2021年1月21日木曜日

「感染防止」と「多様な働き方後押し」が理由?日経「電通、本社ビル売却検討」に疑問あり

 21日の日本経済新聞朝刊1面に載った「電通、本社ビル売却検討~3000億円規模 在宅推進へオフィス改革」という記事は疑問が残る内容だった。まず「なぜ売却なのか」が分かりにくい。

筑後川

記事では以下のように説明している。

【日経の記事】

電通グループは東京都港区の本社ビルを売却する検討に入った。売却額は国内の不動産取引として過去最大級の3000億円規模になるとみられる。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、遠隔勤務を主体とした分散型のオフィスに改革する。感染防止とともに従業員の多様な働き方を後押しする。企業による都心オフィスの売却や利用方法見直しが広がってきた。

売却を検討するのは東京・汐留の「電通本社ビル」。地上48階建て、高さ約210メートルの超高層ビルで、低層部には商業施設「カレッタ汐留」がある。旧国鉄・汐留貨物駅跡地の再開発により2002年に完成した。月内にも優先交渉先を選び、本格交渉に入るもよう。売却資金は事業構造改革や成長投資に充てる

同社はコロナ拡大後の20年2月以降、働き方改革を加速してきた。同ビルのグループ社員約9000人超が遠隔勤務を実施しており、出社率は足元で最大2割程度にとどまる。東京・目黒などにサテライトオフィスを設け、本社での集中勤務を減らしている。

本社ビルの余剰空間が生まれており、売却により資産の効率化を進める。現在、ビルの約7割を利用する国内事業会社、電通のオフィス利用面積は半分程度に減るもようだ。ビル売却後も大部分をグループで賃借し、本社は移転しない方針だ

金融機関や不動産会社、投資ファンドなどが買い手候補に挙がっている。同ビルは当面安定した賃料収入が見込めるほか、都心の好立地にあり一定の需要があるとみているようだ。


◎売却でなくても…

最初の段落では「感染防止とともに従業員の多様な働き方を後押しする」と書いている。これはどちらも「本社ビルを売却する」こととの関連が乏しい。「感染防止」はむしろ自社ビルの方がやりやすいだろう。「従業員の多様な働き方を後押しする」ためには「賃借」の方が有利とも考えにくい。

本社ビルの余剰空間が生まれて」いるのであれば「余剰空間」を他者に貸し出す選択もある。なのに「売却」を選ぶ理由が記事からは浮かんでこない。

現状では「余剰空間」の借り手がいないが「売却」であれば「余剰空間」を買い手に押し付けられるという話なのかとも考えてみた。しかし「ビル売却後も大部分をグループで賃借し、本社は移転しない方針」らしいので「余剰空間」の押し付けでもなさそうだ。

現在、ビルの約7割を利用する国内事業会社、電通のオフィス利用面積は半分程度に減るもようだ」との説明も引っかかる。さらに「余剰空間」が生まれると分かっているのに「大部分をグループで賃借」するようだ。しかも「国内事業会社」の「賃借」分から生まれる「余剰空間」も「電通グループ」が「賃借」すると取れる。

3000億円規模」という売却金額をどう見るかにもよるが、「余剰空間」は「電通グループ」が引き受けて賃料を払い続けるという条件ならば買い手にかなり有利だ。それでも「電通グループ」が「売却」を望むとすれば、やはり資金繰り対策だと推測したくなる。

この点に関して記事では「売却資金は事業構造改革や成長投資に充てる」と述べているだけだ。ネタをもらったから「電通グループ」の言い分をそのまま書くしかないといった事情でもあるのだろうか。であればニュース先取りの弊害が出ている。自由に書いてこの内容だとすると、説明が不十分だ。


※今回取り上げた記事「電通、本社ビル売却検討~3000億円規模 在宅推進へオフィス改革

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210121&ng=DGKKZO68356240R20C21A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

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