2019年8月9日金曜日

「先進国の金利急低下」をきちんと描けていない日経 後藤達也記者

記事の書き方の基本が分かっていないと言うべきか。日本経済新聞の後藤達也記者がニューヨーク発で9日の朝刊総合2面に書いた「先進国の金利 急低下~米中対立泥沼化に警戒」という記事は、肝心の「先進国の金利 急低下」をきちんと描けていない。
支倉常長像(宮城県石巻市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

先進国で長期金利が急低下している。米中対立が泥沼化するとの懸念を背景に、マネーが株式から国債へとシフトしているためだ。米国を起点に利下げの波が広がっていることも低下に拍車をかけている。

7日のニューヨーク市場で米10年物国債の利回りは一時、前日より0.11%低い1.59%に低下(価格は上昇)した。1日にトランプ大統領が対中制裁関税第4弾の発動を表明する直前は2%強だったが、1週間で異例の急低下となった。2016年に記録した史上最低水準(1.32%)の更新が視野に入り、「米国債がマイナス金利になるのもばかげた話ではなくなってきた」(米債券運用ピムコのヨアヒム・フェルズ氏)。

欧州でもドイツの10年債がマイナス0.6%台と史上最低を付けた。財政不安のくすぶるスペインでも0.1%台だ

トムソン・ロイターの集計によると、19年の世界の債券ファンドへの資金流入は5600億ドル(約60兆円)に達し、暦年で過去最高を更新するペースとなっている。一方、株式ファンドからは1270億ドルが流出し、08年以来の規模だ。

米景気の拡大は過去最長の10年を超えたが、米中対立の先鋭化で後退局面に陥るとの警戒も出ている。リスクに備える投資家は株式から債券へ資金をシフトさせている。

中国が保有する米国債の行方にも注目が集まる。5月末時点の保有額は1兆1100億ドルと外国では最大で、発行残高に占めるシェアは7%に上る。市場の一部では中国が報復の一環として米国債を売り、金利上昇で米経済に打撃を与えるとの思惑がある。

ただ、世界景気の不安から米国債への需要は強く、中国が国債を売っても米金利が上がるかは不透明だ。市場では「中国が報復措置として米国債を売る可能性は低いが、仮に大幅に売れば両国の関係は一段と悪化する」との見方が多い。



◎米国以外の「急低下」は?

この記事を読んで「先進国で長期金利が急低下している」と納得できただろうか。「米国」については「1週間で異例の急低下」でいいだろう。問題はそれ以外だ。

欧州でもドイツの10年債がマイナス0.6%台と史上最低を付けた。財政不安のくすぶるスペインでも0.1%台だ」としか書いていない。低下幅を見せないで「急低下している」と言われても困る。

調べてみると8月に入ってドイツはマイナス0.4%台から「マイナス0.6%台」へ、スペインは0.2%台から「0.1%台」へと「低下」したようだ。

個人的には「急低下」だとは感じないが、後藤記者が「急低下」だと確信したのならば、どの程度の「急低下」なのかしっかり伝えるべきだ。

今回の記事では最後の2段落を使って「中国が保有する米国債の行方」にも触れている。大した話ではないので、ここはバッサリ削っていい。代わりに「先進国で長期金利が急低下している」様子を詳しく書けば、記事はかなりまともになる。

中国が保有する米国債の行方」といった関連情報を書き足すのは、肝心なところをしっかり伝えた後でいい。記事を書く上での基礎的な技術が身に付いていれば、この手の助言は要らないはずだ。

後藤記者だけでなく担当デスクもしっかり反省してほしい。


※今回取り上げた記事「先進国の金利 急低下 米中対立泥沼化に警戒
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190809&ng=DGKKZO48386010Y9A800C1EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。後藤達也記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。

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