2020年8月23日日曜日

「女性管理職クオータ制」導入論に説得力欠く東洋経済「少数異見」

女性問題で「クオータ制の導入」を訴える記事をこれまで数多く目にしてきた。しかし説得力のある主張に接した記憶がない。週刊東洋経済8月29日号に載った「少数異見~リーダーの多様化へ舵を切るのは今」という記事もそうだ。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

この問題では、なぜ「クオータ制の導入」が必要なのかが常に苦しくなる。記事を見ながら具体的に指摘したい。


【東洋経済の記事】

 日本政府が「社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にする目標」を掲げたのは小泉純一郎政権時代の03年のことだ。17年経ってその目標は達成されたのか。

厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、18年度時点で企業の女性管理職比率は11.8%。それから2年間で状況が大きく変わったとは思えない。策定中の第5次男女共同参画基本計画では、20年代の早期に30%を目指すという「新たな目標案」が示されている。だが、政府の取り組みに本気度が足りないことは明らかだ。

日本で指導的地位の女性が増えない理由はいくつもある。最近でこそ新卒総合職の女性は増えているが、年功序列の人事制度では管理職に昇進するのに時間がかかるうえ、結婚、出産で退職する割合も高い。そもそも男性優位の社会で女性が出世する難しさがある。

自然に女性リーダーが増えるのを待っていては、いつになるかわからない。ならば、欧州で実績のある、人口比に基づき管理職の一定割合を女性に振り分けるクオータ制の導入が有効だ。それをしないのは、現在の指導者層が女性の活躍の必要性を本気で考えてはいないからか、女性を優遇することへの反発があるのだろう。


◎政府が言うから?

日本政府」が「指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にする目標」を掲げているが、なかなか実現しない。だから「クオータ制の導入」に踏み切ろう。筆者の相思葉氏はそう訴える。政府の「目標」を最初から受け入れてしまっているが、それが正しいとは限らない。

日銀が2%の物価目標を掲げているからと言って、それを無条件に受け入れる必要はない。なぜ2%なのかは当然問われる。「指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にする目標」も同じだ。しかし上記のくだりでは、なぜ「30%程度にする」必要があるのか説明していない。

記事の後半では、多少そこに触れている。見ていこう。

【東洋経済の記事】

コロナ禍への対応で、世界的に評価を上げた政治指導者の一人としてニュージーランドのアーダーン首相が挙げられる。17年に37歳で首相に就任し、翌年には6週間の産休を取得したことで知られる彼女の決断と対応は早かった。

3月19日に海外からの旅行者の入国を禁止。23日には全国的な都市封鎖を発表した。その2日後には、首相自ら自宅からインターネットのライブ配信で新型コロナウイルス対策について説明し、国民からの質問にも答えた。この動画は400万回以上再生されている。自然体でしなやかな対話姿勢で国民から高い支持を集め、早期封鎖を淡々と乗り切った。

アーダーン首相のリーダーシップが優れている理由について「女性だから」とだけ言いたいわけではない。だが、従来の常識にとらわれない大胆さは、「女性」や「若さ」と無関係ではあるまい。

近年、社会が変化するスピードは増しており、コロナ禍でさらに加速するだろう。成功体験に縛られた既存のリーダーだけでは乗り切っていけない。女性だけを優遇することに抵抗があるなら、若者も含めたクオータ制を導入してはどうだろうか


◎根拠になってる?

アーダーン首相のリーダーシップが優れている」から「クオータ制の導入」を推進しようと相思葉氏は言いたいようだ。理屈に無理があるのが分かるのだろう。「アーダーン首相のリーダーシップが優れている理由について『女性だから』とだけ言いたいわけではない」と逃げは打っている。

女性にも男性にも優れたリーダーはいる。「アーダーン首相のリーダーシップが優れている」からと言って「管理職の一定割合を女性に振り分けるクオータ制の導入」を推進すべき根拠にはならない。仮に「クオータ制の導入」が望ましいとしても、その場合になぜ「30%程度」なのかとの問題も残る。

例えば女性管理職の比率が「30%程度」になった時に企業の競争力が最も高まるといったエビデンスがあるなら分かる。しかし相思葉氏はそうしたデータを示していない。「クオータ制の導入」に関しては、企業価値を減じる要因になるとの研究結果もある。

それでも「クオータ制の導入」が必要だとの根拠を示すのはかなり難しい。なので、この手の主張を展開すると説得力がなくなってしまう。

成功体験に縛られた既存のリーダーだけでは乗り切っていけない。女性だけを優遇することに抵抗があるなら、若者も含めたクオータ制を導入してはどうだろうか」との結論部分には偏見も感じる。

中高年男性のリーダーは「成功体験に縛られた既存のリーダー」で「女性」や「若者」は違うとの決め付けを感じる。実際には「女性」にも「成功体験に縛られた既存のリーダー」がいるはずだ。一方、中高年男性のリーダーの中にも「成功体験に縛られ」ずに変革を進める人はいるだろう。

クオータ制の導入」で世の中が劇的に良くなるのならば、反対する理由はない。女性管理職比率100%を法律で義務付けてもいい。問題は「本当に世の中が劇的に良くなるか」だ。


※今回取り上げた記事「少数異見~リーダーの多様化へ舵を切るのは今
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24505


※記事の評価はD(問題あり)

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