2019年4月16日火曜日

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」

日本経済新聞の中村直文編集委員にコンビニの24時間営業問題を論じてほしいと求めてきた。それが16日の朝刊で実現した。だが内容は残念だった。事実誤認と思える記述はあるし、何より「本部はこの問題にどう対応すべきか」という最も重要なところを論じていない。
筑後川沿いの桜(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】 

日本経済新聞社 編集委員 中村直文様

16日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~コンビニ、脱24時間の幸運」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

コンビニを生み出したきっかけは大型店の出店規制だ。政府は74年、中小零細の小売店を守るため、大規模小売店舗法(大店法)を施行した。小売り各社は小型店出店に走るが、『政府は米国で訴訟が相次いだ小型店を柱としたフランチャイズビジネスに警戒感を持っていた』(法政大学の矢作敏行名誉教授)という。そこでセブンは『中小小売店の活性化と近代化』『共存共栄』を掲げた。政府の狙いに寄せた理念で74年に1号店をオープンする。規制強化を逆手にとって誕生したコンビニだが、90年代からは規制緩和が追い風になる

中村様は「セブン」が「74年に1号店をオープン」したことを以って「コンビニ」が「誕生した」と捉えているのでしょう。「コンビニを生み出したきっかけ」が「74年」にできた「大店法」との認識なので、それより前に「コンビニ」はなかったはずです。

しかし北海道が地盤のセイコーマートのホームページを見ると「第1号店が開店(札幌市内)」したのが1971年です。ちなみにファミリーマートの「実験第1号店が埼玉県狭山市に開店(狭山店、現・入曽店)」したのは「1973年9月」で、これもセブンの「1号店」よりも先です。

ファミリーマートに関しては「あくまで実験店だから」との弁明ができますが、セイコーマートに関しては実験店ではありませんし、開業時期もセブンより3年も早いのです。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、記事の感想も述べてみます。

今回の記事を見た時に「普段から消費関連企業に優しくコンビニ関連記事でもセブン寄りの姿勢が目立つ中村編集委員がこの問題をどう論じるのか」と興味を持ちました。

結論から言えば、残念な内容でした。記事の終盤は以下のようになっています。

<記事の引用>

人手不足の改善が見込めない以上、コンビニはいったんかがむ必要があった。余力がある今、改革を迫られた24時間問題は、実は次の成長を模索する上で幸運だったのかもしれない。既存の加盟店支援とともに経営のIT化、出遅れ気味の海外市場の開拓などやるべきことは山ほどある。持続的な成長を再考するチャンスだ。

働き方や環境を重視する成熟社会では、収益優先の経済界の常識は時に世間の非常識になる。社会の変化に対応しながら、成長戦略を進める必要があるのは何もコンビニだけではない。過去の成功体験に陥らず、社会の利益を損なう芽を自主的に摘む重要性を24時間問題は投げかけている。

--引用は以上です。

大まかに言えば、今回の記事はコンビニの歴史を振り返った上で「24時間問題」は「持続的な成長を再考するチャンスだ」と述べているだけです。異論はありませんが、誰でも分かる当たり前の話です。問題は「24時間問題」にどう対応すべきかです。

選択制を全加盟店に適用すべきなのか。それとも例外的な扱いにするのか。例外的とする場合、基準はどうするのか。「24時間」以外を認める場合、営業時間はどうするのか。様々な難しい問題があります。そこを中村様がどう見ているのか示すべきです。

難しい問題なのは分かります。セブン寄りの中村様としては、24時間営業の原則を維持したい本部に肩入れしたいところでしょう。しかし、記事でそれを前面に出すと、加盟店に無理を強いる血も涙もない主張になってしまいます。

結局、「24時間問題にどう対応すべきか」を論じずに「持続的な成長を再考するチャンスだ」で逃げています。この内容ならば、顔写真まで入れて「編集委員」という肩書を付けてコラムを書く意義はありません。

中村様と同じ流通担当の田中陽編集委員は電子版の記事で24時間営業問題に関して「イノベーションで何とかなる」的な解説をしていました。「足元の問題にどう対応すべきか」から逃げて記事を書いたという点で中村様と共通します。

「セブン本部寄りではダメ」とは言いません。その立場であれば「24時間営業は本部にとって譲れない。契約違反が許されないのは当然だ。どうしてもできないなら加盟店の店主は廃業を考えるべきだ」などと主張すればいいのです。もちろんリスクはあります。それを引き受ける覚悟がないのならば「編集委員」の肩書は返上すべきです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~コンビニ、脱24時間の幸運
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190416&ng=DGKKZO43749280V10C19A4TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

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