社会学者の上野千鶴子氏が誤解に基づく主張を続けている。26日付でAERA dot.に載った「東京五輪閉幕~日本人が莫大な授業料を払って学んだ『負の遺産』〈週刊朝日〉」という記事に関して問題点を指摘していきたい。
夕暮れ時の筑後川 |
【AERA dot.の記事】
(五輪開催によって)スポーツ界やアスリートに対する反感すら生まれたように思います。さかのぼれば森喜朗オリパラ組織委会長辞任に際してのスポーツ界の沈黙は不気味でした。現役アスリートたちが、利権と金にがんじがらめになっていることがわかりました。
◎「スポーツ界の沈黙」があった?
「さかのぼれば森喜朗オリパラ組織委会長辞任に際してのスポーツ界の沈黙は不気味でした」と上野氏は言うが、そもそも「沈黙」していたのか。
2月9日付の時事通信の記事によると、森氏の問題に関して「少し無知。立場のある人は発言する前に考えなければ」(女子テニスの大坂なおみ選手)、「今回の五輪は多様性がメイン。代表の方がそういう発言をして、私たち選手や五輪がそういうふうに見られるのが悲しい」(陸上女子100メートル障害の寺田明日香選手)といった発言が「スポーツ界」から出てきたらしい。
毎日新聞の記事では「非常に残念だし、がっかりした。そういう発言をするような思考回路に行き着くのが、ちょっと信じられない」と競泳男子400メートル個人メドレーの萩野公介選手が述べたことを伝えている。それでも「スポーツ界の沈黙は不気味」だったのか。
上野氏が事実を重視しない学者であることは繰り返し伝えてきた。ここでも上野氏らしさが出ていると言えば出ている。
百歩譲って「スポーツ界の沈黙」があったとしよう。だからと言って「現役アスリートたちが、利権と金にがんじがらめになっていること」が分かるのか。森氏の問題で全ての「現役アスリート」はコメントすべきであり、それを怠ると「利権と金にがんじがらめになっている」と認定されてしまうのか。
続きを見ていこう。
【AERA dot.の記事】
アスリートは五輪に人生を賭けてひたすらストイックに鍛錬に励んできた人々、彼らを責めるのは筋がちがう、という声は多く聞かれましたが、メダル獲得後に彼らが口にしたのは、五輪開催にこぎつけた主催者とそれをサポートしたひとたちへの感謝だけでした。同じ時期に自宅療養を強いられるコロナ患者や、疲弊した医療者への配慮や同情は聞かれませんでした。人工呼吸器をつけてコロナと闘っている患者や医療者が、アスリートから「勇気と感動を与えたい」と言われても、素直に受けとれるでしょうか。「アスリート・ファースト」とは、アスリートのエゴイズムかとすら思えます。
◎本当にそれだけ?
「メダル獲得後に彼らが口にしたのは、五輪開催にこぎつけた主催者とそれをサポートしたひとたちへの感謝だけでした」という説明は明らかに違う。当然だが「メダル獲得後」には「感謝」以外のことも語る。試合を振り返ったり、五輪後についてコメントしたりしている。
では「感謝」に関しては「主催者とそれをサポートしたひとたち」に向けた言葉しかなかったのだろうか。参考までにバドミントン混合ダブルスで銅メダルを獲得した渡辺勇大・東野有紗選手のコメントを見てみよう(日テレNEWS24の記事より)。
「福島で育ったといっても過言ではないし、福島で過ごした6年間が僕の中ではすごく大切で、かけがえのない時間だったと思っている。震災とか色々なことがあって苦しい方もたくさんいらっしゃると思うが、そんな中でも僕らを諦めず応援してくれてサポートしてくれた方々に、何か少しでも勇気や感動を与えられたらという思いで五輪を戦っていた。銅メダルを獲得したことで、少しでも恩返しができたらという気持ちで今はいっぱい」(渡辺選手)
「福島で過ごした6年間は自分にとってかけがえのない6年間で、この6年間がなければ今、私がここにいることはないと思う。福島県の方々にはたくさんお世話になったし、恩返しをしたい気持ちでこの五輪に臨んだ」(東野選手)
どちらも「主催者とそれをサポートしたひとたち」にだけ「感謝」を伝えている訳ではない。「福島県の方々」に向けて広く感謝の言葉を伝えている。そもそも「感謝」さえ伝える必要はない。スポーツの大会に出場して3位以内に入っただけだ。「嬉しい」とか「気分いい」としか発言しなかったとしても責められる話ではない。
しかし様々な選手が多くの人々への感謝を述べた。それで十分ではないか。高齢者である上野氏が新型コロナウイルスを恐れる気持ちは理解できる。だからと言って、懸命に戦ったアスリートを「責める」べきなのか。
「医療従事者の皆さんをはじめ 最高の舞台を準備し整えてくれた大会関係者の皆さん スタジアム、テレビの前から応援してくれた皆さん スタジアム、ホテル、選手村ボランティアの皆さん 毎日笑顔で明るい雰囲気、最高の空間でした。沢山の方へ 本当にありがとうございました」
準々決勝で敗れた後にサッカー女子日本代表の岩渕真奈選手が残した言葉だ。ここに上野氏は「アスリートのエゴイズム」を見るのだろうか。
※今回取り上げた記事「東京五輪閉幕~日本人が莫大な授業料を払って学んだ『負の遺産』〈週刊朝日〉」
https://news.yahoo.co.jp/articles/b97d3417d7bf822c404df27980690079a5ad3e89
※記事の評価はE(大いに問題あり)。上野千鶴子氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
五輪開催はアスリートに罪あり? AERAdot.の記事に見える上野千鶴子氏の問題https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/08/aeradot.html
東洋経済「会社とジェンダー」で事実誤認発言を連発した上野千鶴子氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_10.html
「女性にすべてのシワ寄せが来る」と東洋経済で訴えた上野千鶴子氏の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_11.html
日経ビジネスで「罰則付きクオータ制」の導入を求める上野千鶴子氏に考えてほしいことhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/blog-post_22.html
日経女性面でのクオータ制導入論が「非論理的」な上野千鶴子氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_27.html
「ダイバーシティー推進で企業はもうかる」と断定する上野千鶴子氏の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_22.html
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