違っていれば、納得するまでなぜかと問うのだろう。阿部氏にはそう映った。


◇   ◇   ◇


この事例はかなり苦しい。「バフェット氏」の発言は「特にない」だけ。そして「自分の考えている通りかを常に細かくみる。もし違っていれば、納得するまでなぜかと問うのだろう」と「阿部氏」に推測させている。

ただ、最終的にうまく繋がるなら許容範囲だ。

そして、いよいよ「商社」の話に入っていく。


【日経の記事】

永久保有を前提とするオーナーの振る舞い割安に投資した事業が10年、20年と高収益を上げれば、もうけはスノーボールのように大きくなる。今回の商社株買いは「割安で、その投資に値するとのメッセージだ」(阿部氏)。


◎「永久保有を前提」?

永久保有を前提とするオーナーの振る舞い」という記述がまず引っかかる。「バフェット氏」の投資は「永久保有を前提」としているのか。5月14日付の記事で日経は「バフェット氏、米大手地銀株を一部売却 航空株に続き」と報じている。この記事によると「米航空株」に関しては「全て売却した」らしい。それがどうして「永久保有を前提」となるのか。

オーナーの振る舞い」も引っかかる。報道によると、大手商社への出資比率の上限は9.9%のようだ。これだと「バフェット氏」は「オーナー」にはなれない。「オーナー」ではないのに「オーナーの振る舞い」を大手商社にしていくということか。藤田編集委員が何を言いたいのかよく分からない。

それに2つの事例が生きていない。

割安に投資した事業が10年、20年と高収益を上げれば、もうけはスノーボールのように大きくなる」のはその通りかもしれないが、「タンガロイ」に関して「割安に投資した」とは書いていない。「10年、20年と高収益を上げ」たと取れる記述もない。

また「自分の考えている通りかを常に細かくみる。もし違っていれば、納得するまでなぜかと問う」という話との関連もほぼない。

結局、2つの事例との関連が乏しいまま話は進んでいく。


【日経の記事】

商社に対し、例えば米フィデリティ・インベストメンツのジョエル・ティリングハスト氏は「中国事業、IT(情報技術)と消費者ビジネス、デジタル化をうまく捉えられれば、株主に利益をもたらす」とみる。さらに「変革や成長期待がある他の割安株を探すきっかけにもなる」(野村証券の本谷大輔執行役員)。

バフェット氏が発見した日本株の価値。それは同時に、長期投資とは何か、優れた経営とは何かという本質を日本に問うことになる。

長期投資だからこそ、バフェット氏は高い自己資本利益率(ROE)を大事にする。もうけなければ、競争力を高める手を打ち続けることはできないし、結局は雇用も取引関係も長くは保てない。


◎漠然とした話に…

ここに来て「バフェット氏が発見した日本株の価値。それは同時に、長期投資とは何か、優れた経営とは何かという本質を日本に問うことになる」という漠然とした話に移っていく。

長期投資だからこそ、バフェット氏は高い自己資本利益率(ROE)を大事にする」と藤田編集委員は言うが、だったら大手商社の「ROE」は日本株の中で際立って高いのか。そうではないとすると、なぜ「バフェット氏は高い自己資本利益率(ROE)を大事にする」という話を持ち出したのか。

そして最後の段落に辿り着く。


【日経の記事】

「バイ・マイ・アベノミクス」と訴えた安倍政権が終わる。ここからは企業それぞれが高い価値を生み出せるかだ。長きにわたる低迷から脱する日本版スノーボールの物語を自ら紡げるだろうか


◎最後は日本企業全体に…

ここからは企業それぞれが高い価値を生み出せるかだ。長きにわたる低迷から脱する日本版スノーボールの物語を自ら紡げるだろうか」と最後は日本企業全体の漠然とした話で締めてしまう。しかも「日本版スノーボールの物語を自ら紡げるだろうか」と問いかけるだけで自分の考えは示さない「逃げ」の結びだ。

ここからは企業それぞれが高い価値を生み出せるかだ」と藤田編集委員は書いている。しかし、いつの時代も「企業それぞれが高い価値を生み出せるか」を問われているはずだ。急に状況が変わる訳ではない。

記者として長く経験を積んでも訴えたいことが見つからないのならば、書き手としての限界とも言える。ごまかして記事を書き続けるより、そろそろ後進に道を譲った方が良い。そう思えてならない。


※今回取り上げた記事「一目均衡~バフェット氏の『日本』再発見」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200908&ng=DGKKZO63517310X00C20A9DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価もDを据え置く。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html

「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/11.html

日経ビジネス佐伯真也・奥貴史記者の「キオクシア」ヨイショ記事は「スクープ」のお礼?

 「待っていれば発表になるネタは原則として発表を待て」と訴えてきた。発表前に報道しようとするとメディアとしての自由度が低下してしまうからだ。「ネタをくれた相手でも遠慮なく批判できる」という記者もいるかもしれないが、極めて稀だろう。日経ビジネス9月7日号に載った「時事深層~故・成毛氏が守った独立の道、キオクシアHDが上場へ」という記事を読んで、発表前に報じることの弊害を改めて感じた。

大雨で増水した筑後川(福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。


【日経ビジネスの記事】

半導体メモリー大手のキオクシアホールディングスが10月に上場する。上場時の時価総額は2兆円を超える見通しで、今年最大のIPO(新規株式公開)となる。東芝から独立して2年4カ月でかなう悲願。その立役者が初代社長を務めた故・成毛康雄氏だ。

日経ビジネス電子版が8月25日にスクープした通り、半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)が10月6日に上場する。東京証券取引所が8月27日、キオクシアの上場を承認した。上場時の時価総額が2兆1300億円になるとみられる大型案件だ。

「成毛さんにいい報告ができる」。キオクシア関係者からは、東芝メモリの初代社長を務めた故・成毛康雄氏をしのぶ声が聞こえてくる。今年7月に病気のため死去した成毛氏は、東芝のメモリー事業を守り、独立への道筋をつけた立役者だった

1984年の東芝入社後、半導体畑を歩んだ成毛氏は、東芝の不正会計問題が発覚した2015年に半導体事業担当の副社長に就任した。16年末に米原子力大手ウエスチングハウスの巨額損失が明らかになった東芝は債務超過の解消策としてメモリー事業の売却を決断。「社会インフラなどとスピード感が全く違うメモリー事業は独立すべき」。かねてそう考えていた成毛氏は、ベストな独立の形を選ぶために奔走した

時には強硬手段にも打って出た。四日市工場でフラッシュメモリーを共同生産するパートナーであり、メモリー事業の買い手として名乗りを上げた米ウエスタンデジタル(WD)には特に厳しく対応した。17年6月にはWDによる東芝メモリの情報へのアクセスの遮断を決めたほどだ

東芝は00年から米サンディスクと四日市工場に共同投資してきた。そのサンディスクを16年に買収したのがWDだ。買収を機に合弁契約を見直す予定だったが、東芝の経営危機のさなかで中ぶらりんになっていた。

17年に東芝がメモリー事業の売り出しに動いたことで東芝とWDの関係がこじれ始める。WDは売却手続きの即時停止と独占交渉権を主張した。「協業してきたのはサンディスクであって(買収した)WDではない」。当時、成毛氏が周囲にこう漏らしていたように、強引にメモリー事業を買収しようとするWDに対してじくじたる思いがあったようだ。後に成毛氏は「WDの提示額は市場の評価に対してかなり低く、選ぶ理由がなかった」と強硬手段に出た理由を日経ビジネスに語っている。

成毛氏が身をていして守ったメモリー事業は、18年に米投資ファンドのベインキャピタル率いる日米韓連合に約2兆円で売却することで決着。売却後は市場の好不況の波にさらされつつも「3年以内のIPOを目指す」との当初計画通りに上場を決めた。

フラッシュメモリー市場では世界首位の韓国サムスン電子が積極投資を続けて2位のキオクシアを引き離しにかかる。キオクシアは成毛氏の後を継いだ早坂伸夫社長の下、単独で世界の競合企業と渡り合えることを示していく必要がある。


◎「成毛氏」を手放しに称えるが…

記事は「キオクシアホールディングス」の「初代社長を務めた故・成毛康雄氏」を手放しに称える内容になっている。そして「日経ビジネス電子版が8月25日にスクープした通り、半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス(旧東芝メモリホールディングス)が10月6日に上場する」。嫌な臭いを感じずにはいられない。「成毛康雄氏」を含む「キオクシアホールディングス」関係者と日経ビジネスの記者が良好な関係を築き、その結果として「スクープ」が実現したのではないかと勘繰りたくなる。

記事の内容が「キオクシアホールディングス」に厳しいならば別だが、実際は露骨なヨイショだ。佐伯真也記者と奥貴史記者は「キオクシアホールディングス」関係者に取り込まれてしまったように見える。ヨイショ記事でも、その内容に説得力があればいい。しかし、これも怪しい。

今年7月に病気のため死去した成毛氏は、東芝のメモリー事業を守り、独立への道筋をつけた立役者だった」と両記者は言う。ここでの「独立」とは「東芝から」の「独立」だろう。

16年末に米原子力大手ウエスチングハウスの巨額損失が明らかになった東芝は債務超過の解消策としてメモリー事業の売却を決断」したのだから、「独立」は「成毛氏」がそうすべきと考えなくても実現していたはずだ。

成毛氏」がこの問題で動いたと取れるのは「WDによる東芝メモリの情報へのアクセスの遮断を決めた」件だけだ。「米投資ファンドのベインキャピタル率いる日米韓連合に約2兆円で売却することで決着」したことに「成毛氏」が直接的に貢献したと取れる記述はない。

成毛氏」が動かなければ「WD」に売却されていたのならば、まだ話は通る。しかし「WDの提示額は市場の評価に対してかなり低く、選ぶ理由がなかった」のならば「成毛氏」がいなくても「WD」には売却されなかったと見るのが自然だ。

結局、「成毛氏」がどういう決定的な役割を果たしたのかよく分からない。

売却後は市場の好不況の波にさらされつつも『3年以内のIPOを目指す』との当初計画通りに上場を決めた」とあくまで「成毛氏」に寄り添う姿勢を両記者は見せるが、「キオクシアホールディングス」の2020年3月期の営業損益は1731億円の赤字。なのに記事では、赤字にも「成毛氏」の責任にも触れていない。

他のメディアに先駆けて記事にするのは記者として快感ではある。だが、それと引き換えに失うものも大きい。佐伯記者と奥記者は「キオクシアへの遠慮なんて微塵もない。いくらでも厳しい記事を書ける」と胸を張って言えるだろうか。かなり難しそうな気はするが…。


※今回取り上げた記事「時事深層~故・成毛氏が守った独立の道、キオクシアHDが上場へ」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00735/?P=1


※記事の評価はD(問題あり)。佐伯真也記者への評価はDを据え置く。奥貴史記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。


※佐伯記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス「見えてきたクルマの未来」で見えなかったこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_10.html

33%出資の三菱製紙は「連結対象外」? 日経ビジネスに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33.html

「33%出資は連結対象外」に関する日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33_21.html

日経ビジネスに問う「知的障害者は家庭では必要とされない?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_17.html

「知的障害者は家庭では必要とされない?」に日経ビジネスが回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_21.html

「みんなのタクシー」は本当に「順調」? 日経ビジネス佐伯真也記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_17.html

取材不足では? 日経ビジネス「上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_23.html


※奥記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「修会長」には「資本提携がゴール」と日経ビジネス奥貴史記者は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_7.html

並立助詞「や」の使い方が上手くない日経ビジネス奥貴史記者https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_20.html

2020年9月7日月曜日

「大国の対立」がコロナによって「前倒しで現実」に? 日経1面連載「パクスなき世界」への不安

 日本経済新聞朝刊1面連載で特に危険なのが「世界一変系」だ。今を時代の転換点と捉え「革命」や「パラダイムシフト」が起きて世界が一変すると説く。日経はこの手の連載を繰り返してきた。だが、そんなに頻繁に世界が一変する訳もなく、どうしても説得力に欠けてしまう。

7日のに始まった「パクスなき世界」もそうだ。第1回の「成長の女神 どこへ~コロナで消えた『平和と秩序』」という記事の書き出しは「世界は変わった」。「コロナ」は世界を一変させた面もあるが、やはり危険な香りが漂ってくる。最初の段落を見てみよう。

大雨で冠水した福岡県久留米市内
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

世界は変わった。新型コロナウイルスの危機は格差の拡大や民主主義の動揺といった世界の矛盾をあぶり出した。経済の停滞や人口減、大国の対立。将来のことと高をくくっていた課題も前倒しで現実となってきた。古代ローマの平和と秩序の女神「パクス」が消え、20世紀型の価値観の再構築を問われている。あなたはどんな未来をつくりますか――。


◎無理があるような…

記事の言う通りならば「経済の停滞や人口減、大国の対立」は「将来のことと高をくくっていた課題」だったのに「新型コロナウイルスの危機」によって「前倒しで現実となってきた」のだろう。だが、いずれもコロナ以前から盛んに「課題」として議論されてきた問題だと思える。

これが「世界一変系」連載の辛いところだ。「経済の停滞や人口減、大国の対立」といった問題は以前からあったのに、急に世界が変わって「前倒しで現実となってきた」と訴えないと、なぜ今この連載をやるのかという意義付けをしにくい。

20世紀」は米国が「パクス」で、21世紀には「パクス」が消えた。だから「20世紀型の価値観の再構築を問われている」というのが取材班の基本認識なのだろう。だが、21世紀に入って20年近くが経過している。「パクスなき世界」に人々は慣れていると捉える方が自然だ。なのになぜ今になって「20世紀型の価値観の再構築を問われている」のか。

新型コロナウイルスの危機」によって米国という「パクス」が突然姿を消したのならば「価値観の再構築」が必要かもしれない。しかし、そうではないはずだ。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

人々は同じ嵐に遭いながら同じ船に乗っていない」。米ニューヨーク市の市議イネツ・バロン氏は訴える。同市は新型コロナで約2万4千人もの死者を出した。

市内で最も所得水準の低いブロンクス区の死亡率を10万人あたりに当てはめると275。最も高所得のマンハッタン区の1.8倍だ。3月の都市封鎖後も低所得者が多い地区の住民は「収入を得るため外出し、ウイルスを家に持ち帰った」(同氏)。命の格差が開く。


◎同じ船に乗っているような…

市内で最も所得水準の低いブロンクス区の死亡率」が「最も高所得のマンハッタン区の1.8倍」だとしても「同じ嵐に遭いながら同じ船に乗っていない」とは感じない。

高所得」だから安全地帯にいるわけでも、「低所得」だと必ず座して死を待つ訳でもない。「所得水準」によって「死亡率」にある程度の差が出るのは、個人的にはそれほど気にならない。「1.8倍」ならば許容範囲内だと感じる。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

危機は、成長の限界に直面する世界の現実を私たちに突きつけた

古代ローマ、19世紀の英国、そして20世紀の米国。世界の繁栄をけん引する存在が経済や政治に秩序をもたらし、人々の思想の枠組みまで左右してきた。ローマの女神にちなみ、それぞれの時代の平和と安定を「パクス」と呼ぶ。だが今、成長を紡ぐ女神がいない。

パイが増えず、富の再分配が働かない。米国の潜在成長率は金融危機が起きた2008年に戦後初めて1%台に沈み、一定の教育を受けた25~37歳の家計所得は18年に6万2千ドルと89年の水準を4千ドル下回った。「子は親より豊かになる」神話は崩れ、中間層が縮む。「米国は富裕層と低所得層からなる途上国型経済となった」(経済史家ピーター・テミン氏)


◎新型コロナと関係ある?

成長を紡ぐ女神がいない」「パイが増えず、富の再分配が働かない」という見立てが正しいとしよう。しかし根拠として挙げている数字は「18年」のものだ。「成長の限界に直面する世界の現実」は「新型コロナウイルスの危機」が「突きつけた」ものなのか。新型コロナの問題が起きる前から21世紀は「パクス」なき時代だったはずだ。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

国際通貨基金(IMF)によると、先進国全体の実質成長率は1980年代、90年代の年平均3%から2010~20年は同1%に沈む。低温経済が世界に広がり、格差への不満をテコに独裁や大衆迎合主義が民主主義をむしばむ。中国やロシアなど強権国家の台頭を許す隙が生じ「パクスなき世界」を混乱が覆う。


◎具体性に欠けるが…

低温経済が世界に広がり、格差への不満をテコに独裁や大衆迎合主義が民主主義をむしばむ」と書いているが、具体例は出てこない。「独裁」が現実になっているのであれば「民主主義をむしばむ」どころか「民主主義」は機能不全と言える。

大衆迎合主義」に関しては、それが広がったからと言って「民主主義をむしばむ」と判断するのは早計だ。例えば「財政赤字を気にせず減税する」という主張を掲げる政党があって、これが「大衆迎合主義」に当たるとしよう。この政党を国民の多くが支持した結果、政権を獲得した。それは「民主主義をむしばむ」動きと言えるのか。

その後、「無茶な減税はまずい。財政健全化を進めるべきだ」と考える軍の指導者がクーデターを起こして軍事政権を打ち立てた場合「民主主義」は守られたことになるのか。取材班でよく考えてほしい。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

経済成長の柱の一つは人口増だった。18世紀以降の産業革命は生産性を高め、19世紀初めにやっと10億人に届いた世界人口はその後125年で20億人に達した。第2次大戦後の60年代に世界の人口増加率は2%を超え、日本などが高成長した。

すでに伸びは鈍り、今後の人口増の多くもアフリカが占める。世界人口は2100年の109億人を頂点に頭打ちとなる。コロナ禍はそんな転換期の人類を襲った


◎「転換期」と言える?

コロナ禍はそんな転換期の人類を襲った」と書いているが、現在が「転換期」と言える理由が謎だ。「世界人口は2100年の109億人を頂点に頭打ちとなる」のならば「転換期」は80年後ではないのか。

あるいは人口の「伸び」が鈍った時が「転換期」なのか。記事に付けたグラフによると「人口増加率」が頭打ちとなったのは20年以上前のようだ。今を「転換期」と捉えるのは、やはり無理がある。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

経済のデジタル化も「長期停滞」の一因となる。今秋の上場へ準備する中国の金融会社、アント・グループ。企業価値は2000億ドル(約21兆円)と期待され、トヨタ自動車の時価総額に並ぶ。10億人超が使う決済アプリ「支付宝(アリペイ)」が価値の源泉だ。

組織を支えるのは技術者を中心に約1万7千人。トヨタの連結従業員数約36万人を大きく下回る。豊かさを生む主役がモノからデータに移り、成長企業も大量の雇用を必要としない。一部の人材に富が集中し、低成長と格差拡大が連鎖する


◎「成長企業も大量の雇用を必要としない」?


成長企業も大量の雇用を必要としない」と書いているが「アント・グループ」は「約1万7千人」を雇用しているらしい。これを「成長企業も大量の雇用を必要としない」と見るべきなのか。

そこに無理があるから「トヨタ自動車」と比較しているのだろう。だが業種や事業形態が異なる企業を比較しただけで「成長企業も大量の雇用を必要としない」と結論付けるのは感心しない。

アント・グループ」のような「成長企業」が数多く生まれて、それぞれが1万人規模の雇用を生み出す世界では「低成長と格差拡大が連鎖する」とは限らないのではないか。

記事はまだ続くが、長くなったのでこの辺りでやめておく。結論としては「世界一変系の日経1面連載はやはりツッコミどころが多い」でいいだろう。


※今回取り上げた記事「パクスなき世界(1)成長の女神 どこへ~コロナで消えた『平和と秩序』

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200907&ng=DGKKZO62882320R20C20A8MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年9月6日日曜日

「テレビ、大手新聞」を「偏向メディア」と断じる週刊東洋経済 大崎明子氏の「偏向」

週刊東洋経済の大崎明子氏(肩書は本誌コラムニスト)が9月12日号に書いた「ニュースの核心~新型コロナの恐怖をあおる偏向メディアの罪」という記事は罪深い。「テレビ、大手新聞といった主要メディア」を「偏向メディア」と断罪しているが、その批判は週刊東洋経済にこそ向けられるべきではないか。

大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

問題のくだりを見ておこう。


【東洋経済の記事】

 実は4月ごろから、新型コロナウイルスは無症状感染者が多いため、感染は広がりやすいが死者数は比較的少ない感染症ではないかと指摘する声が専門家の間から出ていた。ところが、テレビ、大手新聞といった主要メディアはもっぱら「恐怖のウイルス」という報道を一致して続け、その姿勢は偏向と呼ぶしかないものだった

もとより視聴率狙いのワイドショーは100%の精度が保証されないPCR検査で国民全員を検査し、隔離しろなどと人権軽視の主張を続けた。中立報道を旨とするNHKや民放のニュース番組、大手新聞も重症者や死者の少ないことにはほとんど言及せず、感染拡大ばかり喧伝した。また、「何十万人死ぬ」「ニューヨークやミラノのようになる」「PCR検査数が少ないから日本の対策は失敗」といったコメントをする識者ばかりを出し続けた。そうしたあおり報道によって、過剰な恐れ、感染者に対する差別が広がったのだ。

ネット上には、「反対の指摘をしたら放送時にカットされた」「あたかも別の意見のように切り取られて使用された」「(テレビや新聞の依頼に)異なる見解を述べたらボツにされた」などの研究者や医師たちのコメントがあふれた。

こうした中で、人々はネットなどで感染症の専門家による最新の論文や意見を集め、メディアが大々的に取り上げる意見に疑問を持ち始めた。新型コロナに関する多くの情報・知見が整理されていくにつれ、人々はメディアの呪縛から解かれ、テレビ・新聞離れ、受信料支払い拒否がさらに加速するのではないかと予想している。


◎一括りにして大丈夫?

テレビ、大手新聞といった主要メディア」を一括りに全て「偏向メディア」と位置付けている。東洋経済の報道内容には触れていないが、言外に「雑誌はまともなメディア」とこれまた一括りにしている印象を受ける。まず、そんなにきれいに分かれるものかとの疑問が湧く。

また「雑誌=非主要メディア」と括るのも解せない。例えば週刊文春の影響力は「大手新聞」を時に上回る。

では本当に「偏向」していたのか。「中立報道を旨とするNHKや民放のニュース番組、大手新聞も重症者や死者の少ないことにはほとんど言及せず、感染拡大ばかり喧伝した」と大崎氏は言うので、まずは「NHK」から検証していこう。

NスペPlusというサイトに5月20日付で載った「新型コロナウイルス ビッグデータで闘う」という記事は「2020年5月17日(日)に放送された内容を基に」しているらしい。この中に以下の記述がある。

【NHKの記事】

なぜ日本では、感染者数や死亡者数が少ないのか?

論文ビッグデータの分析により、これから研究が発展していく分野も見えてきた。そのなかで山中伸弥さんがいま注目しているキーワードが「BCG」だ。


◎しっかり伝えているのでは?

この記事では「新型コロナウイルス感染症による死者数(100万人あたり)」というグラフも使って、欧米に比べ日本の死者数が少ないことにきちんと触れている。NHKスペシャルという注目度の高い番組でしっかり伝えていても「重症者や死者の少ないことにはほとんど言及せず、感染拡大ばかり喧伝した」と批判を浴びなければならないのか。

8月6日付で「コロナ入院患者の死亡率 国内は英米より低い 解析結果が公表」という記事もNHKは出している。これでも「ほとんど言及せず」なのか。

大手新聞」でも「重症者や死者の少ないこと」に「言及」した記事は容易に見つけられる。例えば日本経済新聞は「遺伝子や疾患、死亡率に影響か~新型コロナ、アジア低く 文化・習慣の違いも」という5月20日付の記事で「新型コロナウイルス感染症では、日本を含むアジア地域の死亡率の低さが目立つ。高いのは米欧だ。主要国で比べると人口当たりの死亡者数には100倍以上の差がある」と伝えている。

中立報道を旨とするNHKや民放のニュース番組、大手新聞も重症者や死者の少ないことにはほとんど言及せず、感染拡大ばかり喧伝した」と断じるならば「NHKや民放のニュース番組、大手新聞」の報道内容をかなり詳しく調べる必要がある。大崎氏はそこを怠っているのではないか。

推測だが、自分がたまたま見た「テレビや新聞」から受けた印象で断罪してしまったのではないか。だとしたら「本誌コラムニスト」といった肩書を付けてコラムを書くのは危険すぎる。


※今回取り上げた記事ニュースの核心~新型コロナの恐怖をあおる偏向メディアの罪」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24608


※記事の評価はD(問題あり)。大崎明子氏への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。大崎氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


東洋経済に載った木内登英氏のインタビュー記事が興味深い
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_23.html

「1人当たり成長率」って何? 東洋経済 大崎明子氏への質問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_41.html

2020年9月5日土曜日

「歴代最長の次は安定か混沌か」に答えを出さない日経ビジネス安藤毅編集委員

雑誌は「遅いメディア」だ。誌面を作る上でこの認識は欠かせない。 「安倍首相、電撃辞任」といった注目度の高い話だと、読者もネットやテレビなどでかなりの情報を仕入れた上で雑誌を手に取ると考えるべきだ。そこで読んでもらうためには何らかの付加価値が要る。

大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

その点で日経ビジネス9月7日号の緊急特集「安倍首相、電撃辞任~『歴代最長』の次は安定か混沌か」に合格点は与えられない。特に安藤毅編集委員が書いた「ポスト安倍、路線継承が濃厚」という記事は辛い。

特集の最初で「コロナ禍の折、この後に待ち受ける日本の政治・経済のシナリオは再び安定か、混沌か。早期の次期衆院選の可能性もちらく中、危うさばかりが目立つニッポンの道のりを展望する」と宣言したのだから「安定か混沌か」に安藤編集委員なりの答えを出すべきだ。

しかし記事ではこれまでの経緯を振り返って行数を稼いだ後、以下のように記事を締めている。


【日経ビジネスの記事】

自民党執行部は9月14日に新総裁を選出。16日に臨時国会を召集し、首相指名選挙を行う方向で検討している。

一方、15日にも立憲民主党や国民民主党などによる新党の結党大会が開かれる予定だ。政権と野党勢力が新たな体制となり、今の衆院議員の任期満了が約1年後の21年10月に迫る中、衆院解散・総選挙の時期が次の焦点になってくる。

「新総裁選出の御祝いムードを追い風に早期に解散に踏み切るか、それとも当面は新型コロナ対応などを重視し、来年の任期満了近くの選挙になるか。このどちらかの可能性が大きい」

自民内ではこんな見立てが語られている。仮に来年秋の選挙となれば、来年9月にもう一度行われる次の総裁選で「選挙の顔」として別の総裁を選ぶ可能性もある。

今年初めに誰も予想しなかったような政治・経済状況となる中、永田町は本格的な「政治の季節」に入った。先に待つのは安定、混沌のどちらだろうか


◎結局「成り行き注目」では…

この後に待ち受ける日本の政治・経済のシナリオは再び安定か、混沌か」という問題提起に対し、安藤編集委員が出した答えは「先に待つのは安定、混沌のどちらだろうか」。「AとBのどちらになるのか」との問いに「AとBのどちらになるんでしょうね」と返して、答えになるのか。

全く分からないのならば、そう書いてくれた方がまだ納得できる。「これまでのところ、石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長、菅義偉官房長官が出馬の意向を固めた。選挙戦はこの3氏を軸に展開される公算が大きくなっている」「両院議員総会方式は石破氏に不利に働くとの見方が根強い」「今回の日経調査でも浮き彫りになったように岸田氏は世論調査で支持率が伸び悩んでいる。発信力が弱いとの指摘があり、巻き返しに懸命だ」といった広く言われている話を改めて読み進めてきたのは、その後に「安定か、混沌か」に関して安藤編集委員にしか書けない分析が出てくると期待したからだ。

しかし安藤編集委員は「先に待つのは安定、混沌のどちらだろうか」で逃げてしまう。こんな成り行き注目型の結論で良ければ、素人でも出せる。「自分は何のために政治の世界を取材してきたのか」を改めて自問してほしい。

安定か、混沌か」に明確な答えを出せとは言わない。条件付きでもいい。だが「先に待つのは安定、混沌のどちらだろうか」ではダメだ。安藤編集委員はそのことに早く気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「安倍首相、電撃辞任~『歴代最長』の次は安定か混沌か」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00733/


※記事の評価はD(問題あり)。安藤毅編集委員への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。安藤編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「キャメロン発言が示唆に富む」? 日経ビジネス安藤毅編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_11.html

2020年9月4日金曜日

「全要素生産性はむしろ下がっている」? 誤解を招く日経「途上の経済政策(4)」

12年10~12月期」と比べて「全要素生産性はむしろ下がっている」と日本経済新聞が書いている。しかし記事に付けたグラフを見ると「年率換算の前期比上昇率」は低水準ながらもプラスを維持している。記事の説明は正しいのだろうか。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です



【日経への問い合わせ】

4日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「途上の経済政策(4)成長の地力 高まらず~古びた規制や慣行 壁に」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「経済の地力を示す潜在成長率は1~3月期に0.9%と政権発足当時の12年10~12月期(0.8%)とほぼ同じ。技術革新などを反映する質的な成長要因である全要素生産性はむしろ下がっている」との記述です。

これを信じれば「全要素生産性」は「12年10~12月期」と比べて「下がっている」は


ずです。記事に付けたグラフを見ると「全要素生産性」の「年率換算の前期比上昇率」は「12年10~12月期」が1.0%。直近の2020年1~3月期が0.4%で、この間ずっとプラスを維持しています。つまり「全要素生産性」は「上がって」います。

全要素生産性はむしろ下がっている」との説明は誤りではありませんか。「全要素生産性の上昇率はむしろ下がっている」と伝えたかったのかもしれませんが、そうは書いていません。記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。グラフに誤りがあるという可能性も残ります。いずれも問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので「国内企業は円安や法人税率引き下げなどの恩恵を受けながら、総じて成長投資には動かず内部留保を膨らませた」との記述にも注文を付けておきます。この書き方だと「内部留保」とは「成長投資」に向かわなかった分が蓄積したものとの印象を読者に与えてしまいます。

これに関しては、2018年9月8日付の御紙の記事でも「(内部留保は)現預金など手元資金そのものと思われがちだが、設備投資やM&A(合併・買収)に使われ、子会社の株式や機械設備などに形を変えている場合もある」と注意喚起しています。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある対応を心掛けてください。


◇  ◇  ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「途上の経済政策(4)成長の地力 高まらず~古びた規制や慣行 壁に


※記事の評価はD(問題あり)

2020年9月3日木曜日

焦点絞れず具体性も欠く日経「大機小機~日本の凋落をどう防ぐか」

コラムを執筆する場合、何に焦点を当てるかはしっかり考える必要がある。3日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「大機小機~日本の凋落をどう防ぐか」という記事は、そこができていない。具体性に欠ける話をあれこれ並べただけの内容になってしまっている。
筑後川(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

記事を見ながら問題点を指摘していく。

【日経の記事】

安倍晋三長期政権は経済・外交両面で負の遺産を残している。成長が見込めないまま巨額の債務を次世代に持ち越した。戦後75年経っても近隣諸国と融和できず、米中新冷戦に手をこまぬいている。次の首相は安倍路線を継承するだけではすまない。コロナ危機で鮮明になった日本の凋落(ちょうらく)をどう防ぐかが問われる

プラザ合意から35年。G5(先進5カ国)時代の主役だった日本は、5G(第5世代通信規格)時代には脇役に甘んじている。世界の国内総生産(GDP)のシェアは12%から5%に落ち込んだ



◎テーマ設定はできたが…

記事のテーマは「日本の凋落をどう防ぐか」で、「凋落」の度合いは「世界の国内総生産(GDP)」に占める「日本」の「シェア」で決めるようだ。それはそれでいい。この問題をしっかり論じているか見ていこう。


【日経の記事】

アベノミクスは脱デフレのカンフル注射としては一定の効果はあったが、弊害が大きすぎた。金融の超緩和でも物価目標は達成できず、地方銀行などの経営難を招いた。

なにより日銀が大量の国債購入による財政ファイナンスに走り、政治に財政ポピュリズムがまん延した。先進国で最悪の日本の財政危機は2度の消費税率引き上げだけでは克服できない。コロナ危機に財政出動は必要だが、あくまで「賢い支出」であるべきだ


◎じゃあどうする?

ここで具体性に欠ける話が出てくる。「先進国で最悪の日本の財政危機は2度の消費税率引き上げだけでは克服できない」とは書いているが、どうすれば「克服」できるかには触れていない。

コロナ危機に財政出動は必要だが、あくまで『賢い支出』であるべきだ」との主張に関しても、何が「賢い支出」なのかを明確にしないと意味はない。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

肝心の成長戦略は空回りするばかりで、コロナ危機で「IT(情報技術)後進国」が露呈した。雇用増も非正規雇用が中心で、格差拡大の懸念もある。コロナ禍でテレワークは避けられないが、ワーケーションには疑問が残る。会社でも家でも休暇でも働けというのでは家族はどうなるのか。

コロナ危機で政治に求められるのは科学的精神と人道主義である。政治が前に出すぎることがいかに危険かトランプ米政権が証明した



◎やはり具体性が…

肝心の成長戦略は空回りするばかり」と言うが、どう見直すべきかは示していない。「コロナ危機で政治に求められるのは科学的精神と人道主義である」という話もやはり具体性には欠ける。「政治が前に出すぎることがいかに危険かトランプ米政権が証明した」とも書いているが、「政治が前に出すぎること」が具体的に何を指すのか謎だ。

さらに見ていく。

【日経の記事】

そのトランプ大統領との蜜月関係は日米同盟を深化させる半面で「米国第一主義」を容認する結果になった。地球温暖化防止のためのパリ協定やイラン核合意からの離脱、中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄などを真正面から批判できなかったのは、同盟国として大きな問題だった。

香港問題など中国の強権化には警告すべきだが、中国包囲網に加わり米中新冷戦をあおるのは避けることだ。日本が主導すべきは、環太平洋経済連携協定(TPP)をてこにアジア太平洋に協調の枠組みを築くことである。



◎結局、どうする?

ここは少し具体性がある。ただ、「中国包囲網に加わり米中新冷戦をあおるのは避ける」方向に行く場合、「日米同盟」はどうするのかという問題がある。「日米同盟を深化させる」ことは諦めて、米国には「中国と仲良くしよう。日本は中国包囲網には加わらないから」とキッパリ言うべきなのか。そこは明確にしてほしかった。

ここから、いよいよ結論に入る。「日本の凋落をどう防ぐか」には一応の答えが出る。

【日経の記事】

首相を永田町の論理で決めれば、国民の政治不信は続き国際社会の信認も失う。日本の凋落を防ぐ大前提は民主主義の確保である。



◎それが答え?

日本の凋落を防ぐ大前提は民主主義の確保である」。そうかもしれない。だが、「世界の国内総生産(GDP)」に占める「日本」の「シェア」を維持していく具体策とは言えない。

首相を永田町の論理で決めれば、国民の政治不信は続き国際社会の信認も失う」というのも漠然とした話だ。どういうやり方だと「首相を永田町の論理で決め」たことになるのか言及していない。

具体性に欠ける話をあれこれしただけで、肝心の「日本の凋落をどう防ぐか」については、これと言って策を示していない。筆者の「無垢」氏にも策はないのだろうが、見出しに釣られた一読者としては徒労感だけが残った。


※今回取り上げた記事「大機小機~日本の凋落をどう防ぐか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200903&ng=DGKKZO63364390S0A900C2EN2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年9月2日水曜日

せめて見出しに「日経」の文字を…日経「国安法違反事件、周庭氏が出頭」の背信

日本経済新聞がどんなメディアなのかよく分かるベタ記事が2日の朝刊国際面に載っている。「国安法違反事件、周庭氏が出頭」というその記事では日経自身が重要な当事者だ。しかし、見出しに「日経」を示す文字はない。読者への背信行為だと思える。例えば朝日新聞はこの件を伝える記事に「周庭氏を再聴取 警察、日経新聞の意見広告を問題視?」という見出しを付けている。常識的な判断だ。
大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
            ※写真と本文は無関係です

腰を引けるだけ引いたように見える日経の記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

【香港支局】香港国家安全維持法違反の疑いで逮捕、保釈された民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏は1日、香港警察に出頭し、聴取を受けた。聴取後に記者団に「8月に逮捕された時に証拠の一つとして2019年に日本経済新聞に載せた香港民主化運動に関する広告を見せられた」と話した。「もし日経への広告が証拠となるのならばかげている」とも語った。

香港紙・明報などの報道によれば、香港警察は日本経済新聞社の香港現地法人を訪問したとされる件について「裁判所が出した資料提出命令を8月に執行した。捜索はしておらず(命令に)取材関係の資料は含まれていない」と回答している。日経広報室は「法的な理由でコメントを差し控える」としている。

周氏は8月10日に香港国家安全維持法違反の容疑で逮捕された。1日、保釈の条件として警察署に出頭した。

香港の民主派は19年8月に日経や米ニューヨーク・タイムズ、仏ルモンド、独フランクフルター・アルゲマイネなどに意見広告を掲載した。


◎ずっと「コメントを差し控える」つもり?

この問題は他のメディアも報じるので日経としても無視はできない。ただ、できるだけ関わりたくない--。上記の記事からはそんな姿勢が読み取れる。「法的な理由でコメントを差し控える」という「日経広報室」のコメントだけを出して、後はこの問題への言及を避けていく意向なのだろう。

日経自身が捜査の対象となる可能性もあるので、難しい問題を抱えているのは分かる。その点を差し引いても、今回の報道は残念だ。少なくとも見出しに「日経」の文字は入れられたはずだ。

実際に「2019年に日本経済新聞に載せた香港民主化運動に関する広告」を証拠として「周庭」氏が罪に問われた場合も、日経はずっと腰が引けた態度で臨むつもりなのか。その時には自身のメディアとしての存在意義が今以上に問われる。

ちなみに日経は6月30日付の社説で以下のように訴えている。

【日経の社説】

香港国家安全維持法は中国内だけで通用してきた共産党政権による国家安全の考え方を香港にも適用する内容である。その司令塔として香港行政長官をトップとする「国家安全維持委員会」を新設し、顧問を中央政府から送る。

香港の治安維持を担う中国政府の出先機関「国家安全維持公署」も置く。国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力と結託して危害を及ぼすと見なす犯罪などは直接、対処できる。

今後は香港民主派の政治団体が取り締まり対象になる恐れもあり、既に活動に支障が出始めた。従来、街頭デモで抗議を表明してきた香港の有権者も萎縮している。平和的デモさえ許可しない時代錯誤の措置は看過できない


◎主張に責任を持つならば…

香港国家安全維持法」によって「平和的デモさえ許可しない時代錯誤の措置は看過できない」というのが日経の立場だ。「もし日経への広告が証拠となるのならばかげている」と「周庭」氏は訴えている。

日経はどう考えるのか。「ばかげている」「看過できない」と見るのか。それとも中国側の措置に理解を示すのか。どちらを選んでもいい。だが、腰を引いてやり過ごそうとするのだけはやめてほしい。


※今回取り上げた記事「周庭氏を再聴取 警察、日経新聞の意見広告を問題視?
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200902&ng=DGKKZO63324270R00C20A9FF8000


※記事の評価はD(問題あり)