大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
昔読んだ本の一節をふと思い出したのは、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)の最高経営責任者(CEO)を呼んで7月末に開かれた米下院公聴会の記録に目を通したからだ。
公聴会で各議員は右から左から交互に4人をつるし上げたが、それ以上に興味深かったのは、下院の公表した電子メールなどの内部文書だ。それを読むと、表向きの会社の顔とは違う、あまり世間に知られていない「もう一つの隠れた顔」が浮かび上がる。
例えばアマゾンの表看板は「カスタマーファースト(顧客第一)」だ。ジェフ・ベゾスCEOはこの理念にこだわり、創業間もない1998年に株主あてに公表した書簡の表題は「顧客を畏怖せよ」だった。顧客の心がアマゾンから離れていないか「毎朝、目が覚めるたびにその可能性を恐れよ」と社員に徹底している、とベゾス氏は書いた。
イノベーション多産型の組織文化も特筆に値する。同社は単なる物販サイトの域を超え、倉庫運営や効率配送などの「フルフィルメント」技術やクラウドサービスにも競争優位領域を広げた。
2月に来日したイノベーション研究の泰斗、米スタンフォード大のチャールズ・オライリー教授は「アマゾンこそ世界で最も独創的な会社の一つ」と称賛した。「ダーウィン的な競争環境」を社内に意図的につくり、多数のプロジェクトを同時に走らせることで、その中から断トツのイノベーションが途切れることなく生まれる体制を整えた。その結果が200兆円に近づく株式時価総額だ。
さてこれらが同社の誇るべき表の顔とすれば、公聴会で露見した「見えざる顔」とは何か。それは自社を脅かすライバルには持てる力を総動員し、徹底的に排除し、屈服させようとする強い意思だ。
例えば2009年当時ダイパーズ・ドット・コムという企業が赤ちゃん用品の通販市場で台頭した。危機感を覚えたアマゾンは猛反撃を開始。社内メールによると、ある幹部は「おもちゃ通販ではトイザラスに先行されたが、我々は彼らより5%安く値付けする社内ルールをつくって対抗した。(ダイパーズにも)同じ手法が可能」と提案した。
公聴会の本番でも、民主党の女性議員が「ダイパーズ社を追い詰める作戦が発動され、そのために1カ月で2億ドル(200億円強)の損失まで認める、と読める社内文書がある」と追及。ベゾス氏は「10年以上前のことで記憶にない」とかわしたが、アマゾンの「略奪的価格設定(predatory pricing)」戦略の迫力を印象づけるやりとりだった。
その後まもなくダイパーズの親会社がアマゾンの買収提案を受け入れ、「脅威」は除去された。反トラスト法の専門家でGAFA規制の旗振り役であるリナ・カーン米コロンビア大准教授は「手ごわいライバルが消えると、アマゾンはさっそくベビー用品のディスカウントを縮小した」と指摘する。
競合排除へのこだわりはフェイスブックにも共通する。同社のある社員は12年1月に「インスタグラムのサービスはすごい。彼らは私たちのランチを奪おうとしている」と社内ブログで警鐘を発した。これがマーク・ザッカーバーグCEOの目にとまり「インスタを放置するのは危険」という認識が浸透した。
早くも同年4月には社員13人のインスタを約10億ドルで買収することで合意。フェイスブック幹部はメールで「買収の目的の一つは、競争相手の中立化だ」と書いた。「中立化」というのは遠回しの表現だが、ここでも買収によって脅威が消去されたのだ。
グーグルとアップルについても、内部文書の端々から浮かび上がるのは、潜在的な競争相手への警戒の念だ。アップルはアプリの配信をめぐって有力ゲーム「フォートナイト」の開発元や音楽配信のスポティファイ(スウェーデン)と係争を抱えている。
外から見ればGAFAは強力無比で、そのパワーでライバルをのみ込もうとする。これが日本を含め世界の競争当局がテック大手の規制強化に動く理由だが、他方でGAFAの視点に寄り添うと「自分たちの基盤を脅かす新興勢力がいつ現れても不思議ではない」と常に神経を張り詰めている現実がある。
GAFA自身が、マイクロソフトのような以前の寡占企業の市場支配を突き崩すことで今の地歩を築いてきた。なので、新興勢力の台頭に人一倍敏感だ。
ローマ神話に登場する「ヤーヌス」は前と後ろを向く2つの顔があった。21世紀のGAFAも外向きのこわもての顔と「新たなプレーヤーにいつディスラプト(破壊)されるかもしれない」と怯(おび)える2つの相貌がある。
◎言われていることでは…
「『自分たちの基盤を脅かす新興勢力がいつ現れても不思議ではない』と常に神経を張り詰めている」のが「GAFA」の「あまり世間に知られていない『もう一つの隠れた顔』」だと西條論説委員は言いたいようだ。しかし、それはよく知られた「顔」ではないのか。
2019年6月4日の日経の記事では「下院司法委員会は今回の調査で、反トラスト法の改正も視野に入れる。特に問題になりそうなのが、各社が豊富な資金力を生かし、将来競合しそうな有望なスタートアップの買収を繰り返していることだ」と書いている。「自分たちの基盤を脅かす新興勢力がいつ現れても不思議ではない」と感じているからこそ、そうした行動に出るはずだ。
「フェイスブック」が「インスタを約10億ドルで買収」したのはそうした狙いがあったというイメージは自分でさえ持っている。西條論説委員はそういう解説をする記事を目にしたことがないのか。「あまり世間に知られていない」と言うが、「世間」を甘く見過ぎていないか。
ついでに追加でいくつか指摘したい。
(1)「表向きの会社の顔」が変わっているが…
記事の最初の方でアマゾンに関して「表向きの会社の顔」としたのは「顧客第一」「イノベーション多産型」などだった。しかし、結びでは「GAFA」の「外向きのこわもての顔」を「もう一つの顔」と対比させている。ズレてきてないか。
(2)「潜在的な競争相手」じゃないような…
「グーグルとアップルについても、内部文書の端々から浮かび上がるのは、潜在的な競争相手への警戒の念だ。アップルはアプリの配信をめぐって有力ゲーム『フォートナイト』の開発元や音楽配信のスポティファイ(スウェーデン)と係争を抱えている」と西條論説委員は言う。この書き方だと「スポティファイ」は「アップル」の「潜在的な競争相手」だと取れる。だが「競争」は「顕在化」しているのではないか。
(3)「ディスラプト」は要らないような…
「21世紀のGAFAも外向きのこわもての顔と『新たなプレーヤーにいつディスラプト(破壊)されるかもしれない』と怯(おび)える2つの相貌がある」と西條論説委員は記事を締めている。何のために「ディスラプト」を入れたのか謎だ。今回の記事のキーワードという訳でもない。無駄な横文字をわざわざ追加する意図が分からない。
「新たなプレーヤーにいつ打ち負かされるてもおかしくない」などで十分だ。
※今回取り上げた記事「核心~GAFA、もう一つの顔 強気の裏に競合への怯え」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200831&ng=DGKKZO63184750Y0A820C2TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條編集委員については以下の投稿も参照してほしい。
春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html
7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html
日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html
何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html
日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html
タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html
日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html
「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html
さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html
「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html
「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html
「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html
「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html
「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html
「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html
「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_16.html