2019年7月23日火曜日

FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾

ジャーナリストの大西康之氏に言わせれば「アップル」は「設備投資のリスクは全て部品メーカーと鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS(電子機器の受託製造サービス)に押し付け」ているらしい。一方で、「JDIが経営破綻するとJDIが白山工場を建設する時に出した前受金が焦げ付く」リスクがあるともFACTA8月号に書いている。この矛盾について以下の内容で問い合わせを送ってみた。
感仙殿(仙台市)※写真と本文は無関係です


【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様  FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

8月号の「アップルがJDIに『お香典』」という記事についてお尋ねします。質問は以下の3件です。

<質問1>

まず問題としたいのは「自らは工場を持たず、設備投資のリスクは全て部品メーカーと鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS(電子機器の受託製造サービス)に押し付ける、あのアップルが、JDIだけを特別扱いするとは思えない」との記述です。

ここからは「アップル」が「設備投資のリスクは全て部品メーカーと鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS(電子機器の受託製造サービス)に押し付け」ていると取れます。しかし記事には「アップルが『死に体』のJDIに出資するのは、現時点でJDIが経営破綻するとJDIが白山工場を建設する時に出した前受金が焦げ付くからだろう。16年に稼働した白山工場は1700億円に及ぶ建設資金の大半をアップルからの前受金で賄った」との説明が出てきます。

JDIが経営破綻するとJDIが白山工場を建設する時に出した前受金が焦げ付く」リスクがあるのならば「設備投資のリスクは全て部品メーカーと鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS(電子機器の受託製造サービス)に押し付け」ているとは言えません。

MONOistの「『アップル=ファブレス』はもう古い、モノづくりの王道へ回帰」という2018年3月8日付の記事には以下の記述があります。

「(アップルの)設備施設については『ファブレスモデルから、自らも設備施設負担を背負う設備集約型モデルへと切り替えた』(百嶋氏)と指摘する。投資を進めているのは、1つは切削加工機やレーザー加工機などの工作機械で、それらは大量に購入し製造委託先にレシピを添えて貸与している。もう1つはキーデバイスの製造装置で、中小型液晶パネル、NAND型フラッシュメモリなどの有力デバイスメーカーの投資資金を同社が負担し専用工場化するというものだ。その方式は2つあるという。1つ目は設備そのものをアップルが所有するやり方で、有形固定資産としてバランスシートにも記載している。2つ目のやり方は前払い金の支払いをして、設備投資をしてもらい長期供給契約を結ぶやり方だ

JDI」のケースは「前払い金の支払いをして、設備投資をしてもらい長期供給契約を結ぶやり方」だと思えます。だとすると「自らは工場を持たず、設備投資のリスクは全て部品メーカーと鴻海(ホンハイ)精密工業などのEMS(電子機器の受託製造サービス)に押し付ける、あのアップル」との記述は間違っているのではありませんか。記事に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問2>

次に問題としたいのが「本誌は『アップルが2020年からスマホ新機種は全モデルをOLED(有機EL)にする』という衝撃的な情報を得た。ということは、売上高の過半をアップル向け液晶パネルで稼ぐJDIの余命は1年を切っている」というくだりです。

この「情報」が正しければ「アップル」は「2020年からスマホ新機種は全モデルをOLED(有機EL)にする」はずです。なのに同じ記事で「20年の春に発売される小型モデル『SE』の後継機には液晶パネルが採用されるため、アップル向けの液晶はゼロにはならない」とも書いています。矛盾していませんか。「『SE』の後継機」は「スマホ新機種」ではないのですか。

付け加えると「2020年からスマホ新機種は全モデルをOLED(有機EL)にする→JDIの余命は1年を切っている」という見立ては単純すぎます。仮に売り上げが急減するとしても、すぐに破綻するとは限りません。「JDIの余命は1年を切っている」と断言して大丈夫ですか。

大西様は2017年7月号に載った「時間切れ『東芝倒産』」という記事の最後で「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と言い切りました。しかし2年経っても「経営破綻」に至っていません。予測が外れるのは仕方ないのですが、大西様は東芝の件で「なぜ判断を誤ったのか」の総括ができていません。そして今回の「JDIの余命は1年を切っている」です。まともに受け取る気にはなれません。


<質問3>

次は以下のくだりについてです。

及び腰の嘉実基金、オアシスだったが、アップルが出資の意向を示すと、『条件付き』ながら出資する方向で合意した。嘉実基金が出す522億円のうち、107億円はアップルが拠出する方向だ。オアシスと合わせ、JDIが調達する資金は総額683億円となり、目標の800億円には届かないものの、ひとまず破綻は免れた

目標の800億円には届かない」と書いていますが、違うのではありませんか。「経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は12日、同社を支援する予定の中国の投資会社から、約800億円の金融支援を実施するメドがついたという通知を受けたと発表した」と日本経済新聞も書いています。7月12日時点で「約800億円の金融支援を実施するメドがついた」との情報は、JDIの発表ですから大西様も得られたはずです。なのに記事では「目標の800億円には届かない」と断定しています。

記事の締め切りがいつか分かりませんが「約800億円の金融支援を実施するメドがついた」という情報は入れられたのではありませんか。時間的余裕があった場合、記事に手を加えなかったのはなぜですか。

問い合わせは以上です。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「アップルがJDIに『お香典』
https://facta.co.jp/article/201908006.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html

「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/jdifacta.html

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