最近の日本経済新聞で気になる言葉の1つに「財務」がある。24日の朝刊企業2面に載った「エイベックス 本社ビル売却へ~700億円で、カナダのファンドに」という記事を材料にこの問題を考えてみたい。
JR久留米駅に入ってくる列車 |
【日経の記事】
エイベックスは東京都港区の本社ビルをカナダの大手不動産ファンド、ベントール・グリーンオーク(BGO)に売却する方針を固めた。金額は700億円強となる見通し。エイベックスは新型コロナウイルスの感染拡大で音楽ライブを開催できなくなるなど、業績が悪化していた。発表済みの希望退職者の募集と合わせ、資産の売却で財務を強化する狙いがあるとみられる。
◎「財務を強化」?
「財務」とは「財政に関する事務」(デジタル大辞泉)を指す。財務部の人員を増やすといった話ならば「財務を強化」でいいだろう。しかし「資産の売却」で「財務を強化」と言われると妙な感じになる。
企業の資産・負債の状況を「財務体質」と表現するのは分かる。定着した用語だ。最近の日経でよく見る「財務を強化」は「財務体質を強化」を略しているようだが違和感は拭えない。できれば「財務体質を強化」と書いてほしい。
さらに言えば「資産の売却で財務を強化」できるのかという疑問も残る。例えば増資ならば「財務体質」は良くなる。しかし「資産の売却」は違う。
「エイベックス」の「本社ビル」の価値が「700億円強」だとしよう。これを売却して現金に替えても「エイベックス」の持つ資産額は変わらない(税金等は考慮しない)。不動産で持つか現金で持つかの違いだけだ。
簿価が「700億円強」を下回っている場合は売却益が見込める。その場合には「財務体質」が良くなったと言えるだろうか。見かけ上の自己資本は増えるかもしれないが、実質的な変化はない。時価ベースで考えれば「エイベックス」の「財務体質」に大きな変化はない。
「資産の売却で資金繰りを良くする」効果はあるだろう。「エイベックス」が「本社ビル」を売却するのも、そのためだと推測できる。
「当面は本社を移転しない見通し」なので「エイベックス」には売却後に賃料負担が生じる。売却で得た資金を有効に使えなければ、賃料負担のマイナスが上回り、結果的に「財務体質」が悪化する可能性も十分にある。
「資産の売却」を発表する企業は「財務を強化」などと説明するかもしれない。しかし経済紙である日経の記者には「本当に財務体質の改善につながるのか。単なる資金繰り対策では?」と考える力を持ってほしい。
ついでに記事についていくつか注文を付けておきたい。
【日経の記事】
エイベックスの業績は悪化している。2020年4~9月期の連結決算は最終的なもうけを示す最終損益が32億円の赤字(前年同期は17億円の赤字)だった。最終赤字は同期間として2年連続となる。ライブ中止にともない、グッズ販売が落ち込んだことも打撃となった。21年3月期通期の見通しは「未定」としているが、足元でも感染が広がるなど、収益の回復に向けた道筋は見えていない。
◎逆接ではないのなら…
逆接でない場合、接続詞「が」の使用は避けたい。「21年3月期通期の見通しは『未定』としているが、足元でも感染が広がるなど、収益の回復に向けた道筋は見えていない」という記述に関しては「21年3月期通期の見通しは『未定』としており、足元でも感染が広がるなど、収益の回復に向けた道筋は見えていない」などとした方が好ましい。
「こと」もできるだけ使わないようにしたい。「ライブ中止にともない、グッズ販売が落ち込んだことも打撃となった」に関しては「ライブ中止に伴うグッズ販売の落ち込みも打撃となった」でいい。情報量はそのままに文字数を減らせているはずだ。
最後に「同社」の使い方について。
【日経の記事】
シンガポールを拠点とする資産運用会社、3D・インベストメント・パートナーズが3日、関東財務局に提出した大量保有報告書では、同社株の5.59%を保有することが明らかになった。
◎「同社=3D・インベストメント・パートナーズ」
この書き方だと「同社=3D・インベストメント・パートナーズ」になってしまう。「3D・インベストメント・パートナーズが3日、関東財務局に提出した大量保有報告書では、エイベックス株の5.59%を保有することが明らかになった」と伝えたかったはずだ。記事の説明は厳しく言えば間違っている。記事を書くための基礎的な技術をしっかり身に付けてほしい。
※今回取り上げた記事「エイベックス 本社ビル売却へ~700億円で、カナダのファンドに」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201224&ng=DGKKZO67627770T21C20A2TJ2000
※記事の評価はD(問題あり)
「が」の指摘はもっともと考える。それにつけて「も」を逆接の接続詞に頻用する言葉遣い、文章を改めさせていただきたい。語数を節約したいのであろうが、本来の並列させる「も」と混同し、文意を誤解することになる。最近目に余る。
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