旧内外クラブ記念館(長崎市)※写真と本文は無関係です |
30日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~財政に『呪文』は通用しない」という記事で上杉氏は以下のように解説している。
【日経の記事】
蛇口をひねれば水が流れ出し、シンクの中にたまっていく。やがてシンクが満たされると水は外部へあふれ出す。ときには排水口から水が抜け、シンク内の水位が下がることもある――。
主要な通貨を発行する国は、過度なインフレにならない限り財政赤字が増えても問題ないとする学説「現代貨幣理論(MMT)」。今月、提唱者であるニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授が来日し、おカネを水にたとえながら説いてみせた。
ケルトン氏の比喩では、水がたまるシンクが経済だ。政府を示す蛇口から出てくる水が財政出動で、排水口から出て行ってしまう水は税金を指す。経済を活気づけるには、財政をふかして減税するほど良いことになる。シンクから水があふれ出す現象をインフレになぞらえ、財政出動の限界を表しているのだという。
米国では税金を上げずに社会保障を充実させるアイデアとして、左派の政治家がMMTを持ち出して話題を呼んだ。日本でも消費増税に反対する人たちがMMTを支持している。負担がなくてリターンを得られるというおいしい話なのだから、有権者の耳には心地よく響くに違いない。
しかし、多くの専門家が口をそろえるように、政府の借金が膨らむのに無頓着なMMTは問題があると思う。湯水のごとく財政出動を膨らませるために、国債を無限に発行できるわけはない。インフレが起きた時点で財政出動をやめるなんて、本当にできるとは信じがたい。目先の人気取りに使われる財政ポピュリズム(大衆迎合)の「呪文」の類いがまた登場したということだろう。
では、MMTは政策論として現実的でないとして、日本がMMTの先例めいて引き合いに出されることを私たちはどう受け止めたらよいのだろう。麻生太郎財務相は「日本を実験場にする考えはない」とMMTの発想を否定しているが、アベノミクスとMMTは全く違うと言い切れるのか。
◎「財政出動をやめ」られるなら有効?
まず「主要な通貨を発行する国は、過度なインフレにならない限り財政赤字が増えても問題ない」という「現代貨幣理論(MMT)」の説明が違う気がする。4月13日付の用語解説で日経自身が「通貨発行権を持つ国家は債務返済に充てる貨幣を自在に創出できるため、『財政赤字で国は破綻しない』と説く」としている。「通貨発行権」を持っていれば「主要な通貨」でなくてもいいはずだ。
本題に入ろう。
「財政ポピュリズム(大衆迎合)の『呪文』の類い」と上杉氏が斬って捨てた根拠は「インフレが起きた時点で財政出動をやめるなんて、本当にできるとは信じがたい」という1点に尽きる。
これでは「現代貨幣理論(MMT)」は理論として成立していると認めているようなものだ。だとすれば「『呪文』の類い」ではない。
理論としては成立していても「政策論として現実的でない」とは言えるだろうか。「インフレが起きた時点で財政出動をやめるなんて、本当にできるとは信じがたい」と考えるのは「財政出動をやめる」(ここでは財政緊縮策として捉える)ことが、そもそも難しいからなのか。
だとしたら「現代貨幣理論(MMT)」を否定してもしなくても、いずれにせよ「財政赤字」は放置するしかない。
個人的には「インフレが起きた時点で財政出動をやめる」のは十分に可能だと思える。「何%以上のインフレ率になったら自動的に増税になる」という仕組みをあらかじめ決めておけばいい。それが現実に実行できるかどうかという問題はあるが「できるわけがない」と切り捨てるほど難しい話でもない。
※今回取り上げた記事「Deep Insight~財政に『呪文』は通用しない」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190730&ng=DGKKZO47918350Z20C19A7TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。上杉素直氏への評価はDを維持する。上杉氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「麻生氏ヨイショ」が苦しい日経 上杉素直編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_25.html
「医療の担い手不足」を強引に導く日経 上杉素直氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_22.html
麻生太郎財務相への思いが強すぎる日経 上杉素直氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_66.html
地銀に外債という「逃げ場」なし? 日経 上杉素直氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_8.html
日経 上杉素直氏 やはり麻生太郎財務相への愛が強すぎる?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_27.html
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