日本経済新聞の田中陽編集委員は経営を語るべき書き手ではないーー。10日の朝刊ビジネス面に載った「経営の視点~セブン『データ見るな』の理由』~現場の『腹落ち』DXのカギ」という記事を読んで、そう感じた。問題のくだりを見ていこう。
熊本市内のセブンイレブン |
【日経の記事】
セブンはまれに本部から全店舗に「発注のためのデータを一切見るな」という指示が飛ぶ。POSデータはもちろん、天気予報、運動会や道路工事といった付近のイベント情報など、発注に日ごろ活用している情報なしで仕事をする。
現場は悪戦苦闘しながら、データが魅力的な売り場づくりにいかに大切か再認識し「腹落ち」する。それが本部の狙いだ。
◎テレビさえも見られない?
「発注のためのデータを一切見るな」という「本部」の「指示」を田中編集委員は前向きに紹介している。その気持ちが分からない。どう考えても問題が多過ぎる。
セブンイレブンのホームページでは「私たちのフランチャイズ・ビジネスは、加盟店さまと本部が対等の立場で、独立性を保ちながら取り組む共同事業です」と説明している。「発注のためのデータを一切見るな」という「本部」の「指示」に従う加盟店は本当に「対等の立場」なのだろうか。
「実態として本部と加盟店が対等じゃないのは大前提だ。それを踏まえて書いてるんだ」と田中編集委員は反論したくなるかもしれない。だとしても前向きに紹介すべき話ではない。
記事の説明が本当ならば加盟店のオーナーは「発注のためのデータを一切見るな」という「指示が飛ぶ」と「天気予報、運動会や道路工事といった付近のイベント情報など、発注に日ごろ活用している情報なしで仕事をする」ことになる。
会社の指示で働く会社員に対しても「天気予報を見るな」はやり過ぎだろう。「指示」をきちんと守ろうとすればテレビやスマホを見るのも避けるべきとなる。朝の情報番組を見ているだけでも「天気予報」の情報は目に入る。
さらに気になるのがオーナーが被る損失についてだ。「現場は悪戦苦闘しながら、データが魅力的な売り場づくりにいかに大切か再認識し『腹落ち』する。それが本部の狙いだ」と田中編集委員は書いている。だとすれば「データ」なしだと売り上げや利益が落ちることもあるはずだ。
「本部」の「指示」に従って「天気予報、運動会や道路工事といった付近のイベント情報」などを入手せずに仕事をしたら売り上げが大きく落ちてしまった時に「腹落ち」するだろうか。自分がオーナーだったら「どうしてくれるんだ。ふざけるな」と怒り出しそうだ。
「本部」の「指示」に従えば自分の利益も増えるのならば「対等の立場」という建前を無視した「指示」もまだ分かる。しかし利益が減りそうな「指示」を飛ばして、実際に利益が減る。それで「本部はさすがだなー」などと「腹落ち」するはずがない。
ひょっとすると「本部」は何らかの救済策を用意しているのかもしれない。しかし記事にそうした説明はない。
記事の情報から判断すると「セブン」の「本部」は加盟店のオーナーを奴隷か家来ぐらいにしか考えていないように感じる。それは田中編集委員にも分かるはずだ。なのに、なぜ前向きに紹介したのか。
説明が下手なのか。それとも問題点に気付く力がないのか。いずれにしても経済記事の書き手としては苦しい。
※今回取り上げた記事「経営の視点~セブン『データ見るな』の理由』~現場の『腹落ち』DXのカギ」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210510&ng=DGKKZO71692210Z00C21A5TB0000
※記事の評価はE(大いに問題あり)。田中陽編集委員への評価はD(問題あり)からEに引き下げる。田中編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「小売りの輪」の説明が苦しい日経 田中陽編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_21.html
「セブン24時間営業」の解説が残念な日経 田中陽編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24_11.html
日経 田中陽編集委員の「経営の視点」に見えた明るい兆し
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_12.html
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