2019年7月24日水曜日

ヤフーとアスクルの件で「親子上場の問題点浮き彫り」という日経に異議

日本経済新聞は「親子上場に問題あり」と訴えるのが好きだ。しかし常に説得力がない。24日の朝刊企業2面に載った「アスクル社外役員が会見『上場会社の統治無視』 社長再任、ヤフーが反対 親子上場の問題点浮き彫り」という記事も「親子上場の問題点浮き彫り」とは言い難い内容だ。
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            ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

アスクルの戸田一雄社外取締役など独立社外役員が23日、筆頭株主のヤフーが岩田彰一郎社長の再任に反対している件で会見を開いた。独立役員中心の委員会やヤフー出身の取締役も出席した取締役会で決めた人事を、ヤフーが資本の論理で覆そうとしていることに「支配株主として無責任だ」と批判した。日本特有の親子上場の問題が浮き彫りになっている

アスクルの取締役は10人。社外は半数の5人だが、ヤフーの取締役と2位株主のプラス(東京・港)の社長が含まれ、独立役員は松下電器産業(現・パナソニック)元副社長の戸田氏を含め3人だ。

任意の機関として岩田社長と独立取締役3人、顧問弁護士など計6人がメンバーの指名・報酬委員会を設置し、取締役の選解任などを議論している。5月8日に個人向けネット通販事業の再構築計画を実行するため現経営陣が継続すべきだと、8月2日に開く株主総会の取締役候補を委員会で決議した。

6月5日の取締役会では委員会が取締役候補について説明し、ヤフー出身の2人の取締役を含め、異論は出なかったという。ただその後、6月末にヤフーの川辺健太郎社長が岩田社長の退陣を求めたとしている。

両社の対立には欧米ではほとんどみられない日本企業独特の「親子上場」の問題がある

子会社に親会社以外の一般株主がいる親子上場は、親会社がほぼ決められる経営方針について、他の株主と利益が相反する懸念がある

指名・報酬委員会は独立役員が中心。委員長を務める戸田氏は、委員会が岩田氏を取締役候補にすることを決めたのに、実質的な決定権を持つ1、2位株主が岩田社長の再任に反対することは「上場会社のガバナンス(企業統治)を無視している」と強調した。

ヤフーとアスクルについて慶応義塾大学の齋藤卓爾准教授は「資本関係だけでつながっているような形では、もめた時に解決しきれないということが鮮明になった」と指摘する。早稲田大学の宮島英昭教授は「資金調達の透明性が高くなるほか、活発なM&A(合併・買収)につながる」と親子上場のメリットを示しつつ「独立取締役を機能させなければならず、第三者の委員を置くなどの形も必要になる」と体制整備の重要性を説く。

ヤフーは岩田社長の再任に反対する理由として、業績悪化の責任をあげている。ヤフーとプラスが再任に反対すれば、総会で否決されることは確実だ。後任の社長についてはヤフーから派遣はせず、アスクルの独立性を保つとしている。

戸田氏は業績低迷の責任を指摘する株主の声は重く受け止めるべきだと理解を示しながらも、ヤフーに対し総会では岩田社長を含めた取締役候補者を選任すべきで「(社長交代などが)必要であれば来年に向けて、指名・報酬委員会でヤフーの意見も踏まえて議論するのが日本の正しい企業のやり方だ」と訴えた。

◇   ◇   ◇

上記の内容を基に「親子上場」の問題を考えてみたい。

戸田氏」は「(指名・報酬)委員会が岩田氏を取締役候補にすることを決めたのに、実質的な決定権を持つ1、2位株主が岩田社長の再任に反対することは『上場会社のガバナンス(企業統治)を無視している』」と主張しているらしい。

指名・報酬委員会」の決定には「実質的な決定権を持つ1、2位株主」も黙って従うべきなのか。だとしたら何のために「実質的な決定権」を持っているのか。「指名・報酬委員会」を株主総会よりも上に置くのが「上場会社のガバナンス」として正しいのか。改めて論じるまでもない。

資本関係だけでつながっているような形では、もめた時に解決しきれないということが鮮明になった」という「慶応義塾大学の齋藤卓爾准教授」のコメントも謎だ。「ヤフーとプラスが再任に反対すれば、総会で否決されることは確実」ならば、株主総会でこの問題は「解決」できる。

子会社に親会社以外の一般株主がいる親子上場は、親会社がほぼ決められる経営方針について、他の株主と利益が相反する懸念がある」との説明に異論はない。だが「ヤフーとアスクル」のケースで具体的にどう「他の株主と利益が相反する懸念がある」かどうか本文では触れていない。

記事に付けた表には「ロハコ事業の譲渡」について「利益相反取引になり、少数株主保護のためにも透明性の高いプロセスで交渉する必要がある」という「アスクル独立役員会の会見内容」が出ているだけだ。

ロハコ事業」に関して明らかに「アスクル」が不利(「ヤフー」が有利)となる価格での「譲渡」の可能性が高いのならば「他の株主と利益が相反する懸念がある」と書くのも分かる。だが、そうした説明は見当たらない。

今回は「2位株主のプラス」が「ヤフー」側に付いている。「利益が相反する懸念」が乏しいと判断したから「プラス」も「ヤフー」に同調していると理解するのが自然だ。

一般的に「親子上場」では「親会社以外の一般株主」の利益が毀損されるリスクは高い。それは認める。だが「親子上場」だと公表されているのであれば、リスクの高さは株価に織り込まれる。そのディスカウントされた株価に魅力を感じた「一般株主」がリスクを承知で投資するのに何の問題があるのか。

「一般株主の多くは愚かでリスクを正しく理解できない。だから規制が必要だ」といった主張にでもしない限り「親子上場」を問題視するのは難しそうな気がする。

ヤフーとアスクル」のケースは「親子上場」であっても子会社が親会社に異を唱えた好ましいケースではないのか。「おかしい」と思っても親会社の命令にただ従うだけの上場子会社に見習ってほしいぐらいだ。ただ、経営方針に関して対立すれば最終的には親会社の意向が通る。それも当たり前の話だ。

ヤフーとアスクル」の件を「親子上場の問題点浮き彫り」と捉えるのは、やはり無理がある。


※今回取り上げた記事「アスクル社外役員が会見『上場会社の統治無視』 社長再任、ヤフーが反対 親子上場の問題点浮き彫り
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190724&ng=DGKKZO47685930T20C19A7TJ2000


※記事の評価はC(平均的)。

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