22日付の現代ビジネスに経済評論家・コラムニストの近藤駿介氏が書いた「高市早苗も財務次官も『見落とし』た、日本の『借金財政』が破綻しない最大の理由」という記事は根幹部分に誤解がある。中身を見た上で、その理由を述べてみたい。
コスモスパーク北野 |
【現代ビジネスの記事】
しかし、そのことが高市政調会長の発言に代表されるような「自国通貨建てだからデフォルト(債務不履行)は起こらない」という人達の主張を正当化するわけではない。
それは、デフォルトが起きないのは「自国通貨建てだから」ではなく、「必要な資金のほとんどを自国内で調達出来ているから」である。
仮に日本が必要な財政資金を国内の資金だけで調達出来ずに、海外からの調達を増やしていくような状況になれば、「ギリシャ化」に一歩近付くことになる。但し、海外投資家から見ても日本の国債投資には「為替リスク」が付きまとうので、ギリシャのように海外保有比率が50%を超えるような事態は考えにくいはずである。
心配なのは、財務省が「国債市場の安定を図る」という目的で「銀行や生命保険会社等の国内機関投資家や個人投資家のみならず、海外投資家の国債保有促進に向けた取組みを進めている」ことである(https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/201908/201908c.html)。
一見もっともらしく聞こえるかもしれないが、自国資金で必要な資金の9割以上を確保できている日本でのこうした財務省の取り組みは、「毎回奥さんからの借金に頼っているとご機嫌を損ねた時に困るから、消費者金融にも口座を作っておきましょう」という悪魔の誘惑で、日本をギリシャ化に向かわせるような危険な政策だといえる。
もし財務省のこうした取り組みが奏功した場合には、高市政調会長の「(日本の国債に関しては)自国通貨建てだからデフォルト(債務不履行)は起こらない」という主張も崩れていくことになる。
日本のギリシャ化を防ぐ意味でも、国債発行は国内の資金で賄える範囲にとどめるべきである。ギリシャのように海外保有比率が極端に高くなるくらいなら、日銀による直接引受の方が他国に生殺与奪を握られないという点において、ずっとましだといえる。
海外投資家向けの活動の中で財務省は「財政健全化の進捗や今後の見通し」などを説明し、日本国債が安全資産であるとアピールしている。一方で国民向けには、「一人当たりの負債額は約987万円」「破綻しかねない借金」だと主張する財務省の姿はコウモリのようなものだ。
財務省がこのままコウモリのような役割を続けていけば、「自国通貨建てだからデフォルトしない」という高市神話は崩れ、矢野事務次官が指摘する国家財政が破綻するという最悪の事態を招くことになるかもしれない。
◎正しいのは高市氏の方では?
日本国債に関して「デフォルトが起きないのは『自国通貨建てだから』ではなく、『必要な資金のほとんどを自国内で調達出来ているから』」だと近藤氏は言う。これは間違いだ。「デフォルトが起きないのは『自国通貨建てだから』」だ。高市氏の方が正しい。
政府・日銀は無から日本円を創出できる。金(ゴールド)などの裏付けも必要ないので、その能力は無限だ。だからと言って節操なく日本円をバラまいていけばハイパーインフレは起きるかもしれない。しかし「自国通貨建て」の国債が「デフォルト」に陥ることはない(政府がデフォルトを望まないという前提付きで)。
日本国債の「海外保有比率が極端に高くなる」事態を考えてみよう。そうなっても、利払いや償還に当たって海外の投資家に日本円を渡せばいいだけだ。米国人の投資家だからと言って米ドルで支払う必要はない。政府・日銀は無限に日本円を生み出せるのだから「デフォルト」の心配はない。
「自国内で調達出来ている」場合でも「自国通貨建て」でなければ「デフォルト」は起きる。日本国民に大量の米ドル建て日本国債を保有してもらった場合、利払いや償還には米ドルを確保する必要がある。政府・日銀には米ドルを創出する力はない。
「デフォルト」を避けるために重要なのは「自国通貨建て」かどうかだ。
「自国資金で必要な資金の9割以上を確保できている日本でのこうした財務省の取り組みは、『毎回奥さんからの借金に頼っているとご機嫌を損ねた時に困るから、消費者金融にも口座を作っておきましょう』という悪魔の誘惑で、日本をギリシャ化に向かわせるような危険な政策だといえる」と近藤氏は言う。
この例えは、政府・日銀が日本円を無限に創出できるという点を無視している点で不適切だ。「毎回奥さんからの借金に頼っている」夫に政府・日銀と同じ力を与えたらどうなるか。「奥さんからの借金」だろうが「消費者金融」からの借金だろうが簡単に返済できる。「デフォルト」の心配は要らない。
さらに言うと「『自国通貨建てだからデフォルトしない』という高市神話は崩れ、矢野事務次官が指摘する国家財政が破綻するという最悪の事態を招くことになるかもしれない」という近藤氏の解説は二重に間違っている。
「自国通貨建てだからデフォルトしない」というのは「高市神話」ではなく、現在の通貨制度から原理的に導き出される当たり前の結論だ。なので「矢野事務次官が指摘する国家財政が破綻するという最悪の事態を招くことになるかもしれない」と心配する必要もない。
繰り返すが、政府・日銀は日本円を無限に創出できる。そして日本国債は「自国通貨建て」だ。それが「日本の『借金財政』が破綻しない最大の理由」だ。
近藤氏の誤解が解けることを祈る。
※今回取り上げた記事「高市早苗も財務次官も『見落とし』た、日本の『借金財政』が破綻しない最大の理由」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/88512?imp=0
※記事の評価はE(大いに問題あり)
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