「
ゴルフの全英女子オープンを制した渋野日向子選手」は「
全英女子の前に国内で2勝を挙げ、日本人では賞金トップだった」にもかかわらず「
『無名』だった」と日本経済新聞の中村直文編集委員は断言するが、同意できない。23日の朝刊企業1面に載った「
ヒットのクスリ~渋野選手『無名だった』ワケ 認知から関心への壁」という記事の中身を見ながら、この問題を考えてみたい。
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金華山黄金山神社の鹿(宮城県石巻市)
※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
今夏の大ヒットと言えば、ゴルフの全英女子オープンを制した渋野日向子選手だろう。8月4日の深夜、バーディーパットを決めた瞬間を目撃した人は興奮のあまり眠れなかったに違いない。
渋野選手は関係者や専門家以外には突然現れた新星のように見えた。多少ゴルフをたしなみ、たまに中継を見る筆者にとっても同じだ。だが全英女子の前に国内で2勝を挙げ、日本人では賞金トップだった。すでに実績も上げていたにもかかわらず、「無名」だったゆえに全英の勝利は大きなサプライズになった。
◎「突然現れた新星のように」は見えなかったが…
自分も中村編集委員と同じく「
多少ゴルフをたしなみ、たまに中継を見る」程度で「
関係者や専門家以外」ではあるが、「
突然現れた新星のように」は見えなかった。国内で初勝利を上げるまではゴルフファンの間でも「
無名」に近かったとは思う。しかし今年だけで「
国内で2勝」もしてしまえば「
無名」でいるのは難しい。
「ゴルフファンの間では全英女子の前から注目の新星だった」ぐらいの説明が妥当だろう。自分以外のゴルフファンに調査した訳ではないので「
渋野選手は関係者や専門家以外には突然現れた新星のように見えた」との説明を否定する根拠はない。だが、常識的には考えにくい説明を前提に記事を展開するならば、ゴルフファンの間でどれだけ知名度が低かったのかある程度のデータは欲しい。
例えば「日経社内のゴルフ好き50人に聞いたら、全英女子の前に渋野選手を知っていたのはわずか1人だった」などと書いてあれば「自分が例外なんだな」と思える。
「
なぜ『無名』だったのか」という説明にも疑問が残る。そのくだりを見ていこう。
【日経の記事】
なぜ「無名」だったのか。近年女子プロは盛り上がり、毎年のようにスターが誕生する。だから単純に覚えられないという情報過多の問題だ。
それとカテゴリー別での認知度の差も大きい。1998~99年生まれの女子プロは3年ほど前から、「黄金世代」と呼ばれている。代表的なのが勝みなみ選手や畑岡奈紗選手、新垣比菜選手、小祝さくら選手などだ。
渋野選手もこの世代に属するし、全英前もこのくくりに入れられていた。だがシャンプー、即席麺、飲料もそうだが、1つのカテゴリーで頭に浮かぶのはせいぜい3つ程度。渋野選手が黄金世代という感覚は多くのゴルフファンにはなかった。
18年にプロになった渋野選手の露出が少ないのは当然のこと。そこで16年から全英女子オープン前まで、新聞記事(日経と全国4紙)の登場回数を日経テレコンで検索してみた。畑岡選手が2574回で勝選手は1098回、新垣選手608回、小祝選手556回と続く。渋野選手は165回で、黄金世代として認知されるわけもない。
◎「頭に浮かぶのはせいぜい3つ程度」?
「
1つのカテゴリーで頭に浮かぶのはせいぜい3つ程度」という説明が解せない。「サッカー日本代表」という「
カテゴリー」ではどうだろう。サッカーファンに聞くと名前が挙がるのは「
せいぜい3人程度」となるだろうか。
あまり関心がない分野では「
1つのカテゴリーで頭に浮かぶのはせいぜい3つ程度」というのならばまだ分かる。しかし中村編集委員は「
渋野選手が黄金世代という感覚は多くのゴルフファンにはなかった」と断定している(根拠は見当たらないが…)ので、関心のある分野でも「
頭に浮かぶのはせいぜい3つ程度」のはずだ。これはあり得ない気がする。
さらに続きを見ていこう。
【日経の記事】
もちろん全英以降は渋野選手の記事数は急増した。逆にほっといてあげてほしいぐらいだ。人は一度くらい見たことがあっても、脳内に深く刻みつけるのは難しい。ブランドが認知され、興味・関心の対象になるには露出頻度に加え、一定の時間が欠かせない。
◎「一定の時間が欠かせない」?
「
渋野選手」は「
認知され、興味・関心の対象になる」までに「
一定の時間」を要したのか。中村編集委員の見立てでは「
全英女子オープン」まで「
無名」だったはずだ。そして「
全英女子オープン」の勝利で一気に「
認知され、興味・関心の対象」となった。どうも話が噛み合っていない。
さらに記事の続きを見ていく。
【日経の記事】
この構図は新製品がなかなか売れない消費の世界と似ている。市場が縮んでいるのに情報と商品投入量が多すぎてなかなか定着しない点だ。全英女子で勝つというような奇跡でも起きない限り、多くの新星は埋没してしまう。ここに着目したマーケティング支援会社のアライドアーキテクツは自社のツイッター販促サービスを「脳内シェア向上ツール」として位置づけている。
◎「全英女子で勝つ」のは「奇跡」?
ここでは「
全英女子で勝つというような奇跡でも起きない限り」という説明が引っかかった。「
全英女子」の直前に渋野選手の世界ランクは46位だった。優勝は番狂わせかもしれないが「
奇跡」と呼ぶほど世界ランクが低かった訳ではない。
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筑後船小屋駅(福岡県筑後市)
※写真と本文は無関係です |
ここから最後まで見ていく。
【日経の記事】
電通ですら、今は大量のマス広告を打っても効果は薄いと見ている。まずはターゲットを絞り、ネット広告で反応をうかがう。「今は情報が多く、なかなか刺さらない。しかも認知度を高めるには時間がかかる。手数とそこからの拡散力が勝負」(電通デジタル)
ちなみに渋野選手とスポンサー契約を結んだカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。増田宗昭社長は立ち振る舞いに関心を持ち、全英前から打診していた。同じ対象を見ても先入観にとらわれない目利き力こそが原石を見つけるのだろう。反省を込めて。
◎「原石」ではないような…
まず「
スポンサー契約を結んだ」のは「
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)」ではなく、CCC傘下のTポイント・ジャパンのようだ。この辺りは正確に書いてほしい。
そして、中村編集委員が得意とする「無駄なヨイショ」が記事の最後に出てくる。日経の別の記事によると「
Tポイントは全英オープンが始まる前の5月ごろからスポンサーの依頼をしていたという」。渋野選手がプロ初勝利を果たしたのが「
5月」だ。仮に初勝利を受けて「
スポンサーの依頼をしていた」のならば「
先入観にとらわれない目利き力こそが原石を見つける」といった話ではなくなる。
プロテスト合格直後にスポンサーの依頼をしていたのならば「
原石」を見つける力があると言われてまだ納得できるが…。
※今回取り上げた記事「
ヒットのクスリ~渋野選手『無名だった』ワケ 認知から関心への壁」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190823&ng=DGKKZO48786570Q9A820C1TJ1000
※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村直文編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html
「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html
スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html
「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html
日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html
「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html
キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html
分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html
「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html
「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html
日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html
「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html
「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html
日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html
「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html
「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html