2021年1月30日土曜日

「ジャケットとパンツ」でも「スーツ」? 日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」

 日本経済新聞の中村直文編集委員が29日の朝刊企業3面に書いた「ヒットのクスリ~通勤スタイル革命(上)スニーカーや水道会社参入 『これがスーツ』よそ者が破る」という記事は問題が多かった。順に見ていこう。

岡城跡(大分県竹田市)

【日経の記事】

時代の節目に伴い、消費スタイルの定型は崩れていく。環境志向の高まりを受けたクールビズでネクタイルックが廃れ、3月11日で発生10年になる東日本大震災では女性のヒールが低くなり、スニーカースタイルが急増した。

新型コロナウイルスの感染拡大で、割を食ったのは言うまでもなくスーツだ。象徴的なニュースが青山商事が専門店の約2割にあたる約160店を閉鎖するという動きだが、一方で新たな通勤着スタイルが定着しつつある。

2020年に話題になったのがニューバランス(NB)のスーツだ。面白いのは「シューズを美しく見せるため」という着眼点にある。まず先行販売したパンツは、シューズと裾との間を約2.5センチ空けたのが特徴。主役はあくまで足元というわけだ。「ジャケットも欲しい」という消費者の要望に応えて上着も発売し、まさに在宅でも通勤でも使える共用系ファッションになった。

同年9月にはセットアップできる5種類のジャケットとパンツに商品を広げた。実はNBスーツは日本発で、中国でも販売を始め、今後グローバル展開していく予定という。


◎どこが「新たな通勤着スタイル」?

日経が大好きな「革命」をタイトルに入れているが「通勤スタイル革命」が起きていると思える材料は示していない。「新たな通勤着スタイルが定着しつつある」としても、それだけでは「通勤スタイル革命」と呼ぶには値しない。

そもそも「新たな通勤着スタイルが定着しつつある」のだろうか。中村編集委員が例として示したのが「ニューバランス」だ。しかし「通勤着」としては「ジャケットとパンツ」というありがちなもの。どこが「新たな通勤着」なのか。

この「ヒットのクスリ」でいつも気になるのが「ヒット」している商品なのかどうか分からないことだ。「ニューバランス」についても「2020年に話題になった」と書いているだけで売り上げなどの具体的な数値はない。

ニューバランス」の「ジャケットとパンツ」が仮に「革命」的なものであっても、それがわずかしか世に出ていないのならば「新たな通勤着スタイルが定着しつつある」とは言えない。

さらに言うと「2020年に話題になったのがニューバランス(NB)のスーツだ」と書いたのに、中身は「ジャケットとパンツ」。それでも「スーツ」なのか。

記事の後半も気になる点はあるが、長くなるのでやめておく。中村編集委員への支援体制をもう少し充実させてほしい。自由に書かせれば、どうしても問題のある記事が出てきてしまう。中村編集委員の周辺にいる日経社内の人間は、そのことを肝に銘じるべきだ。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~通勤スタイル革命(上)スニーカーや水道会社参入 『これがスーツ』よそ者が破る

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210129&ng=DGKKZO68626150Y1A120C2TJ3000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html

「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html

データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_17.html

「バンクシー作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と誤解した日経 中村直文編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_11.html

「新型・胃袋争奪戦が勃発」に無理がある日経 中村直文編集委員「経営の視点」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_26.html

「悩み解決法」の説明が意味不明な日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_19.html

問題多い日経 中村直文編集委員「サントリー会長、異例の『檄』」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_89.html

2021年1月29日金曜日

日経 後藤達也・高見浩輔記者が書いた「先進国の債務、戦後最大」への注文

29日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「先進国の債務、戦後最大~IMF今年予測 世界の財政赤字、GDP比8.5%」という記事はいくつか引っかかる点があった。まず「戦後最大」に注文を付けたい。後藤達也記者と高見浩輔記者は以下のように説明している。

福岡市内を流れる室見川

【日経の記事】

財政支出の拡大を受けて政府債務残高は膨張が続く。19年に104.8%だった先進国の残高のGDP比は20年に122.7%に拡大した。

21年はさらに124.9%まで膨らみ、第2次世界大戦直後の1946年の124.1%を上回る。GDP見通しを上方修正したが、歳出も増えるため比率が歴史的な高水準に達する。米国は132.5%でユーロ圏は99.0%となる。世界全体では99.5%とほぼGDP並みの債務になる


◎過去最大の可能性も…

記事に付けたグラフには1900年以降の推移が出ていて「1946年」を頂点とする山の形が見える。「21年はさらに124.9%まで膨らみ、第2次世界大戦直後の1946年の124.1%を上回る」のであれば、遡れる範囲での「史上最大」となる可能性もあるのではないか。「戦後最大」は間違いではないが、「史上最大」だとすればそちらを前面に出すべきだ。

1900年より前に「史上最大」があるのかもしれない。その場合は、いつ以来の高水準なのかを読者に見せるべきだ。

さらに言えば、「先進国」に焦点を当てるのも不可解だ。「1946年」を上回るからかもしれないが、まずは「世界全体」で考えるべきだ。新型コロナウイルスの感染拡大は「先進国」に限った問題ではない。

世界全体では99.5%とほぼGDP並みの債務になる」とは書いているが、これが「戦後最大」なのかといった点には触れていない。そこは欲しい。

順序が逆になるが、最初の段落の説明にも気になる部分があった。


【日経の記事】

先進国の政府債務の膨張が続いている。国際通貨基金(IMF)によると2021年の国内総生産(GDP)比は124.9%の見通しで、20年比2.2ポイント上昇し戦後最大となる。世界の財政赤字がGDP比で8.5%と高水準となることが響く。新型コロナウイルス禍で家計や企業を支える財政拡大により、中央銀行の国債購入に依存する構図が一段と強まる。


◎「先進国」の話なのに…

先進国の政府債務」が「戦後最大となる」理由として「世界の財政赤字がGDP比で8.5%と高水準となることが響く」と書いている。「先進国の政府債務」に影響するのは「先進国の財政赤字」ではないのか。先進国以外の「財政赤字」は直接的には「先進国の政府債務」を増やさないと思える。


※今回取り上げた記事「先進国の債務、戦後最大~IMF今年予測 世界の財政赤字、GDP比8.5%

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210129&ng=DGKKZO68631750Z20C21A1EA1000


※記事の評価はD(問題あり)。後藤達也記者と高見浩輔記者への評価もDを据え置く。


※後藤記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「先進国の金利急低下」をきちんと描けていない日経 後藤達也記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_87.html

日経 河浪武史・後藤達也記者の「FRB資産 最高570兆円」に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/frb-570.html

IT大手にマネーが「一極集中」と日経 藤田和明編集委員・後藤達也記者は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/it_26.html


※高見記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説明不足が目立つ日経 高見浩輔記者の「真相深層」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_15.html

スポーツ指導者の選抜で女性を優遇すべき? 小笠原悦子氏の日経での主張に異議

28日の日本経済新聞夕刊総合面に載った「女性とスポーツ~リーダーの育成 もっと 男性との競争、条件を平等に~小笠原悦子さんに聞く(下)」という記事は説得力に欠けた。最初の段落から見ていこう。

工事現場のショベルカー

【日経の記事】

 五輪に出場する日本選手団の男女比はほぼ半々になって久しく、2012年ロンドン、18年平昌五輪は女子が過半数となった。が、指導者、管理職の数は圧倒的に少ない。セクハラ問題などで後手に回る一因だろう。「ロールモデルがいないから、リーダーになることをイメージしにくい」と順天堂大大学院教授で同大女性スポーツ研究センター長の小笠原悦子さん。15年から「女性リーダー・コーチアカデミー」をスタート、リーダー育成に乗り出している。


◎具体的には?

指導者、管理職の数は圧倒的に少ない」と原真子記者は書いているが具体的な数値はない。なぜ抜くのか。データを持っていないのか、あるいは「圧倒的に少ない」とまでは言い切れない人数だからか。

女性が「リーダー」だと「セクハラ問題などで後手に」回らないのか疑問だが、仮にそうだとしても、だから女性リーダーを増やすべきとは思えない。総合的に見てベストの「指導者」を選ぶべきだ。結果として男性100%でも女性100%でもいい。

ロールモデルがいないから、リーダーになることをイメージしにくい」という「小笠原悦子さん」の主張にも説得力はない。アーティスティックスイミングの井村雅代氏、新体操の山崎浩子氏、バレーボールの中田久美氏、サッカーの高倉麻子氏など女性に限っても何人もの「ロールモデル」が思い浮かぶ。

そもそも「ロールモデル」は同性でなければならないのか。さらに言えば「ロールモデルがいないから、リーダーになることをイメージしにくい」ような人間を「リーダー」にする必要があるのか。例えば日本代表の監督であれば、何百人、何千人がその職に就く訳ではない。「ロールモデル」など必要としない頼りがいのある「リーダー」を厳選すべきだ。

小笠原悦子さん」はさらに甘えた主張を展開する。


【日経の記事】

「日本もようやくスポーツ庁の支援事業で、日体大の女性エリートコーチ育成プログラムが委託事業に選ばれた。そもそも男女のスポーツを同じ物差しではかる必要がないし、効率だけで判断されたら、産休、育休のある女性は不利。背の低い人が高い場所にあるものを見るために台を使うように、女性が男性と競争する際の基本条件を整えた上で評価しないとフェアでない


◎下駄をはかせてほしい?

そもそも男女のスポーツを同じ物差しではかる必要がない」と言うのはやや意味不明だ。サッカーであれば男子はW杯優勝を目指すべきだが、女子はその必要はないといった話なのか。だとして、それが「指導者」を選ぶこととどう関係するのか。よく分からない。

効率だけで判断されたら、産休、育休のある女性は不利」と「小笠原悦子さん」は言うが、まず「育休」は男性にもある。それに「効率」で男性が上回っているのならば、男性に任せるのは合理的だ。「セクハラ問題などで後手に」回らないような対策を十分にした上で、「効率」で上回る男性に「指導者」を任せてもいいのではないか。

女性が男性と競争する際の基本条件を整えた上で評価しないとフェアでない」とも「小笠原悦子さん」は言う。「基本条件を整え」るとはどういうことか。

背の低い人が高い場所にあるものを見るために台を使うように」と言っているので身長で考えてみよう。身長170センチのA投手の球速は時速140キロ。一方、190センチのB投手は150キロ。球速以外に両選手の差はない。A投手の身長が190センチであれば160キロの球速を出せるとしよう。

この場合、球団は「身長の条件を整えるとA投手の方が優れているからドラフトではA投手の指名しよう」と考えるべきなのか。そんなやり方でB投手を他球団に持っていかれていいのか。

女性であるがゆえに「指導者」として力を発揮できない部分があるのならば、その分は割り引いて評価されるのが当然だ。

指導者」としての実力が同じ2人の男女がいるとしよう。このうちのどちらかに日本代表の監督を任せる。「私は妊娠が分かったら2年間は現場を離れます。それでも良ければ引き受けます」と女性は言っている。一方、男性は「引き受けたら全力で最後までやり抜きます」と訴えている。どちらに任せるべきかは明らかだ。

「女性は総じて男性に劣るかもしれないけど、下駄をはかせて指導者に選んでほしい」と「小笠原悦子さん」は願っているのだろう。その願いが叶わないことを祈りたい。


※今回取り上げた記事「女性とスポーツ~リーダーの育成 もっと 男性との競争、条件を平等に~小笠原悦子さんに聞く(下)

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210128&ng=DGKKZO68587130Y1A120C2US0000


※記事の評価は見送る

2021年1月27日水曜日

問題多い日経 中村直文編集委員「サントリー会長、異例の『檄』」

27日の日本経済新聞朝刊企業1面に載った「サントリー会長、異例の『檄』~ビール低調/『らしくない』後追い 停滞打破へ改革本部設置」という記事は問題が多かった。中村直文編集委員に記事を任せ続けるのならば、社内の支援体制をもっと強化すべきだ。

ゆめタウン久留米

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

サントリーホールディングス(HD)の国内アルコール事業に元気がない。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大でビール販売量が低調で、チューハイは思うように伸びなかった。近年は他社の後追い的な商品戦略も目立つ。しびれを切らしたのか、20年末には佐治信忠会長が異例の檄文(げきぶん)を社員にメールで送付。社内には緊張感が走っている。

社内メールはオブラートに包みながらも厳しい内容だった。「来年(21年)はコロナ禍の中、いやコロナ禍だからこそ、サントリービール事業のステージを変えるチャンスだという気持ちが強くあります。勘と言っても良いでしょう。(中略)常識の壁を破り、ステージを変えるチャンスや!如何(いかが)?」

「来年は私たちにとって、『やり返す』『やり返さねばならない』1年なのです」

まるでテレビドラマ「半沢直樹」に出てくるような言い回しだ。佐治氏は会長となってからは国内外の業務執行を新浪剛史社長や鳥井信宏副社長に任せてきた。そんな佐治会長がいつも気にするのは巨大化したサントリーHDが官僚化し、大企業病に陥ることだ。

ビール事業の赤字に長年苦しんだサントリーが「ザ・プレミアム・モルツ」の成功で黒字化したのは08年。この年はハイボールブームも演出し、飛躍の年となった。

清涼飲料を手掛けるサントリー食品インターナショナルの上場(13年)、米国のビーム社買収(14年)と国内外で基盤を固めた佐治会長が、新浪氏に社長を譲ったのは14年。最大の狙いは「外来種」を招き、組織が硬直化しないように社内に緊張感をもたらすことだ。

「やってみなはれ」の言葉で有名なサントリーは発泡酒を先駆けて出したり、ハイボールを成功させたり、独自性が強みだ。しかし今年の事業戦略説明会で打ち出した新商品は、キリンがすでに昨年に投入した糖質ゼロのビール。らしくない

創業一族の鳥井副社長は「20年は業務用の不振が痛手だった。チューハイは伸びたが、市場の伸び率を下回っている。見通しが甘く、勝った感じはしない」と話す。ちなみにキリンは市場の成長率を超えている。

サントリーHDではこうした反省を踏まえて、1月1日にグループ戦略・改革本部を設置した。トップについたのは将来の総帥最有力候補である鳥井副社長だ。「昔気質の古いサントリーと海外事業などを進める新しいサントリーがある。両方のバランスが大事」と話す。

かつては創業一族が陣頭に立ち、顧客や市場を起点としたマーケティング経営だったサントリー。今は全体バランスを重視している。過去の成功体験が強いと、意思決定の早い創業一族経営でも後れを取る。新たな価値を提示できない企業に成長はない。


◇  ◇  ◇

気になった点を列挙してみる。

(1)1カ月経った今なぜ?

メインの見出しは「サントリー会長、異例の『檄』」。しかし「異例の檄文(げきぶん)を社員にメールで送付」したのは「20年末」らしい。約1カ月が経過している。話が古くないか。

まるでテレビドラマ『半沢直樹』に出てくるような言い回しだ」と中村編集委員は言うが、内容的にもそんなに厳しくない。

何が「異例」なのかも明確にしてほしかった。「会長」が「社員にメールで送付」するのが「異例」なのか。年末の「送付」が「異例」なのか。毎年恒例だが、いつもはもっと温い内容なのか。

さらに言えば対象が「社員」となっているのも気になる。全「社員」に送ったのならそう書いてほしい。一部の「社員」が対象ならば、その範囲も欲しい。


(2)数字は見せない主義?

国内アルコール事業に元気がない」と言うものの、具体的な数字は全く出てこない。経済記事でこれは辛い。どの程度「元気がない」のか把握できない。


(3)「新浪剛史社長」には任せられない?

異例の檄文」を社員に送ったという話の後で「国内外の業務執行を新浪剛史社長や鳥井信宏副社長に任せてきた」「今年の事業戦略説明会で打ち出した新商品は、キリンがすでに昨年に投入した糖質ゼロのビール。らしくない」と続く。

新浪剛史社長」に任せていてはダメだから「佐治信忠会長」が前面に出るという宣言の意味が「異例の檄文」にはあるようにも取れる。しかし中村編集委員はその辺りを明確にしていない。個人的な見解でもいいので、そこは触れるべきだ。

1月1日にグループ戦略・改革本部を設置した。トップについたのは将来の総帥最有力候補である鳥井副社長だ」とも記事では書いている。これも「新浪剛史社長」では頼りないから「創業一族」が指揮を執るとも取れる。しかし「今は全体バランスを重視している」とも書いていて結局よく分からない。

もう少しきちんと解説してほしい。


(4)「総帥」という役職がある?

トップについたのは将来の総帥最有力候補である鳥井副社長だ」と書いているが「総帥」という役職が「サントリーHD」にはあるのか。あるとしたら現在は「佐治信忠会長」が兼務しているのか。いきなり「将来の総帥最有力候補」と言われても困る。


※今回取り上げた記事「サントリー会長、異例の『檄』~ビール低調/『らしくない』後追い 停滞打破へ改革本部設置

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210127&ng=DGKKZO68542870W1A120C2TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html

「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html

データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_17.html

「バンクシー作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と誤解した日経 中村直文編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_11.html

「新型・胃袋争奪戦が勃発」に無理がある日経 中村直文編集委員「経営の視点」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_26.html

「悩み解決法」の説明が意味不明な日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_19.html

村上春樹氏の発言はやはり誤りだと思える週刊ダイヤモンドの回答

村上春樹氏のインタビュー記事に関する問い合わせをしてから2週間。ようやく回答が届いた。これまでのやり取りは以下の通り。
スズメ


【ダイヤモンドへの問い合わせ(1月12日)】

週刊ダイヤモンド 副編集長 杉本りうこ様

1月16日号の「誰もが間違う世界を何が救うのだろうか?」というインタビュー記事についてお尋ねします。この中で作家の村上春樹氏は以下のように語っています。

そういうもの(立派な施設)が米国にたくさんあるのは、寄付額を税額控除の対象にできる制度があるためです。これが日本にはないから、誰も大きな寄付をしない

まず「寄付額を税額控除の対象にできる制度」が「日本にはない」のでしょうか。村上氏の母校である早稲田大学のホームページを見ると「早稲田大学への寄付金は、文部科学省より寄付金控除の対象となる証明を受けています。寄付金控除には、下記の[A]税額控除制度 と [B]所得控除制度 の2種類があり、確定申告の際には、寄付者ご自身においてどちらか一方の制度をご選択ください」との説明があります。

税額控除制度」に関しては「寄付金額が年間2,000円を超える場合には、その超えた金額の40%に相当する額が、当該年の所得税額から控除されます」と書いてあります。村上氏が母校に「大きな寄付」をした場合「寄付額を税額控除の対象にできる」のではありませんか。

日本」では「誰も大きな寄付をしない」という発言にも問題を感じます。一例として九州大学の椎木講堂を挙げます。同大学のホームページによると、この「立派な施設」は「椎木正和氏」が寄贈したものです。金額は不明ですが、これを「大きな寄付」に含めないのは無理があります。

寄付額を税額控除の対象にできる制度」が「日本にはないから、誰も大きな寄付をしない」という村上氏の発言は、二重に間違っていませんか。杉本様は村上氏の発言をそのまま文字にしたのだとは思いますが、記事にする上では基本的な事実関係を確認する責任が編集部側にあるはずです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【ダイヤモンドへの再度の問い合わせ(1月26日)】

週刊ダイヤモンド 編集長 山口圭介様 副編集長 杉本りうこ様

御誌を定期購読している鹿毛と申します

村上春樹氏のインタビュー記事に関する問い合わせをしましたが、2週間が経過しても回答が届きません。どういう状況なのか教えていただけないでしょうか。

事実確認にそれほど時間を要する内容とも思えません。万が一、回答の意思がないということであれば、その旨を伝えていただけると助かります。

よろしくお願いします。

以下が問い合わせの内容です。


※問い合わせの内容に関しては繰り返しになるので省略


【ダイヤモンドの回答(1月26日)】

平素は私どもの記事を熱心にお読み下さり、ありがとうございます。
また拙稿についてお問い合わせを下さった件、返信が遅れ、大変失礼いたしました。
代表アドレスに届くメールは、自動のフォルダ分類をしていた結果、確認が漏れておりました。

お問い合わせの件ですが、主には以下のような理由から現状の表現としております。

・寄付税制の日米格差は、日本側が拡充を進めた結果、近年縮小しています。しかし村上春樹氏が在米していた時期(1990年代~2010年頃)には、確かに米国の寄付税制のほうが手厚くありました。村上氏が「当時の記憶を紐解く形」でこのように指摘することは、インタビュー記事の表現としては不自然ではないかと考えております

・「大きな寄付」については、確かに個別の寄付者の寄付額をランキングのように比較することはできません。日本にもまとまった額を寄付している方が存在するのは、ご指摘のとおりです。ただ、個人寄付額の対GDP比率や、大学財政における寄付金の占める割合といったデータの日米格差を考慮すると、「米国のほうがより大きな額を、より多くの人が寄付している」と見なしても不自然ではないと考えております

以上、ご質問に答える説明となりましたら幸甚です。

また末尾になりますが、鹿毛様には常日頃から、私どもの記事を細部に至るまでお読みいただき、大変光栄に思っております。

キャッチーなヘッドラインばかりが注目されがちな昨今にあって、記事のファクトや論理構成に厳しい目を向ける成熟した読者もいることを、今回のご質問で改めて再確認しました。
審美眼に応える記事を書けるよう、ますます精進せねばと緊張する次第です。

どうぞよろしくお願いいたします。

◇   ◇   ◇

やり取りは以上。いくつか補足しておきたい。

問い合わせは編集部のメールアドレスに送っただけでなくダイヤモンドのサイトの問い合わせフォームも使っている。つまり2つ送っている。それでも「確認が漏れ」るのか。本当だとしたら「確認」のやり方を根本的に見直すべきだろう。

寄付額を税額控除の対象にできる制度」が「日本にはないから、誰も大きな寄付をしない」という発言に関しては、村上氏が日本の現状を嘆いていると取れる。「村上氏が『当時の記憶を紐解く形』でこのように指摘することは、インタビュー記事の表現としては不自然ではない」という見方には同意できない。

百歩譲って「当時の記憶を紐解く」ものであり、今の日本を語っているわけではないとしよう。しかし「寄付税制の日米格差は、日本側が拡充を進めた結果、近年縮小しています。しかし村上春樹氏が在米していた時期(1990年代~2010年頃)には、確かに米国の寄付税制のほうが手厚くありました」という話らしい。とすると「日米格差」はあったものの「寄付額を税額控除の対象にできる制度」は存在していたのではないか。その前提で言えば「日本にはないから」という発言は事実誤認のはずだ。

『米国のほうがより大きな額を、より多くの人が寄付している』と見なしても不自然ではない」という回答も同じような問題がある。「米国のほうがより大きな額を、より多くの人が寄付している」という認識が正しいとしても、だからと言って「誰も大きな寄付をしない」との説明に問題なしとはならない。

誰も大きな寄付をしない」という説明が正しいと言えるのは、日本で「大きな寄付」をする人がゼロの場合だ。ごくわずかしかいないのならば許容範囲内かもしれないが「米国のほうがより大きな額を、より多くの人が寄付している」といった話ならば、村上氏の発言は誤りと考えるべきだろう。



※今回取り上げた記事「誰もが間違う世界を何が救うのだろうか?

※この記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

寄付の税額控除が「日本にはない」と週刊ダイヤモンドで村上春樹氏は語るが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_13.html

2021年1月26日火曜日

あとは何を「調整」?日経「三井住友トラスト社長に高倉氏」に思うこと

26日の日本経済新聞朝刊1面に載った「三井住友トラスト社長に高倉氏~信託銀は大山氏」という記事は2つの意味で引っかかった。全文は以下の通り。

両筑橋の架け替え工事現場

【日経の記事】

三井住友トラスト・ホールディングス(TH)は25日、高倉透執行役員(58)を社長に起用する人事の最終調整に入った。傘下の三井住友信託銀行社長には同行の大山一也取締役(55)を充てる方向だ。4月に発足から10年となるのを機に経営体制の若返りをはかる。初めて両トップが旧住友信託銀行出身者になる。

25日に取締役人事を検討する指名委員会を開き、両氏を社長に推す案をまとめた。トラストの大久保哲夫社長(64)と信託銀の橋本勝社長(63)の処遇は今後詰める。


◎発表待ちでいいのに…

社長人事は基本的に発表待ちでいい。「三井住友トラスト・ホールディングス」のトップ交代に読者はそんなに関心があるのか。「最終調整に入った」という生煮えの段階ならば、さらに要らない。

発表前に書くことに何の意義があるのか。社会を良くする効果は当然ない。読者の多くが「生煮えでもいいから三井住友トラスト・ホールディングスの社長交代の情報が欲しい」と望んでいるのか。取材させられる記者がかわいそうになる。

しかし、この手の取材経験をした記者で出世した人間は、自分がやってきたことを否定したくないから「社長人事は抜くべき」という考えを押し付けるタイプになりやすい。なので無駄な仕事がなかなか減らない。

付け加えると、なぜ「最終調整に入った」と逃げを打っているのか疑問が残った。「25日に取締役人事を検討する指名委員会を開き、両氏を社長に推す案をまとめた」のならば、もう「調整」すべきことはないと思える。「指名委員会」は「株主総会に提出する取締役の選任・解任議案の決定」に関する権限を持っているはずだ。後は誰がどこで「最終調整」するのか。そこは気になる。


※今回取り上げた記事「三井住友トラスト社長に高倉氏~信託銀は大山氏」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210126&ng=DGKKZO68506670W1A120C2MM8000


※記事の評価はC(平均的)

2021年1月25日月曜日

「女性限定の反撃」は「罪」? 小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した無理筋

コラムニストの小田嶋隆氏はやはり衰えが目立つ。「吉村洋文大阪府知事」を嫌っているのは知っているし、批判するのも自由だが、内容に無理がある。話題となった同知事の「ガラスの天井」発言に関して1月25日号の日経ビジネスで小田嶋氏は以下のように書いている。

西鉄大牟田線と筑後川

【日経ビジネスの記事】

さて、報道を受けて、早速幾人かの著名人がツッコミを入れた。こんなことも知らないのか、と。まあ、当然だ。ところが、このツッコミに対して吉村知事は1月10日《蓮舫議員や太田議員が、「吉村が『ガラスの天井』を間違って使ってる!」と一生懸命だが、僕が役所内の「ガラスの天井」を打ち破る為に何をしてるのかも知らないんだろうな。その意味で使ってない。記者会見では、いつ割れてもおかしくない状態を「ガラス」に喩えただけ。会見の中身を見たら明らか。》というツイートで反撃に転じたのである。

この弁明はいかにも苦しい。よって、第3の罪として「非を認めない罪」を挙げたい。これが一番大きいかもしれない。この程度のミスは、「ごめんごめん知りませんでした。テヘペロ」とでも言っておけば一件落着、かえって好感度が上がるくらいなものだ。

もうひとつ指摘したいのは、知事が蓮舫議員と太田房江議員といういずれも女性からのツッコミにのみ反撃している点だ。知事は「一生懸命」と書いているが、両議員とも、一回ずつしか突っ込んでいない。この女性限定の苛烈な反撃は、まさにガラスの壁そのものだ。いや、ガラスではないな。もっと目に見えやすいし、それに強いにおいがある。「イソジンの壁」と呼ぼう。これが最後の罪だ。うがいをして、口をきれいにするのがよいと思いますよ。


◎本当に「ミス」なのか?

吉村知事の言葉の使い方を小田嶋氏は記事の中で「誤用」と断定している。そうだろうか。「『ガラスの天井』は、女性の社会進出を語る文脈の中で『見えない壁』として立ちはだかる障害をガラスになぞらえた慣用表現」という理解に異論はない。だが、そのことは「ガラスの天井」を他の意味での例えに使えなくするものではない。「その意味で使ってない。記者会見では、いつ割れてもおかしくない状態を『ガラス』に喩えただけ」との吉村知事の弁明は成立する。

ガラスの天井」は「女性の社会進出を語る文脈の中」でしか使えないのか。他の意味で使うのは「誤用」と誰が決めたのか。どこかの辞書にそう書いてあるのか。「ガラスの天井」を「女性の社会進出を語る文脈の中」で使うことに慣れている人にとって吉村知事の発言に違和感があるのは分かる。しかし、それが「誤用」かどうかは別問題だ。

別の言葉で考えてみよう。「ガラスのハート」と言えば「傷つきやすい心」の意味で使うのが一般的だろう。だが、他の意味で使うのが「誤用」とは言えない。「あいつは何考えてるかすぐ分かるよ。心の中が外から丸見えなんだ。あれはガラスのハートだな」と言われたらどうだろう。違和感はあるかもしれない。だが日本語としての明らかな誤りはない。

次に「女性からのツッコミにのみ反撃している点」について考えてみたい。個人的には何ら問題がないと思える。吉村氏がこの件で1万人から批判を受けたとしよう。その中で特に反論したい2人を選んで「反撃」するケースを考えてみたい。この場合、男女1人ずつにすべきなのか。特に問題ある主張をしていると感じた2人を選んだらともに女性だった場合はどうするのか。1人を外して別の男性を選ばなければならないのか。

誰に「反撃」しようと吉村知事の自由だ。批判してきた1万人のうち9990人が女性だったとしても「反撃」対象を2人選ぶ時には男女1人ずつにしなければならないのか。「反撃」対象が1人の場合はどうするのか。その場合は男性にしろという話なのか。

報道を受けて、早速幾人かの著名人がツッコミを入れた」と小田嶋氏は書いているが、ざっとネットニュースなどを見てみても「蓮舫議員と太田房江議員」以外の名前は見つけられなかった。「幾人」とは何人なのか。他に誰がいるのか。「幾人」が例えば5人で全員女性だったらどうすべきなのか。

それに「蓮舫議員と太田房江議員」の共通属性は「女性」だけではない。2人はともに「議員」であり「著名人」であり「中高年」でもある。「女性限定の苛烈な反撃は、まさにガラスの壁そのものだ」と小田嶋氏は言うが、ならば「議員限定の苛烈な反撃」も「ガラスの壁」なのか。

この4つの属性に関して「ガラスの壁」をなくすには「反撃」対象を1人は「男性、議員、著名人、中高年」にして、もう1人を「女性、非議員、一般人、若者」といった具合にしなければならない。属性は他にもたくさんある。「反撃」対象の選定にはそんなに面倒な条件があるのか。少し考えれば小田嶋氏も分かるはずだが…。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『pie in the sky』~ 絵に描いた餅べーション~ガラスの天井に懺悔せよ

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00100/


※記事の評価はD(問題あり)。小田嶋隆氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html

「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html

リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/pie-in-sky.html

「退出」すべきは小田嶋隆氏の方では…と感じた日経ビジネスの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_16.html

「政治家にとってトリアージは禁句」と日経ビジネスで訴える小田嶋隆氏に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_10.html

「利他的」な人だけワクチンを接種? 小田嶋隆氏の衰えが気になる日経ビジネスのコラムhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_15.html

根拠示さず小林よしのり氏を否定する小田嶋隆氏の「律義な対応」を検証https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_28.html

小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した「コロナ楽観論批判」への「反論」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_29.html

2021年1月24日日曜日

ノルウェーを見習えば少子化克服? 山口慎太郎 東大教授の無理筋

東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の山口慎太郎氏が少子化対策に関しておかしな主張をしている。23日付のたまひよOnlineに載った「ジェンダーの不平等が原因?なぜ少子化を食い止められないのか」という記事の一部を見ていこう。

神戸市

【たまひよOnlineの記事】

――日本では少子化が進む一方です。原因はどこにあると思われますか。

山口先生(以下敬称略) 子どもを持つか持たないか、持つとしたら何人ほしいかは、夫婦で話し合って決めることです。でも、夫婦で意見が一致しないのは珍しいことではなく、その場合、妻のほうが子どもを持ちたくないと考えるケースが多い、という調査結果があります。

そして、妻が「子どもを持ちたくない」と思っている割合が高い国ほど、男性の子育て参加度が低く、出生率も低くなることもわかっています。

――出生率が下がる一方の日本は、「妻が子どもを持ちたいと思いにくい国」ということなのでしょうか。

山口 急激に少子化が進んでいる現状を見る限り、残念ながらそう言わざるを得ません。

子育てや労働環境において男女平等が進んでいる国ほど、子どもを持つことに夫婦間の意見が一致しやすいという研究結果もあります。

世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数2020」によると、日本の順位は153カ国中121位。1位アイスランド、2位ノルウェー、3位フィンランドと続き、イギリスが21位、アメリカが53位、アジア圏では中国が106位、韓国が108位で、日本は断トツに低い順位です。

また、6才未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児関連時間の国際比較によると、日本のママが1日に家事・育児に費やす時間は7時間34分(うち育児が3時間45分)で、パパは1時間23分(うち育児が49分)です。「ジェンダー・ギャップ指数2020」2位のノルウェーでは、ママが5時間26分(うち育児が2時間17分)、パパが3時間12分(うち育児が1時間13分)ですから、かなりの差がありますね。

こうした男女の不平等を改善していかないと、日本の少子化を食い止めることはできないと思います。


◎「ノルウェー」を見習うべき?

男女の不平等を改善していかないと、日本の少子化を食い止めることはできない」と山口氏は言う。そして「ジェンダー・ギャップ指数」が「2位のノルウェー」と日本を比較している。「ノルウェー」の出生率が高いのならば説得力はある。

「世界経済のネタ帳」というサイトで2018年の合計特殊出生率ランキングを見るとノルウェーは1.56で156位。170位の日本(1.42)と大差ない。「ジェンダー・ギャップ指数」が「3位」の「フィンランド」に至っては日本より下位の173位。なのに「家事・育児に費やす時間」の男女差を縮小すれば少子化対策になると考えるのが不思議だ。

東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授」という肩書からの推測になるが、山口氏は賢い人なのだろう。そんな人がなぜこんな主張をしてしまうのか。

それは「見たいものを見よう」という気持ちのせいだと思える。「北欧のような社会を日本も目指すべきだ」という信条が山口氏にはあるのだろう。なので少子化問題に関しても、それに合ったデータをご都合主義的に選んでしまうのではないか。

少子化問題では多くの論者が「先進国の中だけで考える」という罠にはまっている。少子化クラブとも言える先進国の中で、わずかな出生率の差に着目して対策を考えるので、どうしても無理が生じてしまう。

途上国・新興国に目を向ければ高い出生率の国はいくらもある。だが、そこから少子化対策を学ぼうとすると、どうしても「不都合な結論」になってしまう。だから山口氏のような人でも、おかしな分析をしてしまうのだろう。

妻が『子どもを持ちたくない』と思っている割合が高い国ほど、男性の子育て参加度が低く、出生率も低くなることもわかっています」と山口氏は言う。しかし具体的なデータは示していない。先進国に限定しない近年のデータでもそうした傾向が出るだろうか。少なくともノルウェーは「男性の子育て参加度」が高いのに「出生率」は低いのではないか。

付け加えると「ジェンダー・ギャップ指数」に関する「アジア圏では中国が106位、韓国が108位で、日本は断トツに低い順位です」との説明は誤りではないか。日本より下位のトルコ、タジキスタン、ヨルダン、オマーン、レバノン、サウジアラビア、イラン、シリア、パキスタン、イラク、イエメンは全て「アジア圏」外と言えるだろうか。


※今回取り上げた記事「ジェンダーの不平等が原因?なぜ少子化を食い止められないのか」https://news.yahoo.co.jp/articles/9427ffa99cda44c78614625122ab98def6ec1f38


※記事の評価はD(問題あり)

2021年1月23日土曜日

2014年に「参入」済みでは? 日経「再生エネ投資 米大手参入」

23日の日本経済新聞朝刊総合5面に「再生エネ投資 米大手参入 73億円調達~日本事業、3年で10倍」という記事が載っている。見出しを見ると「『米大手』がこれから『再生エネ投資』に『参入』する」と理解したくなる。しかし「参入」したのは2014年らしい。なぜこんな記事になってしまったのか。全文を見た上で考えたい。

大阪市内を流れる淀川

【日経の記事】

太陽光発電所など再生可能エネルギー資産を運用する、米ハドソン・サステナブル・グループが日本市場に本格参入する。22日、国内外の投資家から73億円を調達した。自己資金と合わせ、今後3年で発電容量を10倍の300メガワットまで積み増す。脱炭素の流れが強まる中、日本で再エネの需要が高まるとみて事業を拡大する。事業拡大に合わせ、日本拠点の人員も増やす。

ハドソンは世界で30億ドル(約3100億円)以上を再エネに投資している。日本では2014年に福岡県の太陽光発電所をドイツ企業と共同で取得した。日本政府が再生エネ推進の方針を出し、「日本での継続的な事業拡大の好機」(ニール・アウエルバッハ最高経営責任者)とみて投資を積極化する。

すでに北海道から鹿児島県まで全国33件の太陽光発電所を豪金融大手マッコーリーグループと中国のトリナ・ソーラーから約100億円で取得した。いずれも2メガワット以下の中規模発電所で、合計発電容量は約30メガワットにのぼる。22日に発行した私募債券はこれら33の発電所を投資対象とする。

今後も中規模の太陽光発電所を中心に取得を進め、3年で今回の10倍の300メガワットまで積み上げる。現在3人の日本拠点の人員も拡充し、将来的には保有する発電所の保守・管理やファンド運用も自社で展開する計画だ。


◎「本格参入」には要注意

推測だが、今回の出発点は「米ハドソン・サステナブル・グループ」による「私募債」発行だろう。これを基に記事にできないかと記者は思ったのではないか。しかし「私募債」発行だけでは弱い。そこであれこれ話を加えて「日本市場に本格参入」と打ち出したのだと考えれば腑に落ちる。

これまでが実験的な「参入」にとどまっていたのならば責められる話ではない。記事では「2014年に福岡県の太陽光発電所をドイツ企業と共同で取得した」と記しているだけで、規模には触れていない。この時点で立派に「本格参入」している可能性もありそうだ。

しかも「すでに北海道から鹿児島県まで全国33件の太陽光発電所を豪金融大手マッコーリーグループと中国のトリナ・ソーラーから約100億円で取得した」らしい。これは疑うことなく「本格参入」だ。

しかし記者はここまでを非「本格参入」と見なし「3年で今回の10倍の300メガワットまで積み上げる」ことを以って「本格参入」としているようだ。ご都合主義が過ぎる。

そして見出しを付ける段階では「本格参入」から「本格」を外し「再生エネ投資 米大手参入」としてしまう。2014年に「参入」しているのに、今回新たに「参入」するかのような記事の出来上がりだ。

インチキ臭い「本格参入」を量産する今のやり方を続けて良いのか。日経はそろそろ考えるべきだ。


※今回取り上げた記事「再生エネ投資 米大手参入 73億円調達~日本事業、3年で10倍

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210123&ng=DGKKZO68454910S1A120C2EA5000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年1月22日金曜日

日経「エコノミスト360°視点」でBNPパリバ証券 中空麻奈氏が見せた市場への理解不足

BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈氏に対しては低い評価を与えてきた。専門家なのに市場への理解が不十分だと思えるからだ。22日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「エコノミスト360°視点~『合理的バブル』が終わるとき」からも、その傾向が読み取れる。

夕暮れ時の耳納連山

まずは「バブル」への理解について見ていこう。

【日経の記事】

しかし、合理的か非合理的かにかかわらず、バブルはいつかはじける。

良く引き合いに出されることだが、電気自動車世界最大手、米テスラ株の時価総額が日本車メーカー9社合計を上回った事実一つをとっても、資産価格の上昇はすでに説明がつかない。警戒感を持ってバブルの波から早く降りれば崩壊に備えられる。とはいえ、まだ株価が上昇するとすれば、指をくわえて見ていられないのが投資家の宿命だ。


◎なぜ「説明がつかない」?

米テスラ株の時価総額が日本車メーカー9社合計を上回った事実一つをとっても、資産価格の上昇はすでに説明がつかない」と中空氏は言うが「説明」は簡単だ。「米テスラ」の利益が近い将来に「日本車メーカー9社合計」を上回るというシナリオを描けばいい。例えば5年後に「9社合計」を上回り、10年後には2倍以上になるとの前提であれば、今の株価を正当化できる。

そのシナリオの妥当性が「バブル」かどうかを決める。ただ、将来を正確に見通すのは難しいので「バブルの可能性が高い」ぐらいのことしか言えないはずだ。

中空氏は「米テスラ」の株価が「バブル」と言える根拠として「時価総額が日本車メーカー9社合計を上回った」ことしか挙げていない。「いくら何でも『9社合計』を上回るのはおかしいでしょ」ぐらいの感覚で判断しているのか。だとしたら素人レベルだ。

もう1つ気になったのが以下のくだりだ。


【日経の記事】

問題は合理的か非合理的かではなく、(1)このバブルは何をトリガーにして(2)いつ終わるのか――という2点だ。

効率的市場仮説に基づいて価格が決まっているのだとすれば、そこから生じたバブルの限界は、「その価格では転売できなくなった時」か、現実世界の資源の有限性がネックになって「その価格が成立しなくなった時」である。

しかし、前者については、中央銀行が最後の買い手となると市場は理解している。中央銀行の出口戦略がきっかけになるとの声は多いが、極端な政策を取るとは思えない。そうなると、今回のバブルは現実世界の「崩れ」が原因で終わる公算が大きいのではないか。トリガーとなり得るポイントを3つ指摘する。


◎「中央銀行が最後の買い手」?

日本株に関して「中央銀行が最後の買い手となると市場は理解している」のかもしれない。しかし海外市場は違うだろう。記事ではどこの株式市場で「バブル」が発生しているのか明示はしていない。ただ「米テスラ」を例に挙げているのだから日本株に限定していないのは明らかだ。

米テスラ」の株価が急落した時にFRBが「最後の買い手」となってくれると「市場は理解している」のか。金融危機的な状況になって株価が急落した時に追加の金融緩和策で株価を下支えする可能性はあるだろうが、それは「最後の買い手」になることを意味しない。

もちろんFRBが危機に際して「最後の買い手」になる可能性はゼロではない。イエレン前議長も昨年に「現時点では必要ないと思うが、長期的にはFRBが購入できる資産について議会に再検討してもらうのは悪くない」と述べたらしい。

しかし現時点で「中央銀行が最後の買い手となると市場は理解している」かと言われれば違う気がする。


※今回取り上げた記事「エコノミスト360°視点~『合理的バブル』が終わるとき」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210122&ng=DGKKZO68376020R20C21A1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中空麻奈氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

BNPパリバの中空麻奈氏に任せて大丈夫? 東洋経済「マネー潮流」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/bnp.html

日経「エコノミスト360°視点」に見えるBNPパリバ 中空麻奈氏の実力不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/360bnp.html

「『長年の謎』から格付けの意義を問う」中空麻奈氏に感じた「謎」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_10.html

2021年1月21日木曜日

「感染防止」と「多様な働き方後押し」が理由?日経「電通、本社ビル売却検討」に疑問あり

 21日の日本経済新聞朝刊1面に載った「電通、本社ビル売却検討~3000億円規模 在宅推進へオフィス改革」という記事は疑問が残る内容だった。まず「なぜ売却なのか」が分かりにくい。

筑後川

記事では以下のように説明している。

【日経の記事】

電通グループは東京都港区の本社ビルを売却する検討に入った。売却額は国内の不動産取引として過去最大級の3000億円規模になるとみられる。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、遠隔勤務を主体とした分散型のオフィスに改革する。感染防止とともに従業員の多様な働き方を後押しする。企業による都心オフィスの売却や利用方法見直しが広がってきた。

売却を検討するのは東京・汐留の「電通本社ビル」。地上48階建て、高さ約210メートルの超高層ビルで、低層部には商業施設「カレッタ汐留」がある。旧国鉄・汐留貨物駅跡地の再開発により2002年に完成した。月内にも優先交渉先を選び、本格交渉に入るもよう。売却資金は事業構造改革や成長投資に充てる

同社はコロナ拡大後の20年2月以降、働き方改革を加速してきた。同ビルのグループ社員約9000人超が遠隔勤務を実施しており、出社率は足元で最大2割程度にとどまる。東京・目黒などにサテライトオフィスを設け、本社での集中勤務を減らしている。

本社ビルの余剰空間が生まれており、売却により資産の効率化を進める。現在、ビルの約7割を利用する国内事業会社、電通のオフィス利用面積は半分程度に減るもようだ。ビル売却後も大部分をグループで賃借し、本社は移転しない方針だ

金融機関や不動産会社、投資ファンドなどが買い手候補に挙がっている。同ビルは当面安定した賃料収入が見込めるほか、都心の好立地にあり一定の需要があるとみているようだ。


◎売却でなくても…

最初の段落では「感染防止とともに従業員の多様な働き方を後押しする」と書いている。これはどちらも「本社ビルを売却する」こととの関連が乏しい。「感染防止」はむしろ自社ビルの方がやりやすいだろう。「従業員の多様な働き方を後押しする」ためには「賃借」の方が有利とも考えにくい。

本社ビルの余剰空間が生まれて」いるのであれば「余剰空間」を他者に貸し出す選択もある。なのに「売却」を選ぶ理由が記事からは浮かんでこない。

現状では「余剰空間」の借り手がいないが「売却」であれば「余剰空間」を買い手に押し付けられるという話なのかとも考えてみた。しかし「ビル売却後も大部分をグループで賃借し、本社は移転しない方針」らしいので「余剰空間」の押し付けでもなさそうだ。

現在、ビルの約7割を利用する国内事業会社、電通のオフィス利用面積は半分程度に減るもようだ」との説明も引っかかる。さらに「余剰空間」が生まれると分かっているのに「大部分をグループで賃借」するようだ。しかも「国内事業会社」の「賃借」分から生まれる「余剰空間」も「電通グループ」が「賃借」すると取れる。

3000億円規模」という売却金額をどう見るかにもよるが、「余剰空間」は「電通グループ」が引き受けて賃料を払い続けるという条件ならば買い手にかなり有利だ。それでも「電通グループ」が「売却」を望むとすれば、やはり資金繰り対策だと推測したくなる。

この点に関して記事では「売却資金は事業構造改革や成長投資に充てる」と述べているだけだ。ネタをもらったから「電通グループ」の言い分をそのまま書くしかないといった事情でもあるのだろうか。であればニュース先取りの弊害が出ている。自由に書いてこの内容だとすると、説明が不十分だ。


※今回取り上げた記事「電通、本社ビル売却検討~3000億円規模 在宅推進へオフィス改革

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210121&ng=DGKKZO68356240R20C21A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年1月20日水曜日

問題山積みの日経1面「青山商事、売り場最大半減」

20日の日本経済新聞朝刊1面に載った「青山商事、売り場最大半減~6割の400店 スーツ離れ、各社が事業見直し」という記事。見出しを見た時は「青山商事の売り場が最大で半減するのか」と思ってしまった。中身を読んでみると、そんな大きな話ではない。そこを工夫して「1面ワキにふさわしい見出し」にしたのだろう。気持ちは分かるが感心しない。では「青山商事」の「売り場」はどのぐらい減るのか。記事を見ていこう。

夕暮れ時の巨瀬川(久留米市)

【日経の記事】

新型コロナウイルス感染拡大を受けたテレワーク普及でスーツ離れが進んでいる。紳士服最大手の青山商事は専門店の6割にあたる400店で売り場面積を最大5割減らす。空きスペースはコンビニエンスストアなどを誘致する。新しい働き方の普及で、外食や化粧品など幅広い業種で事業の見直しが迫られている。

青山商事がスーツ事業を抜本的に見直すのは1964年の創業以来初めて。2021年3月期最終損益は292億円の赤字(前期は169億円の赤字)に膨らむ見通し。140店舗を閉めた後、存続する紳士服業態の約700店舗のうち400店で、売り場面積を3~5割縮小する

売り場縮小で人件費を抑えるほか、余剰在庫も2~3割削減する。一方、在庫を持たず売上高を確保できるオーダースーツ業態は出店を続ける。


◎色々と疑問が…

約700店舗のうち400店」で「売り場面積」を減らすという話だ。減少率は「3~5割」。つまり最も減る店だと「5割」になる。ここから「青山商事、売り場最大半減」という見出しを引っ張ってきている。間違いではないが誤解を招きやすい。見出しを付けた人間はそれを分かった上で「1面の見出しだから、こうするしかない」と判断したのだろう。

青山商事」に関する説明には他にも色々と疑問が湧く。列挙してみたい。


(1)いつ減らす?

売り場面積を最大5割減らす」と言うものの時期は不明。「140店舗を閉めた後」だとは思うが、この閉店の時期も分からない。

産経新聞によると「青山商事は11日(注:2020年11月11日)、全店舗の2割に相当する約160店舗を令和4年3月末までに閉店すると発表した」らしい。だとすると「140店舗を閉めた後」とは2021年4月以降の可能性が高い。

「when」を抜くのは日経の企業ニュース記事の悪しき伝統ではある。早く断ち切ってほしい。


(2)全体ではどの程度の減少?

6割にあたる400店」で「3~5割」減らすと全体で見ればどの程度の減少になるのかは欲しい。「140店舗」の閉店も合わせた場合の減少率が分かれば、さらに好ましい。今回の記事の説明では、全体でどのぐらい減るのかが見えにくい。


(3)「抜本的に見直す」のは「創業以来初めて」?

昨年11月に大量閉店の方針を打ち出しているのならば、その時点で「スーツ事業を抜本的に見直す」方針を打ち出しているのではないか。これを「抜本的」な見直しと捉えず「専門店の6割にあたる400店で売り場面積を最大5割減らす」段階で「創業以来初めて」の「抜本的」な見直しになると考えるのは無理がある。

1面に持っていくために盛り上げて書いたのだろう。それが記事の質をかえって低下させることに早く気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「青山商事、売り場最大半減~6割の400店 スーツ離れ、各社が事業見直し

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210120&ng=DGKKZO68324400Q1A120C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年1月19日火曜日

菅義偉首相は「『Go To』をいきなり全面停止」? 日経コラム「春秋」筆者の誤解

菅義偉首相は「『Go To』をいきなり全面停止」したと言えるだろうか。日本経済新聞の朝刊1面コラム「春秋」の筆者はそう理解しているようだが、「大阪、札幌両市」を先行して除外したはずだ。日経には以下の内容で問い合わせを送っている。

御堂筋(大阪市)

【日経への問い合わせ】

19日の日本経済新聞朝刊1面に載った「春秋」についてお尋ねします。この中に「(菅義偉首相が)あれだけこだわっていた『Go To』をいきなり全面停止する」との記述があります。しかし「いきなり全面停止」と言えるでしょうか。

御紙の記事によると、政府は昨年11月24日に「大阪、札幌両市の一時除外」を決めています。「全国一斉に一時停止すると決めた」のは12月14日です。御紙の報道内容が正しければ、政府は段階的に「Go To」を「停止」しています。「いきなり全面停止」との記述は誤りではありませんか。少なくとも誤解を与える説明だと思えます。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「春秋」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210119&ng=DGKKZO68281230Z10C21A1MM8000 


※記事の評価はD(問題あり)

2021年1月18日月曜日

民主党は米国上院で「過半数」確保? 東洋経済 大崎明子氏に問う

米国上院の議席総数が100の場合「50」で「過半数を握る」と言えるだろうか。週刊東洋経済の大崎明子氏は「過半数」だと見ているようだが、違うと思えたので以下の内容で問い合わせを送っている。

大阪市北区

【東洋経済への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集長 西村豪太様  コラムニスト 大崎明子様

1月23日号に載った「ニュースの核心~株高の裏にある格差の是正はできるか」という記事についてお尋ねします。この冒頭で「米国でバイデン氏の次期大統領就任とともに、民主党が上下両院の過半数を握ることが確定した」と大崎様は記しています。しかし上院に関して「過半数を握る」と言えるでしょうか。

同じ号の「トランプ大統領退任でも残るアメリカ政治の『分断』」という記事では「上院では民主・共和の議席数は50対50」と中村稔氏が書いています。これは他のメディアの報道とも一致します。「民主党」にとって「賛否同数の場合、上院議長を兼ねる副大統領が一票を投じることでギリギリ主導権を保てる」状況だとは思いますが「過半数を握る」とは言えません。

過半数」とは「全体の半分よりも多い数」(デジタル大辞泉)です。上院の「議席数」が全部で100であれば「過半数」は51以上となります。「民主党が上下両院の過半数を握ることが確定した」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので今号の「編集部から」にも注文を付けさせていただきます。

この中で「おかしいことをおかしいと思えなくなったら国も企業も終わりです」と西村様は述べています。読者からの間違い指摘を当たり前のように無視して多くのミスを放置している「編集部」の現状を、メディアとして「おかしいこと」とは思いませんか。思わないなら確かに「終わり」かもしれません。「おかしい」と思っているのならば、改めるべきではありませんか。西村様の考えを教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。


◇   ◇   ◇


※記事の評価はD(問題あり)。大崎明子氏への評価はDで確定とする。大崎氏については以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済に載った木内登英氏のインタビュー記事が興味深いhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_23.html

「1人当たり成長率」って何? 東洋経済 大崎明子氏への質問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_41.html

「テレビ、大手新聞」を「偏向メディア」と断じる週刊東洋経済 大崎明子氏の「偏向」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_6.html

2021年1月14日木曜日

政権交代は「25年間で1度」? 日経 丸谷浩史氏「Deep Insight」の誤り

日本経済新聞の丸谷浩史氏によると「小選挙区制が始まって25年間で1度しか政権交代がなかった」らしい。「96年」の「総選挙」が「初めての小選挙区選挙」だったとも書いている。いずれも誤りだと思えるので、以下の内容で問い合わせを送っている。

神戸市

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 ニュース・エディター 丸谷浩史様

14日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~なぜできない官邸主導」という記事についてお尋ねします。この中に「小選挙区制が始まって25年間で1度しか政権交代がなかった緊張感の欠如も、無関係ではない」との記述があります。

2009年には民主党政権が誕生し、2012年には自民党と公明党が政権を奪還しています。「小選挙区制が始まって25年間」で2回の「政権交代」があったのではありませんか。「1度」とするならば、2009年か2012年のどちらかは「政権交代」に当たらないことになります。記事の説明に問題なしとの判断であれば、「1度」はいつ起きたのかも併せて教えてください。

次に問題としたいのが以下のくだりです。

省庁再編は96年、橋本龍太郎首相が『22省庁を4つの機能に再編し、半分程度にすべきではないか』と問題提起して実現した。直後に衆院解散・総選挙を控えていた橋本氏の選挙公約でもあった。これが初めての小選挙区選挙で、橋本氏は自民党総裁として新進党の小沢一郎党首と政権をかけて戦った

これを信じれば「96年」の「総選挙」が「初めての小選挙区選挙」のはずです。しかし1890年の第1回衆院選は「小選挙区選挙」だったと思えます。日本大百科全書(ニッポニカ)によると「日本では1889年(明治22)と1919年(大正8)の衆議院議員選挙法で小選挙区制を採用したことがある」ようです。

96年」を「初めての小選挙区選挙」とするのは誤りではありませんか。「初めて」を使いたいのならば「戦後初めての小選挙区選挙」などとすべきでしょう。

以上の2点について回答をお願いします。誤りであれば速やかに訂正記事を掲載してください。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として責任ある行動を心掛けてください。

付け加えると、最後の段落に出てくる「100年に1度の危機は、さまざまな日本の弱点を明らかにした」との記述も引っかかりました。こう書いてあると「新型コロナウイルス」関連の「危機」は過去100年を振り返って最大の「危機」と理解したくなります。本当にそうでしょうか。

太平洋戦争の悲惨さと比較してもコロナ禍は「100年に1度の危機」ですか。「原爆投下とか食糧難とか色々あった当時と比べても今は『100年に1度の危機』」と丸谷様が感じているのならば、それを間違いだとは言いません。ですが、一般的な認識とはかけ離れているはずです。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「Deep Insight~なぜできない官邸主導

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210114&ng=DGKKZO68115480T10C21A1TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。丸谷浩史氏への評価はDを維持する。丸谷氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
 
丸谷浩史政治部長の解説に難あり 日経「日本の針路決まる3年」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_88.html

日経「Deep Insight」に見える丸谷浩史 政治部長の実力不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/deep-insight_3.html

日経 丸谷浩史氏「Deep Insight~菅首相と『大乱世』」の無理ある解説https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight_13.html

2021年1月13日水曜日

寄付の税額控除が「日本にはない」と週刊ダイヤモンドで村上春樹氏は語るが…

週刊ダイヤモンド1月16日号に載った村上春樹氏のインタビュー記事は興味深く読めたが、引っかかる部分もあった。「誰もが間違う世界を何が救うのだろうか?」という記事の一部を見ていこう。まず聞き手の杉本りうこ副編集長の問いが気になった。

大阪市中央公会堂

【ダイヤモンドの記事】

ーー記者としてはコロナ禍のような事態になると、シングルマザーや学生などの未来ある若者により多くの痛みが生じることに、どうしようもなさを感じます。中高年の正社員より、ずっと多くの痛みを受けています。


◎なぜ「シングルマザー」限定?

なぜ「シングルマザー」に限定して「シングルファーザー」は除外したのだろう。「シングルファーザー」は「痛みが生じ」ていないと杉本副編集長は見ているのか。「正社員」の割合は「シングルファーザー」の方が高いかもしれないが、「シングルマザー」の中にも「正社員」はいる。1人で子育てする非正規労働者に「より多くの痛みが生じる」との認識ならば、そう書いてほしい。

そもそも杉本副編集長はどうやって「痛み」の多寡を判断したのだろう。「コロナ禍」で重症者や死者が高齢者に集中していることを重く見れば「シングルマザーや学生などの未来ある若者」よりも高齢者が「ずっと多くの痛みを受けて」いるとも推測できる。

もちろん「痛み」に関しては様々な考え方が成り立つ。それを「シングルマザーや学生などの未来ある若者により多くの痛みが生じる」と言い切ってしまうところに危うさを感じる。

この問いに対する村上氏の答えは以下の通り。

【ダイヤモンドの記事】

うん、うん、そうだね。

僕が20歳ぐらいだった時代は「世の中は必ず良くなっていく」とみんなが思っていたものです。でも今は、誰もそんなことを思っていない。そればかりか、世の中はどんどんひどくなっていくと思っている。僕はこれが一番の問題だと思う。


◎決め付けが凄い…

村上氏が「20歳ぐらいだった時代」と言えば1970年頃。当時「『世の中は必ず良くなっていく』とみんなが思っていた」のに、50年後には「誰もそんなことを思っていない」。そこまで全員が画一的な考えを持っているのかとの疑問が湧く。決め付けが過ぎる。

自分を振り返ると1970年代には本気で世界が1999年に滅びるのではないかと心配していた。人口爆発によって食糧危機が来るのではとの恐怖もあった。人口が増えないでほしいとずっと願い続けたら、21世紀に入って日本では人口減少が現実になった。

1970年代より今の方がずっと未来に明るい展望を持っている。そういう人もいると村上氏には知ってほしい。

今回のインタビュー記事に関しては、村上氏の発言に事実誤認と思える部分もあった。これに関してはダイヤモンド編集部に問い合わせを送っている。内容は以下の通り。


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド 副編集長 杉本りうこ様


1月16日号の「誰もが間違う世界を何が救うのだろうか?」というインタビュー記事についてお尋ねします。この中で作家の村上春樹氏は以下のように語っています。

そういうもの(立派な施設)が米国にたくさんあるのは、寄付額を税額控除の対象にできる制度があるためです。これが日本にはないから、誰も大きな寄付をしない

まず「寄付額を税額控除の対象にできる制度」が「日本にはない」のでしょうか。村上氏の母校である早稲田大学のホームページを見ると「早稲田大学への寄付金は、文部科学省より寄付金控除の対象となる証明を受けています。寄付金控除には、下記の[A]税額控除制度 と [B]所得控除制度 の2種類があり、確定申告の際には、寄付者ご自身においてどちらか一方の制度をご選択ください」との説明があります。

税額控除制度」に関しては「寄付金額が年間2,000円を超える場合には、その超えた金額の40%に相当する額が、当該年の所得税額から控除されます」と書いてあります。村上氏が母校に「大きな寄付」をした場合「寄付額を税額控除の対象にできる」のではありませんか。

日本」では「誰も大きな寄付をしない」という発言にも問題を感じます。一例として九州大学の椎木講堂を挙げます。同大学のホームページによると、この「立派な施設」は「椎木正和氏」が寄贈したものです。金額は不明ですが、これを「大きな寄付」に含めないのは無理があります。

寄付額を税額控除の対象にできる制度」が「日本にはないから、誰も大きな寄付をしない」という村上氏の発言は、二重に間違っていませんか。杉本様は村上氏の発言をそのまま文字にしたのだとは思いますが、記事にする上では基本的な事実関係を確認する責任が編集部側にあるはずです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「誰もが間違う世界を何が救うのだろうか?


※記事の評価はD(問題あり)。杉本りうこ副編集長への評価はB(優れている)を維持するが弱含みとする。杉本副編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「TSUTAYA特集」に見えた東洋経済 杉本りうこ記者の迫力
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_27.html

「2.5次元」で趣味が高じた東洋経済「熱狂!アニメ経済圏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/25.html

文句の付けようがない東洋経済の特集「ネット広告の闇」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_19.html

「勝者総取り」に無理がある週刊ダイヤモンド「孫正義、大失敗の先」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/blog-post_8.html

2021年1月12日火曜日

「疑問は尽きず、もやもやしたまま」で取材はしない? 日経コラム「春秋」筆者の怠慢

日本経済新聞の朝刊1面コラム「春秋」の筆者は日経がメディアであることを忘れているのだろうか。12日の「春秋」はそう思わせる内容だった。

有明海

全文は以下の通り。

【日経の記事】 

法令順守と訳される「コンプライアンス」。企業統治の意味で使う「ガバナンス」。ビジネスの世界には海外から入って来た用語が目立つ。日本にはそうした概念が希薄だった、という事情もあるだろう。だからコンプライアンスやガバナンスは、たびたび問題になる。

インフォームドコンセントも輸入された概念である。30年ほど前、日本で臓器移植を行うための条件を考えようと米国で取材した。そのとき医療の現場で何度も聞いたのが、この言葉だった。患者に徹底して説明し、同意を得て治療にあたる。「同意を得られなかったら?」と尋ねると、答えは「さらに説明する」だった

コロナ禍は医療資源の偏在やデジタル化の遅れなど、日本が抱える様々な弱点、課題を浮き彫りにした。政府の説明力の乏しさも、その一つであろう。だれもが難しい局面であることは分かっている。説明が納得できれば同意して従う。だがその気持ちを萎えさせるような言動や立ち居振る舞いが目立っているのが現状だ。

企業に求めるテレワークが、政府内では励行されていないように見えるのはなぜ? 国を挙げて実施した「Go To イート」はどう総括するのか? 疑問は尽きず、もやもやしたまま2回目の緊急事態生活が続く。乗り切るには真摯で、かつこまめな情報発信が欠かせない。アカウンタビリティー(説明責任)である。


◎日経が答えを出そう!

企業に求めるテレワークが、政府内では励行されていないように見えるのはなぜ? 国を挙げて実施した『Go To イート』はどう総括するのか? 疑問は尽きず、もやもやしたまま2回目の緊急事態生活が続く」らしい。それを一面のコラムで堂々と書くとは…。恥ずかしくないのか。

筆者はまず自分で取材して記事にしようとすべきだ。様々な事情でできないとしても「疑問は尽き」ない状況を放置している日経自身を恥じてほしい。

それをせずに「乗り切るには真摯で、かつこまめな情報発信が欠かせない。アカウンタビリティー(説明責任)である」と政府に責任を丸投げして記事を締めている。「もやもやしたまま」行動せずに済ませる筆者は、メディアの一員として読者への「責任」を果たしているのか。よく考えてほしい。

ついでに言うと「『同意を得られなかったら?』と尋ねると、答えは『さらに説明する』だった」というくだりも引っかかった。筆者はこれを「説明責任」を果たそうとする医師の立派な姿勢と捉えているようだが同意できない。多くの患者は医師が熱心に勧める治療法に誘導されてしまう。そうなると「インフォームドコンセント」にあまり意味がなくなる。

例えば手術についてメリットとリスクを十分に説明し、患者が「手術はしない」と決めたら医師はそこで引くべきだ。「それでいいんですか。手術をしないと大変なことになりますよ。なぜなら…」などと説得するのはやめてほしい。


※今回取り上げた記事「春秋

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210112&ng=DGKKZO68058300S1A110C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年1月11日月曜日

ツイッターは昨年5月29日時点でトランプ氏の投稿を「静観」? 日経 奥平和行記者に問う

日本経済新聞の奥平和行記者と言えば、編集委員として問題の多い記事を書いていた印象がある。今はシリコンバレー支局にいるようだが、書き手としてはやはり評価できない。説明が下手なのか、事実関係の確認が不十分なのか。11日朝刊の記事に関して以下の内容で問い合わせを送った。

岡山駅に停車中のハローキティ新幹線

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 奥平和行様 

11日の朝刊 総合・経済面に載った「IT大手『トランプ流』決別~アマゾンのクラウド、新興SNS接続停止」という記事についてお尋ねします。この中に「(トランプ氏は)20年の黒人暴行死事件に際して『略奪が起きれば銃撃も始まる』と投稿して強い批判を浴びるなど物議を醸してきたが、SNSの運営企業は『表現の自由』を理由に静観してきた」との記述があります。

20年5月29日付の「ツイッター、トランプ氏の投稿に警告『暴力を賛美』」という御紙の記事によると「略奪が始まれば銃撃が始まる」との投稿があったのは昨年5月29日です。この記事では「米ツイッターは29日、米中西部ミネソタ州での暴動をめぐるトランプ大統領の投稿について『暴力を賛美している』との警告表示をつけた」と報じています。「警告表示」を付けているのであれば「米ツイッター」はこの時点で既に「静観」していません。

昨年のこの記事では「ツイッターは26日、11月の大統領選をめぐりトランプ氏の郵便投票に関する投稿が誤解を生む可能性があるとして注意喚起した」とも書いています。つまり「略奪が始まれば銃撃が始まる」という投稿の前にも「ツイッター」は「静観」しない姿勢を見せています。

略奪が始まれば銃撃が始まる」との投稿があっても「SNSの運営企業は『表現の自由』を理由に静観してきた」との記述は誤りではありませんか。昨年の記事が間違っている可能性もありますが、他社の報道内容なども併せて考えると奥平様の説明に誤りがあると思えます。どちらの記事にも問題なしとの判断であれば、その根拠も教えてください。

もう1つ質問します。問題としたいのは以下のくだりです。

『他者への暴力を助長・扇動する投稿を削除できない顧客にサービスは提供できない』。アマゾンのクラウド子会社は9日までに、新興SNS『パーラー』の運営企業に書簡を送った。グーグルやアップルも同日までにパーラーをアプリ配信サービスから削除した。SNSの運営企業ではツイッターが8日にトランプ氏のアカウントを永久停止し、フェイスブックも期限を設けずに利用を停止する措置をとっている。同氏や支持者は規制が緩く『最後のとりで』になりつつあったパーラーも失う

同氏や支持者」は「パーラーも失う」のですか。10日付の「トランプ支持者集うSNS、Amazonがクラウド接続停止」という御紙の記事によると「パーラーは代わりのサーバー類を確保するまで、SNSのサービスを最大で1週間提供できなくなる恐れがある」とは書いていますが、これだけならば「パーラーも失う」とは言えません。この記事には「(アマゾンは)データはすべて保存していることを確認し、他社のサーバーへの移行を可能な限り支援する考えも示した」との記述もあります。

奥平様は「グーグルやアップルも同日までにパーラーをアプリ配信サービスから削除した」とも説明しています。ただ、これは既に「パーラー」を利用している人には関係ありません。やはり「同氏や支持者」は「パーラーも失う」との説明が誤りだと思えますが、いかがですか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「IT大手『トランプ流』決別~アマゾンのクラウド、新興SNS接続停止

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210111&ng=DGKKZO68053380R10C21A1NN1000


※記事の評価はD(問題あり)。奥平和行記者への評価もDを維持する。奥平記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「空飛ぶクルマ」の記事で日経 奥平和行編集委員に問うhttp://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_15.html

解読困難な日経 奥平和行編集委員「岐路に立つネット覇者」https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_12.html

2021年1月10日日曜日

データの扱いが恣意的な日経「チャートは語る~雇用難、非正規・若者に集中」

 データを恣意的に使いたくなる気持ちは分かる。しかし、ご都合主義が過ぎると記事に説得力がなくなってしまう。10日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る~雇用難、非正規・若者に集中 格差固定化も」という記事では以下のくだりが引っかかった。

大阪市中央公会堂

【日経の記事】

労働市場からの退出者は雇用の実態を捉えるためには見逃せない。その分を加味して失業率を計算し直すと米国は12月の6.7%が9.8%になる。英国は10月の4.9%が5.4%に高まる

足元では世界を感染第3波が襲う。雇用支援は持久戦になる公算が大きく、労働市場からあぶれた人に目配りした対策も求められる。日本総研の山田久副理事長は「介護など人手不足の産業に誘導する政策が必要だ」と指摘する。


◎日本はなぜスルー?

記事には「非労働力人口の増減で補正した失業率」という日米英を比較したグラフが付いていて「実質的な失業率は政府統計よりも高水準に」と説明している。

しかし日本は直近では「非労働力人口の増減で補正した失業率」が「補正前」を下回っている。「政府統計よりも高水準に」が直近で成立しているのは米英だけだ。

日本に何らかの特殊事情があるのならば説明が欲しい。しかし記事では「米国は12月の6.7%が9.8%になる。英国は10月の4.9%が5.4%に高まる」と都合のいい部分だけに触れて日本はスルー。他の国ならばまだ分かるが、肝心の日本に当てはまらないとなるとかなり苦しい。なのに「労働市場からあぶれた人に目配りした対策も求められる」と話を進められても困る。

データの見せ方に関して、もう1つ注文を付けておこう。

【日経の記事】

日米英のほかカナダ、フランス、韓国など比較可能な10カ国の労働力人口は感染拡大当初の4~6月期に4億3933万人と前年比1535万人減った。遡れる14年以降初の減少だった。7~9月期も660万人減。感染が再拡大する10~12月期以降は一段と落ち込んでいる懸念が強い。


◎他の4カ国は?

まず「10カ国」のうち4カ国はどの国か分からないのが辛い。これだとデータが正しいのか検証できない。記事に付けたグラフでは「国際労働機関のデータから作成、2020年第3四半期は9カ国分」という注記がある。ここで10カ国がどこか列挙してもいい。さらに言えば「2020年第3四半期」で抜けている国がどこかも明示すべきだ。

もっと言うと「10カ国」を選んだ基準も示してほしい。「比較可能」な国が世界に「10カ国」しかないという可能性もゼロではないが、ちょっと考えにくい。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~雇用難、非正規・若者に集中 格差固定化も

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF0495A0U0A201C2000000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年1月9日土曜日

「一からつくる移動網」が見当たらない日経「第4の革命 カーボンゼロ(7)」

日本経済新聞朝刊1面連載「第4の革命 カーボンゼロ」がやはり苦しい。「革命」を掲げた日経1面連載の宿命とも言える。9日の「(7)一からつくる移動網~テスラ超える戦い」という記事では、そもそも「一からつくる移動網」が出てこない。トヨタ自動車の話から見出しを考えたのだろう。そこでは以下のように記している。

柳川市の沖端川大橋

【日経の記事】

トヨタ自動車は街からつくる。21年2月、静岡県裾野市にある約70万平方メートルの工場跡地で、自動運転EVなどゼロエミッション車(ZEV)だけが走る実験都市「ウーブン・シティ」に着工する。豊田章男社長は「3000程度のパートナーが応募している」と力を込める。5年以内の完成を目指し、グループで開発中の空飛ぶクルマが登場する可能性もある。


◎これは「一からつくる移動網」?

約70万平方メートルの工場跡地」に作る「実験都市」は「一からつくる移動網」なのか。工場内の移動システムも「移動網」に加えていいのならば「一からつくる移動網」は至る所にある。

首都圏の主要都市に発着場を整備して「空飛ぶクルマ」を利用できるようにするといった話ならば「一からつくる移動網」で納得できる。トヨタの「ウーブン・シティ」のような実験施設を「一からつくる移動網」と捉えているとすれば、やはり「革命」は起きていないと思える。

以下のくだりも引っかかった。


【日経の記事】

日常生活を支えるクルマも変わる。ドイツ南部のミュンヘン郊外に「空のテスラ」と呼ばれる新興企業がある。電動の垂直離着陸機「eVTOL(イーブイトール)」を開発する15年創業のリリウムだ。駆動時に温暖化ガスを全く出さないのが売りで、25年の商用化を視野に入れる。機関投資家も出資し企業評価額が10億ドル(約1030億円)を超えるユニコーンとなった。こうした空飛ぶクルマメーカーが世界で続々と誕生している。

脱炭素時代の移動手段は化石燃料時代とは全く違う「不連続の発想」から生まれる。技術革新に遅れると命取りになる。

中国の自動車市場で、ある「逆転」が話題になた。米ゼネラル・モーターズ(GM)と上海汽車集団などの合弁で小型車を手がける上汽通用五菱汽車が、20年7月に発売した小型EV「宏光ミニ」。9月に販売台数で米テスラの主力小型車「モデル3」を追い抜いたのだ。航続距離は120キロメートルと近距離移動向けだが、価格は2万8800元(約46万円)からと安い。低価格が話題を呼び、地方都市で爆発的に売れている

カーボンゼロの申し子、テスラですら安泰ではない新しい競争の時代。日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は「30年以降に過半数がEVになれば、車の価格は現在の5分の1程度になるだろう」と予言する。内燃機関を持たないEVは3万点もの部品が必要なガソリン車に比べ、部品点数は4割ほど減少する。参入障壁が下がり、自動車産業以外からの参戦も増える。


◎どこが「不連続の発想」?

脱炭素時代の移動手段は化石燃料時代とは全く違う『不連続の発想』から生まれる」と大きく出ているが、それを裏付ける事例はやはりない。

電動の垂直離着陸機」は「不連続の発想」から生まれたものなのか。「電動」は昔からある「発想」だ。鉄道では広く普及もしている。「垂直離着陸機」の歴史も長い。ヘリコプターが好例だ。ヘリだけではない。ホーカー・シドレー ハリアーという垂直離着陸可能な戦闘機が実用化されたのは50年以上前になる。「電動の垂直離着陸機」を「不連続の発想」と捉えるのは無理がある。

では「上汽通用五菱汽車」の「小型EV」が「『不連続の発想』から生まれ」たものなのか。「低価格が話題を呼び、地方都市で爆発的に売れている」らしいが、「低価格」だけが売りならば、そもそも新規性に乏しい。「低価格」実現の手法が「『不連続の発想』から生まれ」た可能性は残るが、記事には何の説明もない。

革命」を掲げた以上は、大した話がなくても「脱炭素時代の移動手段は化石燃料時代とは全く違う『不連続の発想』から生まれる」などと書きたくなってしまうのだろう。そのことが記事の説得力をさらに失わせる結果になる。

長年の経験から日経はなぜ学べないのか。そこが不思議だ。


※今回取り上げた記事「第4の革命 カーボンゼロ(7)一からつくる移動網~テスラ超える戦い

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210109&ng=DGKKZO68042480Z00C21A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年1月8日金曜日

いつの間にか「アクティブ・ファンドの勧め」に…プレジデントオンラインの記事の危うさ

プレジデントオンラインに7日付で載った「サラリーマン投資家に大人気『インデックス投資』の見過ごされたリスク~手数料の安さだけで選んではダメ」という記事は問題が多かった。筆者である農林中金バリューインベストメンツ常務取締役兼最高投資責任者(CIO)の奥野一成氏を責めるのは酷だろう。アクティブファンドのマネージャーである奥野氏が「インデックス投資」を強引にでも問題視するのは理解できる。そうしなければ自らの存在意義がなくなってしまう。そこを分かった上で記事にツッコミを入れていきたい。

うきは市から久留米市へ流れる筑後川

【プレジデントの記事】

「忙しいビジネスパーソンは、インデックス・ファンドを買え」は本当に正しいのか?

この問いに対して結論から言いましょう。

正しい。ただしインデックスによります


◇   ◇   ◇


これは記事の冒頭だ。特に問題はない。とりあえず「結論」として頭に入れておいてほしい。少し飛ばして記事の続きを見ていく。


【プレジデントの記事】

さて、冒頭の問いに戻りましょう。インデックス・ファンドによる運用は、昨今の個人投資家の間で一つの大きな流派を形成しています。

その論拠としてよく言われるのが、

勝ち馬となるアクティブ・ファンドを事前に予測することはできない

アクティブ・ファンドは信託報酬(運用コスト)が高すぎる

というものです。

それはそれで一理あるのですが、そもそもこの「インデックス VS アクティブ」という対立軸以前に考慮すべき重要な点があることを指摘したいと思います。

インデックス・ファンドであろうと、アクティブ・ファンドであろうと、個別株投資であろうと、結局あるポートフォリオのパフォーマンスは、その構成企業の株価パフォーマンスで決まります。


◇   ◇   ◇


ここまではやはり問題なしだ。この後で「TOPIXに含まれている2,200社もの企業群の中には、企業価値増大にプライオリティを置かないような企業が相当数含まれているように思います」と奥野氏は「TOPIX」を問題視する。言いたいことはあるが、長くなるので取りあえず「TOPIX」型の「インデックス・ファンド」には問題ありとしよう。

その前提で記事の終盤を見ていく。


【プレジデントの記事】

私自身はアクティブ・ファンドのマネージャーとして米国株にも投資をしていますので、当然ながらS&P500に勝つつもりで仕事をしていますし、現にここまでのファンドの運用成績はS&P500を上回っています。

そして、S&P500という強いインデックスにも一つだけ弱点があると考えています(図6のチャートにもこの弱点が表れていますので、是非考えてみてください)。

更に、アクティブ投資に取り組むことは、皆さんにとっても学びになり、本業との美しいシナジーが得られると考えています。「会社に使われる日々から脱し一つ上のステージに行きたいビジネスパーソンは、アクティブ投資をしろ!」というのが、私の主張です。

次回の投稿では、このS&P500の弱点、そしてアクティブ投資の「隠れた効用」について述べたいと思います


◎いつの間にか「アクティブ投資をしろ!」へ

正しい。ただしインデックスによります」が「結論」だったはずだ。「TOPIX」の銘柄数が多過ぎてダメならば日経平均型の「インデックス・ファンド」を選ぶ手もある。日経平均以外の「インデックス」でもいい。選ぶべき「インデックス」を教えてくれれば話は終わりだ。しかし、そうはならない。

なぜか「会社に使われる日々から脱し一つ上のステージに行きたいビジネスパーソンは、アクティブ投資をしろ!」と「アクティブ投資」の勧めになってしまう。

そして「次回の投稿」では「アクティブ投資の『隠れた効用』について述べ」るらしい。これは何かの勧誘なのか。ちょっと怪しい臭いもしてくる。

それはともかく、奥野氏の主張の問題点を挙げておこう。記事では「勝ち馬となるアクティブ・ファンドを事前に予測することはできない」「アクティブ・ファンドは信託報酬(運用コスト)が高すぎる」という指摘に対して「それはそれで一理ある」としながらも「そもそもこの『インデックス VS アクティブ』という対立軸以前に考慮すべき重要な点があることを指摘したい」と話を逸らしている。

アクティブ投資」の勧めに話を移すならば、上記の2つの問題を避けて通れない。その弱点を奥野氏は十分すぎるほど分かっているのだろう。だから、ほんの少しだけ触れて実質的にはスルーしている。

運用コスト」が同じならば「インデックス VS アクティブ」は基本的に引き分けだ。「運用コスト」の高さを正当化するためには「勝ち馬となるアクティブ・ファンドを事前に予測」する必要があるが、その見分け方として広く知られている有用な方法はない。有用な方法があったとしても、それが広く知られれば有用性はなくなっていくという根本的な問題も抱えている。

なのになぜ「アクティブ・ファンド」を選ぶのか。合理的な選択としてあり得るとすれば「勝ち馬となるアクティブ・ファンドを事前に予測する独自のノウハウを持っている」場合だ。しかし「会社に使われる日々から脱し一つ上のステージに行きたいビジネスパーソン」の中でその「ノウハウ」を本当に持っている人物は1万人に1人もいないだろう。

しかし奥野氏は「アクティブ投資をしろ!」と迫る。その理由は「アクティブ投資に取り組むことは、皆さんにとっても学びになり、本業との美しいシナジーが得られる」といった抽象的なものだ。

この記事を信じて「アクティブ・ファンド」の購入に走る人は、ほぼ確実に金融業界にとってのカモだ。そうした人々を「アクティブ・ファンド」に誘導するのは奥野氏にとっては立派な仕事ではある。だとしても、やはり罪深い。


※今回取り上げた記事「サラリーマン投資家に大人気『インデックス投資』の見過ごされたリスク~手数料の安さだけで選んではダメ

https://president.jp/articles/-/41836


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2021年1月7日木曜日

回答までに半年を要した週刊ダイヤモンドの特集「医者&医学部 最新序列」

週刊ダイヤモンドに問い合わせをしてから約半年。ようやく決着した問題を今回は取り上げたい。編集長が「きちんと問い合わせに答えるように」と指示を出しても、それを守りたがらない部下がいたと見ている。

夕暮れ時の巨瀬川(久留米市)

やり取りは以下の通り。


【ダイヤモンドへの問い合わせ(2020年6月22日)】

教育ジャーナリスト 庄村敦子様  週刊ダイヤモンド編集部 野村聖子様 鈴木洋子様 山出暁子様

6月27日号の特集「医者&医学部 最新序列」についてお尋ねします。問題としたいのは「Prologue~コロナ後は『安定』『高収入』が終焉? 医学部受験の過熱に異変あり」という記事に付けたグラフの解説です。

過去5年間の医学部偏差値の推移」を示したこのグラフを見ると「私立大学平均」のところに「近年受験の過熱や少子化で志願者数が微減も、いまだ早慶理系前後の水準をキープ」との説明が付いています。これを信じれば、私立大医学部の偏差値の「平均」は「早慶理系」とほぼ同水準のはずです。

しかし、これは従来の御誌の説明と大きく食い違うのではありませんか。例えば2017年9月16日号の特集「大学序列」の中の「Part 5~『東大』よりも医学部!エリート街道の変貌」という記事では「どんな私立医学部であれ、最低でも早慶理系学部に軽く受かるレベルでなければ、合格は難しくなっている」と言い切っています。

こちらを信じれば「早慶理系」の偏差値は「私立医学部」の最低クラス以下のはずです。今回問題としたグラフには偏差値に関して「私立大が地味に下降中」という説明も付けています。ただ、17年に比べて1程度の差しかありません。この間に状況が大きく変わった訳ではないでしょう。

なのに「どんな私立医学部であれ、最低でも早慶理系学部に軽く受かるレベルでなければ、合格は難しくなっている」と書かれていた「早慶理系」が、医学部の「私立大学平均」と肩を並べるところまで来ています。

これはどう理解すればいいのでしょうか。個人的には、今回の「いまだ早慶理系前後の水準をキープ」という説明に問題があるのではと推測しています。

お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。特集自体は興味深く読ませていただきました。特に「覆面座談会」は読み応えがありました。


【ダイヤモンドからの返信(6月26日)】

鹿毛 様

6月27日号の特集「医者&医学部 最新序列」についてお問い合わせいただき、ありがとうございます。返信が遅れてしまっていて、大変申し訳御座いません。週明けには返信をさせていだきます。

恐縮ですが、引き続き、宜しくお願いいたします。

週刊ダイヤモンド編集部


【ダイヤモンドへの返信(7月20日)】

週刊ダイヤモンド編集部 担当者様

6月22日にお送りした問い合わせについてお尋ねします。「週明けには返信をさせていだきます」との回答を以前に頂きました。これを信じれば、6月29日ごろには改めての回答があるはずです。しかし、そこから何の返信もありません。既に3週間が経過しています。問い合わせからは約1カ月が過ぎました。

この件はどうなっているのでしょうか。また、常識的には考えられないほど回答に時間がかかっているのはなぜですか。詳しく教えてください。

よろしくお願いします。


【ダイヤモンドからの返信(7月20日)】

鹿毛さま

大変失礼しました。決して無視や放置をしているわけではございません。お伝えした期日に返答せずもうしわけございませんでした。返答が長引いている理由を、まずは回答させてくださいませ。

1点目は、当時担当した者が、個人的な理由により急遽退職してしまっていることがあります。

2点目は、偏差値について調査しようと思ったところ提供会社から「誌面での紹介以外では提供が難しい」「提供は有料になる」と回答され難航している

大きくは上記2点により、とりまとめが遅くなってしまっています。

繰り返しになってしまいますが、無視をして放置して、このままにしておこうとは考えておりません。

なるべく早めに回答いたします。

恐縮でございますが、もうしばらくお待ちいただければ幸いです。

週刊ダイヤモンド編集部


【ダイヤモンドへの問い合わせ(12月27日)】

週刊ダイヤモンド 編集長 山口圭介様 担当者様

1月9日号の特集「創価学会90年目の9大危機」の中の「創価高の難関大合格者激減~“創価エリート教育”の迷走という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

90年ごろ、非学会員の比率は、創価大学では9割、創価高校ではほぼ10割といわれていた。だが令和の今のそれは、大学で8割程度、高校で9割くらいと、じわりと『非学会員率』が増えつつあるという

この説明には矛盾があります。「非学会員の比率」は「創価大学では「9割」から「8割程度」へ、「創価高校」でも「ほぼ10割」から「9割くらい」へと低下しているはずです。しかし「非学会員率』が増えつつある」と書いています。

常識的には「90年ごろ」に「創価大学では9割、創価高校ではほぼ10割」が「非学会員」だったとは思えません。非学会員の比率」となっているのは「学会員の比率の誤りではありませんか。

追加でもう1つお尋ねします。2020年6月27日号の特集「者&医学部 最新序列」に関する問い合わせを6月22日にお送りしました。回答がないので再び問い合わせたところ「無視をして放置して、このままにしておこうとは考えておりません。なるべく早めに回答いたします。恐縮でございますが、もうしばらくお待ちいただければ幸いですとの連絡を7月20日にいただきました。しかし、そこから5カ月以上が経っても何の回答もありません。最初の問い合わせからは半年以上が経過しています。

5カ月以上も何の連絡もしていないのに「放置していないと言えるでしょうか。百歩譲って、確認作業を毎日のように続けて半年以上が経過したとしましょう。それでも記事の情報が正しいかどうか確認できないのならば、断念してその旨を伝えるべきではありませんか。その上で「正しいと確認できない情報を掲載してしまった」と誌面で読者に伝えるべきでしょう。

長く「放置」が続いた今回の対応についてどう考えていますか。編集長としての見解を教えてください。


【ダイヤモンドの回答(2021年1月5日)】

鹿毛秀彦様

あけましておめでとうございます。平素は弊誌をご愛読いただきありがとうございます。

ダイヤモンド編集部の山口と申します。お問い合わせの件につきましてご連絡差し上げました。

1月9日号の創価学会特集で問い合わせいただきました、「非学会員の比率」との記述は「学会員の比率」の誤りではないかとのご指摘について、以下のとおり回答させていただきます。

鹿毛様のご指摘のとおり、誤った記述となります。1月16日号で訂正を掲載いたします。

理由は単純な確認ミスでした。あってはならない誤りであり、原稿確認及び校正体制を改めて強化していく所存です。

次に医者&医学部特集の件について回答させていただきます。

まず、当方と、担当者及び担当デスクとの意思疎通ができておらず、回答が大幅に遅れてしまった点、お詫び申し上げます。

結論から申し上げますと、昨年6月の医者&医学部特集の「いまだ早慶理系前後の水準をキープ」とする説明については問題はなく、2017年の大学特集の表現が適切ではなかったと考えております。

順を追って説明させていただきます。以下は2017年9月の大学特集内の数値となります。

◆P78、P82の偏差値一覧(ベネッセ)によると、

慶応の理系偏差値(医学部を除く)

理工 71

薬学 71

看護医療 68


早稲田の理系偏差値

基幹理工 70

創造理工 69

先進理工 71


◆P131の主要大学医学部の偏差値推移(ベネッセ)によると、

私大医学部の偏差値 68〜75

慶応と自治の偏差値が際立って高いため、

2校を除いた偏差値は概ね70前後

以上の数字などから、ご指摘にある大学特集内の

「どんな私立医学部であれ、最低でも早慶理系学部に軽く受かるレベルでなければ、合格は難しくなっている」という記述が適切でなかったと認識しております。

表現一つで記事全体のトーンは変わってしまうため、以後、こういった齟齬がないように注意して参ります。

本年も引き続き「週刊ダイヤモンド」をどうぞよろしくお願いいたします。


◇   ◇   ◇


組織がダメになる時に「魚は頭から腐る」とよく言われる。しかし胴体部分から腐ってくる場合もあるのだろう。「担当者及び担当デスク」の中に「何とか回答しないままうやむやにできないか」と考えていた者がいた可能性は極めて高い。

今回は頭が腐っていなかったことが幸いだった。自分は週刊ダイヤモンドの敵ではない。敵か味方かに分ければ明らかな味方だ。厳しいことも言うが、それは良い雑誌にしたいからだ。そのことを改めて記しておきたい。

2021年1月6日水曜日

週刊東洋経済の田島靖久副編集長は「期待リターン」を理解してる?

週刊東洋経済の田島靖久副編集長は「期待リターン」をどう理解しているのだろうか。1月9日号の特集「富裕層㊙マネー学」の中の「ハイリスク商品に果敢に挑戦~『肉食系富裕層』の実態」という記事には「主な金融商品の平均的なリターンとリスク」という表が付いている。

大阪市中之島

引っかかるのが「株式投資」の「期待リターン」が「~100%」となっていることだ。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のホームページで「期待リターン」を見ると、国内株式が5%台、外国株式が7%台。ここに違和感はない。ざっくり言えば5~8%ぐらいが「株式投資」の「期待リターン」だろう。しかし田島副編集長は「~100%」と理解している。

5~8%も「~100%」の中に入ってはいる。日本人男性の平均身長を「~10メートル」と説明しても完全な間違いではないが、有用な情報とは言い難い。

GPIFのホームページで年次リターンの推移を見ると国内株式も外国株式も過去30年は60%を超えていない。なのに「平均的なリターン」を「~100%」と表すのは解せない。

しかも「投資信託」に関しては「期待リターン」を「~15%」としている。「株式投資」の「期待リターン」が「~100%」ならば、株式に投資する「投資信託」の「期待リターン」も「~100%」に近いものになるはずだ。なのに「期待リターン」の最大値が、考えられないほど下がっている。

「個別株に投資すれば1年で倍も夢じゃない。投信なら分散投資になるんで15%ぐらいがいいとこかな」といった田島副編集長の個人的な感覚でこの表を作ったのではないか。しかし「期待リターン」とは、そういうものではない。

投資に関して田島副編集長の言うことを信じるな。この結論でいいだろう。


※今回取り上げた記事「ハイリスク商品に果敢に挑戦~『肉食系富裕層』の実態


※記事の評価はD(問題あり)。田島靖久副編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。田島副編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。


度が過ぎる田島靖久ダイヤモンド副編集長の「鈴木崇拝」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/10/blog-post.html

週刊ダイヤモンド「イトーヨーカ堂 改革の迷走」の説明に難ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post.html

2021年1月4日月曜日

新型コロナウイルスは「約100年ぶりのパンデミック」? 日経 菅野幹雄氏に問う

日本経済新聞の菅野幹雄氏が新型コロナウイルスに関して「約100年ぶりのパンデミック」と説明していた。間違いと言うのは酷な気もするが、日経の過去の記事との矛盾もあるので以下の内容で問い合わせを送っておいた。

柳川あめんぼセンター

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 菅野幹雄様 

3日の朝刊オピニオン面に載った「コメンテーターが読む2021~『警戒的な楽観主義』のとき バイデン政権 迎える世界」という記事についてお尋ねします。この中に「20年は散々な年だった。約100年ぶりのパンデミック(世界的大流行)は170万人の命を奪い、大恐慌以来の経済危機をもたらした」との記述があります。

一方、昨年3月13日付の「きょうのことば~パンデミック 世界で流行、制御不能の状態」という記事では「過去に起きた主なパンデミック」として「スペイン風邪(1918年)」「アジア風邪(1957年)」「香港風邪(1968年)」「新型インフルエンザ(2009年)」の4つを挙げています。こちらを信じれば、12年前にも「パンデミック」は起きています。

約100年ぶりのパンデミック(世界的大流行)」との説明は誤りではありませんか。あるいは昨年3月の記事が間違っているのでしょうか。どちらにも問題ないとの判断であれば、その根拠を教えてください。

問い合わせは以上です。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「コメンテーターが読む2021~『警戒的な楽観主義』のとき バイデン政権 迎える世界


※記事の評価はD(問題あり)。菅野幹雄氏への評価もDを据え置く。菅野氏については以下の投稿も参照してほしい。

「追加緩和ためらうな」?日経 菅野幹雄編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_20.html

「消費増税の再延期」日経 菅野幹雄編集委員の賛否は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_2.html

日経 菅野幹雄編集委員に欠けていて加藤出氏にあるもの
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_8.html

日経「トランプショック」 菅野幹雄編集委員の分析に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_11.html

英EU離脱は「孤立の選択」? 日経 菅野幹雄氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_30.html

「金融緩和やめられない」はずだが…日経 菅野幹雄氏の矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_16.html

トランプ大統領に「論理矛盾」があると日経 菅野幹雄氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_24.html

日経 菅野幹雄氏「トランプ再選 直視のとき」の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_2.html

MMTの否定に無理あり 日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/mmt-deep-insight.html

「トランプ流の通商政策」最初の成果は日米?米韓? 日経 菅野幹雄氏の矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_27.html

2021年1月3日日曜日

「日経平均3万円の条件」に具体性欠く日経 梶原誠氏「コメンテーターが読む2021」

3日の日本経済新聞朝刊特集面に載った「コメンテーターが読む2021~日経平均3万円の条件 成長するか死ぬかの選択」という記事は問題が多かった。筆者の梶原誠氏に関しては「言いたいことが枯渇した書き手」と評してきた。今回の記事も無理に話を捻り出している感は否めない。そもそもテーマである「日経平均3万円の条件」が漠然としている。

福岡市内を流れる室見川

最初の段落を見ていこう。

【日経の記事】

2021年の株式市場では、日経平均株価で3万円の大台が意識されるだろう。実現すれば1990年以来の高水準だが、達成には条件がある。企業が生き残りを目指す「守り」から、成長をねらう「攻め」に転じることだ


◎具体的な基準は?

企業が生き残りを目指す『守り』から、成長をねらう『攻め』に転じること」を「日経平均3万円の条件」としているが「転じ」たかどうかを判断する基準を示していない。これでは「条件」として意味がない。

念のために「攻め」と「守り」に触れたくだりを見ていこう。


【日経の記事】

今や投資家は、経営者の現金の使い方の巧拙を見極め、その企業の株を買うのかどうか判断しようとしている。

日本企業の資金の使い方は、投資家の不満を招いてきた。米主要企業はこの20年、研究開発費を4倍以上に増やしている。売上高の伸びである3倍を大きく上回るペースだ。これに対し、日本企業の研究開発費の伸びは売上高並みの2倍弱にとどまった。


◎「研究開発費」で見る?

『攻め』に転じ」たかどうかは「研究開発費」で見るのだろうか。だとしたら、どの程度の「伸び」が2021年度に必要なのか。そこは欲しい。

さらに引っかかるのは「この20年」で見ると「日本企業の研究開発費の伸び」は低かったのに、株価は概ね上昇基調だったことだ。結果として再び「日経平均3万円」をうかがう展開になっている。「投資家の不満を招い」ても回復を実現したのだから、このままでも「日経平均3万円」の達成はあり得るのではないか。違うと梶原氏が考えるのなら、その理由も示してほしかった。

記事はさらに漠然とした話で終わる。


【日経の記事】

米国もインドも韓国も、昨年は株式相場が過去最高値を更新した。日経平均が3万円を回復したところで、89年末につけた最高値(3万8915円)の8割にも届かない。企業が改革しないと世界との差はもっと広がる。競争のルールが激変するコロナ後は、失地を回復する最後のチャンスかもしれない

コロナが企業に迫った「生きるか死ぬか」の局面は終わりが見えてきた。だからといって、日本企業にほっとしている余裕はない。今年迫られるのは「成長するか死ぬか」の厳しい選択だ


◎「生きるか死ぬか」に「終わり」は見えてる?

生きるか死ぬか」から、今年は「成長するか死ぬか」に移っていくと梶原氏は言う。だったら「『生きるか死ぬか』の局面は終わりが見えて」いない。「「成長する(ことで生き続ける)か死ぬか」という状況は「生きるか死ぬか」に含まれるはずだ。

競争のルールが激変するコロナ後は、失地を回復する最後のチャンスかもしれない」と考える理由も謎だ。そもそも「コロナ後」の期間が分からない。22世紀や23世紀も「コロナ後」に入るのか。だとすれば、そんな長期で見て「最後のチャンスかもしれない」と訴えて意味があるのか。

期限が決まっているのならば「最後のチャンス」を考える意味はある。サッカーで言えばロスタイムにフリーキックの機会を得た時に「最後のチャンスかもしれない」と思うのはもっともだ。

だが、終わりの見えないゲームであれば「最後のチャンス」かどうかを論じてもほぼ無意味だ。日本が30世紀になっても40世紀になっても続いていくと想定すると「2020年代が日本にとって失地を回復する最後のチャンス」である可能性はほぼゼロだ。この先、何百年と続く歴史の中でノーチャンスのままと想定すべき理由はない。

分かったような顔をして何か重要な分析をしているように見せなければならないという事情が梶原氏にあるのは分かる。その中で具体性に欠ける話で行数を稼いで何とか記事にまとめたのだろう。だから、こんな内容になってしまった。そのことで梶原氏を責めるのは酷だ。

そろそろ後進に道を譲ってほしい。梶原氏本人が決断できないのならば、周りが背中を押してあげるべきだ。梶原氏自身も書き続けることが辛いと本心では感じているのではないか。


※今回取り上げた記事

コメンテーターが読む2021~日経平均3万円の条件 成長するか死ぬかの選択


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight.html

「投資の常識」が分かってない? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight_16.html

「気象予測の力」で「投資家として大暴れできる」と日経 梶原誠氏は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_16.html

「世界がスルーした東京市場のマヒ」に無理がある日経 梶原誠氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight.html

「世界との差を埋める最後のチャンス」に根拠欠く日経 梶原誠氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/deep-insight.html

2021年1月2日土曜日

男女半々ならば「能力のある人」も半々? 出口治明氏が東洋経済オンラインで発信した誤解

 1日付の東洋経済オンラインに載った「日本の男は自分の履く『ゲタの高さ』を知らない~袋小路に入っている日本に突然変異は起こるか」という記事でAPU(立命館アジア太平洋大学)学長の出口治明氏と東京大学名誉教授の上野千鶴子氏が対談している。その内容のいい加減さに驚いた。特に問題だと感じた部分を見ていこう。

耳納連山に沈む夕陽

【東洋経済オンラインの記事】

出口:方法としては、要職につく女性を一定数に定めるクオータ制を導入するしかないのではないでしょうか。そこから日本型経営を変えていく。

上野:最近「202030」が実現できないと、政府が声明を出しました。

2003年に小泉政権下で、社会のあらゆる分野において2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30パーセント程度にする、という数値目標を作った時は、17年もかけたらなんとかなると期待がありました。私はなぜ「202050」じゃないの? と思ったくらい。ところが2020年になっても状況はほとんど変わっていません。

出口:そもそもなぜ30だったのでしょう。

上野:経営学の用語に「黄金の3割」という言葉があります。「クリティカルマス(臨界質量)」とも呼ばれます。集団の中で少数派が3割を越すと、少数派は少数派でなくなって、組織文化が変わる。その分岐点だと言われています。ですから意味のある数字ではあります


◎「クリティカルマス」の説明が…

デジタル大辞泉によると「クリティカルマス」には以下の3つの意味がある。

臨界質量のこと。

広告で、ある結果を得るのに必要とされる数量。商品やサービスが広く普及するために、最低限必要とされる供給量。

自転車利用の促進をめざす市民運動の一。都市部を集団で走行するもので、1992年に米国サンフランシスコで始まった。


1の「臨界質量」ではなく2の意味で上野氏は使っているのだろう。「クリティカルマス(臨界質量)」と表記したのは編集側の問題かもしれないが好ましくはない。

2の意味だとしても問題は残る。シマウマ用語集では「クリティカルマス」について「商品やサービスの普及が爆発的に跳ね上がる分岐点、もしくはその爆発的な普及に必要な市場普及率16%のこと。アメリカの社会学者エベレット・M・ロジャース(Everett M. Rogers)が1962年に『イノベーター理論』で提唱した」と解説している。

こちらを信じれば「クリティカルマス」は「3割」ではなく「16%」だ。

続きを見ていく。


【東洋経済オンラインの記事】

出口:フランスは2000年に、国会議員選挙の候補者は各政党で男女同数にしなくてはならないという「パリテ法」を制定しました。

それによって、制定当時、国会の女性議員の割合は日本とさほど変わらない1割程度だったのが、今では4割近くに達しています。

上野:それは強制力のあるクオータ制を作ったからですね。

出口:男女同数の候補者を揃えないと政党交付金が減らされるというものでした。

日本の候補者均等法にはペナルティがない

上野:日本の候補者均等法には、ペナルティがありません。

出口:インセンティブのない制度はワークしませんね。フランスのように思い切ってやらないと


◎フランスは良くなった?

クオータ制」が絶対にダメだとは言わない。しかし男女平等の原則に反する以上、導入には慎重であるべきだ。導入に当たっては男女平等の原則を崩しても余りあるメリットを提示してもらわないと困る。しかし上野氏も出口氏もフランスでどんな効果があったのか教えてくれない。なのに「フランスのように思い切ってやらないと」となってしまう。

さらに見ていく。

【日経の記事】

上野:韓国も改革のスピードが速く、あっという間に女性家族部という省庁ができました。性暴力禁止法も成立しました。日本は立ち遅れました。

出口:韓国は一度、経済が潰れそうになったので危機感が強くあったのかもしれません。

上野:やはり危機が来ないとダメなんでしょうか。日本の危機はすでに相当深刻だと思いますが。


◎それだけ?

韓国では「女性家族部という省庁ができ」て「性暴力禁止法も成立」したらしい。これが「クオータ制」とどう関係するのか上野氏は明らかにしていないが、クオータ制の成果だとしよう。だとしても、これだけならば導入の必要は乏しい。

日本では「性暴力」は元々禁止されている。後は女性関連の「省庁」を作るだけだ。それだけのために「クオータ制」を導入する必要はない。

導入後は国民の幸福度が急激に上昇したとか、そういう話が欲しい。ないのならば男女平等の原則を貫く方がスッキリする。

さらに見ていく。


【東洋経済オンラインの記事】

クオータ制は、これまでずっと女性団体が提案してきました。ですが日本では、政財界にいる人が、クオータ制は賛成できない。能力のない人をポジションにつけるという逆差別になるといいます。ある財界トップの、「クォータ制はわが国の風土になじまない」という発言を聞いてのけぞりました。反対の理由を合理的に説明できない、と言っているのと同じです


◎反対の理由は「差別だから」で十分では?

クオータ制」が「逆差別」かどうかは知らないが「差別」ではある。この「差別」によって不利益を被る男性も必ず出てくる。「反対の理由」としては「差別」だからでほぼ足りている。基本的には「差別」がない方がいい。

ただ、あらゆる「差別」を禁じるべきかと言うと話が難しくなる。「クオータ制」導入の余地もここにある。「わが国の風土になじまない」という「発言」の真意は分からないが「(男女平等を原則とする)わが国の風土になじまない」との趣旨であれば「反対の理由を合理的に説明できない、と言っているのと同じ」ではない。

次は明らかに間違いだと思える発言を見ていく。


【東洋経済オンラインの記事】

出口:人口の男女比は半々ですから、能力のある人の割合も同じはずです。クオータ制がいちばん正しいと思います。逆差別だと騒いでいる人は、男性がいかに高いゲタをはいているかという実態に気づいていないのです。

上野:裏返せば、これまで男だというだけで能力のない人たちをポジションにつけてきたということです。


◎「能力のある人の割合も同じはず」?

人口の男女比は半々ですから、能力のある人の割合も同じはずです」と出口氏は言う。根拠なくそう信じているのだろう。だが明らかに間違いだ。「同じ」にならないケースも当然にある。

例えば、国際数学オリンピックの日本代表は男性ばかりだ。これは選抜方法に不正があるからなのか。代表が6人ならば、成績で劣っていても3人は女性から選ぶべきなのか。海外でも約9割の代表選手が男性だ。これは、どの国も正しい能力判断ができていないからなのか。

仮に「能力のある人の割合も同じ」だとしても、だから「クオータ制」を導入すべきとは限らない。男性は「国会議員」になりたがる人が多いが、女性は敬遠するとしよう。その場合、日本全体で見れば「国会議員」の適性を持つ人の「割合」が同じだとしても、「国会議員」志望者の中で「能力のある人」の割合は男性が高くなる。「国会議員」志望者の9割が男性の場合、「国会議員」志望者の中で「能力のある人」も9割は男性だ。

その状況で「クオータ制」を導入すると、男性の中の「能力のある人」をはじいて、能力のない女性を選ぶ結果になりやすい。基本的に「クオータ制」は問題をはらんでいる。やはり、導入するならば難点を補って余りある大きなメリットが要る。

話はさらに「ロールモデル」に及ぶ。そこも見ておこう。


【東洋経済オンラインの記事】

出口:ある企業の研修に講師として呼ばれて行ったことがあります。次の幹部候補生を20人くらい集めていたのですが、そこには女性が1人もいませんでした。

上野:幹部候補生の20人に?

出口:はい。社員の男女比は6対4なのに。それで、僕は社長に「なぜ女性がいないんですか?」と聞いたら、「この1年間、女性を抜擢しようと思って目を皿のようにして探しましたが、見つかりませんでした」と言われたので、「その考えが間違いです」と答えました。

これまで幹部に女性がいなければロールモデル自体がないわけですから、ふさわしい人が育っているはずがない。だから、「あみだくじでいいから最低3割くらいは女性幹部を任命してください」と述べました。

最初の1年は社長の目にかなわないかもしれませんが、2年、3年と続ければ立派な人は必ず出てきます。「それがクオータ制の本当の意味です」と話しました。


◎「ロールモデル」がないと育たない?

出口氏はこの「ロールモデル」の話が好きなようだ。ここでも「これまで幹部に女性がいなければロールモデル自体がないわけですから、ふさわしい人が育っているはずがない」と述べている。これは2つの意味で問題がある。

ロールモデル」がないと成長できないのが女性だとしたら、それは女性の能力的な欠点と言える。男性は多くの分野で未知の領域を開拓してきた。例えば坂本龍馬は誰かを「ロールモデル」として脱藩し、亀山社中を設立して薩長同盟を仲介したのか。歴史に詳しい出口氏ならば分かるだろう。

自分も人生で「ロールモデル」となる人物がいた時期はない。それでも、それなりに成長できたのは男性だからなのか。だとしたら「ロールモデル」なしで成長できるという点で男性(少なくとも一部の男性)は女性より優れている。であれば「幹部候補生」を男性から選ぶことに合理性が出てくる。自分が「社長」ならば「ロールモデル」なしでも成長できそうな人物に会社を託したい。

仮に「ロールモデル」が必要だとして、なぜ「社内」の「同性」でなければならないのかとも思う。他の人の生き方や仕事の進め方を参考にすることは自分にもあった。しかし職場内の同性でなければダメとは考えなかった。

最初の1年は社長の目にかなわないかもしれませんが、2年、3年と続ければ立派な人は必ず出てきます」と出口氏は言うが、根拠に欠ける。国会議員で考えてみよう。女性国会議員は何十年も前からいる。党首を務めた人物も出ている。こうした女性を「ロールモデル」として次々と優秀な人材が政界入りし、国会議員に占める女性の割合は「クオータ制」など必要ないレベルに達したのか。

国会議員に占める女性比率の推移を見れば、「ロールモデル」を作ってもあまり意味がないと分かるはずだ。


※今回取り上げた記事「日本の男は自分の履く『ゲタの高さ』を知らない~袋小路に入っている日本に突然変異は起こるか

https://toyokeizai.net/articles/-/399762


※記事の評価はD(問題あり)

2021年1月1日金曜日

日経の「革命」好きは2021年も不変? 正月連載「第4の革命 カーボンゼロ」の危うさ

日本経済新聞が大好きな「世界一変」系の連載は危ないと繰り返し訴えてきた。しかし、やめられないようだ。1日の朝刊1面で「第4の革命 カーボンゼロ」という連載が始まった。この手の連載に頻繁に出てくる「革命」という言葉がタイトルに入っている。そのせいか、初回の「脱炭素の主役、世界競う~日米欧中動く8500兆円」という記事で既に危うい雰囲気が漂っている。

夕暮れ時の筑後川

最初の段落から見ていこう。


【日経の記事】

世界がカーボンゼロを競い始めた。日本も2050年までに二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの排出を実質ゼロにすると宣言した。化石燃料で発展してきた人類史の歯車は逆回転し、エネルギーの主役も交代する。農業、産業、情報に次ぐ「第4の革命」を追う。


◎「逆回転」?

人類史の歯車は逆回転」するという説明が引っかかる。「化石燃料」の利用をやめて馬車や帆船で移動する生活に戻るのならば「逆回転」でいいだろう。しかし、そういう話ではないはずだ。

革命」を打ち出す難しさはここにある。大変なことが起きないと「革命」にはならないが、実際には日経の思い通りの「革命」的な動きが出てこない。なので物事を大げさに表現してしまう。「逆回転」もそうだ。

化石燃料」の利用が減っても、再生エネルギーで代替して人類としてのエネルギー消費量が増え続けるのならば「逆回転」ではない。

次は「カーボンゼロ」について考えてみよう。


【日経の記事】

カーボンゼロの奔流が世界を動かす。国連環境計画によると世界の3分の2にあたる126の国・地域がCO2など温暖化ガスの実質ゼロを表明した。米国も追随すれば、温暖化ガス排出量で世界の63%の国・地域がゼロを約束する


◎遠い先でも実現が難しそうな…

例えば、2025年に世界で「カーボンゼロ」が実現するとしよう。この場合は、かなり大きな変化が起きそうだ。しかし「日本も2050年までに二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの排出を実質ゼロにすると宣言した」だけ。目標を達成できたとしても30年近く先の話だ。

記事によれば「米国も追随」と仮定した場合でも「温暖化ガス排出量で世界の63%の国・地域がゼロを約束する」に過ぎない。最後まで「約束」しない国もあれば「約束」したものの目標を達成できない国も出てくるという状況は十分に考えられる。

2050年」(日本の場合)という遠い未来の「約束」を基に「革命」が起きると読者に訴えるのが今回の連載だ。苦しい内容になるのは避けられそうもない。

無理は既に出ている。1面の記事の終盤を見てみよう。


【日経の記事】

人類は18世紀の農業革命で穀物生産を伸ばし、産業革命では工業生産を飛躍的に増やした。20世紀末の情報革命は社会をデジタル化し、経済や雇用の姿も変えた。カーボンゼロは人類の営みでこれまで増え続けたCO2を一転して減らす革命で、世界の産業や暮らしのあり方も塗り替わる。


◎「一転して減らす」?

カーボンゼロは人類の営みでこれまで増え続けたCO2を一転して減らす革命」なのか。世界が足並みをそろえた上で目標を達成したとしても「カーボンゼロ」だ。その後は減少に転じるかもしれないが、それまでに30年近い年月をかけるのならば「一転して減らす」とは言えない。

第2回以降ではさらに苦しくなるのだろうか。見守っていきたい。


※今回取り上げた記事「第4の革命 カーボンゼロ(1)脱炭素の主役、世界競う~日米欧中動く8500兆円」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM1689Q0W0A211C2000000


※記事の評価はD(問題あり)