「経済成長のために人口増加が必要」からは脱却できても経済成長至上主義からは脱却できない。28日の日本経済新聞朝刊1面に載った「人口と世界~成長神話の先に(6)忍び寄る停滞とデフレ~『日本病』絶つ戦略再起動」という記事はそんな中身だと感じた。一部を見ていこう。
夕暮れ時の筑後川 |
【日経の記事】
人口減で忍び寄る停滞とデフレを、政策担当者は「日本化」と呼んで恐れる。欧州も2022年に人口が減り始める。欧州中央銀行(ECB)は23年の物価上昇率が目標の2%に遠く届かないとみる。オランダ金融大手INGの指数では、ユーロ圏は13年から日本化の兆候がみられるという。
過去200年の人口爆発は、人類史でまれな高成長とインフレの時代だった。18世紀の英国の物価上昇率は平均で1%程度でマイナスに陥る時もあったが、産業革命を経て第2次世界大戦後には平均6%に高まった。
最も過熱感が強まったのは世界で年2%人口が増えた1970年代前半。経済成長率は平均4%台を記録し、インフレ率は年10%だった。先進国が社会保障制度を相次ぎ拡充した「福祉の黄金時代」もこのころだ。
だが高成長・高インフレを前提にした社会システムに亀裂が走る。世界人口の伸びは1%に減速、成長率やインフレ率はともに2%台に鈍化した。金利低下は歴史的水準となり、年金制度の維持に暗雲がたれこめる。
◎「安定」は悪くないのでは?
「高インフレ」が好ましくて「デフレ」はまずいという考えには賛成できない。記事中のグラフには「人口爆発が終われば物価低迷の懸念も」と説明文を付けているが「物価低迷」は悪くない。物価は安定している方が生活しやすい。過去30年間の日本の物価はほぼ横ばいだ。低金利下での「高インフレ」よりはるかに好ましい。
人口が増えないのだから「高成長」も必要ない。生活水準の高い先進国でさらに1人当たりGDPを高める必要があるのか。
「金利低下は歴史的水準となり、年金制度の維持に暗雲がたれこめる」との説明も納得できない。日本の「年金制度」が資金的制約から「維持」できなくなることはない。政府・日銀は無限に日本円を創出できる。「デフレ」が続くのならば「高インフレ」の心配も不要だ。
一方、金利上昇が「高インフレ」を伴うならば「年金」支給額も増やす必要があるので「高金利=年金制度の維持が容易」とは言い切れない。
記事の終盤も見ておこう。
【日経の記事】
公共投資を積み増しても使われなければ政府債務が膨らむだけだ。「景気刺激策を続けても人口減少の影響は恐らく穴埋めできない」(欧州政策研究センターのダニエル・グロー氏)
かつての成長神話は通用しない。日本病の克服には、縮む需要を喚起する成長分野への投資が欠かせない。デジタルトランスフォーメーション(DX)や働き手のリスキリング(学び直し)で生産性を高め、高齢化など人類共通の課題を解決するイノベーションも求められる。従来型の経済政策を大胆に見直すことが必要だ。
◎具体策は?
「かつての成長神話は通用しない」と言いながら「日本病の克服には、縮む需要を喚起する成長分野への投資が欠かせない」となってしまう。「かつての成長神話」では「成長分野への投資」が要らないとされていたのか。
「成長分野への投資」を進めても「日本病の克服」にはつながらない可能性を考えてほしかった。
例えば電気自動車が「成長分野」だとしよう。そこへの「投資」を進めても、ガソリン車の需要がそれ以上に減れば自動車全体の需要は伸びない。
1人当たりの保有台数が増えれば話は別だ。しかし、そこを追い求めるべきなのか。
「デジタルトランスフォーメーション(DX)や働き手のリスキリング(学び直し)」を推進したところで、経済全体で見た需要が増えなければ「日本病の克服」にはつながらない。
取材班が考える「成長分野」とはどこなのか。「高齢化など人類共通の課題を解決するイノベーション」とは具体的に何を指すのか。「従来型の経済政策を大胆に見直すことが必要だ」と言いながら、どう「見直す」のかもよく分からない。
取材班にも具体策はないのだろう。だったら経済成長がない中で人々が幸福に暮らすにはどうすべきかという観点で考えてほしかった。
「日本病」と言われながらも「国民生活の世論調査」で現在の生活に「満足している」「まあ満足している」と回答した人の割合は過去最高水準らしい。その辺りにヒントがあるのではないか。
※今回取り上げた記事「人口と世界~成長神話の先に(6)忍び寄る停滞とデフレ~『日本病』絶つ戦略再起動」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210828&ng=DGKKZO75230860Y1A820C2MM8000
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