2020年9月8日火曜日

「訴えたいこと」がないのが透けて見える日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」

訴えたいことがないのに頑張って紙幅を埋めている記事を見ると辛くなる。 8日の日本経済新聞朝刊投資情報面に藤田和明編集委員が書いた「一目均衡~バフェット氏の『日本』再発見」という記事もそうだ。「米投資家ウォーレン・バフェット氏」 が日本の「商社株を取得した」という話に絡めて1本作れないかと考えたのだろう。だが「訴えたいこと」が定まっていないので、まとまりのない展開になっている。

大雨で増水した筑後川(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

最初の段落から見ていこう。


【日経の記事】

「日本と5社の未来に参画できることをうれしく思う」。商社株を取得した米投資家ウォーレン・バフェット氏。これまで同氏が唯一公式に訪れた日本企業がある。福島県いわき市のタンガロイだ。

超硬工具を手掛ける同社は東芝系列を離れた後、イスラエル系企業の傘下に入った。その大株主がバフェット氏だ。2011年秋、東日本大震災で8カ月遅れた新工場の竣工式を訪れたのだ。

「困難に立ち向かう日本人の力のすごさを評価する言葉が心に残った」と木下聡社長は話す。最新鋭の工場を丹念に見て回り、社員一人ひとりと笑顔で写真を撮影。「自分が若い技術者なら就職したい」と励ました

木下社長はバフェット氏の求める経営を実践する。「持続的な成長、高い競争力、社会に必要とされるの3つを突き詰める」。これが当たり前で、かつ30年、50年と続けるのはこの上ない緊張を伴う。

価値を高くするため新製品の開発ペースを年40~50個に上げ、世界へ販路を拡大。売上高は7年前から5割増え、今や売上高純利益率が20%を超える高収益企業になった。


◇   ◇   ◇


まず「タンガロイ」の事例だ。「バフェット氏」の発言は「自分が若い技術者なら就職したい」というだけ。そして「バフェット氏の求める経営を実践」した結果、「高収益企業になった」らしい。ここまでは特に問題はない。これが今後に生きてくるかどうかだ。

2番目の事例を見よう。


【日経の記事】

スパークス・グループの阿部修平社長も、バフェット氏に直接会った一人だ。18年にネブラスカ州オマハにある同氏の執務室を訪れる機会を得た。投資先から上がる事業の詳細な報告書を読んで一日中過ごす、質素な部屋だった。

30万人規模のグループを本社20人ほどで管理する。傘下企業を率いるための重要な業績評価指標(KPI)は何かと阿部氏は質問をぶつけてみた。返事は「特にない」。

信じる経営者に託すスタイルだ。ただ自分の考えている通りかを常に細かくみる。もし違っていれば、納得するまでなぜかと問うのだろう。阿部氏にはそう映った。


◇   ◇   ◇


この事例はかなり苦しい。「バフェット氏」の発言は「特にない」だけ。そして「自分の考えている通りかを常に細かくみる。もし違っていれば、納得するまでなぜかと問うのだろう」と「阿部氏」に推測させている。

ただ、最終的にうまく繋がるなら許容範囲だ。

そして、いよいよ「商社」の話に入っていく。


【日経の記事】

永久保有を前提とするオーナーの振る舞い割安に投資した事業が10年、20年と高収益を上げれば、もうけはスノーボールのように大きくなる。今回の商社株買いは「割安で、その投資に値するとのメッセージだ」(阿部氏)。


◎「永久保有を前提」?

永久保有を前提とするオーナーの振る舞い」という記述がまず引っかかる。「バフェット氏」の投資は「永久保有を前提」としているのか。5月14日付の記事で日経は「バフェット氏、米大手地銀株を一部売却 航空株に続き」と報じている。この記事によると「米航空株」に関しては「全て売却した」らしい。それがどうして「永久保有を前提」となるのか。

オーナーの振る舞い」も引っかかる。報道によると、大手商社への出資比率の上限は9.9%のようだ。これだと「バフェット氏」は「オーナー」にはなれない。「オーナー」ではないのに「オーナーの振る舞い」を大手商社にしていくということか。藤田編集委員が何を言いたいのかよく分からない。

それに2つの事例が生きていない。

割安に投資した事業が10年、20年と高収益を上げれば、もうけはスノーボールのように大きくなる」のはその通りかもしれないが、「タンガロイ」に関して「割安に投資した」とは書いていない。「10年、20年と高収益を上げ」たと取れる記述もない。

また「自分の考えている通りかを常に細かくみる。もし違っていれば、納得するまでなぜかと問う」という話との関連もほぼない。

結局、2つの事例との関連が乏しいまま話は進んでいく。


【日経の記事】

商社に対し、例えば米フィデリティ・インベストメンツのジョエル・ティリングハスト氏は「中国事業、IT(情報技術)と消費者ビジネス、デジタル化をうまく捉えられれば、株主に利益をもたらす」とみる。さらに「変革や成長期待がある他の割安株を探すきっかけにもなる」(野村証券の本谷大輔執行役員)。

バフェット氏が発見した日本株の価値。それは同時に、長期投資とは何か、優れた経営とは何かという本質を日本に問うことになる。

長期投資だからこそ、バフェット氏は高い自己資本利益率(ROE)を大事にする。もうけなければ、競争力を高める手を打ち続けることはできないし、結局は雇用も取引関係も長くは保てない。


◎漠然とした話に…

ここに来て「バフェット氏が発見した日本株の価値。それは同時に、長期投資とは何か、優れた経営とは何かという本質を日本に問うことになる」という漠然とした話に移っていく。

長期投資だからこそ、バフェット氏は高い自己資本利益率(ROE)を大事にする」と藤田編集委員は言うが、だったら大手商社の「ROE」は日本株の中で際立って高いのか。そうではないとすると、なぜ「バフェット氏は高い自己資本利益率(ROE)を大事にする」という話を持ち出したのか。

そして最後の段落に辿り着く。


【日経の記事】

「バイ・マイ・アベノミクス」と訴えた安倍政権が終わる。ここからは企業それぞれが高い価値を生み出せるかだ。長きにわたる低迷から脱する日本版スノーボールの物語を自ら紡げるだろうか


◎最後は日本企業全体に…

ここからは企業それぞれが高い価値を生み出せるかだ。長きにわたる低迷から脱する日本版スノーボールの物語を自ら紡げるだろうか」と最後は日本企業全体の漠然とした話で締めてしまう。しかも「日本版スノーボールの物語を自ら紡げるだろうか」と問いかけるだけで自分の考えは示さない「逃げ」の結びだ。

ここからは企業それぞれが高い価値を生み出せるかだ」と藤田編集委員は書いている。しかし、いつの時代も「企業それぞれが高い価値を生み出せるか」を問われているはずだ。急に状況が変わる訳ではない。

記者として長く経験を積んでも訴えたいことが見つからないのならば、書き手としての限界とも言える。ごまかして記事を書き続けるより、そろそろ後進に道を譲った方が良い。そう思えてならない。


※今回取り上げた記事「一目均衡~バフェット氏の『日本』再発見」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200908&ng=DGKKZO63517310X00C20A9DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価もDを据え置く。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html

「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/11.html

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