2017年9月18日月曜日

「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長

18日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に原田亮介論説委員長が書いた「核心~『出口』は政府含む総力戦  金融監督、重要局面に」という記事は残念な内容だった。経済紙の論説委員長でありながら、今のような大規模な金融緩和政策を続けるべきかどうかの判断を避けているからだ。出口に向けた「議論が必要」と言うだけで立場を鮮明にしない日経の論説委員長ならば存在意義はない。「議論が必要」なのは、原田論説委員長に言われなくても多くの読者が分かっている。
JR日田彦山線の陸橋(福岡県東峰村)※写真と本文は無関係です

記事では、以下のように書いている。

【日経の記事】 

米連邦準備理事会(FRB)はすでに国債の買い入れをやめており、年内に保有分の削減に踏み出す見通しが有力とされる。欧州中央銀行(ECB)も、10月にも国債の買い入れ減額を決める方針だ。

日本はどうか。政策変更には黒田東彦日銀総裁が目標に掲げる「インフレ率2%」という高いハードルがあり、日銀自体がその達成を2019年度ごろに先送りしている。

ただ、現実に2%に達しないと緩和政策を後退させてはいけないのか。あるいは景気や物価の底堅さが増したときどんな出口の姿を描くのか。今から議論する必要がある



◎「後退させてはいけないのか」の答えは?

現実に2%に達しないと緩和政策を後退させてはいけないのか」を「今から議論する必要がある」のは、その通りだ。だが、記事を最後まで読んでも、原田論説委員長の主張は曖昧なままだ。「米国も欧州もインフレ率は2%に達しないから、厳密な2%目標に固執する理由は薄らいでいる」と書いているので、「近い将来に後退させてもいい」に近いのかなと推測はできるが、明確ではない。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

「すぐにでも緩和を後退させる」「2%にこだわらず、物価上昇率が1%を安定して超えたら緩和を後退させる」など、色々な考え方があるはずだ。原田論説委員長は日経の社論を決めるべき役職にあるのだから、メディアとしての立ち位置を明確にしてほしい。仮に社内調整が難しいとしても、今回のように個人の署名で書く記事ならば、自らの考えを思い切って打ち出せるはずだ。それが「今から議論する必要がある」で逃げていては悲しすぎる。日経の論説委員長として「議論」のたたき台となるような主張を提示すべきだ。

原田論説委員長は「政治も日銀も金融機関も、それぞれの持ち場で行動する時だ。10年がかりの戦いに覚悟を決めよう」と結んでいる。「『出口』は政府含む総力戦」であり、「10年がかりの戦い」になるだろう。だが、物価上昇率が安定して2%を上回るのを待っていたら、「総力戦」が始まるのは10年後、20年後かもしれない。それではなかなか「覚悟」も決まらない。

記事では「真っ先に考えねばならないのは超緩和が長引くほどマイナスの影響が拡大する金融システムの問題だ」とも書いている。ならば「現実に2%に達しないと緩和政策を後退させてはいけないのか」との問いに対する答えは見えてくるはずだ。

ついでに、記事の書き方に関していくつか注文を付けておく。

【日経の記事】

米国では超緩和の転換を控えて、当局が金融システムに細心の注意を払う姿勢がうかがえる。



◎「超緩和の転換」はこれから?

この書き方だと、米国ではまだ「超緩和の転換」に至っていないと読み取れる。しかし、実際には利上げ局面にあり、既に「引き締め」に転じている。FRBが国債などに関して「年内に保有分の削減に踏み出す見通しが有力とされる」ことを受けて「超緩和の転換を控え」と書いたのだろうが、読者に誤解を与えかねない。

問題のある説明は他にも見られる。

【日経の記事】

6月末にアルゼンチンは100年物のドル建て国債を発行した。利率約8%で、30億ドル弱の発行枠に3倍の応募があった。8月にはイラクが6年物のドル建て国債を10億ドル発行した。応募は6倍以上あり、利率は6.75%。カネ余りが今も拡大中なのだ


◎「カネ余り拡大中」の根拠になってる?

アルゼンチンとイラクの国債発行を根拠に「カネ余りが今も拡大中なのだ」と言い切っている。だが、説明不足が過ぎる。両国の国債に多くの「応募があった」としても「カネ余りが今も拡大中」かどうかは分からない。「カネ余りが続いている」傍証にはなるとしても、この材料から「拡大」を読み取るのは困難だ。
三池炭鉱宮原坑(福岡県大牟田市)
        ※写真と本文は無関係です

カネ余りが続いている」かどうかの判断材料も不十分だ。アルゼンチンの信用力で「100年物のドル建て国債」だとどの程度の「利率」が適正水準なのか、ほとんどの読者は分からないだろう。「30億ドル弱の発行枠に3倍の応募」がどのくらい異例なのかも教えてくれない。イラクに関しても同様だ。

これで「カネ余りが今も拡大中なのだ」と断定されても困る。両国の国債への応募状況や利率を「カネ余り」の根拠として提示するならば、それが「カネ余り」でない時期と比べてどの程度の凄さなのか説明すべきだ。

最後にもう1つ。

【日経の記事】

金融政策頼みのアベノミクスについて、東京財団の加藤創太常務理事は「民主主義のプロセスをすっ飛ばしてやれるから」とみる。歳出カットなど痛みが伴う課題の先送りは限界にきており、「少なくとも消費税率を毎年1%ずつ引き上げるといった(プログラム的な)方針を示すべきだ」という。



◎「歳出カット」と「消費税」の組み合わせが…

歳出カットなど痛みが伴う課題の先送りは限界」と打ち出したのならば、その後のコメントも「歳出カット」に絡めた方がいい。なのになぜか「消費税率を毎年1%ずつ引き上げる」という増税の話になっていて、組み合わせが良くない。このコメントを使いたいのならば「歳出カットなど」を「増税など」にした方がしっくり来る。


※今回取り上げた記事「核心~『出口』は政府含む総力戦  金融監督、重要局面に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170918&ng=DGKKZO21190290V10C17A9TCR000

※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説委員長への評価も暫定でDとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿