2019年12月25日水曜日

日経「出生数最少86.4万人~少子化『民』の対策カギ」に思うこと

25日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「出生数最少86.4万人~少子化、『民』の対策カギ 働き方改革や脱『新卒偏重』」という記事にツッコミどころは特にない。ただ、記事で言う「『民』の対策」のうち「脱『新卒偏重』」に関する記述を読むと「昔に戻ろう」という主張に近いと感じる。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
       ※写真と本文は無関係です

当該部分を見てみよう。

【日経の記事】

多くの人が高校や大学などを卒業してすぐに就職して、そのまま働き続ける慣行も少子化につながっている。就職から一定期間を経てから結婚や出産するのが一般的で、平均初婚年齢は男性が31歳、女性は29歳(18年時点)で、20年前に比べそれぞれ3歳程度上がっている。第1子出産の母親の平均年齢は30.7歳だ。

出産年齢が上がると、子どもを授かりにくくなる。「20歳代の頃は子どものことなんてとても考えられなかった。今思えば、もっと早くから話し合っておけばよかった」。さいたま市に住む34歳の女性会社員は振り返る。32歳の頃に夫と不妊治療を始め、今年8月に待望の第1子を出産した。

中略)海外では高校卒業後、すぐに大学に進まない人も少なくない。その間に結婚や出産、育児を選択する例も多い。働き方や教育システムなど社会保障政策にとどまらない見直しが官民ともに求められている。



◎そのやり方は…

多くの人が高校や大学などを卒業してすぐに就職して、そのまま働き続ける慣行も少子化につながっている」と筆者は言う。そして「海外では高校卒業後、すぐに大学に進まない人も少なくない。その間に結婚や出産、育児を選択する例も多い」とも書いている。

つまり、若いうちに「結婚や出産、育児を選択」して、その後で「就職」(あるいは進学)する選択を増やそうと訴えているのだろう。

既視感がある。出生率が高かった昭和の時代、女性は若いうちに「結婚や出産、育児を選択」する傾向が強かった。大学進学率は低かったし「就職」しても「そのまま働き続ける」ケースは少なく、働く場合は子育てが一段落してからというのが、よくあるパターンだった。

記事で言う「脱『新卒偏重』」もそれに近いものがある。間違っているとは言わない。男女ともに「働き続ける」仕組みが強固になればばるほど少子化に歯止めをかけるのは難しいだろう。

個人的には少子化推進派なので、女性もどんどん働き続ければよいとは思う。ただ、少子化に歯止めをかけたいのならば、子育てをする両親のどちらかの「就業率」を下げるように誘導すべきだ。

子供を産まない選択をする女性がいる以上、子供を4人以上産む女性も相当数いないと出生率は2を超えてこない。子だくさんの家庭で両親が共に働き続けるのはかなり困難だ。どちらかが子育てに専念する時期があっていい。

しかし、世の中の流れから言って「子だくさんの専業主婦(主夫)家庭を優遇する」という政策は取りづらいだろう。

だから結局、出生率が低い状態は今後も続く。個人的には大歓迎だが…。


※今回取り上げた記事「出生数最少86.4万人~少子化、『民』の対策カギ 働き方改革や脱『新卒偏重』


※記事の評価はC(平均的)

2019年12月24日火曜日

編集長時代はミス黙殺 コラムニストとしても苦しい東洋経済 西村豪太氏

高橋由里氏に始まり、今の山田俊浩氏まで週刊東洋経済では記事中のミスを黙殺する傾向が編集長3代に亘って続いている。両氏の間に入るのがに西村豪太氏だ。「本誌コラムニスト」の肩書で今も同誌に記事を書いている。書き手としては優れているかと言えば、そうでもない。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
          ※写真と本文は無関係です

12月28日・1月4日新春合併特別号の特集「2020代予測」の中の「010 中東情勢~米国の関与縮小で混迷深まる」という記事の中には意味の分からない記述があった。西村氏は以下のように書いている。


【東洋経済の記事】

中東でイランの勢力が拡大する中、オバマ政権時代の15年にイラン核合意が成立。イランの核技術開発を制限する一方で米国や欧州はイランへの制裁を緩和した。ところが、17年に就任したトランプ大統領はその意義を全面否定。一方的に核合意から離脱した後に「最強の制裁」を発動した。

これで経済的に追い詰められたイランが、制裁解除を求めてアラムコ石油施設への攻撃などで米国に揺さぶりをかけているとの見方が強い。トランプ政権は軍事力行使をちらつかせるものの、実際には動いていない。同盟国への挑発を通じて譲歩を引き出す米国の動きは、今後も続くとみられる

米国の代わりに矢面に立たされているサウジでは、サウジアラムコの上場という大イベントがあった。19年12月11日には2.8兆円という史上最大の巨額調達が実現した。資金使途は脱石油立国に向けた教育・訓練やインフラの整備だとされる。米国の中東への関与が縮小する中で、サウジが生き延びるための投資だといえる。


◎間違いのような…

理解できなかったのが「同盟国への挑発を通じて譲歩を引き出す米国の動きは、今後も続くとみられる」という部分だ。「米国の動き」を「イランの動き」に直せば、話は分かる。「(サウジアラビアなど米国にとっての)同盟国への挑発を通じて(米国からの)譲歩を引き出すイランの動きは、今後も続くとみられる」と考えればいい。

しかし実際は「同盟国への挑発を通じて譲歩を引き出す米国の動きは、今後も続くとみられる」と西村氏は書いている。

同盟国」が「米国の同盟国」なのか「イランの同盟国」なのか明確ではないが、文脈的には「米国の同盟国=サウジアラビア」かなとは思う。しかし米国がサウジアラビアを「挑発」して「イラン」から「譲歩を引き出す」というのが、どういうことか自分には理解できなかった。

なので「米国の動き」は「イランの動き」の誤りではないかと見ている。自分の読解力が足りないだけかもしれないが、少なくとも分かりやすくは書けていない。

付け加えると「サウジアラムコの上場」に関する説明にも問題がある。

2.8兆円という史上最大の巨額調達が実現した。資金使途は脱石油立国に向けた教育・訓練やインフラの整備だとされる」と西村氏は解説している。

しかし、調達した「資金」を国営石油会社の「サウジアラムコ」が「脱石油立国に向けた教育・訓練やインフラの整備」に使うのもおかしな話だ。「それは政府の仕事では?」と聞きたくなる。

朝日新聞は12月6日付の記事で「サウジアラビア政府は5日、国内市場へ月内に上場する予定の国営石油会社『サウジアラムコ』の売り出し価格を1株32リヤル(約8・5ドル、約930円)に決定したと発表した。資金調達額は256億ドル(約2兆8千億円)にのぼり、史上最高額を更新する」と報じている。

この記事の通りならば「巨額調達」の主体は「サウジアラムコ」ではなく「サウジアラビア政府」だ。「上場」に関して資金調達に触れる場合「新規上場企業の資金調達」と見るのが普通だ。なので、西村氏の説明だと「サウジアラムコ」が「巨額調達」の主体だと理解したくなる。

この辺りにも西村氏の書き手としての力量が出ているのではないか。


※今回取り上げた記事「010 中東情勢~米国の関与縮小で混迷深まる
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/22472


※記事の評価はE(大いに問題あり)。西村豪太氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西村氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

道を踏み外した東洋経済 西村豪太編集長代理へ贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_4.html

「過ちて改めざる」東洋経済の西村豪太新編集長への手紙
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_4.html

訂正記事を訂正できるか 東洋経済 西村豪太編集長に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_25.html

「巨大地震で円暴落」?東洋経済 西村豪太編集長のウブさ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/01/blog-post_19.html

金融庁批判の資格なし 東洋経済の西村豪太編集長
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/03/blog-post_19.html

「貿易赤字の解消」で正解?東洋経済 西村豪太編集長に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_72.html

2019年12月23日月曜日

「無政府主義者」が国家を作る? 日経ビジネス「2020年大転換」の矛盾

日経ビジネス12月23・30日合併号の特集のタイトルは「2020年大転換~『五輪後』に起きる14の異変」。この「大転換」が良くない。世の中、そんなに「大転換」は起きないし、それが「五輪後』に起きる」というストーリーを組み立てるのは至難だ。必然的に無理のある記事が生まれてくる。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
        ※写真と本文は無関係です

今回は「異変11」の「加速する国家の分裂~世界中で『ミニ独立国』が誕生」という記事を取り上げたい。まず引っかかったのが「20年はそうした無政府主義者による国家の分断が加速しそうだ」という予測だ。

当該部分を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

分断の究極の形は、新国家の建設だろう。考えや立場が異なる人々との議論を放棄し、政治信条を同じくする人たちだけで理想郷をつくる。20年はそうした無政府主義者による国家の分断が加速しそうだ

既に欧州やアフリカなど世界各地で新国家が次々と出現している。「ミクロ国家」と呼ばれており、他国の承認を受けることはまずない。それでも無政府主義者らの動きは止まらない。ミクロのレベルまでバラバラになってゆく世界の最終形がそこにある。



◎「無政府主義者」が「国家」を作る?

記事からは「既に欧州やアフリカなど世界各地」で「次々と出現している」という「ミクロ国家」は「無政府主義者」が樹立したものだと読み取れる。

しかし「無政府主義者」が「国家」を生み出すのは奇妙な話だ。「国家」にしてしまうと、信条に反して「政府」ができてしまう。「どういうことなのか」と思って読み進めると話が変わってくる。


【日経ビジネスの記事】

「新国家の出現はこれからも続く」と断言するのは、リベルランド自由共和国の大統領を名乗るビト・イェドリチカ氏だ。15年に東欧で建国を宣言し、リベルランド人を自称するまでは、チェコ人であった。地元政党の地方代表を務めるなどして、リバタリアン(自由至上主義者)の立場から自由主義経済の重要性をチェコ国民に説いてきた。

ところが「ある時、チェコ国民を説得するより、自分の理想の国を建設した方が早いことに気づいた」という。グーグルマップで領土を探していたところ、セルビアとクロアチアの国境を流れるドナウ川の中州に、誰も領有権を主張していない7km2の空白地帯を見つけた。ここを自国領とし、憲法を制定。自由至上主義に共感する世界の人々からネットで市民権の申請を受け付けており、既に約1000人に付与した。内務相や外務相、財務相も任命し、独自の仮想通貨の運用も始めた。一通り国家体制を整え、将来は自由経済圏として中州にIT産業を興す考えだ。



◎「無政府主義者」はどこへ?

リベルランド自由共和国」を「建国」したのが「無政府主義者」ならば筋としては合っている。しかし「建国を宣言」した「ビト・イェドリチカ氏」は「リバタリアン(自由至上主義者)」だという。「内務相や外務相、財務相も任命し、独自の仮想通貨の運用も始めた」のならば「無政府主義者」とは言い難い。

20年はそうした無政府主義者による国家の分断が加速しそうだ」と言っていたのは、どうなったのか。

記事を読み進めると、さらに混乱は深まる。

【日経ビジネス】

とはいえ、こうした動きを既存国家が放置するはずはない。国内や隣接地に主権が及ばない独立国が林立すれば、国家は衰退しかねない。当然、クロアチア政府も、新国家の既成事実化を警戒して、警察の巡視艇で中州への上陸を阻止している。このため、リベルランドは無人の状態が続く。

それでもイェドリチカ氏は楽観的だ。「見方を変えれば、クロアチア警察がリベルランドを守ってくれている。市民権を持たない第三者が密入国しないようパトロールしている」という。



◎なぜ「上陸を阻止」?

セルビアとクロアチアの国境を流れるドナウ川の中州」に関しては「誰も領有権を主張していない」はずだ。となると「クロアチア」の「国内」ではない。なのに「警察の巡視艇で中州への上陸を阻止している」という。どういうことが理解に苦しむ。

セルビア」の動向には記事では触れていない。「クロアチア」が「上陸を阻止」してくるならば「セルビア」側から「上陸」すればいいような気もする。この辺りの事情がよく分からないのは困る。

記事の続きを見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

リベルランドに刺激され、ノルウェーでも自由至上主義に基づく都市建設が始まるなど、イェドリチカ氏が始めた試みは広がりを見せている。

陸上のみならず、公海上に新国家を樹立する動きも活発だ。米決済サービス、ペイパルの共同創業者で著名投資家のピーター・ティール氏らが推進する「シーステディング・プロジェクト」が代表格で、公海上に人工の浮島からなる独立国家群を建設する計画だ。海面上昇に直面する仏領ポリネシアの要請で浮島の試験的な設置が始まるなど、技術的にも絵空事ではなくなってきた。

 新国家の建設を推し進めているのは、こうした無政府主義者たちに限ったことではない。英国がEUから離脱したあと、同国内のウェールズ、スコットランド、北アイルランドで独立運動が勢いづき、英国が解体に向かう可能性が指摘される。


◎「無政府主義者」がなぜか復活…

ノルウェーでも自由至上主義に基づく都市建設が始まるなど、イェドリチカ氏が始めた試みは広がりを見せている」と書いているので、「無政府主義者」を「リバタリアン」にすり替えたのだと思っていたら、「新国家の建設を推し進めているのは、こうした無政府主義者たちに限ったことではない」と「無政府主義者」が復活している。

ということは「米決済サービス、ペイパルの共同創業者で著名投資家のピーター・ティール氏」も「無政府主義者」と解釈するしかないが、どうも信用できない。

やはり「大転換」というテーマが筆者に無理を強いている気がしてならない。


※今回取り上げた記事「加速する国家の分裂~世界中で『ミニ独立国』が誕生
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00313/


※記事の評価はD(問題あり)

2019年12月22日日曜日

日経社説「『漏洩』が示す郵政の統治不全を刷新せよ」は威勢がいいが…

22日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「『漏洩』が示す郵政の統治不全を刷新せよ」という社説は威勢がいい。しかし、この件で批判を展開すると、厄介な問題が生じそうな気がする。まずは社説の最初の方を見ていこう。
のこのしまアイランドパークのコスモス
        ※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

日本郵政グループをめぐるガバナンス(企業統治)の機能不全が極まったというほかない。

大規模な保険販売不祥事を引き起こし、処分待ちだった日本郵政の上級副社長(元総務事務次官)に、現職の同次官が行政処分の内容を事前に漏らしていたことが発覚した。監督官庁と日本郵政の「なれ合い」をこれほどわかりやすく示す事例はない。次官が直ちに辞職に追い込まれたのは当然だ



◎情報漏洩は悪いこと?

次官が直ちに辞職に追い込まれたのは当然だ」と書いているので、「行政処分の内容を事前に漏らしていたこと」は許されないと日経は見ているのだろう。

しかし、日経はこれまで官庁からの「漏洩」を狙って取材を進めてきた歴史がある。官庁の幹部と「なれ合い」の関係を築き「行政処分の内容を事前に漏らして」もらえるようになった記者は、日経社内の価値観で見れば「立派に仕事をしている」となるはずだ。

漏洩」は許されないとの立場を取ると、「行政処分の内容を事前に」探ろうとする取材はできなくなる。「監督官庁と日本郵政の『なれ合い』」はダメだが「官庁とメディアの『なれ合い』」は問題ないとするのも難しい。

個人的には、「漏洩」はダメとの姿勢を打ち出し、「行政処分」などに関して発表前の独自報道は避けるのが良いとは思う。しかし、日経が長く染み付いた価値観を捨て切れるだろうか。

結局、自分たちは「漏洩」を官庁に求めるのに、メディア以外への「漏洩」が発覚すると社説などで批判するというダブルスタンダードに落ち着くのではないか。

社説の続きを見ていこう。


【日経の記事】

民営化された郵政グループ各社の社長は民間出身者である。しかし、実際にはグループ最大の実力者が官僚出身の同上級副社長であることは衆目が一致する。権力の源泉は、古巣の総務省との強力なパイプだ。その先輩・後輩の結びつきが癒着を招いた。体制を抜本的に刷新し、ガバナンスの再構築を急がねばならない



◎ちゃんと仕事をしているだけでは?

日本郵政の上級副社長」に関しては、そもそも批判されるべきなのかとの疑問が残る。

先輩・後輩の結びつきが癒着を招いた。体制を抜本的に刷新し、ガバナンスの再構築を急がねばならない」というが、「漏洩」に限れば「ガバナンス」の問題は特に見当たらない。

日本郵政の上級副社長」は「日本郵政」の株主などに報いる責務がある。そのために情報収集に当たるのは悪くない。「先輩・後輩の結びつき」を利用して「行政処分」に関する情報を得れば、「日本郵政」の経営に有利に働く可能性が十分にある。少なくとも、知っておいて損はない。自分が「日本郵政」の株主だったら、この問題で「上級副社長」を責める気にはなれない。

漏洩」を求める行為自体が許されないとの主張は成り立つが、それは「ガバナンス」の問題なのかとは思う。それに、「漏洩」を求める行為自体が許されないと言い出すと「では日経は取材で官庁に『漏洩』を求めてこなかったのか」という話に戻ってしまう。

この問題を日経が論じるならば「自分たちのことを棚に上げていないか」と自問する必要がある。


※今回取り上げた社説「『漏洩』が示す郵政の統治不全を刷新せよ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191222&ng=DGKKZO53667600R21C19A2EA1000


※社説の評価はC(平均的)

2019年12月21日土曜日

40歳未満で「マンモグラフィ」体験した作家・島本理生氏にメッセージ

20日の日本経済新聞夕刊くらしナビ面に載った「プロムナード~今年の人間ドック」という記事を取り上げたい。と言っても、今回は記事の批評はしない。筆者で作家の島本理生氏に「不必要な検査はもう受けないで!」とメッセージを送りたい。
巨瀬川(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

引っかかったのは以下のくだりだ。

【日経の記事】

そんなこともあって、三十代前半から自主的に人間ドックを受けている。

今年もかかりつけの病院に電話したら、なんと三カ月待ちで驚いた。あわてて予約を取り、前日には飲み会を入れないようにして、当日は空腹でぼうっとしたまま病院へ。

今回、初めて乳癌(がん)検査のためにマンモグラフィを体験した

痛いとは聞いていたが、根が我慢強い性格なのでさほど心配していなかったら、想像よりも痛くて、顔がくーっとなった。台の上に胸だけ置いてぎゅうぎゅうと機械で挟むという、よく考えると原始的な方法にも困惑しつつ、今度は一番苦手なバリウム検査へと向かった。

ところが毎回吐きそうになるうちに体がもう諦めたのか、ゆるい不快と共にわりにあっさり終了していた。

良くも悪くも三十代前半の頃に比べると持久力がなくなったことを実感しつつ全検査を済ませた私は、結果が出たものについては異常なし、という説明を受けてほっとした。


◎なぜ「マンモグラフィを体験」?

島本理生氏は36歳らしい。だとしたら「乳癌(がん)検査のためにマンモグラフィを体験」する必要はないはずだ。

ここでは「乳がん検診、30代には勧められない その代わりに…」という日経電子版の記事の一部を紹介しておこう。

【日経の記事(2016年7月7日付)】

2016年6月、東京・お台場で開催されていた日本乳癌学会学術集会の会場で、複数の乳腺外科医に若い世代が乳がんから身を守るには何をすべきなのか、検診を受けるべきなのかを質問してみた。医師たちの声は、ほぼ同じだった。

「30代やそれより若い世代は原則、マンモグラフィーなどの画像検診を受けることは勧めない。ただし、月に一度、自分で乳房を見て、触って異常がないかをチェックする自己検診は習慣づけておいたほうがいい」

検診は受けたほうがいいに決まっていると思いがちだが、専門家は、「20代や30代の乳がん検診はお勧めしない」という。なぜか。それは、この世代の乳がんはまれなため、がんが見つかることより、検診のデメリットのほうが明らかに大きいからだという。

◇   ◇   ◇

40歳未満での「マンモグラフィ」検診が有効だという根拠はないとされている。医療機関のサイトなどでも確認できるので、島本氏にぜひ見てほしい。

島本氏は2年に1回の頻度で「人間ドックを受けている」という。2年後はまだ38歳だ。「デメリットのほうが明らかに大きい」検査を受けずに済むように願わずにはいられない。

初めて経験した「マンモグラフィ」は「想像よりも痛くて、顔がくーっとなった」そうだ。カネと時間をかけて、痛い思いまでして「デメリットのほうが明らかに大きい」検査を受けたことになる。

問題なのは「かかりつけの病院」だ。40歳未満での「マンモグラフィ」検診が有効でないと医師が知らないとは考えにくい。島本氏が「どうしても」と頼んだのならば別だが、そうではないのならば「かかりつけの病院」の変更も検討してほしい。


※今回取り上げた記事

プロムナード~今年の人間ドック
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191220&ng=DGKKZO53347090T11C19A2KNTP00

乳がん検診、30代には勧められない その代わりに…
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO04412690U6A700C1000000/


※記事・筆者への評価は見送る

2019年12月20日金曜日

日経 小柳建彦編集委員の「インド、バブル収縮か」に感じた問題

20日の日本経済新聞朝刊国際2面に小柳建彦編集委員が書いた「相次ぐ住宅建設遅延や停止~インド、バブル収縮か 無法地帯へ規制、裏目に」という記事には色々と問題を感じた。まずは「相次ぐ住宅建設遅延や停止」に関する説明を見ていこう。
のこのしまアイランドパークのコスモス
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

インドが住宅市場の混乱に揺れている。2年前の法規制導入や昨秋来の信用収縮で多くのマンション建設が工事の遅延や停止に追い込まれ、融資していたノンバンクの不良債権が増える悪循環に陥っている。2008年リーマン危機以来の低成長に沈みつつあるインド経済で、根の深い構造問題の1つになっている。

「カネは払った。早く私のマンションを完成させてほしい」――。マンションの前払い価格200万ルピー(約300万円)を払ったというデリー在住の公務員は嘆く。

インドではいま、買い手から前受け金を集めたまま工事が止まって完成できなくなったマンションなど、多くの住宅不動産開発プロジェクトが滞っている。インド不動産コンサル大手アナロックによると9月末時点で、七大都市圏だけで販売価格総額4兆6400億ルピー(約7兆円)に当たる58万プロジェクトが深刻な工事の遅延または完全停止に陥っているという。

事態を重く見た政府は11月、工事再開資金を融資する2500億ルピーの国営ファンドを国有金融機関との共同出資で設立すると発表したが、問題全体の規模に比べると小粒さは否めない。

工事中止が続発する着火点になったのは17年5月に導入された不動産開発規制法だ。その前までインドの不動産開発事業は文字通り完全な無法地帯だった。デベロッパーはチラシ1枚で買い手から前受け金を集め、その資金で資材費や工事費を払って物件を建設するのが標準。つまり、自己資本なしで客から前借りした資金に丸々依存して事業を回していた。しかもその資金の他用途への流用が横行していた。



◎「自己資本なし」と言える?

自己資本なしで客から前借りした資金に丸々依存して事業を回していた」との説明が引っかかる。

まず「自己資本なし」と言えるだろうか。「デベロッパーはチラシ1枚で買い手から前受け金を集め、その資金で資材費や工事費を払って物件を建設するのが標準」だとしても、個別の「デベロッパー」が「自己資本なし」かどうかは判断が難しそうだ。

自己資本なし」と聞くと「自己資本率0%(あるいは債務超過)」だと理解したくなる。今回の記事の場合、「自己資金なし」と言いたかったのではないか。

前受け金」を「客から前借りした資金」とするのも気になる。「前受け金」は負債ではあるが、代金の一部とも言える。「その資金」で「物件を建設する」ことに問題があるような書き方をしているが、そうは感じない。インドでは違うのかもしれないが…。

完全な無法地帯だった」と聞くと「デベロッパー」が酷いことをしていたとの印象を持つ。しかし、具体的な内容はそれほどでもない。

その資金の他用途への流用が横行していた」ことも、日本的な感覚で言えば問題はない。入ってきた代金を銀行への利払いに充てたとしても、ちゃんと「物件を建設」すれば済む。責められる話ではない。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

新法は、前受け金を各プロジェクト専用の監査付き銀行口座で管理することを義務付けた。これで既存の住宅プロジェクトの多数がいきなり違法状態に。流用した資金を戻して専用口座を作れないプロジェクトは登録が認められず、相次いで工事を停止した。

18年秋に大手ノンバンクの経営破綻で発生した信用収縮が追い打ちをかけた。ノンバンクが手元資金不足に陥り、ノンバンク融資に頼っていたデベロッパーが相次ぎ債務不履行に。工事が止まる案件がさらに増えた。ノンバンクの不良債権が増え、ノンバンク向けとノンバンク発の両側で信用収縮が続いている。

民間住宅建設投資は自動車など耐久消費財の消費、企業の設備投資などとならんでインド経済の民需の柱の1つ。しかも不動産はインドの家計資産の7割を占め、その価値が毀損すると家計の購買力と消費意欲に響く。

11月末にインド政府が発表した7~9月の国内総生産(GDP)の伸び率は前年同期比4.5%。13年1~3月の4.3%以来の低さだ。中央銀行は12月5日、19年度の成長率予想を08年度以来の低さとなる5.0%と10月の前回予想から1.1ポイントも下方修正した。

アショカ・モディ・プリンストン大客員教授は「借金による不動産開発と建設業で経済成長をかさ上げしてきたバブルがとうとうしぼみ始めた」と厳しい見方を示す。



◎2019年が「バブル」のピーク?

まず、何を以って「バブル」と言っているのか分かりにくい。「借金による不動産開発と建設業で経済成長をかさ上げしてきたバブル」というコメントから判断すると、インド経済全体が「バブル」との趣旨だろう。

ただ、インドの経済成長率は近年のピークでも8%台。それが「バブル」なのかとは思う。他の指標で見れば違って見えるのかもしれないが、「バブル」状態にあったと納得できる材料を小柳編集委員は提示していない。

さらに言えば「バブルがとうとうしぼみ始めた」とのコメントも理解に苦しむ。「工事中止が続発する着火点になったのは17年5月に導入された不動産開発規制法」だ。そして「18年秋に大手ノンバンクの経営破綻で発生した信用収縮が追い打ちをかけた」。そこからさらに1年が経って「バブルがとうとうしぼみ始めた」のか。

しぼみ始め」てからしばらく経過していると見る方が自然な気もする。


※今回取り上げた記事「相次ぐ住宅建設遅延や停止~インド、バブル収縮か 無法地帯へ規制、裏目に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191220&ng=DGKKZO53583880Z11C19A2FF2000


※記事の評価はD(問題あり)。小柳建彦編集委員への評価はC(平均的)を据え置くが弱含みとする。小柳編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「インドの日本人増やすべき」に根拠乏しい日経 小柳建彦編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_32.html

北朝鮮のネット規制は中国より緩い? 日経 小柳建彦編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_17.html

ライドシェア「米2強上場が試金石に」が苦しい日経 小柳建彦編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/2.html

2019年12月19日木曜日

「ドラッグ出店年50店」で大丈夫? 日経 荒木望記者に感じる未熟さ

基礎的な技術が身に付いていないのに、十分な指導を受けないまま記事を世に送り出している--。日本経済新聞の荒木望記者はそんな状況にあるのだろう。19日の朝刊九州経済面に載った「ドラッグ出店年50店 ナチュラルHD、まず関西・東北~同業買収も検討 全国展開目指す」という記事からは、そう判断できる。
筑後川の河川敷(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の全文を見た上で、問題点を指摘したい。

【日経の記事】

九州が地盤の「ドラッグストアモリ」などを展開するナチュラルホールディングス(HD、福岡県朝倉市)は、年50店舗を新規出店していく方針を明らかにした。並行して各地の同業をM&Aなどで傘下に入れ、全国に店舗網を広げる。ドラッグストア業界は競争激化で、再編・提携が進んでいる。規模を拡大して生き残りを目指す。

ナチュラルHDは約280店舗あるモリのほか、中国地方を拠点に約160店舗ある同業のザグザグ(岡山市)を傘下に持っている。10月には宮城県の「くすりのベル」(同県美里町)を買収し、東北にも進出した。売上高も全体で2200億円規模まで増えている。

今後はまず、関西や東北などに出店していく。ナチュラルHDの森信社長は「5年以内に年50店を新規出店できる体制を整える」と話す。

新規出店で必要となる登録販売者らの確保へ、福利厚生を充実する。モリは2017年、本社内に保育園を開設して人手の確保につなげてきた。今後もこうした取り組みを出店エリアで実施することで、登録販売者をはじめ従業員を確保していきたい考えだ。

新規出店と並行し、各地の同業を買収することも検討している。規模拡大で仕入れ価格の低下など経費の削減も進められることから「出資比率は3割程度でも提携先を探し、出店と合わせ全国展開を目指す」(森社長)考えだ。

ナチュラルHDは規模拡大と同時に「専門知識を武器に、コンサルタントとして付加価値をつける」(森社長)ことで顧客満足度を高め、他社との違いを出していく。モリは起源である漢方薬局時代から、顧客との「対話販売」に力を入れてきた。今後も薬は登録販売員や薬剤師らが顧客に症状を聞きながら販売し、飲食料品などは低価格で提供していく。ナチュラルHDは30年にはグループで売上高5000億円を目指す。

ドラッグストアは店舗数が全国で2万店を超え、競争が厳しい。インバウンド(訪日外国人)による化粧品や薬などの「爆買い」は落ち着いてきている。飲食料品や日用品などは、コンビニエンスストア・食品スーパーなど他業態との価格競争も激しくなっている。

生き残りへ再編や提携も進んでいる。大手のマツモトキヨシホールディングスとココカラファインは8月、経営統合の協議入りを発表した。


「年50店舗を新規出店していく方針」?

最初の段落で「年50店舗を新規出店していく方針」と荒木記者は書いている。しかし読み進めると「ナチュラルHDの森信社長は『5年以内に年50店を新規出店できる体制を整える』と話す」と出てくる。この発言からは「年50店舗を新規出店していく方針」とは判断できない。「体制を整え」た上で、出店を「50店」より少なくする選択もあり得る。

5年以内に年50店を新規出店できる体制を整える」と話しただけで「年50店舗を新規出店していく方針」と書かれた場合、自分が「森信社長」の立場ならば「危ない記者だな。先走ったことを書くので要注意」と評価するだろう。

問題はそれだけではない。今回の記事は九州経済面のトップを飾っている。なので行数もそこそこある。しかし出店に関する話は前半で終わる。出店について十分な情報を提供した後ならば、背景説明に多くを割いてもいい。だが、そうはなっていない。

まず、これまでの出店数の推移が分からない。記事に付けたグラフで「店舗数」が増えてきたことは分かるが、これは「出店数」ではない。できれば具体的な過去の「出店数」を記事に盛り込みたい。

その上で、2020年の新規出店(できれば閉店も)の計画も見せたい。「5年以内に年50店を新規出店できる体制を整える」との発言から判断すると、2020年は「年50店」を下回るはずだ。

年50店を新規出店できる体制を整え」た後は実際に「年50店」を出していくのか。何年ぐらい「年50店」を続けるのか。どの程度の投資負担になるのか。入れたい情報はたくさんある。

今後はまず、関西や東北などに出店していく」と言うならば、それがどの程度の数になるのか。九州経済面なので地盤の九州での出店がどうなるかも触れたい。

各地の同業を買収することも検討している」といった話は、出店についてしっかり情報を盛り込んだ後で、余った行数の中に潜り込ませればいい。

メインテーマについてしっかり書き込むという基本が、この記事ではできていない。最近の日経の企業ニュース記事によく見られる傾向でもある。「業界の動向などをあれこれ書いて行数を伸ばして記事を仕上げれればいい」と荒木記者は考えているかもしれないが、その甘さは捨ててほしい。

まずはメインテーマに関して十分な情報を読者に与えるべきだ。業界動向などは「行数に余裕があれば触れる」との認識でいい。


※今回取り上げた記事「ドラッグ出店年50店 ナチュラルHD、まず関西・東北~同業買収も検討 全国展開目指す
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53523660Y9A211C1LX0000/


※記事の評価はD(問題あり)。荒木望記者への評価も暫定でDとする。

2019年12月18日水曜日

良い意味で日経らしくない「アサヒビール社長、販売量の非公表釈明」

18日の日本経済新聞朝刊企業1面に載った「アサヒビール社長、販売量の非公表釈明 『社員へのショック療法』」という記事は良い意味で日経らしくない。有力企業へのヨイショが目立つ日経だが、今回の「販売量の非公表」については「アサヒビール」に寄り添っていない。その点を評価したい。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
        ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

アサヒビールは17日、2020年からのビール系飲料の販売実績の公表方法についての記者説明会を開いた。これまでの販売数量ではなく、販売金額での公表に切り替える。ビール大手4社のシェア算出が難しくなるが、アサヒは国内のシェア競争の幕引きを図り、利益重視の販売に転換したいという。

アサヒを除く3社はビール系飲料の販売数量を公表し販売金額は開示していないため、20年1月からシェアが算出できないことになる。アサヒの塩沢賢一社長は「アサヒの勝手で申し訳ない」と釈明した。公表方法の変更は販売量の追求から脱却し、利益重視に転換したいためと説明した。

同社の試算では、ビール系飲料の市場規模は30年以降に急減するという。「今やらないと生き延びられない。社員の意識を変えるショック療法だ」(塩沢社長)という。ただ、利益を重視する社内の新たな指標は「策定中」とし、新指標ができるまで社内では販売数量を営業指標として使い続けるという。

業界内ではビール系飲料のシェアでアサヒを猛追しているキリンビールと比較されるのを避けたのではないかという指摘もある。ビール各社の販売量をもとにした19年の1~6月の推計では首位アサヒ(36.7%)をキリン(35.2%)が猛追し、1.5ポイント差と肉薄。20年には逆転する可能性もあったからだ。


◎行間を読み取ると…

記事を書いた記者は「どう考えてもシェア比較からの逃げだろ。利益重視とか言い訳が苦し過ぎる」と感じている気がする。行間から「アサヒビール」への厳しい見方が伝わってくる。

利益を重視する社内の新たな指標は『策定中』とし、新指標ができるまで社内では販売数量を営業指標として使い続けるという」と書いたのは「『利益重視に転換』と言いながら当面は『販売数量を営業指標として使い続ける』なんておかしい」と記者が感じたからだろう。

販売量の追求から脱却し、利益重視に転換したい」のならば、社内の評価基準を変えれば済む。「販売数量を公表」するかどうかは、情報開示の必要性の観点から考えるべきだ。

投資判断をする上で多くの市場関係者が「販売数量」を重視しているのならば、「公表」を継続するのが好ましい。「公表」するかどうかは「アサヒビール」の自由かもしれないが、記事で報じたような無理のある弁明をしているとすれば「ダメな会社なんだな」と思うほかない。

その判断材料をしっかり読者に伝えたという点でも、今回の記事は評価できる。他社の記事にも「シェアでアサヒを猛追しているキリンビールと比較されるのを避けたのではないか」という趣旨の記述はあるが、日経の記事はより踏み込んだ内容になっていると感じた。


※今回取り上げた記事「アサヒビール社長、販売量の非公表釈明 『社員へのショック療法』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191218&ng=DGKKZO53483110X11C19A2TJ1000


※記事の評価はB(優れている)

2019年12月17日火曜日

日経「ダイバーシティ進化論」巡り説明責任 果たした出口治明APU学長

16日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~女性縛り付ける国の制度 『働く個人』前提にすべき」という記事で「働かない方が得だ」とすべきところが「働かない方が特だ」となっていた。この件を立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏に直接問い合わせたところ「校正ミスです」との回答を得た。

日経にもほぼ同じ内容の問い合わせを送っている。女性面編集長の中村奈都子氏がどう対応するのか注目したい。

記事に関して、他の部分でも出口氏とのやり取りがあったので、その内容も紹介したい。


【出口氏への問い合わせと回答】

せっかくの機会ですので、記事に関して気になった点を述べておきます。まず前半部分です。

女性が社会で活躍することを妨げている大きな要因の1つに国の制度がある。具体的には、専業主婦世帯の課税所得を圧縮する『配偶者控除』と、専業主婦に対して国民年金の負担をゼロにする『第3号被保険者』制度だ。こんな制度があれば、無意識のうちに『控除の上限を超えて働いたら損だ』、『保険料を払わなくていいから働かない方が得だ』と考えてしまう。『女性も仕事を持つべきだ』という主張に対し『女性自身が必ずしも働きたいとは思っていない』と反論する人がいる。だがこうした制度や、解消しない待機児童問題などが存在する社会に身を置けば、『働くことは現実にしんどいから働かない方が特だ』と考えるのは自然だろう。制度が女性を家庭に縛り付け、人々の意識をゆがめる方向に働いていると考える

配偶者控除」と「第3号被保険者」は「専業主婦世帯」だけでなく「専業主夫世帯」にも適用されます。なのになぜ「制度が女性を家庭に縛り付け」となってしまうのですか。



※出口氏のコメント「歴史的経緯を考えるべきでは?



全体として見て、女性も男性も労働意欲に差がないと仮定します。そして「こうした制度や、解消しない待機児童問題などが存在する社会に身を置けば、『働くことは現実にしんどいから働かない方が得だ』と考えるのは自然(※誤字は修正しました)」だとしましょう。となると働かずに済む「専業主婦」や「専業主夫」を目指す人が出てきそうです。男女の労働意欲などの条件に差がない場合、「専業主婦」と「専業主夫」はほぼ同人数になるでしょう。なのに実際は「専業主婦」の人数が圧倒的に多いはずです。

配偶者控除」が適用されるのは「専業主婦」世帯だけで「専業主夫」世帯は対象外となっているのならば分かります。ですが、そうではありません。となると「労働意欲に差がない」との前提が間違っている可能性を考えたくなります。

推測ですが「働くことは現実にしんどいから働かない方が得だ」と考える人の割合に男女差はそれほどないでしょう。ただ、男性には「しんどくても働け」という社会的圧力が強いので「専業主夫」が少なくなっているのではありませんか。裏返せば「専業主婦」の方が多いのは、女性にそうした圧力が小さいからだと思えます。つまり共同体意識的な面で「女性に優しい(男性に厳しい)社会」だから「専業主夫」が少なく「専業主婦」が多いと感じます。男女を平等に扱っている場合、「制度が女性を家庭に縛り付け」ていると見るのは無理があります。



※出口氏のコメント「女性に優しい社会の根拠は?ジェンダー指数を始めとして、あらゆるデータは、わが国が女性に厳しい社会である事を示していると思います



記事の終盤にも引っかかる記述がありました。

CMや商品パンフレットで、働く夫と専業主婦の妻、子供2人という家族モデルが標準として広く使われていることも問題だ。モデルが広まると、それに当てはまらない人が挙証責任を負うのだ。1人の人はなぜ結婚しないのか、カップルの人はなぜ子供を産まないのかと。大きなお世話だ。今や単身世帯は4人世帯より圧倒的に多い。本当に良い社会を作ろうと思うなら、標準モデルは男女を問わず"働く個人"であるべきだ。もちろん同性や異性のパートナーと一緒に生活したり、子供がいたりするケースもあるだろうが、原則は個人。原則と例外を何にするかは、社会を形作る上で大きな意味を持つのだ

モデルが広まると、それに当てはまらない人が挙証責任を負うのだ」と記した上で、そうした状況に関して「大きなお世話だ」と出口様は訴えています。なのに「標準モデルは男女を問わず"働く個人"であるべきだ」と主張するのは解せません。それが「標準モデル」になれば「働かない個人」が「なぜ働かないのか」と「挙証責任を負う」のではありませんか。それは「大きなお世話」ではないのですか。


※出口氏のコメント「ホモ・サピエンスの歴史を見ると、男女を問わず働くことが普通であることがよくわかると思います。標準モデルは、例外ではなく、原則をモデルとすべきです


結婚しない」のも「子供を産まない」のも自由だが、働かないのはダメというのが出口様の考えなのですか。「宝くじで2億円を得たので、後は働かずにのんびり暮らしたい」といった生き方は「標準モデル」から外れるので「挙証責任を負う」べきなのですか。だとしたら、その線引きはかなり恣意的です。


◇   ◇   ◇


出口氏のコメントに対しては以下のように返信した。

【出口氏への返信とそれに対する出口氏のコメント】

まず「歴史的経緯を考えるべきでは?」についてです。これは趣旨がよく分かりませんでした。もう少し具体的でないと「考えるべき」かどうか判断できません。手掛かりが乏しい中であれこれ考えてみましたが「歴史的経緯を考えるべき」だとは思えませんでした。



※出口氏のコメント「戦後の製造業の工場モデルが、女性は家庭、という性分業をもたらし、こういった制度が作られたのです



次に「女性に優しい社会の根拠は?ジェンダー指数を始めとして、あらゆるデータは、わが国が女性に厳しい社会である事を示していると思います」についてです。

本当に「あらゆるデータは、わが国が女性に厳しい社会である事を示している」でしょうか。例えば「世界幸福度調査」はどうでしょう。日本は「男性よりも女性のほうが幸福度が高く、その差が世界一」(文春オンライン)だそうです。

出口様に関係の深い「大学」で見たらどうでしょう。日本では、男性に門戸を開いている国立大学と、女性に門戸を開いている国立大学、どちらが多いと思いますか。言うまでもなく後者です。公的な大学教育に関しても「男性に厳しい」面があります。



※出口氏のコメント「この二つの例外で、賃金格差やジェンダー指数など数々のファクトが覆るとは、到底思えません



最後に「ホモ・サピエンスの歴史を見ると、男女を問わず働くことが普通であることがよくわかると思います。標準モデルは、例外ではなく、原則をモデルとすべきです」についてです。

標準モデルは、例外ではなく、原則をモデルとすべきです」については「標準モデルは、例外ではなく、多数派をモデルとすべきです」との趣旨だとしましょう。その場合、「働く夫と専業主婦の妻、子供2人という家族モデル」が多数派であれば「標準モデル」として良いとの立場なのですか。「当てはまらない人が挙証責任を負う」ので好ましくないと記事で訴えたのではありませんか。

なのになぜ「標準モデルは男女を問わず"働く個人"であるべきだ」とのなるのかというのが私の疑問です。この「モデル」でも「当てはまらない人が挙証責任を負う」のは同じです。出口様のコメントは私の疑問に答えていないと思えます。



※出口氏のコメント「標準モデルは、規範性をも持つべきです



さらに言えば、「ホモ・サピエンスの歴史」全体を見て「標準モデル」を考えるのですか。であれば「子育てを主に女性が担う」のも「ホモ・サピエンスの歴史」では「普通」だったと思えます。それを前提に今の社会の「標準モデル」を作るべきでしょうか。前述の「歴史的経緯を考えるべき」とも絡みますが、ここで「ホモ・サピエンスの歴史」を考慮する必要があるとは思えません。時代の変化に応じて、今の状況に最適な「標準モデル」を考えるのが合理的ではありませんか。



※出口氏のコメント「子育ては、社会全体で担ってきたのが、ホモ・サピエンスの歴史です

◇   ◇   ◇


これに対して以下の内容でさらに返信した。

【出口氏への返信】

まず「戦後の製造業の工場モデルが、女性は家庭、という性分業をもたらし、こういった制度が作られたのです」についてです。

制度が女性を家庭に縛り付け」ているかどうかを判断するのに「歴史的経緯」を考慮する必要はなさそうだと感じました。仮に「戦後の製造業の工場モデルが、女性は家庭、という性分業をもたらし、こういった制度が作られ」たとしても、それが今も「女性を家庭に縛り付け」ているかどうかは、やはり別問題でしょう。

次に「この二つの例外で、賃金格差やジェンダー指数など数々のファクトが覆るとは、到底思えません」についてです。

あらゆるデータは、わが国が女性に厳しい社会である事を示している」と言えないのは納得していただけたと思います。因みに「例外」かどうかは微妙です。例えば、私はシネコンで映画を観るたびに「女性はレディースデーに割引が受けられていいなぁ」と感じます。ジェントルマンデーはもちろんありません。

何を重視するかで判断は変わるでしょうが、私から見ると日本は明らかに「女性に優しい(男性に厳しい)社会」です。「今の日本に生まれてくるならば男と女のどちらを選ぶか」と聞かれたら、迷うことなく「女」と答えます。

それに同意してほしいとは思いませんが、出口様の記事には決め付けが過ぎる印象はあります。「あらゆるデータは、わが国が女性に厳しい社会である事を示している」と認識していては、的確な分析は難しいでしょう。

最後に「子育ては、社会全体で担ってきたのが、ホモ・サピエンスの歴史です」についてです。

子育てを社会全体で担う」と「子育てを主に女性が担う」は矛盾しません。両立します。出口様も「ホモ・サピエンスの歴史では、子育てを主に男性が担ってきた(あるいは、半々で担ってきた)」とは思わないでしょう。

それに、出口様の見解に従うと「戦後の製造業の工場モデルが、女性は家庭、という性分業をもたらし」という説明も好ましくないのではありませんか。戦後の日本では全体として見れば、男女が力を合わせて「家庭」を支えてきたはずです。「女性は家庭」とも限りません。例えば、私の母親は定年までフルタイムで働いていました。昭和の日本社会で多数派ではなかったものの、極めて稀な存在でもありませんでした。


◇   ◇   ◇


記事に関するやり取りはここまで。

標準モデルは、規範性をも持つべきです」についてはコメントするのを忘れていたので捕捉したい。

記事では「モデルが広まると、それに当てはまらない人が挙証責任を負うのだ。1人の人はなぜ結婚しないのか、カップルの人はなぜ子供を産まないのかと。大きなお世話だ」と書いていた。

標準モデルは、規範性をも持つべきです」というのが「それに当てはまらない人が挙証責任を負う」のは当然との趣旨ならば「大きなお世話だ」との主張と整合しない。

ただ、今回は「出口氏が説明責任を果たしたこと」を高く評価したい。問題点を指摘されても逃げずに向き合う書き手であれば、記事の質的向上も期待できる。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~女性縛り付ける国の制度 『働く個人』前提にすべき
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191216&ng=DGKKZO53320930T11C19A2TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏への評価はDで据え置くが、強含みと言える。出口氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

「ベンチがアホ」を江本氏は「監督に言った」? 出口治明氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_2.html

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/apu.html

日経で「少子化の原因は男女差別」と断定した出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/apu.html

2019年12月16日月曜日

「プロゴルファーに複数年契約はない」と日経に書いた浜田昭八氏に問う

スポーツライターの浜田昭八氏には「そろそろ書き手としての引退を検討してはどうか」と以前に提案した。その評価は、16日の朝刊スポーツ2面に載った「選球眼~高額年俸は活躍してこそ」という記事を読んでも変わらなかった。ゴルフに関する説明で違うと思える部分もあったので、以下の内容で問い合わせを送っている。
撤去作業中の旧神代橋(福岡県久留米市)
         ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

スポーツライター 浜田昭八様  日本経済新聞社 運動部 担当者様

16日朝刊スポーツ2面に浜田様が書いた「選球眼~高額年俸は活躍してこそ」という記事についてお尋ねします。記事の中に「プロゴルファーや大相撲の力士に複数年契約はない。賞金王も三役力士も負け続けると無収入になることもある」との記述があります。しかし「プロゴルファー」に「複数年契約」はあると思えます。

スポーツ報知は2018年1月1日付で「松山英樹、ダンロップと日本人ゴルフ史上最高の5年30億円で契約延長」と報じています。トッププロであれば「複数年契約」で多額の収入を得ている例は珍しくありません。

プロゴルファーに複数年契約はない」との説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会ですので、記事にいくつか注文を付けておきます。

まず「それにしてもプロ野球選手の年俸はと、会食の席では一野球記者にすぎない筆者に"億万円プレーヤー"続出の契約更改に非難めいたことばを浴びせ続けられた」というくだりの「億万円プレーヤー」が引っかかりました。言いたいことは何となく分かりますが、「1億万円」といった用法は適切とは言い難いので「億万円プレーヤー」も記事で使うのは避けた方が良いでしょう。

次は以下のくだりです。

とても実現しそうにないことだが、契約更改の時期がくるたびに『年俸を完全な出来高払いに』と提唱してきた。長期ペナントレースを戦う体力とプロ選手としての体面を維持するために、一定の"生活給"は保証しなければなるまい。だが、それ以外は『出場していくら。打って、投げていくら』の世界へ徹底化を図るべきだろう

一定の"生活給"は保証しなければなるまい」との立場ならば、「『年俸を完全な出来高払いに』と提唱してきた」とは言えません。「一定の"生活給"」を「保証」する場合、「不完全な出来高払い」にしかならないはずです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。日経では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「選球眼~高額年俸は活躍してこそ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191216&ng=DGKKZO53388580V11C19A2UU2000


※記事の評価はD(問題あり)。浜田昭八氏への評価はDを維持する。浜田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経のコラムで「リクエスト制度に大過なし」と浜田昭八氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_43.html

浜田昭八氏の理解力に問題あり 日経「選球眼~選手と首脳陣つなぐ本音」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_16.html

2019年12月15日日曜日

鈴木敏文氏の責任追及はなし? 日経社説「時代見失ったセブンの失態」

ここに至っても、セブンイレブンの絶対的な権力者として君臨した「鈴木敏文氏」の責任は追及できないのか--。15日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「時代見失ったセブンの失態」という社説を読んで、そう思わずにはいられなかった。まず、残業代未払い問題に関して社説では以下のように書いている。
のこのしまアイランドパークのコスモス
       ※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

コンビニエンスストア最大手のセブン―イレブン・ジャパンが、加盟店で働くアルバイトやパート従業員の残業手当の一部が未払いだったことを発表した。

同社の記録が残っているだけで約3万人分、約4億9千万円の未払いが発生している。2001年に労働基準監督署から指摘されていたのに、当時はこの事実を公表していなかった

しかもそれ以前の残業代の未払い部分は支払わなかったほか、なぜこうした事態になったのかも不明という。意図的ではないとしても、あってはならないことだ。

働く人々を軽視してきた会社と言われても仕方がない。「そこまでやるのか」と社内外に思われるぐらい徹底して、過去に遡って未払い分を支払うべきだ



◎「未払い分を支払う」だけ?

『そこまでやるのか』と社内外に思われるぐらい徹底して、過去に遡って未払い分を支払う」のはいい。だが、それだけなのか。「なぜこうした事態になったのか」は検証しなくていいのか。特に「2001年に労働基準監督署から指摘されていたのに、当時はこの事実を公表していなかった」事実は重い。社内の管理体制に問題があったのは明白だ。鈴木氏の責任も免れない。

なのに社説の筆者は「鈴木氏を含む過去の経営陣の責任を追及すべきだ」とは求めない。それどころか最後にはしっかりヨイショまでしてしまう。そこも見ておこう。


【日経の社説】

営業体制の見直しでは、ファミリーマートやローソンの対応が早く、セブンは後手に回る。セブンが成長したのは創業者の鈴木敏文氏の口癖でもあった「変化対応」が速かったからだ。業界トップのセブンが信頼回復を急がないと個人消費にも影響しかねない。



◎「変化対応」ができていたら…

セブンが成長したのは創業者の鈴木敏文氏の口癖でもあった『変化対応』が速かったからだ」と言うが、「2001年に労働基準監督署から指摘されていたのに、当時はこの事実を公表していなかった」上に、その後もずっと「未払いが発生」していたのであれば、昔から「変化対応」が不十分だったと見るべきだ。

なのに改めて「鈴木敏文氏」を持ち上げるような書き方をするのが理解できない。「鈴木敏文氏」は責任を追及される側の人間だ。日経はこれまで「鈴木敏文氏」ベッタリの記事を量産してきた。今回の社説の筆者もその一員だった可能性が高い。

なので「鈴木敏文氏」の責任追及には及び腰なのだろう。だが、そこは乗り越えてほしい。それこそ「鈴木敏文氏の口癖でもあった『変化対応』」が日経にも求められている。


※今回取り上げた社説「時代見失ったセブンの失態
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191215&ng=DGKKZO53377550U9A211C1EA1000


※社説の評価はC(平均的)

2019年12月14日土曜日

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」

ネタがないのだとは思うが、14日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~日系米国人と連帯しよう」という記事は苦しい内容だった。
筑後川橋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

冒頭から説得力に欠ける話が出てくる。

【日経の記事】

日米外交で、日系米国人の存在はこうも大きいのか。そう実感したのが、2004年、生前のダニエル・イノウエ米上院議員(民主党)を取材したときのことだ

日系人への差別が過酷だった先の大戦中、彼は愛国心を示そうと、あえて米軍に志願し、イタリア戦線で片腕を失った。その後、政界で重きをなし、大統領の継承順位で3位に上りつめていた。

「有望な新人にバラク・オバマ君という上院議員がいてね。日米政界をつなぐ人材になってもらいたいから、日米議員交流の窓口をやってもらっているんだ」

イノウエ氏はこう語り、当選したてのオバマ氏に日米議員交流を任せていると明かした。オバマ氏が大統領になる5年前だ。

残念ながら12年にイノウエ氏は他界した。いま米政界の中枢に、イノウエ氏のような日系人はいない。日本はもっと、日系人社会とのつながりを大切にし、関係の裾野を広げるときだ。



◎どこに「存在」の大きさが…

日米外交で、日系米国人の存在はこうも大きいのか」と秋田氏が「実感したのが、2004年、生前のダニエル・イノウエ米上院議員(民主党)を取材したとき」だ。この時の何があったかと言えば、記事から分かるのは「イノウエ氏」が「当選したてのオバマ氏に日米議員交流を任せていると明かした」ことだけだ。

それでどうして「日米外交で、日系米国人の存在はこうも大きいのか」と「実感」したのか謎だ。「当選したて」の議員に「日米議員交流を任せている」のは、そんなに凄いことなのか。この時に「オバマ氏が大統領になる」と秋田氏は知らなかったはずだ。

仮に「5年後には大統領になる」と予想していたとしても、「日米外交で、日系米国人の存在はこうも大きいのか」という感じるのは解せない。それによって「日米外交」がどう動いたのか見えないからだ。

例えば「イノウエ氏」の一言で膠着していた日米交渉が一気に動き出したといった話を「取材したとき」に聞いたのならば分かる。しかし、そうはなっていない。

記事をさらに見ていこう。

【日経の記事】

日系人は長年、日本と疎遠だった。大戦中、「敵性外国人」として強制収容所に入れられ、人種差別に苦しんだ過去があるためだ。このため、戦後は日系人であることは強調せず、「模範的な米国民」として米国社会に溶け込むことを優先せざるを得なかった。

イノウエ氏が日米交流に情熱を傾けるようになったのも、ようやく晩年になってからだ。そんな日系人との連帯に、日本側も必ずしも熱心とはいえなかった。

しかし、近年、状況は様変わりしつつある。日系人であることを誇りに感じ、日本と関わろうとする新世代が台頭している。


◎「日系人は長年、日本と疎遠だった」?

まず「イノウエ氏が日米交流に情熱を傾けるようになったのも、ようやく晩年になってからだ」という説明が怪しい。中国新聞によると「イノウエ氏」は2002年に広島市を訪問し「県とハワイ州の友好提携5周年の記念式典に出席したり」したようだ。

これは「他界」する10年前の出来事だ。「晩年」と言えるか微妙になってくる。「県とハワイ州の友好提携5周年の記念式典に出席」しているのだから、「友好提携」関係に発展する過程でも「イノウエ氏」が尽力したと推測できる。その場合「日米交流に情熱を傾けるようになったのも、ようやく晩年になってからだ」という説明はさらに苦しくなる。

日系人は長年、日本と疎遠」で「近年、状況は様変わりしつつある」という見立てにも同意できない。例えば、日系人初のスペースシャトル乗員であるエリソン・オニヅカ氏は1983年に先祖の墓参りのため福岡県浮羽町(現在のうきは市)を訪ね、地元の中学校で記念講演をしている。こうした事実を踏まえた上で「日系人は長年、日本と疎遠だった」と秋田氏は言い切っているのか。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~日系米国人と連帯しよう
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191214&ng=DGKKZO53333820T11C19A2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

2019年12月13日金曜日

文藝春秋「LINEはソフトバンクを救えるか」でも間違えた大西康之氏

ジャーナリストの大西康之氏の記事は相変わらず間違いが目立つ。FACTA12月号の「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」という記事でも間違いを指摘したが、回答はない。そして同じくソフトバンク関連で、今回は文藝春秋の記事に誤りと思える記述を見つけた。
のこのしまアイランドパークの六地蔵(福岡市)
          ※写真と本文は無関係です

文藝春秋の編集部には以下の内容で問い合わせを送った。


【文藝春秋への問い合わせ】

大西康之様  文藝春秋 担当者様

新年特別号の「LINEはソフトバンクを救えるか」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは冒頭の説明です。

ソフトバンクグループ(SBG)が創業以来の大赤字を発表した12日後、華々しく脚光を浴びたヤフーとLINEの経営統合の記者会見の場に孫正義の姿はなかった。ヤフーの親会社は携帯電話大手のソフトバンク。その親会社がSBG。3社とも上場会社である。親会社と子会社の利益が相反した時に子会社の少数株主の利益が侵害される恐れから『親子上場』には批判がある。ましてSBGから見てヤフーは『孫』。SBG社長の孫がしゃしゃり出たのでは、ヤフー社長の川邊健太郎の立場がない

上記の説明は「ソフトバンクグループ(SBG)が創業以来の大赤字を発表した12日後」、つまり2019年11月18日時点のことと判断できます。

その時点で「ヤフーの親会社は携帯電話大手のソフトバンク」と言えますか。10月に体制が変わっているので、「ヤフーの親会社」はZホールディングスではありませんか。

これに関しては「親会社の親会社も親会社に当たる」との弁明が成り立つとしても、11月18日時点の「ヤフー」は上場していないので「(SBG、ソフトバンク、ヤフーの)3社とも上場会社」という説明は間違いでしょう。さらに言えば「SBGから見てヤフーは『孫』」ではなく「ひ孫」となるはずです。

様々な点で記事の説明は誤りではありませんか。回答をお願いします。間違いならば次号で訂正してください。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

ちなみに同じ号の「丸の内コンフィデンシャル~ヤフーとLINEの事情」という記事では、今回の「経営統合」に触れて「インターネット検索サービス ヤフーの親会社Zホールディングス」と書いています。「ヤフーの親会社は携帯電話大手のソフトバンク」なのか「Zホールディングス」なのか。読者を混乱させていませんか。

◇   ◇   ◇

上記の件以外に関しても記事の出来は悪かった。「LINEはソフトバンクを救えるか」がメインテーマなのに、それをまともに論じていない。もちろん答えも出していない。そしてメインテーマと関連の乏しいウィーワークなどの話が長々と続く。

文藝春秋が大西氏に記事を任せる理由は何なのだろう。しっかりした記事を書ける「ジャーナリスト」だと判断しているのだろうか。



追記)結局、回答はなかった。



※今回取り上げた記事「LINEはソフトバンクを救えるか


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html

「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/jdifacta.html

FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/factajdi.html

FACTA「中国に買われたパソコン3社の幸せ」に見える大西康之氏の問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/facta3.html

FACTA「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」大西康之氏の理解力に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/facta1.html

2019年12月11日水曜日

セブンイレブン「旧経営陣」の責任問わぬ日経 田中陽編集委員の罪

日本経済新聞の田中陽編集委員が電子版に書いた「『誠実』の社是が泣いている セブンイレブン」という記事にはがっかりした。今回明らかになった「セブンイレブン」の「残業手当の未払い」問題では「旧経営陣」の責任追及が欠かせない。なのに田中編集委員はそこに踏み込もうとはしない。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)のコスモス
            ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

しかし、最近のセブンイレブンの行いはどれも「誠実な企業でありたい」という社是に背を向けたことが多い。10日、明らかになったパートやアルバイトなど店舗で働く従業員の残業手当の未払い。労働基準監督署からの指摘で判明してからも公表もしていなかったし補填もしていないという。先月は本部社員によるおでんの無断発注が表面化。会社として謝罪をしたが、氷山の一角という声もセブンイレブンの加盟店主などからは聞こえてくる。



◎「最近」限定?

最近のセブンイレブンの行いはどれも『誠実な企業でありたい』という社是に背を向けたことが多い」と書くと「以前は違っていた」と理解したくなる。しかし「10日、明らかになったパートやアルバイトなど店舗で働く従業員の残業手当の未払い」に関して日経は別の記事で「未払いが始まった時期は分かっておらず、セブンが創業した70年代からだった可能性もある」と報じている。

この記事では「01年6月に労基署から受けた職責手当や精勤手当に基づく残業手当が支払われていないとの指摘だったが、当時はこの事実を公表せず、現在もそれ以前の未払い分を支給していない」とも記している。

だったら昔から「『誠実な企業でありたい』という社是に背を向けた」企業だったはずだ。なのに田中編集委員は以下のようにも書いている。

【日経の記事】

小売業は創業時に巨額な資本や生産設備も持たなくても始めることができる。極めて参入障壁が低い産業だ。それゆえに企業存立の基盤は信用という無形の資産に頼らざるをえない。悪い商品を売ってしまえば消費者(地域社会)から支持を失う。商品代金の支払いが滞れば取引先の信頼も一瞬にして吹っ飛ぶ。そんな商売をしていたら社員も働きがいをなくす。多くのステークホルダー(利害関係者)から「誠実な企業」と思われなければ存続が危うくなることを自戒していたからだ。結果的に利益の蓄積ができて株主にも報いた。そんな企業姿勢が徹底していたころ、同社は小売業界の「優等生」と呼ばれていた



◎「誠実」だった時期があった?

誠実な企業」であろうとする「企業姿勢が徹底していた」時期があり、その頃には「小売業界の『優等生』と呼ばれていた」と田中編集委員は認識しているようだ。しかし「未払いが始まった時期は分かっておらず、セブンが創業した70年代からだった可能性もある」のだから、「創業」当時から不誠実だった可能性は十分にある。

そして、田中編集委員は以下のように記事を締めている。

【日経の記事】

今年を振り返りセブンで起きた数々の問題への対応は後手と誤算の連続だった。その多くが旧経営陣からの流れで起きたことへの同情もあるが既に新体制となって3年を経過している。ガバナンスの面から言っても現経営陣に言い訳はできないはずだ。誠実の社是が泣いている。



◎「編集委員の肩書」は泣いてない?

セブンの絶対的な権力者だった鈴木敏文氏を長年持ち上げてきた田中編集委員にとって「ずっと前から不誠実な企業だった」では都合が悪い。だから「現経営陣」の問題に矮小化したいのだろう。気持ちは分かるが、それではダメだ。

なぜこういう事態になったのかを探る上で「旧経営陣」、中でも鈴木氏の責任追及は避けて通れない。「01年6月」に「労基署から受けた」指摘を「公表」しなかった件は特に重要だ。

報道によると鈴木氏は「残業手当の未払い」問題について「知らなかった」という趣旨の説明をしているようだ。だが、素直に信じることはできない。

鈴木氏が非公表を指示していた、あるいは黙認していたのならば、経営者としてのモラルが問われる。本当に問題の所在を知らなかったのならば、ガバナンスの面で長期に亘って重大な欠陥を抱えていたことになる。

そこに迫り問題の核心を論じるのが田中編集委員の役割のはずだ。その時は自らの不明を恥じた上で、鈴木氏を筆頭に「旧経営陣」の責任を追及してほしい。できないのならば、流通担当の編集委員としての存在価値はない。


※今回取り上げた記事「『誠実』の社是が泣いている セブンイレブン
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53175730Q9A211C1TJ1000/


※記事の評価はD(問題あり)。田中陽編集委員への評価はDを据え置く。田中編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「小売りの輪」の説明が苦しい日経 田中陽編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_21.html

「セブン24時間営業」の解説が残念な日経 田中陽編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24_11.html

日経 田中陽編集委員の「経営の視点」に見えた明るい兆し
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_12.html

「文系学部であれば名門校でも4~5割は女子学生」? 海老原嗣生氏に問う

雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏はきちんとデータを確認して記事を書いているのだろうか。そう思わせる記事が日本経済新聞に載っていた。「昨今は、文系学部であれば名門校でも4~5割は女子学生である」と海老原氏は言う。しかし違う気がする。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
       ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。


【日経への問い合わせ】

雇用ジャーナリスト 海老原嗣生様 日本経済新聞社 担当者様

10日の夕刊ニュースぷらす面に載った「就活のリアル~『少子化で採用難』と嘆く前に 解決のカギは女性活躍」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。

その昔は男尊女卑風潮の中で女性たちは『4大(4年制大学)行ったら就職ないよ』といわれて渋々と短大に通っていた。文学部や教育学部を除けば、男子学生の割合が9割を超える大学も少なくなかったのだ。ところが昨今は、文系学部であれば名門校でも4~5割は女子学生である

代表的な「名門校」の東京大学で見ると、女子学生比率は法学部で21%、経済学部で18%です。文学部でも27%に過ぎません。京都大学は法学部が24%で経済学部が18%。一橋大学は法学部が32%で経済学部が13%(数字はいずれも旺文社の『大学受験パスナビ』のものです)。

こうしたデータを見る限り、「文系学部であれば名門校でも4~5割は女子学生」との説明は誤りではありませんか。「名門校」であれば「文系学部」でも「女子学生」比率が「4~5割」に届かないのは普通です。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

記事ではもう1つ気になりました。「かつては確かに学年人口が倍はいたが、そのうち、大学に行くのは男性ばかりであり、女性に門戸が開かれていなかった。ところが現在は、人口こそ半分になれ、男女が機会均等になりつつある」と海老原は記しています。しかし、見てきたように東大、京大などの「名門校」では「女子学生」比率が低く、理系ではさらに差が大きくなります。となると、上位層に関しては全体として男子学生が「女子学生」よりも優秀だと判断できます。

女性活躍をしっかり推進している企業は、それほど人材難にはなっていない。一方、男性偏重を変えられなかった企業は、より強く人手不足にさいなまされている」と海老原様は訴えています。だから「男性偏重」を改めろとの趣旨でしょうが、「いわゆるターゲット校」を「名門校」に絞った場合、新入社員の男性比率が高くなるのは自然な流れだと思えます。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。日経では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。担当者様は「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「就活のリアル~『少子化で採用難』と嘆く前に 解決のカギは女性活躍
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191210&ng=DGKKZO53155560Q9A211C1EAC000


※記事の評価はD(問題あり)。海老原嗣生氏への評価も暫定でDとする。

2019年12月10日火曜日

「負の循環」が引っかかる日経1面連載「安いニッポン」

日本経済新聞朝刊1面で始まった「安いニッポン」という連載の企画自体は悪くない。取材班の問題意識も記事から読み取れる。ただ「安い=好ましくない」との前提が感じられるのが引っかかった。10日の「(上)価格が映す日本の停滞~ディズニーやダイソーが世界最安値」という記事の一部を見ていこう。
巨瀬川(福岡県久留米市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

モノやサービスなど日本の価格の安さが鮮明になってきた。世界6都市で展開するディズニーランドの入場券は日本が最安値で米カリフォルニア州の約半額。100円均一ショップ「ダイソー」のバンコクでの店頭価格は円換算で200円を超す。割安感は訪日客を増やしたが、根底には世界と比べて伸び悩む賃金が物価の低迷を招く負の循環がある。安いニッポンは少しずつ貧しくなっている日本の現実も映す



◎「負の循環」と言える?

伸び悩む賃金が物価の低迷を招く」としても、それが「負の循環」とは思えない。状況としては考えにくいが、「伸び悩む賃金が物価の高騰を招く」のならば、まさに「負の循環」だ。

世界6都市で展開するディズニーランドの入場券は日本が最安値で米カリフォルニア州の約半額」だとしよう。「ディズニーランド」が大好きな人にとって「日本」は悪くないはずだ。

取材班の中には知らない人もいるだろうが、かつては日本の物価の高さが問題となっていた。「内外価格差を解消するために余計な規制をなくそう」といった話もよく聞いた。それが逆転してきた訳だ。個人的には悪くない展開だと思える。

記事で気になった点は他にもある。

【日経の記事】

こうした価格差は日本の為替レートが低く評価されすぎていることが理由の一つにあるとされてきた。

例えばハンバーガー価格の違いから為替水準を探る英エコノミスト誌の「ビッグマック指数」。7月時点の計算によると、日本で390円のビッグマックは米国では5.74ドル。同じモノの価格は世界中どこでも同じと仮定すると、ここからはじき出す為替レートは1ドル=67.94円となる。

ただ、実際のレートは1ドル=110円前後で30%強円安だ。その分円を持つ人にとってはドルで売られるビッグマックが高く感じられる。

ディズニーランドやダイソーの価格も同様に指数化して実際のレートと比べると対米ドルやタイバーツで46~50%強の円安となり割高感が増す。

だが第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「今の価格差は為替では説明がつかない状況にある」と話す。足元では企業の賃上げが鈍り、働く人の消費意欲が高まらない。その結果、物価低迷が続き景気も盛り上がらない「負の循環」(同)が日本の購買力(総合2面きょうのことば)を落ち込ませているからだ。

経済協力開発機構(OECD)などによると、1997年の実質賃金を100とすると、2018年の日本は90.1と減少が続く。海外は米国が116、英国は127.2など増加傾向にある。


◎「為替相場で説明がつく」のでは?

今の価格差は為替では説明がつかない状況にある」という「第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミスト」のコメントがよく分からない。購買力平価の考え方に基づいて為替相場が調整されれば「安いニッポン」ではなくなる。これは確実だ。

個別の「モノやサービス」に関しては「説明がつかない状況」もあり得る。例えば「ディズニーランドの入場券」だけが他国の10分の1以下と突出して割安ならば「為替では説明がつかない」かもしれない。だが「モノやサービス」全般が同じように「安いニッポン」になっている場合は「為替」で「説明」できるはずだ。


※今回取り上げた記事「安いニッポン(上)価格が映す日本の停滞~ディズニーやダイソーが世界最安値
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191210&ng=DGKKZO53150550Q9A211C1MM8000


※記事の評価はC(平均的)

2019年12月9日月曜日

豪州と時差なし? 週刊東洋経済「ニセコ 熱狂リゾートの実像」に注文

週刊東洋経済12月14日号の第3特集「ニセコ 熱狂リゾートの実像」を担当した一井純記者はよく取材しているとは思う。ただ、記事中の説明で引っかかる点が2つあったので、以下の内容で問い合わせを送った。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)のコスモス
            ※写真と本文は無関係です


【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集長 山田俊浩様  一井純様

12月14日号の第3特集「ニセコ 熱狂リゾートの実像」についてお尋ねします。質問は2つです。

(1)オーストラリアと日本に時差はないのですか?

記事には「代わりに治安のよい地域のスキー場を模索していた豪州人がニセコに着目。雪質が良好で時差がなく、季節が真逆のため通年でスキーを楽しめることから、その存在が瞬時に広まった」との記述があります。

記事を信じれば、オーストラリアと日本に時差はないはずです。しかし1~2時間程度の時差はあると思えます。例えば、シドニーとの時差はサマータイム期間中の現在で2時間となっています。時差が小さいとは言えますが「時差がなく」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


(2)売却に伴う損失でも「減損」ですか?

次に問題としたいのは以下のくだりです。

彼らを思いとどまらせるのは、バブル崩壊後にリゾートの減損処理に追われた苦い記憶だ。現在のニセコHANAZONOリゾートは、もともと東急不動産が開発・運営していた。92年の開業直後にバブルが崩壊。資産整理の一環で04年に現在の豪州資本へと売却された。帳簿価格63億円に対し、売却価格はわずか2億円だった。ニセコビレッジも元をたどれば西武の開発だ。バブル崩壊のあおりを受け、06年にスキー場やゴルフ場、ホテルを含む全国のリゾート施設を米シティグループに売却。24億円の減損が発生した

減損処理」とは「資産の市場価格の低下や、資産から生み出される収益の低下があり、資産に対して行った投資の回収が見込めなくなった場合に、その分を損失として計上し、その資産の帳簿価額を切り下げること」(デジタル大辞泉)です。「売却」して「損失」が出たのならば「減損処理」は必要ありません。売却損を計上すれば済みます。

全国のリゾート施設を米シティグループに売却。24億円の減損が発生した」との書き方から判断すると「売却」に伴って「減損が発生した」はずです。これは単に売却損が「発生した」だけではありませんか。「売却」したのならば「その資産の帳簿価額を切り下げる」必要はありません。

資産整理の一環で04年に現在の豪州資本へと売却された。帳簿価格63億円に対し、売却価格はわずか2億円だった」との説明も同様です。「帳簿価格63億円」の「資産」を「2億円」で「売却」する場合に「減損処理」は不要でしょう。

減損処理」に関する記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた特集「ニセコ 熱狂リゾートの実像
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/22291


※特集全体の評価はD(問題あり)。一井純記者への評価も暫定でDとする。

2019年12月8日日曜日

「勝者総取り」に無理がある週刊ダイヤモンド「孫正義、大失敗の先」

経済記事の書き手として週刊ダイヤモンドの杉本りうこ副編集長を高く評価している。村井令二記者と共に手掛けた12月14日号の特集2「孫正義、大失敗の先」も悪い出来ではない。ただ「勝者総取り」に関する説明は納得できなかった。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
      ※写真と本文は無関係です

当該部分を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

創業者の人物にほれ込み、即断即決で出資を決めることは、まさに「孫流」の投資スタイルである。1996年、米国でジェリー・ヤン氏とデイビッド・ファイロ氏に会い、創業間もなく社員も5~6人しかいない小さな会社に100億円をぽんと出資した。米ヤフーであり、今の日本のヤフーにつながっている

2000年には中国で、ジャック・マー氏が創業したアリババグループに20億円の出資を即断。マー氏は技術者でも何でもない、単なる英語教師だったが、アリババはインターネット通販で大成功し、モバイル決済サービスのアリペイも中国全土に普及させた。ショッピングから金融まで、中国人の生活に密着した幅広いサービスを提供し、ユーザーを囲い込む勝者総取りの強いビジネスモデルを構築した

これと思った経営者に驚くほどの巨額を投じ、その市場の需要を総取りするガリバー企業を生み出す孫氏の手法は、インターネットサービスの本質を見事に捉えていた。ネットサービスでは、ユーザーが増えれば増えるほどそのサービスの価値が高まる。いわゆる「ネットワーク効果」だ。当初はもうからなくても、さらには相当の期間にわたり赤字を垂れ流しても、規模さえ取れれば最後には勝てるというパワーゲームだ


◎アリババが「総取り」?

記事からは「アリババ」が「ユーザーを囲い込む勝者総取りの強いビジネスモデルを構築した」と取れる。しかし「大成功」した「インターネット通販」で中国市場に限っても5割強のシェアしかないようだ。であれば「総取り」には程遠い。「中国の小売市場」「世界のネット通販市場」といった括りでは「勝者総取り」からさらに遠くなる。

米ヤフー」や「今の日本のヤフー」が「勝者総取り」を実現させたかどうかは語るまでもない。

ネットワーク効果」が働くので「ネットサービス」では「需要を総取りするガリバー企業」が生まれやすいとは、よく聞く話ではある。しかし実際にそうなっている事例はあまり見当たらない(自分が知らないだけかもしれないが…)。

付け加えると「規模さえ取れれば最後には勝てるというパワーゲーム」という説明も引っかかった。

ここで言う「パワーゲーム」とは「体力勝負」に近い意味だろう。だが、本来は「大きな力を持つ国や権力者間の主導権争い」(大辞林)を指す。間違った使い方とは言わないが、「規模さえ取れれば最後には勝てるという体力任せの勝負」などとした方がしっくり来る。

勝者総取り」に関しては他にも気になる記述があった。

【ダイヤモンドの記事】

国民的人気を誇るヤフーは、LINEとの統合で1億人を超えるユーザー基盤を確保し、国内のネット市場の覇権を握る(①)。まさに孫氏の「勝者総取り」の思想を体現するパワーゲームだ。



◎「覇権」を握れないような…

まず「ヤフーは、LINEとの統合で1億人を超えるユーザー基盤を確保し、国内のネット市場の覇権を握る」との説明が苦しい。「①」のグラフを見ると「インターネットサービスの平均月間利用者数」で1位ヤフー、2位グーグル、3位ユーチューブ、4位LINEとなっている。

グラフを見る限り「ヤフーは、LINEとの統合で1億人を超えるユーザー基盤を確保」できるのは確かだ。しかし、グーグルとユーチューブもアルファベット傘下なので、まとめて見る必要がある。そうすると「ヤフーLINE」連合は「利用者数」で負けている。なのに「国内のネット市場の覇権を握る」と言えるのか。

利用者数」以外の要素も考慮すれば「覇権を握る」のかもしれないが、記事中にそうした説明はない。

そして「勝者総取り」の問題だ。「ヤフーLINE」連合は「『勝者総取り』の思想を体現するパワーゲーム」を仕掛けて、グーグル、フェイスブック、楽天などを国内市場から締め出す存在となり得るのか。その可能性は限りなくゼロに近い気がする。


※今回取り上げた特集「孫正義、大失敗の先
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/28243


※特集全体の評価はC(平均的)。杉本りうこ副編集長の評価はB(優れている)を維持する。村井令二記者への評価はD(問題あり)からCに引き上げる。杉本副編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「TSUTAYA特集」に見えた東洋経済 杉本りうこ記者の迫力
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_27.html

「2.5次元」で趣味が高じた東洋経済「熱狂!アニメ経済圏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/25.html

文句の付けようがない東洋経済の特集「ネット広告の闇」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_19.html

2019年12月6日金曜日

「交渉拒否」はなぜスルー? 日経「ウーバーイーツ労組、報酬巡り団交求める」

6日の日本経済新聞朝刊企業1面に載った「ウーバーイーツ労組、報酬巡り団交求める 日本法人に」という記事は肝心の情報が抜けている。全文を見た上で具体的に指摘したい。
姪浜旅客待合所(福岡市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

ウーバーイーツの配達員らがつくる労働組合「ウーバーイーツユニオン」は5日午前、米ウーバーテクノロジーズの日本法人(東京・渋谷)を訪れ、団体交渉を求める申し入れ書を手渡した。ウーバー側が一部地域で報酬体系を見直しており「一方的な切り下げ」として説明を求めている。

ウーバーイーツは11月29日、東京地区で報酬の体系を見直した。配達員の収入は、配送距離などに応じた基礎報酬と、配達回数などに応じたボーナス分で構成されている。

ウーバー側はこのうち基礎報酬の単価を引き下げた。例えば、1キロメートルあたりの単価は150円から60円になった。

ウーバー側は、天引きする手数料を35%から10%に引き下げたほか、ボーナス分なども上積みしたため、「配達パートナーの皆さまの収入に影響を与えることは想定していない」と説明。料金体系の変更は「日本でビジネスを続けるために、12月から日本での事業体系を見直した」ためだとしている。


◎他のメディアは伝えているのに…

団体交渉を求める申し入れ書を手渡した」という話がニュースなのだから、「ウーバーイーツ」が「団体交渉」に応じるかどうかは重要な情報だ。なのに記事では触れていない。

ウーバー側」がこの件でコメントを拒んでいるからかと思ったが、NHK、TBS、東京新聞は「交渉拒否」と伝えている。日経の記者は基礎的な技術を欠いたまま記事を書いているのか、それとも何らかの意図があるのか…。

NHKによると「会社側は、配達員は個人事業主で労働者にはあたらないとして交渉を拒否している」。今回の件では「配達員」が「労働者」に当たるかどうかも大切な論点と言える。しかし日経はこれもスルー。まともなニュース記事に仕上げる気があるのか。

ついでに言うと、最初の段落で「ウーバー側が一部地域で報酬体系を見直しており」と「地域」をボカして書き、次の段落で「東京地区で報酬の体系を見直した」と説明するのは無駄だ。最初から「ウーバー側が東京地区で報酬体系を見直しており」と記した方がスッキリする。


※今回取り上げた記事「ウーバーイーツ労組、報酬巡り団交求める 日本法人に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191206&ng=DGKKZO53028670V01C19A2TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年12月5日木曜日

予想通りに苦しい日経1面連載「データの世紀~理解者はキカイ」

日本経済新聞の朝刊1面連載「データの世紀~理解者はキカイ」が予想通りに苦しい展開となっている。 5日の「(3)買いたたかれるベテラン~情報の山、鉱脈かノイズか」という記事もツッコミどころが多い。記事を見ながら具体的に指摘していく。
のこのしまアイランドパークのコスモス
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

2019年初め。ネット上では、米大リーグのダラス・カイケル投手(31)へ激励のつぶやきが相次いだ。「ヤンキースはすぐに契約すべきだ」「15年の最優秀投手なのに

アストロズの主軸として長年活躍した。18年末に自由契約になったが、交渉はことごとく決裂する。「もう、そんなことは関係なくなったみたいだよ」。ファンの声にカイケル投手は諦めるように応じた。

あらゆる価値をデータで測る「新しき理解者」は恣意性も誤りもないはずだ。そんなデータ至上主義の高まりが、経済や社会の仕組みを大きく変え始めた。

「ベテラン1人より、若手数人に投資する方が合理的という経営が広がっている」。著名代理人の団野村氏は大リーグで進む「データ野球」を解説する。重視するのは「勝利貢献度」「成長曲線」「球の回転数」といった新たな尺度だ。


◎「データ」との関連が…

米大リーグのダラス・カイケル投手」の話が「データ」とどう関連するのか記事からは判断できない。引く手あまたであるべき選手が「あらゆる価値をデータで測る『新しき理解者』」によって排除された事例のつもりなのだろう。

しかし「カイケル投手」の成績に関しては「アストロズの主軸として長年活躍した」「15年の最優秀投手」といった情報しかない。「15年」に大活躍しても、その後に成績が振るわなければ契約に至らないのは当然だ。しかし肝心の「18年」シーズンの成績に触れていない。これは苦しい。

付け加えると、なぜ「ヤンキース」なのか説明せずに「ヤンキースはすぐに契約すべきだ」という声を入れているのも感心しない。また、野球で「主軸」と言う場合、打者を指すのが一般的だ。「投手」に使うのは間違いとは言わないが、お薦めしない。

さらに言えば「重視するのは『勝利貢献度』『成長曲線』『球の回転数』といった新たな尺度だ」との説明も納得できない。「球の回転数」は「新たな尺度」かもしれないが、「勝利貢献度」と「成長曲線」は以前から「重視」されていた気がする。

次の事例には「予測」の「精度」に関する問題がある。「凄いことが可能になった」と取材班は訴えたいのだろうが同意できない。

【日経の記事】

データ活用は日常の隅々にまで広がる。それは人が大事にしてきた文化や価値観をも揺さぶっている。

今夏、北欧ヘルシンキ。「この人は5年以内に心臓病を患って亡くなる」。医療技術企業、ナイチンゲールヘルスのティーム・スナさんは身震いした。

血液成分から被験者の5年後、10年後の死亡確率を8割の精度で予測できる。4万人の血液と病歴を解析した。スナさんは「多くの人を救いたい」と検査アプリへ応用を急ぐが、社内外で慎重論は絶えない。

自分が数年以内に死ぬと分かれば、人は絶望するだけではないか」。「死期予測」機能を搭載するか、一朝一夕に結論は出ない。

技術の進化は個人の潜在能力や寿命すら把握できてしまうところまで来た。だがその根拠となるデータは常に正しいとは限らない。


◎「8割の精度」は凄い?

まず「5年後、10年後の死亡確率を8割の精度で予測できる」との説明がよく分からない。例えば「5年後の死亡確率は50%」と「予測」したとしよう。そして5年以内に死亡した場合、「予測」は当たったのか。それとも外れたのか。

この人は5年以内に心臓病を患って亡くなる」という記述から判断して、「予測」するのは「死亡確率」ではなく「死亡しているかどうか」だと仮定しよう。これを「8割の精度で予測できる」という話ならば分かる。

ただ、この場合「8割の精度」が凄いかどうかは微妙だ。「被験者」の選び方さえ任せてくれたら、自分でも9割以上の「精度」を実現できるだろう。

例えば、大学生100人を集めて全員を「5年後も10年後も生きている」と「予測」する。あるいは、80代の末期がん患者100人全員を「10年以内に死亡」と「予測」する。これで9割以上の「精度」を達成したとしたら、取材班のメンバーは「ほとんどデータに頼らず『寿命すら把握できてしまう』なんて凄い」と驚いてくれるだろうか。

この人は5年以内に心臓病を患って亡くなる」という記述から判断すると、「ナイチンゲールヘルス」では死因も含めて「8割の精度で予測できる」とも取れるが、これも記事では明示していない。

総合すると、何となく「大した話ではないのだろう」とは感じる。しかし記事では「自分が数年以内に死ぬと分かれば、人は絶望するだけではないか」「技術の進化は個人の潜在能力や寿命すら把握できてしまうところまで来た」などと煽ってくる。

その強引さは「技術の進化」を取り上げる時の日経1面連載の宿命なのかもしれないが…。


※今回取り上げた記事「データの世紀~理解者はキカイ(3)買いたたかれるベテラン 情報の山、鉱脈かノイズか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191205&ng=DGKKZO52735280Y9A121C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年12月4日水曜日

週刊ダイヤモンドが日経ビジネスに圧勝 「東芝の親子上場解消」巡る記事

東芝が親子上場解消の対象から東芝テックだけを外した件に関しては、週刊ダイヤモンド(筆者は千本木啓文記者)の記事の出来が日経ビジネス(筆者は佐伯真也記者と竹居智久記者)を大きく上回っていた。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
          ※写真と本文は無関係です

日経ビジネス11月25日号に載った「時事深層 COMPANY~東芝、上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ」という記事では、「同社(=東芝テック)株は年初から7割ほど上昇しており、単純に『高値づかみ』を避けたかったのかもしれない」と書いた程度で「東芝テック対象外のなぜ」にまともに迫っていない。

一方のダイヤモンド12月7日号の「Close Up~世界首位レジ子会社の売却も検討 東芝が親子上場『完全解消』見送り」という記事は及第点だ。その一部を見ていこう。


【ダイヤモンドの記事】

そんな優良子会社を、あえて上場企業のまま放置するのはなぜなのか──。

その理由は、「完全子会社化しても他の3社のようにEPSを20%以上改善することはできない」(東芝幹部)からなのだが、その要因は三つある。

一つ目は、海外のPOSレジ事業の大部分が米IBMから買収した資産であるため、「統合後のシナジーを読みにくい」(同)ことだ。他の上場子会社3社の源流が東芝で、社内事情が分かるため統合効果を出しやすいのとは対照的だ。

二つ目の要因として、購買データを活用したビジネスは現状の資本関係(9月30日現在、東芝テック株式の東芝の持ち分比率は52.4%)でも東芝主導で拡大できることがある。

東芝幹部は「他社製のレジでの買い物でも、スマートフォンのアプリを活用すれば購買データは集められる。東芝テックは購買データのビジネスにとって重要なパートナーだが絶対的に不可欠な存在ではない」と言い切る。

最後の三つ目が一番重要なのだが、東芝がそもそも東芝テックの成長性を疑問視していることだ。

東芝テックの営業利益率は19年3月期で3.8%、23年3月期の目標は同6.0%で、東芝全体の利益目標と比べて見劣りする。

しかも、キャッシュレスなどの決済の多様化やセルフレジの普及というハードウエア拡販のための「追い風」が吹いているのに、東芝テックは中期経営計画で、現在の売上高4800億円について22年3月期までほぼ横ばいを見込む。


POSレジなど東芝テックの製品はコモディティ化しつつある上に、データビジネスで中計期間中に「大化け」させられるかどうか、同社自身が半信半疑なのである。

しかも、東芝テックには長年、モノ言う株主から指摘されてきた「突っ込みどころ」がある。

実は、オフィス用のプリンターなどを扱うプリンティング事業を持っており、その成長が期待できないのだ。

東芝の株主である米ファンドのキング・ストリート・キャピタル・マネジメントは18年、東芝テックのプリンティング事業について「売却を含めたあらゆるオプションの検証」を東芝に求めた。

同ファンドは要求の根拠として、プリンティング事業の市場が年間2%ずつ縮小するとみられることや、プリンターやファクスなどの機能を持つ複合機が市場シェア11位にとどまること、そして「POSレジ事業とのシナジー効果が欠如している」ことを挙げた。

実際に、プリンティング事業は競合他社との価格競争や米中市場の減速が直撃し、19年4~9月期の営業利益率は1.9%まで下がっている。プリンティング事業を売却するにも、キヤノンなどの競合他社も市場の縮小に苦しむ中で前向きなM&A(企業の合併・買収)が成立しにくいのが現状だ。


◎「納得できた」とは言わないが…

海外のPOSレジ事業の大部分が米IBMから買収した資産であるため、『統合後のシナジーを読みにくい』」といった説明には「本当にそうかな」と思わないでもないが良しとしよう。
筑後川橋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

大事なのは「そんな優良子会社を、あえて上場企業のまま放置するのはなぜなのか」との疑問に対して、答えをきちんと探ろうとしたかどうかだ。日経ビジネスの記事と比べるとダイヤモンドの方が明らかに頑張りを感じる。「東芝幹部」に独自取材した形跡も見える。発表から時間を置いて記事にするのだから、日経ビジネスのようなあっさりとした分析では取り上げる意味が乏しい。

ただ、ダイヤモンドの記事では「親子上場は解消すべきだという政府の方針がある」との説明が引っかかった。これに関しては、編集部への問い合わせと、それに対する回答を見てほしい。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】


週刊ダイヤモンド編集部 千本木啓文様

2019年12月7日号「Close Up~世界首位レジ子会社の売却も検討 東芝が親子上場『完全解消』見送り」という記事についてお尋ねします。記事では東芝テックに関して「親子上場は解消すべきだという政府の方針がある以上、完全子会社化しないなら、売却を検討せざるを得ない」と記しています。しかし「親子上場は解消すべきだという政府の方針がある」とは思えません。

今年6月21日に公表された政府の「成長戦略実行計画」では「親子上場」について以下のように述べています。

支配的な親会社が存在する上場子会社のガバナンスについては、投資家から見て、手つかずのまま残されているとの批判があり、日本市場の信頼性が損なわれるおそれがある。
このため、新たに指針を策定し、親会社に説明責任を求めるとともに、子会社側には、支配株主から独立性がある社外取締役の比率を高めるといった対応を促す。また、東証の基準等についても見直しを図る

親会社に説明責任を求める」「子会社側には、支配株主から独立性がある社外取締役の比率を高めるといった対応を促す」とは書いてあります。しかし「成長戦略実行計画」の内容からは「親子上場は解消すべきだ」との「政府の方針」はないと解釈するのが自然です。

親子上場は解消すべきだという政府の方針がある」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、何を根拠に「親子上場は解消すべきだという政府の方針がある」と記事で断言したのか教えてください。


【ダイヤモンドの回答】

いつもご購読ありがとうございます。お問い合わせいただいた件について以下、回答申し上げます。

当該の記事で、「親子上場は解消すべきだという政府の方針がある」と書いたのは以下の2つの理由からです。

(1)当該の記事の取材の過程で、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を策定した経済産業省の産業組織課に対して、上場子会社を残す場合に親会社に求める「説明責任」の意味合いについて聞いたところ、同課担当者から「親子上場を解消するまでの過渡的措置である」と説明を受けました。このことから、政府は原則的に「 親子上場は解消すべき」という考えであると理解しました。

(2)東芝や日立製作所への企業幹部に対する取材により、「政府が将来的に親子上場を解消する方針である」 との前提に立ち企業戦略を練っているとの言質を得ております。実際に、東芝の平田政善CFO(最高財務責任者)は親子上場解消を発表した当日の会見で、「(親子上場は解消すべきという)政府方針があるので、どこかで最終判断をする」と明言しています。

以上、ご確認よろしくお願いいたします。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「Close Up~世界首位レジ子会社の売却も検討 東芝が親子上場『完全解消』見送り
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/28184


※記事の評価はC(平均的)。千本木啓文記者への評価はE(大いに問題あり)からC(平均的)に引き上げる。千本木記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「不祥事頻発」の分析が怪しい週刊ダイヤモンドの自衛隊特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_69.html

間違い目立つ週刊ダイヤモンド「ハイブリッド戦争」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_10.html

東芝メモリ買い手を「強盗と詐欺師」に見せる週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_2.html

東芝メモリ売却の「教訓」に説得力がない週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_69.html


※日経ビジネスの「時事深層 COMPANY~東芝、上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ」という記事に関しては以下の投稿を参照してほしい。

取材不足では? 日経ビジネス「上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_23.html


※「親子上場」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

親子上場ってそんなに問題? 日経「株式公開 緩むルール」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_19.html

KNTの「親子上場」を批判するFACTAに異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/kntfacta.html

「親子上場」否定論に説得力欠く日経「大機小機」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_77.html

ヤフーとアスクルの件で「親子上場の問題点浮き彫り」という日経に異議
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_24.html

ヤフー・アスクルの件を「親子上場」の問題と捉える日経の無理筋
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post.html

「弊害」多いのに「親子上場の禁止」は求めない日経社説の謎
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_5.html

日経記者に読んでほしい藤田勉・一橋大学特任教授の「親子上場肯定論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_29.html

「親子上場」だと「資本効率が下がる」? 日経 佐藤亜美記者の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_27.html

2019年12月3日火曜日

「あなたの活躍、8割的中」は本当に凄い? 日経1面連載「データの世紀」

日本経済新聞の朝刊1面で苦しそうな連載が始まった。技術革新が世界を大きく変えると訴える企画記事が日経は大好きだが、成功確率は低い。3日の「データの世紀 理解者はキカイ(1)あなたの活躍、8割的中 AI上司は知っている『見える化』の代償も」という記事にも説得力は感じられなかった。

フラワーのこ(福岡市の姪浜渡船場で)
      ※写真と本文は無関係です

まずは最初の事例を見ていこう。

【日経の記事】

悩みを聞いてもらう相手は家族や友人、職場の先輩というのは過去の話になるかもしれない。表情や声などから、個人の内面すら読み取るデータ技術が登場する。あなたのことをあなた以上に知り、会社では生産性の向上、私生活では人生相談に一役買う。「理解者はキカイ」になる時、私たちは何を見るのか。

今成勉さん(64)は8月、部下の男性社員の「人物診断書」に目を疑った。成績優秀。人当たりも良い。あいさつを欠かさず、変わった様子はないはずだ。「明るいあいつがなぜ……」

今成さんが勤める京浜商事(横浜市)は、各社員の内面を「見える化」する独特の人材評価システムを使う。アルゴリズムで顔を解析し「行動力」「責任感」「安定性」など12項目を評価する。欠点がなさそうに見えた部下の男性だが「自信」が極度に低かった

今成さんは元警察官で、人を見る目には自信がある。最初は診断結果を疑ったが、念のため男性社員に話を聞くと、子育てや親戚付き合いで悩みを抱えていた

「やっと言えてほっとしました」。面談後の表情は見違えるようだった。「キカイの方が人を見る目があったとは」。今成さんは幹部候補選びでも活用を検討する。

テクノロジーで働く人を感情面から支援する「トランステック(総合2面きょうのことば)」に注目が集まる。外見から分からない心の動きをデータで示し、社内の交流や仕事の効率化を促す。膨大なデータを駆使する21世紀だからこそ可能になった「新しき理解者」だ


◎「キカイの方が人を見る目があった」?

上記の事例から「キカイの方が人を見る目があった」と言えるだろうか。「キカイ」が判断したのは「『自信』が極度に低かった」ことだ。そして「面談」で「子育てや親戚付き合いで悩みを抱えていた」と分かったらしい。

キカイ」が「男性社員」について「子育てや親戚付き合いで悩みを抱えていた」と見抜いたのなら分かる。しかし教えてくれたのは「自信」のなさだけだ。「悩み」と関連があるかどうかも微妙だ。

自信」のなさが「子育てや親戚付き合い」の「悩み」から来ているとは限らない。元々が「自信」に欠けるのかもしれない。「面談」で分かったことと「キカイ」の判断を強引に結び付けている可能性はかなりある。

次の事例はさらに無理がある。

【日経の記事】

米調査会社トラクティカによると、感情分析の市場規模は2025年に4100億円と18年の20倍に膨らむ見通し。あらゆる職場でキカイの理解者が活躍し始めたが、同時に私たち人間にも大きな変化を迫る。

ネット広告のセプテーニ・ホールディングスは、採用活動で人工知能(AI)の判断を重視する。学生の考え方や経験を聞くアンケート、初期選考の結果など約100項目から入社後の「活躍可能性」が算出される。

10年分の人事評価データに基づく予測の的中率は8割。新卒採用の100人中、2割はネット面接のみで合否が決まり、4月の入社式で初めて会社に来る人もいる。

経験や勘に基づいた人の判断は曖昧だ。そんな不満が、データ分析で個々の未来を予測する技術を発展させた。担当の江崎修平さんは「AIに任せる仕事が増えた分、人に求められる能力もどんどん変わっている」と気を引き締める。



◎「的中率8割」の中身が…

あなたの活躍、8割的中」と見出しにも使っているが、「予測の的中率は8割」に関する説明は引っかかる。「セプテーニ・ホールディングス」の使う「AI」が具体的にどういう「予測」をしているか分からないからだ。

イメージしやすいように、プロ野球選手で考えてみよう。「A選手は入団1年目からレギュラーに定着し、入団から10年続けて打率3割以上、本塁打20本以上を記録する」と「AI」が「予測」して「的中」させたら、凄いと思える。

これが「A選手は引退するまでに1本以上の本塁打を打つ」との「予測」だったらどうか。このレベルの「予測」で「的中率は8割」だとしても驚くには値しない。

AIなどの進歩を取り上げた企画記事では「こんなに凄いことが起きている」と訴えないと話が成り立ちにくい。しかし、取材班が望むような大きな変化は簡単には起きてくれない。それが記事で紹介した事例から透けて見えるのは皮肉だ。


※今回取り上げた記事「データの世紀 理解者はキカイ(1)あなたの活躍、8割的中 AI上司は知っている『見える化』の代償も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191203&ng=DGKKZO52568640V21C19A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年12月2日月曜日

「収益力」との関連付けに無理がある日経「SDGs経営調査」

調査にカネをかけた以上、何か意義ある結果が見つからなければ困るのは分かる。しかし、強引に意義付けすると調査そのものへの信頼性が低下してしまう。2日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「『課題解決力』収益けん引 本社SDGs調査~環境・社会問題への対応『経営計画反映』6割」という記事を読むと、日経が「SDGs」と「収益力」で無理のある関連付けをしているのが分かる。
筑後川橋(福岡県久留米市)と夕陽
      ※写真と本文は無関係です

当該部分を見ていこう。

【日経の記事】

日本経済新聞社は上場企業など国内637社について、国連の「持続可能な開発目標(SDGs=総合・経済面きょうのことば)」にどう取り組んでいるかの視点で格付けした「SDGs経営調査」をまとめた。環境や社会など「非財務」の成果を投資判断に加える動きが広がるなか、上位34社で後続グループよりも自己資本利益率(ROE)などの指標が高い傾向がみられた。新規事業の開発や経営計画にSDGsを取り入れ、課題解決の力を成長につなげる機運が高まっている。

中略)偏差値65以上は34社。このグループの売上高営業利益率とROE(16~18年度平均の中央値)は、それぞれ8.2%、11%だった。偏差値60以上65未満だと、7.8%、10.1%。55以上60未満では6.7%、8.2%と下がっている。SDGsを経営に生かしている企業ほど、収益力が高い傾向が鮮明となった



◎「業績」を評価に加えたからでは?


SDGs経営調査」では企業を「『SDGs戦略・経済価値』『環境価値』『社会価値』『ガバナンス』の4つの視点で評価した」という。特集面に載った「評価の方法」でさらに詳しく見ると「SDGs戦略・経済価値」は「方針、報告とコミュニケーション、推進体制・社内浸透、ビジネスでの貢献、業績の5指標」となっている。

業績」も含めて評価すれば、「業績」の良い企業が「上位」に来るのは当然だ。なのに「上位34社で後続グループよりも自己資本利益率(ROE)などの指標が高い傾向がみられた」「SDGsを経営に生かしている企業ほど、収益力が高い傾向が鮮明となった」などと訴えて意味があるのか。

SDGs経営調査は今回、初めて実施した」らしい。この種のごまかしに手を染めなければ記事として成り立たないのならば、調査は今回を最後にした方がいい。


※今回取り上げた記事「『課題解決力』収益けん引 本社SDGs調査
環境・社会問題への対応『経営計画反映』6割
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191202&ng=DGKKZO52834640R01C19A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年12月1日日曜日

「初期費用回収」の計算が雑な日経ビジネス池松由香ニューヨーク支局長

日経ビジネスの池松由香ニューヨーク支局長はやはり書き手として評価できない。12月2日号の「時事深層 FRONTLINE ニューヨーク~テスラの『自動運転タクシー構想』、始動か」という記事も分析が雑だ。「米テスラの低価格EV(電気自動車)『モデル3』」に触れて「1年強の期間、クルマに『働いて』もらえば、初期費用が回収できる計算になる」と池松支局長は言うが、そういう「計算」にはなりそうもない。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
        ※写真と本文は無関係です

当該部分を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)によれば、モデル3は従来のEVと異なり、圧倒的に投資対効果を高めた車両だ。車両価格は3万5000ドル(約380万円)からと安い。さらにマスクCEOはモデル3の高い耐久性とランニングコストの低さをアピールしており、イエローキャブがどんどん「テスラ化」する可能性は十分にある。

日本の自動車メーカーにとって脅威になり得るが、これはその「序章」にすぎない。その理由は、テスラが今年4月に発表した「テスラネットワーク」計画にある。自動運転車両を使ってライドシェアサービスを提供するというもの。ウーバーテクノロジーズなどライドシェア大手のサービスを、運転手なしで実現するというわけだ。

このネットワークは主に同社が所有するクルマで構成するが、個人所有のテスラ車も参加できる点が構想の目玉だ。タクシー会社がこのネットワークを運営するパートナーとなる可能性はあるが、構想が実現すればタクシー会社はパイを奪われるだろう。

だが、オセロのコマがひっくり返る可能性があるのは個人所有の市場も同じだと考えられる。前述の通り、個人所有のテスラ車もネットワークに参加できるからだ。未使用の間、車両が勝手に「出勤」して移動サービスを顧客に届けることができる。同社の試算では、1日16時間稼働させれば年間最大3万ドルの収益がオーナーの手に入るという。1年強の期間、クルマに「働いて」もらえば、初期費用が回収できる計算になる。これは所有者にとって魅力的だ。


◎そんなに単純な話?

モデル3」の「車両価格は3万5000ドル(約380万円)からと安い」。「自動運転車両」を使った「ライドシェアサービス」には「個人所有のテスラ車もネットワークに参加できる」。そして「1日16時間稼働させれば年間最大3万ドルの収益がオーナーの手に入る」。だから「1年強の期間、クルマに『働いて』もらえば、初期費用が回収できる計算になる」--。池松支局長はそう考えたようだ。納得できただろうか。

ライドシェアサービス」に使う「自動運転車両」は今の「モデル3」と同じ価格になるとの前提を感じるが、そうなのか。タクシーとして使える運転者不要の「自動運転車両」であれば、発売当初はかなりの高価格になりそうな気がする。

では、同程度の価格であれば「1年強」で「初期費用が回収できる」だろうか。ここで言う「年間最大3万ドルの収益」とは「年間最大3万ドルの『収入』」との前提で考えたい。

車は購入すれば後は費用ゼロで動いてくれる訳ではない。「電気自動車」であれば電気代はかかるだろう。修理や保険にも費用が発生する。これらを含めて「初期費用が回収できる」かどうかを検討すべきだ。

百歩譲って費用は「3万5000ドル」のみとしよう。しかし、「3万ドルの収益」とはあくまで「最大」のケースだ。「3万5000ドル」を払ってEVを買えば、例えば5年間は何もしなくても毎年「3万ドル」が入ってくるとしよう。こんな旨い話はあまりないので、多くの人が市場に参入しそうだ。そうなれば得られる「収益」は大幅に低下する。そして「3万ドルの収益」を得られる人はほとんどいなくなるはずだが…。

こうした様々な壁を乗り越えて、それでも「1年強の期間、クルマに『働いて』もらえば、初期費用が回収できる計算になる」と池松支局長は思えるだろうか。よく考えてみてほしい。


※今回取り上げた記事「時事深層 FRONTLINE ニューヨーク~テスラの『自動運転タクシー構想』、始動か
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00424/


※記事の評価はD(問題あり)。池松由香支局長への評価もDを据え置く。池松支局長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

 日経ビジネス池松由香記者の理解不能な「トヨタ人事」解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_9.html

大げさ過ぎる? 日経ビジネス特集「中国発 EVバブル崩壊」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/ev.html

手抜きが過ぎる日経ビジネス池松由香ニューヨーク支局長の記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_19.html

2019年11月30日土曜日

井上智洋 駒沢大准教授による日経ビジネス「気鋭の経済論点」の問題点

日経ビジネス11月18日号の「気鋭の経済論点~世界の天才集める中国 国力を決める『頭脳資本主義』」という記事はツッコミどころの多い内容だった。筆者である駒沢大学経済学部准教授の井上智洋氏に問題があるのだとは思うが、構成を担当した中山玲子記者の責任も重い。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
       ※写真と本文は無関係です

問い合わせから11日が経ってようやく回答が届いた。質問も含む形となっている回答の内容を紹介したい。


<日経ビジネス編集部の回答>

いつも日経ビジネスをご愛読いただき、誠にありがとうございます。11月18日号の「気鋭の経済論点~世界の天才集める中国 国力決める『頭脳資本主義』」について、お寄せ頂いたご質問につき、以下、回答させていただきます。

(1)「ユニコーン」の定義について

【ご質問】

記事では中国企業に関して「時価総額が1000億円以上の未上場企業であるユニコーンが次々と生まれた」と記しています。「ユニコーン」と見なす基準は一般的には「時価総額が10億円ドル以上」です。御誌の9月16日号にも「未上場ながら企業価値が10億ドルを上回る『ユニコーン』」との記述が見られます。「時価総額が1000億円」では今の為替相場で計算すると「10億ドル」に届きません。

「ユニコーン」を「時価総額が1000億円以上の未上場企業」とするのは誤りではありませんか。あるいは9月16日号の説明が間違っているのでしょうか。

【ご回答します】

読者が理解しやすいように、日本円で表記いたしました。また、金額の数字についても、
読者の理解しやすさなどを総合的に判断し、「1000億円」と表現いたしました。
頂戴したご指摘は今後、参考にさせていただきます。ありがとうございます。


(2)1860~1914年の「覇権国家」について

【ご質問】

記事に付けた表によると「1860~1914年」の「第2次産業革命」で言えば「そのときの覇権国家」は「米国(ドイツ)」です。常識的には、第1次世界大戦を契機として英国から米国への「覇権」交代が起きたのではありませんか。世界システム論で知られる米国の社会学者イマニュエル・ウォーラーステイン氏などもこの立場です。

 「そのときの覇権国家」に明確な基準はないとは思いますが、一般的な認識とかけ離れていませんか。「1860~1914年」の「覇権国家」を「米国(ドイツ)」と理解して大丈夫ですか。記事のような説明が幅広く受け入れられているのならば、自分の歴史認識の方を改めなくてはと思っています。

【ご回答します】

表の「1860~1914年」というのは、覇権国家の時期ではなく、第2次産業革命の時期を表しています。また、「米国(ドイツ)」というのは、第2次産業革命をきっかけに覇権を握った国という意味になります。なお、(ドイツ)とありますのは、覇権を握ろうとしてドイツが失敗したということを表しております。表には「時期」と表示しましたが、もう少し詳しく書いた方が理解しやすかったかもしれません。ご指摘ありがとうございます。


(3)「デフレマインドが浸透」した時期について

 【ご質問】

記事には「インターネット元年といわれた1995年ごろ、日本はバブルが崩壊した後で、デフレマインドが浸透し、企業は守りに入ってしまったのだ」との記述があります。これを信じれば「1995年ごろ」には既に「デフレマインドが浸透」していたはずです。

日本で「持続的な物価下落という意味でのデフレ状況」にあると月例経済報告に記載されたのは2001年です。「1995年ごろ」にも「デフレ」的な傾向はあったでしょうが、日本全体に「デフレマインドが浸透」するのは「デフレ」に陥ってしばらく経ってからのはずです。

「デフレマインドが浸透」した時期を明確に判断するのは難しいでしょうが、「1995年ごろ」に「デフレマインドが浸透」していたと見なすのは無理がありませんか。

【ご回答します】

一般的にはデフレ開始年は1998年とされていますが、ディスインフレ(低いインフレ率の状態)も広い意味ではデフレ的状態であると捉えました。とはいえ、「インターネット元年といわれた1995年ごろ」は、「インターネット元年といわれた1995年以降」とした方が、誤解がなかったかもしれません。ご指摘、誠にありがとうございます。


(4)「スマイルカーブ理論」について

【ご質問】

2013年1月21日付の「日経ものづくり」の記事によると「スマイルカーブ理論」とは
「バリューチェーンの上流工程(商品企画や部品製造)と下流工程(流通・サービス・保守)の付加価値が高く、中間工程(組立・製造工程)の付加価値は低いという考え方を示している」はずです。他の用語解説を見ても、似たような内容になっています。

しかし、今回の記事は違います。「上流、下流に位置する研究開発や設計デザイン、マーケティングは付加価値が高いのに対し、中流にある組み立てや部品、小売りは低くなるというものだ」となっています。

日経ものづくりを信じれば「小売り=流通」は「付加価値が高く」なりますが、御誌の記事では逆です。御誌では「部品」も「付加価値」が低いとの位置づけです。一方、日経ものづくりでは「部品製造」を「付加価値が高く」なる「上流工程」としています。

常識的に考えると「流通・サービス・保守」を「下流工程」とする日経ものづくりの説明の方が正しそうです。今回の「スマイルカーブ理論」に関する説明は誤りではありませんか。いずれの記事にも問題がないのならば、2つの記事の食い違いをどう理解すればよいのか教えてください。

【ご回答します】

スマイルカーブでの各ビジネスの配置について、「組み立て」や「部品」、「研究開発」を、掲載させていただいたグラフのように位置付けたため、記事中にあるような表現になりました。

いただいたご指摘は、今後の参考にさせていただきます。ありがとうございます。


 (5)「頭脳資本主義」について

【ご質問】

「AIの普及によって、労働者の頭数ではなく労働者の知的レベルが、一国のGDP(国内総生産)や企業の売り上げ・利益を決定づける『頭脳資本主義』の時代が到来しつつある」との記述から判断すると、これまでは「労働者の頭数」で「一国のGDP(国内総生産)や企業の売り上げ・利益」が決まっていたと井上様は考えているのでしょう。

これは解せません。「GDP」で考えてみましょう。「労働者の頭数」で決まるとするならば、米国と中国ではどちらの「GDP」が多くなるでしょうか。もちろん中国です。そうなっていますか。

日本とインドではどうでしょう。「労働者の頭数」ではインドが上回りますが「GDP」
でも日本を凌駕していますか。「労働者の知的レベル」なども含めて「GDP」が決まっていく時代を「『頭脳資本主義』の時代」と呼ぶならば、ずっと前からそうだったのではありませんか。

【ご回答します】

今後は、人口が少ない国でも多い国のGDPを上回るということが、顕著な形で現れるというのが、「頭脳資本主義」の持つ意味になります。これまでも、労働者の知的レベルがGDPなどに影響する傾向はありましたが、今後はさらにこうした傾向が強まってくるといったことを記事では説明をしております。


いつも弊誌をお読みいただき、感謝申し上げます。頂戴したご質問は、今後の参考にさせていただきます。引き続き、日経ビジネスをどうぞよろしくお願い申し上げます。


◇   ◇   ◇

回答内容そのものはかなり苦しい。「『米国(ドイツ)』というのは、第2次産業革命をきっかけに覇権を握った国という意味になります」と言うが、表のタイトルには「そのときの覇権国家」と明記している。また「スマイルカーブ理論」については質問に答えているとは言い難い。

しかし、それはそれでいい。「外部ライターの記事もしっかりチェックしなければ…」と中山記者が教訓を得てくれることを願う。


※今回取り上げた記事「気鋭の経済論点~世界の天才集める中国 国力を決める『頭脳資本主義』
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00123/00032/


※記事の評価はD(問題あり)。井上智洋・駒沢大学経済学部准教授への評価は見送る。中山玲子記者への評価はDで確定とする。中山記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「パナソニックの祖業=自転車」が苦しい日経ビジネス中山玲子記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_25.html

2019年11月29日金曜日

「ドイツでは可能な理由」を分析しない日経 武智幸徳編集委員の不思議

「何のために最初にフランクフルトの話を持ってきたのか?」--。日本経済新聞の武智幸徳編集委員が29日の朝刊スポーツ面に書いた「アナザービュー~『緩衝地帯』は必要ですか」という記事を読んで、そう思わずにはいられなかった。
姪浜渡船場(福岡市)※写真と本文は無関係

記事の全文を見た上で、なぜそう感じたのか説明したい。


【日経の記事】

11月23日、ドイツでブンデスリーガの試合を見た。ホームのフランクフルトは長谷部誠がフル出場し、鎌田大地も後半から登場。5万700人の観客で大盛況だった。

フランクフルトのスタジアムは2006年ワールドカップ(W杯)で5試合に使われ、入場者は常に4万8000人と発表された。W杯はすべてのチケットが指定席として売られ、世界中のVIP、取材・放送関係者の席も確保しなければならない。当時はそれがファンに用意できる最大限だったのだろう。

フランクフルトの試合では自軍ゴール裏の椅子を取り外し、立ち見にできる(欧州連盟管轄の試合は除く)。実際、そこはクラブカラーの黒で塗りつぶされていた。

残り2節となった今季のJリーグ。12月7日の最終節、横浜MとFC東京の直接対決に優勝決定が持ち越されたら、日産スタジアムはどんなことになるのか。今から楽しみでしかたない。

同スタジアムの最多入場者記録は02年W杯日韓大会決勝の6万9029人(ブラジル対ドイツ)だった。それを11月2日のラグビーW杯決勝が7万103人(イングランド対南アフリカ)で更新したばかり。どちらにしても代表戦が1位、2位を占めている。それをJリーグが塗り替えたら、これは結構愉快だろう。

代表は誰にとっても「マイチーム」かもしれない。それとは別に「マイクラブ」を持つ幸せを創設から26年間、ずっとJリーグは唱えてきた。記録更新はそれを象徴する話に思えるから――。

なんて、独りで力が入っていたが、どうやら記録更新は難しいらしい。座席の数だけ売れない事情がもろもろあるようなのだ。サポーター同士の国境紛争を避けるため、アウェー側に設ける空席の緩衝地帯もその一つ。席数でざっと1500くらいになるというから大きなマイナス材料だ。

W杯は高額なチケットにカネを払えるいちげんさんが増え、民度の高まり? とともに呉越同舟にしても騒動は起きにくくなった。が、クラブ同士の戦いは依然として可燃性は高く、衝突を避けるために緩衝地帯は必要と言われたら従うしかない。見たいサポーターはいるのに、サポーターの安全のために売れない席がある。空席は何の代償なのか、釈然としない気持ちを抱えながら


◎せっかくドイツに行ったのならば…

フランクフルトのスタジアムは2006年ワールドカップ(W杯)で5試合に使われ、入場者は常に4万8000人」。そして「11月23日」の「ブンデスリーガの試合」では「5万700人」と「W杯」を上回っている。

一方、「日産スタジアム」はサッカーでは「02年W杯日韓大会決勝の6万9029人」が最多で、「Jリーグ」の試合がどんなに人気でも「記録更新は難しいらしい」。それは「アウェー側に設ける空席の緩衝地帯」が理由の1つだと武智編集委員は教えてくれる。

ここまではいい。しかし「なぜドイツではできて日本では無理なのか」を武智編集委員は分析してくれない。

クラブ同士の戦い」は「可燃性」が高いと言うが、それは「ブンデスリーガ」も同じではないか。イメージ的には「ブンデスリーガ」の方が危なそうな気がする。

実際には「ブンデスリーガ」の「可燃性」が低いのか。「可燃性」が高くても気にせず観客を詰め込んでいるのか。「緩衝地帯」以外の対策で「可燃性」の高さに対応しているのか。

あるいは「緩衝地帯」を設けながらも何らかの方法で観客席を増やしているのか。「自軍ゴール裏の椅子を取り外し、立ち見にできる」ことが影響しているのかもしれないが、どの程度の効果があるのかは書いていない。「Jリーグ」では「立ち見」への対応がどうなのかも触れていない。

結局、「ブンデスリーガ」ではできて「Jリーグ」ではできない理由は分からないままだ。その分析をサボって何のための編集委員なのか。「空席は何の代償なのか、釈然としない気持ちを抱え」ているのならば、なおさらしっかり考えてほしかった。



※今回取り上げた記事「アナザービュー~『緩衝地帯』は必要ですか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191129&ng=DGKKZO52751540Y9A121C1UU8000


※記事の評価はD(問題あり)。武智幸徳編集委員への評価もDを維持する。武智編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 武智幸徳編集委員はスポーツが分かってない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_21.html

日経 武智幸徳編集委員はスポーツが分かってない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_43.html

日経 武智幸徳編集委員は日米のプレーオフを理解してない?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_76.html

「骨太の育成策」を求める日経 武智幸徳編集委員の策は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_87.html

「絶望には早過ぎる」は誰を想定? 日経 武智幸徳編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_4.html

日経 武智幸徳編集委員はサッカーと他競技の違いに驚くが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_2.html

日経 武智幸徳編集委員は「フィジカルトレーニング」を誤解?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_14.html

W杯最終予選の解説記事で日経 武智幸徳編集委員に注文
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post.html

「シュート選ぶな 反則もらえ」と日経 武智幸徳編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_30.html