6日の日本経済新聞朝刊マネーのまなび面に「増やす&得する~ロボアド、手軽に分散投資 初心者向け/運用成績に幅」という記事が載っている。「ロボアド」を前向きに取り上げているこの手の記事に投資初心者は近付かないでほしい。筆者の川本和佳英記者に反省を促すためにも問題点を具体的に指摘してみる。
夕暮れ時の筑後川 |
【日経の記事】
ロボアドを使うと大きく2つの点で投資を「省力化」できる。1つが運用する商品や資産の配分を考える手間だ。ロボアドでは利用者が最初にいくつかの質問に答えると、最適とされる資産の組み合わせを判別。国内外の株や債券、不動産などに振り向ける比率を提案してくれる。
投資初心者には購入する金融商品を選ぶのもハードルが高い。例えば海外株と一口にいっても、投資信託やETF(上場投資信託)の種類は多い。似た名前で投資対象や手数料が異なることもある。ロボアドは運用方針を決めれば、それに合わせて投資信託やETFを売買する。
資産の比率のパターンや投資する商品数はサービスにより異なる。ウェルスナビの運用パターンはリスク許容度に応じて5種類あり、米国ETF6~7銘柄を組み合わせる。お金のデザイン(東京・港)の「THEO(テオ)」は最大30銘柄の海外ETFを組み合わせた231通りの運用パターンを持つ。楽天証券の「楽ラップ」は基本の資産配分は5種類で、国内外の株や債券などに投資する16本の投資信託を組み合わせる。一般に年齢や年収などから高いリスクがとれると判断すれば株式の比率が高く、リスクを抑える場合は債券の比率が高くなる。
◎「投資信託やETF」?
まず用語の問題を1つ。「投資信託やETF」と書くと「ETFは投資信託ではない」と理解したくなる。しかし「ETF(上場投資信託)」と川本記者も記しているように「ETF」は「投資信託」の一種だ。「ETF(上場投資信託)も含めて投資信託の種類は多い」などとすれば問題はない。
本題に入ろう。
「ロボアド」に「商品や資産の配分を考える手間」を「省力化」する効果はあまり期待できない。少なくとも「ロボアド」を利用するかどうか、利用する場合はどの「ロボアド」にするかを自分で決めなければならない。これをきちんとやれる人は、そこそこの知識があるはずだ。ならば「投資信託」を自分で選ぶのも難しくないだろう。
「楽天証券」の場合は「国内外の株や債券などに投資する16本の投資信託を組み合わせる」らしい。期待リターンが非常に低い「債券」を「投資信託」として持つのは、現状ではコスト面で割が合わない。その意味でも「ロボアド」の利用に合理性はない。
2つ目の「省力化」も見てみよう。
【日経の記事】
もう一つの省力化は資産の管理だ。株式などの価値は時間がたつと変化する。長期の分散投資では価値が上がった資産を売る一方、下がった資産を買い、全体の比率を維持することが重要。ロボアドはこの作業を自動的にする。
◎リバランスも中途半端では?
リバランスを「ロボアド」が「自動的」にしてくれるのは嘘ではないだろう。だが、本当にリバランスをするならば、「ロボアド」に預けていない資産も考える必要がある。
「ロボアド」には1000万円を投じ、株式と債券の比率を同じと決める。一方で1000万円の預金を持つ。このケースで考えてみよう。「全体の比率を維持することが重要」ならば「預金50%、株式25%、債券25%」を「維持」しなければならない。
例えば結婚費用として預金を500万円使った場合、「ロボアド」は株と債券を合計250万円売却して「自動的」にバランスを戻してくれるだろうか。「ロボアド」内での「比率を維持」するだけではリバランスとしての意味はあまりない。
本当にリバランスが大事ならば「ロボアド」の利用では不十分だ。
個人的には「投資初心者」がリバランスを考える必要はないと思うが、長くなるので理由の説明は省く。
さらに続きを見ていく。
【日経の記事】
もっとも、ロボアドが万能とは言い切れない。例えば運用中のコスト。主要なロボアドは運用資産に対して年1%程度の管理・運用の手数料と、間接的に保有するファンドの費用がかかる。対面相談型で運用をすべて任せる「ラップ口座」の手数料は年2~3%。ロボアドはラップ口座より安いが、ネット証券などを使い自分で売買すれば、費用はより抑えられる。
最近はインデックス型の投資信託で、販売手数料が無料で信託報酬が1%を下回るものが珍しくない。米国のETFを自分で買えば経費(購入時の為替手数料を除く)は年0.1%を下回るものもある。米カリフォルニア州在住のファイナンシャルプランナー(FP)、岩崎淳子氏は「投資信託の投資先に注目して選べば、ETF数本でも十分に資産の分散を図ることは可能」と話す。
◎分かっているなら…
「年1%程度の管理・運用の手数料」は論外の高さだ。「ネット証券などを使い自分で売買すれば、費用はより抑えられる」と分かっているなら、なぜ前向きに紹介するのか。「間接的に保有するファンドの費用」に加えて「年1%程度の管理・運用の手数料」を払う場合、それを補って余りあるリターンの上乗せが欲しい。しかし、そんな力は「ロボアド」にはないだろう。
「ロボアド」での「運用資産」に限定したリバランスに高い価値を置く奇特な人を除けば「ロボアド」を選ぶ合理性はない。余計な「手数料」を取られるだけだ。
日経朝刊を1ページ丸々使って「ロボアド」がダメな商品だと伝えるのならば分かる。しかし川本記者は逆だ。「まずはロボアドで値動きなどに慣れ、その後は自分の判断で別途運用するといった使い方も一案だろう」と記事を締めている。「投資初心者」を「ロボアド」へと誘導した罪は重い。高コストだと分かってこの内容にしたのだから確信犯と言うほかない。
※今回取り上げた記事「増やす&得する~ロボアド、手軽に分散投資 初心者向け/運用成績に幅」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210206&ng=DGKKZO68861560V00C21A2PPM000
※記事の評価はD(問題あり)。川本和佳英記者への評価もDとする。
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