2018年9月22日土曜日

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」

ジャーナリストの大西康之氏が書く記事は相変わらず問題が多い。FACTA10月号の「盗人に追い銭『産業革新機構』」という記事でも、おかしな説明が目立った。誤った報道をした自分の責任は果たそうとしないのに他者の責任には厳しいのも大西氏の難点だ。

姫島(福岡県糸島市)※写真と本文は無関係です

FACTAに送った問い合わせの内容は以下の通り。

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様  FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

10月号の「盗人に追い銭『産業革新機構』」という記事についてお尋ねします。質問は以下の5つです。

◇質問その1~「事業会社を公的資金で救済した例」はあるのでは?

記事の中で大西様は「初代・産業再生機構が設立されたのは03年4月。ここが『再生マフィア』の出発点である。それまで事業会社を公的資金で救済した例はなく、その是非が問われた」と説明しています。

しかし、水俣病の原因企業であるチッソは1970年代に「公的資金で救済」されています。水俣市立水俣病資料館の資料では当時の状況を以下のように記しています。

昭和47年(1972)ごろから、水俣病認定申請が増加し始めたのにともない、認定患者も増加し、チッソは補償金の支払いと、石油危機などによる不況のため経営が苦しくなり、昭和52年度(1977)末の決算では、累積赤字が364億円余に上り、同社の経営の現状では、補償金の支払いに支障を生ずる恐れがある事態となっていました。そこで、これに対処するため、国では昭和53年(1978)6月20日に『水俣病対策について』の閣議了解が行われました。この閣議了解の中で、チッソに対する金融支援措置として、原因者負担の原則を堅持しつつ、水俣病患者に対する補償金の支払いに支障が生じないように配慮するとともに、あわせて地域の経済・社会の安定に資するために、熊本県が県債を発行して、チッソに貸し付け、補償金の支払いに充てることなどが決定されました

公的資金によるチッソ救済は広く知られた話です。これは明らかに「03年4月」より前に「事業会社を公的資金で救済した例」です。「それまで(03年4月まで)事業会社を公的資金で救済した例はなく」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


◇質問その2~本当に4兆円を「好き放題に使え」ますか?

官製ファンドの産業革新機構が今秋、新組織『産業革新投資機構』に改組される。15年間だった設置期間は2034年まで9年間も延長された。事実上の『恒久化』である。経産、財務官僚たちは『緊急避難』『時限措置』と言いながら、ついに『いつまでも好き放題に使える4兆円の財布』を手に入れた」と記事の冒頭で大西様は書いています。

本当に「好き放題に使える4兆円の財布」と言えますか。時事通信は9月15日付の「海外政府ファンドと連携=投資力5兆円規模に倍増-破綻救済は除外・新産業革新機構」という記事で「産業革新投資機構」(JIC)の投資ルール案」の内容を報じています。この「投資ルール案」には「市場から退出すべき者の救済を目的とする資金供給は行わない」と記されているようです。

この「投資ルール案」が実際のルールとなれば「好き放題に使える4兆円の財布」とは言いにくいでしょう。まだ「」ですし、時事通信の報道が正しいと断定もできません。それでも、「好き放題に使える4兆円の財布」と断定するのは無理がありませんか。

大西様の説明通りならば、「4兆円」を使って海外で不動産を買ったり、高級絵画を買い集めたりもできるはずです。「産業革新投資機構」は本当にそんな権限を有しているのですか。

付け加えると、「9年間」の延長を「事実上の『恒久化』」と捉えるのも理解できません。延長期間が「1000年間」ならば「事実上の『恒久化』」かもしれません。しかし「9年間」だと「恒久化」と言うには短すぎます。「事実上の『恒久化』」と判断できる別の材料があるのならば、それを読者に提示すべきです。


◇質問その3~「盗人」と言える根拠は?

今回の記事では「官製ファンドの産業革新機構」を「盗人」と呼び、「今回の改組と併せて政府の出資金は2860億円が4460億円になるため、現在2兆円の保証枠は4兆円に迫ると見られる。納税者からみれば『盗人に追い銭』だ」と解説しています。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

しかし「産業革新機構盗人」と言える根拠は見当たりません。ファンドの資金をどこかから盗んできたのならば「盗人」でいいでしょう。盗んでいなくても、法律違反に近い方法で資金を引っ張ってきたのならば「盗人」と称するのも分かります。しかし、そうした記述は見当たりません。

盗人」と言える根拠にはならないと思いますが、「産業革新機構」が多額の損失を出しているから「盗人」と呼んだのかなとも考えました。ですが、記事では「産業革新機構の投資実績は黒字である。ルネサスの株式売却益で全ての損失を補ったからだ」と書いているので、当てはまりそうにありません。

何を根拠に「産業革新機構」を「盗人」と呼んでいるのですか。「盗人」と呼ぶのは、言ってみれば犯罪組織扱いです。こうした表現を用いるのならば、しっかりした根拠が欠かせません。なのに今回の記事ではそれができていません。問題を感じませんか。


◇質問その4~田中氏が「実務を切り盛りする」はずでは?

記事では「田中正明」氏に関して、まず以下のように記しています。

初代社長は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)元副社長で金融庁参与を務める田中正明(65)。『再生マフィア』と呼ばれる人脈の頭目だ。田中のワントップでは税金を食い物にする魂胆が見え見えなので、取締役会議長にはコマツ相談役の坂根正弘(77)を据えた。坂根は『風よけ』、実務を切り盛りするのは田中だ

その後、次のような説明が出てきます。

とはいえ、志賀や勝又と同じく、田中や坂根も所詮は『雇われマダム』。4兆円を動かすのは彼らではなく、アベノミクスで我が世の春を謳歌する経産官僚だ

田中氏が「初代社長」として「実務を切り盛りする」のならば、「4兆円を動かす」メンバーの1人としか思えません。なのに「4兆円を動かす」のは「経産官僚」と書いています。矛盾していませんか。控えめに言っても「説明に問題あり」です。田中氏は「4兆円を動かす」ことと関係のない「実務を切り盛りする」のでしょうか。その可能性は残りますが、記事でそうは書いてません。


◇質問その5~大西様とFACTAはどう責任を果たしますか?

『原発のパッケージ型輸出』に駆り出された東芝がどうなったか。国家戦略に則って国内に大液晶工場を建てたシャープがどうなったか。業績悪化は一義的には判断を誤った経営者の責任だが、煽るだけ煽った経産省に責任がないとは言わせない」と大西様は今回の記事で書いています。

その大西様はFACTA2017年7月号の「時間切れ『東芝倒産』」という記事で「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と書いていました。あれから1年以上が経過しています。「東芝がどうなったか」教えてもらえませんか。「経営破綻」ですか。

これまでも「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断定した報道を総括してほしいとお願いしてきました。しかし実現していません。

煽るだけ煽った経産省に責任がないとは言わせない」と言うならば、東芝の倒産が避けられないかのように「煽るだけ煽った」大西様やFACTAの「責任」はどうなるのでしょう。そこから逃げ続けている大西様やFACTAが他者の「責任」を問うのは悪い冗談にしか聞こえません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を取っているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「盗人に追い銭『産業革新機構』
https://facta.co.jp/article/201810004.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

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