【ダイヤモンドへの問い合わせ(1月12日)】
1月16日号の「誰もが間違う世界を何が救うのだろうか?」というインタビュー記事についてお尋ねします。この中で作家の村上春樹氏は以下のように語っています。
「そういうもの(立派な施設)が米国にたくさんあるのは、寄付額を税額控除の対象にできる制度があるためです。これが日本にはないから、誰も大きな寄付をしない」
まず「寄付額を税額控除の対象にできる制度」が「日本にはない」のでしょうか。村上氏の母校である早稲田大学のホームページを見ると「早稲田大学への寄付金は、文部科学省より寄付金控除の対象となる証明を受けています。寄付金控除には、下記の[A]税額控除制度 と [B]所得控除制度 の2種類があり、確定申告の際には、寄付者ご自身においてどちらか一方の制度をご選択ください」との説明があります。
「税額控除制度」に関しては「寄付金額が年間2,000円を超える場合には、その超えた金額の40%に相当する額が、当該年の所得税額から控除されます」と書いてあります。村上氏が母校に「大きな寄付」をした場合「寄付額を税額控除の対象にできる」のではありませんか。
「日本」では「誰も大きな寄付をしない」という発言にも問題を感じます。一例として九州大学の椎木講堂を挙げます。同大学のホームページによると、この「立派な施設」は「椎木正和氏」が寄贈したものです。金額は不明ですが、これを「大きな寄付」に含めないのは無理があります。
「寄付額を税額控除の対象にできる制度」が「日本にはないから、誰も大きな寄付をしない」という村上氏の発言は、二重に間違っていませんか。杉本様は村上氏の発言をそのまま文字にしたのだとは思いますが、記事にする上では基本的な事実関係を確認する責任が編集部側にあるはずです。
問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。
【ダイヤモンドへの再度の問い合わせ(1月26日)】
週刊ダイヤモンド 編集長 山口圭介様 副編集長 杉本りうこ様
御誌を定期購読している鹿毛と申します
村上春樹氏のインタビュー記事に関する問い合わせをしましたが、2週間が経過しても回答が届きません。どういう状況なのか教えていただけないでしょうか。
事実確認にそれほど時間を要する内容とも思えません。万が一、回答の意思がないということであれば、その旨を伝えていただけると助かります。
よろしくお願いします。
以下が問い合わせの内容です。
※問い合わせの内容に関しては繰り返しになるので省略
【ダイヤモンドの回答(1月26日)】
平素は私どもの記事を熱心にお読み下さり、ありがとうございます。
また拙稿についてお問い合わせを下さった件、返信が遅れ、大変失礼いたしました。
代表アドレスに届くメールは、自動のフォルダ分類をしていた結果、確認が漏れておりました。
お問い合わせの件ですが、主には以下のような理由から現状の表現としております。
・寄付税制の日米格差は、日本側が拡充を進めた結果、近年縮小しています。しかし村上春樹氏が在米していた時期(1990年代~2010年頃)には、確かに米国の寄付税制のほうが手厚くありました。村上氏が「当時の記憶を紐解く形」でこのように指摘することは、インタビュー記事の表現としては不自然ではないかと考えております
・「大きな寄付」については、確かに個別の寄付者の寄付額をランキングのように比較することはできません。日本にもまとまった額を寄付している方が存在するのは、ご指摘のとおりです。ただ、個人寄付額の対GDP比率や、大学財政における寄付金の占める割合といったデータの日米格差を考慮すると、「米国のほうがより大きな額を、より多くの人が寄付している」と見なしても不自然ではないと考えております
以上、ご質問に答える説明となりましたら幸甚です。
また末尾になりますが、鹿毛様には常日頃から、私どもの記事を細部に至るまでお読みいただき、大変光栄に思っております。
キャッチーなヘッドラインばかりが注目されがちな昨今にあって、記事のファクトや論理構成に厳しい目を向ける成熟した読者もいることを、今回のご質問で改めて再確認しました。
審美眼に応える記事を書けるよう、ますます精進せねばと緊張する次第です。
どうぞよろしくお願いいたします。
◇ ◇ ◇
やり取りは以上。いくつか補足しておきたい。
問い合わせは編集部のメールアドレスに送っただけでなくダイヤモンドのサイトの問い合わせフォームも使っている。つまり2つ送っている。それでも「確認が漏れ」るのか。本当だとしたら「確認」のやり方を根本的に見直すべきだろう。
「寄付額を税額控除の対象にできる制度」が「日本にはないから、誰も大きな寄付をしない」という発言に関しては、村上氏が日本の現状を嘆いていると取れる。「村上氏が『当時の記憶を紐解く形』でこのように指摘することは、インタビュー記事の表現としては不自然ではない」という見方には同意できない。
百歩譲って「当時の記憶を紐解く」ものであり、今の日本を語っているわけではないとしよう。しかし「寄付税制の日米格差は、日本側が拡充を進めた結果、近年縮小しています。しかし村上春樹氏が在米していた時期(1990年代~2010年頃)には、確かに米国の寄付税制のほうが手厚くありました」という話らしい。とすると「日米格差」はあったものの「寄付額を税額控除の対象にできる制度」は存在していたのではないか。その前提で言えば「日本にはないから」という発言は事実誤認のはずだ。
「『米国のほうがより大きな額を、より多くの人が寄付している』と見なしても不自然ではない」という回答も同じような問題がある。「米国のほうがより大きな額を、より多くの人が寄付している」という認識が正しいとしても、だからと言って「誰も大きな寄付をしない」との説明に問題なしとはならない。
「誰も大きな寄付をしない」という説明が正しいと言えるのは、日本で「大きな寄付」をする人がゼロの場合だ。ごくわずかしかいないのならば許容範囲内かもしれないが「米国のほうがより大きな額を、より多くの人が寄付している」といった話ならば、村上氏の発言は誤りと考えるべきだろう。
※今回取り上げた記事「誰もが間違う世界を何が救うのだろうか?」
※この記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。
寄付の税額控除が「日本にはない」と週刊ダイヤモンドで村上春樹氏は語るが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_13.html
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