2019年1月26日土曜日

韓国の男性差別を記事にした日経 鈴木壮太郎ソウル支局長に高評価

徴兵制がある韓国では男性は2年近くを軍で過ごす」とすれば、犯罪に手を染めなくても男性だけが懲役2年を科されるようなものだ。他の分野でかなりの男性優遇がなければ、全体としての男女平等は成立しない。韓国でそこはどうなっているのかと以前から疑問には思っていた。
浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)
      ※写真と本文は無関係です

26日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「真相深層~若者男性、文政権に『反旗』 熱心な女性政策に批判の目 不公平感、支持率低下に拍車」 という記事は、その疑問にかなり答えてくれる興味深い内容だった。

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

「『かわいいね』っていっただけで性暴力? それはあんまりじゃないか」

1月中旬。ソウルの学生街で開かれた集会で若い男性が声を上げた。名門私大の西江大で昨春起きた事件のことだ。

ある男子学生が同じクラスメートの女子学生に「うちの女子はみなかわいいよね」と発言したことが問題になり、学生による「対策委員会」が設置された。「言葉による性暴力事件」と認定。昨年末に男子学生に学内活動の制限を勧告した。

「厳しすぎる」との声が上がり、同委も勧告を見直したが、女性が不快に思う言動をとれば社会的な制裁は免れない。事件はそんな韓国社会のいまを象徴する。


◎兵役とのバランスが…

男性だけに2年近い兵役があり「女性が不快に思う言動をとれば社会的な制裁は免れない」とすれば、かなりの男性差別社会だと感じる。「女性が不快に思う言動」にも寛容でないと兵役とのバランスは取れないだろう。しかし、記事を信じれば事態は逆のようだ。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

男性優位社会が長らく続いた韓国では女性によるセクハラ告発が相次ぐ。昨年12月にはスピードスケート女子ショートトラックの平昌五輪の金メダリスト、沈錫希(シム・ソッキ)選手が男性コーチから性暴力を受けていたと警察に告発。韓国社会に衝撃が走った。

女性を暴力から守る法整備も進む。「女性暴力防止基本法」が昨年12月、国会を通過した。セクハラやストーカー行為など、これまで法的根拠がなく処罰が難しかった行為を「女性暴力被害」と規定。取り締まれるようにする趣旨だ

こうした動きを20代の男性は「逆差別」と受け止める。「#Me Too」で告発されたのは自分たちより年配の世代だ。上下関係が厳しい文化・芸能、スポーツ界などで年長者が権力をかさにセクハラすることに被害女性が声を上げた。



◎「逆差別」と言うより…

セクハラやストーカー行為など、これまで法的根拠がなく処罰が難しかった行為」を「取り締まれるようにする」のは問題ない。ただ「女性暴力防止基本法」という名前からは「女性暴力被害」に対象を絞った法律だと取れる。その点は記事で明示してほしかった。
境川(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

男性による女性への「ストーカー行為」が処罰の対象となり、その逆は処罰されないのならば、明らかな男性差別だ。既に兵役と言う大きな男性差別があるのだから、「逆差別」というより「男性差別の強化」と捉えるべきだろう。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

だが、いまの20代は「男女平等」の価値観で生まれ育った世代だ。むしろ成績優秀な女性が就職でも優位に立ち「女性=弱者」という発想はない。それなのに女性ばかりが守られていると感じる。

それは文政権の支持率にはっきりと表れている。韓国ギャラップによると、2017年5月の政権発足直後は9割近かった19~29歳の支持率は昨夏あたりから急落。昨年12月には不支持が45%と、支持の41%を上回る逆転劇が起きた。同年代の女性は支持が63%と高く、不支持が23%にとどまるのとは対照的だ

別の世論調査会社リアルメーターの昨年12月の調査でも同じ傾向が出た。同社は「20代男性は文政権の核心支持層から核心不支持層へと変わった」と分析する。



◎男性の数字を見せた方が…

19~29歳の支持率」を読者に示すのならば「男性」の数字を優先して見せてほしかった。記事からは男女合計と女性の支持率しか分からない。およその数字は推測できなくもないが…。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

「文政権の政策基調は女性中心で、男性に剥奪感が募っている」。冒頭の集会を主催した市民団体のムン・ソンホ代表は語る。同氏は被害女性の証言だけで男性が有罪になる裁判が増えていると、司法に推定無罪の原則を守るよう求める運動を展開する。反フェミニズム団体ではないが、会員の75%は男性だ。



◎「推定無罪」とやや違うような…

被害女性の証言だけで男性が有罪になる裁判」への抗議ならば「司法に推定無罪の原則を守るよう求める」こととは少しズレる気がする。

日本弁護士連合会のホームページによると、「無罪の推定」とは犯罪を行ったと疑われて捜査の対象となった人(被疑者)や刑事裁判を受ける人(被告人)について、「刑事裁判で有罪が確定するまでは『罪を犯していない人』として扱わなければならない」とする原則を指す。

市民団体」が訴えているのは「疑わしきは被告人の利益に」の原則を徹底せよという話だと思える。日本と韓国で「推定無罪の原則」の捉え方に差があるのかもしれない。

記事の終盤は以下のようになっている。

【日経の記事】

青年男性の不満に対し、韓国女性団体連合の金炫秀(キム・ヒョンス)氏は「なお現存する女性差別をなくすのが目的で、男性への逆差別ではない」と反論する。

韓国最高裁が昨年11月、宗教的な信念から兵役を拒否するのは「正当」と判断したことも若い男性には不満だ。徴兵制がある韓国では男性は2年近くを軍で過ごす。女性や宗教的マイノリティーへの兵役免除は、義務を果たさなければならない側からは不公平に映る

「若者に希望を与えられていないということだ。希望を与えたい」。文氏は10日の新年記者会見で20代男性の支持率低下について、こう語った。

文氏の支持率は昨年12月から50%を下回ったままだ。弾劾された朴槿恵(パク・クネ)前政権の与党だった保守政党は若者の支持を失い、2020年4月の総選挙で受け皿になる可能性は低い。ただ、将来の主役になる若者の怒りを放置すれば、文政権を支える革新陣営の土台が揺らぐ可能性もある。



◎「女性差別」をなくしたいなら…

金炫秀(キム・ヒョンス)氏」の「なお現存する女性差別をなくすのが目的で、男性への逆差別ではない」という主張は苦しい。「女性差別をなくす」べきだとの考えならば、まずは兵役に関する男性差別(女性優遇)を改めるよう求めてほしい。

あえて繰り返すが、兵役での深刻な男性差別を維持する場合、他の分野である程度の「女性差別」(男性優遇)は仕方がない。個人的には、兵役でもその他のことでも全て男女平等が好ましいとは思う。しかし、どうしても兵役で男性差別を残さざるを得ないのならば、他では男性優遇を認めるべきだ。そうでないと韓国の男性があまりに哀れだ。


※今回取り上げた記事「真相深層~若者男性、文政権に『反旗』 熱心な女性政策に批判の目 不公平感、支持率低下に拍車
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190126&ng=DGKKZO40507830V20C19A1EA1000


※記事の評価はB(優れている)。鈴木壮太郎ソウル支局長への評価は暫定C(平均的)から暫定Bへ引き上げる。鈴木支局長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

自ら「解」を示さないのが惜しい日経1面「人材開国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post.html

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