2020年8月31日月曜日

周知の「顔」では?日経 西條都夫上級論説委員「核心~GAFA、もう一つの顔」

日本経済新聞の西條都夫上級論説委員にコラムを任せるのはやめた方がいい。そう評価してきた。31日の朝刊オピニオン面に載った「核心~GAFA、もう一つの顔 強気の裏に競合への怯え」という記事を読んで、改めて西條論説委員の書き手としての限界を感じた。

大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
           ※写真と本文は無関係です
今回の記事では「GAFA」について「表の顔」とは別の「もう一つの顔」があると教えてくれる。それが知られざる「もう一つの顔」であれば「核心」のタイトルにふさわしい。果たしてそうなっているのか中身を見ていこう。

【日経の記事】

昔読んだ本の一節をふと思い出したのは、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)の最高経営責任者(CEO)を呼んで7月末に開かれた米下院公聴会の記録に目を通したからだ。

公聴会で各議員は右から左から交互に4人をつるし上げたが、それ以上に興味深かったのは、下院の公表した電子メールなどの内部文書だ。それを読むと、表向きの会社の顔とは違う、あまり世間に知られていない「もう一つの隠れた顔」が浮かび上がる

例えばアマゾンの表看板は「カスタマーファースト(顧客第一)」だ。ジェフ・ベゾスCEOはこの理念にこだわり、創業間もない1998年に株主あてに公表した書簡の表題は「顧客を畏怖せよ」だった。顧客の心がアマゾンから離れていないか「毎朝、目が覚めるたびにその可能性を恐れよ」と社員に徹底している、とベゾス氏は書いた。

イノベーション多産型の組織文化も特筆に値する。同社は単なる物販サイトの域を超え、倉庫運営や効率配送などの「フルフィルメント」技術やクラウドサービスにも競争優位領域を広げた。

2月に来日したイノベーション研究の泰斗、米スタンフォード大のチャールズ・オライリー教授は「アマゾンこそ世界で最も独創的な会社の一つ」と称賛した。「ダーウィン的な競争環境」を社内に意図的につくり、多数のプロジェクトを同時に走らせることで、その中から断トツのイノベーションが途切れることなく生まれる体制を整えた。その結果が200兆円に近づく株式時価総額だ。

さてこれらが同社の誇るべき表の顔とすれば、公聴会で露見した「見えざる顔」とは何か。それは自社を脅かすライバルには持てる力を総動員し、徹底的に排除し、屈服させようとする強い意思だ

例えば2009年当時ダイパーズ・ドット・コムという企業が赤ちゃん用品の通販市場で台頭した。危機感を覚えたアマゾンは猛反撃を開始。社内メールによると、ある幹部は「おもちゃ通販ではトイザラスに先行されたが、我々は彼らより5%安く値付けする社内ルールをつくって対抗した。(ダイパーズにも)同じ手法が可能」と提案した。

公聴会の本番でも、民主党の女性議員が「ダイパーズ社を追い詰める作戦が発動され、そのために1カ月で2億ドル(200億円強)の損失まで認める、と読める社内文書がある」と追及。ベゾス氏は「10年以上前のことで記憶にない」とかわしたが、アマゾンの「略奪的価格設定(predatory pricing)」戦略の迫力を印象づけるやりとりだった。

その後まもなくダイパーズの親会社がアマゾンの買収提案を受け入れ、「脅威」は除去された。反トラスト法の専門家でGAFA規制の旗振り役であるリナ・カーン米コロンビア大准教授は「手ごわいライバルが消えると、アマゾンはさっそくベビー用品のディスカウントを縮小した」と指摘する。

競合排除へのこだわりはフェイスブックにも共通する。同社のある社員は12年1月に「インスタグラムのサービスはすごい。彼らは私たちのランチを奪おうとしている」と社内ブログで警鐘を発した。これがマーク・ザッカーバーグCEOの目にとまり「インスタを放置するのは危険」という認識が浸透した。

早くも同年4月には社員13人のインスタを約10億ドルで買収することで合意。フェイスブック幹部はメールで「買収の目的の一つは、競争相手の中立化だ」と書いた。「中立化」というのは遠回しの表現だが、ここでも買収によって脅威が消去されたのだ。

グーグルとアップルについても、内部文書の端々から浮かび上がるのは、潜在的な競争相手への警戒の念だ。アップルはアプリの配信をめぐって有力ゲーム「フォートナイト」の開発元や音楽配信のスポティファイ(スウェーデン)と係争を抱えている

外から見ればGAFAは強力無比で、そのパワーでライバルをのみ込もうとする。これが日本を含め世界の競争当局がテック大手の規制強化に動く理由だが、他方でGAFAの視点に寄り添うと「自分たちの基盤を脅かす新興勢力がいつ現れても不思議ではない」と常に神経を張り詰めている現実がある。

GAFA自身が、マイクロソフトのような以前の寡占企業の市場支配を突き崩すことで今の地歩を築いてきた。なので、新興勢力の台頭に人一倍敏感だ。

ローマ神話に登場する「ヤーヌス」は前と後ろを向く2つの顔があった。21世紀のGAFAも外向きのこわもての顔と「新たなプレーヤーにいつディスラプト(破壊)されるかもしれない」と怯(おび)える2つの相貌がある


◎言われていることでは…

『自分たちの基盤を脅かす新興勢力がいつ現れても不思議ではない』と常に神経を張り詰めている」のが「GAFA」の「あまり世間に知られていない『もう一つの隠れた顔』」だと西條論説委員は言いたいようだ。しかし、それはよく知られた「」ではないのか。

2019年6月4日の日経の記事では「下院司法委員会は今回の調査で、反トラスト法の改正も視野に入れる。特に問題になりそうなのが、各社が豊富な資金力を生かし、将来競合しそうな有望なスタートアップの買収を繰り返していることだ」と書いている。「自分たちの基盤を脅かす新興勢力がいつ現れても不思議ではない」と感じているからこそ、そうした行動に出るはずだ。

フェイスブック」が「インスタを約10億ドルで買収」したのはそうした狙いがあったというイメージは自分でさえ持っている。西條論説委員はそういう解説をする記事を目にしたことがないのか。「あまり世間に知られていない」と言うが、「世間」を甘く見過ぎていないか。

ついでに追加でいくつか指摘したい。

(1)「表向きの会社の顔」が変わっているが…

記事の最初の方でアマゾンに関して「表向きの会社の顔」としたのは「顧客第一」「イノベーション多産型」などだった。しかし、結びでは「GAFA」の「外向きのこわもての顔」を「もう一つの顔」と対比させている。ズレてきてないか。


(2)「潜在的な競争相手」じゃないような…

グーグルとアップルについても、内部文書の端々から浮かび上がるのは、潜在的な競争相手への警戒の念だ。アップルはアプリの配信をめぐって有力ゲーム『フォートナイト』の開発元や音楽配信のスポティファイ(スウェーデン)と係争を抱えている」と西條論説委員は言う。この書き方だと「スポティファイ」は「アップル」の「潜在的な競争相手」だと取れる。だが「競争」は「顕在化」しているのではないか。


(3)「ディスラプト」は要らないような…

21世紀のGAFAも外向きのこわもての顔と『新たなプレーヤーにいつディスラプト(破壊)されるかもしれない』と怯(おび)える2つの相貌がある」と西條論説委員は記事を締めている。何のために「ディスラプト」を入れたのか謎だ。今回の記事のキーワードという訳でもない。無駄な横文字をわざわざ追加する意図が分からない。

新たなプレーヤーにいつ打ち負かされるてもおかしくない」などで十分だ。


※今回取り上げた記事「核心~GAFA、もう一つの顔 強気の裏に競合への怯え
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200831&ng=DGKKZO63184750Y0A820C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html

「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_16.html

第1次安倍政権で「病状の悪化を伏せたまま退陣」? 日経「春秋」に疑問

安倍政権は「第1次内閣」で「病状の悪化を伏せたまま退陣」したのだろうか。日本経済新聞の朝刊1面コラム「春秋」ではそう書いているが、違うと思える。
宮城県松島町 ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

30日の日本経済新聞朝刊1面に載った「春秋」についてお尋ねします。記事には「安倍さんの胸の中に、病状の悪化を伏せたまま退陣し、『政権を投げ出した』との非難を浴びた第1次内閣の経験があったことは想像に難くない」との記述があります。これを信じれば「第1次内閣」では「退陣」の時点で「病状の悪化を伏せたまま」にしていたはずです。本当にそうでしょうか。

首相官邸のホームページに2007年9月24日の安倍晋三首相の記者会見の内容が出ています。その中で安倍氏は以下のように述べています。

この1か月間、体調は悪化し続け、ついに自らの意思を貫いていくための基礎となる体力に限界を感じるに至りました。もはや、このままでは総理としての責任を全うし続けることはできないと決断し、辞任表明に至りました。私、内閣総理大臣は在職中に自らの体調について述べるべきではないと考えておりましたので、あの日の会見ではここ1か月の体調の変化にはあえて言及しませんでしたが、しかし、辞任を決意した最大の要因について触れなかったことで、結果として国民の皆さんに私の真意が正確に伝わらず、非常に申し訳なく思っております

そして「私は、明日で内閣総理大臣の職を辞することになります」と述べ、実際に同年9月25日に安倍内閣は総辞職しました。この流れだと「病状の悪化」を明らかにしてから「退陣」したことになります。

第1次内閣」で「病状の悪化を伏せたまま退陣」したという記事の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「春秋
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200830&ng=DGKKZO63221490Q0A830C2MM8001


※記事の評価はD(問題あり)

2020年8月30日日曜日

日経が好んで使う「力の空白」とは具体的にどんな状況?

日本経済新聞は「力の空白」という表現が好きなのだろう。30日の朝刊総合3面に「日米、対中『力の空白』警戒~グアムで防衛相会談 東・南シナ海 結束示す」という記事を載せている。29日の朝刊1面の記事でも「日本の政局が混乱すれば、日米同盟に隙をつくり、北東アジアに力の空白を生むことになりかねない」と吉野直也政治部長が訴えていた。しかし、どういう状況を指して「力の空白」と言っているのか分かりにくい。
筥崎宮(福岡市)※写真と本文は無関係です

30日の記事の一部を見てみる。

【日経の記事】

河野太郎防衛相は29日、米領グアムでのエスパー米国防長官との会談で、中国の活動に警戒を強めていく方針を確認した。米国は11月に大統領選を控え、日本は安倍晋三首相が辞任を表明した。日米が結束を示し「力の空白」は生じないと示す狙いがある

中略)米国は新型コロナの感染拡大が深刻で、空母内や在日米軍基地でも感染が広がった。11月に大統領選を控え、関心は内向きになっている。

日本でもトランプ米大統領と蜜月関係を築いた首相が辞任を表明した。後継となる首相が11月に選ばれる米大統領とどこまで良好な関係を構築できるかは未知数だ。

今回の日米防衛相会談を通じ、同盟の結束の強さを示して「力の空白」が生じないようにする。会談場所として南シナ海に近く、太平洋上の軍事的な要衝であるグアムを選んだところからもこうした狙いが透ける。

日米は新型コロナの感染拡大の状況下でも、相次ぎ共同訓練をした。

31日までハワイ沖で米海軍主催の「環太平洋合同演習(リムパック)」を実施する。日本から海上自衛隊の護衛艦が参加した。中国を念頭に、コロナ下でも開催するよう日本が働きかけた。



◎「力の空白」は生まれそうもないが…

記事から判断すると、「力の空白」が生じる恐れがあるのは「東シナ海や南シナ海」なのだろう。ここでは「沖縄県の尖閣諸島」だとして考えてみたい。

まず、日本には「尖閣諸島」を固有の領土として守ろうとする意思があるはずだ。「東シナ海では4~8月に、中国公船が沖縄県の尖閣諸島周辺の接続水域内を連続111日間航行した。2012年の尖閣国有化以降で最長となった」とすれば、中国もやる気は十分だと思える。

ここで日米が「同盟の結束の強さ」を示せず、「米国は尖閣諸島には関心がなさそうだ」と中国に悟られたとしよう。そうなると「力の空白」が生じるのか。もちろん違う。日本がいる。米国が無関心だとしても「尖閣諸島」の防衛に関して日本も無関心あるいは無力だとは考えにくい。

「全然分かってない。力の空白が生まれる懸念は大きい」と日経が信じるならば、それでいい。だったら「なるほど確かに日米同盟が揺らげば『力の空白』が生じそうだな」と納得できる説明をすべきだ。


※今回取り上げた記事「日米、対中『力の空白』警戒~グアムで防衛相会談 東・南シナ海 結束示す
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200830&ng=DGKKZO63216550Z20C20A8EA3000


※記事の評価はC(平均的)。吉野直也政治部長が書いた記事については以下の投稿を参照してほしい。

漠然とした訴えが残念な日経 吉野直也政治部長「政策遂行、切れ目なく」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/blog-post_29.html

2020年8月29日土曜日

漠然とした訴えが残念な日経 吉野直也政治部長「政策遂行、切れ目なく」

安倍晋三首相の辞任表明を受けて慌てて書いたのだとは思う。そこに同情の余地はあるが、29日の日本経済新聞朝刊1面に吉野直也政治部長が書いた「政策遂行、切れ目なく」という記事は、漠然とした話が多過ぎる。特に言いたいことはないのだろう。仕方なく紙面を埋めてみた感じが拭えない。
豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
           ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

28日の株価の下落は裏を返せば市場が首相の経済政策「アベノミクス」に一定の評価を与えていたことになる。外交も同様だ。トランプ米大統領との蜜月はかつてない強固な日米同盟関係を築き、日本の外交力を高めた

次期首相に積み残された課題は多い。新型コロナの克服と東京五輪・パラリンピックの開催は宿願だ。一方でコロナ対策の巨額な財政出動で構造改革は遅滞する。脱デフレを宣言し、安定的な成長を実現する総合戦略を示さなければならない。


◎「外交力」が高まった?

外交も同様だ」と書いているので「市場」は「首相」の外交政策にも「一定の評価を与えていた」と吉野部長は見ているのだろう。だが、なぜそう言えるのかは不明。そして「かつてない強固な日米同盟関係を築き、日本の外交力を高めた」と言い切っている。

個人的には安倍政権下で「日本の外交力」が高まった印象はない。「強固な日米同盟関係」は、言い換えれば「強固な」対米追従路線だ。「俺の親分は強いんだぞ。だから俺に逆らうな」と迫れば、他国が言うことを聞いてくれるとの考え方なのか。それで韓国や北朝鮮に対し上手く「日本の外交力」を行使できたのか。

コロナ対策の巨額な財政出動で構造改革は遅滞する」という説明も腑に落ちない。まず「構造改革」が何を指すのか明確ではない。「構造改革」が例えば働き方改革のようなものならば「巨額な財政出動」は「改革」の実行を難しくするとは限らない。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

外交も待ったなしだ。中国は戦後の国際秩序を形作ってきた米国の覇権に挑む。南シナ海での軍事的な緊張で米中対立は経済から安全保障の領域に広がる

沖縄県・尖閣諸島付近を含む東シナ海で示威行動する中国船にも警戒する必要がある。サイバー攻撃も北東アジアの軍事バランスを揺るがす。

日本の政局が混乱すれば、日米同盟に隙をつくり、北東アジアに力の空白を生むことになりかねない。日米同盟の深化にも猶予はない。



◎どういう理屈?

南シナ海での軍事的な緊張で米中対立は経済から安全保障の領域に広がる」のであれば「戦後の国際秩序を形作ってきた米国の覇権に挑む」姿勢を見せる「中国」に対し、米国もしっかり対抗しようとしているはずだ。

だったら「北東アジアに力の空白を生む」事態は考えにくい。この「北東アジアに力の空白を生む」という状況が、そもそもよく分からない。例えば朝鮮半島を実効支配する主体がいなくなり、中国も米国も関与を避けるような状況になれば「力の空白」と言えるだろう。だが、現状では非常に考えにくい。

しかし「日本の政局が混乱」するだけで「北東アジアに力の空白を生むことになりかねない」と吉野部長は懸念する。「日米同盟に隙」ができるだけで「力の空白」が生まれるのか。どういうストーリーを描いているのだろうか。

「深く考えずに漠然と書いてみただけ」だとは思うが…。


※今回取り上げた記事「政策遂行、切れ目なく
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200829&ng=DGKKZO63204660Y0A820C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。吉野直也部長への評価はDを維持する。吉野部長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

トランプ氏の発言を不正確に伝える日経 吉野直也記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_7.html

トランプ大統領「最初の審判」を誤解した日経 吉野直也次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_13.html

日経 吉野直也記者「風見鶏~歌姫がトランプ氏にNO」の残念な中身
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/no.html

「政敵」が首相を動かしてる? 日経 吉野直也記者「風見鶏」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_56.html

2020年8月28日金曜日

日本では家計が「物価は上がらないと判断」? 日経 河浪武史記者の誤解

28日の日本経済新聞朝刊1面に載った「米、『物価2%超』を容認~FRB決定 ゼロ金利維持へ新指針」という記事の最後の段落に引っかかる説明があった。「(FRBが)物価目標を見直すのは金利や物価がそろって鈍化する『低温経済』が続いているためだ。企業や家計が先行きも物価は上がらないと判断すれば、日本のように慢性的に物価が上がらなくなる」と河浪武史記者は言う。「日本」では「企業や家計が先行きも物価は上がらないと判断」していると取れるが、そうだろうか。ここでは「家計」について考えてみたい。
大雨で増水した筑後川(福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です

家計」が「物価」の先行きをどう見ているかは、日銀の「生活意識に関するアンケート調査(第82回)」を基に判断しよう。

1年後の物価に対する見方」では「かなり上がる」「少し上がる」が合わせて66.7%。一方、「かなり下がる」「少し下がる」は合計8.7%に過ぎない。これは2020年6月時点の数字だ。コロナの関係で下落派が増えてきてはいるが、それでも1割に満たない。

1年後の物価は現在と比べ何%程度変化すると思うか」との問いに対する答えでは中央値が3.0%。平均値に至っては4.3%だ。どちらも日銀の物価目標である2%を上回る。なのに「家計」は「先行きも物価は上がらないと判断」していると見ていいのか。

家計」に関しては「先行き」の「物価は上が」ると判断している人が明らかに多数派だ。「日本」は「慢性的に物価が上がらなくなる」状況かもしれない。しかし、それは「家計」が「先行きも物価は上がらないと判断」しているからではないだろう。

河浪記者にはそこを考えてほしい。


※今回取り上げた記事「米、『物価2%超』を容認~FRB決定 ゼロ金利維持へ新指針


※記事の評価はD(問題あり)。河浪武史記者への評価はDを据え置く。河浪記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「インフレはドル高招く」と日経 河浪武史記者は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/12/blog-post_14.html

「米利上げ 独走強まる」に無理がある日経 河浪武史記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_32.html

米ゼロ金利は「2008年の金融危機以来」? 日経 河浪武史記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/2008.html

日経 河浪武史・後藤達也記者の「FRB資産 最高570兆円」に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/frb-570.html

2020年8月27日木曜日

ミス握り潰し常習犯の日経が「ありのままを説明したらどうか」と訴えても…

遅刻の常習犯が「時間を守れ」と訴えても説得力はない。他者の行動に注文を付けるならば、自らの行動をまず律する必要がある。その意味で27日の日本経済新聞朝刊1面に載ったコラム「春秋」は辛い。読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が当たり前の日経に「『ありのまま』を説明したらどうか」と「検察当局」に求める資格があるだろうか。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

「その罪を犯した人間が、自分の心の径路(けいろ)をありのままに現(あら)わすことが出来たならば、(中略)総(すべ)ての罪悪というものはないと思う」――。夏目漱石は大正2年(1913年)、「模倣と独立」と題した講演で語った。人は生きていれば、過ちを犯す。救いはあるのか。

第一高等学校での講演の翌年、「こころ」の連載が始まる。友人を裏切り、死に追いやった「先生」は、自らの心の履歴を語り手の「私」に包み隠さず打ち明ける。漱石が言う罪とは、刑法犯のみならず、良心に恥じる「やましさ」も含む。どう向き合うべきなのか。漱石文学のテーマで、今も広く読み継がれるゆえんだ。

この人たちはどうだろう。昨年7月の参院選をめぐる買収事件で、公職選挙法違反に問われた衆院議員の河井克行・前法相と妻の案里・参院議員の公判が始まった。検察側は冒頭陳述で現金を受け取った100人の地方議員らの実名を読み上げた。河井夫妻はもちろん、買収された面々にも世の厳しい視線が注がれている。

本来、起訴されて当然だからだ。捜査に協力するかわりに刑事処分を減免する司法取引の対象は、経済犯罪などに限られる。法に基づかない暗黙の取引なのか。この事件の特異な点は、検察当局も、やましさを抱えていることだ。漱石が説くように、「ありのまま」を説明したらどうか。刑事司法の透明性を守るためにも。



◎人のことを言う前に…

人は生きていれば、過ちを犯す」のはその通りだ。新聞社も新聞を作り続ければ、必ずミスは起こる。そこを責めるつもりはない。「過ち」を認めて訂正を出せば済む話だ。

しかし日経では多くの間違い指摘を当たり前のように握り潰してきた。「そんなことはない」と明確に反論できる日経関係者はいないはずだ。「良心に恥じる『やましさ』」を日経も抱えている。

春秋」の筆者がそのことを知っているかどうかは分からない。

検察当局も、やましさを抱えていることだ。漱石が説くように、『ありのまま』を説明したらどうか。刑事司法の透明性を守るためにも」と堂々と書いているのだから、日経の「やましさ」に気付いていない可能性もかなりある。

だとしたら、これから行動を起こしてほしい。「春秋」を任されているのだから、社歴は長く、社内でもかなりの影響力を持つ立場にいるはずだ。

「ミスの握り潰しを続けていたら、紙面で何を訴えても説得力がなくなる。自分たちの『やましさ』を無くすためにも、まずは間違い指摘への対応について『ありのまま』に読者へ説明していこう」

周囲にそう訴えてほしい。「そんなことしたって何も変わらない」「俺の仕事じゃない」などと言い訳したくなるなら、それはそれでいい。ただ「『ありのまま』を説明したらどうか」などと紙面で他者に求めることは二度としないでほしい。


※今回取り上げた記事「春秋」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200827&ng=DGKKZO63092930X20C20A8MM8000


※記事の評価はC(平均的)

2020年8月26日水曜日

「伊藤忠、ファミマのTOB成立」…腑に落ちない日経の解説

26日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「伊藤忠、ファミマのTOB成立~商品力の向上急務」という記事では「迅速な店舗改革にはTOBで伊藤忠の主導権を強めることが必要との認識で(伊藤忠とファミマが)一致した」と解説している。これがどうも腑に落ちない。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

伊藤忠商事は25日、ファミリーマートへのTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表した。ファミマ株の保有比率を50.1%から65.7%に引き上げた上で、同社を非上場化する。ファミマは新型コロナウイルスの影響などで苦戦している。親会社としての立場を強めた伊藤忠商事による、商品力の向上といった抜本的対策が急務だ。

24日までに7901万株の応募があり、下限としていた5011万株を上回った。伊藤忠は応募分をすべて買い付け、保有比率はファミマの自己株式などを除き65.7%となる。ファミマは10月下旬に臨時株主総会を開き、株式併合などの手続きを経た上で非上場となる見込みだ。

伊藤忠はかねて、ファミマや食品卸大手の日本アクセスをはじめとするグループ各社と連携し、商品在庫の圧縮や輸送コストの低減につなげる狙いを持っていた。ただ独立性が高いファミマとは温度差があった。同社のある幹部は「伊藤忠は管理能力に優れているかもしれないが、商品開発やマーケティングができるとは思えない」と話す。

ファミマの在庫や販売といった商品データのグループ内での共有は限られ、「グループ一体となった迅速な意思決定を推進できていない」との不満が伊藤忠で高まった。

ここに新型コロナによる来客の落ち込みが重なり、業況の悪化が鮮明になった。伊藤忠の幹部は「人工知能(AI)などを駆使し、売れ筋商品の開発や物流の効率化などを一体で進めることが再建の最善策」と話す。

海外では米アマゾン・ドット・コムなどがリアル店舗に進出し、データ分析やAIを使って売れ筋商品を投入する。伊藤忠にはこれら通販大手が将来的に商圏を侵食する強敵と映った。業績が振るわないファミマの危機感もあり、迅速な店舗改革にはTOBで伊藤忠の主導権を強めることが必要との認識で一致した

ファミマ側の反応は複雑だ。九州地方の40代男性オーナーは「根本的な課題は消費者をひき付ける商品が少ないことだ」と話す。ファミマは「店舗再生本部」を立ち上げ、採算の悪い店舗を数百店規模で直営店にするといった収益性の向上策を進めてきた。沢田貴司社長は「伊藤忠を使い倒す」と語る。伊藤忠と手を携え、改革のスピードを加速できるかが焦点だ。


◎同意できているなら…

ファミマ」側は「伊藤忠は管理能力に優れているかもしれないが、商品開発やマーケティングができるとは思えない」と考え、「伊藤忠」側は「グループ一体となった迅速な意思決定を推進できていない」と「不満」を抱いていたとしよう。

この場合、「伊藤忠」が支配力を高めようとするのは理解できる。ただ、「ファミマ株の保有比率を50.1%から65.7%に引き上げ」ても大した違いはない。過半の株を握っているのだから、「ファミマ」が言うことを聞かないなら「伊藤忠」は経営陣を入れ替えればいい。それは出資比率「50.1%」でもできる。「ファミマ」に好き勝手させないための「TOB」とは考えにくい。

そもそも「ファミマ」と「伊藤忠」に路線を巡る対立があるのだろうか。

業績が振るわないファミマの危機感もあり、迅速な店舗改革にはTOBで伊藤忠の主導権を強めることが必要との認識で一致した」のであれば、両社に対立はない。「TOB」がなくても力を合わせて「迅速な店舗改革」を進められるはずだ。

ファミマ」の「沢田貴司社長」も「伊藤忠を使い倒す」と発言しているのならば、そうすればいい。そこに「TOB」は必要ない。

結局「迅速な店舗改革にはTOBで伊藤忠の主導権を強めることが必要」という説明はかなり怪しい。「ファミマ」と「伊藤忠」はそう言っているのだろうが、それを鵜呑みにせず「TOB」の本当の狙いに迫ってほしかった。


※今回取り上げた記事「伊藤忠、ファミマのTOB成立~商品力の向上急務
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200826&ng=DGKKZO63046840V20C20A8TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。この問題に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 藤本秀文記者の「ファミマTOB 気をもむ伊藤忠」に感じた疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/tob.html

2020年8月25日火曜日

そんなに社会部は大切? FACTA「日経・岡田社長が『社会部』抹殺」

FACTA9月号に載った「日経・岡田社長が『社会部』抹殺」という記事は説得力がなかった。「編集局から全ての『部』をなくす上意下達の大改革。権力の監視機能を失いかねない」と筆者は訴える。そもそも「権力の監視機能」が「日経(特に社会部)」にあるのか。あるとして「『部』をなくす」となぜ「監視機能」が失われかねないのか。その辺りをしっかり論じていない。「」がなくなることに不満を抱くの社会部系の「日経」社員が筆者なのかと勘繰りたくなる内容になっている。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【FACTAの記事】

日本経済新聞社が来春、編集体制の仕組みを大幅に変える。経済部や政治部などの全ての部を解体し、「政策」「金融・市場」「ビジネス報道」「生活情報」の4つのユニットと「データビジュアル報道」「総合編集」「国際報道」「調査・社会報道」「地域報道」の5つのセンターに再編する。縦割りの弊害を打破し時代に即した柔軟な編集を可能にするのが狙いだというが、トップの命令により政治部と社会部を事実上解体するもので、報道機関に求められる権力の監視機能を失うことになりかねない



◎「部」はなくなっても…

」はなくなっても「政治部と社会部」がやってきた仕事がなくなるとは限らない。「政策」ユニットと「調査・社会報道」センターは名称から判断すると「権力の監視機能」を担えそうだ。筆者が「違う」と考えるのならば、その理由を示してほしい。

政治部と社会部を事実上解体」と書いているのも引っかかる。「権力の監視機能」を担うのは、この2つの部だけなのか。全ての「」をなくすのだから「経済部」もなくなる。「経済部」は「権力の監視機能」とは無縁なのか。

記事の続きを見ていこう。

【FACTAの記事】

「これから取り組むのは日経という会社を作り替えていく、CX、コーポレート・トランスフォーメーションです」。7月7日午前11時半に始まった岡田直敏社長の経営説明会は、コロナ禍において在宅勤務のツールとして使われているマイクロソフトのチームスで全社員にライブ中継された。約40分に及ぶ説明の中で岡田社長は「事実を伝えるだけではなく、読者のニーズを捉え、考える編集へと舳先を変える」ことが編集改革の本質だと強調した。600人収容の日経ホールの壇上でひとり話し終えると居並ぶ経営幹部から万雷の拍手が沸き起こった。

「もうこの枠組みは変えられないそうだ」︱︱。社内から聞こえてくる囁きには諦めの境地がにじむ。社員の意を汲むことなく決まった上意下達の号令は、中小零細企業のワンマン社長そのもの。この春、名ばかり管理職が増えた結果、東京本社の組合組織率は50%を割り込み、組合の力が削がれた。そんなタイミングでの編集局の大改革。フィナンシャル・タイムズ(FT)を買収した喜多恒雄会長に続き、岡田社長のレガシー作りに全社員が巻き込まれている。トップダウンによりスピード感のある組織変革はできるかもしれない。しかし、次々に創刊した専門媒体を廃刊できず拡大路線を改められないところを見ると、走り出したら止まれない社風に見受けられる。失敗だと認めた時にはすでに編集局内が崩壊していたという笑えない結末が待っているのではないか。



◎「上意下達」だからダメ?

編集局の大改革」に筆者が反対なのは分かる。その理由として最初に上がるのが「社員の意を汲むことなく決まった上意下達の号令」では辛い。「大改革」の方向性がメディアとして正しいのかどうかを論じてほしい。

さらに続きを見ていく。

【FACTAの記事】

社員に示された資料によると再編の概要はこうだ。日経の編集局には経済部を筆頭に、政治部、企業報道部、証券部、商品部、社会部活など20を超える部がある。これらの部を全て廃止して先に挙げた4つのユニットと5つのセンターに約1500人の記者を割り振る。「政策ユニット」には経済部、政治部、社会部、科学技術部で霞が関に詰めている官庁担当、「金融・市場ユニット」には経済部の銀行担当、証券部の相場担当、商品部、「ビジネス報道ユニット」には企業報道部、証券部の企業担当、「生活情報ユニット」には生活情報部、文化部などの記者を集めるのだという。

官庁に張り付いて官僚のリークを記事化するような従来の取材方法をやめ、例えば「コロナ禍での働き方」「気候変動による感染症リスク」などテーマごとに各記者が多面的に取材をして記事化するイメージで、あわせて「経済面」「政治面」といった面建も一新する。取材テーマは「アジェンダ会議」なるものを開いて読者が読みたい記事を想定して設定するのだという。これらのユニットと横断的に連携する5つのセンターには国際部や全国の支局を抱える地方部、イラストなどを手掛けるデザイン編集部などを配置する。センターはユニットに対して司令塔的な役割を担うのだそうだ。

再編と並行し、職務の重みで報酬を決定する「ジョブ型」の給与制度を取り入れる。子会社であるFTの雇用体系を真似たようだが、FTとは異なり専門性のある記者は現状ほとんどいない。「専門エディター」なる肩書の記者を増やしていくというが一朝一夕に人材は育つものではない。従来の年功的な役割等級制度を廃止して人件費をカットする思惑が透けて見える。


◎好ましい「改革」では?

さらっと書いているが「官庁に張り付いて官僚のリークを記事化するような従来の取材方法をやめ」るのならば、「大改革」の方向性は間違っていない。「リーク」を欲しがる体質が「監視機能」を果たす上での大きな障害になってきた。それを取り除いて「テーマごとに各記者が多面的に取材をして記事化する」体制に本当にできるのならば「権力の監視機能」は高まるはずだ。

しかし筆者は「大改革」にあくまで否定的だ。

【FACTAの記事】


同日午後4時半からは編集局向けのオンライン説明会も開かれた。井口哲也編集局長は、社長の発言を繰り返すように再編の必要性を強調し、詳細は今後詰めていくとした。ユニットとセンターの役割の違いが明確でない点や取材テーマをどう設定するかの具体策については曖昧な回答に終始した。

説明後のメールによる質疑では、災害報道にどう対応するのかとの質問に対し井口編集局長から耳を疑う発言もあったという。熊本県人吉市で豪雨災害が発生し社会部の記者が現場入りしているにも関わらず、井口編集局長は地名すらまともに言えず、他紙のような陣容ではないのだから一報は共同通信の配信記事でいい、という趣旨の答えをしたというのだ。この現場軽視とも取れる発言は、社会部のみならず多くの部で話題に上り「あの発言は看過できない」と憤る記者が噴出したという。記者は学者でもアナリストでもない。現場が全てのはずである


◎やはり筆者は社会部系の人?

日経は経済紙だ。個人的には「社会部」や社会面をなくしてもいいと思う。残すとしても、基本は「共同通信の配信記事でいい」。経済紙にとって「災害報道」はそんなに重要なのか。「災害報道」をなくしても「権力の監視機能」を失うわけではない。

記者は学者でもアナリストでもない。現場が全てのはずである」との主張にも同意できない。特に経済記者はデータを集めたり分析したりといった作業が重要だ。株価について書く時に「現場」がある訳ではない。仮に証券取引所を「現場」だとしても、そこに足を運んで記事を書くことに意味はない。

現場が全て」といったことは「社会部」にプライドを持っている人が言いそうではある。最後の段落では「汚職や疑惑があれば追及し、問題を報じる社会部の機能があったからこそギリギリの公共性を担保できた。社会部的な機能を失うことで公共性など無視した単なる情報屋になろうとしているようだ」とも書いている。

社会部的な機能を失う」と「単なる情報屋」になってしまうとの発想に「社会部」への過剰な思い入れを感じる。経済記者でも権力者や経営者の「監視機能」は担える。

今回の記事の内容が正しいのならば、日経の「大改革」は悪くない気がする。



記事には単純ミスと思える記述があった。以下の内容で問い合わせを送っている。回答はないだろう。


【FACTAへの問い合わせ】

FACTA発行人 宮嶋巌様  編集人 宮﨑知己様

9月号の「日経・岡田社長が『社会部』抹殺」という記事についてお尋ねします。「日経の編集局には経済部を筆頭に、政治部、企業報道部、証券部、商品部、社会部活など20を超える部がある」とのくだりの「社会部活」は「社会部」の誤りではありませんか。「社会部活」では意味不明ですし、見出しも含め「」の名称としては記事中の他の記述でも「社会部」としています。

問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。



※今回取り上げた記事「日経・岡田社長が『社会部』抹殺
https://facta.co.jp/article/202009016.html


※記事の評価はD(問題あり)

2020年8月24日月曜日

年金70歳支給開始を「コペルニクス的転換」と日経 大林尚上級論説委員は言うが…

日本経済新聞の大林尚上級論説委員が「年金の取材を始めたのは四半世紀前」らしい。長く取材しているからと言って、しっかりした主張ができるとは限らないことを大林論説委員は教えてくれている。24日の朝刊オピニオン面に載った「核心~『年金抑制』いっそやめたら? 代わりに70歳支給開始を」という記事の内容も苦しかった。
増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
         ※写真と本文は無関係です

一部を見ていこう。

【日経の記事】

本来なら現役世代の賃金上昇率などに連動する年金の増額幅を、それより低く抑える調整の仕組みがマクロスライドだ。だがこの仕組みには致命的な欠陥があった。スライド調整後の年金額が原則として前年の年金額を下回らないようにする名目下限措置だ

想定したように賃金が上がらないデフレ基調のもとでは名目下限措置があだになり、厚生年金の実質的な給付水準(所得代替率)がかえって上昇する逆転現象が生じた。所得代替率は04年度の約59%から年々小刻みに下がり、23年度以降は50%に落ち着くはずだった。だが19年度の実績は62%に上がっている。政治家が意図せずとも、高齢者は04年より恵まれた年金をもらっているのだ。マクロスライドはなまくらな刀だった

ならばどうする。厚労相の諮問機関、社会保障審議会の年金部会長として04年改革に道筋をつけた宮島洋早稲田大教授(当時)が、コペルニクス的転換を提起している。役立たずのマクロスライドはいったん脇へ置き、支給開始年齢を65歳から段階的に70歳に先延ばしする大改革である。

米英独の3カ国はひと足早く、67~68歳への引き上げを決めている。日本より平均寿命が短いにもかかわらずだ。日本は民主党政権の11年、小宮山洋子厚労相が68歳案をポロリと口にし、社保審年金部会も議論の俎上(そじょう)に載せたが、世の猛反発に遭い、たまらず撤回した。


◎なぜ刀を磨かない?

マクロスライドはなまくらな刀だった」から、使い物にならない「」は捨てて「支給開始年齢を65歳から段階的に70歳に先延ばしする大改革」に舵を切ろうと大林論説委員は主張している。

スライド調整後の年金額が原則として前年の年金額を下回らないようにする名目下限措置」が「マクロスライド」の「致命的な欠陥」ならば、「名目下限措置」を廃止すればいいのではないか。磨けば使える「」をあえて捨てる理由があるのかもしれないが、記事中に説明は見当たらない。

70歳」への支給開始年齢の引き上げを「コペルニクス的転換」と見なすのも謎だ。「65歳」という支給開始年齢も引き上げられた結果だ。これをさらに引き上げるのならば、方向性としては同じだ。なのに「コペルニクス的転換」になるのか。

マクロスライド」を廃止して、支給開始年齢を「70歳に先延ばし」すると「年金財政」が改善すると大林論説委員は見ているのだろう。だが、支給開始年齢を据え置き、「名目下限措置」を廃止する手もある。それでも足りないならば「マクロスライド」による抑制をさらに厳しくしてもいい。

そうした手法よりも「70歳」への支給開始年齢の引き上げが好ましいという結論はあり得る。しかし、大林論説委員はそこを論じていない。

記事の最後の段落を見ておこう。

【日経の記事】

では、65歳支給開始の維持がもたらすものは何か。

30年前に厚生次官を退官した吉原健二氏は現役時、支給開始引き上げを政治家に説いて回ったひとりだ。制度がまだ小さかったので将来を憂う気持ちを素直に伝えられた。現在、日本の年金受給者は4000万人だ。このままだと20年後に総人口の40%がもらう側に回る。「そんな国はほかにない。国のかたちとしても自慢できない」と吉原氏。

04年改革が最後の改革ではなかった事実がみえてきた。


◎「40%」ではなぜダメ?

こうした漠然とした話で締められても困る。なぜ「総人口の40%がもらう側に回る」とダメなのか。30%ならば許容できるのか。他の国ではどの程度なのか。他の国と同じかそれ以下にすべきなのか。この辺りを論じないまま「国のかたちとしても自慢できない」というコメントを使われても納得はできない。

もらう人の比率が仮に50%でも、持続可能な制度ならばいいではないか。その比率を10%に抑えても、持続可能性が低ければ問題ありだ。

それに「04年改革が最後の改革ではなかった事実がみえてきた」のは最近のことなのか。「改革」の必要性は多くの人が認識している気がする。大林論説委員が最近になって気付いたのならば、何のために「四半世紀前」から年金の取材をしてきたのか。

「いや自分はずっと改革の必要性を認識していた」と言うのならば、なぜ当たり前過ぎる話で記事を締めたのか。

やはり大林論説委員を書き手としては評価できない。


※今回取り上げた記事「核心~『年金抑制』いっそやめたら? 代わりに70歳支給開始を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200824&ng=DGKKZO62923510R20C20A8TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大林氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_20.html

日経 大林尚上級論説委員の「核心~桜を見る会と規制改革」に見える問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_25.html

2020年も苦しい日経 大林尚上級論説委員「核心~選挙巧者のボリスノミクス」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/2020.html

2020年8月23日日曜日

「女性管理職クオータ制」導入論に説得力欠く東洋経済「少数異見」

女性問題で「クオータ制の導入」を訴える記事をこれまで数多く目にしてきた。しかし説得力のある主張に接した記憶がない。週刊東洋経済8月29日号に載った「少数異見~リーダーの多様化へ舵を切るのは今」という記事もそうだ。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

この問題では、なぜ「クオータ制の導入」が必要なのかが常に苦しくなる。記事を見ながら具体的に指摘したい。


【東洋経済の記事】

 日本政府が「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にする目標」を掲げたのは小泉純一郎政権時代の03年のことだ。17年経ってその目標は達成されたのか。

厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、18年度時点で企業の女性管理職比率は11.8%。それから2年間で状況が大きく変わったとは思えない。策定中の第5次男女共同参画基本計画では、20年代の早期に30%を目指すという「新たな目標案」が示されている。だが、政府の取り組みに本気度が足りないことは明らかだ。

日本で指導的地位の女性が増えない理由はいくつもある。最近でこそ新卒総合職の女性は増えているが、年功序列の人事制度では管理職に昇進するのに時間がかかるうえ、結婚、出産で退職する割合も高い。そもそも男性優位の社会で女性が出世する難しさがある。

自然に女性リーダーが増えるのを待っていては、いつになるかわからない。ならば、欧州で実績のある、人口比に基づき管理職の一定割合を女性に振り分けるクオータ制の導入が有効だ。それをしないのは、現在の指導者層が女性の活躍の必要性を本気で考えてはいないからか、女性を優遇することへの反発があるのだろう。


◎政府が言うから?

日本政府」が「指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にする目標」を掲げているが、なかなか実現しない。だから「クオータ制の導入」に踏み切ろう。筆者の相思葉氏はそう訴える。政府の「目標」を最初から受け入れてしまっているが、それが正しいとは限らない。

日銀が2%の物価目標を掲げているからと言って、それを無条件に受け入れる必要はない。なぜ2%なのかは当然問われる。「指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にする目標」も同じだ。しかし上記のくだりでは、なぜ「30%程度にする」必要があるのか説明していない。

記事の後半では、多少そこに触れている。見ていこう。

【東洋経済の記事】

コロナ禍への対応で、世界的に評価を上げた政治指導者の一人としてニュージーランドのアーダーン首相が挙げられる。17年に37歳で首相に就任し、翌年には6週間の産休を取得したことで知られる彼女の決断と対応は早かった。

3月19日に海外からの旅行者の入国を禁止。23日には全国的な都市封鎖を発表した。その2日後には、首相自ら自宅からインターネットのライブ配信で新型コロナウイルス対策について説明し、国民からの質問にも答えた。この動画は400万回以上再生されている。自然体でしなやかな対話姿勢で国民から高い支持を集め、早期封鎖を淡々と乗り切った。

アーダーン首相のリーダーシップが優れている理由について「女性だから」とだけ言いたいわけではない。だが、従来の常識にとらわれない大胆さは、「女性」や「若さ」と無関係ではあるまい。

近年、社会が変化するスピードは増しており、コロナ禍でさらに加速するだろう。成功体験に縛られた既存のリーダーだけでは乗り切っていけない。女性だけを優遇することに抵抗があるなら、若者も含めたクオータ制を導入してはどうだろうか


◎根拠になってる?

アーダーン首相のリーダーシップが優れている」から「クオータ制の導入」を推進しようと相思葉氏は言いたいようだ。理屈に無理があるのが分かるのだろう。「アーダーン首相のリーダーシップが優れている理由について『女性だから』とだけ言いたいわけではない」と逃げは打っている。

女性にも男性にも優れたリーダーはいる。「アーダーン首相のリーダーシップが優れている」からと言って「管理職の一定割合を女性に振り分けるクオータ制の導入」を推進すべき根拠にはならない。仮に「クオータ制の導入」が望ましいとしても、その場合になぜ「30%程度」なのかとの問題も残る。

例えば女性管理職の比率が「30%程度」になった時に企業の競争力が最も高まるといったエビデンスがあるなら分かる。しかし相思葉氏はそうしたデータを示していない。「クオータ制の導入」に関しては、企業価値を減じる要因になるとの研究結果もある。

それでも「クオータ制の導入」が必要だとの根拠を示すのはかなり難しい。なので、この手の主張を展開すると説得力がなくなってしまう。

成功体験に縛られた既存のリーダーだけでは乗り切っていけない。女性だけを優遇することに抵抗があるなら、若者も含めたクオータ制を導入してはどうだろうか」との結論部分には偏見も感じる。

中高年男性のリーダーは「成功体験に縛られた既存のリーダー」で「女性」や「若者」は違うとの決め付けを感じる。実際には「女性」にも「成功体験に縛られた既存のリーダー」がいるはずだ。一方、中高年男性のリーダーの中にも「成功体験に縛られ」ずに変革を進める人はいるだろう。

クオータ制の導入」で世の中が劇的に良くなるのならば、反対する理由はない。女性管理職比率100%を法律で義務付けてもいい。問題は「本当に世の中が劇的に良くなるか」だ。


※今回取り上げた記事「少数異見~リーダーの多様化へ舵を切るのは今
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24505


※記事の評価はD(問題あり)

2020年8月22日土曜日

秋元司議員は有罪確定? 推定無罪の原則忘れた日経コラム「春秋」

日本経済新聞朝刊1面のコラム「春秋」が22日に取り上げたのは、秋元司衆院議員が証人等買収の疑いで東京地検特捜部に逮捕された件。推定無罪の原則を忘れたかのような書き方が引っかかった。「秋元議員はこれまでの取材に『事件に私は一切関与していない』とコメントしている」と日経も報じている。容疑を認めていないケースでは特に慎重な対応が求められる。
冠水した国道210号線(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

春秋」の全文は以下の通り。

【日経の記事】

「ゴッドファーザー」「アンタッチャブル」「バラキ」……。いずれも名画である。共通点は、実話をちりばめたマフィアの物語。組織のボスたちは当局の訴追を逃れようと、実に荒っぽい仕事をする。裁判官・陪審員の買収や恐喝、証人の口封じなどやりたい放題だ。

組織犯罪にどう対処すべきか。今も昔も切実な問題だ。3年前を思い出していだたきたい。「テロ等準備罪」の当否で大もめにもめた末、改正組織犯罪処罰法が施行された。今夏開かれるはずの東京五輪のテロ対策を強化できる、と政府は胸を張ったものである。その改正法に同時に盛り込まれたのが「証人等買収罪」だ。

刑事事件でうその証言を働きかけ、対価を支払うことを禁じた。この条文が初めて適用されたのはテロリストでもマフィアでもなく現職の国会議員だった。自身が起訴されたカジノを含む統合型リゾート(IR)を巡る汚職事件で贈賄側の被告に虚偽の証言をする報酬として、1千万~2千万円の提供を持ちかけたという

選ばれた優秀な人。「選良」なる言葉が辞書にある。国会議員の美称だが、死語だろう。カジノに関連し札束を受け取り、今度は札束で司法手続きの公正を踏みにじろうとする。さながらマフィア映画の一場面のよう。組織犯罪処罰法とは――。政党という組織の構成員の悪事を裁く手段である。そう考えると、得心する


◎そんなに決め付けて大丈夫?

秋元司衆院議員の名前は出していないが、「この条文が初めて適用されたのはテロリストでもマフィアでもなく現職の国会議員だった」との記述から秋元議員について書いたのは明白だ。

自身が起訴されたカジノを含む統合型リゾート(IR)を巡る汚職事件で贈賄側の被告に虚偽の証言をする報酬として、1千万~2千万円の提供を持ちかけたという」「カジノに関連し札束を受け取り、今度は札束で司法手続きの公正を踏みにじろうとする。さながらマフィア映画の一場面のよう」と秋元議員を犯罪者扱いしているが、本人が容疑を否認していることには触れていない。

そして「組織犯罪処罰法とは――。政党という組織の構成員の悪事を裁く手段である。そう考えると、得心する」と記事を締めてしまう。これだと秋元議員は「悪事」を働いた「国会議員」にしか見えない。

実際そうなのかもしれないが、決め付けるのはまだ早い。本人の名誉に関わることなので慎重な書き方を心掛けてほしい。そういう恐れがこの「春秋」には全く見えない。そこが怖い。


※今回取り上げた記事「春秋
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200822&ng=DGKKZO62944190R20C20A8MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年8月21日金曜日

肝心な情報をなぜ抜いた? 日経 松本史記者の「豪カンタス航空、1500億円最終赤字」

肝心なことを書いていない記事を読むとがっかりする。21日の日本経済新聞朝刊アジアBiz面に松本史記者が書いた「豪カンタス航空、1500億円最終赤字~前期、リストラ響く」という記事もその1つだ。
大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
           ※写真と本文は無関係です

全文は以下の通り。

【日経の記事】

オーストラリア航空最大手のカンタス航空は20日、2020年6月期の最終損益が約19億6千万豪ドル(約1500億円)の赤字だったと発表した。前の期は8億4千万豪ドルの黒字だった。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて実施したリストラ費用が響いた

売上高は前の期比21%減の142億豪ドルだった。部門別のEBIT(利払い・税引き前損益)でみると、傘下の格安航空会社(LCC)、ジェットスターが2600万豪ドルの赤字となった。「カンタス」ブランドは国内線、国際線とも黒字を確保したが、それぞれ前の期比78%減、83%減となった。

豪州は新型コロナを受け、外国人の入国を原則禁止している。電話会見したアラン・ジョイス最高経営責任者(CEO)は海外との往来の再開は「早くても21年半ばごろになる」と述べ、3月下旬から続けている国際線の運航停止が長引くとの見通しを示した。カンタスは今後3年間で150億豪ドルの経費を削減する計画を進めている。


◎まず書くべきは…

豪カンタス航空、1500億円最終赤字~前期、リストラ響く」という見出しを見て「カンタスって大規模なリストラをしてたのか」と思い、記事を読んでみた。

しかし「リストラ」に関しては「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて実施したリストラ費用が響いた」と書いているだけだ。「リストラ費用」の内容も金額も松本記者は教えてくれない。

これは決算記事だ。「1500億円最終赤字」となった主な要因が「リストラ費用」ならば、まずはそこをしっかり説明すべきだ。

第3段落に入れた「アラン・ジョイス最高経営責任者(CEO)」のコメントなどは「リストラ費用」にきちんと触れた後で余裕があれば入れればいい。肝心な情報を飛ばしてでも優先順位の低い話を盛り込む意図が理解できない。


※今回取り上げた記事「豪カンタス航空、1500億円最終赤字~前期、リストラ響く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200821&ng=DGKKZO62834410Q0A820C2FFE000


※記事の評価はD(問題あり)。松本史記者への評価も暫定でDとする。

2020年8月20日木曜日

日経 藤本秀文記者の「ファミマTOB 気をもむ伊藤忠」に感じた疑問

20日の日本経済新聞朝刊企業1面に「ファミマTOB 気をもむ伊藤忠~ファンド、価格引き上げ迫る 24日の期限を前に攻防」という記事が載っている。本当に「伊藤忠商事がファミリーマートへのTOB(株式公開買い付け)期限を24日に控え、気をもんでいる」のか疑問に思えた。
道路が冠水した福岡県久留米市内※写真と本文は無関係

筆者の藤本秀文記者は以下のように説明している。

【日経の記事】

伊藤忠商事がファミリーマートへのTOB(株式公開買い付け)期限を24日に控え、気をもんでいる。ファミマの株価が買い付け価格前後で推移するなか、投資ファンドが同価格の引き上げを要求しているためだ。伊藤忠は要求を拒んでいるが、業績低下に歯止めがかからないファミマの先行きも絡み、気が抜けない展開になりそうだ。

19日のファミマ株は2296円で取引を終えた。7月8日に伊藤忠が発表したTOB価格は1株2300円で、前日終値(1766円)に対するプレミアムは30.24%。これを受けてファミマ株は急騰し、7月16日には2400円を突破した。その後も伊藤忠が提示した買い付け価格を上回って推移。今月18日に終値でようやく2300円を切った。

株価の推移を受けて、今月に入って声を上げ始めたのが投資ファンドだ。米RMBキャピタルが「少数株主への配慮が不十分である」として、買い付け価格を2600円に引き上げるよう要求。香港のヘッジファンドのオアシス・マネジメントも伊藤忠による買い付け価格が低すぎるとして、ファミマに対し、1株あたり最大1062円の配当実施を求めている。

こうした投資家の動きに対し、伊藤忠は5日の決算発表で「現状のTOB価格を引き上げる考えはない」とした。13日にも、米アマゾン・ドット・コムなどの台頭もあり「既存のビジネスモデルの延長線上ではファミマの急激な業績回復は見込めない」として、ファミマ株主にTOBに応じるよう訴えた。

伊藤忠は現在、ファミマの株式を50.1%保有している。TOB成立の条件として、残るファミマ株49.9%のうち、9.9%以上の株式(約5011万株)の取得をあげている

新型コロナウイルスの影響などでコンビニエンスストア各社の業績が低迷するなか、5~7月平均の既存店売上高でセブン―イレブン・ジャパンが前年同月比で96.8%、ローソンが91.7%なのに対し、ファミマは90%と回復が遅れている。中国でも合弁パートナーの食品大手、頂新グループとの係争で思うように店舗展開できていない。

そもそも今回のファミマのTOBは、売り上げ低迷に有効な打開策を見いだせないファミマが伊藤忠に要請したのがきっかけだ。伊藤忠幹部は「人工知能(AI)などの新技術を駆使し、売れ筋商品の開発や物流の効率化などを(当社と)一体となって進めることがファミマ再建の最善策だ」と話す。停滞する中国をはじめとする海外事業でも伊藤忠の経営資源を活用して、立て直しを急ぎたい考えだ。

伊藤忠は応募株式数が条件である9.9%に達しない場合、TOBを断念するとしている。同じ総合商社の傘下にあるローソンは、三菱商事や三菱食品などグループとの連携を強化して情報の共有や物流網最適化の取り組みを強化している。

「十分なデータ共有ができていない状態が続けばファミマの再建はおぼつかない」(大手証券アナリスト)。期限となる24日まで伊藤忠、ファミマとも気をもむ日が続きそうだ。



◎肝心なことが…

伊藤忠商事」が「TOB成立」に関して「気をもんでいる」としよう。「伊藤忠は応募株式数が条件である9.9%に達しない場合、TOBを断念する」のだから、焦点は「9.9%」の応募があるかどうかだ。

投資ファンド」が「買い付け価格」の「引き上げを要求している」ことが「TOB成立」への障害になると藤本記者は見ている。これは分かる。こうした「投資ファンド」が「TOB」に応じなかった場合「9.9%」の買い付けが難しくなるのかが知りたいところだ。

例えば、この手の「投資ファンド」が「ファミマ」株の40%近くを保有しているのならば「TOB成立」はかなり厳しい。一方、保有比率が合計で数%ならば大勢に影響はないだろう。その辺りがどうなっているのか藤本記者は教えてくれない。

常識的に考えれば「9.9%」の買い付けは難しくなさそうだ。本当に「期限となる24日まで伊藤忠、ファミマとも気をもむ日が続きそう」なのか。

そもそも「TOB成立」に大きな意味があるのかという疑問もある。「伊藤忠は現在、ファミマの株式を50.1%保有している」。「TOB」の結果がどうなろうと親会社としての地位は変わらない。

伊藤忠幹部は『人工知能(AI)などの新技術を駆使し、売れ筋商品の開発や物流の効率化などを(当社と)一体となって進めることがファミマ再建の最善策だ』」と語っているらしい。それは出資比率「50.1%」でも推進できる。「ファミマ」は株式の過半を握られているのだから「伊藤忠」に逆らうのは難しい。

自分が「伊藤忠幹部」だったら、「TOB」が成立するかどうかに関係なく「ファミマ再建の最善策」を進めていけばいいと考える。「TOB成立」に関しては「気をもむ」ほど重要なことかなと思える。

TOB成立」が「十分なデータ共有」を進めるための必要条件だと藤本記者が考えているのならば、なぜそうなるのかきちんと説明してほしかった。


※今回取り上げた記事「ファミマTOB 気をもむ伊藤忠~ファンド、価格引き上げ迫る 24日の期限を前に攻防
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200820&ng=DGKKZO62822570Z10C20A8TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。藤本秀文記者への評価も暫定でDとする。

2020年8月19日水曜日

古い話をニュースに見せる日経「国家公務員の中途採用強化」の騙し

19日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「国家公務員の中途採用強化~政府、人材大手と提携」という記事は問題がある。そして、その問題に筆者自身は気付いているはずだ。記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。
増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

政府は人材サービス大手のエン・ジャパンと提携し、国家公務員の中途採用に力を入れる。同社の4つの求人サイトで応募を呼びかけるほか、バナー広告なども展開し、潜在的な転職希望者にも訴える。政府は2012年度から中途採用枠を設けたが、認知度の低さなどから申込者が伸び悩んでいた。てこ入れを図り、優秀な人材の確保につなげる。

政府は16年度以降、毎年200人以上を中途で採用している。人事院の年次報告によると、申込者は3千人に届かない水準で推移している。内閣人事局は「国家公務員に中途採用があることの認知度の低さが申込件数の伸び悩みにつながっている」とみる。足元では新型コロナウイルスの影響で民間の転職イベントなどへの参加も難しい。ネットを使った採用活動の必要性が高まっている。

20年度は事務系から技術系まで8種の試験で、約280人の中途採用を計画している。うち25人は内閣府や経済産業省など12府省が合同で試験を実施し「キャリア」と呼ばれる事務系の総合職として採用する。エン・ジャパンは自社のサイトに特設ページを作り、公務員のインタビュー記事などの独自コンテンツも用意する


◎時期を明示しないのは…

政府は人材サービス大手のエン・ジャパンと提携し、国家公務員の中途採用に力を入れる」と冒頭で打ち出してあると、この話はこれまで明らかになっていないものだと理解したくなる。実際はかなり旧聞に属する。

エン・ジャパン×内閣官房~内閣人事局 国家公務員中途採用支援プロジェクト開始」というニュースリリースをエン・ジャパンが出したのは7月27日で、「プロジェクト開始」日も同じだ。普通ならば7月末に記事にすべき内容と言える。

それをなぜ今頃になった記事にしたのかは分からない。ただ「かなり前に発表になった話」をそれらしく記事に仕上げるために、筆者は色々と工夫したのだろう。

「いつから」に触れていないのも、そのためだと思われる。日経のニュース記事では頻繁に「いつから」が抜ける。これには2つのパターンがある。

1つは単なる技術不足。もう1つは、古い話を新しい話に見せるための“工夫”だ。今回は後者だろう。

この記事を書いた記者は上手いと言えば上手い。しかし要らない上手さだ。この手のテクニックを覚えて、求められた時に記事を作れるようになれば、社内では重宝されるかもしれない。しかし、書き手としては明らかにダメな方向に進化している。

そうはなってほしくない。


※今回取り上げた記事「国家公務員の中途採用強化~政府、人材大手と提携
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200819&ng=DGKKZO62779830Y0A810C2EE8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年8月18日火曜日

増加率を見せないのは逃げ? 日経「3メガ銀、リスク資産が急増」

18日の日本経済新聞朝刊金融経済面に載った「3メガ銀、リスク資産が急増~6月末、コロナ融資増で」という記事はそれほど悪い出来ではない。ただ、数字の見せ方は引っかかった。記事の最初の方を見ていこう。
豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
           ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う資金繰り支援で3メガ銀行のリスク資産が急増している。6月末の残高は243兆円と3月末比4兆円伸びた。銀行が貸し倒れリスクを負わない中小企業向けの信用保証付き融資が多い地方銀行に比べ、大企業向けの自前融資が急増したためだ。

6月末のリスク資産の状況を開示資料をもとに集計した。三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)が3月末比2500億円増の115兆円、三井住友FGが8900億円増の62兆円、みずほFGが3兆円増の65兆円だった。


◎増加率が欲しい

増加額で説明するなとは言わない。だが増加率も入れてほしい。でないと「急増」のイメージが掴みにくい。「三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)が3月末比2500億円増の115兆円、三井住友FGが8900億円増の62兆円、みずほFGが3兆円増の65兆円だった」と書かれても、どこの伸びが大きいのか瞬時には把握できない。数字をじっくり見ればもちろん分かるが…。

3メガ銀行」を合わせた「6月末の残高は243兆円と3月末比4兆円伸びた」らしい。増加率は1.6%。「急増」と言うほど増えていないようにも見える。だから増加額で逃げて記事を書いたとすれば問題だ。

3カ月間で1.6%でも「急増」に当たるから「リスク資産が急増している」と記者は書いたはずだ。ならば、増加率を示した上で1.6%でも「急増」に当たる理由を説明すれば済む。

そこから逃げないでほしい。


※今回取り上げた記事「3メガ銀、リスク資産が急増~6月末、コロナ融資増で
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200818&ng=DGKKZO62718720X10C20A8EE9000


※記事の評価はC(平均的)

2020年8月17日月曜日

訂正は出したが回答なし 週刊エコノミストのミスを巡る対応

週刊エコノミスト8月25日号に3つの訂正が出た。内容は以下の通り。
コメリハード&グリーン北野店(福岡県久留米市)
            ※写真と本文は無関係です

【お詫びして訂正します】

本誌8月11・18日合併号38ページ「航空産業」の記事の表1で、「住友商事(32%)」とあるのは、「三井住友銀行(32%)」の誤りでした。

本誌8月4日号16ページの図2で、「CDSスワップ」とあるのは、「CDSスプレッド」の誤りでした。

本誌7月28日号64ページ「レジ袋有料化はプラ削減の第一歩」の記事で、「G7(先進7カ国)仏シャルルボア・サミット」とあるのは、「カナダで開かれたG7(先進7カ国)シャルルボア・サミット」の誤りでした。

◇   ◇   ◇

このうち「CDS」に関する誤りは以前に指摘している。その内容を改めて載せておきたい。

【エコノミストへの問い合わせ】

週刊エコノミスト編集部  岡田英様 浜田健太郎様 

8月4日号の特集「コロナ株高の終わり~中央銀行の罪」の最初に出てくる「危うい株価の『峠』は9月~中銀下支えの“手じまい”も」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「図2」の「債権のデフォルトリスクの目安となるCDSスワップは大きいほど危険。3月に急上昇した後、5月から低下した」という説明文です。「CDSスワップ」 とは聞き慣れない言葉ですし、「CDS」が「クレジット・デフォルト・スワップ」の略なので「CDSスワップ」とすると「スワップ」がダブってしまいます。「CDSスワップ」は「CDSスプレッド」の誤りではありませんか。このグラフはそもそも「日産社債(5年物)のCDSスプレッド(保証料率)の推移」を表したものです。「CDSスワップ」を「CDSスプレッド」 に置き換えると、しっかり整合します。

問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。

また、記事には「インフレに強い金の価格は価格が急騰している」との記述もありました。「価格」が無駄に重なっています。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。


◎何かが変わり始めた?

今回の3つの訂正をどう見ればいいのだろう。ミス放置を続けてきた藤枝克治編集長は健在のようなので、大きく方針が変わるとは考えにくい。

ただ「7月28日」の「サミット」に関する誤りは、最近になって気付いたとは考えにくい。ミスだという確認もすぐにできる。なのに1カ月近く放置していたことになる。

「明らかなミスを放置するのは、やっぱりマズい」という方向に編集部が動きつつあるのかもしれない。だとしたら歓迎できる。

さらに一歩進んで、間違い指摘にきちんと回答できるようになれば問題は解消する。

記事中のミス自体は基本的に仕方がない。一生懸命に確認しても間違える時は間違える。訂正すればいいだけだ。

今回の「CDS」の件では、週刊エコノミスト自体がミスを認めている。なのに定期購読者からの問い合わせに、なぜ回答できないのか。

「販売している製品に欠陥があり、ユーザーから指摘を受けた。このユーザーは欠陥かどうか回答を求めている。回答すべきか」と問われたら、藤枝編集長を含む編集部の全員が「回答すべき」と判断できるはずだ。

しかし、自分たちが当事者になると「間違ってました」と回答できなくなる。障害になっているのは無意味なプライドだろう。気持ちは分からなくもないが、そんなプライドは百害あって一利なしだ。

週刊エコノミストを優れたメディアにしたいと願うならば、すぐに無駄なプライドは捨て去ってほしい。


※「CDS」に関する誤りがある記事

危うい株価の『峠』は9月~中銀下支えの“手じまい”も
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200804/se1/00m/020/062000c

2020年8月16日日曜日

説得力欠く日経 山内菜穂子政治部次長の「風見鶏~少子化対策 失われた30年」

16日の日本経済新聞朝刊総合3面に載った「風見鶏~少子化対策 失われた30年」という記事は説得力に欠けた。「少子化=好ましくないこと」という前提があるのも少子化放置論者の自分としては引っかかるが、とりあえずそこは良しとしよう。だが「仕事と家庭を両立できる環境づくりや子育て世帯への経済的な支援」で「少子化」を克服できるという、ありがちな主張は根拠に欠ける。
大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
          ※写真と本文は無関係です

筆者の山内菜穂子政治部次長は以下のように説いている。

【日経の記事】

少子化は先進国で共通する悩みと言える。女性の職場進出で低下した出生率は、男女ともに仕事と家庭を両立できる環境づくりや子育て世帯への経済的な支援によって、一部の国で持ち直してきた

長らく日本とともに出生率の下位グループにいたドイツも回復傾向にある。近年の出生率は1.5台を維持する。13年に1歳以上のすべての子が保育を受ける権利を保障したほか、父親の育児休業の取得など両立支援に力を入れた。

日本の少子化対策の起点は30年前に遡る。90年、前年の出生率が調査開始以来最低となる「1.57ショック」が起きた。その後、バブル経済が崩壊。政府は経済や高齢化問題に注力し、大胆な少子化対策を出せないまま時間が過ぎた。

「この30年は一体、何だったのか」。自民党が6月に設置した少子化問題のプロジェクトチームで厳しい意見が相次いだ。座長の松山政司元少子化担当相は「政府の施策は必ずしも成果をあげていない。この現実を直視し、政治が前に進めたい」と力を込める。

孤独な子育て、子育てと仕事の両立の難しさ、不安定な雇用――。コロナ禍で露呈した不安は、政府のこれまでの少子化対策の根本的な弱点と重なる。

少子化は、政治が子育て世代やこれから家族をつくる若い世代の不安を解消できなかった結果でもある。危機に左右されることなく、失われた30年を見つめ直す作業こそが「86万ショック」からの第一歩となる。


◎論理展開が強引では?

少子化」について論じる筆者の多くは、なぜか欧州を引き合いに出し「仕事と家庭を両立できる環境づくりや子育て世帯への経済的な支援」が克服のカギという結論に導きたがる。山内次長も例外ではない。

今回は「ドイツ」だ。「回復傾向にある」と言うが「近年の出生率は1.5台を維持する」のならば「近年」に限れば横ばい傾向だ。

移民に頼らず人口を維持するには2を少し上回る出生率が必要なのだから「1.5台」では話にならない。日本が「1.36」ならば、どんぐりの背比べだ。

単純に「少子化対策」を考えれば「出生率の高い国の真似をしろ」となるはずだ。しかし、そうした国のほとんどは途上国なので「仕事と家庭を両立できる環境づくり」が大切だと考える人には都合が悪い。そこで「先進国の中だけで考えましょ」となってしまう。

しかし「少子化は先進国で共通する」現象なので、学ぶべき国が見当たらなくなる。それだとさらに都合が悪いので、わずかな差異に目を付けて、そこに学ぶべき点を見出そうとする。なので説得力がなくなってしまう。

例えば「仕事と家庭を両立できる環境づくりや子育て世帯への経済的な支援」で北欧諸国が先行しているとしよう。そして北欧諸国が出生率でも安定して2を上回っていれば、山内次長のような書き手にとっては都合がいい。

だが、現実はそうはなっていない。「仕事と家庭を両立できる環境づくりや子育て世帯への経済的な支援」をしても、先進国の「少子化」問題は解決しそうもないと考えるのが自然だ。

なのに「少子化は、政治が子育て世代やこれから家族をつくる若い世代の不安を解消できなかった結果でもある」と書いてしまう。山内次長には世界の出生率ランキングを見てほしい。「政治が子育て世代やこれから家族をつくる若い世代の不安を解消」した国が上位に来て、そうでない国が下位に集まるという傾向が読み取れるだろうか。


※今回取り上げた記事「風見鶏~少子化対策 失われた30年
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200816&ng=DGKKZO62640960U0A810C2EA3000


※記事の評価はC(平均的)。山内菜穂子次長への評価も暫定でCとする。

2020年8月15日土曜日

日経 秋田浩之氏が書いた朝刊1面「世界、迫る無秩序の影」の問題点

終戦記念日に合わせて無理して作った事情を考慮しても、15日の日本経済新聞に秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「世界、迫る無秩序の影~きょう終戦75年、戦後民主主義の岐路に」という記事に及第点は与えられない。
大雨で道路が冠水した福岡県久留米市内
        ※写真と本文は無関係です

中身を見ながら具体的に問題点を指摘したい。

【日経の記事】

戦後、米国が中心となり、2つの国際システムを築いた。平和を支える国際連合と、経済の安定を担う国際通貨基金(IMF)・世界銀行だ。

ところが米国の国力が下がるのに連動するように、両体制の影響力は衰えている。著しいのは国連だ

2011年以降、内戦で死者が数十万人にふくらむシリア。この悲劇を前に国連の安全保障理事会は停戦をお膳立てするどころか、十分な人道支援もできていない。

シリアのアサド政権を支える中ロが決議案に反対し、ことごとく拒否権を発動していることが一因だ。同年以降、中ロが振るった拒否権は合わせて約25回にのぼる。

中ロがここまで国連を骨抜きにするのは戦後、米国が主導してきた秩序を壊してしまおうと決意しているからだ。国連機関を嫌い、関与を弱めるトランプ大統領の言動は、中ロには渡りに船だ。


◎昔は機能してた?

米国の国力が下がるのに連動するように、両体制の影響力は衰えている。著しいのは国連だ」と秋田氏は言う。では「米国の国力が下がる」前の冷戦期にはソ連も米国に逆らわず、「国際連合」がしっかり機能していたのか。ソ連が「拒否権」の行使を連発するような事態にはならなかったのか。秋田氏も知っているはずだが…。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

とりわけ気がかりなのは強大な経済力を使い、もう一つの国際システムであるIMF・世銀体制まで切り崩しにかかっている中国の行動だ。

中国は各国のインフラ建設などに融資している。重債務の途上国向け残高は4年間でほぼ倍増し、18年末までに1017億ドル(約10.7兆円)と世銀に匹敵するまでになった。世銀幹部は不安を深める。「中国の融資は基準が不透明だ。相手国との癒着や腐敗が広がる恐れがある


◎なぜ「切り崩し」と言える?

中国は各国のインフラ建設などに融資している」。規模は「世銀に匹敵するまでになった」。「融資は基準が不透明」で「相手国との癒着や腐敗が広がる恐れがある」としよう。だが、なぜ「IMF・世銀体制まで切り崩しにかかっている」と言えるのか謎だ。

日本も「各国のインフラ建設などに融資している」はずだが、それは「IMF・世銀体制」の「切り崩し」に当たらないのか。「基準が不透明」だと「切り崩し」で、基準が明確ならば「切り崩し」ではないのか。どうも、よく分からない。

以下のくだりにも似た問題を感じた。

【日経の記事】

このままなら、通商体制も中国色に染まりかねない。日本政府当局者によると中国は最近、環太平洋経済連携協定(TPP)への関心を内々、打診してきている。米国より先に交渉に入り、主導権をにぎる意図にちがいない



◎TPP参加だと「中国色に染まりかねない」?

TPP」に中国が参加すれば「通商体制も中国色に染まりかねない」と秋田氏は危惧する。「TPP」には元々、米国が入っていたので、その時は「米国色」に染まっていたということか。

TPP」に参加するぐらいで、「通商体制」の色彩がそんなに変わるものかとの疑問は湧く。

ついでに言うと「主導権をにぎる意図にちがいない」は「主導権を握る意図に違いない」としてほしかった。平仮名が無駄に多い。

最後に、以下のくだりにも注文を付けておきたい。

【日経の記事】

では、どうするか。当面、やるべきことは2つある。第1にいまの秩序を尊重し、国際ルールに従うよう、米国と友好国が中国により強く促していくことだ。日本、ドイツやフランスを含む欧州連合(EU)、英国、オーストラリアなどが対中政策を密に擦り合わせることが前提になる。

第2に米中が対立しても、せめて世界共通の課題では協力を保てる体制を整えることも必要だ。それには優先順位を明確にし、具体的な協力の目標を定めなければならない。いま最優先なのは当然、ワクチン開発などの新型コロナウイルス対策である。



◎日本はEU加盟国?

日本、ドイツやフランスを含む欧州連合(EU)」と書くと「日本」が「EU」加盟国に見える。工夫が足りない。

当面、やるべきことは2つある」という提言に、ほぼ意味がないのも気になる。結局、中国に「俺たちの言うこと聞いてよ」と呼びかけようという話だ。それで物事が良い方向に進むと期待しているのならば、楽観的過ぎる。

当面、やるべきことは2つある」と言うのなら、もう少し戦略的な対策を示してほしかった。


※今回取り上げた記事「世界、迫る無秩序の影~きょう終戦75年、戦後民主主義の岐路に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200815&ng=DGKKZO62672820U0A810C2MM8001


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight.html

2020年8月13日木曜日

「新データ」での分析が当たり前すぎる日経「コロナ下の経済 新データで探る」

13日の日本経済新聞朝刊1面に載った「コロナ下の経済 新データで探る(中) 感染再拡大、沈む消費~不安映す『リベンジ預金』」という記事は、それなりにまとまってはいる。しかし意味のある記事とは感じなかった。
道路が冠水した福岡県久留米市内
       ※写真と本文は無関係です

記事の前半を見ていこう。

【日経の記事】

米レストラン予約サイト「オープンテーブル」のデータに流行の再燃がくっきりと映る。新型コロナの感染者が急増しているテキサス州やフロリダ州。7月半ば、飲食店の客数が前年の3~4割に落ち込んだ。一時は6割まで戻していたところから再び沈んだ。

この時期、米では1日の感染者が7万人を超えた。治療薬もワクチンも定まらない中での感染再拡大を前に消費者の動きが止まる。

米商務省がまとめている小売売上高は5月に前月比18.2%増、6月に7.5%増と上向いている。こんな政府統計ではつかみきれない直近の動向は、民間のオルタナティブ(代替)データが表している。携帯位置情報を分析したセーフグラフ社のデータによると、7月上旬にコロナ前の水準に戻っていたはずのウォルマートの来店客数は今、再び2割減に落ち込んだ。

感染拡大が落ち着くと消費が勢いづき、流行が再燃すると消費が沈む。世界共通の傾向だ。日本政府が緊急事態宣言を解除した後の6月、2人以上の世帯の消費支出は前年同月比1.2%減まで持ち直した。

感染者が再拡大した7月以降はどうか。ナウキャスト(東京・千代田)とJCBが指数化したJCBカードの購買データをみると7月前半はモノとサービスを合わせ前年同期比6.7%減。回復の流れが途切れた。



◎当たり前過ぎて…

感染拡大が落ち着くと消費が勢いづき、流行が再燃すると消費が沈む。世界共通の傾向だ」--。それはそうでしょうねと言いたくなる。「新データで探る」と打ち出すならば、それを使ったからこそ見える傾向をあぶりだしてほしい。「携帯位置情報を分析したセーフグラフ社のデータ」は「新データ」なのかもしれない。だが、そこから読み取れるのが「感染拡大が落ち着くと消費が勢いづき、流行が再燃すると消費が沈む」といった話ならば、あまり意味はない。

見出しで使った「リベンジ預金」も引っかかった。

【日経の記事】

手厚い支援が消費を喚起するとは言い切れない。移動制限の緩和後に反動で支出が増える「リベンジ消費」になぞらえた「リベンジ預金」が中国で話題になっている。6月末の家計の預金残高は1年前より14%多い90兆元(約1350兆円)と過去最高。日米欧も若い世代を中心に所得を貯蓄に回す割合が一段と高まっていくかもしれない。先行き不安はなかなか拭えない。



◎どこが「リベンジ」?

まず、なぜ「リベンジ預金」なのかが分かりにくい。「預金がしたくてたまらなかったのにコロナのせいでできなかった。6月に入って感染が落ち着いてきたから、これまでの分まで預金してやるぞ」みたいなことなのか。だとしたら「先行き不安」とはちょっと違う。

しかも、なぜ「中国」なのかも分からない。「日米欧」に関しては「若い世代を中心に所得を貯蓄に回す割合が一段と高まっていくかもしれない」といった漠然とした話だけ。なぜ「日米欧」では「リベンジ預金」が「話題」にならないのか説明が欲しい。

最後に結論部分も見ておこう。

【日経の記事】

一方で、こんなデータもある。イスラエル発のスタートアップ企業シミラーウェブによると、世界で感染が再拡大した7月末、ネット通販のアマゾン・ドット・コムのサイト訪問数は前年同期比で2割増えた。買い物したかは不明だが、その入り口に来ているのは確かだ。料理宅配のウーバーイーツのサイト訪問数は2倍。「買いたい気持ち」が霧散したわけではない。

消費の形は社会の状況に応じて変わり、需要も浮き沈みする。コロナという危機がその変化を加速している。財政による需要喚起には限界がある。新たな政策の知恵も求められる。



◎これが結論?

財政による需要喚起には限界がある。新たな政策の知恵も求められる」。これが記事の結論だ。それはそうでしょうねとは言えるが、今回の記事内容との関連は薄い。何を訴えたいかが明確にならないまま記事を作っていると、苦し紛れで当たり障りのない結びになってしまう。今回はその典型だ。


※今回取り上げた記事「コロナ下の経済 新データで探る(中) 感染再拡大、沈む消費 不安映す『リベンジ預金』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200813&ng=DGKKZO62571680S0A810C2MM8000


※記事の評価はC(平均的)

2020年8月12日水曜日

「エストニアはコロナ抑え込みに成功」と日経 坂井光上級論説委員は言うが…

12日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「中外時評~新常態、エストニアの教訓」 という記事は苦しい展開だった。筆者の坂井光上級論説委員は「IT立国を推進してきたエストニアだからこそ新型コロナウイルスの感染拡大を抑えられた」と訴えたかったのだろう。だが、その設定に無理を感じた。
大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
           ※写真と本文は無関係です

記事の最初の方を見ていこう。

【日経の記事】

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。3密回避という「新たな日常」に世界が苦慮するなか、混乱を最小限に抑えている国がある。旧ソ連のエストニアだ

人口は日本の100分の1、面積は8分の1程度。そんな小国で初の感染者が確認されたのは2月27日だ。政府は3月12日に緊急事態を宣言し、5月17日まで屋外イベントや公演などを禁止した。

まず、医療現場はどうだったか。同国には「家庭医」という資格制度がある。全国民は家庭医を決め、登録する。病気になればふつう家庭医を訪れる。オンラインで相談や診察を受けるのも日常的だ。カルテ、処方箋、診療報酬明細書はほぼ電子化している。

コロナ禍でもそれは変わらない。同国では感染者は自宅療養が基本で、家庭医が必要と判断すれば設備が充実した病院に入院を指示する仕組みだ。同国の累計コロナ感染者数は8月1日現在、2千人強。人口比では日本より多いが6月以降、大きく増えておらず抑え込みに成功している

補償対応も素早い。休業を命じられた企業には従業員の休業補償給付金が、売り上げが一定比率減った中小企業には一時金が、それぞれ支払われる。いずれも経営者がオンライン申請して5営業日以内に振り込まれる。前者については従業員の口座に直接だ。

もともと、行政サービスを受けるために役所に出向く人は少ない。婚姻届などを除く99%の手続きが電子化されているからだ。税金も98%がオンライン申告だ。

教育現場は3月16日から遠隔授業と家庭学習に切り替えられた。すべての児童は小学校に入学すればデジタル社会に適応した技能を学ぶ。教材はデジタル化しており、遠隔授業でも支障は少ない。



◎「最小限に抑え」てる?

まず「混乱を最小限に抑えている国がある。旧ソ連のエストニアだ」という前提が怪しい。「累計コロナ感染者数は8月1日現在、2千人強。人口比では日本より多い」のならば、それなりに「混乱」はありそうだ。「混乱を最小限に抑えている」のか疑問が残る。

6月以降、大きく増えておらず抑え込みに成功している」とも書いているが、具体的な数値は記事中にない。「混乱を最小限に抑えている」と納得できるだけの材料は見当たらない。

抑え込みに成功している」という前提を受け入れるとしても、それがITの力によるものかは疑問だ。「オンラインで相談や診察を受けるのも日常的だ。カルテ、処方箋、診療報酬明細書はほぼ電子化している」としても、それが「6月以降、(感染者が)大きく増えておらず抑え込みに成功している」要因なのかは不明だ。

坂井上級論説委員も「ITでコロナを抑え込んだ」と言明はしていない。ただ、そう示唆する作りにはなっている。

記事はこの後「インターネット自由度、医療デジタル度――。多くのランキングで世界トップ級のIT(情報技術)立国。その始まりは1991年8月、ソ連から独立宣言した時に遡る」と過去を振り返る記述が続く。そして「独立直後インフレ率が年1000%だった国がいまITでトップを走る。小国、隣国の脅威、歴史――。日本とは条件が異なるが、モデルの一つとなりうるのは確かだ」と結論付けて終わる。

エストニア」は「いまITでトップを走る」 国かもしれない。だが「人口比では日本より多い」感染者を出しているとすれば、「IT」は感染拡大を抑え込む切り札にはならないと見る方が妥当ではないか。

坂井上級論説委員は自分の想定したストーリーにこだわり過ぎだと思えた。


※今回取り上げた記事「中外時評~新常態、エストニアの教訓
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200812&ng=DGKKZO62521720R10C20A8TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。坂井光上級論説委員への評価も暫定でDとする。

2020年8月10日月曜日

水無田気流氏にまた偏見の悪癖が…日経「ダイバーシティ進化論」

詩人・社会学者の水無田気流氏。偏見に満ちた記事を書くのを控えるようになったのかと思っていたら、そうではなかった。10日の日本経済新聞朝刊女性面に同氏が書いた「ダイバーシティ進化論~『ポテサラ論争』の闇 高齢男性の孤独の表れ?」という記事は問題ありだ。全文を見た上で具体的に指摘したい。
冠水した国道210号線(福岡県久留米市)
         ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

先日ツイッターに、総菜コーナーでポテトサラダを買おうとした幼児連れの女性が、高齢男性から「母親ならポテトサラダくらいつくったらどうだ」と言われるのを目撃した、というつぶやきが投稿された。これに13万件を超えるリツイートがつき「ポテサラ論争」と呼ばれ、話題となった。

「母親なら」手間を惜しまず手作りの料理を用意すべきだという通念に対する反発と、ポテトサラダという一見簡単だが意外に手間のかかる総菜を、それ「くらい」と見なす男性の家事見識のなさへの批判などが目立った。

筆者はこれを読み、子どもが2歳のころ遭遇した場面を思い出した。子どもをショッピングカートに乗せ、スーパーのATMに行ったときのこと。狭いためカートを横に置けず、後ろに置いて操作していた。そのほんのわずかな時間、子どもが私に抱きつこうとカートからはい上がってきた。気配に気づき子どもを抱き留めたが、カートは倒れそうになり、子どもは泣き出した。そのとき「何やってるんだ、ちゃんと見てろ!」と、後ろに並んでいた高齢男性に怒鳴られた

後ろ向きでものを見るのは極めて困難である。昔イチロー選手の守備で、打球に背中を向けて走りながら華麗に追いつきキャッチしたのを見て感動した覚えがあるが、母親業はイチローレベルの反射神経がなければ務まらないのか。

周囲の女性たちの間でも、子どもがぐずっていたらうるさいと怒鳴られた、子連れで歩いていたら「母親のくせに化粧なんかしやがって」と言われた、などの話を耳にする。新型コロナウイルスによる「自粛警察」横行以前から、この国の母親たちは周囲の「正しい母親たるべし」というまなざしの「取り締まり(ポリシング)」に遭ってきた。

正義を盾に子連れの女性に説教してくる相手は、聞く限り高齢男性が多い。男性が上から目線で女性に説教することを「マンスプレイニング」というが、その一環だろう。ただ母親たちに聞いたところ「注意する方も本気でそう思っているというより、正義を振りかざして構ってほしいのでは」との意見もあった。

たしかに日本では、各種統計調査に鑑みても「母は家事・育児の要求点数が多く大変」だが「高齢男性は人間関係が希薄で孤独」だ。彼らが怒鳴ることでしか他人と接点を持ち得ないとすれば、その闇は深い


◎「高齢男性」で括る必要ある?

ポテサラ論争」の事例が仮に事実だとしても、あくまで特定の「高齢男性」の話だ。それを「高齢男性」全体に当てはめてしまうのが水無田氏の怖いところだ。

全体に当てはめる根拠としては、「スーパーのATM」での自身の体験と「正義を盾に子連れの女性に説教してくる相手は、聞く限り高齢男性が多い」という個人的な情報網だ。これを基に「高齢男性」を「正義を盾に子連れの女性に説教してくる」傾向が強い人々として描いている。

このやり方で良ければ、様々な属性の人々を簡単に悪者にできる。例えば在日韓国人の男性がセクハラで問題を起こしたとしよう。その時に「自分も在日韓国人の男性からセクハラ発言をされて困ったことがある。周りの女性にも在日韓国人からのセクハラを怖がる声が多い」などと書けば「在日韓国人の男性=セクハラする傾向が強い人々」として描ける。

しかし、客観性はもちろんない。セクハラと無縁の多くの在日韓国人の男性にとっては迷惑な話となる。それと同じことをやっているのが水無田氏だ。

強引な結び付けはさらに続く。「高齢男性は人間関係が希薄で孤独」だとしても「構ってほしい」から「正義を盾に子連れの女性に説教してくる」のかどうかは分からない。しっかり検証しなければ、何とも言えない。
 
なのに「彼らが怒鳴ることでしか他人と接点を持ち得ないとすれば、その闇は深い」と記事を結んでしまう。これでは「高齢男性」の多くが「怒鳴ることでしか他人と接点を持ち得ない」人々のように見える。

水無田氏は以前にこのコラムで「『男性対女性』の短絡的な二項対立図式」で物事を捉える危うさを訴えていた。しかし今回は「子連れの女性」と「高齢男性」の「短絡的な二項対立図式」で物事を捉えているように見える。

やはり水無田氏は偏見の罠から逃れられないのだろう。宿命だと思える。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~『ポテサラ論争』の闇 高齢男性の孤独の表れ?
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200810&ng=DGKKZO62417110X00C20A8TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。水無田気流氏への評価はEを据え置く。同氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経女性面「34歳までに2人出産を政府が推奨」は事実?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/34.html

日経女性面に自由過ぎるコラムを書く水無田気流氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_5.html

日経女性面で誤った認識を垂れ流す水無田気流氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_30.html

「男女の二項対立」を散々煽ってきた水無田気流氏が変節?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_58.html

水無田気流氏のマネーポスト批判に無理がある日経「ダイバーシティ進化論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post.html

水無田気流氏の「女性議員巡る容姿偏向報道」批判は前提に誤り?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_14.html

水無田気流氏のデータの扱いに問題あり 日経「ダイバーシティ進化論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_18.html

2020年8月9日日曜日

毒にも薬にもならない日経 峯岸博編集委員「風見鶏~日韓外交阻む『善』と『悪』」

9日の日本経済新聞朝刊総合3面に峯岸博編集委員が書いた「風見鶏~日韓外交阻む『善』と『悪』」という記事は毒にも薬にもならない内容だと感じた。その中で、問題ありと思えた冒頭の記述をまずは見ていきたい。
大雨で増水した三隈川(筑後川)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

日本と韓国の外交は底なし沼にはまってしまったかのようだ。両国の政治家のあいだでは、どう抜けだすかという解決策を飛び越して対抗策の議論がにぎやかだ。こういうときは先人に学ぼうと、英国外交官だったH・ニコルソンの名著「外交」を手に取った。

外交官の中で最悪の部類として「宣教師、狂信家そして法律家」を挙げている。ある一派の考え方を「善」、他派を「悪」とみなすことで独善などの恐ろしい危険に人々を巻き込みかねないと警告した。人権弁護士出身の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を含め、ナショナリズムを外交の場に持ち込みがちないまの日韓関係を映す鏡のようだ。


◎偏見の臭いが…


外交官の中で最悪の部類として『宣教師、狂信家そして法律家』を挙げている。ある一派の考え方を『善』、他派を『悪』とみなすことで独善などの恐ろしい危険に人々を巻き込みかねないと警告した」という記述が引っかかった。

H・ニコルソンの名著『外交』」から引用しているとはいえ、偏見とも思える見方を肯定的に取り上げるのは感心しない。「狂信家」はともかく「宣教師」や「法律家」を「ある一派の考え方を『善』、他派を『悪』とみなすことで独善などの恐ろしい危険に人々を巻き込みかねない」人物だと決め付けるような説明は避けるべきだ。

次に記事の終盤を見ていこう。

【日経の記事】

日韓両政府間では、難交渉の末にこぎ着けた慰安婦合意や請求権協定といった取り決めがないがしろにされ、信頼関係は崩れた。日韓外交は善悪二元論で解決することはできない。

では、もつれた関係をどう解きほぐすか。ニコルソンが理想とした外交の資質は、誠実、正確、平静、忍耐、よい機嫌、謙虚および忠誠だ。相手を冷静に見つめ直すところから始める必要もあるのではないか

「愛の不時着」では、けなげに生きる北朝鮮の庶民の一端に触れた韓国人に親近感が生まれた。日韓でもそれを体現している人たちがいる。相手の文化を屈託なく受け入れ、再び往来できる日を待ち望む若い世代と、長く協力関係を築いてきた企業人などだ。

「お互いにお家の事情があるのだから名分に執着せず、妥結の道を見いだし、実利を貫徹させよう」。国交正常化交渉が難航するたびにこう促したのは時の首相、佐藤栄作。安倍首相の大叔父である。朴正熙大統領も「貧困から脱する」との信念を貫いた。

日本周辺の脅威が高まり、米中の覇権争いも激烈になっている。対立のなかで共有する「実利」を見つける仕事も政治だろう


◎そんなこと言われても…

日韓外交は善悪二元論で解決することはできない。では、もつれた関係をどう解きほぐすか」と記事は核心部分に入っていく。その答えは「相手を冷静に見つめ直すところから始める必要もあるのではないか」だ。そして「対立のなかで共有する『実利』を見つける仕事も政治だろう」と記事を締めている。

「そんな漠然としたことを言われても…」というのが正直な感想だ。例えば、安倍晋三首相の言動の中から「相手を冷静に見つめ」ていないと取れるところを選び出し、どう「見つめ直す」べきか指摘するのならば、まだ分かる。

しかし、誰に向けて具体的にどうしろと言う訳でもない抽象的な話をする意義は感じない。せっかく紙面を使うのだから、主張は具体的で「毒か薬にはなる内容」にしてほしい。もちろん「薬」の方が好ましいが…。


※今回取り上げた記事「風見鶏~日韓外交阻む『善』と『悪』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200809&ng=DGKKZO62475560Y0A800C2EA3000


※記事の評価はC(平均的)。峯岸博編集委員への評価はCで確定とする。

2020年8月7日金曜日

ダメなまとめ物をなぜ1面に? 日経「利用日指定オフィス拡大」

「なぜこれを1面に?」と思える記事が7日の日本経済新聞朝刊1面に載っていた。「利用日指定オフィス拡大~賃料5分の1、テレワーク普及で」というその記事は、企業面などでよく見られるダメなまとめ物だ。それを1面に持ってくる意図が理解できない。誰も完成度の低さに気付かないのか。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

国内で決めた日だけオフィスを貸すサービスが広がっている。サンフロンティア不動産は7月から申し込みを開始。不動産運用のいちごは年内にも都内物件で始める計画だ。テレワーク普及で働く人の出社する機会が減り、入居者の常駐を前提としたオフィスのあり方が変わってきた。

サンフロンティアは自社物件のワンフロア(約210平方メートル)を活用。申し込み開始後の約1カ月間で70件以上の問い合わせがあり、契約を検討する企業もあるという

契約期間は3カ月以上で、利用料金は週1日で月30万円から。サンフロンティアで同じ広さを借りた場合、月賃料は150万円程度(家具なし)。日ぎめ貸しの賃料は約5分の1で済む。

スタートアップでは重要会議以外はオフィス出社しないケースがある。拠点としては貸会議室もあるが毎回利用する手続きが煩雑だ。中期的にコストも割高になるという。日ぎめ貸しは事前に曜日を決めて契約するため、1日限定や週単位での契約が多い一般的なシェアオフィスと異なる。


◎「広がっている」と言う割に…

国内で決めた日だけオフィスを貸すサービスが広がっている」というのが記事の柱だが「広がっている」感じはあまりない。記事に出てくるのは2社のみ。まとめ物で2社は辛い。最低でも3社は欲しい。

サンフロンティア不動産は7月から申し込みを開始」したらしいが、「自社物件のワンフロア(約210平方メートル)を活用」するだけ。「契約を検討する企業もあるという」という記述から判断すると、契約に至った企業はないのだろう。

2つ目の事例に関しては「不動産運用のいちごは年内にも都内物件で始める計画だ」と書いているだけ。この2社の動向から「国内で決めた日だけオフィスを貸すサービスが広がっている」と判断するのは苦しい。「広がっている」ではなく「広がろうとしている」なら、まだ分かるが…。

2社のまとめ物は禁止した方がいい。1面ならばなおさらだ。


※今回取り上げた記事「利用日指定オフィス拡大~賃料5分の1、テレワーク普及で
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200807&ng=DGKKZO62400820W0A800C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年8月6日木曜日

あるべき情報が見当たらない日経「NYタイムズ、電子版収入が紙超え」

記事を読んでいて、あるべき情報がない時はガッカリする。6日の日本経済新聞夕刊総合面に載った「NYタイムズ、電子版収入が紙超え」という記事がそうだ。清水石珠実記者は以下のように書いている。
増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
         ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

米新聞大手ニューヨーク・タイムズ(NYT)は5日、2020年4~6月期に電子版の購読料やデジタル広告などによる「デジタル収入」が紙媒体関連を上回ったと発表した。四半期ベースの収入でデジタルが紙を逆転するのは初めてという。新型コロナウイルスや人種差別問題への関心が高まり、電子版の購読料が増えた。

この8年間、電子版強化を推進してきたマーク・トンプソン最高経営責任者(CEO)は、「NYTのデジタル戦略が大事な節目を迎えた」と語った。

6月末時点での電子版の有料読者数は前年同月末比47%増の439万人。クロスワードや料理レシピのスマートフォン向けアプリを含めると、デジタル関連の有料会員数は567万人を超えた。6月末時点で、電子版とアプリ、紙媒体を合わせた総有料読者数は651万人と、前年比で約4割増えた。同社は「25年までに購読者数1千万人の実現」を経営目標に掲げている。

同日発表した4~6月期決算は、売上高が前年同期比8%減の4億375万ドル(約426億円)、純利益は6%減の2366万ドルだった。購読料収入は増加したが、新型コロナによる広告収入の大幅な減少を補えなかった。1株利益は0.14ドル(前年同期は0.15ドル)。特殊要因を除くと0.18ドルと、市場予想(0.01ドル程度)を上回った。


◎「電子版収入が紙超え」と言うなら…

電子版収入が紙超え」という見出しに釣られて読んだ者としては「電子版収入がどの程度の伸びて、紙の収入がどう低迷しているのか」という情報は同然にあると期待してしまう。しかし、この記事には何も出てこない。

デジタル収入」は増減も額も不明。「紙媒体」に関しても収入や増減の具体的な数字はない。「電子版の有料読者数は前年同月末比47%増の439万人」と出ているが、「広告収入の大幅な減少」があるようなので、「47%増」を「デジタル収入」の増収率の近似値と見るのも無理がある。

本来なら「デジタル収入」がどんな推移で伸び、「紙媒体」がどう落ちてきたのか、少し長い期間で見せてほしい気持ちもある。しかし、今回の記事では前年比の数字すらない。これでは辛い。

NYT」が具体的な数値を公表していないのかもしれない。だとしたら、その点は記事で明示してほしい。それなら読者としてはまだ納得できる。


※今回取り上げた記事「NYタイムズ、電子版収入が紙超え
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200806&ng=DGKKZO62347500W0A800C2EAF000


※記事の評価はD(問題あり)。清水石珠実記者への評価も暫定でDとする。

2020年8月5日水曜日

日経「ウェルスパーク、合計9億円調達」は要らないベタ記事の典型

新聞のベタ記事は基本的に要らなくなってきている。短いものは特にそうだ。5日の日本経済新聞朝刊金融経済面に載った「ウェルスパーク、合計9億円調達 あおぞら銀などから」という記事はその典型だ。全文は以下の通り。
冠水した国道210号線(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

不動産の資産管理アプリを手掛けるWealthPark(ウェルスパーク、東京・渋谷)は、あおぞら銀行やSBIインベストメント、みずほキャピタルなどを引受先とする第三者割当増資と借入金の合計で約9億円を調達した


◎どう受け止めろと…

これを読者はどう受け止めればいいのだろう。「第三者割当増資と借入金の合計で約9億円を調達した」としか書いていないので、「増資」の金額も「借入金」の金額も分からない。使途も不明。「9億円」がこれまでの資金調達に比べて多いのかどうかも分からない。

記者が書いた原稿には2段落目以降もあったのだろう。それを紙面構成の関係で1段落だけにしたために、こうした中途半端な形になったと想像はできる。

だが、そんなことは読者には関係ない。金融経済面はそれほど急ごしらえで作る面でもないはずだ。しっかり載せるか、全く載せないか。中途半端なベタ記事は要らないと改めて訴えたい。


※今回取り上げた記事「ウェルスパーク、合計9億円調達 あおぞら銀などから
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200805&ng=DGKKZO62282430U0A800C2EE9000


※記事の評価はD(問題あり)