2019年7月28日日曜日

「市況の上昇」が引っかかる日経1面「海運3社の業績回復」

28日の日本経済新聞朝刊1面に「海運3社の業績回復 コスト削減、市況も上昇」という記事が載っている。まず見出しの「市況も上昇」が引っかかった。使用例はそこそこあるとは思うが、個人的には誤用に分類したい。
長崎港(長崎市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】 

海運大手の業績が回復している。日本郵船の2019年4~6月期の連結経常損益は60億円程度、川崎汽船も20億~40億円程度の黒字だったもよう。2社とも第1四半期として2年ぶりの黒字転換となる。商船三井も大幅増益だったようだ。世界貿易は減速が鮮明だが、不採算船の減便などコスト削減に加えて、環境規制強化などを背景にした海運市況の上昇で業績が好転した。

20年から船舶の環境規制が厳しくなり、規制に対応できない船は運航できなくなる。規制対応のため19年度後半にかけて改修ラッシュが起きることで一時的に需給が引き締まるとの思惑があり、海運市況は上昇している。ばら積み船市況の総合的な値動きを示すバルチック海運指数は7月下旬に約5年7カ月ぶりの水準に上昇した。

商船三井の経常利益は100億円程度と、前年同期(2億5100万円)から大幅増益となったようだ。第1四半期としては15年4~6月期(108億円)以来の高い水準となる。日本郵船と川崎汽船は欧州路線の自動車船減便なども影響し、利益率が改善した。

3社はコンテナ船事業が復調する。共同出資するコンテナ船の積載率は4~6月で9割弱と、前年同期から約2割上昇した。コンテナ船運航会社の4~6月期の最終損益は1億2000万ドルの赤字だった前年同期から黒字に転換したようだ。

3社は31日に4~6月期の決算発表を予定している。国際通貨基金(IMF)によると、19年の世界貿易額は前年比2.5%増と18年(3.7%増)から減速する見通し。懸念材料も多く、通期の業績予想は据え置く公算が大きい。


◎「状況」は「上昇」するか?

市況」とは「株式市場や商品市場での取引の状況」(大辞林)を指す。「市場の状況は上昇している」と聞いて違和感があるならば「市況が上昇」は使わない方がいい。

海運市況の上昇」「海運市況は上昇している」に関しては、自分ならば「海運市況の回復」「海運市況は持ち直している」などと書くだろう。

他にも気になった点があるので列挙してみる。

(1)赤字額になぜ触れない?

日本郵船の2019年4~6月期の連結経常損益は60億円程度、川崎汽船も20億~40億円程度の黒字だったもよう。2社とも第1四半期として2年ぶりの黒字転換となる」と書いているものの、両者の前年同期の赤字額が分からない。どの程度の「回復」なのかを見せるためにも必ず入れたい。


(2)「世界貿易は減速が鮮明」?

世界貿易は減速が鮮明」と言い切った後で「19年の世界貿易額は前年比2.5%増と18年(3.7%増)から減速する見通し」とも書いている。「減速」とは言えそうだが、「3.7%増」が「2.5%増」になるだけで「減速が鮮明」と表現するのは苦しい気がする。


(3)「4~6月」の市況は?

今回の記事は「4~6月期」の業績の話だ。「海運市況の上昇で業績が好転した」と書いているのに「ばら積み船市況の総合的な値動きを示すバルチック海運指数は7月下旬に約5年7カ月ぶりの水準に上昇した」と「7月下旬」の「バルチック海運指数」を出している。

4~6月期」の業績を解説するのならば、当該期の「市況」がどうだったのかを見せるべきだ。


(4)「コスト削減」があっさりしすぎ

業績改善の要因を記事では「海運市況の上昇」と「不採算船の減便などコスト削減」に求めている。しかし「コスト削減」については「日本郵船と川崎汽船は欧州路線の自動車船減便なども影響し、利益率が改善した」と述べているだけだ。業績改善の主な要因の1つならば、どの程度の「減便」だったのかなど、もう少し詳しい情報が欲しい。


※今回取り上げた記事「海運3社の業績回復 コスト削減、市況も上昇
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190728&ng=DGKKZO47882920X20C19A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の記事はいわゆる業績先取り記事だ。これに関しては歴史的役割を終えたとみている。一読者として業績先取り記事の1日も早い廃止を改めて求めたい。

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