薬を必要以上にありがたがる人は多い。個人の自由ではあるが、記事の書き手ならば科学的根拠に基づいてストーリーを作ってほしい。その点で25日の日本経済新聞朝刊1面に載ったコラム「春秋」に及第点は与えられない。中身を見ながら具体的に指摘したい。
夕暮れ時の筑後川 |
【日経の記事】
「クシャミ3回ルル3錠」。有名なこのキャッチコピーが登場したのは1956年にさかのぼるという。風邪のひきはじめに、すかさず飲めばこじれる心配なし。そんなセールスポイントをたくみに表現した「古典」だ。どこででも買える大衆薬ならではの広告だろう。
薬を体の中に入れる方法は3つある。口から飲みこんだ成分が小腸で吸収されて効果を発揮するのが、こうした風邪薬など内用薬。かたや目薬、点鼻剤、さまざまな塗り薬や座薬は外用薬だ。これらに比べると、体に針を刺して血管や筋肉に薬剤を入れる注射薬はいささか面倒をともなう。点滴となるとさらに厄介である。
◎誤解があるような…
「大衆薬」の「ルル」について「風邪のひきはじめに、すかさず飲めばこじれる心配なし」と筆者は信じているようだ。しかし「ルル」を含め風邪薬に「風邪」を治す力はないとされている。「ルル」も効能としては「かぜの諸症状の緩和」をうたっているだけだ。
2020年11月22日付の時事通信の記事によると「市販のかぜ薬について、使用者の65%が『ウイルスを倒す効果がある』と誤解していることが武田コンシューマーヘルスケア(東京)の調査で分かった」らしい。「春秋」の筆者も誤解している1人かもしれない。
後半を見ていく。
【日経の記事】
新型コロナウイルスの軽症者を治療する手立てとして、いま注目の「抗体カクテル療法」は残念ながら点滴だ。病院以外でも対応できるようになってきたが限界はあろう。そんななかで待望久しい内用薬が、年内にも登場しそうだという。日本でいつ承認されるのか、効き目はどうなのか、これほど関心の高い話題はない。
「クシャミ3回――」なみに手軽に服用できて、軽症のうちにコロナ退散となれば画期的である。このウイルスが地上に現れてまもなく2年がたつ。飲み薬の実用化は、延々と続く戦いのゲームチェンジャーになるかもしれない。楽観は禁物だが、マスクで覆った顔を少しばかりほころばせている人がたくさんおられよう。
◎ワクチンは期待外れだったのに…
風邪は「ひきはじめ」に「ルル」を「退散」してくれるから怖くない。「新型コロナウイルスの軽症者」向けにも「ルル」のような「飲み薬」があれば「軽症のうちにコロナ退散」となり問題解決ーー。そんな認識を上記の説明からは感じる。
「飲み薬の実用化」に至ったとしても「ルル」レベルの効き目しかないならば「ゲームチェンジャー」にはなり得ない。
「飲み薬」に期待するなとは言わないが、「ゲームチェンジャー」を待望しているのならば、なぜワクチンが「ゲームチェンジャー」になれなかったのかを考えてほしい。
昨年12月9日の記事では「新型コロナワクチンの接種が8日、英国で始まり、『集団免疫』をもたらすとの期待が高まっている。人口の3分の2以上が免疫を獲得すれば、パンデミックが終息するとの予測もある」と日経は伝えていた。
治療薬で言えば、今回の「春秋」でも触れているように「抗体カクテル療法」を含めいくつかの承認済みだ。それでも社会全体としての「コロナ退散」には至っていない。なのに「飲み薬」ならば「ゲームチェンジャー」になるのではと見ているのか。
「楽観は禁物」と言いながら「楽観」が溢れ過ぎているような…。
※今回取り上げた記事「春秋」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210925&ng=DGKKZO76055230V20C21A9MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
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