FACTA6月号にジャーナリストの大西康之氏が書いた「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」という記事はツッコミどころが多かった。中身を見ながら具体的に指摘したい
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夕暮れ時の筑後川 |
【FACTAの記事】新型コロナウイルス第4波による緊急事態宣言で苦境が続く飲食店――。チェーン店のオーナーたちが、コロナより恐れているものがある。ネット大手「カカクコム」(東証1部上場、東京・恵比寿)が運営するグルメサイト「食べログ」による「チェーン店ディスカウント」だ。
食べログは2019年5月、チェーン店の評点を大幅に引き下げた。それにより一部のチェーン店の予約は激減した。焼肉チェーンの「コラボ」は20年5月、約6億4千万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。そんなチェーン店にコロナが追い討ちをかけた。チェーン店は「減点」と「コロナ」という二つの恐怖と戦っている。
◎「減点」は今も「恐怖」?
この記事は基本的に話が古い。「チェーン店の評点を大幅に引き下げた」のが「2019年5月」で「コラボ」が「訴訟を起こした」のが「20年5月」。記事を最後まで読んでも、今年に入ってからの動きは出てこない。なぜ今この話題を取り上げたのか謎だ。
記事を読む限りでは「チェーン店の評点を大幅に引き下げた」のは「2019年5月」だけのようだ。だとすれば過去の話とも言える。なのに「チェーン店は『減点』と『コロナ』という二つの恐怖と戦っている」のか。本当に「減点」を「コロナより恐れている」のか。
「大きな問題なんだ」と訴えたいのは分かるが、無理がある。
続きを見ていこう。
【FACTAの記事】
〈被告の事実行為である評点付けに関する「チェーン店ディスカウント」が飲食店間の競争を阻害し、自由競争経済秩序を侵害していることから独禁法違反に当たる〉
裁判で原告側のアドバイザーを務める元公正取引委員会事務総局審査局長の南部利之は東京地裁に意見書を提出した。独禁法のスペシャリストとして「食べログ」の行為を優越的地位の濫用と指摘し、当該行為の差し止めを請求する内容だ。
「減点」と「コロナ」のダブルパンチを食らったチェーン店は、今現在も毎月、大きな赤字を出し続けており「判決を待っている間に倒産しかねない」という危機感が原告側にはある。それほどに「食べログ」による減点のダメージは大きいのだ。一体、何が起きているのか。少し時計の針を戻してみよう。
関東を中心に関西、中部を加えた地域で35店舗を展開する焼肉チェーン「コラボ」を経営する「韓流村」(東京・赤坂)の社長、任和彬(イム・ファビン)は毎月第一、第三火曜日、朝一番で食べログが更新する「コラボ」各店の評価をチェックするのが慣わしになっていた。
食べログは5点満点で飲食店に評点をつけているが、それが0.01上がる(又は下がる)だけで、ネット予約に大きな影響が出る。飲食店にとって食べログの評点はまさに死活問題なのだ。
「嘘だろ!」
19年5月21日の朝、任はパソコンの前で凍りついた。それまで星3.5を超えていた各店の評点が、一斉に3.0台まで下がっていたのだ。星3.6と高評価を得ていた恵比寿店は3.08に落ちていた。大学受験に例えれば、星3.5は難関校に合格する偏差値60レベル。星3.0台は偏差値40レベルを意味する。食べログを使い慣れたユーザーは星3.0台の店をまず選ばない。
任は食べログの各店舗のサイトを隈なく調べたが、特段に悪いレビュー(クチコミ)は見当たらない。多くの利用者が「美味しかった」「いい店だった」と書き込んでくれているのに、評点がバッサリと切り下げられているのだ。
「一体どうなってるんだ!」
任はいつも広告を取りに来る食べログの営業マンに問い合わせたが、「営業と評点をつける部門は別々なので、どうしてそうなったか分からない」と言うばかり。カカクコムに問い合わせると「我々が開発したアルゴリズムに則って公正に評価しています」と、木で鼻をくくったような答えしか返ってこない。
大幅減点の影響は凄まじかった。減点前の18年6月から19年2月まで8カ月平均の「コラボ」の売上高は4億5千万円だったが、減点された後の19年6月から8カ月平均売上高は2億4900万円に落ち込んだ。
さらに調べてみると「コラボ」と同様、焼肉の「トラジ」「叙々苑」、とんかつの「まい泉」、ラーメンの「一風堂」など、15店舗から50店舗を展開するチェーン店が軒並み大幅減点を食らっていた。1、2店舗しか持たない個人経営の店に対し、チェーン店の評価を下げようという意図(狙い撃ち)は明らかだった。
◎色々と疑問が…
まず「8カ月平均売上高」がよく分からない。「8カ月」間の「売上高」の合計ならば「平均」を入れる意味がない。例えば「8カ月」間の平均月間「売上高」ならば、「月間」だと明示すべきだ。
「1、2店舗しか持たない個人経営の店に対し、チェーン店の評価を下げようという意図(狙い撃ち)は明らかだった」と大西氏は言う。これも腑に落ちない。「1、2店舗しか持たない個人経営の店に対し、チェーン店の評価を下げようという意図」があるのならば、3店舗以上の「チェーン店の評価を下げ」るのが自然だ。しかし、なぜか「15店舗から50店舗を展開するチェーン店」限定で「狙い撃ち」になっている。
その理由は考えてみるべきだ。推測でもいい。分からないのならば、そう書いてもいい。しかし大西氏はスルーで済ませてしまう。
ちなみに「15店舗から50店舗を展開するチェーン店」に「一風堂」を含めているが、当時既に「50店舗」を大きく上回っていたと思える。これに関してはFACTAに問い合わせを送り、別の投稿でその内容を紹介している。
記事の続きを見ていこう。
【FACTAの記事】
「一緒に裁判で戦わないか」
任は減点を食らったチェーン店のオーナーたちに呼びかけたが、腰は重い。グルメサイトで圧倒的な支配力を持つ食べログを敵に回しては日本の飲食業界で生きてはいけない。皆、食べログの怒りを買うことを恐れていた。
理論派の任だけは怯まなかった。任は大阪生まれの在日3世。ソウル大学を経て米国のペンシルベニア州立大学・ウォートン校に入学しMBA(経営学修士)を取得した。その後、世界最大級の資金運用会社「キャピタル・グループ」で10年ほど働いた後、ヤマダ電機の山田昇会長の支援を受けて2000年にヤマダ電機LAB日本総本店(東京・池袋)のレストランフロアにコラボの1号店を出店している。
任の韓流村は20年5月、カカクコムに対し約6億4千万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。9月11日に開かれた第1回口頭弁論でカカクコム側は請求棄却を求めたが、任は「和解は考えていない。最後まで戦い抜きたい」とファイティングポーズを崩していない。
グルメサイトの振る舞いには公取も強い関心を持っている。19年10月には「有力な広告や集客手段となっているサイト側が飲食店に不当な条件を押しつけていないか実態を把握したい」(山田昭典事務総長)と、実態調査を始めた。
サイトの具体名は明らかにしていないが、「食べログ」や「ぐるなび」など大手を対象に独占禁止法上の「優越的地位の濫用」にあたる行為があるかを調べた模様だ。掲載店がサイト運営会社に年会費を支払えば「口コミ評価」などその店のサイト上の評価ポイントが自動的に上がるといった状況が生まれていれば、優越的地位の濫用に当たる。
摘発には至らなかったが20年3月、公取は「公平公正に運用されていない飲食プラットフォーマー(グルメサイト)は、独禁法違反に当たる」とするガイドラインを出した。
問題は今回、焼肉「コラボ」などが食らった「チェーン店ディスカウント」が公正な運用といえるかどうかだ。「チェーン店ディスカウントに苦しむ企業の存在をどう考えるか」という本誌の質問にカカクコムはこう答えた。
〈公正取引委員会の報告書に言及があります透明性・公正性の確保につきましては、弊社としても従前より大変重要なテーマであると認識しております。そのため、2020年5月に、点数の決まり方や点数の変動などについてより分かりやすい説明となるよう、「点数・ランキングについて」のページを全面リニューアルいたしました〉
リニューアルされたページを見てみたが、なぜチェーン店の評点が一斉に切り下げられたのかという謎は全く解けなかった。
月間のユニークユーザー1億人、月間ページビュー20億件を超える「食べログ」は今や「国民的グルメサイト」(韓流村の任)である。同サイトの「減点」で予約数が激減し、コロナ禍とのダブルパンチで倒産の危機に瀕するチェーン店は少なくない。
「食べログ」は自分たちが「恐怖の大魔王」になっていることを自覚すべきだろう。
◎なぜ答えを出さない?
「問題は今回、焼肉『コラボ』などが食らった『チェーン店ディスカウント』が公正な運用といえるかどうか」という認識に異論はない。しかし、この答えを大西氏は出していない。
「カカクコム」の回答内容を紹介した後で「なぜチェーン店の評点が一斉に切り下げられたのかという謎は全く解けなかった」と話が逸れてしまう。その「謎」は必ずしも解く必要はない。「公正な運用」ではないと証明できればいいはずだ。
「掲載店がサイト運営会社に年会費を支払えば『口コミ評価』などその店のサイト上の評価ポイントが自動的に上がるといった状況が生まれていれば、優越的地位の濫用に当たる」とも大西氏は書いている。ならば、そこを掘り下げるべきだ。
「任和彬(イム・ファビン)」氏からは話を聞けているようなので、なぜ「優越的地位の濫用に当たる」と言えるのか同氏に語らせればいい。「理論派の任」氏ならば簡単にできるのではないか。なのに、そこには触れていない。
「チェーン店の評点が一斉に切り下げられた」という事実だけで「優越的地位の濫用に当たる」との主張ならば、それでもいい。その辺りを論じないままに「『食べログ』は自分たちが『恐怖の大魔王』になっていることを自覚すべきだろう」と結んでも説得力はない。
「食べログ」が評価基準を変えて「チェーン店ディスカウント」に踏み切ったとしても、それは「食べログ」の裁量権の範囲内の行為だと思える。大西氏が違うと考えるのならば理由を述べてほしい。しかし、その辺りの説明が不十分なまま「食べログ」を悪者として描いている。これだと「食べログ」側に同情したくなる。
※今回取り上げた記事「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」https://facta.co.jp/article/202106035.html
※記事の評価はD(問題あり)。FACTAへの問い合わせに関しては以下の投稿を参照してほしい。
2019年の一風堂は「15~50店のチェーン」? FACTAの記事で大西康之氏に問い合わせhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/20191550-facta.html
※大西康之氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html
大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html
東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html
日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html
FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html
文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html
文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html
文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html
大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html
文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html
文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html
「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html
「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html
経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html
大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html
「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html
「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html
大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html
FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html
大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html
FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html
「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
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FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾
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FACTA「中国に買われたパソコン3社の幸せ」に見える大西康之氏の問題
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FACTA「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」大西康之氏の理解力に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/facta1.html
文藝春秋「LINEはソフトバンクを救えるか」でも間違えた大西康之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/line.html