2019年8月12日月曜日

日経 田中陽編集委員の「経営の視点」に見えた明るい兆し

日本経済新聞の田中陽編集委員に良い印象はない。流通関連でツッコミどころの多いヨイショ記事を書いている編集委員と見なしてきた。しかし12日の朝刊企業面に載った「経営の視点~コンビニ『加盟店と共存共栄』 地域独占、見失った本質」という記事は、これまでの印象を少し変えるものだった。
瑞鳳殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

記事の全文を見た上で、多少の注文を付けておきたい。

【日経の記事】

野球などプロスポーツ界でよく使われる「フランチャイズ」という言葉。その意味は共倒れを防ぐための地域独占だ。ビジネスの世界ならこの言葉は独占販売権となるが、その意味を見失った業界がある。コンビニエンスストアだ。

独立した加盟店を束ねたのがフランチャイズチェーン(FC)。直営店は赤字店があっても全体で黒字ならビジネスとして成り立つが、FCは赤字店が1店でもあればその加盟店主は生活ができなくなる。そうならないような商圏を前提としたFC契約が結ばれる。

コンビニのビジネスモデルの一つ、ドミナント(地域集中出店)戦略。同一地域に同じ看板のチェーンが数多くあることで消費者への認知度が高まり、売り上げ増にもつながる。

本部と加盟店の共存共栄を支えるのが粗利分配方式だ。売上高から原価を引いた粗利益を両者で山分けするもので、粗利益の最大化が共通の目標となる。同じ看板でも店同士の距離がある程度は保たれていたから共倒れも少なく、1チェーンで2万前後の店の統制が取れた。

新市場の創造が続いている間はドミナント戦略と粗利分配方式の両輪が機能し、本部も加盟店も栄えてこられた。しかし人口減やドラッグストアなどが市場を侵食し、経営環境は変わった。大手3社がそれぞれ47都道府県に店を構え、空白地は無くなりつつある。

コンビニ飽和論と一線を画す最大手のセブン―イレブン・ジャパン。井阪隆一氏が持ち株会社の社長になった2016年以降、シェアについての言及が増えている。「シェア50%に向けて突き進む」。明らかに市場の限られたパイの存在を意識したもので、年間で1000店規模の大量出店でライバルを突き放す作戦だ。新店は1件あたり数百万円の契約料を伴い、本部は潤う。出店は欠かせない。

だが店舗密度が増せば地域シェアは高まっても同じチェーンで同質化競争を招き、一店の粗利は伸び悩む。足の引っ張り合いだ。弁当など売れ残りの大半が契約上は加盟店の負担で処分される。不満の種だった。地域全体の粗利の最大化は見込めるが、各店舗の粗利の最大化は望めない。いつしか独占と最大化の手法が本部の都合に変質した。

セブンイレブンは魅力的な商品やサービスを出し続けるがそれでも1店舗あたり売上高は1日60万円台半ば、粗利益率は31%前後でほぼフラット。本部が前期まで過去最高の営業利益を更新し続ける一方で、加盟店の粗利額は増えない。強い絆で結ばれた共存共栄に綻びが出ても不思議ではない。24時間営業への不満が噴出したのは当然だ。

競合他社でも同じこと。むしろ、さらに厳しい環境に置かれ問題化していたが、セブンより早く対策に乗り出していた。ローソンは10年に複数店経営の制度を導入。単店経営のリスクを軽減し、複数店で粗利額の積み上げを狙う。「理想は同一地域での複数店経営」(竹増貞信社長)

コンビニ業界は社会・経済環境が激変する中で、経営の根幹とすべきフランチャイズの真の意味と向き合い、FC契約の抜本的な作り直しを迫られている。

◇   ◇   ◇

基本的には悪くない。ただ、気になる点もある。3つ挙げたい。

(1)「赤字店が1店でもあれば生活できない」?

FCは赤字店が1店でもあればその加盟店主は生活ができなくなる」と田中編集委員は言う。しかし記事の終盤では「ローソンは10年に複数店経営の制度を導入。単店経営のリスクを軽減し、複数店で粗利額の積み上げを狙う」とも書いている。「複数店経営」は他のチェーンでもやっている。この場合、「赤字店が1店」あっても、他の店で補って「生活」する余地はある。


(2)「1店の粗利」伸びてはいる?

伸び悩む」とは「伸びが鈍化する」という意味だ。「店舗密度が増せば地域シェアは高まっても同じチェーンで同質化競争を招き、一店の粗利は伸び悩む」と書いているので、「店舗密度」が増しても「一店の粗利」の増加傾向は続くと田中編集委員は見ているのだろう。

しかし「セブンイレブン」について「本部が前期まで過去最高の営業利益を更新し続ける一方で、加盟店の粗利額は増えない」とも書いている。だとすれば、もはや「伸び」はない。「店舗密度」が高まると、地域によっては「一店の粗利」が減る場合もあるだろう。

一店の粗利は伸び悩む」との表現には、コンビニ本部への配慮を感じなくもない。「店舗密度が増せば地域シェアは高まっても同じチェーンで同質化競争を招き、店によっては粗利が大きく落ち込む場合もある」ぐらいは書いても良かったのではないか。


(3)どう「抜本的に作り直す」?

コンビニ業界は社会・経済環境が激変する中で、経営の根幹とすべきフランチャイズの真の意味と向き合い、FC契約の抜本的な作り直しを迫られている」と田中編集委員は記事を結んでいる。しかし「FC契約」を具体的にどう見直すべきかは記していない。

編集委員の肩書を付けてコラムを書いているのだから、ここは逃げずに自らの案を示してほしかった。どう「作り直し」をすべきか田中編集委員にも見えていないのだろう。そこまで考えて記事を書くのが編集委員としての役割だと肝に銘じてほしい。

抜本的な作り直しを迫られている」と書いて終わらせるだけならば、経験の浅い若手記者でもできる。


※今回取り上げた記事「経営の視点~コンビニ『加盟店と共存共栄』 地域独占、見失った本質
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190812&ng=DGKKZO48481780R10C19A8TJC000


※記事の評価はC(平均的)。田中陽編集委員への評価はDを据え置くが強含みとする。田中編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「小売りの輪」の説明が苦しい日経 田中陽編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_21.html

「セブン24時間営業」の解説が残念な日経 田中陽編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24_11.html

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