2020年9月3日木曜日

焦点絞れず具体性も欠く日経「大機小機~日本の凋落をどう防ぐか」

コラムを執筆する場合、何に焦点を当てるかはしっかり考える必要がある。3日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「大機小機~日本の凋落をどう防ぐか」という記事は、そこができていない。具体性に欠ける話をあれこれ並べただけの内容になってしまっている。
筑後川(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

記事を見ながら問題点を指摘していく。

【日経の記事】

安倍晋三長期政権は経済・外交両面で負の遺産を残している。成長が見込めないまま巨額の債務を次世代に持ち越した。戦後75年経っても近隣諸国と融和できず、米中新冷戦に手をこまぬいている。次の首相は安倍路線を継承するだけではすまない。コロナ危機で鮮明になった日本の凋落(ちょうらく)をどう防ぐかが問われる

プラザ合意から35年。G5(先進5カ国)時代の主役だった日本は、5G(第5世代通信規格)時代には脇役に甘んじている。世界の国内総生産(GDP)のシェアは12%から5%に落ち込んだ



◎テーマ設定はできたが…

記事のテーマは「日本の凋落をどう防ぐか」で、「凋落」の度合いは「世界の国内総生産(GDP)」に占める「日本」の「シェア」で決めるようだ。それはそれでいい。この問題をしっかり論じているか見ていこう。


【日経の記事】

アベノミクスは脱デフレのカンフル注射としては一定の効果はあったが、弊害が大きすぎた。金融の超緩和でも物価目標は達成できず、地方銀行などの経営難を招いた。

なにより日銀が大量の国債購入による財政ファイナンスに走り、政治に財政ポピュリズムがまん延した。先進国で最悪の日本の財政危機は2度の消費税率引き上げだけでは克服できない。コロナ危機に財政出動は必要だが、あくまで「賢い支出」であるべきだ


◎じゃあどうする?

ここで具体性に欠ける話が出てくる。「先進国で最悪の日本の財政危機は2度の消費税率引き上げだけでは克服できない」とは書いているが、どうすれば「克服」できるかには触れていない。

コロナ危機に財政出動は必要だが、あくまで『賢い支出』であるべきだ」との主張に関しても、何が「賢い支出」なのかを明確にしないと意味はない。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

肝心の成長戦略は空回りするばかりで、コロナ危機で「IT(情報技術)後進国」が露呈した。雇用増も非正規雇用が中心で、格差拡大の懸念もある。コロナ禍でテレワークは避けられないが、ワーケーションには疑問が残る。会社でも家でも休暇でも働けというのでは家族はどうなるのか。

コロナ危機で政治に求められるのは科学的精神と人道主義である。政治が前に出すぎることがいかに危険かトランプ米政権が証明した



◎やはり具体性が…

肝心の成長戦略は空回りするばかり」と言うが、どう見直すべきかは示していない。「コロナ危機で政治に求められるのは科学的精神と人道主義である」という話もやはり具体性には欠ける。「政治が前に出すぎることがいかに危険かトランプ米政権が証明した」とも書いているが、「政治が前に出すぎること」が具体的に何を指すのか謎だ。

さらに見ていく。

【日経の記事】

そのトランプ大統領との蜜月関係は日米同盟を深化させる半面で「米国第一主義」を容認する結果になった。地球温暖化防止のためのパリ協定やイラン核合意からの離脱、中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄などを真正面から批判できなかったのは、同盟国として大きな問題だった。

香港問題など中国の強権化には警告すべきだが、中国包囲網に加わり米中新冷戦をあおるのは避けることだ。日本が主導すべきは、環太平洋経済連携協定(TPP)をてこにアジア太平洋に協調の枠組みを築くことである。



◎結局、どうする?

ここは少し具体性がある。ただ、「中国包囲網に加わり米中新冷戦をあおるのは避ける」方向に行く場合、「日米同盟」はどうするのかという問題がある。「日米同盟を深化させる」ことは諦めて、米国には「中国と仲良くしよう。日本は中国包囲網には加わらないから」とキッパリ言うべきなのか。そこは明確にしてほしかった。

ここから、いよいよ結論に入る。「日本の凋落をどう防ぐか」には一応の答えが出る。

【日経の記事】

首相を永田町の論理で決めれば、国民の政治不信は続き国際社会の信認も失う。日本の凋落を防ぐ大前提は民主主義の確保である。



◎それが答え?

日本の凋落を防ぐ大前提は民主主義の確保である」。そうかもしれない。だが、「世界の国内総生産(GDP)」に占める「日本」の「シェア」を維持していく具体策とは言えない。

首相を永田町の論理で決めれば、国民の政治不信は続き国際社会の信認も失う」というのも漠然とした話だ。どういうやり方だと「首相を永田町の論理で決め」たことになるのか言及していない。

具体性に欠ける話をあれこれしただけで、肝心の「日本の凋落をどう防ぐか」については、これと言って策を示していない。筆者の「無垢」氏にも策はないのだろうが、見出しに釣られた一読者としては徒労感だけが残った。


※今回取り上げた記事「大機小機~日本の凋落をどう防ぐか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200903&ng=DGKKZO63364390S0A900C2EN2000


※記事の評価はD(問題あり)

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