慶応大学大学院准教授の小幡績氏が相変わらず無理のある主張を続けている。27日付の東洋経済オンラインに載った「このまま行けば日本の財政破綻は避けられない~『MMT理論』『自国通貨持つ国は安心』は大間違い」という記事では「『財政破綻は日本では起きない』という主張は、完全に誤りであることを説明しよう」と意気込むが、その説明に説得力はない。中身を見ながらツッコミを入れてみたい。
【東洋経済オンラインの記事】
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また「自国通貨建ての国は、理論的に絶対財政破綻しない」という議論は、元日銀の著名エコノミストですら書いているが、それは、机上の理屈であり、現実には実現不可能なシナリオである。それは、日本銀行が国債を引き受け続けるとインフレになるからではない。その場合は、インフレまで時間稼ぎができるが、インフレになる前に、即時に財政破綻してしまうからである。
日本銀行は、すでに発行されている国債を、市場で買うことはできる。だから、理論的には、日本国内に存在するすべての国債を買い尽くすことはできる。しかし、財政破綻回避のために買う必要があるのは、既存の国債ではない。新発債、つまり、日本政府が借金をするために新たに発行する国債である。そして、これを日本銀行が直接買うこと、直接引き受けは、法律で禁止されている。だからできない。
これを回避する方法は2つである。
1つは、民間金融機関に買わせて、それを日本銀行が市場で買うことである。これは、現在すでに行われている。民間主体から見れば、いわゆる「日銀トレード」で、日銀が確実に買ってくれるから、政府から新規に発行された国債を引き受け、それに利ざやを乗せて、日銀に売りつけるのである。
この結果、日本国債のほぼ半分は日銀が保有することになってしまった。
問題は、これがいつまで継続できるか、ということである。日銀は、継続性、持続性が危ういとみて、イールドカーブコントロールという前代未聞の、中央銀行としてはもっともやりたくない金融政策手段に踏み切り、国債の買い入れ量を減少させることに成功した。
逆に言えば、これ以上買うことの困難は現実に始まっており、無限に市場経由で、日銀に引き受けさせることはできないのである。それでも、政府が国債を発行し続けたらどうなるか。民間金融機関は、これを引き受けるのを躊躇し、少なくとも一時的には中止するだろう。
◎日銀の国債購入能力に限界はある?
「これ以上買うことの困難は現実に始まっており、無限に市場経由で、日銀に引き受けさせることはできないのである」と小幡氏は言うが、「引き受け」は限界を気にせず簡単にできるのではないか。
日銀は確かに「無限に」国債を買える訳ではない。買える国債が枯渇してしまう可能性はある。それは日銀の購入能力に限界があるからではない。モノがないだけだ。なので「政府が国債を発行し続けた」場合に「市場経由で」その全てを買い付けるのは簡単だ。日本円は日銀が無から創出できる。金(ゴールド)など裏付けとなる資産も必要ない。
「政府が国債を発行し続けたらどうなるか。民間金融機関は、これを引き受けるのを躊躇し、少なくとも一時的には中止するだろう」と小幡氏は予想するが、なぜそう考えるのか謎だ。
「政府から新規に発行された国債を引き受け、それに利ざやを乗せて、日銀に売りつける」のが「日銀トレード」で「日銀が確実に買ってくれる」のだから、確実に「利ざや」を稼げる。そんな旨味のある取引をなぜ「少なくとも一時的には中止する」のか。日銀の国債購入能力に限りがあると小幡氏は思っているのか。限りがあるとしたら、それは金額でどの程度なのか。その金額はどうやって算出するのか。
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【東洋経済オンラインの記事】
このとき、政府がどうするかが問題である。政府の道は2つである。1つは、危機をようやく認識し、国債発行を減らすことを決意し、遅まきながら財政再建に取り組む、という道である。しかし、これまでの政府の財政再建の取り組みからして、この道はとらない可能性が高い。
そうなると、もう1つの道しかなく、日銀に直接引き受けをさせるように、法律改正をすることになる。理論的に日本では財政破綻は起きないと主張している人々は、この手段があるから、自国通貨建ての国債を発行している限り、財政破綻しないと言っているのである。
残念ながら、この手段は現実には不可能である。
なぜなら「中央銀行に国債を直接引き受けさせる」という法律を成立させれば、いや国会に提出されたら、いや、それを政府が自ら検討している、と報じられた時点で、政府財政よりも先に、日本が破綻するからである。
日銀、国債直接引き受けへ、という報道が出た瞬間、世界中のトレーダーが日本売りを仕掛け、世界中の投資家もそれに追随して投げ売りをする。
まず、円が大暴落し、その結果、円建ての国債も投げ売りされ、円建ての日本株も投げ売られる。混乱が収まった後には、株だけは少し買い戻されるだろうが、当初は大暴落する。
つまり、為替主導の、円安、債券安、株安のトリプル安であり、生易しいトリプル安ではなく、1998年の金融危機ですら比較にならないぐらいの大暴落である。1997年から1998年の1年間で、1ドル=112円から147円まで暴落したが、「日銀直接引き受け報道」が出て、政府が放置すれば、その時のドル円が110円程度であれば、1週間以内に150円を割る大暴落となり、状況によっては、200円を突破する可能性もある。
ただし、これも現実には起きない。なぜなら、日銀国債直接引き受け報道が出れば、直ちに為替取引も債券取引も株式取引もまったく成り立たなくなり、金融市場は全面取引停止に追い込まれるからだ。
◎インドネシアをどう見る?
2020年7月9日付の日経の記事によると「インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相は6日、中銀と国債の直接引き受けの拡充で合意したと発表」したらしい。「インドネシア中銀は既に6月までに、30兆ルピアを超える国債を直接購入している」ようなので「国債直接引き受け」は実現していると言える。
「『中央銀行に国債を直接引き受けさせる』という法律を成立させれば、いや国会に提出されたら、いや、それを政府が自ら検討している、と報じられた時点で、政府財政よりも先に、日本が破綻する」と小幡氏は断言する。ならばインドネシアはとっくに「破綻」しているはずだが、そうなのか。「金融市場は全面取引停止に追い込まれ」たのか。
ひょっとすると、インドネシアは「中央銀行に国債を直接引き受けさせ」ても大丈夫なのに、日本は「政府が自ら検討している、と報じられた時点」で「破綻」してしまうという話なのか。だとしても、なぜそう言えるのか説明はない。小幡氏が自分に都合良くストーリーを描いているだけだと思える。
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【東洋経済オンラインの記事】
メディアも政治家も、やっと大騒ぎを始め、日銀の直接引き受け報道を政府は否定することになるからだ。しかし、否定しても、いったん火のついた疑念は燃え盛り、取引は再開できないか、再開すれば、さらなる暴落となる。よって、これを収めるには、日銀直接引き受けなど絶対にありえない、という政府の強力で具体的な行動が必要となる。実質的で実効的でかつ大規模な財政再建策とその強い意志を示さざるを得ないだろう。こうなって初めて、暴落は止まる。
つまり、禁じ手といわれている、日銀の直接引き受けは、タブーを犯せば理論的には可能だ。だが現実にはタブーを犯した政府と中央銀行は国際金融市場に打ちのめされるため、結局、禁じ手はやはり禁じ手のままとなる。「自国通貨建ての政府債務なら、いくらでも借金できる」というのは幻想で、為替取引が国際的に行われている限り、それは、自国通貨建てであろうとも、金融市場から攻撃を受ける。
そして、為替の暴落を許容しても、結局国債が暴落してしまい、借金はできなくなり、すべてを日銀に依存することになる、同時に、株式も短期的には大暴落となるから、政治的に持ちようがなく、政権は株式市場により転覆されるだろう。その結果、その政権あるいは次の政権は、財政再建をせざるを得ず、日銀引き受けは結局実現することはない。
◎結局「財政破綻」に至らない?
「為替取引が国際的に行われている限り、それは、自国通貨建てであろうとも、金融市場から攻撃を受ける」から結局「直接引き受け」は実現しないと小幡氏は言う。繰り返しになるが、だったらインドネシアはなぜ「直接引き受け」を実現できたのか。「株式も短期的には大暴落となるから、政治的に持ちようがなく、政権は株式市場により転覆される」ので「直接引き受け」は「結局実現することはない」はずなのに、そうはなっていない。
他にも問題がある。「直接引き受け」に関して「それを政府が自ら検討している、と報じられた時点で、政府財政よりも先に、日本が破綻する」はずなのに、小幡氏の描いたストーリーでは「日本が破綻」しているようには見えない。
「金融市場」が「全面取引停止に追い込まれる」と、それだけで日本は「破綻」なのか。「破綻」の定義が謎だ。政府は存続していて「政府財政」も「破綻」していないのに「金融市場」の取引が止まったぐらいで国が「破綻」してしまったと小幡氏は確信するのか。全く同意できない。
それより重要なのが「『財政破綻は日本では起きない』という主張は、完全に誤りであることを説明しよう」と打ち出したのに、「財政破綻は日本では起きない」と小幡氏自身も裏付けてしまっていることだ。
「日銀引き受けは結局実現することはない」し、「その政権あるいは次の政権は、財政再建」に取り組むようだ。この過程で「政府財政よりも先に、日本が破綻」してしまうらしいが、結局は「政府財政」の「破綻」を描いていない。「すべてを日銀に依存することになる」としても、それで済むなら「財政破綻」には至らない。
「インフレになる前に、即時に財政破綻してしまう」という話はどうなったのか。小幡氏が自分に都合良く描いたストーリー展開でも「財政破綻」がどうやって起きるか具体的に示せないのに、「財政破綻」の心配をする必要があるのか。
自国通貨建ての債務に関して「財政破綻」が起きないとは言わない。政府が債務不履行を望む(あるいは許容する)場合だ。それはないとの前提で言えば「『財政破綻は日本では起きない』という主張は、完全に誤りであることを説明しよう」と頑張ってみた小幡氏に「誤り」がある。
なぜインドネシアで「直接引き受け」が実現したのか。そこをまず考えてほしい。結果として、自らの「大間違い」に気付けるかもしれない。
※今回取り上げた記事「このまま行けば日本の財政破綻は避けられない~『MMT理論』『自国通貨持つ国は安心』は大間違い」
https://toyokeizai.net/articles/-/471734
※記事の評価はE(大いに問題あり)。小幡績氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
小幡績 慶大准教授の市場理解度に不安を感じる東洋経済オンラインの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_18.html
「確実に財政破綻は起きる」との主張に無理がある小幡績 慶大准教授の「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post.html
やはり市場理解度に問題あり 小幡績 慶大准教授「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_4.html
週刊ダイヤモンド「激突座談会」での小幡績 慶大准教授のおかしな発言https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_25.html
東洋経済オンラインでのインフレに関する説明に矛盾がある小幡績 慶大准教授https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_14.html