九重"夢"大吊橋(大分県九重町) ※写真と本文は無関係です |
まず、日本語の使い方が引っかかった。
【日経の記事】
大企業から弁護士への転身と言えば華やかなキャリアアップをイメージするが、「ずっと自分に自信がなかった」と振り返る。
◎「大企業から弁護士への転身」?
「大企業から弁護士への転身」という説明には違和感がある。「プロ野球選手からタレントへの転身」とは言うが「プロ野球チームからタレントへの転身」という使い方はしない気がする。今回の記事では「大企業の社員から弁護士への転身」などとしないと苦しい。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
入社した新日本製鉄(現日本製鉄)は"超"優秀な人ばかり。女性社員はほとんどおらず「みんな扱いに困っているようだった」。結婚・出産してからは会社でも保育園でも、どこに行っても「すみません」と頭を下げる毎日。母は子育てを手伝ってくれたが、父が倒れたことで介護に忙しくなった。「何の憂いもなく仕事に没頭できる男性と同じようには働けない」と感じた。
◎男性は「何の憂いもなく仕事に没頭できる」?
「高沢靖子さん」は「ずっと自分に自信がなかった」らしい。嘘だとは言わないが、話に説得力はない。「入社した新日本製鉄(現日本製鉄)は"超"優秀な人ばかり」で自分もその一員になれたのに、そんなに「自信がなかった」のか。
それは良しとしても「何の憂いもなく仕事に没頭できる男性と同じようには働けない」というくだりは見過ごせない。「男性=何の憂いもなく仕事に没頭できる」と「高沢靖子さん」が思い込んでいるのならば明らかな偏見だ。「何の憂いもなく仕事に没頭できる男性」はかなり少ないだろう。
「何の憂いもなく仕事に没頭できる(一部の)男性」との趣旨かもしれないが、だとしたら「男性」に限定する必要はない。女性の中にも「何の憂いもなく仕事に没頭できる」人はいるはずだ。
さらに記事を見ていく。
【日経の記事】
代わって子どもの頃に憧れた弁護士への夢が膨らんだ。日本でロースクールが導入された時期でもあり、「人生で一度くらい死ぬほど勉強してみたい」と受験。転職には躊躇(ちゅうちょ)もあったが東大に合格した際、夫の「行ってみたら」という一言に背中を押された。40歳の時だ。
◎勉強には「没頭できる」?
「『何の憂いもなく仕事に没頭できる男性と同じようには働けない』と感じた」のに、「『人生で一度くらい死ぬほど勉強してみたい』と受験」したのも解せない。「死ぬほど勉強」できる状態ならば「何の憂いもなく仕事に没頭できる男性と同じように」働けそうだ。
さらにツッコミを入れてみる。
【日経の記事】
勉強は面白かった。「法学部の学生だった頃は概念でしか分からなかったが、『こういう判例の積み重ねでできている仕組みなんだ』と、これまでの仕事が整理されて分かった」。経験に基づいて勉強すると理解の度合いが違う。成績もぐんぐん伸びた。
ところが司法試験を終え、60以上の事務所に履歴書を送ったものの全く相手にされない。若い同級生は大手から内定をもらっているのに。自分を全否定されたようで「人生で最も落ち込んだ」という。
立ち直るには一生懸命働くしかない。なんとか入った事務所で働き始めると、これまでのキャリアが生きてきた。新日鉄で法務担当だったとき、契約書は何度も書いたことがある。訴訟の方向性も決めてきたので、クライアントの望む提案ができる。徐々に認められるようになった。
◎「全く相手にされない」はずが…
「60以上の事務所に履歴書を送ったものの全く相手にされない」ので「人生で最も落ち込んだ」らしい。
しかし、なぜか「なんとか入った事務所で働き始め」ている。「全く相手に」してくれない「事務所」が採用してくれたのか。話の辻褄が合っていない。一部の「事務所」は関心を持ってくれたのではないか。
記事の最後には「聞き手は中村奈都子」と出ている。女性面編集長の中村氏は相手の言ったことにツッコミを入れずにそのまま受け入れて記事にしたのだろうか。
「"超"優秀な人ばかり」の会社に入れたのになぜ「自分に自信がなかった」のか。「60以上の事務所に履歴書を送ったものの全く相手にされない」のに、なぜ「なんとか入った事務所で働き始め」られたのか。疑問に感じてほしかった。
※今回取り上げた記事「折れないキャリア~企業と弁護士、転身で得た自信 三菱自動車執行役員 高沢靖子さん」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190729&ng=DGKKZO47821810W9A720C1TY5000
※記事の評価はD(問題あり)。女性面編集長の中村奈都子氏への評価は暫定でDとする。
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