ネタに困った結果だとは思うが、8日の日本経済新聞朝刊企業面に田中陽編集委員が書いた「経営の視点~既存商品が持つ潜在力 『ありがとう』から見抜く」という記事はツッコミどころが多かった。
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最初から順に見ていこう。
【日経の記事】
「暮らしの変化に 変わらない便利を」。セブンイレブンが年明けから店舗出入り口に掲げた横断幕が業界で話題になっている。この時期は恵方巻き、バレンタインの季節商品や一押し商品の販促告知が一般的。これを見た食品スーパー首脳は「業界の方向を示す上位概念に読める。セブンはどんな新施策を打ち出すのか」と真意を推し量る。
セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長は年頭の挨拶で「大きく変容する社会やお客様の生活の中で、社会における存在意義を見直す」と強調。健康、働き方、家族の形、消費嗜好などが、コロナ禍と並行して進むデジタル化で変わる中、これまでのコンビニエンス(便利さ)の観点では新たなニーズを発掘できない危機感とも読める。
◎「変わらない便利」なのに?
「暮らしの変化に 変わらない便利を」と聞くと、「変容する社会」でも「コンビニエンス(便利さ)」の価値は変わらないと「セブン」が考えているのだと理解したくなる。しかし「これまでのコンビニエンス(便利さ)の観点では新たなニーズを発掘できない危機感とも読める」と田中編集委員は書いている。
それはそれでいい。裏読みしたのならば、その読み筋が正しそうだと思える根拠が欲しい。しかし「セブン」の話はこれで全部だ。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
ではニーズはどこにあるのか。そのヒントとなるのが「ありがとう」。ありふれた言葉だが、この言葉を発する対象がこれまでと大きく異なる。
「『ありがとう』と言ってもらえるなんて。こっちがお金を頂いているのに」。東京郊外で宅配弁当の配達員をしている30歳手前の男性は配達先で料理を手渡しするときにお礼やねぎらいの言葉をかけられることに驚いた。「これまでの職場ではこんな経験はありません。人様のお役に立っていることがうれしい。飲食店からも『助かる』と」
巣ごもりで料理を負担に思う人は多い。飲食店は今、営業の制約を受けている。食事の宅配サービスは両者の困りごとの橋渡し。「ありがとう」はその果実だ。
◎「対象」もありふれているような…
「ありがとう」という「言葉を発する対象がこれまでと大きく異なる」と田中編集委員は言う。「お金を頂いている」側に「ありがとう」というのは「これまでと大きく異なる」と見ているのだろう。
これには同意できない。個人的には、何かを修理してもらった時などに「お金を頂いている」側に「ありがとう」と言った経験が何度もある。飲食店などでおしぼりを受け取る時などに「ありがとう」と言葉を掛ける人も珍しくない。田中編集委員にとっては驚きかもしれないが「お金」を払う側が受け取る側に「ありがとう」と言うことは、それほど珍しくない。
さらに見ていく。
【日経の記事】
不便、不快、負担。こうした解消が新たなビジネスを生むのは日常の風景だが、新たな視点から日常を見るとまだ発見がある。
例えば紙おむつ。赤ちゃんの不快感と保護者の子育て負担の軽減が商品開発の目的だがユニ・チャームは他にも存在することに気が付いた。その場所は保育園だった。
保育士は保護者が持参するメーカーやブランドの異なる紙おむつの扱いに手を焼いていた。脱着の手順や方法がそれぞれ異なるからだ。各園児の紙おむつの残数にも注意を払い、不足しそうになると保護者に伝えなければならない。保護者も足りているかが気になっていた。心理的な負担だ。
これを解決したのが定額制の紙おむつ使い放題のサービス。保育士の人材サービスなどを手掛けるBABY JOBと組み1年半前から始めた。保護者はかさばる紙おむつを保育園に頻繁に持参する手間から解放された。料金を払う保護者から「ありがたい。助かります」の言葉が寄せられる。保育士からも「作業が楽になった」と評判がいい。すでに700の保育園で利用されている。
◎簡単にできる話では?
「これを解決したのが定額制の紙おむつ使い放題のサービス」と田中編集委員は言うが、そんなものを使わなくても簡単に問題を「解決」できる。
「保育園」が「紙おむつ」を用意して、使用量に応じて「保護者」が「料金を払う」ようにすれば済む。
「メーカーやブランドの異なる紙おむつの扱いに手を焼いていた」問題も「各園児の紙おむつの残数にも注意を払い、不足しそうになると保護者に伝えなければならない」という問題も、なくせるはずだ。「保育園」が全体の在庫量を管理するだけでいい。
それができない事情が何かあるのかもしれないが、記事では説明していない。田中編集委員は「ユニ・チャーム」に上手く丸め込まれたのではないか。
そして記事は結論に達する。
【日経の記事】
食事の宅配や紙おむつなど既存のサービスや商品でも使用シーンに思いを巡らせると新たな世界が見えてくる。お金を頂戴する利用者からの「ありがとう。助かる」といった切実な言葉もその一つ。それを見つける嗅覚や聞く耳を持てるかどうか。社会問題の解決の糸口にもなる。
変わるのは社会背景で変貌する困りごと。変わらないのはよりよい生活への渇望だ。
◎「分かり切ったこと」では?
「利用者からの『ありがとう。助かる』といった切実な言葉」が新たなビジネスのヒントになるのは否定しない。ただ当たり前の話だ。「ユーザーのニーズをしっかり把握することが大事」と言っているに等しい。
ネタに困っていたとしても、編集委員ならばもう少ししっかりした記事に仕上げてほしい。それが難しいのならば、書き手としての引退を考える時期に入っている。
※今回取り上げた記事「経営の視点~既存商品が持つ潜在力 『ありがとう』から見抜く」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210208&ng=DGKKZO68909530X00C21A2TJC000
※記事の評価はD(問題あり)。田中陽編集委員への評価はDを据え置く。田中編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「小売りの輪」の説明が苦しい日経 田中陽編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_21.html
「セブン24時間営業」の解説が残念な日経 田中陽編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24_11.html
日経 田中陽編集委員の「経営の視点」に見えた明るい兆し
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_12.html
論評に即して記事の評価をするならEランクがしかるべき。だらだら自分の浅薄さを書き連ねて、紙面を埋めるだけで、読むに値しない。批評に同意。
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