2021年5月2日日曜日

強引な組み立てが目立つ日経「チャートは語る~半導体供給、根深い不安」

2日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る~半導体供給、根深い不安 アジア依存8割 自国生産回帰の動き」という記事は強引な作りが目立った。記事の前半を見ていこう。

熊本港

【日経の記事】

半導体サプライチェーン(供給網)のリスクが拭えない。自動車生産の急回復に、自然災害や事故なども加わり半導体不足が長引いている。不安を強める主要国は自国への生産回帰に動くが効率低下などの副作用は避けられない。

世界の半導体工場で停止が相次いでいる。

2021年に入り、米テキサス州の大寒波やルネサスエレクトロニクスの火災で工場が相次ぎ停止。半導体不足に拍車をかけ自動車の減産規模は21年世界生産見込みの約3%に相当する240万台に上る可能性が指摘される。

半導体は自動車以外にも幅広い製品に組み込まれる。供給網が寸断されれば影響は大きい。にもかかわらず脆弱性が次々と露呈する。背景に半導体特有の要因がある。

一つは生産拠点の集中だ。19年まで20年間の世界の半導体の輸出を見ると、台湾・韓国・中国などアジアからの輸出は5割から8割に上昇。一方、米欧日からは5割から2割弱に低下した。生産拠点が絞られると災害や地政学などのリスク分散も限られる。

生産集中を加速したのが水平分業だ。米欧日のメーカーは巨額投資を抑えるため、製造の一部を台湾積体電路製造(TSMC)など受託生産会社(ファウンドリー)に委託した。ファウンドリーの半導体生産シェアで台湾・中国・韓国が8割を持つ。


◎「生産拠点の集中」が問題?

筆者ら(林英樹記者、真鍋和也記者、龍元秀明記者)はアジア(日本を除く)への「生産拠点の集中」を問題視する。しかし「世界の半導体工場で停止が相次いでいる」事例として取り上げたのは「米テキサス州の大寒波」や「ルネサスエレクトロニクスの火災」によるものだ。日米の話なので、アジア(日本を除く)への「生産拠点の集中」とは関係ない。

生産拠点の集中」を問題視するのならば生産量や生産拠点数で見ればいいと思えるが、なぜか「輸出」のシェアで見ている。「ファウンドリーの半導体生産シェアで台湾・中国・韓国が8割を持つ」との記述はあるものの、「ファウンドリー」以外も含めた「半導体生産シェア」は教えてくれない。「生産拠点」が「集中」していると見せたいためにデータを恣意的に用いているのではないか。

そもそも「台湾・中国・韓国」に「集中」していたとしても、地域としてはかなり広い。本当に「生産拠点の集中」が問題なのかとは感じる。「世界の半導体輸出に占めるアジア勢のシェア」に関しても、日本を除いているから右肩上がりになっているが、この間に日本がシェアを落としているとすれば「日本を含むアジア」のシェアは大きく動いていないのではとも思える。

チャートは語る」というタイトルなので、自分たちの描いたストーリーに合致するデータが必要なのは分かる。しかしデータの使い方がご都合主義的になってはダメだ。筆者らには、そこをよく考えてほしい。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~半導体供給、根深い不安 アジア依存8割 自国生産回帰の動き

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210502&ng=DGKKZO71564720S1A500C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)林英樹記者と龍元秀明記者への評価は暫定でDとする。真鍋和也記者への評価はDを据え置く。

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