2018年9月21日金曜日

丸谷浩史政治部長の解説に難あり 日経「日本の針路決まる3年」

自民党総裁選の日程は分かっているのだから、内容を考える時間は十分にあったはずだ。なのに21日の日本経済新聞朝刊1面に載った「日本の針路決まる3年」という記事は完成度が低かった。筆者の丸谷浩史政治部長に1面の解説記事を任せるのは今回限りにすべきだ。説明は不正確だし、展開にも無理がある。
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 (福岡市早良区)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 政治部長 丸谷浩史様

21日の朝刊1面に載った「日本の針路決まる3年」という記事についてお尋ねします。最初の段落で丸谷様は以下のように記しています。

自民党総裁選に勝利した安倍晋三首相は、2021年9月まで向こう3年間の任期を手にした。任期いっぱい務めれば憲政史上最長の桂太郎をも超える。これより長い為政者は、黒船が来襲した徳川12代将軍にまで遡らなければならない

徳川12代将軍」を「為政者」とするのであれば、大日本帝国憲法下の天皇を含めて「為政」の期間を考えるべきです。大日本帝国憲法では、天皇が日本を統治すると明文化しています。昭和天皇の統治期間は約20年で「安倍晋三首相」を上回ります。

これより長い為政者は、黒船が来襲した徳川12代将軍にまで遡らなければならない」との説明は誤りではありませんか。

次に問題としたいのが以下の記述です。

黒船の危機を開国で乗り切り、戦後の日本は自由貿易体制の恩恵を受けて経済大国となった。明治維新以来、日本の繁栄は自由貿易とともにあった

日経の記事ではたびたび誤解が見られますが、「自由貿易」とは「国家が商品の輸出入についてなんらの制限や保護を加えない貿易。輸入税・輸入制限・為替管理・国内生産者への補助金・ダンピング関税などのない状態」(大辞林)を指します。

丸谷様は「明治維新以来、日本の繁栄は自由貿易とともにあった」と断定しています。しかし「輸入税・輸入制限・為替管理・国内生産者への補助金・ダンピング関税などのない状態」は現在でも実現していません。

例えば、日本では関税を払わずに誰もが自由にコメを輸入できますか。「自由貿易体制」が確立していれば可能なはずです。

9月8日の日経の記事では「米国が今後の協議で自由貿易協定(FTA)の締結や農業分野の市場開放などを強硬に求める可能性が高まってきた」と報じていました。「自由貿易体制」が実現しているのに「自由貿易協定(FTA)の締結」が政治問題になるでしょうか。日本が「自由貿易体制」の国ならば「農業分野の市場開放」も完全にできているはずです。

戦後の日本は自由貿易体制の恩恵を受けて経済大国となった。明治維新以来、日本の繁栄は自由貿易とともにあった」との説明は誤りではありませんか。

せっかくの機会なので、記事に関する感想も記しておきます。結論から言えば、説得力に欠けると思えました。第2段落を見てみましょう。

いま日本を取り巻く環境は黒船以来といってもよい状況にある。貿易戦争の言葉が飛び交い、世界では力による政治、ポピュリズムが横行する。この3年間は日本の針路が決まる期間となる

日本を取り巻く環境は黒船以来といってもよい状況」だとすれば、反政府勢力の武力行使による政権転覆が日本で起きてもおかしくないと丸谷様は考えているのでしょうか。あり得ないとは言いませんが、かなり非現実的です。「確かに『黒船以来』だな」と納得できる材料を記事では示せていません。

貿易戦争の言葉が飛び交い、世界では力による政治、ポピュリズムが横行する」ことを理由に丸谷様は「この3年間は日本の針路が決まる期間」と言い切っています。これも根拠薄弱です。例えば「中国との戦争に踏み切るかどうかを安倍首相は2021年までに決断する。この3年間は日本の針路が決まる期間となる」と書いてあれば納得できます。

もう1つ説得力に欠けるくだりを取り上げます。

だがこれからの3年間は、これまでの6年間とは大きく異なる。元外務次官の斎木昭隆氏は『世界は新しい帝国主義の時代になった』と指摘する。クリミア併合でロシアは武力による現状変更に踏み切り、冷戦後の国際秩序に挑戦した。中国は権益拡大に動き、米国はトランプ大統領の下で『自国第一』に突き進む

クリミア併合は2014年です。防衛省の資料によると中国は「2014年以降、南沙諸島の7地形において急速かつ大規模な埋立てを実施」しているようです。ロシアや中国の動きは4年前には起きていたのです。なのに、それらを根拠に「これからの3年間は、これまでの6年間とは大きく異なる」と言えるでしょうか。

記事を書く上では「世界は大きく変わっている。日本も岐路に立たされている」と訴えたくなる気持ちは分かります。しかし、それを裏付ける事実に乏しいので、強引な展開になってしまっています。日経の1面企画でよく見られるパターンです。

壮大な話をする必要はないのです。無理して大きく出れば、説得力を失い空虚な内容になってしまいます。今回はその典型です。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「日本の針路決まる3年
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180921&ng=DGKKZO35558330Q8A920C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。丸谷浩史政治部長への評価も暫定でDとする。

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