2018年9月21日金曜日

「人格攻撃やめて」と訴える週刊エコノミスト種市房子記者に贈る言葉

週刊エコノミストの記事に関して「PBRは代表的な株価指数」「自社株買い=株式希薄化」との説明は誤りではないかと問い合わせたところ、筆者の種市房子記者から「一部で訂正を出すので人格攻撃はやめていただけますか」との回答を得た。「人格攻撃」をした覚えはないので、種市記者に改めてメッセージを送っておいた。
芥屋の大門(福岡県糸島市)※写真と本文は無関係です

記事への問い合わせ、種市記者の回答、それに対する返信の順で内容を紹介したい。



【エコノミストへの問い合わせ】

週刊エコノミスト編集部 種市房子様  編集長 藤枝克治様  

9月25日の特集「商社 7社の野望 7つの不思議」の中の「不思議4 株価が上がらない~株主還元の強化でも市場の成長期待は低く」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは以下の記述です。

配当と並ぶ株主還元策である自社株買いについては、各社で対応が異なる。三井物産や伊藤忠は17年度に実施したが、三菱商事は否定的ニュアンスが漂い、未実施だった。自社株買いに否定的なIR(投資家向け広報)担当者の中には『自社株買い期間の値上がり益は、利ざやを稼ぐ短期投資家だけを利することになる。長期投資家の利益になる株主還元策を実施したい』という思いがある。また、自社株買い=株式希薄化よりは、投資や有利子負債返済に回すことによって、株価を上げたいという姿勢も透けて見える

この中の「自社株買い=株式希薄化」との説明が引っかかります。株式の「希薄化」とは「時価発行増資や新株予約権の行使等による新株発行によって、発行済株式総数が増加し、一株当たり当期純利益等の減少をもたらすこと」(野村証券の証券用語解説集)です。「自社株買い」は増資とは逆に「発行済株式総数」が減少します。故に「希薄化」は起きません。

自社株買い=株式希薄化」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。誤りの場合、次号で訂正してください。

付け加えると「自社株買い期間の値上がり益は、利ざやを稼ぐ短期投資家だけを利することになる」とのコメントは間違っていると思えます。「自社株買い期間の値上がり」が実現するとの前提に立てば、その恩恵は「長期投資家」にも及びます。10年前に1株100円で投資に踏み切った「長期投資家」がいるとしましょう。10年後に株価は200円になり、さらに「自社株買い期間」に250円まで上昇したところで売却に踏み切りました。この場合「自社株買い期間の値上がり益は、利ざやを稼ぐ短期投資家だけを利することになる」でしょうか。

また、全体的に記事が冗長です。上記のくだりに関して改善案を示してみます。同一文中で「実施」を繰り返している点なども直しています。情報の内容自体は変わらないはずです。どちらが簡潔に書けているか比べてみてください。

配当と並ぶ株主還元策である自社株買いは各社で対応が異なる。三井物産や伊藤忠は17年度に実施したが、三菱商事は否定的ニュアンスが漂い、見送った。自社株買いに否定的なIR(投資家向け広報)担当者の中には『自社株買い期間の値上がり益は、利ざやを稼ぐ短期投資家だけを利する。長期投資家の利益になる株主還元をしたい』との思いがある。また、自社株買い=株式希薄化よりは、投資や有利子負債返済によって株価を上げたいという姿勢も透けて見える

見出しの「株主還元の強化でも市場の成長期待は低く」にも注文を付けておきます。この見出しには「株主還元を強化すれば、本来ならば市場の成長期待は高まるはずだ」との前提を感じます。しかし、「株主還元の強化」によって「市場の成長期待」を高めることは基本的にできないと思えます。

今回の記事でも「世界中で投資候補の資産価格が上昇しており『買いづらい』状況であること」が「余資を生み出し、株主還元に回っているのでは」という「SMBC日興証券の森本晃シニアアナリスト」のコメントを紹介しています。

株主還元の強化」とは、有力な投資対象がないことの裏返しでもあります。そうなれば「市場の成長期待」は高まらないのが当たり前です。「株主還元の強化」を受けて「成長期待」を高める投資家がいないとは言いませんが、そうならない方が自然です。

追加でもう1つ質問させていただきます。記事では「PBR(株価純資産倍率=株価÷1株当たり純資産額、または時価総額÷純資産額)は、株価の割安感を判断するのに使われる代表的な株価指数(バリュエーション)だ」と解説しています。本当に「PBR」は「株価指数」と言えるでしょうか。

SMBC日興証券の用語解説では「株価指数とは、取引所全体や特定の銘柄群の株価の動きを表すものです。株価指数はある時点の株価を基準に増減で表します。これによって時系列で見た場合に、連続性を保ちながら、対象とする取引所などの株価の動きを長期的に評価することができます。日本の代表的な株価指数としては、日経225(日経平均株価)やTOPIX(東証株価指数)などがあります」と説明しています。

これを信じれば「PBR」は「株価指数」ではありません。「PBR株価指標」ならば分かります。「株価指標」についてSMBC日興証券の用語解説では「代表的な株価指標には、株価収益率(PER)や、株価純資産倍率(PBR)などがあります」と記しています。

PBRは代表的な株価指数」との説明は誤りではありませんか。そうであれば、次号で訂正してください。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を取っているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


【種市記者からの回答】

「一部で訂正を出すので人格攻撃はやめていただけますか」

鹿毛様

ご指摘を受けて一部で訂正を出します。今、私は体調、精神的につらいところです。ご指摘は真摯に受けますが、あなたの個人攻撃にまいっています。


【種市記者への返信】

週刊エコノミスト編集部 種市房子様

回答ありがとうございます。納得できない点もあったので、思うところを述べてみます。

種市様からは「一部で訂正を出すので人格攻撃はやめていただけますか」とのタイトルでメールを頂き、その内容は「ご指摘を受けて一部で訂正を出します。今、私は体調、精神的につらいところです。ご指摘は真摯に受けますが、あなたの個人攻撃にまいっています」というものでした。

まず「人格攻撃」はしていません。問い合わせで記事の誤りを指摘しましたが、種市様の「人格」にそもそも言及していません。種市様に対して「人格攻撃」をしたと主張するのであれば、その根拠を示してください。
ヒシャゴ浦・姉妹岩(大分市)※写真と本文は無関係です

次に「個人攻撃」について考えましょう。ウィキペディアでは「個人攻撃とは、議論(何らかの係争関係にある会話・対話など)において相手を論駁しようとするとき、相手の発言ではなく、発言者である相手自身を話題にして目的を達しようとする行為である。論点のすり替えの一種」と定義しています。

これを基準にすれば、私は種市様に対して「個人攻撃」はしていません。記事の問題点を指摘しているだけです。

「記事の問題点を指摘するのは筆者に対する個人攻撃だ」との前提に立てば、「個人攻撃」と言えるでしょう。この場合、種市様が「個人攻撃」を受けるのは当然です。それが嫌ならば、署名入りで記事を書くのはやめるべきです。

「個人への批判は個人攻撃であり好ましくない」との価値観を持っているのならば、毎日新聞社も辞めた方がよいでしょう。毎日新聞は9月18日付の「自民党総裁選~発言・論点をはぐらかす 識者が指摘する安倍首相『ご飯論法』の具体例」という記事で安倍首相に対する「個人攻撃」を展開しています。

種市様はこうした報道を「個人攻撃であり、中止すべきだ」と思っているのですか。「毎日さん、個人攻撃はやめてください。今、私は体調も精神面も辛いんです」と安倍首相に言われたら、毎日新聞はあっさり「個人攻撃」を控えるのですか。そんなことをしたら、報道機関としての自殺行為です。

「自由で活発な批判が社会を良い方向に導く」と私は信じています。なので、批判が自らに向くことも厭いません。根拠のしっかりした批判であれば、むしろ大歓迎です。記事の問題点を指摘しているのも、それが報道機関の質を高め独善を防ぐ道だからです。

報道機関は「社会の公器」とも言われます。種市様はその「公器」を使って読者に記事を届けているのです。影響力は大きく、当然に相応の責任を伴います。批判を受け止める覚悟も要ります。「今、私は体調、精神的につらいところです」と言って逃げられるものではありません。

体調面、精神面で報道機関の一員として責任を負える状況にないのであれば、記事を書くのは避けるべきです。記事を読者に届けた以上は、弱音を吐かずに説明責任を果たしてください。

今回の回答も「ご指摘を受けて一部で訂正を出します」と書いているだけで、説明が不十分です。私は2つの間違いを指摘しました。「どちらに関して訂正を出すのか」「もう1つの間違い指摘に関して訂正を出さないとすれば、その理由は何なのか」は明らかにすべきです。

種市様には、8月7日号に関しても問い合わせを送っています。約1カ月半が経過した今も回答を頂いていません。なぜ無視しているのですか。質問を改めて送っておくので、無視した理由と共に回答をお願いします。


<8月7日号に関する問い合わせ>

8月7日号の「東京都集中の地方法人税 配分巡る国との政治力学」という記事についてお尋ねします。記事には「地方法人特別税は08年度に導入された。もし地方法人税に何の調整もしなければ、大企業の本社や外資企業が集積する東京都や愛知県が地方法人税収を独占してしまう」との記述があります。

これはあり得ないと思えます。まず「東京都や愛知県が地方法人税収を独占してしまう」としても、「地方法人税収」を得る主体が2つあるのであれば「独占」ではなく「寡占」です。また、「東京都や愛知県」が「独占」するのであれば、見出しは「東京都集中」ではなく「東京・愛知に集中」などとすべきです。

では「東京都や愛知県」を一体としてみれば「独占」は成立するでしょうか。これも考えられません。他の道府県に本社を置く企業は当然にあります。大企業数で見ると大阪府は愛知県を上回っているようです。なのに「地方法人税収」を「東京都や愛知県」が「独占」してしまうはずがありません。また、大企業が少ない県でも「地方法人税収」がゼロにはなりにくいでしょう。

もし地方法人税に何の調整もしなければ、大企業の本社や外資企業が集積する東京都や愛知県が地方法人税収を独占してしまう」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

--8月7日号に関する問い合わせは以上です。色々と書いていたら長くなってしまいました。申し訳ありません。この辺りで終わりにしましょう。

過ちて改めざる是を過ちという

種市様には最後にこの言葉を贈ります。人生何かと間違えてばかりの私自身も肝に銘じている言葉です。間違えてもいいのです。それを改めないのが問題なのです。そう思いませんか。

◇   ◇   ◇


今のところ、このメールに対する種市記者からの反応はない。あれば紹介したい。回答の内容に問題はあるものの、回答してきたこと自体は評価できる。「一部」とは言え訂正を出すのも好ましい。種市房子記者への評価はB(優れている)からD(問題あり)に引き下げるが、記事の書き手としては引き続き期待していきたい。


追記)結局、種市記者から追加の回答はなかった。また、「自社株買い=株式希薄化」については週刊エコノミスト10月9日号に訂正が出た。


※今回取り上げた記事「不思議4 株価が上がらない~株主還元の強化でも市場の成長期待は低く
https://mainichi.jp/economistdb/index.html?recno=Z20180925se1000000033000


※種市記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

事前報道に懐疑的な週刊エコノミスト種市房子記者に期待
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/04/blog-post_12.html

不足のない特集 週刊エコノミスト「固定資産税を取り戻せ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/05/blog-post_6.html

英国EU離脱特集 経済4誌では週刊エコノミストに軍配
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_7.html

一読の価値あり 週刊エコノミスト「ヤバイ投信 保険 外債」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_20.html

これで「バブル」? 週刊エコノミスト「電池バブルがキター」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/02/blog-post_7.html

「独占」への理解が不十分な週刊エコノミスト種市房子記者
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_17.html

「自社株買い=株式希薄化」? 週刊エコノミスト種市房子記者の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_19.html

0 件のコメント:

コメントを投稿