2021年5月27日木曜日

財政破綻が起きる「仕組み」は結局不明? 日経「大機小機~財政破綻を決めるのは誰か」

 27日の日本経済新聞朝刊マーケット総合面に載った「大機小機~財政破綻を決めるのは誰か」という記事は興味深いテーマを扱っている。ただ、説得力は感じなかった。全文を見た上で問題点を指摘したい。

筑後川と西鉄大牟田線

【日経の記事】

筆者は日本の財政は将棋に例えると既に詰んでいる、とみている。換言すれば、民主主義のシステムに基づいて、増税や歳出削減で財政バランスを取り戻すのは、もはや無理なところまで来ているのではないか。

しかし、どのようなメカニズムで財政破綻が発生するのか、その仕組みをイメージすることは難しい。そこで財政赤字のファイナンスが困難になる時点を決める要因が何かを考えてみたい

日銀がゼロ金利を維持する限り、政府の借り入れコストはゼロである。仮に国債の市中消化ができなくなっても、日銀がゼロ金利で無制限に国債を購入すれば、財政赤字ファイナンスの問題は表面化しない。

しかし日本の財政を政府だけでみると判断を誤る。政府と日銀を統合したバランスシートで見てみよう。

政府赤字の相当部分は、日銀が発行する銀行券(お札)と民間銀行が持つ日銀当座預金に置き換えられてファイナンスされている。銀行券の大部分はわれわれが現金として持っており、日銀当座預金は民間銀行が日銀にお金を預ける形で、われわれの預金の裏付けになっている。

将来、日銀が物価の上昇を抑えるために短期市場金利を引き上げようとすると、日銀当座預金に利息を払う必要がある。例えば、市場金利を2%上げようとすれば、日銀当座預金に対して利息を2%つけなければならず、年10兆円もの利払い負担になる。

しかし、日銀が持っているのはゼロ金利の国債ばかりなので、利息を払うおカネがない。日銀は新たに借用証書を書き、利息を払い続けるという典型的な多重債務者と同じになる。こうした状況が何年か続けば、日本のお金を持ちたいと思う人は減っていく。

政府はゼロ金利の長期国債で借りているので、当面利払いは出てこないが、日銀に借金を押し付けて利息も払わせていることになる。

日銀はどこかの時点で信用をなくし、現預金から不動産、外貨、金などへのシフトが発生するだろう。どの時点で信用をなくすかについては、誰にも分からない。それを決めるのはわれわれ国民だ。国民が日銀券や民間銀行の預金を安心して持つ限り問題は表面化しない。しかし国民が愛想を尽かす時には日銀の信用は崩壊する


◎結局、資金は尽きない?

財政赤字のファイナンスが困難になる時点を決める要因が何かを考えてみたい」と筆者の山河氏は切り出している。しかし、その答えは明らかになっていない。「日銀はどこかの時点で信用をなくし、現預金から不動産、外貨、金などへのシフトが発生する」としよう。だからと言って「財政破綻が発生する」訳でも「財政赤字のファイナンスが困難になる」訳でもない。

政府と日銀を統合」して考えた場合、「政府と日銀」の支払い能力がなくなった時に「財政破綻が発生する」はずだ。それがどういう形で起きるのか示してほしかった。しかし「国民が愛想を尽かす時には日銀の信用は崩壊する」と結論付けているだけで「日銀の信用」が「崩壊する」となぜ「財政赤字のファイナンスが困難になる」のかは教えてくれない。

政府」が「日銀に借金を押し付けて利息も払わせている」状態になったとしても、「日銀」の支払い能力が限界に達しない限り「財政赤字のファイナンス」はできるはずだ。「政府と日銀」には日本円を創出する権限がある。金などの裏付けは必要ない。「政府と日銀」が「財政破綻」を望まないとの前提で考えれば「財政赤字のファイナンス」ができなくなる事態は考えにくい。

日本の財政は将棋に例えると既に詰んでいる」と山河氏は見ている。それは、それでいい。であれば「財政破綻」は不可避のはずだ。なのに「どのようなメカニズムで財政破綻が発生するのか、その仕組みをイメージすることは難しい」らしい。不思議な話だ。本当に「詰んでいる」のか。「典型的な多重債務者」であれば、債務不履行に陥る「仕組みをイメージする」ことは容易だ。

日本円を無限に創出できる「政府と日銀」を個人の「多重債務者」と重ねて見ているから問題を見誤っているのではないか。

円建ての政府債務がどれだけ膨らんでも「政府と日銀」の資金が尽きて「財政破綻が発生する」ことはないーー。それが正しい答えだと思える。


※今回取り上げた記事「大機小機~財政破綻を決めるのは誰か」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210527&ng=DGKKZO72301650W1A520C2EN8000


※記事の評価はD(問題あり)

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