2022年4月28日木曜日

週刊ダイヤモンドでのMMT批判が苦しいSMBC日興証券の森田長太郎氏

説得力のあるMMT(現代貨幣理論)批判記事を探しているが、まだ見つけられていない。週刊ダイヤモンド4月30日・5月7日号にSMBC日興証券チーフ金利ストラテジストの森田長太郎氏が書いた「コロナ禍『MMTの大実験』~得られた財政金融政策の教訓」という記事も期待外れだった。一部を見ていこう。

四山神社

【ダイヤモンドの記事】

本家本元の米国ではこのところ、MMTの唱道者たちの存在はかなり影が薄くなっているようだ。

それも当然、新型コロナウイルス感染拡大危機下の2年間でMMTの主張を地で行くような膨大な規模の財政拡張が行われた結果、米国は約40年ぶりの深刻なインフレに直面している


◎「MMTの主張を地で行くような膨大な規模の財政拡張」?

MMTの主張を地で行くような膨大な規模の財政拡張が行われた結果、米国は約40年ぶりの深刻なインフレに直面している」と森田氏は言う。これを読むと「膨大な規模の財政拡張」をすべきというのが「MMTの主張」だと理解したくなる。しかし明らかに誤りだ。

インフレ」を抑えられる範囲で必要な「規模の財政拡張」をためらうべきではないとMMTでは考える。「米国は約40年ぶりの深刻なインフレに直面している」のだとしたらMMTが避けるべきと考える「膨大な規模の財政拡張が行われた」と言える。

さらに見ていく。


【ダイヤモンドの記事】

米国で有名なMMT論者の1人であるステファニー・ケルトン(米ニューヨーク州立大学教授)は、2月上旬の米ニューヨーク・タイムズ紙の記事の中で、過大な財政拡張政策が想定外のインフレの一因となっている現状を指摘され、苦しい弁明を行っている

といっても、教授はMMTの誤りを認める発言をしているわけではなく、インフレよりひどいことはまだあるではないかとも語っている。


◎「苦しい弁明」とは?

ケルトン」氏が「苦しい弁明を行っている」と森田氏は言うが、どこがどういう理由で「苦しい」のかは説明していない。こういう書き方は感心しない。

さらに見ていく。


【ダイヤモンドの記事】

MMTの代表的な主張を改めて列挙すると、(1)政府の財政支出は納税のために必要な貨幣を家計や企業に供給するものであり、貨幣供給の主体は政府である。それ故財政収支を均衡させる必要性はない。(2)国債発行は中央銀行の政策金利コントロールのためにも必要であり、中央銀行は政府と一体化したものとして見るべきだ。(3)独自通貨を発行する国家にはデフォルトは存在しないーーといったものだ。

このうち(2)は、実際の金融市場における中央銀行のオペレーションが日本では国債発行に対して従属的に行われていることは事実だ。だがだからといって、そのことで中央銀行の独立性と結び付けて考える実務者はいない。この点についてのMMTの説明はおよそ意味を持たないものだ

◎「意味を持たない」のはどっち?

中央銀行は政府と一体化したものとして見るべき」という「主張」に対し「MMTの説明はおよそ意味を持たない」と森田氏は断言する。しかし、その説明がかなり意味不明だ。「およそ意味を持たない」説明をしているのは森田氏の方ではないか。

中央銀行は政府と一体化したものとして見るべき」という主張に対して「独立性」が高いからその見方は適切ではないと森田氏は言いたいようにも見える。ならば「独立性」が高いと言える根拠を示せばいい。ところが、そうはしない。

そのことで中央銀行の独立性と結び付けて考える実務者はいない」としても、それは「独立性」が高い根拠とはならない。親会社と子会社の関係で考えてみよう。親会社が子会社を支配している場合「一体化したものとして見るべき」との主張は妥当性がある。

子会社の従業員がどう「考える」かは関係ない。子会社の経営が親会社に「従属的」かどうかで判断すべきだ。例えば「日銀の総裁人事に政府は関与できないのに政府と一体化したものとして見るべきとの主張はおかしい」といった話ならば分かる。だが、現実はそうではない。

森田氏の主張には強引さが否めない。さらに見ていこう。


【ダイヤモンドの記事】

また、(3)はデフォルトの定義上の問題であり、紙くずの価値しかなくなった国債を発行し続けることができるということをもってデフォルトしないと主張する意味もあまりないだろう。


◎「定義上の問題」?

(3)はデフォルトの定義上の問題」なのか。広い意味で「財政破綻」にハイパーインフレを含めるケースはあるが「デフォルトの定義上の問題」はほぼない。「債務不履行」でいいだろう。

強い通貨主権を持つ国が自国通貨建ての国債で「デフォルト」を強いられることはないというMMTの主張には「意味」がある。国債発行を膨らませれば、どこかで「デフォルト」が発生しるのではないかとの懸念が広く共有されていたからだ(今も残っている)。この誤解を解く意味でMMTの果たした役割は大きい。

結局、森田氏のMMT批判には説得力がない。結論はやはりこれでいい。


※今回取り上げた記事「コロナ禍『MMTの大実験』~得られた財政金融政策の教訓


※記事の評価はD(問題あり)

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