週刊東洋経済の大崎明子氏(肩書は本誌コラムニスト)が9月12日号に書いた「ニュースの核心~新型コロナの恐怖をあおる偏向メディアの罪」という記事は罪深い。「テレビ、大手新聞といった主要メディア」を「偏向メディア」と断罪しているが、その批判は週刊東洋経済にこそ向けられるべきではないか。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
問題のくだりを見ておこう。
【東洋経済の記事】
実は4月ごろから、新型コロナウイルスは無症状感染者が多いため、感染は広がりやすいが死者数は比較的少ない感染症ではないかと指摘する声が専門家の間から出ていた。ところが、テレビ、大手新聞といった主要メディアはもっぱら「恐怖のウイルス」という報道を一致して続け、その姿勢は偏向と呼ぶしかないものだった。
もとより視聴率狙いのワイドショーは100%の精度が保証されないPCR検査で国民全員を検査し、隔離しろなどと人権軽視の主張を続けた。中立報道を旨とするNHKや民放のニュース番組、大手新聞も重症者や死者の少ないことにはほとんど言及せず、感染拡大ばかり喧伝した。また、「何十万人死ぬ」「ニューヨークやミラノのようになる」「PCR検査数が少ないから日本の対策は失敗」といったコメントをする識者ばかりを出し続けた。そうしたあおり報道によって、過剰な恐れ、感染者に対する差別が広がったのだ。
ネット上には、「反対の指摘をしたら放送時にカットされた」「あたかも別の意見のように切り取られて使用された」「(テレビや新聞の依頼に)異なる見解を述べたらボツにされた」などの研究者や医師たちのコメントがあふれた。
こうした中で、人々はネットなどで感染症の専門家による最新の論文や意見を集め、メディアが大々的に取り上げる意見に疑問を持ち始めた。新型コロナに関する多くの情報・知見が整理されていくにつれ、人々はメディアの呪縛から解かれ、テレビ・新聞離れ、受信料支払い拒否がさらに加速するのではないかと予想している。
◎一括りにして大丈夫?
「テレビ、大手新聞といった主要メディア」を一括りに全て「偏向メディア」と位置付けている。東洋経済の報道内容には触れていないが、言外に「雑誌はまともなメディア」とこれまた一括りにしている印象を受ける。まず、そんなにきれいに分かれるものかとの疑問が湧く。
また「雑誌=非主要メディア」と括るのも解せない。例えば週刊文春の影響力は「大手新聞」を時に上回る。
では本当に「偏向」していたのか。「中立報道を旨とするNHKや民放のニュース番組、大手新聞も重症者や死者の少ないことにはほとんど言及せず、感染拡大ばかり喧伝した」と大崎氏は言うので、まずは「NHK」から検証していこう。
NスペPlusというサイトに5月20日付で載った「新型コロナウイルス ビッグデータで闘う」という記事は「2020年5月17日(日)に放送された内容を基に」しているらしい。この中に以下の記述がある。
【NHKの記事】
なぜ日本では、感染者数や死亡者数が少ないのか?
論文ビッグデータの分析により、これから研究が発展していく分野も見えてきた。そのなかで山中伸弥さんがいま注目しているキーワードが「BCG」だ。
◎しっかり伝えているのでは?
この記事では「新型コロナウイルス感染症による死者数(100万人あたり)」というグラフも使って、欧米に比べ日本の死者数が少ないことにきちんと触れている。NHKスペシャルという注目度の高い番組でしっかり伝えていても「重症者や死者の少ないことにはほとんど言及せず、感染拡大ばかり喧伝した」と批判を浴びなければならないのか。
8月6日付で「コロナ入院患者の死亡率 国内は英米より低い 解析結果が公表」という記事もNHKは出している。これでも「ほとんど言及せず」なのか。
「大手新聞」でも「重症者や死者の少ないこと」に「言及」した記事は容易に見つけられる。例えば日本経済新聞は「遺伝子や疾患、死亡率に影響か~新型コロナ、アジア低く 文化・習慣の違いも」という5月20日付の記事で「新型コロナウイルス感染症では、日本を含むアジア地域の死亡率の低さが目立つ。高いのは米欧だ。主要国で比べると人口当たりの死亡者数には100倍以上の差がある」と伝えている。
「中立報道を旨とするNHKや民放のニュース番組、大手新聞も重症者や死者の少ないことにはほとんど言及せず、感染拡大ばかり喧伝した」と断じるならば「NHKや民放のニュース番組、大手新聞」の報道内容をかなり詳しく調べる必要がある。大崎氏はそこを怠っているのではないか。
推測だが、自分がたまたま見た「テレビや新聞」から受けた印象で断罪してしまったのではないか。だとしたら「本誌コラムニスト」といった肩書を付けてコラムを書くのは危険すぎる。
※今回取り上げた記事ニュースの核心~新型コロナの恐怖をあおる偏向メディアの罪」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24608
※記事の評価はD(問題あり)。大崎明子氏への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。大崎氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
東洋経済に載った木内登英氏のインタビュー記事が興味深い
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_23.html
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