2019年12月4日水曜日

週刊ダイヤモンドが日経ビジネスに圧勝 「東芝の親子上場解消」巡る記事

東芝が親子上場解消の対象から東芝テックだけを外した件に関しては、週刊ダイヤモンド(筆者は千本木啓文記者)の記事の出来が日経ビジネス(筆者は佐伯真也記者と竹居智久記者)を大きく上回っていた。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
          ※写真と本文は無関係です

日経ビジネス11月25日号に載った「時事深層 COMPANY~東芝、上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ」という記事では、「同社(=東芝テック)株は年初から7割ほど上昇しており、単純に『高値づかみ』を避けたかったのかもしれない」と書いた程度で「東芝テック対象外のなぜ」にまともに迫っていない。

一方のダイヤモンド12月7日号の「Close Up~世界首位レジ子会社の売却も検討 東芝が親子上場『完全解消』見送り」という記事は及第点だ。その一部を見ていこう。


【ダイヤモンドの記事】

そんな優良子会社を、あえて上場企業のまま放置するのはなぜなのか──。

その理由は、「完全子会社化しても他の3社のようにEPSを20%以上改善することはできない」(東芝幹部)からなのだが、その要因は三つある。

一つ目は、海外のPOSレジ事業の大部分が米IBMから買収した資産であるため、「統合後のシナジーを読みにくい」(同)ことだ。他の上場子会社3社の源流が東芝で、社内事情が分かるため統合効果を出しやすいのとは対照的だ。

二つ目の要因として、購買データを活用したビジネスは現状の資本関係(9月30日現在、東芝テック株式の東芝の持ち分比率は52.4%)でも東芝主導で拡大できることがある。

東芝幹部は「他社製のレジでの買い物でも、スマートフォンのアプリを活用すれば購買データは集められる。東芝テックは購買データのビジネスにとって重要なパートナーだが絶対的に不可欠な存在ではない」と言い切る。

最後の三つ目が一番重要なのだが、東芝がそもそも東芝テックの成長性を疑問視していることだ。

東芝テックの営業利益率は19年3月期で3.8%、23年3月期の目標は同6.0%で、東芝全体の利益目標と比べて見劣りする。

しかも、キャッシュレスなどの決済の多様化やセルフレジの普及というハードウエア拡販のための「追い風」が吹いているのに、東芝テックは中期経営計画で、現在の売上高4800億円について22年3月期までほぼ横ばいを見込む。


POSレジなど東芝テックの製品はコモディティ化しつつある上に、データビジネスで中計期間中に「大化け」させられるかどうか、同社自身が半信半疑なのである。

しかも、東芝テックには長年、モノ言う株主から指摘されてきた「突っ込みどころ」がある。

実は、オフィス用のプリンターなどを扱うプリンティング事業を持っており、その成長が期待できないのだ。

東芝の株主である米ファンドのキング・ストリート・キャピタル・マネジメントは18年、東芝テックのプリンティング事業について「売却を含めたあらゆるオプションの検証」を東芝に求めた。

同ファンドは要求の根拠として、プリンティング事業の市場が年間2%ずつ縮小するとみられることや、プリンターやファクスなどの機能を持つ複合機が市場シェア11位にとどまること、そして「POSレジ事業とのシナジー効果が欠如している」ことを挙げた。

実際に、プリンティング事業は競合他社との価格競争や米中市場の減速が直撃し、19年4~9月期の営業利益率は1.9%まで下がっている。プリンティング事業を売却するにも、キヤノンなどの競合他社も市場の縮小に苦しむ中で前向きなM&A(企業の合併・買収)が成立しにくいのが現状だ。


◎「納得できた」とは言わないが…

海外のPOSレジ事業の大部分が米IBMから買収した資産であるため、『統合後のシナジーを読みにくい』」といった説明には「本当にそうかな」と思わないでもないが良しとしよう。
筑後川橋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

大事なのは「そんな優良子会社を、あえて上場企業のまま放置するのはなぜなのか」との疑問に対して、答えをきちんと探ろうとしたかどうかだ。日経ビジネスの記事と比べるとダイヤモンドの方が明らかに頑張りを感じる。「東芝幹部」に独自取材した形跡も見える。発表から時間を置いて記事にするのだから、日経ビジネスのようなあっさりとした分析では取り上げる意味が乏しい。

ただ、ダイヤモンドの記事では「親子上場は解消すべきだという政府の方針がある」との説明が引っかかった。これに関しては、編集部への問い合わせと、それに対する回答を見てほしい。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】


週刊ダイヤモンド編集部 千本木啓文様

2019年12月7日号「Close Up~世界首位レジ子会社の売却も検討 東芝が親子上場『完全解消』見送り」という記事についてお尋ねします。記事では東芝テックに関して「親子上場は解消すべきだという政府の方針がある以上、完全子会社化しないなら、売却を検討せざるを得ない」と記しています。しかし「親子上場は解消すべきだという政府の方針がある」とは思えません。

今年6月21日に公表された政府の「成長戦略実行計画」では「親子上場」について以下のように述べています。

支配的な親会社が存在する上場子会社のガバナンスについては、投資家から見て、手つかずのまま残されているとの批判があり、日本市場の信頼性が損なわれるおそれがある。
このため、新たに指針を策定し、親会社に説明責任を求めるとともに、子会社側には、支配株主から独立性がある社外取締役の比率を高めるといった対応を促す。また、東証の基準等についても見直しを図る

親会社に説明責任を求める」「子会社側には、支配株主から独立性がある社外取締役の比率を高めるといった対応を促す」とは書いてあります。しかし「成長戦略実行計画」の内容からは「親子上場は解消すべきだ」との「政府の方針」はないと解釈するのが自然です。

親子上場は解消すべきだという政府の方針がある」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、何を根拠に「親子上場は解消すべきだという政府の方針がある」と記事で断言したのか教えてください。


【ダイヤモンドの回答】

いつもご購読ありがとうございます。お問い合わせいただいた件について以下、回答申し上げます。

当該の記事で、「親子上場は解消すべきだという政府の方針がある」と書いたのは以下の2つの理由からです。

(1)当該の記事の取材の過程で、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を策定した経済産業省の産業組織課に対して、上場子会社を残す場合に親会社に求める「説明責任」の意味合いについて聞いたところ、同課担当者から「親子上場を解消するまでの過渡的措置である」と説明を受けました。このことから、政府は原則的に「 親子上場は解消すべき」という考えであると理解しました。

(2)東芝や日立製作所への企業幹部に対する取材により、「政府が将来的に親子上場を解消する方針である」 との前提に立ち企業戦略を練っているとの言質を得ております。実際に、東芝の平田政善CFO(最高財務責任者)は親子上場解消を発表した当日の会見で、「(親子上場は解消すべきという)政府方針があるので、どこかで最終判断をする」と明言しています。

以上、ご確認よろしくお願いいたします。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「Close Up~世界首位レジ子会社の売却も検討 東芝が親子上場『完全解消』見送り
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/28184


※記事の評価はC(平均的)。千本木啓文記者への評価はE(大いに問題あり)からC(平均的)に引き上げる。千本木記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「不祥事頻発」の分析が怪しい週刊ダイヤモンドの自衛隊特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_69.html

間違い目立つ週刊ダイヤモンド「ハイブリッド戦争」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_10.html

東芝メモリ買い手を「強盗と詐欺師」に見せる週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_2.html

東芝メモリ売却の「教訓」に説得力がない週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_69.html


※日経ビジネスの「時事深層 COMPANY~東芝、上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ」という記事に関しては以下の投稿を参照してほしい。

取材不足では? 日経ビジネス「上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_23.html


※「親子上場」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

親子上場ってそんなに問題? 日経「株式公開 緩むルール」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_19.html

KNTの「親子上場」を批判するFACTAに異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/kntfacta.html

「親子上場」否定論に説得力欠く日経「大機小機」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_77.html

ヤフーとアスクルの件で「親子上場の問題点浮き彫り」という日経に異議
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_24.html

ヤフー・アスクルの件を「親子上場」の問題と捉える日経の無理筋
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post.html

「弊害」多いのに「親子上場の禁止」は求めない日経社説の謎
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_5.html

日経記者に読んでほしい藤田勉・一橋大学特任教授の「親子上場肯定論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_29.html

「親子上場」だと「資本効率が下がる」? 日経 佐藤亜美記者の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_27.html

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